シナリオ詳細
ゴールデン・ドロップの祝杯
オープニング
●
インク・ブルーの夜空に幾千もの星が瞬いている。
煌めきは美しく。優美で。
特異運命座標の瞳に希望の輝きを写し込んでいたが―――
それどころではない。
人、人、人。人の群れ。人の山だ。
物理的な見地から述べるのであれば、ことさらに高さを強調すべき点はなく。山はいささか言い過ぎではあるのだが。
ともかく今は、そんなことなどどうでもよい。
イレギュラーズは王都に帰還するなり、文字通り滅茶苦茶な歓迎をされていた。
理由など推測するまでもない。挙国一致の魔種打倒。成し遂げたのはローレットのイレギュラーズ。つまりは己自身。その完全勝利の報が驚くべき速さで国中を駆け巡ったのであろう。
顔を見るなり旗を振る者。大声で祝う者。なにやらクラッカーのようなものを鳴らす者。
果ては胴上げに、スパークリングワインをぶちまけてくる者。
太鼓の響きに笛の音。ああ今はサーカスだけはやめてくれ。
決死の努力が実り、それを祝福されるというのはありがたいことではあるのだが、さすがに辟易とする。
何しろひたすらに疲れ切っていた。
「気分はどうだね、イレギュラーズ」
まるで逃げるように人の波を泳ぎ、路地裏の壁に手をついた所で、ふいにそう呼び止められる。
「最高だ」
口をついたのはそんな言葉で、聞いた男は咳払いしながら喉の奥で笑った。
こんな状態の相手に対する態度かと。イレギュラーズはさぞひどい顔を見せたに違いない。
「失礼」
男はもう一度咳払いを一つ。
「私はパトリック・マルゴーという者だ。ここを抜け出したくはないかね?」
やぶからぼうに何だというのか。どうにも怪しいギラついた男だが、身なりは良い。
ただ男が述べるその名はどんなものか。風の噂ではローレットに協力的なクライアントの一人であると聞いた気もする。
「頼めるか?」
だからつい、そう言ってしまった。
「ついて来たまえ」
どこか諦めにも似た感情を抱きつつ、男の背を追って狭い路地を抜けて行く。たどり着いたのは閑静な高級住宅街であった。
中に一つ。ずいぶんと眩しい灯りが零れだす邸宅の庭には、派手な横断幕がたなびいている。
『ローレットの冒険者様! 戦勝祝賀会!』
おまえもか。
きっとその時の顔は、誰にも見せたくないものであったろう。
「安心したまえ。ここには私の使用人と君のお仲間しかいない」
やや間を置いて。今度はどこか気遣うように述べた所を見ると。この男、見かけと態度によらず意外といいやつなのかもしれない。
「覚えておいてくれたまえ」
男は再び、おそらく悪癖なのであろう咳払いをすると答えた。
「パトリック・マルゴーだ」
とっとと帰ってさっさと身を清潔にして、泥のように寝たいというのが本音ではある。
だが今すぐどこかに座れるというのなら、とりあえず座ってやってもいい。
なんなら一杯の酒があれば、全て世は事も無し。こんなだまし討ち程度なら許してやってもいいだろうか。
これも英雄に課せられた使命であるならば。ついでにもう一度だけ覚悟を決めてやるのも、やぶさかではない気分になってきた。
「ったく。しゃーねーなあ」
あきれた様に、そう吐き出して。
●
「貴方達も来てた、ですね」
小柄な幼女がぽてぽてと歩いてくる。ピンク髪から覗く長いロップイヤー。『Vanity』ラビ(p3n000027)が目の前まで歩いて来て立ち止まり、イレギュラーズを見上げた。
「一緒に祝賀会したい、です」
招くように手を差し出すラビ。けれどその小さな手には戦闘の傷跡が生々しく刻まれていた。
「アルエットも!!!」
白い羽を広げ元気な声を上げる『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)は満面の笑みを向ける。
同じ戦場に居たはずなのにこの差は何故だろうか。キラキラと花吹雪のエフェクトが舞っていた。
