シナリオ詳細
<フルメタルバトルロア>ザーバインパクト
オープニング
●塊鬼将は突然に
ある晴れた日の都市郊外。
盛者必衰の理を体現したかのような古代遺跡街に隣接するかたちで停泊していた移動要塞ギアバジリカに。
「来たぞ、ヴェルス」
武装満載の装甲車数台と完全武装のエリート鋼鉄兵の軍団を引き連れて。
装甲車の上に立ち上がり、斧とモーニングハンマーをそれぞれ両手にぶらさげた巨躯の男――ザーバ。
「さあてまずは、軍閥の面々からだ」
鋼鉄最強こと前皇帝を倒せるとまでいわれた男。
軍神にして守護神、『塊鬼将』ザーバ・ザンザが、前触れもなく現れた。
理由は一つだ。
鋼鉄男子は生まれる前から決まっている。
「お前がブランド前皇帝を殺したのかどうか……その事実は、もはやどうでも良い。
『誰が』『どこで』『どうやって』――すべて、どうでも良い。
ブランドが最強でなくなった。ただそれだけのこと、だのう」
ハンマーを肩にかけ、装甲車から伸びたマイクを口元へあてて語る。
拡声器によって、彼の言葉はギアバジリカ全体へと浴びせられた。
「まずは確かめさせてもらおう、ヴェルス。お前が、将たる……いや、皇たる器か否か」
掲げた斧。
意味は一つだ。
「『喧嘩』をしよう。お前の軍と、俺の軍。ぶつけあわせて戦おう。
お前が卑劣に逃げ回るだけの男ならば、俺がここでかっちりと潰してやる。
お前が他人にもてはやされるだけの男ならば、俺が全員さっぱりとなぎ払ってやる。
そしてお前が、良き兵をもつ誠の将なら――その時は、改めて正しく戦おう」
俺はここだ。嘘偽りも、逃げも隠れもしない。彼の肉体がそう言っていた。
両腕を広げて見せ、ザーバは歯を見せて笑う。
「将は兵を見ればわかる。さあ、戦おう。そのほうが千の言葉より、ずっと明快だのう」
●襲来と迎撃、そして――
『塊鬼将』ザーバが南部戦線においてアーベントロート軍との一時的休戦協定を結んだというニュースは、少なくとも彼を知る人物たちに驚き……いや驚愕と混乱をもたらした。
軍人として極めて誠実であり、中央つまりは皇帝から与えられた『正面突撃をもってして幻想を侵略せよ』というオーダーを忠実に守り、そのうえで成果を出し続ける人間。それがザーバだ。
前皇帝が倒されたからといって、『やめよ』と言われるまで笑って突撃し続けるのが彼だ。
そんな彼が、わざわざ『お話し合い』をしてまで兵力を残し、しかもそれを戦線から離れさせたという事態に誰もが驚き、そして次なる行動を予測できなかった。
それはヴェルスや、その軍閥に属するヴァルフォロメイ大司教やショッケン将軍も同様。
こうして『不意を突いて』『軍勢を引き連れ』『敵の真正面に現れる』などという冗談のようなことが、実現してしまったのである。
軍勢に加わっているのもそうそうたるメンバーだった。
鋼鉄軍学校の中から最強の座を力でもぎ取った学兵リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガーは配下とした専門学兵たちの先頭にたち、今にも戦いを始めそうな雰囲気だ。
「総員、戦闘体勢! ゼシュテリオンの特異運命座標(イレギュラーズ)が如何なるものか、試すのデス!」
「……了解……私の相手は誰だ」
大空に白い雲の線を引いて駆け抜けるルクト・ナードは飛行形態から変形し、ターンをかけて仲間の横へホバリング。いつでも戦えるようにとミサイルポッドと機関銃を展開した。
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ――通称シュピーゲルも随伴させていた運搬車両から専用武装DexM001/AdX-2『キスツス・アルビドゥス』を高速装着。飛行形態を取りゆっくりと浮上した。
「南部戦線が止まったから、暇になったと思ったけど……」
「いつもと違う戦闘はいつもと違う経験を得られる。悪くないよね」
その隣では八十八式重火砲型機動魔法少女オニキス・ハートが変身シークエンスを開始。ライフル型マジカルステッキを天に向けてトリガーオンすると、どこから後もなく現れたミニ戦車型ドローンが分離変形、装着され、ライフルもまた8.8cm大口径魔力砲マジカルアハトアハトへと変形した。
そのずっと後方より改造魔道バイクのエンジン音を唸らせてやってきたのはアイリス型魔導機巧人形11號(Machine Doll Type:iris No.11)ラムダ・アイリスであった。
バイクのブレーキをかけ後輪をスライドさせると、ヘルメットを外しゆるやかに首を振る。流れる髪が肩にかかり、つややかに外はねした。
「オーケー、ボクも準備できたよ。えっと殲滅……じゃなくて実力を試すのが目的だったよね?」
「今日は顔見せ程度で済むと思ったッスけどねえ。ま、やるなら付き合いますよ。命令ですし」
イルミナ・ガードルーンは赤い軍服に手をかけ、一瞬でそれを脱ぎ捨てると高機動なバトルボディを露わにした。各部が青く発光し、彼女の身体をふわりと地面から浮きあがらせる。
「――」
ザザ――というノイズ音に紛れるように現れた電子砂嵐の中から冬越 弾正が現れ、専用武術兵装『古天明平蜘蛛』にメモリースティックを差し込んだ。接続されたデータによって隠密モードから戦闘モードへシフト。赤い鎖鎌のようなエネルギーウェポンが展開する。
「うむっ! 弾正殿もやる気のようである! 我輩もやるのである! 伝承軍相手にならしたこの腕、とくと味わうのである!」
巨躯と優しい顔立ちのローガン・ジョージ・アリスは座った姿勢からゆっくりと立ち上がり、戦闘の準備は万端だとばかりに鋼の拳を打ち鳴らした。
彼らこそが鋼鉄国が誇る南部戦線特別部隊。伝承王国を侵略せんと配備された選りすぐりのチェスピースたちである。
「退くべきだ! シャドーレギオンたちを倒し仲間に引き入れてきたとはいえ、軍閥の規模もまだ小さい。あのザーバ殿の軍勢にかなうはずがない! 今出撃できる人員とて限られているのですぞ!」
顔を真っ赤にしてギアバジリカ中央デッキのテーブルを叩くショッケン。ヴァルフォロメイは顔を左右非対称に歪めて首を振った。
「なにを言っとる。あのザーバが真正面に現れたんだぞ? 仮に全力で逃げたとしても平気な顔して回り込むわい」
「ぐぬう……!」
何も言い返せないという様子で歯がみするショッケン。
「ま、乗るしかないだろ。要求を呑んで、応える。指し手を考えられるのはそのあとだぜ?」
チェスの駒を動かすようなジェスチャーをしてみせるヴェルスに、ショッケンは肩をおとした。
「どうなさるというのです……」
「そりゃあお前さん、ザーバの言うとおりにしてやるのよ」
ヴァルフォロメイが、どこかザーバと似たような顔でニカッと笑った。
「将は兵を見ればわかる。こっちから今出せる中でもこれぞという兵を繰り出して、連中にぶつけるまで」
「――」
「なあに、心配するな」
言い返そうとしたショッケンに、ヴァルフォロメイは手をかざして止めた。
「イレギュラーズたちがいる。戦えば、ザーバも分かるだろう。あいつの言うところの、卑劣漢でも臆病者でもないとな」
だろう? とヴェルスに顔を向ける。
ヴェルスはハンサムに笑い、椅子に深く背をもたれさせた。
「確かに、あいつはそういう男だな」
この戦いに、ヴェルスの出番はない。
ショッケンにもヴァルフォロメイにも。
託されているのは、あなただ。
――イレギュラーズなのだ。
●修羅
鋼鉄北東部に広がるヴィーザル地方。鋼鉄国の侵略に反旗を翻したノーザンキングス連合王国である。
凍てつく峡湾を統べる獰猛な戦闘民族ノルダイン。
雷神の末裔を称する誇り高き高地部族ハイエスタ。
永久氷樹と共に生きる英知の獣人族シルヴァンス。
彼らにとって皇帝殺害事件はただの最強トーナメントではない。
もし『次なる最強』が自分たちの中から現れれば、鋼鉄国の侵略に抵抗するどころか、鋼鉄国そのものが手に入るかもしれないからだ。そうでなくとも、勢力を拡大するチャンスでもある。
そんな彼らが――ザーバ進撃の混乱に乗じる形で、ゼシュテリオン軍閥に属する停泊地の一つを襲撃していた。
「ひゃっはー! 暴力はすべてを解決する!」
巨大なストーンハンマーをぶん回し、建物を粉砕する女子高生。
