シナリオ詳細
手と手を取って寄り添って
オープニング
●【急募】被写体【フォトウェディング】
見上げるほどのステンドグラスから七色の光がこぼれおちてくる。
荘厳なパイプオルガンの音色が響き、気分を高揚させる。天井にはシャンデリアが輝いており、バージンロードは情熱の薔薇を思わせる真紅の絨毯。それを取り巻く参列者用の長椅子はいまだ穢れを知らぬ白に彩られ。正面には十字架にかけられたまま眠る男をかたどったふしぎな彫刻があり、周りをあのステンドグラスが縁取っている。あるウォカーが設計した結婚式場、チャペル・ロザンナはお披露目の時を静かに待っている。
ここは練達エリア777。窓の外は最先端のかぎりを尽くしたビル群が並んでいる。チャペル・ロザンナもご多分に漏れず高層ビルにある。地上30階からの展望は、練達の近未来的な風貌と相まってしろがねの庭を思わせる。舞い落ちるステンドグラスからの光を受けて、いましずしずと招かれびとが入場した。
●なんでって言われるとね?
「おねがいします~、ほんとにおねがいします~」
ソイナと名乗る女はパンフレット片手にあなたへ泣きついていた。聞けばチャペル・ロザンナの総支配人だと言う。メイクがナチュラルじゃないのは目の下のくまを隠すためだろう。隠しきれちゃいないが。ひと目でわかるハイブランドのスーツもどこかよれた印象だ。うしろで夜会巻きにした髪もセットが崩れていて悲壮な印象だった。
「もうね、ほんとうにね、おねがいします。うちの結婚式場で模擬結婚式をあげてほしいんです」
それというのも、と彼女は語りだした。
「エリア777で仕入れたアイテムってね、ファンブルことが多いんです。チャペル・ロザンナは開店早々、大口の注文が入っていてどうしても粗相をする訳にはいかないんですよう。下手をすると翌日には閉店ってことにもなりかねません」
ふたりのメモリーを3Dで映し出すホログラム投影機。登場を彩る花飾りに縁取られたゴンドラ。シェフの手作り、ちゃんと美味しいウェディングケーキに、生演奏より音がいいと噂のミュージックボックス、ときめきのフラワーシャワー、なによりふたりの笑顔を写し取るカメラその他諸々、式を彩る機材たち。数え上げればキリがない。最新の機材を揃えたがゆえに職人たちの練達魂が炸裂し、どれもがステキにファンブって爆発炎上しかねない。
ですが! と彼女は強調した。
「ローレットのイレギュラーズが関わったアイテムはファンブルしにくい、ともっぱらの噂なんです。おねがいです。本番の結婚式が来る前に、うちで式を上げていってください! ドレスもメイクもエステも任せてください! もう藁をもすがる思いなんです! もちろんただでとは言いません。依頼の報酬に加えておふたりの最高の思い出を切り取ったフォトをお渡しします。おねがいします! どーか! どーか、このとおり!」
- 手と手を取って寄り添って完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年07月04日 22時05分
- 参加人数29/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 29 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(29人)
リプレイ
●
まっしろなドレスを着た雪蝶が駆けてきて、月色の胸へ飛び込んだ。
「見て見て、月色! 僕かわいい? ここの人たちはこのステンドグラスの前で愛を誓うんだって。ロマンチックだよねえ」
「ふむ、そういう文化か。まあ、似合っているんじゃないか?」
「ひどいなあ、扱いが雑じゃない? せっかくの花嫁衣装だよ?」
「花嫁衣装……」