二人に案内され、邸宅の中に入ればテーブルの上に並ぶ料理とデザート。
「遊楽伯爵にも劣らない自慢の料理を用意したのだよ」
マルゴーは得意げに腕を広げた。
シルバーの大皿に並んだ肉。白い食器に入ったサラダとフルーツ。奥には樽の形を模したエールジョッキが並ぶ。あれに並々とエールを注げば――
大仕事、それも死線をくぐり抜けた後の一杯は格別であろう。
「さあ、乾杯しようではないか!」
マルゴーがジョッキを手に掲げる。
打ち合うエールの雫がカンテラに照らされ――――ゴールデン・ドロップに輝いた。
- ゴールデン・ドロップの祝杯完了
- GM名もみじ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年07月14日 21時25分
- 参加人数50/50人
- 相談5日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●festival
「すごいお祭り騒ぎなのですね」
音に光は表通りのほうからインク・ブルーの夜空に流れ。
市街の奥に位置する閑静な家々の屋根にもきらきらとこぼれている。
ヘイゼルはイレギュラーズを迎える活気を肌で感じていた。
隣のクロジンデは眠たげな表情で祝いの宴をどこか他人事の様に感じている。
「んー、ボク自身は、魔種に逃げられちゃっているわけでー」
難しい状況であったけれど。それでも守るべき人達を助けることができた。
「せっか御招きいただいたのですから御申し出は受けると致しましょうか」
「こうやって祝うのも、まー悪くは無いのかなー」
ヘイゼルはジンジャエール、クロジンデはビールを手に乾杯をして。
「では、たんと食べさせていただくのですよ」
皿に盛り付けるのは肉や野菜、沢山の種類を満遍なく。
クロジンデは痛みが紛れるようにと度数の高い赤ワインを選び。
瞬く灯りに月と星。夜闇に染まるイレギュラーズ達の頬を俄に染める煌き。
身体の芯に重く響く音――花火だ。
シェールピンクにアクアブルー、パライバトルマリンの色合いで夜空に大輪を咲かせる。
「では、イレギュラーズの勝利に乾杯」
颯人の祝杯に応じる舞花。
戦いは熾烈を極め、多くの傷を残して行った。
それでも、勝利を得られたのは僥倖であろう。魔種という存在の情報を取得出来たのも今後に役立つに違いない。
「そういえば、久住殿の剣術はどの様にして学ばれた物なのだろうか」
肉を口に運びながら、颯人が問うて。
「恩人の1人に教わりました。といっても……
まだ二年ほどしか教示を受けては居ない。その前にこの世界に来てしまったから。
才能はあったのだろうか。多くの実践や修練も熟していたけれどそれを測るには元の世界に帰らなければ分からない事。
舞花が静かに答える。成る程と相槌を打った颯人は共に戦った仲間へと興味が湧いたのだと少しだけ表情を和らげた。
「これからも戦い続きになるだろうが、互いの武運を祈るとしよう」
「そうしましょう」
心に淀む漠然とした不安もあるけれど。今は、この宴を楽しむのも悪くない。
「ナイスコンビネーションだったね」
セララがハイデマリーに笑みを向ける。
先の戦闘で共に戦った二人は興奮冷めやらぬままテーブルを囲んだ。
「……貴女は好き勝手に動き回ってるようにしか」
魔種を攻め立てた緊張感――絆を叫び二人で戦場を駆けた記憶は未だ鮮明に残っている。
「マリーは魔法少女の才能あるよ」
前に攻めるセララと後ろで指揮を取るハイデマリー。相性も良いだろう。
愛と正義のパワーで世界を救うと声を上げるセララ。
手を掲げる少女にはルビーレッドのうさ耳リボンと可愛らしい衣装。
勿論、ハイデマリーにもサファイヤブルーのスカートがヒラリと揺れる。
国家愛も軍事的観点もなさそうなセララに正義とは。というか――
「……やはり魔法少女なんt」
詰め込まれるリンゴ。有無を言わせないセララの猛攻。
「ですから……セララはワタシがいないと困るでありますか?」