伝説の石槌ネアンデルタールを引き抜いたことで戦士と認められた蛮族戦士、長谷部 朋子である。
そんな彼女に浴びせられる激しい弾幕。
しかし間に割り込んだもう一人の蛮族戦士リズリー・クレイグが剛剣で弾をたたき落とし、ギッと歯を見せ獰猛に笑った。
「さあ――あたしの名前を覚えて逝きな!」
リズリーは武装をすべてエネルギーにして取り込むと、恐ろしい獣と化し兵達をなぎ払っていった。
「片足は墓穴にありて、われは立つ!」
そんな彼女たちに続く形で、白い軍服を纏ったウサーシャが突撃。腰におびた大鋏型の剣を抜いた。湧き上がるエネルギーが彼女を包み込み、彼女の周りをウサギ型の精霊がぴょんぴょんと飛び始める。
シャキンと鋏を鳴らしたことでおきた魔法が、兵達を次々に切り裂いていく。
「…………」
その様子を、鋼鉄陸軍南部戦線特別部隊所属エッダ・フロールリジ大佐は黙って見つめていた。
エッダを見つけた兵士が駆け寄り、略式の敬礼をして声をかける。
「大佐、大佐ではありませんか! ノーザンキングスの連中が攻め込んできたのです! どうかご助力を頼――」
言葉の途中で、エッダの繰り出す鋼鉄の手が兵の喉を掴んだ。小柄とは言え、彼女に盛り上げられては脚がつかない。その手をほどこうと必至に掴み、もがく兵士。
「あなたは確か……ヴェルス派の軍人でありますね」
答えられない相手の喉を、そのまま握りつぶす。
「あなたは、ザーバ殿の障害となる。障害は、消さなくては。無粋な者が王になるなど、許されません」
パチンと指を鳴らすと、姿を隠していたフロールリジ騎士団が現れ、現地の兵へと襲いかかる。
「ったく、派閥争いの裏工作なんざ、ガラじゃあねェんだが……ま、お仕事なんでな」
冗談めかして笑い、額にかけていたゴーグルをおろすカイト。パワードスーツのギアをバトルモードに入れると、特殊兵装である巨大なアームを両手にはめ込んだ。
ブンと振っただけで内部で生成された魔法が発動、周囲に氷の柱を作り出し周囲の兵を凍り付かせた。
『ザーバ派の軍人がノーザンキングスと内通』……この事実に気付いた新米兵士はこのことを伝えるため、バイクにのり一目散に逃げ出したのだった。
●ザーバ軍閥潜入計画『operation troy』
ザーバ軍閥との戦いがおこるそのさなか。人知れず動き出す計画がある。
ギアバジリカ作戦室に、ミミサキ(p3x009818)とダリウス(p3x007978)、ほか数名が集められていた。
彼彼女たちの外見に統一性はなく、そしてアバターとしての能力にもまた統一性は少ないが……。
「皆に集まって貰ったのは、今回の戦況を大きく『裏側から』動かすための計画に参加して貰うためなんだ」
語ったのはROO内に最近アバターを作ったというカルネであった。
そして、『裏側から』というワードに、ミミサキとダリウスはそれぞれぴくりと反応した。
彼女たちの共通点。それは、どちらも元はスパイとして社会に潜伏し、情報の取得や工作、時には人の命を奪うことすらしていた人間たちであるということ。
そのセンス、ないしは適性を見込んでのこれは暗黙の依頼であった。
「このネクスト世界鋼鉄国では皇帝殺害が最もホットな話題になってるのは、知ってるよね。
鋼鉄民の考え方はシンプルで、『皇帝を倒したならそいつが皇帝でOK』なんだ。殺害の善し悪しとか、その手段とか、真実とかについては多くの人がどうでもいいと思ってる。
重要なのは、『殺害した人間を倒したら今度はそいつが皇帝になれる』って考え方なんだ」
ヴェルスに皇帝殺害容疑がかけられた今、次なる皇帝を目指す人間たちはそのヴェルスこそを目標にして襲撃を仕掛けてくるだろう。前皇帝がそうであったように。
だがそんな中でも、次期皇帝争いから身を引いていたのがザーバだった。
皇帝殺害が可能と言われるほどの強者でありながら、彼は南部戦線の指揮に専念していた。今までも、そしてこれからもそうだ……と、思われていたのだが。
「そんなザーバが直接動いて、ゼシュテリオン軍閥に勝負を挑んできた。どころか、その混乱に乗じるような形でヴェルス派のギアバジリカ停泊地を襲撃してる。
それも、ノーザンキングスの兵力を使ってね」
ミミサキたちは『まさかそこに混ざって棺で飛んでいけと?』という顔をしかけたが、カルネは懐から一枚の地図と数枚の身分証カードを取り出し、テーブルに置いた。
「君たちには、ザーバ軍閥の拠点である『ギアブルグ』へ潜入して、彼らの狙いや戦力を調査してほしい。
僕たちにとって、現状は分からないことだらけだ。
なぜザーバが時期皇帝争いに参加するような動きをしたのか。帝国の敵である筈のノーザンキングスとの内通は誰のさしがねなのか。
もし戦うことになったら、どんな装備と軍勢を用意するつもりなのか」
何も分からないまま戦うには、ザーバは戦況を『読み』すぎる。
これまであわよくばこちらを支配してしまおうと狙うアーベントロート派の軍勢を退け、侵略できないまでも長年拮抗し続けるだけの知性を備えたザーバに、ただ拳を振り上げて走って行くのは不安過ぎるのだ。
「おそらく、相手もこちらの出方や戦力を『調べる』段階だと思う。その間にこちらもどれだけ調べられるか……それが、今後の勝負を分ける鍵になる筈なんだ。
みんな、頼んだよ」
- <フルメタルバトルロア>ザーバインパクト完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月31日 22時15分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●二つの魂、或いは、テセウスの船
高い塔。強く吹く風が『冒険者』イルミナ(p3x001475)のジャケットとくせっ毛をなびかせる。
不思議と頑丈な石が組み合わさってできた塔の頂上にて、斬馬刀を突き立てた柄頭に両手を重ねるようにして置く。
フィン、という風を奇妙に切り裂いた音をたてて頂上まで上昇してきた人型ロボットと目があう。青く澄んだ瞳は、よくみればカメラのレンズのようで、小刻みにレンズを調節しているのがわかる。
「イルミナの相手はあなたッスか? 名前を……聞くのは、実力を見てからッスね。殺しちゃったらごめんなさいッス」
空中で身を丸め、上下反転し仰向けに壁を蹴るかのような姿勢をとるROOイルミナ。
その瞬間、彼女の姿が五つに分裂した。
「――っとお!?」
飛び退……かない。背後に高速移動で回り込んできたROOイルミナの分身と、真正面から迫った分身。その両方を相手取るべく握った斬馬刀での回転斬りを繰り出す。
イルミナの斬撃によって分身のうち二つがかき消え、その瞬間にイルミナの両耳をそっと手が包んだ。真上にて上下反転したROOイルミナが手を伸ばし、イルミナの首をがしりと両手でつかみ取っていた。
歯を食いしばる。剣を手放し相手の両手を掴み、逆上がりのような動きで膝を上げROOイルミナを蹴り飛ばした。
「おお、やるッスねえ」
「もうちょっとやる気出せよなー! 命令だぜ命令!」
ROOイルミナは直撃をうけた顔面をぬぐい、わずかに距離をとる。
「名前、聞いてもいいッスか?」
「……イルミナ」
「偶然っすね?」
ROOイルミナは可愛らしく小首をかしげた。
そんな彼女たちのはるか頭上、天空にて。
鋼鉄の鎧に身を包んだ騎士とローブに身を包んだ魔術師が幾度となくぶつかり合う。
奇妙な形状をした杖の先端にエネルギーブレードを作り出した『陰』ジャック翁(p3x001649)と、赤熱を放つ『禍津太刀』を振るうシュピーゲル。二人の刃が激突し、激しい火花を散らしつばぜり合いとなった。
背部のメインウィングを広げ、スラスターから噴射を始めるシュピーゲル。
そのあまりのパワーにおされるも、ジャック翁はゴーグル場の仮面の下で表情を動かさなかった。
(当方が分かるかシュピーゲルII。
当方は影、当方は闇…其方の目が背けし者。
ジャイアントキリングを称するそのカラクリ人形。
当方が剣一振にて解放しよう)
杖の先にうまれた剣が勢いを増し、シュピーゲルを振り払う。
「其方は何がために戦う。
キスツス・アルビドゥスの名を掲げ――。
明日の死を願う者か?