月色は腕の中の雪蝶を改めて見直した。エンパイアドレスの裾は抱いた思いの歳月のように長く。あのね、と雪蝶が口を開く。
「……月色、僕、君のことが好き。夫婦になりたいって思うくらい好き。色々と壁はあるけど、そういうのどうでもいいって思うくらいには、恋愛の意味で君が好き」
はっと驚いた顔をする月色。
「……夫婦? ままごとではなく……か?」
「そうだよ」
「いや……そうか……貴様が吾輩に引っ付いて回るのには、そういう意図があったのか……」
しばらく考え込んだ後、月色は語りはじめた。
「吾輩は色恋を知らぬ。興味もなかったしな。だが……そうだな、貴様が本気だというなら、吾輩も本気で向き合おう。貴様が吾輩に向けた言葉を、これからは拾い集めていくと約束しよう。恋とはどんなものなのか、吾輩に教えてくれ雪蝶」
「なっ、そんなストレートに……ほんとにいいの? これからは頑張るから、月色も覚悟しておいてよね!」
真っ赤な雪蝶を眺めながら、月色は顎を撫でる。
(……しかし、なかなかに趣味が悪いな。吾輩のどこに惚れたと言うんだ一体、こんな継の系譜にふさわしくないような男だというのにな)
タキシードを着込んだ桜綾はというと腕を組んでいた。
「ふぉと、うぇでぃんぐ……? ああ、結婚式の写真みたいなやつか。……結婚式ぃ?!」
思わず声が大きくなってしまった桜綾のもとへ、やってきた雪梅が微笑む。その可憐な姿よ。
「せやね、アタシ等のお里じゃ、『守り手』と『花』の事やね」
そのまま遠い目をして思い出に浸る雪梅。
「……粧した姐さん達は皆綺麗で、けど、此のウェディングドレスとかってのを着たのはアタシが初めてやないの? 此れが公的な文書として残せんのは残念やけど……お遊びなら其れは其れで気楽に――……桜綾? 桜綾ッ!? あかん、完璧にフリーズしとるわ」
だってだって、あんまり、あんまり、綺麗だから。これが都会(そと)流の宣誓の衣装。儀式場の雰囲気とも相まって雪梅の周りだけ澄んだ空気が流れているよう。悪くない、いやいい、すごくいい。
(『たきしーど』ってえろう格好良いやないの……! アタシ顔赤くない? 大丈夫?)
雰囲気にあてられていたのは雪梅も同じ。だけど桜綾の口から飛び出たのは。
「き、綺麗だけどな。その、アレだぜ? たしかこーゆーのって衣装を結婚前に着たら行き遅れるとかいうやつじゃねーの? うちのばぁば様もいってただろ、だから幼い時には着るんじゃね~! っての」
「って誰のせいで行き遅れてると思っとうの!」
「そんなの自己責任だろ! お前も俺もそろって行き遅れなのは!」
「じ、自己責任~!? もう桜綾なんて知らない! ふーんだ!」
「うるせーばーか! でもこの写真はとっておくからな!」
「すごーい! これがほかの国の衣装なんだね、かわいいし!」
Aラインのドレスの裾は毬のようにまあるく、ゴージャス感たっぷり。炎華はくるりと一回転しようとして、転びかけて煌氷に抱き留められた。そのままにへへと笑いあうふたり。
「煌氷もすーつ? がビシッと決まってカッコイイし!」
「ありがとう。うれしいよ。炎華……すごく綺麗なドレスだね、とても似合うよ」
「そんなこと言われたら照れるし!」
腕の中の炎華を抱き上げる。思ったよりは重くないのは、自分が特異運命座標として力をつけてきたからか。
(まさか練達でこんな体験ができるなんて思ってもいなかったよ。自分なんかにこんな服装、勿体無い気もするけど……はは)
自分のタキシード姿に照れ笑い。
「何だかこうしてみると、その……自分たち、付き合ってるみたいで、少し恥ずかしいな」
「そ、そうだね……ちょっと、ドキドキしちゃうし……」
微妙な空気が流れ、煌氷は顔をあげた。ステンドグラスからは変わらず美しい光が降り注いでいる。
(誓いの言葉か、感謝の気持ちを伝えるのはどうだろうか……?)