「うん。マリーがいないと困っちゃう」
仕方ないなと呟くハイデマリーの声は心做しか高く。
ローレットの知名度は今や留まる事を知らない。偏にイレギュラーズの努力の賜物だろう。
「パパもお疲れ様だ!」
「ノーラもお疲れさまだ」
重傷になるまで戦い駆け抜けた戦場。傷だらけの親子は労い合う。
「あ、パパあれ美味しそうだ!」
盛り付けられた肉とデザートにノーラはリゲルの手を引っ張った。
「うんうん。何でも好きなものを食べてもいいぞ」
深い傷なぞ、この小さな身体に受けた事も無かったであろう。本当に頑張ったなとリゲルはノーラの頭を撫でる。
「アルエットさんもラビさんも無事で戻ってきてくれて何よりだよ」
「パパとおじさんの知り合いか? 天使さんとうさぎさんだな!」
ノーラは二人の少女に屈託のない笑顔を向けた。
「よろしくなの! ノーラさん」
ジュースを取りに雲雀と娘が駆けていくのを見送ってリゲルはラビに青い瞳を流す。
「名誉の負傷か……勇ましいな」
「リゲルさんこそ、です」
お互い戦場は違えど最前線で魔種と戦った。
義兄弟が気にしていた話や無理をしないようにと言葉を紡げばジュースを手に二人が帰ってくる。
揃って祝杯を上げれば皆の顔に笑みが溢れた。
「ううん、これだけ特異運命座標も多いとまだまだ知らない人だらけでこう、孤立しますよね!!」
ヨハンは何処か落ち着ける場所が無いか探していた。
ネオンブルーの瞳の端に見知った色を見つけて振り返る。
背中に煌めく青い光沢と流れるゴールドの髪。
「ああ、良かった。これでぼっちにならずに済む……セティアさん!」
「ヨハンさん。いっしょにごはんしない?」
【ぼっちズ】の面々は会場の片隅に集まっていた。それだけではない。レオンハルトやディエ、リジアとフォーガの姿も見える。
「みんなきてくれて、ありがとう」
セティアが乾杯とグラスを鳴らせば楽しい時間の始まり――
「今日は無礼講だな。心行くまで宴を楽しもう」
レオンハルトが傾けたグラスは既に空で。翌朝の頭痛ぐらいは直してやると右腕を擦る。
ヨハンは仲間に感謝の言葉を伝え嬉しげに笑っていた。
「イレギュラーズと妾の大活躍に乾杯なのじゃー」
デイジーは違いの分かる大人。そう、ここはぶどうジュースをご所望である。
「クックク、我が魂を癒すためにこのような催しを行うとはな。気が利くではないか」
ディエが極上のワインと至高の料理を求め、声高らかに笑った隣には、フォーガが活気に溢れる会場に感心していた。
「なるほど、これが勝利を祝うということなのですね」
物思いに耽りながらも手には料理を抱えて。生か死かの鬩ぎ合い。死闘の後には腹も減るだろう。
「フォーガの民は生粋の捕食者、ここにあるすべての料理を平らげることは容易い……」
「ご飯……」
ふらふらとやってきたリジアの声にフォーガが心配そうな顔を向けた。
「……いや、なんでもない。ただ、少し力を使い過ぎているだけだ」
「やあ、楽しんでいるかね?」
そこへやってきたマンゴー……もといマルゴーにリジアは問いかける。
刻天使なりの純粋な興味。フォーガも聞いてみたくあった。
「……祝うのはお前の勝手だが」
ここまで親身にする理由。言いながら一番良い料理を持ってこさせるリジア。
「なぁに、以前世話になったお礼という事だよ」
含みを持った言い方だが、その根底にあるものは紛れもなくイレギュラーズへの好意なのだろう。
きっと悪い奴ではない。そう悟ったフォーガとリジアは空腹を満たすべく皿に料理を持っていった。
「いや~意外と一人で遊びに来る人多いんだね!? 良かった良かった!」
ステーキ肉を頬張りながら、かるらが笑顔を向ける。ガチでぼっちを回避した事に胸を撫で下ろし。
「からあげ、レモンかけていい?」
「どうぞですよ」
田舎から出てきて一年。王都で暮らし始めてからこういう気遣いも覚えたセティア。
「そういえば、あれはあるかの」
