シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2022>ジョン・バーリーコーンとショコラの午後
オープニング
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「グラオ・クローネがもうすぐね」
遊興船“ブルームーン”には本来休みがない。人々が遊興を求める気持ちに休みがない以上、其の欲望を受け止める遊興船に休みがあってはならないからだ。
しかし、今日はお休みを頂いた。何故なら、遊興船は改装中だから。
「不満そうだね、オルシア」
「別に不満ではないわ。ただ――チョコをお求めでないお客様もいらっしゃると思って」
灯りの消えたバースペースに揺れる極彩色の尾びれ。紫色のマーメイドドレスを纏った海種の女は、小さなカクテルグラスに入った紅い酒をくゆらせながら言う。
相手はスーツを纏った男。静かに人魚――オルシアの傍に座すると、シャンパングラスの中身を一口煽る。
「だが、時季に乗って損はない。別に君に“酒を提供するな”とは言わないし、此処にそんな法律は通用しない。遊興船は遊興船だ」
「そうね……いえ、別にね。不満な訳じゃないのよ」
ほんとうに。
くい、とカクテルグラスの中身を煽る白い喉。
「ただ、思い出すだけよ。幼い恋に破れてぼろぼろになって、貴方に拾われたころの醜い私をね」
「君が醜かったことなど、後にも先にもないさ。君は今、最高に美しい。過去とは無数の今の積み重なりであり、未来とは無数の今の繰り返しだ」
「このバーの魔法が解けても同じことを言える?」
「勿論。何度でも言おう、君が望むなら」
「……」
挑戦的な沈黙が降りる。
まるで二人、刃を交わすような……そんな沈黙の後。音を上げたのはオルシアだった。溜息と共にカクテルグラスをバーカウンターに置く。
「子どもみたいなわがままよ、気にしないで頂戴。いつも通りのブルームーンで彼らをお招きしたかったの」
でも、そうね。
たまには――甘い香りが此処に満ちるのも良いでしょう。
●
「今年もグラオ・クローネの季節だね」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)はいつも通りの無表情だが、手元ではチョコの包みを開けている。聞くに、絵を描くのには頭を使う。頭を使うので甘味は必要不可欠。だそうで。
「皆覚えてるかな。遊興船“ブルームーン”……今は港に停泊しているんだけど、あの船から招待状が来ているんだ。なんでもグラオ・クローネにちなんで、チョコレートを作る専用に船内を改造したから来て欲しいって。流石遊興船、やる事が違うよね」
ぴらり。チョコ色の封蝋がされた白い封筒を置くグレモリー。
「あそこのカクテルは美味しいからね。チョコレートに混ぜるお酒にするには良いものが揃ってるんじゃないかな。ブランデーとか、ウィスキーとかね。別に普通にお酒を飲んでも、看板娘――オルシアは文句は言わないと思うし。ダーツスペースは空いているらしいから、お酒を飲んで遊んでも良い。折角の広いスペースだから、今まで作った事のないチョコとかに挑戦してみても良いかもしれないね」
――僕はチョコレートには疎いから、具体的には思いつかないけど。
グレモリーは封筒を持ち上げてひらり振ると、机の上にまた置いた。
- <グラオ・クローネ2022>ジョン・バーリーコーンとショコラの午後完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年02月28日 22時06分
- 参加人数22/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 22 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(22人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
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串に刺したチョコレートに、アルフィオーネは文字通り"熱い"息を吐く。
氷を敷いたバットの上にさらにバットを載せて、焼いたチョコを冷やす。
「素晴らしいわ!」
アルフィオーネは跳び上がりそうなほど喜んだ。 作ったチョコを村の名物として配れば、誰か来て下さるかしら? 本当は焼チョコなんてない田舎の農村だけど、意外性があって良いんじゃないかしら?