それとも今日を生きる覚悟を示す者か?」
シュピーゲルを包む鎧の下で、少女の瞳がすぅっと細くなった。
「どっちでもない」
『閃光』を突きつけ、フルオート射撃。
ねじるようなマニューバで回避と防御にかかるジャック翁に対して、ジグザグな飛行で追いかけるシュピーゲル。
「シュピが示すのは――未来」
スラスター噴射。すさまじい速度へ加速しさらに逆噴射ブレーキをかけると、ジャック翁の眼前へと回り込んで反転。『閃光』を突きつけた。
小さく、ジャック翁の口元が緩んだ。
「それが見いだしたものか、我が幻影」
はるか下。大地に立つROO側のラムダ・アイリス。
機械の翼を広げ、そして身構えた。
「んー……君、生半可な挑みかたしたら壊されそうだね」
「そっちこそ」
『汎用人型機動兵器』Λ(p3x008609)は初手から機動魔導甲冑『黒麒』を変形装着。
エネルギーエッジを生成した剣を両手に展開すると、スゥっと姿勢を低く取った。
同じ姿勢をとって、激しくうなりを上げるROOラムダ。喉からあげるうなりではない。機械の体の内側から漏れる炉のうなりだ。服に隠した廃熱スリットから蒸気を放つと――。
「ゼシュテリオン軍が一人、Λ……推して参る」
「ザーバ軍閥が一人、ラムダ・アイリス。推して参るってね!」
ギラリと右手に握ったナイフを振るった。
「――『群霊慟哭縛』ッ」
距離を開いた一撃。セットされた精神反応攻撃術式が発動しラムダを襲う――が、ラムダはそれを真正面から突破し、組み合わせた剣から魔導砲を発射。
それをROOラムダはナイフで切り裂くようにして強制防御。
その真上を飛び越えていくのはROOオニキス・ハート。
完全武装状態のオニキスはマジカル多目的高速徹甲誘導弾を発射。度重なる爆発の中を、『鉄騎魔装』鬼丸(p3x008639)は転がるように交わし、そして機脚皇瑪駕推進器(レッグオメガスラスター)によって飛行。バレルロールをかけながらオニキスの真下をとった。
「火力勝負だよ。チャージ完了。皇瑪駕閃光砲、発射!」
スラスターを一時きると、肩に担ぐように移動したパーツからビームを発射。
オニキスは直撃をうける――が、彼女のマジカルアハトアハトの銃口は鬼丸にぴったりと据えられていた。
「火力勝負は望むところ――8.8cm大口径魔力砲マジカル☆アハトアハト、発射(フォイア)!」
同じく直撃をうけ、鬼丸は地面を滑った。
破壊されたパーツがばちばちとスパークをおこす。
同じように装備を破壊されたオニキスが立ち上がり、首を振る。
「鬼丸。あなたの使命はなに? ゼシュテリオン軍閥はただの自己防衛部隊のはず。
力を持たない人達を守ることが、その立場でできるの?」
「…………」
かぶとの下でめをほそめる鬼丸。
「そう言う、あなたの使命は」
「決まってる」
立ち上がり、パーツのいくつかをパージしてライトモードへと変化した。
「鋼鉄国の、戦う力を持たない人達を守ること」
「ザーバの侵略部隊でそれがかなうの?」
今度はオニキスが目を細めるばんだった。
けれど、ブレはしない。
「かなうし、掴むよ。必ず」
「そう……」
形だけじゃない。彼女も、きっと私なんだ。
鬼丸は立ち上がり、手を差し出した。その手を握るオニキス。
「いい戦いだった。次に会うときは、味方だといいね」
『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)と『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)は二人並んで建物の屋根に立ち、あちこちで起こっている戦いの様子を眺めていた。
「さて、拙者たちの相手は誰でしょうね? ヴァレ家」
「わかりません、マリ家。見える中にはいないようですが……」
ため息をつこうと胸に息を吸い込んだ――その時、ピリリとヴァレ家の脳裏になにかが走った。
メリ家を抱え、その場から休息に飛び退く。
直後、彼女たちの立っていた建物が落雷によって破壊された。屋根から床にかけて巨大な剣でも貫いたかのように穴があき、大地からはじけた衝撃によって壁も屋根も放射状に吹き飛んでいく。
その中央に片膝と拳をつく姿勢で残っていたのは……。
「おっと……急ぎ過ぎちゃったかな。まずは、名乗っておかないとね」
ゆっくりと立ち上がる彼女は赤い雷に包まれていた。
あまりに膨大なエネルギーゆえに周囲の粉塵が舞い上がり、余った電流が吼える虎のような姿を形作った。
「ザーバ軍閥所属、南方戦線部隊特務少佐。マリア・レイシス。戦線に私が出る以上、破壊は免れないよ」
長い髪を払うと、それだけで周囲に衝撃がはしりあたりがクレーター状にえぐれた。
彼女の瞳に浮かぶまっすぐな芯は、すべてを捨てて力を求め続けた者の光を宿していた。孤高な、誰も触れられない光。
マリ家はぎゅっと拳を握ると、ツインタイガーバルカンを展開、変形させるとタイガーソウルをインストールさせた。
「ヴァレ家!」
「分かってますよ。マリア……レイシス殿? その命は取らないでおいてあげましょう。略奪王ヴァレ家は、人の命はとらないのですよ!」
マリ家の砲撃。バルカン砲による破壊の嵐がマリアを襲う。と同時にヴァレ家が宇宙100トンハンマーを背中から引っ張り出して突撃した。
スイング――直撃。そして粉砕。
一撃必殺のコンビネーションアタックは、しかし。
ヴァレ家とマリ家の後ろに瞬間移動してきたマリアの手刀によって終わった。
戦闘時間およそ5秒。
マリアは二人を背後からの手刀によって気絶させてしまった。
これで終わりだろうかとため息をつくマリア。が、吸い込んだ息を吐き出そうとしたその時、違和感にぶるりと震えた。
ギラリと目を光らせたヴァレ家の伸ばした鎖がマリアの脚や腕に絡みつき、マリ家の電磁加速串(とらぼるぐ)・マリ屋がマリアの胸を貫いた。
流石によけることはできない。今度こそ仕留めた……と思った時には、彼女たちから100m離れた建物の屋根にマリアが立っていた。肩をすくめ首をかしげる。
「なんだろう、君たちを見てると……変な気持ちになるよ。
勝負は預けておくね。ザーバ君には『夢見シスターズは強かった』と伝えておくよ」
それじゃあ、と背を向けて手を振ると、マリアは空高くへと飛び立ち消えてしまった。
軍服を纏った『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)。
彼の抜き放つレイピアには魔法の微光が尾を引き、振った軌跡にもやのような光を残した。
翼のように伸びた無数の光がより広く展開し、カーブを描き、眼前に姿を見せたROO冬越 弾正へと狙いを定める。
「――」
ROO弾正は生み出したエネルギーウェポンの鎌を振り込むと、ツルギと自らを囲む半球状のドーム型にエネルギーの鎖を展開。まるで鳥籠に包むように固定した。
「退路を塞いだつもりかね?」
ゆらりと現れる『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)。
対して、ROO弾正の後ろからゆらりとアーマデル・アル・アマルが現れた。
黒いローブに身を包んだアーマデルはその下から蛇銃剣を取り出し、金色のコインを束ねた専用マガジンを装填する。
「逆だ。被害がよそに及ぶのも無粋だからな……と、弾正は言ってる」
「――」
「タッグマッチなら構わないとも。ああ、それと……」
弾正がザザッというアナログテレビにはしるような砂嵐音声を放つと、アーマデルが顔をしかめた。