「炎華、いつも自分なんかと一緒にいてくれて感謝してるよ。だから自分も、炎華の隣にいる資格のある存在になってみせるよ。」
「ぼっ、僕の方こそ、ありがとうだし! これからも仲良くするし、煌氷!」
(正直、自分なんかができるなんて思ってないけど……努力くらいはしても許されるよな)
(大丈夫、煌氷はもう僕の隣に立つ資格は十分あるし……えへ)
双子のように口づけた。忘れられない思い出を、ルミエールとフルールは語り合う。あの時のドレスのまま。
「今度は、本格的に」
「ええ、ええ。そうね。あの時は廃教会だったものね。誰もいない、けれど確かに二人だけの世界がそこにはあった」
こうして誰かに見られて、というのもとても良いものですけれどとくすくす笑うフルールをまぶしげに見やり、ルミエールは囁く。
「ねえ、どこまでも純粋無垢。けれど傲慢。儚くて強固。とてもよく似た私たち。……独り占めしたい」
可憐な貴女を見せて回りたいと思うと同時に、誰にも見せたくないとも思う。乙女心は矛盾するもの、玻璃の痛みを抱いて歩む。フルールはルミエールをまっすぐに見つめた。
「あなたはいつも浮気性で、ふらふらとするから。私もあなたを独り占めしたい」
「貴女は私を愛していて。私も貴女を愛してる。けれど、貴女のそれは『恋』かしら?」
「いいえ、それよりも強い『愛』よ。絶対に離さない。そう、『絶対』に」
「こんな風に式を挙げてしまったら、貴女が恋を知ったとしても、きっと離してあげられない。それでもよくて?」
「いいのよそれで、だから、離さないでいて? 私も離さない。たとえ空が堕ちてきても。すべてが滅んでも、ね」
「ああ、本当に愚かな子」
お互いにベールをあげあい、ルミエールとフルールの唇が触れ合う。
「貴女に愛を誓いましょう。私のそれは、呪いにも近いものだけど。いつまでもいつまでも永遠に、死が二人を別とうと私たちはずうっと一緒よ」
照れる彼をひっぱって、写真を撮りに来たはいいものの、いざとなると照れくさくなるもので。
(そりゃあ好きな人のお嫁さんにはなりたいけれど、世界一のドレス姿は、本番までお預けしたって良かったかも?)
唸ったって悩んだって、お着換えしちゃったものは仕方ない。えいっと教会へ入れば、そこには想像以上の想い人の姿があった。純白のタキシードに燃えるような赤茶の髪が映えている。優し気な青の瞳に映るのはコルクのプリンセスドレス。一目自分を見たウィリアムは驚いたようにまばたきをした。
「……どう、変じゃない? ちゃんと可愛い? 大好きな大好きなウィルくんの、大切なひとだって、わかる?」
自信がないわけじゃあないけれど。不安になってしまうお年頃。胸の奥で心臓ドキドキ。弾け跳びそう。
「……判るよ」
似合わないなんてことは有り得ない。なんとも見惚れてしまう星の姫なのだし。それよりもその輝きで、頬を染めないでくれないか。目がくらむような瞬きで、俺を魅了しないでくれないか。
「俺の、大切なエト」
その手を握らせてくれ、そのドレスの名の由来のように。もう離したくない。
さっきから頬が熱いの。ファーストキスもまだ捧げてないけれど、手を繋ぐだけで幸せな貴方の隣が、どうかこれからもわたしだけのものでありますように。
「さ、まだ一仕事残ってるぞ。宣誓を捧げるまでが仕事だからな」
二人の胸にあるのはひとつ。――いつか本物を挙げられますように。
「ヴァリューシャ! 模擬結婚式だって! 困ってるみたいだし、参加してみないかい? 料理やケーキも出るらしいし、きっと美味しいお酒もあるはずさ!」
「まさに楽園でございますわー! 今回も良い思い出にしましょうねっ!」
ヴァレーリヤの輝く笑顔に、マリアもうれしい。
「というわけでソイナ君! 被写体の件、任せておきたまえ!」
さっそくチャペルへやってきた
「ねえ。君の故郷では愛の誓いってどういうのかな? 良ければその形式でやってみたいな! どうかな?」
「そうですわねー、長いし宗派も違うので、今回は置いておきましょう。ほらマリィ、着替えたらもう撮るみたいでしてよ!」
ふたり純白のマーメイドドレスに身を包み、ステンドグラスの前に立つ。
「私たちは、病めるときも、健やかなるときも、愛をもって、生涯お互いを支えあうことを誓います。これらの誓いをたて、これからもまわりの人に感謝し、お互いをいたわり大切にしていくことを誓います」