「なに?」
デイジーの目線は料理が並ぶカウンターへ。大好物の「ポルボ・ア・フェイラ」を探し。
「ありそう?」
「うむ、あるかの。では、もって参れ」
セティアはカウンターから『マツリダコ』を持って来た。それを皆でつついて食べる。
「皆は依頼どうだった? どんなだったか聞かせてよ~」
「サーカス倒せてよかった、やばかった」
かるらが歯が何本が折れて体の何割かが炭になったと言えば、なんかそれもう大丈夫じゃないよねと誰かが返した。
「料理はみんなで食べる方がおいしいですもんね!」
ヨハンが微笑み、かるらが頷く。デイジーがドヤ顔を決めればセティアが変顔をするのだろうか。
無事に帰ってこれたからこそ、笑い合える。
きっと、それはとても素晴らしい思い出で――
ジュースを片手にQZとポテトは会場の明かりの下に居た。
「そう言えばQZとこんな風に二人で話すのは初めてか?」
今までは皆で集まって騒いでいる事が多かった気がする。
雰囲気の優しい二人。のんびりゆったりと食事を楽しむ事にして。
「QZは盾として随分強くなったようだな」
魔種と対峙し生きる覚悟を持って騎士団を守り抜いた彼女の勇姿はポテトの耳にも入っていたのだろう。
「そうだね。私もポテトちゃんも、強くなった」
想うだけで胸がじんわりと温かくなる存在が出来た。それを守りたいと願う意思こそ強さとなるから。
「でも、まだまだきっと……」
まだ見ぬ敵や立ちはだかるであろう苦難に眉根を寄せるQZ。
ゆっくりとポテトの手が伸びて、QZの頭を撫でる。
「信じられる仲間が沢山いるからきっと大丈夫だ」
「そうだね。私も、ポテトちゃんを頼りにさせてもらうよ」
召喚されたばかりの頃は一人だったかもしれない。
けれど。
温かい手のひらは――今はそうじゃない事を実感させてくれるから。
●Stargazer
「飽きるほどみてきた光景ですが……」
インク・ブルーの夜空に煌めく星を見上げミディーセラが小さく呟く。
「宝石みたいに星がキラキラ光ってて……もし、星か星の欠片がふってきたら絶対に欲しい」
青と緑の瞳に空を写し込んでシオンが手を伸ばした。
無辜なる混沌の、それこそ空中庭園より高く高く飛べば、あの星空を掴めるだろうか。
遠い遠い星。遥か遥か宇宙――
「ミディーの魔法で星の欠片を落としたりキラキラしたものを作ったりできないのー……?」
星を落とし、月の川を渡り。願えばきっと。
夜風は涼しくシオンの頬を撫でる。
「ん……夏なのに夜風は寒いね……」
ふわふわと揺れる肌触りの良さそうなミディーセラの尻尾を借りて良いかと問えば。
「まあ、まあ。尻尾を? もちろんですとも」
手入れを欠かさないミディーセラの尻尾はとても抱き心地が良いのだった。
戦いの残響はシラスの心を未だ揺さぶっていた。
並べられた料理には手を出さずアレクシアと共にテラスへと移動する。
「空の星すごいね」
夜風に少年の髪が流れた。隣の希望の蒼穹を讃えた瞳を見つめると日常が戻ってくるようで。
「俺さ、もうずっと空を見て何か感じたことなんてなかったよ」
けれど、今日の夜空は特別綺麗だった。
こんな気分が味わえるなら、これからも頑張ってみてもいいかもしれないとシラスが紡ぐ。
少年の言葉にアレクシアは空を見上げ、改めて空が美しいと思った。
己の内心を吐露したシラスに少女は応える。
「私は実は結構自分の事に必死でさ、お仕事をする時はいつも内心とても不安で……」
「アンタでも不安に思うことってあるんだね」
「もう……っ」
「はは、怒らないでよ、褒めてるんだから」
笑顔を見せた少年に言葉を続けるアレクシア。
祝杯を上げられる程、頑張って来てよかったと云った言葉の継ぎ。
犠牲になった、救えなかった人達の事を思えば――
彼らには変革や夜空はもう見えはしないのに。
頑張ると紡ぐアレクシアにシラスは、ただ「うん」と返事をした。
「わぁ~……! 綺麗な星だね」