「分かってる。外見に惑わされたりはしない。戦いやすいとは思わないが……」
アーマデルの視線はイズルに向けられていた。イズルはどこか気まずそうにほほをかく。
ツルギが首をかしげるが、弾正はなにも細くせずに鎖鎌をかまえた。
「――」
「そう、まずはこちらから仕掛けさせて貰う。よけてみろ」
言うが早いかアーマデルは蛇鞭剣ダナブトゥバンを展開。鎖は複雑怪奇に延長され、フィールド一体を複雑に飛び回るとチェーンソーのように刃をはしらせた。
こちらに当てては来ない。が、次々と退路が塞がれている。今度こそ『退路を塞ぐ』ための鎖というわけだ。
そこへアーマデルが蛇銃剣アルファルドによるショットガンバーストを開始。岩に刺さるほどの破壊力で放たれたコインが踊るように飛び散り、その中をイズルは飛び退きながら『雫の輝き』を発動。防御はあえてしない。ツルギの攻撃にすべてを任せ、支援に集中した。
「歌え。本気で響き合わなければ己を越えたと誇れない。
貴方の歌と俺の言霊、残るのはより強い音ではありません。背負うものの重さを剣に重ねて刺し穿つ!」
ツルギは目を見開き突進。身を切り裂く鎖を無視して走る彼のかわりに羽根状の光が鎖と体の間に割り込んで防御していく。
が、そのスキマを直接打ち抜くように弾正の赤いエネルギークナイが滑り込んだ。刺さったのは一瞬。だがその瞬間に激しい爆発がツルギを襲った。
だが、それでも止まらない。
「この声も、この剣も――愛だァアアアーーッ!!」
突き込まれた強烈な剣が、弾正へと迫る。
弾正は咄嗟にメモリースティックを差し替えることで防御フォームへ転換。巨大なエネルギーシールドでツルギの剣を受け止めた。
崩壊した城壁の内側。
元は厳めしい砦があったであろう場所はひどく寂しい土と石の凹凸になっていた。
その中央に、黒き魔法の鎧に身を包んだROOセララが立っていた。
「ボクは鋼鉄の魔法騎士セララ! ボクの相手はキミだね、妖精さん!」
対するは『妖精勇者』セララ(p3x000273)。チョコレート歌詞の剣を握って突きつける。
「そういうこと! ボクが戦うのは世界を、そして皆を守るため! ボクはこの剣に想いを込めるよ!」
「それはボクも一緒。嘘かほんとかは、その剣に聞くだけ。ってわけで、バトル開始なのだ!」
パッとセララが手をかざすと、まるで漫画が次回にむけてあおりを入れるかのようにテロップが空中に生まれ、集中効果線が走った。
その隣ではローガン・ジョージ・アリスが仁王立ちしている。
退治する『めっちゃだんでぃ』じょーじ(p3x005181)。
「相互理解は是非話し合いでと行きたいが、君達の流儀に乗らせてもらおうか!」
「うむ、その意気や良しである!」
ローガンは拳を突きつけるような姿勢をとった。
「我輩はローガン・ジョージ・アリス! 特技は後方支援! 南部戦線のローガンママとは我輩のことである!」
(あ、ちょっと私っぽい!)
そのまた隣で独特なファイティングポーズをとる日車・迅。
「僕は日車。出身は鳳圏。よろしくお願いします!」
「おぉ……」
こっちはまんま自分だなと思って『ケモ竜』焔迅(p3x007500)はあんぐりと口を開けた。
「先日は上官殿がお世話になったと聞きました。が、今は戦う相手どうし。手加減抜きで行きましょう!」
「おぉ……」
いかにも言いそうなことを言われて、焔迅はちょっと新鮮な感覚にとらわれた。
翼をひろげ、グルルと牙をむき出しにして唸る。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
ダンッ、と大地を蹴って飛び出すROO迅と焔迅。
両者の距離はたったの一秒足らずで埋まり、焔迅の牙が迅を襲う。腕を直接噛ませ、迅は硬化の気を流し込んで防御。咄嗟には離せない焔迅の横っ面めがけて拳をたたき込む。
完璧に気の乗った拳は焔迅の頭蓋を駆け抜け脳を激しく揺らすが、意識をなんとかつなぎ止めて至近距離からドラゴンブレスを放った。激しい炎が迅の体を包み込む。
その横を駆け抜けるのはじょーじ。
両手を開いてまるで柔道家のように構えるローガンめがけ走ると、指を鳴らして自らに煌めきを纏わせた。
「ウェイクアップ――ダンディ!」
拳に集まったダンディズムな光がローガンめがけ繰り出され、ローガンはそれをクロスアームで防御。連続パンチがローガンを襲うが、ローガンの体幹は一切揺らぐことはない。
まるで巨岩を殴っているような気分だ。
「心のこもったいい拳である。では――」
防御の裏で、ローガンの顔つきが変わった。優しげな青年の顔から、巌のような戦士の顔に。
「こちらの番であるッ!」
がしりと掴むじょーじの腕。ついで繰り出された拳はローガンの腹に直撃し、そのまま振り上げはるか天空へと跳ね上げた。
「……やりすぎたである」
空を見上げるローガン。その横では、セララとROOセララがぶつかり合っていた。
「いくよっ、セララレインボースラッシュ!」
虹のエフェクトをひいて繰り出されたROOセララの連続剣。
お菓子の盾でギリギリうけきるセララ。妖精のセララに剣を当てるのみならず、防御を間違えば致命傷になるような的確な連撃だ。万事即応。さすがはセララといった所か。
「こっちも負けないよ、ギガセララブレイク!」
繰り出したセララの攻撃がROOセララの剣の下をくぐるように飛び、セララの胸に打ち込まれる――かに見えたが、直前で大きく飛び退いたセララは魔法の盾を呼び出して間に滑り込ませ直撃を防いだ。
形だけじゃない。名前だけじゃない。心のこもった『セララ』という存在を倒すことの難しさに、セララは流れる汗を拭った。
けれど勝つ必要なんかない。
「キミはこの一戦、何のために戦うの?
キミがボクなら分かるでしょ。ボクは何かを守るために戦うときが一番強い。絶対に負けないよ。
ボクが背負うのは鉄鋼の皆の未来!
信じる想いを刃に込めて、全力で振り抜く!」
数々の戦士達が己の技量と力量と、そして覚悟をぶつけ合うなかで。
「いっくよー! りゅかしすー!」
ぴょんと飛び上がり、きりもみ回転した『はやい!』フラッシュドスコイ(p3x000371)は背負ったサメバズーカを乱射。さめーと言いながら発射された複数の概念サメが空を泳ぎリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガーへと殺到した。
「いざ尋常に」
ぐっと拳を握りしめ、大地をうつリュカシス。
それだけで、吹き上がった衝撃と砂塵がサメを飲み込んでいく。すべて迎撃されたようだ――が、フラッシュドスコイは止まらない。自らを砲弾のごとく飛ばすと、リュカシスへとタックルを打ち込んだ。接触と同時に流し込む高圧電流。かざした手のひらで受け止めるリュカシス。
払いのけ、振り返る。
フラッシュドスコイもぽいんとバウンドしてから振り返り……そして、違和感に胸をざわつかせた。
リュカシスは強い。鋼のように頑丈で、ゼシュテル象のように激しく、古代怪獣のように力強かった。だが、『それだけ』に見えた。
ふと振り返る。集まった専門学兵たちの中に、アサルトライフルを担いだジェイビーの姿が、その隣に全く同じ武装のホランドの姿がある。彼らはリュカシスが代表として戦っているというのに、表情はどこか冷たい。
『自分の知ってる』彼らなら、我慢できずに飛び込んできてもおかしくない筈なのに……。
「リュカシス、君は――」
問いかけようとした途端、戦場を包むほどの声がした。
――そこまで!