「ええ、たとえ行く先に大きな苦難があろうとも、新たな道を切り開くべく力を尽くすことを誓いますわ。どうか主のお導きがありますように。……ヴェール、上げてしまってもよろしくて?」
「もちろんだよ、ヴァリューシャ」
そっと手を伸ばしヴェールアップ。ふたりは素顔で微笑みあった。魔除けをはずし、これからはふたりで共に歩いていく。いまはまだごっこ遊びだとしても、決意はきっと変わらない。
水無月と手を繋ぎ、てちてちとバージンロードを歩いてくる章姫。フィッシュテールのベルラインが愛らしい。鬼灯はほうと吐息をこぼした。
「章殿のドレスは俺自身が仕立てたかったが……この縫製も見事だ。繊細で美しく、かつ章殿の負担が少ないようにしてある」
「鬼灯くん、私きれい?」
ちょっぴり不安げな章姫の声に我に返る鬼灯。
「ああ、とても綺麗だよ章殿。それでは……病める時も健やかなる時も、いずれ時の流れに還る最期の時も。貴殿を愛し、共にあることを誓おう」
「私も誓います!」
章姫は背を伸ばし、鬼灯へちゅっとキスをした。
「ええ、ええ、ずーっと一緒なのだわ! 鬼灯くんが閻魔様にご挨拶に行く時も『鬼灯くんの奥さんです!』って挨拶するのだわ! ね、いいでしょう?」
「もちろんだとも章殿」
(そして俺はこの写真を売って奥方の衣装代に変える。完璧だな)
腕組みをしたままナナシと共に強くうなずく水無月だった。
(お付き合いを始めて最初に行くのがフォトウェディングって、これはもう結婚なのでは?!)
などという鏡禍の期待とは裏腹に、エンパイアドレスを着たルチアはステンドグラスへ跪き十字を切った。
「まさか、混沌世界でこれだけ荘厳な教会を見ることができるとは思わなかったわ。これだけでも、ここに来た価値があったっていうものよ」
彼女の横顔は信仰心に満ち満ちており、鏡禍としてはおもしろくない。
(こういうときでも神様を見られるのはちょっと取られた感じで嫌ですよ)
ご機嫌斜め、急転直下。嫉妬の相手は唯一神。これは分が悪いなと自分でも思う。思うからこそ顔に出て、思うからこそ止められない。
(また百面相してる)
ルチアはくすりと笑い、右手を差し出した。
「ほら、手を貸して頂戴な」
「はいっ!」
本当はこんなことせずとも良いのはお互い分かっている。分かっていてもやってしまう、そう、これは仲直りの儀式。ご機嫌は見事に絶好調。そのまま誓っちゃいたい、愛の言葉。
「ルチアさん……なんて綺麗なんだ」
顔がぼやけるほど近くに寄って、唇を人差し指で遮られる。
「ここでは恥ずかしいから、まだだめよ?」
ご機嫌、曇り空。今日も同い年のはずの彼女に振り回されっぱなし。空回ってますか、恋心。ちょっとばかし不安です。
そう思っていたらルチアから頬へ口づけられた。瞬間、振り切れたメーター。口が滑る。
「僕は神様ではなく貴女にしか誓いませんよ」
ロングトレーンのAラインドレスはアリスによく似合っていた。
自分で選んだとはいえ、想像以上に美しい。ノルンは左手首のスカーフをぎゅっと握りしめた。せめてこれくらいは自分に味方してくれるはずだと信じて。純白のタキシードは小柄な彼には少々持て余し気味。そろそろ背が伸びてほしいと願う一方で、目の前のアリスが気後れするほどまぶしすぎる。
「と、とても、良く似合ってると思います…素敵、です…!」
うつむいているとアリスが両手を包んでくれた。
「改めて、髪留め……ありがと……似合ってるって言ってくれたから今日もつけてきたよ…! だからね…ノルン、これからもずっと一緒にいよ?」
「は、はい……」
その手を握り返し、ノルンはアリスと共にステンドグラスの前に立った。
(今日のこれはまだまだままごとだけれど、この気持ちはいずれ実現させたい)
ノルンは思いも新たに両手を握り締める。
「頑張って、アリスさんを幸せにしますね」
「うん、アリスもノルンと幸せ作っていきたい……!」
ノルンに贈られた髪留めが、きらりと輝いた。ステンドグラスに負けない煌めきでふたりの誓いを見守る。アリスが一歩前へ出た。可愛らしくも愛おしい君の隣に並んでいると思うと止められない。ノルンの唇へ、優しく天使が舞い降りる。
(大きくなったらお返ししてね?)