空を見上げたユーリエはエリザベートに語りかけた。
命を掛けた戦いが終われば安堵の波が押し寄せる。それは仲間が居たからこそ。
「何よりえりちゃんが隣にいてくれたから」
強大な敵に立ち向かい、己が最大限の力が奮えた。
けれど、エリザベートは小さく眉根を寄せる。本来であれば容易く薙ぎ払える敵であるのに。
憂いを帯びた紅玉の瞳に、ユーリエはそっと唇を落とした
「えりちゃん、ありがとっ」
この笑顔の為ならこの身が傷つこうとも構わないとエリザベートは想い。
重ねる唇の柔らかさに頬を染める――
オレンジの双子座を見上げ。
「あの星のどこかに、元いた世界があるのかな」
妹との誓い。幸せの在り処を探して。
もし会えたなら、恋人が吸血鬼だなんて驚いてしまうだろうか。
ユーリエとエリザベートが会場へ入って行くのを見送ってアーリアはテラスの奥にあるベンチに腰掛けた。
夜空に紛れたシスター服、眼鏡の奥の瞳は満天の星に攫われる。
クラリーチェが視線を漂わせた先、気づけばアーリアの姿を捉えていた。
「あの。……お隣、座っても宜しいでしょうか?」
「あらあらぁ、クラリーチェちゃん。勿論どうぞぉ、のんびりお話しましょ?」
幾千もの星達の瞬きを見上げ二人は並んで言葉を交わす。
「お仕事でご一緒したことはありますが……」
こんな風にのんびりと星を眺め語り合った事など無かったから。新鮮で胸が踊る。
きっと運命の采配がなければ、お互いの瞳の色を見つけることすら出来なかった。
ライラックとエメラルドの瞳が笑顔と共に細められる。
戦いの残響に震えるけれど、それでも。
この時この場所で、交わした縁を。無事に居られた事を。
そして、未来への希望を紡ぐ為に――
「ふふ、かんぱぁい」
「はい。乾杯……です」
夜空に響く祝福の音色。
舌を転がる酒の味は分からないけれど、見上げる月は輝いてクロバの輪郭を優しく撫でる。
耳元で蠢く気配に月から視線を落とせば小さな妖精の姿。
「もう……!」
その妖精を追いかけて走ってくる少女は、金の髪を揺らし空色の瞳で青年を見上げた。
「お怪我はありませんか?」
使い魔を引き剥がしながら問うた声に、問題ないと応えるクロバ。
「良かった」
胸を撫で下ろす少女の、ふわりと揺れる髪を。エリーナと名乗った可憐な声に月のようだと紡げば少女の頬がオパール・ピーチに染まる。
「もう、クロバさんはお上手ですね」
妖精がひらりと二人の間を走って行くのを碧眼で追いかけて。
「そ、それより先程は月を眺めていたようですが月に何か思い入れでも?」
小さな沈黙の後、クロバは薄い唇を開いた。
「……生まれて初めて見た綺麗なものが満月だったんだ」
それ以来、恋をしていると云われるぐらい、無意識に追いかけてしまうのだと。
黒の死神は月明かりに優しく灯る金の髪を見つめ、そう紡いだ。
「お嬢さん、一緒に星空を見ませんか?」
バラストレードに手を掛けて、四音がラビへと微笑みを向けた。初めましてと続ける小麦の肌、その背から差し出される骸骨の手。
「よろしく、です」
ラビの物語を知りたいという四音に紡ぐのは、かつて下位世界の色を全て喰らい、その世界の救世主に先触の部下諸共消滅させられ気づけば空中庭園にいた事。
「混沌に来てからは、情報を追いかけて、フラフラしてたら奴隷商に捕まってた、です」
この星空の様に輝く未来(ものがたり)が楽しみだと目を細める四音。
困った事があれば頼っても良いのだと、大好きな貴女の為ならと手を握る四音にラビは照れたようにこくりと頷いた。
されど、垂れたうさ耳を見ながら四音は嗤う。――ええ、きっとこの子の物語は。
「こんばんわ。あの、貴方もしかして……」
火を宿したスカーレットの瞳で幼女を見つめるのはリースリットだ。
その手で掬い上げた命。ラビをローレットに連れ帰ったのは彼女だった。
保護と身元の捜索をギルドへ一任したが、情報屋として残っていたとは思いもしなかった。