●『塊鬼将』ザーバ・ザンザ
ダイナミックマイク型の魔道拡声器によって拡大した声は、ギアバジリカが停泊している古代遺跡の全体へと響いた。
ザーバの一声で、すべての戦士は戦いをやめ。距離を取る。
入れ替わるように、ゆっくりと歩を進めるザーバ。
その顔には満足げな笑みが浮かんでいる。
「お前達の戦い、見せて貰った。良い戦士だのう……ヴェルス。良い戦士に恵まれた。
お前が卑怯者であるなら、薄情者であるなら、きっと集まらなかった戦士だろうのう。俺の部隊が、そうであるように」
後ろへさがったROOイルミナやルクトたちを振り返る。
ローガンなどは戦いが終わってほっとした様子すらあったが、皆この戦いに満足しているようだった。
対してじょーじやツルギたちも、全力のぶつかり合いが出来たことに対して、彼らなりに満足げな表情を浮かべている。
「誤解は解けた。見定めも済んだ」
「だが、これだけで帰ったりはしないだろう?」
服のほこりをはらって、じょーじが数歩前へ出る。彼に続いて焔迅やセララ、イルミナやヴァレ家たちも続き。それぞれ遺跡の塀の上に立ったり屋根から飛び降りて並んだりと、彼らなりの戦闘隊形をとりはじめる。
ザーバは歯を見せてニカッと笑った。
「無論。仕掛けた対価は支払っていくとも。さあ」
両手を広げるザーバ。
敵の大将を自由にたたけるこの距離で、『戦って情報を持っていけ』と彼は言っているのだ。
「なら――遠慮無く! 一撃だけ、アタシの全力……受け止めてくれよな!」
斬馬刀を振り上げ、跳躍したイルミナが一番槍を――否、彼女とほぼ同時にセララとジャック翁が別方向から飛翔し、同時に突撃を仕掛けていた。
「ヴェルスは鉄鋼の皆の笑顔を守れる、未来の皇帝なんだ!
だからボクはヴェルスを信じて道を切り拓く! 全力全壊! ギガセララブレイク!」
「いざ、尋常にて勝負」
セララの剣とジャックの剣。そして真正面からのイルミナの剣がすべてザーバに命中した。
一切の回避もなく、両手を広げたその姿勢のまま、彼の肩に、脇腹に、頭頂部にそれぞれ剣が……とめられた。
額の皮で刃をとめたザーバが、剣越しににやりと笑う。
「離れて! 反撃が来る!」
即座に動いたのは鬼丸とラムダ。そしてマリ家&ヴァレ家だった。
鉄騎魔神モードを起動しリアルフォームとなった鬼丸が、ミサイルを三発乱射しながら左腕のドリルアームを発射。
「貫け……螺旋徹甲拳!」
その横でラムダは鎧をバイクモードに変形――し更に固定砲台モードに変形。収束した魔道法をザーバめがけてたたき込む。
それだけで倒せるなどとは思わない。タイガーモードとなったマリ家にライドオンしたヴァレ家が、パスされたトラボルグに自らのエネルギーを注入(インストール)。
「ザーバ殿、拙者は貴方を知っています。少しだけ、知っているつもりです。
だからきっと、これにも深い考えがあるのでしょう。もしかしたら、ここでヴェルス殿を見限って貴方に味方した方が、世界のためになるのかも知れません。
ですが、そんなものはクソ喰らえです! ここには、守りたい人がいるのです。今度こそ失いたくない、祈りがあるのです! それを守るために拙者は戦います! 貴方が何者であっても、どれだけ強くても、一歩たりとも退くつもりはありません!」
「そう――拙者の大切な人が守りたいものがこの背の向こうにあるのです!
ならば退けるはずもない! 退く理由もない! このマリ家! 全身全霊を持って貴方を打倒します!」
背負っているのはギアバジリカ。その中で祈りを捧げているであろうアナスタシアやヴァレーリヤ、そして孤児院の子供達。
ツインハイパータイガーバルカンの乱射と共に走るマリ家。そして浴びせられる必殺の砲撃たちがザーバに集中し、トドメとばかりにヴァレ家による電磁加速串(トラボルグ)が突き刺さる。絶妙にこじ開けた隙をついた一撃。
それは、確かにザーバへと届いていた。
彼の手のひらを、槍が貫いている。
ぐっ、と握り混むザーバ。
振り上げるその力にあらがえず、ヴァレ家は宙を舞った。
「さあて、こちらからも行くか。覚えておけよ、俺の一撃」
ツルギとイズルが全く同時に飛び出し、二人を――そして退避しようとしていたイルミナたちを抱えて飛び退く。展開した防御結界と治癒結界。そしてじょーじがダブルフィンガースナップによって展開したダンディバリアがなければ、彼らは粉みじんと消えていただろう。
なぜなら、彼が斧で大地を叩いたそれだけで、古代遺跡の半分が吹き飛んでしまったのだから。
仲間を庇って翼を広げ、なんとか耐えた焔迅。耐えたと言っても攻撃範囲外にいるにも関わらず衝撃で吹き飛び、同じく後衛チームがどこかにぶつからないように庇ったにすぎないが……。
「な、なんという……」
「この程度できなくて、南部を守れようか。あわよくば鋼鉄を侵略せしめんとする『お嬢ちゃん』相手に……のう」
ザーバの表情は今も尚、歯を見せた笑顔だった。
目からもれでる獰猛な光を除いて。
ギラリとその目がギアバジリカへと向く。
あの移動要塞を、ケーキにフォークでもたてるように簡単に崩してしまいそうな相手の気配に、フラッシュドスコイはぶるりと体をふるわせた。
「将軍殿。この辺で」
――と、そこへ。いつのまにかザーバの後ろに立っていたリュカシスが彼の肩を叩いた。
●己を知るために、或いは、アレグロアジテート
衝突、と呼ぶにはあまりに暴力的だった。
巨大魚アトランディスサーモンに跨がった『サーモンライダー』リゼ(p3x008130)と、巨獣と化したリズリー・クレイグ。全速力で走り、全速力で踏み込み、全速力で額をぶつけ合わせた。
それが、ゼシュテリオン派に属する軍事基地にリゼが到着してまず最初に行ったことである。
「DARK†WISHっての? 変なモンに歪められて攻め”させられてる”ってのがちょっと気に食わないね。
アタシらは戦士。血に狂うだけじゃただの獣さ。そこんとこちゃんとしてんのかどうか、確かめさせて貰おうじゃない」
距離をとってハープーン・ガンを発射するリゼ。リズリーは飛来する鉄の銛をつかみ取り、そして握力でへし折った。
「飛び道具じゃこんなもんか……。ベネディクトッ!」
呼びかけると、竜の翼を広げた。……否、広げたように見えた男が現れた。
彼の纏うグリーンのマントが風になびき、エネルギーの放射が広がると同時に彼は天空へと舞い上がり、眼帯の裏でぎらりと不思議な光を漏らす。
彼の名は『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)。腕に纏わせた竜の力を解放すると、オーラの爪を振り放った。
鋼のような毛皮で防御し、とびのくリズリー。
にらみつける彼女とリゼの間に割り込むように、ベネディクトがゆっくりと降下する。
「俺の名はベネディクト・ファブニル。竜の血と魂をこの身体に継いだファブニルの戦士、いざ──誇りある戦いを!」
「誇り? 下らねえ! そのツラへし折ってやるよ!」
突進をかけるリズリーに、ベネディクトは正面から組み付いた。
「流石に真正面から受け続けてはダメージも大きいな……!」
相手の両手を押さえ込もうとするベネディクト。だがその手はごきりと握りつぶされ、力によって押し込まれていく。ベネディクトは歯を食いしばって耐えるが、リズリーの力は圧倒的だった。
そのまま本当にへし折られてしまうのか――と思われたその時。
「だらあ!」
アトランティスサーモンの突進力をそのまま乗せて跳躍したリゼが、回転からの打ち下ろすようなベアパンチをたたき込む。
「ぶっ壊すしか能がないか? 力をつけた意味すら忘れた? それが天下のリズリー・クレイグか!?」