その目くばせの真意は、はたして届いたのやら。ノルンは胸高鳴らせたまんま、かちこちに固まっている。
小羽は冰星の頬をいとおしげに撫でた。くすぐったくてどちらからともなく笑みが漏れる。
「結婚して一年……この一年でたくさんの愛を貰いました。僕もたくさんの愛を捧げてきました。二人で一緒の人生を、目いっぱい幸せに歩んで来れて……ああ本当に出会えてよかった、ともに人生を歩めてよかった!」
内心の情熱をそのまま捧げる冰星に、小羽は恥ずかしそうにうつむいている。それでも悪い気分ではないようで、冰星のタキシードの襟元をきゅっとつかんだ。
「ねえ、小羽さん。僕、貴女とまた結婚式がしたいな。できれば毎年、結婚式がしたい!」
夕顔の冠をかぶった小羽は今にも飛び立ちそうだったから、冰星は小羽を抱きしめた。
「未来永劫愛することを誓います」
二人の声が唱和する。白いヴェールをあげて誓いの口づけを。
「ねえ、ずっとずーっと愛してるよ、小羽さん」
「たとえ世界がゾンビにまみれて、片割れが生きる屍となり果てても、俺は変わらず共に居て、愛する事を誓おう」
「どうしたんだ、リプレイの再演か、弾正」
「いや、先日の挙式と比べて今日の穏やかなことと言ったら……」
おいおいと泣き始める弾正をアーマデルが介護している。ふたりともきらびやかなタキシード姿だ。弾正の胸には彼岸花のコサージュが飾られている。
「弾正、その花は……」
「弟が大切にしていた花なんだ」
「そうか、たしかに、居てもらわないとな」
カジキマグロはアレだし、とアーマデルは珍しく空気を読んだ。そんな彼はちらちらと金管楽器で飾り付けたような機械を気にしている。
「ミュージックボックスが気になるのか? 君が音に興味を持ってくれるのは嬉しいが、今日くらい俺の音を堪能してくれてもいいんだぞ?」
アンプをつなぎ、なじみのマイクを取り出す弾正。
「♪世界中に愛の歌は溢れていて、俺の歌は埋もれてしまうかもしれない」
ちーん。
「♪けれど胸を張って言えるよ、君へ届けたい気持ちは一番だ! って」
ちーん。よく見るとアーマデルがトライアングルを鳴らしている。
「そ、それは?」
「自称相棒としては流れるように合いの手やコーラスが湧いて出るべきなのかもしれないが、今はこれが精一杯」
「その気持ちだけで十分だ」
弾正は二番を歌いだした。
(弾正の歌声はつい聞き入ってしまうな。神を称えるのでなく、ヒトの心を震わせる声だ。……独占したいとは言わないぞ)
●
(結婚式……前にもお父さんとパパさんの結婚式に参加したけど、何か変なことをしないか緊張しちゃう……。パパさんは、固くならなくて大丈夫だよ、って言ってくれたけど……)
そんなラスヴェートを気遣うようにヨタカと武器商人は和やかに会話をする。
「愛する俺の月、あの日からもう1年が経ってしまったね……。」
「そうだねぇ。我(アタシ)達が式を挙げたのは希望ヶ浜のチャペルだったね。正式なものではなくて模擬だったけど、本格的な式だった。だから我(アタシ)の中ではあの式が結婚式だったかなァ」
「うん、俺…とっても幸せ……。家族も参加してくれたあの式、忘れられない…。紫月のドレス姿…凄く綺麗で息を飲んだよ…。指輪を薬指に嵌めて、誓いを交わしたあのドキドキと来たら…!」
(ふふ、パパさんとってもうれしそう)
ラスヴェートもつられて微笑む。
「あの感動を、新しく家族になる夫婦にも味わって欲しいから…他の人に譲るんだ。俺たちは今、この結婚式があったから…より強固に結びついている…幸せを感じれる、そう思うよ…。」
「そうだね小鳥。可愛いヨタカはぜぇんぶ我(アタシ)のもの」
ほわほわした雰囲気にラスヴェートは勇気を出してみた。大好きな二人の事だから、聞いてみたい。
「ね、ね、お父さんたちはどういう風に出会ったの?」
「ええと、馴れ初めね。小鳥ととある楽器の縁を繋いだ時だったか。我(アタシ)は小鳥に興味はあったが、恋慕ではなかった。小鳥は少し警戒していたね。でも、番の関係を望んだのは小鳥が先だったよ。ふ、ふ……」