「元気で……無事で良かった。――私はリースリット、貴方は?」
「私はラビ、です。リースリットさん、あの時はありがと、です」
恐怖で凍りつき碌なお礼も出来なかったからと、ぺたりとうさ耳を垂らすラビ。
小さな身体中に生々しい傷。それはリースリットとて同じ事。戦場を駆けた証。
お互い満身創痍だけれど、優しく握手を交わし。
「宜しくお願いします。無理はしないでくださいね」
「はい」
幾千の星空の下、小さく微笑み合って――
「はー、終わった終わった」
「あうー、おつかれさまっ。ぼろぼろだよー……!」
初めての大きな戦い。リンネとリインは疲れた身体をテラスのバラストレードに預ける。
元の世界では血肉を争う戦いなぞ滅多に無かっただけに、リンネは相方を心配していた。
けれど、巨大なミノタウロスに奮闘したと語るリインはいつも通りで。
「こうして二人とも無事に戻って来れて、本当によかったぁ……」
二人はお互いの顔を見つめて笑い合う。
「死者は星になるって言う世界もあるし」
「散ってしまった味方の命も敵の命も、みんな輪廻の元へと還れたかな?」
星空を見上げながら二人の間に流れる沈黙と談話。
失われた魂が輪廻に辿り付きますようにと願いながら隣を見れば、うつらうつらと船を漕ぐリインの姿。
安堵と共に押し寄せた眠気に瞼が落ちるのだろう。
リンネは自身の膝の上で寝息を立てるリインにそっとマント被せて、頭を優しく撫でた。
「お疲れ、リイン」
「有難う、ラビさん、アルエットさん。二人のお陰で今日という日が迎えられたよ」
「こちらこそ、です」
シエラの言葉に表情が少し和らぎ照れた顔を見せるラビ。
「シエラさんもカッコよかったの!」
戦場で見せた勇姿をシリウス・グリーンの輝きをアルエットは覚えている。
「勇敢なお二人にはこれを差し上げようー!」
「わぁ!」
大好物のビーフジャーキーを二人に差し出すシエラ。
「これからも宜しくね!」
「はい」
「よろしくなの!」
笑顔溢れる少女たちの団欒を星空が照らしていた。
ルチアーノはラビとアルエットの元へ手を振りながら歩いてくる。
「アルエットさんの回復があったからこそ生還することができたよ」
勇気を振り絞り、戦場を共に生き抜いた仲間へ問うのは、その原動力。
「ルチアーノさんや皆が頑張ってるからアルエットも頑張らないとって思ったの」
勇気の原動力は貴方の勇姿だと雲雀は笑顔で歌う。
必死で魔種にしがみついたラビにも感謝を伝えるルチアーノ。
自身を助けてくれたリースリット達の様になりたいから。戦場に立つのだと幼女は頷いた。
「無理はしないでほしい、けど……」
この幼女が成長する姿を見るのも楽しみだとルチアーノは笑顔を向ける。
これからも共に頑張ろう――
そう、星空に誓いを立てて。
「祝勝ムードとはいえ、派手なのばかりじゃ疲れちゃうよ」
「あぁ………ここは落ち着ける上に、空がとても良く見える」
静かなテラスで美咲とリアムはカクテルを手に星を見上げた。
お互いが居なければこの戦いを生き抜く事も出来なかったかもしれない。
きっと、運命の巡り合わせ――相棒という響き。
「なにより、この星空だよ!」
魔眼の制御に拘束具。能力の減衰と共に訪れた開放は、美咲の瞳にラピスラズリの星空を写していた。
その輝きを見つめるリアムの表情をは柔らかく。
「リアム君は、混沌に来てよかったことって、ある?」
振り向いた美咲の問いに、リアムは指先を自身の唇に添える。
綺麗な星空を見れた事、気の合う彼女に出会えた事。それと――
「酒と言う物の味を、知る事が出来た、かな」
グラスを傾け、美咲へと寄せるリアム。
お互い別々の場所から来た者同士、価値観すらも違う二人であろう。
しかして。だからこそ、惹かれ合うのかもしれない。
シャルロットは手頃な岩にマントを掛けて腰を下ろす。
片膝を抱え戦場に想いを馳せれば鮮明な映像が甦った。音や匂いまでもが、未だ肌にこびり付いて離れない。