啖呵を切るリゼから数歩後じさりをして距離をとると、リズリーは獣のようにうなり声を上げた。まるで頭の痛みに耐えるように片手で側頭部を押さえると、よろめいた体を無理矢理たてなおす。
リゼはその様子に目を細めた。
(パンチが効いた? いや、違う……迷ってるんだ。そりゃあそうだよね。強さも力も、意味があって手に入れたものだ。バグで価値が歪んだからって、流れる血と骨は捨てられない)
「なんだ、テメェ……調子が、狂う……!」
憎しみと怒りの目でリゼとベネディクトを睨むと、リズリーはドゥっと跳躍しその場から撤退した。
「待て……っ!」
追いかけようと走り出すベネディクトだが、がくりと地に膝を突いた。
慌てて彼を抱え起こすリゼ。
「すまない……『この世界の君』は恐ろしく強い、な……」
よくみると、ベネディクトの肉体はぼろぼろにくずれていた。リズリーと組み合ったことで彼の全身に激しい破壊の波動が流し込まれていたのだろうか。
「だが、止めなければならない。あの力は、悲しすぎる……」
軍事基地は三階建て。等間隔に並ぶ防弾ガラスの窓からは西日が反射し、どこかギラついた印象を受ける。
そんな建物の前に、数台のパワードスーツが並んでいた。
「フリック試作零号から七号、機動。大佐の命令通りだ、連中を排除しろ」
ずんぐりとしたボディに三つの蒼石を埋めたパワードスーツが、一声にヘルメットのアイカメラ部分を発光させる。
「うーん……」
『仄光せし金爛月花』エイラ(p3x008595)はクラゲ型の笠をあげ、透き通るような人型のボディを形成。黄色く光る両目を開いた。
「これは、よくないねぇ~」
腕を広げ、両手を開く。ぽぽぽと泡のように生まれた海月型の火がパワードスーツ群へと発射され、次々にまとわりついていく。
それを払い落とし、突き出した両手の魔石を赤く発光させると爆破の魔法を発動。エイラの周囲が次々に爆発し、エイラはそれから逃れるべく走りながら自己再生の能力を発動。電流による反撃を行いながら走る。
「逃がすかぁー! はしれゲートリぃ!」
巨大な闘鶏めいたニワトリが爆走し、エイラのさきへと回り込む。その背に乗ったダークネアンデルタール・レディ長谷部 朋子が、原始石斧(ハンマー)を手に飛び上がる。
エイラへの直撃コース――は、全く同系のハンマーによって相殺される。
『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)のスイングによるものだ。
「おー? なんだこいつ! 痴女か? 蛮族かぁ!?」
「おまえが言うかよ」
互いにパワーを打ち込み合って距離をとると、ROO朋子とトモコはにらみ合ったままハンマーを握りこんだ。
「向こう(リアル)で見掛けた面があちこちいやがるからもしかしてとは思ったが、まさかンな情けねザマでご対面とはなぁ」
「なんだと……?」
顔をしかめる朋子に、トモコは両目を見開いて笑うように歯を見せた。
「暴れるのが楽しい、あぁわかるさ。けどよ、あくまでそりゃ手段だろ。
胸糞ワリィことやムカつく奴らを横合いからぶん殴って、気分爽快ぶちのめすから楽しいんだろう?
だってのによくわからねぇ政治劇とやらに巻き込まれて、テメェの望みでもねぇもののために暴れるだなんて、一体いつからそんな情けねぇザマになったんだァ? えぇ、朋子ぉ!」
飛びかかるトモコに、朋子は歯がみしながら迎撃した。
スイングには黒いオーラが宿り、トモコによる渾身の打撃をゆうに上回るパワーを発揮する。
が、それでも。
「――違ぇだろうがよ。どうせ暴れるンなら徹頭徹尾、テメェの欲で暴れやがれ! DARK†WISHなんてワケわかんねぇヤツに振り回されてんじゃねェ!!」
真正面からぶつかったトモコのハンマーが、それをしっかりと止めた。
「自分のことだから何もかもわかる、なんて言うつもりはねぇさ。だがな、少なくともアタシ(おまえ)はいつだって『納得』して暴れてきたぜ!!」
止めて、尚、振り抜く。
ハンマーが朋子の手から離れ、直撃をうけた朋子が基地の壁面に叩きつけられる。
「なんっ……あれ、痛った! 後頭部クソ痛え! なんであたしこんな所で壁にめりこんでんだ!? あっゲートリ! なんだその世紀末みたいなとげとげオプション!」
首を振り頭を押さえる朋子。
トモコはグッと拳を握り、片手でガッツポーズをとった。
「っし、まずは目標達成!」
●operation troy
仲間達がギアバジリカ前や軍事基地内にて戦っている、まさにその時。
「ここですね。とめてください」
大型の蒸気トラックの助手席でそう述べた『普通の』ヨハナ(p3x000638)が、開いた窓から身を乗り出した。
停車した車から見上げると、黒く巨大な城めいた建造物があるのがわかる。
瓦屋根をもつその和風の城は、堀も城壁もなく、ただそこにそびえ立っていた。強いて言うなら半径一キロほどを囲むようにして鉄条網が設置され、警備兵らしき飛行種たちが巡回飛行している程度。
まあ、それこそ日本の城のように堀で囲まれても困る。そんなもの、おそらく秒で突破できるだろう。通行の邪魔になるだけだ。
「だとしたら、なぜこの造りなんでしょうね……」
ヨハナは独自にこの世界に持っていた商人としての地位とコネクションを使い、食品の仕入れを行っていた。といっても、普段から南部戦線に仕入れを行っていた業者に頼み込んで今回だけ便乗させてもらったにすぎない。接触のチャンスは今回きりだろう。
「つーか、伝票にあるのは食品だけだったはずだぞ。こいつはなんの冗談だ」
品物のリストを貼り付けたボード受け取った兵士が、ヨハナのトラックを指さした。厳密には、ウィング式に開いたコンテナに鎮座した『人型戦車』IJ0854(p3x000854)をである。
「うちの搬入重機ですが」
「ずいぶん物騒な見た目の重機だな……」
文句を言いはしたものの……事前に根回しが行われていたのだろうか、兵士はさっさと終わらせてくれよと言って背を向けた。
ちらりとヨハナに視線を向けるIJ0854。二人は頷きあうと、早速積み下ろし作業にかかった。
ヨハナとIJ0854の狙いは、物流の流れからザーバが今後どのような動きを予定しているかを探ること。
情報の流出を警戒してか商人の行き来を制限しているらしく、逆に便を分散させることで情報を隠すということはしていないらしい。こうして潜り込んだのは正解だったようだ。
「私は商機を狙う振りをして需要を探ってきます。そちらは?」
チェックリストを佐藤 美咲(p3z009818)へ手渡すヨハナ。
美咲はリストをぱらぱらとめくってから肩をすくめた。視線をIJ0854へやる。
「私は……」
IJ0854は少し考えてから、周囲の作業員に声をかけるなどして他の商人が運んでいる荷物の内容を調べる旨を答えた。
「あ、じゃあ私も一緒に運んで貰っていいっスか?」
『hanazon』と書かれた段ボール箱から上半真をぱかっと出した『開けてください』ミミサキ(p3x009818)。
A4コピー用紙が3000枚くらい入った程度のちっちゃい箱である。どうやってここに隠れていたのかはためからはサッパリわからないが、どうやら彼女はこうした容器に寄生し隠れる能力があるらしい。
「直接情報を聞き出せなくても、箱さえ運び込めば忍び込めるっス」
「それは便利な能力ですね……」
承知しましたといって、IJ0854は箱を抱え上げた。不自然にならないように他の箱も抱えて後につづく佐藤。
「分かった情報はあとですりあわせるということで」
あとはヨロシクとでもいうように、ミミサキは敬礼ポーズをしながらしゅるんと箱に収まった。蓋がしまる。
ヨハナに混じって潜入したのは彼女たちだけではない。
「三月うさぎてゃんですっ!」
「本物だーーーーーーーーーーーー!!」
「これからも応援よろしくねっ!大好きな私のアリス!」