「…わわ、恥ずかしい……!」
「『ウェディングフォト』の趣旨は知ってるけどよ……これ、3人で撮っていいやつか?」
トキノエの当然の疑問に天黒は胸をそらした。
「ふふ、カメラマンとやら、しっかり撮っておくれよ? 我の隣にいるこの二人は我のモノだ。しっかり写真に収めて、広めておくれ?」
「あー、なるほど、はー、なるほどねぇ~?」
「おい、それは俺のセリフ」
ニヤニヤしているトキノエ相手に、白萩が抗議する。トキノエは黒のタキシード、白萩は白のタキシード、そして天黒はプリンセスラインのドレスだ。漆黒の髪が純白の繊細なレースに映えている。二人の紳士を侍らせて、写真撮影タイム。
「ようカメラマンのアンタ! 特に『俺たち』の花嫁を綺麗に撮ってくれよ?」
「引き立て役ならおじさんに任せとけってな。……多少むずがゆくもあるが、まァ、な」
トキノエが天黒へ寄り添い腕を組めば、白荻は二人を守るように腕を回す。いろんなポーズでパシャパシャと、楽しい思い出が彩られていく。
「うむ、妖婦ごっこも楽しいものだな。甘々などが多い中こういうのも乙な物であろう」
天黒は上機嫌。さっそくテーブルにつき、シャンパン片手にこくびをかしげる。
「白萩はもちろんトキノエ殿も協力感謝だ。しかとやれていたかのう?」
「意外と楽しかったぜ! ふたりともなかなか様になっててよかったじゃねえか」
「そうかい、まァ、なんだ。天黒が満足ならそれでいい」
どことなく白荻が赤いのは、シャンパンをキュッと煽ったせいに違いない。ということにして。
「さて、写真も収めてもらったことだし御馳走でも食べながら親睦でも深めるとするか? 聞きたいことがあれば何でも聞いてよいぞ」
「……あ? いや、何でもとか気軽に言うもんじゃないぞお前。ンなこと言うとな……」
「おっ、そんなら二人の馴れ初めでも聞かせてくれよ!」
「ほらァ、こういうの飛んでくっから!」
しっしと手を振る白荻にからからとトキノエが笑う。
「だってこいつに聞いても、どうせはぐらかされて終わりだしな!」
「そりゃ簡単に喋る訳ねェだろアホか」
「馴れ初めくらい良いではないか。うむ、あれは……」
「あーハイハイ天黒クン、こっちに美味しいデザート見つけたから、これ食いましょうネー」
「ところでいきなりメタな話するんだけど」
「ほいほい?」
ライトゥイはアンリから武器『ゴルゴダ』を見せられた。というか、でかすぎて見ざるをえない。
「オイラって大丈夫なのかな? ギフトも高確率で事故を起こすし、弱点も不運だし……ファンブる?」
「FB12しかないじゃん。よゆーよゆー!」
「そういうもの?」
というかエリア777のFB率はどうなっているのだ。アンリはちょっとばかりこのエリアを不憫に思った。
「まあお相手いないから、とりま着替えてくる」
「いってらっしゃーいんよ!」
笑顔でアンリを見送るライトゥイ。じぶんはちゃっかり白のベルラインを着こんでいる。愛らしいドレスは元気なライトゥイへよく似合っていた。
「わぁ! 綺麗なお洋服! おいしいご飯! とっても豪華! いっぱい食べたいけど、お洋服キツキツんなの……。」
と言いつつガンガン食べている。空きテーブルの上の豪華客船が次々と撃沈されていくのがその証拠だ。
「はい、帰ってきたよ」
アンリが戻ってきた。エレガントなタキシードを身にまとっている。なお武器は背負っている。
「おかえりんなの」
「トゥイさんはお相手いないの?」
「居たらこんなところでご飯食べてないし。あ~でも」
「ん?」
「せっかくだし、行くんよ!」
「何しに?」
「誓いに!」
「あー、宣誓? うん、ちょっと予想外だけど、厄払いのごっこ遊びだしね。いいよ」
10分後、アンリとライトゥイはステンドグラスの前にいた。
「トゥイはね、ずっとキミと一緒にいるし。絶対に独りにさせないんからね! 一緒に”しあわせ”になろ!」
「はいはい、誓いまーす」
要するに相手を生涯弄り倒す権利を得るってことだろォ? 病める時は健やかに、健やかなる時は愉快にってなァ!