「よもや……」
故郷より遠い地に来て、太陽の化身に匹敵する敵と相まみえる事になろうとは。
未知は未だ広がると空を仰ぐ。
ふと、シャルロットが耳を澄ませば遠くから旋律が聞こえた。
人混みを避けた霧玄の歌声――
『祝杯いかねぇのか?』
零夜が問えば、笑いながら首を振る霧玄。
熾烈な戦いの後だからこそ、静かな場所で過ごしたい。
賑やかな場所は少し落ち着かないから。
隣に座った零夜と共に語り合うのは今日の戦場か明日のご飯か。
尽きぬ会話は楽しげで。
人混みを避けて明るい会場から逃げるようにテラスへと出たレイチェル。
只の人だった頃も吸血鬼になってからも人の多いところは苦手だと独り言ちる。
血の様な赤いワインを煽りながら、瞬く星を見上げた。
「お前も怪我人か」
テラスの欄干に佇むラビを見つけて声を掛ける。その小さな身に似合わぬ怪我をしていたからだ。
「ガキなんだから……先走って無茶するなよ?」
「あ、えっと。ありがと、です」
到るところに見える包帯と傷跡。医者であったレイチェルには気になるのだろう。
「貴方も……」
「ああ、俺も。そうだな、同じ怪我人だな」
医者の不衛生状態だと笑うレイチェルにラビは首を振った。
「皆を守った証、です。だから――」
続く言葉は瑠璃の星空に瞬いて。
「……やっと……終わったんだよね……僕たちが……終わらせたんだよね」
小さく呟かれたグレイルの声は同じくテラスに出ていたレイヴンにも聞こえた。
グレイルの空色の髪を風が攫っていく。
「……サーカスは退けた」
その言葉と共に長く息を吐いたレイヴンはグラスを傾けグレイルと共に鳴らす。
今までの道筋を反芻しながらグレイルが実感が沸かないと目を伏せた。
目が覚めて夢だと言われても驚かないだろう。
それほどまでに怒涛の如く歯車が回転しているから。
「これが、始まりの火種なのかもしれない」
「まだ……続くんだね」
されど今は。勝利の余韻に夜空を見上げるのだ。
「一先ず、これで一つ終わったか」
「これで少しはゆっくりできるかな?」
ラデリの声にティアが応えて。神様も祝杯を楽しめとティアを励ます。
浮遊している少女の隣にはアルプス・ローダーの姿もあった。
「幻想に入ってくる前から噂になっていた者共だ。他の国でも、同様の事を起こしていたのだろうな。」
ラデリは呟きながら狂気に染まる前のサーカスに想いを馳せる。
そこには笑顔が溢れ、夢の色彩が広がっているであろう光景。
「だからこそ、俺は原罪の呼び声を許せないのだ」
全ての声を潰すと誓いを立てるラデリにティアも頷く。
火酒を転がしながら、死神の天使として死にゆく魂を看取ると決意を新たにしたティア。
「今は、この地を守れた事を。勝利を祝いましょうか」
アルプス・ローダーが小さくグラスを掲げれば、二人も合わせて鳴らす。
「しかし、マルゴーさんも中々のやり手でしたね、こんなやり方をされたら名前を覚えざるを得ませんね」
くすくすと笑いながら、彼の悪癖の咳払いとギラついた表情を思い浮かべるアルプス・ローダー。
「そうだな」
つられてラデリも笑みを零した。
元居た世界とは違う星々の瞬きに、綺麗だとフォログラフィの少女はマゼンタの瞳を細める。
一人テラスで星を眺めるミスティカはガーネットの瞳を上げた。
星の煌めきは優しく地上を照らし、戦場で散って行った魂を弔うようで。
ミスティカは手を伸ばす。遠く揺らめく星に手を伸ばす。
勝利の余韻を共に出来なかった者たちへ、せめてもの祈りを捧げるのだ。
在るべき場所へたどり着くように。そして世界の運命を見届けて。
星の道標を辿ってたどり着いた未来を見据え――
「次はどんな英雄譚が、この世界で綴られるのかしら」
「よぉ、お前もお疲れさん」
ウィリアムは、ぽてぽてと歩いてきたラビに手を上げた。
「お疲れ、です」
無表情から少し和らいだ微笑みを少年に向ける幼女。
「この戦い。お前は、どうだった?」