「あーーーーーーーーーーーーーー!!」
ギアブルグに詰めていたという警備兵のひとりが、目をハート型にして両手をあわせた。
「あっ私有栖川っていいます三月うさぎてゃんのファンであのCD100枚買いました! また買います!」
「えっと……」
変装(?)して潜入していた『ネクストアイドル』三月うさぎてゃん(p3x008551)は、ライブや握手会で見た顔の人物に声をかけ、こっそり正体をあかしお忍びであることを教えるかわりに情報をもらおう、という考えだったのだが。
なんか奇妙に既視感のあるファンにつかまってしまった。世界にはにた人が何人かいるというが……。
「次のライブは鋼鉄国でやるんだ」
「鋼! 鉄! 国!」
「いまってあそこどんな感じ?」
「どんな!」
リアクションが激しすぎて半歩だけ後退した。
自分の激しさを察したのか深呼吸するファンの子。
「私が言うのもなんですけど、今はちょっと危ないと思います。皇帝殺害事件があったじゃないですか、あれでピリピリしてて」
「はー。ぴりぴり……」
三月うさぎてゃんは自分の頬にゆびをあてた。
「それは、前からだよね?」
「そう、なんですけど……」
ちらちら周りを見てから『ナイショですよ?』と小声で言うファンの子に、三月うさぎてゃんはそっと顔を近づけた。
顔を真っ赤にしていう彼女によれば……。
「ザーバが精鋭をつれてヴェルスのゼシュテリオン軍閥と戦いに行った……ねえ」
情報をあちこちから探って回ったミミサキ、ヨハナ、IJ0854、そして三月うさぎてゃんと佐藤は防音処理を施したコンテナの中で顔をつきあわせていた。
「それはもう周知の事実では?」
「いや、大事なのはここからなの」
三月うさぎてゃんが言うには、サーバとその精鋭部隊は『ノーザンキングスとは一切の関係が無い』ということらしい。口元に手を当てるヨハナ。
「それはおかしいですね。ノーザンキングスの連合部隊は現にザーバ軍閥のエッダ大佐の部隊とツルんで基地を襲撃してるはず。え、待ってくださいそれって――」
「十中八九、独断でしょう」
IJ0854が『彼女の性格ならありえない』と続けてつぶやいた。
「その情報は物資の面から見ても確かです。南部戦線の戦いを停止して塀を駐留させるための物資でした。ゼシュテリオンに向かった精鋭部隊も小規模に戦いを終えたら帰ってくる手はずになっている……と、思われます」
話を聞く限り、エッダ大佐が(同格の部隊をもつカイト大佐を巻き込んで)勝手に襲撃を行ったとしか思えない。あとで露見すれば厳罰をくらうのは必至。暴走にしたってたかが基地ひとつの襲撃ではメリットがなさ過ぎる。
むずかしい顔をしながらも振り返る三月うさぎてゃん。
「ミミサキさんは?」
「私の掴んだ情報も似たような感じっスね。
あー、でも、このギアブルグの頑丈さも分かりました。多分エクスギアを直接打ち込むのは無理っスね。空中で迎撃されそうっス。あと……なんッスかねえ。構造がなんというか……ギアバジリカに似てるんスよね」
これ自体もザーバの要塞として機能するわけか……と納得するIJ0854たち。
そこへ。
バン、と扉を乱暴に開く者があった。
慌てて振り返る彼女たちに、手をかざして見せる『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)。別ルートから侵入を図っていた仲間である。
彼女は部屋の中の人数をかぞえてから『やっぱり』とつぶやいた。
「どうしたのです?」
「皆、動かないで。……『ひとり多い』!」
ザミエラが指をさした先。
佐藤 美咲が片眉をあげた。
「あ、バレましたか。やるっスね」
途端、コンテナで爆発が起きた。
煙に紛れて姿を消す佐藤 美咲。
「ちょ、え、敵!? さっきまで一緒にいたのに!?」
「なんで気付かなかったんですか!?」
コンテナから飛び出し、慌ててこちらに銃を向ける兵達から逃れるように運転席にとびこむヨハナ。アクセルを踏み込み、急いでギアブルグから撤退する。
そんな中でミミサキはひとり、ぺちんと自分の額に手を当てた。
「いや、できるっス……この世界にも『私』がいるなら……」
あまりにも鮮やかに、佐藤美咲というスパイは自分たちの中に紛れ込んでいた。
「こっちの情報……ううん、『情報を得た』ことも含めて相手にバレたとみて良いわね。
けどなんとか、ギリギリのところで見つけ出せたみたい。情報の漏洩は半分程度でカットできたはずよ」
ザミエラは独自に動くことで、『ザーバ軍閥からゼシュテリオン側へ送り込んだスパイ』の存在を探っていた。
ここに潜り込むことを仲間にも知らせないという徹底ぶりで挑んだ結果、見事『スパイの中に混じったスパイ』を見つけることに成功したのだった。
「ザーバからのスパイは、あの一人だけ?」
「いいえ……」
ザミエラは首を振った。
「ゼシュテリオン派閥の各基地が危ないわ。『残りのメンバー』が活動を始めてる筈」
猛スピードで走るトラックの中で、ザミエラは呼吸を整える。
「――ノーザンキングス連合が危ないわ」
●力は世界のためにあるか
並ぶスチールデスクと大量のコピー用紙が、バラバラになって飛び散っていく。
それはノーザンキングスの高山戦士イグナート・エゴロヴィチ・レスキンの掌底ひとつによるものだった。
「ぐうっ……!」
吹き飛ばされた女性型ボディの『カニ』Ignat(p3x002377)。すぐさま蟹戦車型ボディにアバターチェンジすると地面をひっかいてブレーキ。押し込まれたデスクの数台がひしゃげたが、かまわずIgnatは『蟹光箭』を発射した。中央眼球状のレーザーレンズから放たれた赤い閃光が衝撃をともなってはしり、更に無数のデスクをひしゃげさせて行く。
「勝ち戦も負け戦も楽しんでこそのイグナートさ。世界の変化に耳を澄ませて、騒ぎがあれば乗り込んで、過程を楽しむことがオレの生き方なんだよ」
「ッ……」
掌底の姿勢で気をはって防御をかためるイグナート。しかし彼の内なる『生への喜び』『戦いの快感』が彼を蝕むDARK†WISHを少しずつ取り払っていく。
「それでも、オレは任務を果たさなきゃならないんだ。里のために、人のために、未来のために……!」
「人生を楽しむことを忘れたらただの殺人者。面白くもなんともないね」
突進するイグナートとIgnat。人型アバターにチェンジしたIgnatは変形蟹脚を合体させ、巨大な剣に変えて突き込んだ。
「そんな戦い、楽しいかい!?」
――瞬間、周囲の風景に亀裂が走った。
複雑に伸びた光のラインが交差を繰り返し、建物の壁面や床やスチールデスクたちが一斉にバラバラになっていく。
足場の崩れたイグナートたち――をほぼ無視する形で、『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)が飛び出していく。
狙いは巨大な裁断鋏を剣のように構えたシルヴァンスの獣人戦士ウサーシャである。
アーゲンティエール、もとい中身である混沌ウサーシャは内心で困惑していたが、それを鎧の表に出すことはない。ぴこんとうさ耳を動かすと、己と同じ名を冠する剣『アーゲンティエール』で大上段から斬りかかった。
駐車場に立ち、鋏の持ち手でガツンと受けるウサーシャ。
「良い腕だな、『ウサギ』よ」
「――!」
湧き上がる怒りからかアーゲンティエールを吹き飛ばす。腕の一人だけでアーゲンティエールは地面と平行に飛び、停車してあったワゴン馬車の側面に激突。めりこんでいく。
「格好いい自分でありたい、それが汝(われ)の願いだったはず。
強くありたいだけじゃない、それ以上に皆に褒められたい、注目を浴びたい。
だから他人を悲しませたり傷つけたりするのはよくないことだし……。