そう豪語するのはクウハ。
でも着替えの時になんでもこいと言ったのはやりすぎだったかもとちょっぴし思った。次から次へと着替えて脱いで着替えて脱いで、機材をぺちぺちさせられて、自分は神父でも牧師でも神主でも坊さんでもねェぞと思った。披露宴の部屋でどっかりと椅子に座り込み、ようやく解放されたクウハはワインをラッパ飲みする。
「和やかだなァ」
少しばかり居心地が悪い。ここはひとつお一人さんへ声をかけてみようか。生来のいたずら心が湧いてきて、クウハは席を立った。
「ヘイ、オマエさん相手はいるのかァい? ノロケ話の一つや二つ、盛大に披露してみねェかァ?」
「ノロケ話ですかぁー……うふふふふっふふふふふ」
千代がふりかえる。ゆーっくりと、不吉なくらい、ゆっくりと。
「私もしてみたいですよ結婚! まあ、お相手がいないボッチなんですけどね!」
言うなり壁を殴りだす千代。いいのか、アレ、とクウハがスタッフに聞いたら、壁も爆発するかもしれないんで探知してもらえてありがたいです、なんて返ってきた。なんだここマジで。
「何処かにいませんかね!? イケメンで強くて石油王みたいなお金持ちな人!」
「フィッツバルディのおっさんとか?」
「さすがに高嶺の花すぎますうううううう!!!」
こほんと咳払いをした千代。
「……まあ、でも私はどんな容姿で職業をしていても人のために頑張れる優しい人なら結婚してもいいと思いますけどね」
「きれいごと言ってらァ」
「要は内面の相性が良くないといけないってことです! もっともその点、今日ここへいらした方たちは安心ですね。いよ! 混沌一の幸せ者! おめでとうございます!!!」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
MVPは私の言いたいことを言ってくれたあなたへ!
皆さんの思い出作りの一助となれば幸いです。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
みどりです。ジューンブライド、今年は出てないなあと思って。
さて、あなたたちはフォトウェディングの仕事を頼まれました。挙げたい人はそのまま式を挙げてもいいです。そのへんはおまかせします。おひとりでの参加も歓迎します。
●チャペル・ロザンナ
練達の地上30階にある風光明媚なチャペル。もうすぐ開店。とあるウォーカーの世界の神を描いたステンドグラスが目玉で、その荘厳さはとにかく映えるので開店前から予約が殺到している。なのに機材がファンブルしそうで支配人は胃が痛い。
ドレス・メイク・エステなどの事前準備もすべておまかせというおもてなしの心あふれるサービスも目玉にするつもりのようだ。
このイラストで描写してほしいなどの希望がございましたらプレ本文へお願いします。可能な限り参照いたします。
●ウェディングフォトについて
現物配布はありません。
RP上で渡したり送り合ったりすることは可能です。
書式
一行目:同行タグもしくは空白
二行目:行先タグ
三行目:プレ本文
●行先
【宣誓】
ステンドグラスを見上げ、チャペルの祭壇で愛を誓います
当日はきれいに晴れ渡った空があなたを出迎えるでしょう
何度でも誓ったらいいじゃないの、依頼だもの
【披露】
美しい音楽を聞きながら友達と談話したり
おいしい料理を食べつつふたりのなれそめなんかを語ったりします
いくらでものろけたらいいじゃないの、依頼だもの
カメラマンはどちらの部屋にも居ますよ
Tweet