「どうせだわ、この船の皆さんに配って歩きましょう! きっと喜んでもらえるわ!」
ふう、とアルフィオーネが息を吐くと、其れはぼっと焔になって甘いチョコを焼いた。
「チョコレートを作るって、豆を育てる処から?」
なんて、カティアはボケてから、改めてボンボン系を作ろうと袖をまくる。居候先の同居人には呑める人もそこそこいるし、お子様向けにはノンアルコールのシロップを用意すればいいかな。
そうして果物系のリキュールを、渋めのチョコレートに閉じ込めていく。途中で思いついたので、生チョコレートに僅かに混ぜてみたり。
薬草系リキュールはどうだろう? とカティアは考えたが……自分とは違って、周りの人は慣れていないかもしれない。
でもなあ。“草カフェ”的には薬草系メニューを増やしたいなあ。
「……あのう」
試しに一粒作った薬草リキュールのボンボンを、バーで泳ぐオルシアへ持って行くまで、あと少し。
「ふっふーん! 今日は僕に任せてくれたまえよ、イヴ!」
勿論この言葉には裏がある。今日という日の為に事前練習をしっかりとしてきたのだ。
というわけでサンティールとイーハトーヴはチョコレート作り。湯煎をして、温度を一定に保ちながら均等に混ぜる。生クリームを混ぜて、肩に流し込む。ボンボンとはいっても、サンティールに合わせて酒は入れない。
そうして冷蔵庫で冷やしたチョコレートを取り出すと、二人は笑顔を見合わせて。
「やったねイヴ! よかったあ」
「サティのお陰で上手に出来たねぇ! デコレーションは得意なんだけど、難しい所も落ち着いて出来たのは、君が一緒だったからだよ」
「またまた~。イヴは褒めるのが上手なんだから」
お酒がないチョコは物足りなくないだろうか。
ちょっとだけ不安だったサンティールの思いは、イーハトーヴの表情を見るとたちまちに吹き飛んだ。
「どれから味見しようかな~……折角だから、イヴの力作を頂いちゃおう」
そうして口に含むと、口の中で苺の味が溶けた。
「わあ……すっっ、ごーく! 美味しい!」
「本当? ふふ、お菓子作りの大先輩に褒めてもらえて嬉しいな」
やったね、のハイタッチがぱちり、とキッチンスペースに響く。
「今日はすっごく楽しかったね!」
「うん、とってもたのしかった! それで……美味しい!」
「だね!」
「動かない船のなんと安全な事か。そう思いませんか」
ミディーセラは笑みを浮かべる。アーリアはそうねぇ、と頷いて。
「今日は動いてないから、酔わなくて一安心ねぇ。……前はほら、ね」
酔ってへろへろになって、ミディーセラに膝枕して貰った過去が蘇る。
「今回は大丈夫。たぶん、きっと」
「……そうですか」
「なんでちょっと残念そうなのよぉ! ほらぁ、チョコ作りましょ! チョコ!」
「そうですねぇ。折角ですから、こう、難しいものを……」
「難しいのもいいけれど、私たちだけのとっておきのボンボンを作りましょ! 甘いお酒をたっぷり…… …。 …ねえ、一口飲みながらじゃだめかしら」
「偶然ですね。わたしも同じことを考えていました」
そうして盃が二つ用意されて、いつものように酒盛りが始まる。
「……うーん」
けれど。ほろ酔いで作ったボンボンは、ちょっと不格好になってしまった。
あれこれと詰め込んだからなんだか重そう。摘まんで口に運ぶ間にお酒が流れ出すんじゃないかしら。
「……でも、二人で作るって、楽しいですね」
ぽつりとミディーセラが零すから。
そうねぇ、とアーリアは思わず笑みを浮かべ、チョコを摘まんで彼の口へ運ぶのだった。
●
「こんばんは。其の、お隣、構いませんか?」
「うん、いいよ。……ぼんやりしているね」
「……そうですか?」
この人は思っているより人を見ている、と閠は心の中で笑みを浮かべる。
小夜啼鳥の森で聞いてしまった声。あれ以来、まともに眠れていないのだ。
黒布は幸い、疲れた顔を隠してくれるけれど。
「バージンブリーズ」
「……同じものを」
バーにいる女性がくすりと笑う気配がする。ぽつりぽつり、閏が話すのをグレモリーは黙って聞いていた。最近の事。シロとクロの事。
――出されたカクテルに口を付ける。酔ったら忘れられるだろうか。
「閏」
「……はい」
「其れね、アルコールが入っていないんだ」