初めて体感する、大きな戦い。誰かと言葉を交わしたくて。
少し後悔が残る気持ちに星空を見上げるウィリアム。
もっと何か出来たのではないか。そう、思わずにはいられない。
「でも、チームの皆さんもきっと感謝してた、です」
報告書や伝聞によって齎された情報を思い出しラビは頷いた。
迷惑だったなんてそんな一文一つたりとて無い。お互いを助け合った。そう記されていたから。
けれど、もし後悔があるのなら、次の戦いで何が出来るのか。
「一緒に考えましょう、か」
賑やかな会場からテラスへ出たセレネはラピスラズリの瞳に夜空を写し込んだ。
戦いの余韻はまだ少女の中に渦巻いているのだろう。
相方の背を飛び、その小さな手で魔種に剣を突き立てた。
感触は未だ拭えず。残響は木霊する。
ふと、月明かりを遮る影。
視線を上げると遊色に揺らめくドラゴンの姿があった。
「……グルルル」
「こんばんは、あなたも星を?」
セレネと名乗った少女の隣に降り立った神々しいまでの竜は器用に尻尾で文字を連ねる。
「アルペストゥス……素敵な名前、アル、ですね!」
「グゥ」
少女の匂いを覚えるため顔を近づけ、頬擦りをするドラゴン。
くすぐったさに笑顔を浮かべるセレネ。
「今だけ、少しだけこうしていてもいいですか?」
包帯を巻き終えたセレネはアルペストゥスに寄りかかる。
それが悪で、そう決めた事とはいえ、他人の命を奪う罪を無かったことには出来ない。
その恐怖心を幼い少女はまだ漠然とした不安としてしか認識できていない。
けれど、隣のアルペストゥスに寄り添えば、少しだけ落ち着くから。
視界いっぱいに広がるラピスラズリの星空を眺めるのだ――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
休息と共に日常へと戻っていく前。戦いの余韻をお届けしました。
ご参加ありがとうございました。
もみじでした。
GMコメント
もみじです。決戦お疲れ様でした。
イレギュラーズの勝利です! おめでとうございます!
今は勝利の余韻に酔いしれましょう。
●目的
祝賀会を楽しむ。
●ロケーション
勝利の夜。星空が綺麗です。
王都メフ・メフィートの一角。マルゴー家の大きな邸宅です。
邸宅は灯りがつけられ、テラスも開放されています。
●出来る事
適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。
【A】美味しいお食事
エールにカクテル、フレッシュなジュースに美味しいお肉。サラダやデザートもあります。
ワイルドなステーキやフライドポテトなど、お酒のおつまみにピッタリのラインナップです。
未成年にはジュースが提供されます。
祝杯を交わしましょう。
【B】星空を見上げて
テラスからゆったりと見上げる夜空には幾千もの星が瞬いています。
【C】
その他
ありそうなものがあります。
●プレイング書式例
強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
一行目:出来る事から【A】~【C】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由
例:
【A】
【モリモリ】
たべるぞー
●NPC
絡まれた分程度しか描写されません。
呼ばれれば何処にでも居ます。
・『Vanity』ラビ(p3n000027)
名誉の負傷中。皆で無事に帰って来て一安心と思っています。表情は分かりづらい。
・『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
元気。とても楽しげです。いつもよりテンションが高いです。
●諸注意
描写量は控えます。
行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
未成年の飲酒喫煙は出来ません。
Tweet