君はいま酔うべきではないよ。そう言ったグレモリーは残酷で、けれど優しかった。
ベルナルドは酒に弱い。
だから、今日頼んだのはシンデレラ。オレンジジュースやレモンジュースで作るノンアルコールカクテルだ。
「君が此処に来るって珍しいよね」
グレモリーは酒を煽り、ベルナルドをぼんやりと見た。真ん中に置かれたチョコレートを、二人は遠慮なく摘まんでいく。
「普段は行かないんだがな。師匠にアトリエを占拠されちまった。この時期は色んなカップルのストレスフルな姿を見て創作意欲が滾るんだと」
「ストレスフルなんだ」
「らしい。難儀な性格だよな」
チョコレートの後にシンデレラを飲むと、常より酸っぱく感じる。が、其れも悪くない。
「カクテルの種類もそうだが、チョコにも色々種類があるんだな。グレモリーは気に入ったものは……おっ、このチョコレートボンボンって奴がおすすめらしいぞ。まずはこいつから」
「待って」
「……? グレモリー、顔色悪いぞ」
「それだけはやめて」
縁がホットワインを口に含めば、舌に乗せたチョコが溶け出す。程よい甘みが口の中でまじりあって、何とも美味しい。
「十夜さん。あれ、どうしますのん?」
隣で同じく甘味と酒を味わっていた蜻蛉が指差したのは、ダーツだった。おや、と縁は僅かに目を瞠る。ダーツなんてやるような女には見えないからだ。
「……早速酔ってるのかい?」
「酔ってなんてあらしまへん。一回、遊んでみたい思ただけ」
ねだる蜻蛉に縁はついに押し負けて、彼女をダーツスペースへとエスコートする。
ダーツの矢を物珍しく眺める女は、このような遊びには触れたことがなかったのだろう。
「で、どうやって投げますのん?」
縁は矢張りと噴き出した。自分も教えられるほど巧くはないのだが。拗ねた様子の蜻蛉に、謝罪を交えながら教える。彼女の後ろに立って、矢を正しく持たせる。
「こう持つんだ。で、立って……身体の向きはこっちだ」
自然と腰に手を添えて、密着する形になる。気付いていない様子の縁に、蜻蛉は心中で、いや実際にも唇を尖らせる。
「……で、……? どうした」
どうも真面目に聞いていない蜻蛉に縁は視線を下ろし、……ようやっと、二人の瞳が近い事に気付いた。
「ううん、何にも。ただ、こんな機会でもないと触ってくれへんのやなぁって思ただけ」
ああ、今回の駆け引きはうちの勝ち。堪忍して、とはにかんで見せれば、参ったと相手は紅い顔を手で覆った。
ルアナは不機嫌である。
ダーツに集中するグレイシアをじとーっと見詰めている。見つめられている方は、理由を知っている。お酒を飲もうとした彼女をたしなめた事が原因だろう。
ルアナは本来なら十分大人と呼べる年齢だし、年相応の肉体も持っているのだが、召喚の際に10歳程度にまで肉体と精神が退行してしまった。ルアナにしてみれば「呑める年齢なのに、どうして止められなきゃいけないの」という事なのだ。まあ、グレイシアの反論は「元の世界と同じところまで成長するまでは駄目」なのだが。
ルアナはスツールに腰かけて、ダーツを投げるグレイシアを見る。其の様はまさに大人で、かっこよくて。
「おじさまは元の世界の私の事、知ってるんだっけ」
「……知っていると言っても、顔を合わせた途端に転移だったがな」
「でも知ってるは知ってるんでしょ? はーあ。早く記憶を取り戻して大人になりたいなぁ」
それがルアナにとって幸せなのかどうかは、グレイシアには判らない。
ただ、今の彼女ではグレイシアに“最高の終わり”を齎す事は出来ないだろう。
「あ」
ふと、思い出したようにルアナがスツールから降りた。グレイシアの方に近付いて、はい、と差し出す紙の箱。
「大事な事忘れてた。チョコあげる!」
「……ああ。グラオ・クローネだったな。有難く頂くとしよう。……吾輩からのチョコは、帰ってから改めて、だな」
「わーい! 楽しみ!」
――しかし一緒に出されるホットミルクに、ルアナはまた拗ねてしまうのだ。
サンディとシキはダーツスペースにいた。
普段なら迷わず、シキは酒を頼んでいるところなのだが……今日はやめておこうか、と笑う。隣に君がいるから。
「ダーツってやった事ないんだよね。 教えてくれる?」
「お、ダーツ知らない? ちょっとしたオトナのゲームだぜ!」
「オトナなの? サンディ君は投げ武器よく使ってるし、器用だし、得意そうだよね」
「へっへ、まあ見てなって」
使うのはこの矢だよ、とサンディが示す。
「ルールは簡単」
くるり、と其れをペンを持つように持ち替えると、サンディは軽い調子で矢を投げた。真ん中に突き立った矢を見て、思わずシキは拍手する。
「矢を投げて、狙ったマトに当てよう! って事だ。シキちゃんもやってみるか?」
「うんうん、私もやる! から、見ててよねぇ?」
先生、とおどけてシキが言うと、サンディは照れ臭そうに笑い返した。
けれども、シキはこんなに軽いものを投げた事はないし、扱う武器は重いものばかりだ。投げるときもつい勢いを付けようとして、力んでしまうのが自分で判る。
「……うーん」
「そうだな……投げ方にはちょーっとコツがあるんだ。槍とかみたいに遠くに投げる訳じゃない。こう……おいでおいで、みたいに手首を」
「おいでおいで」
ふむ、とシキが頷いて、再び的に向き直る。おいでおいでをするように、軽い感じで……
「あ! 当たった……!」
「うまくいったな!」
「わぁ、当たったよサンディ君、見て見て! ふふ、楽しいな……教えてくれてありがとうね、サンディ君!」
「これがダーツ、ですのね」
聞いた事はあったけれど、とヴァレーリヤは呟き、矢を物珍し気に見る。
「マリィ、折角なのでちょっと遊んでいきませんこと?」
「ふふ、いいよ! 折角だし遊んでいこう! ルールは判んないから、当たれば当たりで良いよね?」
「構いませんわ!」
そう言って始めた、のだが……
「どっせえーーい!」
ヴァレーリヤが渾身の力で投げた矢が、ぺいっと狙った的に弾かれる。くるくる舞った矢は、何故か別の的にすとんと刺さった。
「わあ! 流石はヴァリューシャ、凄まじいパワーだね! じゃあ次は、私の番!」
――ずどん!!
勢いよくボードを貫通した矢。流石に其れは、とスタッフがマリアを止めに入る。
「え? 電磁加速で飛ばしたら駄目なのかい!?」
「もっと気軽に、軽い感じで投げて大丈夫ですよ」
「ふむ、こうですの?」
指先でつまんで、ぽいっと。投げた矢はすこん、と、呆気なく真正面の的に刺さった。
「……! 成る程! こうやって狙うんですのね!?」
「わあ、ヴァリューシャ上手! 私も私も!」
「ふっふっふ、コツが判ってきましたわ! このコツと勢いが合わされば、百発百中間違いなし! つまり……どっせえーーい!!」
渾身の力で投げた矢はぺいんと跳ね返り、近くのボードを直していたスタッフの頭に突き刺さった。
「……あ」
「あ」
「う、うおおーーー!? 回復魔法! 回復魔法を使える方を呼んで下さいまし!」
「誰かー! 衛生兵、衛生兵ー!」
年に一度の特別な日、特別な夜。
ちょっとした刺激と遊び心は、きっと其の時間をより特別なものとしてくれる。
そう、例えば。ちょっと大胆なドレスを纏って大人びた少女に、遊びの勝負を持ちかけたくなるような。
「ダーツで勝った方が今月のお小遣い二倍。そのお小遣いで好きなものなんでも買っても良いわよ」
「……。其の勝負、乗ったわ」
ゼファーの風のような誘いに、アリスは乗った。
欲しいものなんて幾らでも! あのお店のアイシャドウに、キャンディカラーの春リップ。数え上げればきりがない。
「ふふ。それじゃあカウントアップでいきましょう。言っとくけど、私は結構巧いわよ?」
なんて言ったゼファーだけれど。投げ槍とダーツは容量が違う。思ったよりも随分逸れたところに当たってしまった矢に、あれっ、と目を丸くして。……まあ、後々好調なら問題ない。本気で取りに行くわよ。
……と思っているのはアリスも同じだけれど。本気で点を重ねていくゼファーに歯噛みをしてしまう。こうなったら16-7-19。
「そうねえ。私が勝ったら」
今から勝ちの話をするのか、とじとり見つめるアリスの瞳にウインク一つ。
「もうひと月くらい、こっちに留まりましょうか。我が家のぬくもりってやつ? が存外に心地良いからね」
「あら、其れは良いわね」
貴女の隣にあれる喜びはお金では買えない。欲しがる女は山ほどいても、わたしだけのものですもの。
――けれど、可愛い私でいたいから、アイシャドウは欲しいの。そら! 19のトリプルよ!
「ブルームーンか。いいネーミングの船だね」
バーカウンターでカクテルを燻らせながらルーキスが言う。
「青い月……うむ、実に良い。好きな名前だ」
「しかしまあ……毎年我らの体は大忙しだ。アルコールだけならまだしも、プラス大量の砂糖ときた」
「身体が悲鳴をあげてもおかしくない量な気もするな。」
「ま、嫌いじゃないし、エネルギーにも丁度良いから飲むんだけどさ」
ぐいーっ、と一気にカクテルを煽り、ウィスキーボンボンを食べる。
「オルシアさん、何か辛口のお酒ある?」
「いいわよ。バラライカでいい?」
「うん」
「大丈夫か? 俺は筋トレをしているから大丈夫だが、ルーキスは……」
「ふふ、大丈夫だよ」
程なくして運ばれてきた純白のカクテルで、二人は小さく乾杯。
ちょっと煽れば飲み干せてしまう量の酒は、其れでも回るには十分だ。
「あー、おいし」
「……」
「どうかした? 旦那様」
「いや、ウイスキーボンボンを一つ貰ったんだけどな」
「ややっ、いつの間に」
「ルーキス手製の菓子が美味いからかな。……美味いんだが、……普通、だな?」
「……ふ、あっはっは! オルシアに怒られるよ」
笑いながら、ルナールの膝になだれるルーキス。
「酒も良いけど、そろそろこっちの気分」
其処は気紛れに占領できる、ルーキスだけの特等席だ。
「ふふふ。今年も宜しくお願いしますよ、旦那様」
「うむ、今年も一緒に楽しもうな」
ブルーラグーンを煽れば、ちりり、とウォッカの辛みが弾ける。
着慣れないスーツに窮屈そうにするヴィクトールを見ながら、どうやったらチョコを食べて貰えるかと未散は思案していた。
お似合いですよ。其の言葉を其の通りに受け取って、ヴィクトールはぎこちなく笑う。同じカクテル――ブルーラグーンを煽れば辛い中にもほんのり甘い。
「勝負、しましょう」
不意に未散がそう言った。え、と顔を上げたヴィクトールにもう一度、勝負しましょう、と。
「501で。僕が勝ったら、チョコを一欠片、頂いてくれませんか」
スチールチップは、思いを託せば僅かに重くなったような気がして。
けれど其の未散の思いにヴィクトールは気付かずに、やってみましょうか、と頷いた。
……。
「おやまあ。負けてしまいましたね」
賭けているものは金ではないから、ヴィクトールは軽い調子で言う。見事に501をゼロにして勝ってみせた未散は、何処か得意げだった。
ではチョコレートを一口、頂きましょうか。
「此方を一口、どうぞ。あーん」
「あー」
少し気恥ずかしくも頂いたチョコは、甘みを抑えたもので。ミルクよりもカカオの香りが強い其れは、きっと酒にもよく合うと思った。
「……ところで、ボクが勝ってたらどうしたんです?」
「ぼくが負けた時ですか? 慰めにチョコを食べて頂こうと思ってましたよ」
「――成る程」
勝負を受けた時点で、術中だったという訳。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
むかーしむかしに出した遊興船をもう一度使いたかったので出したシナリオでした。
なんとなくちょっと大人なプレイングが多くて、なんだかどきどきしちゃったりして。
お酒にチョコ、そしてダーツ。いいですよね。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
今年もグラオ・クローネの時期が来ました。
知ってる人は知っている、あの船が時季に乗ったようです。
●目的
“遊興船「ブルームーン」”でチョコを楽しもう
●立地
海洋に接舷している遊興船です。
普段はビリヤードやルーレットなどで遊べるのですが、今回は製菓用に少しだけ模様替えしてあります。
ただ、謎の美女「“典雅魚”オルシア」がシェイカーを振るバースペースとダーツスペースは健在です。
●出来ること
1.チョコレートを作る
製菓スペースを使ってチョコレートを作る事が出来ます。
お勧めは勿論ボンボン系。オルシアに声を掛ければ酒類を用意する事も出来ます。
2.既製品を食べる・バーやダーツを楽しむ
オルシアが作ったチョコレートを楽しむことが出来ます。美味しいよ。
そして、普通にお酒を飲む事も出来ます。今はチョコレートカクテルが人気だとか。
●NPC
グレモリーはバーの隅っこでカクテルを飲んでいます。
リリィリィは皆の製菓作業を見て回ったり、ダーツをして遊んだりしています。
他の国のNPCも頼めば来てくれるかもしれません。
お声がけはお気軽に。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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