それ以前に、他人を傷つけたら自分自身が悲しくなる」
「黙って」
シャキンと鋏を鳴らすウサーシャ。
車両が切り裂かれ、アーゲンティエールの片腕が吹き飛んでいった。断面からデータの粒子がふわふわと浮いている。
「ウサーシャ。今の汝(われ)は――格好悪いよ」
「黙って!!」
直接飛びかかり斬りかかるウサーシャ。その剣を自らの剣で受けると、アーゲンティエールは強烈な蹴りで彼女をつきとばした。
「せめてなりたい自分がなんだったのか、もう一度考え直すときだ。我(なんじ)と一緒に」
「そんなの……わかってる」
ウサーシャは取り落としそうになった剣を強く握り直した。
「けど、だめだよ。格好良さじゃ、里を守れない」
「いいや。逆だ」
剣を突きつけ、そして、アーゲンティエールはゆっくりと頷いた。
「里を守ることが、『格好良い』のだ」
倒壊を始める基地の屋上で、器用に立つROOカイト。ゴーグル越しに見える瞳の鈍い輝きに、『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)は苦笑とも冷笑とも、そして嘲笑ともとれる笑みを浮かべた。
「そうかい、あんたは『諦めた』んだな」
「……なんのことだか」
わざとらしく肩をすくめるROOカイトに、カイトは複数の札を扇状に広げて構えた。
「いいや、こっちの話。それより、そろそろ聞かせてくんねぇかな。お前――誰のために動いてんの?」
飛ばした七星結界と、ROOカイトの放つ効率化された魔術がぶつかり合い、二人の間で相殺の爆発を起こし続ける。
「そんなの、ザーバ軍閥なんだから当然だろ?」
そう語るROOカイトの言葉は、すぐにわかるほど嘘のトーンでできていた。
それだけあからさまな理由も、カイトの鋭い直感が理解していた。
「ザーバはギアバジリカ前に現れて全軍を強制的に足止めしてる。その間に基地を襲撃したのは援軍を出させないためかもしれねぇが……ホントの狙いはそこじゃない。狙いは『この状況そのもの』だろうが」
ビッと指をさしたのは、今なお戦い続けるノーザンキングスの精鋭たち。
「お前(おれ)が軍人サマになる理由なんか、そのくらいしかねえ。引っかき回そうとしてんだろ? 今この場で」
「エーデルガルト。只甘んじて軍人としての力を振るえばまだ可愛げがあるものを……」
『雷神の槌』ソール・ヴィングトール(p3x006270)のメイスが大地に叩きつけられ、激しい爆発のエフェクトをおこした。
鋼鉄のガントレットで防御しつつ飛び退くエッダ・フロールリジ。
「あなた様は、誰でありますか」
瞬間、横合いから飛びかかる『人形遣い』イデア(p3x008017)の人形。張り巡らされた魔法の糸を操り、腕を十字に交差させたイデアの命令にしたがいレイピアによる高速連突が繰り出される。
咄嗟のことで直撃をうけたエッダは地面を転がるが、すぐに地に手を突き体勢を整えるとイデアによる追撃を拳で打ち払った。
「お初にお目にかかりますね。メイド同士正々堂々戦いましょう」
「……」
答えないエッダに、さらなる打撃を打ち込むイデア。ため息交じりに挑発を続けた。
「かっこ悪いですよ、今の貴女。その拳はそうやってるかう物じゃないでしょう」
「如何に強かろうとも、こいつは『一度に攻撃できるのは一人』だ」
反撃にでようとしたエッダの背後にまわるソール。叩きつけたメイスの爆風でエッダは更に吹き飛ばされる。
「こいつは、卑怯も卑劣も堂々と行うが……ただ一つの、拳で戦うという誓いだけは破れないからさ」
「…………」
なおも沈黙するエッダ。素性を言い当てるソールに不気味さを感じているのか、それともただこちらを警戒しているのか。
一方。イデアはソールの構えから彼が『何者なのか』を察したようだが、その上で違和感を拭えないでいた。
エッダという人間――もとい軍人が、どうねじれたところでこのような行動をとるだろうか。それに、何より……。
「口調」
「?」
イデアのつぶやきに、ソールが視線を向ける。
「混沌のエッダ――もといエーデルガルト大佐はこんな口調でしたか?」
それは、ソールがかなり早期に気付いた違和感のひとつだ。
体制の体現者であるエーデルガルトと、拳の騎士(メイド)であるエッダ。口調はその二つを分けるルーティーンでもあったはず。
「貴様の意志を改めて問う。
貴様の正義はどこにある?
貴様の拳は敵を打ち倒すものか?
それとも民の盾となるものか?
貴様の正しさを、ここに示せ。
フロールリジの名の下に」
メイスを突きつけるソール、構えたエッダはそれに対して……ハアとため息でこたえた。
「そこまで分かっている相手に、隠し立ては無意味だな。我ながら――安っぽい演技をしたものだ」
かざしたエッダの両腕。両腕にはめ込まれた鋼鉄のグローブが、どろりと溶けた。
はるか上空から俯瞰視点を維持していたベネディクトが、目を見開く。
溶けた鉄のような灰色の粘液が、基地全体の地面を覆い始めたのだ。
やがてその中央より巨大な手のような物体が形作られ、その上には灰色のドレスを纏ったエッダが立っている。
いや、彼女だけではない。その横には武装を解除したROOカイトも立っていた。ブラックスーツに身を包み、ゴーグルの奥で目をギラリと光らせるROOカイト。
「闘争本能ってやつは、戦場でしか形を成さない。そして成した時こそ――『影』の入り込む隙になる」
すべての鉄粘液から湧き上がる『黒き影』のようなオーラ。それらはROO朋子や身を隠していたリズリー、困惑するウサーシャたちを飲み込んでいく。
沈黙するエッダの横で、ROOカイトは皮肉げに笑った。
「なんで説明したのかって? 今更知ったところで手遅れだらに決まってんだろ!」
笑い声を大きくするカイトが『やれ』と命じると、エッダはかざした手から無数のミサイルを生成。そのすべてがソールやイデアたちへと降り注ぎ爆発を広げていく。
「誓いを忘れたか? いや……捨てたのか! エーデルガルト!」
「ソール様!」
直撃コースに迫るミサイルを、人形を犠牲にすることでガードするイデア。それでも防ぎきれない爆風を、ソールを抱えて飛び退くことで防いだ。
否、それでも防ぎきれなかった。
イデアの下半身が吹き飛び、光る粒子となって消え始める。
そんな彼女たちを見下ろし、エッダはため息交じりにつぶやいた。
「ザーバも、ヴェルスも、ガイウスも……この国の王たりえない。いや、王たる資格のある者などいない。
責任逃れで軍閥を作る人間。武力でしか他人を計れない人間。闘争のためだけに群れる人間。他を破壊することで生き残ろうとする人間。
あまりにも愚かで、あまりにも粗野で、あまりにも愚劣だ。王の死に混迷する国を建て直そうという者すらいない」
エッダ――もとい『エーデルガルト』の表情には、怒りや悲しみや、そして何よりも強い諦観があった。
「鋼鉄国はもはや、あるべきではない」
滅びろ。そうつぶやき、より巨大なミサイルを天空に作り出すエッダ。
爆発が、基地全体を覆った。
●たそがれヨルムンガンド
兵隊に挨拶をして、ギアブルグ内の通路をゆく。
『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)の顔に焦りはない。
そのうしろをついていく『勇気、優希、悠木』ユウキ(p3x006804)にもだ。
「今回、ザーバの真意がわからねえ。単にDARK†WISHでバグってんのか、ノーザンキングスにヘイトを向けさせようとしてんのか、それともこの裏にある真の黒幕かなんかをあぶり出そうとしてんのか……ぱっと思いつくだけでもこれだけあるからな」
「ま、調査ってのは『思いつき』とは違うからな。因数分解みたいなもんだぜ」
まあそりゃあそうだよなと、ユウキは唇の端をゆがめた。
『x+3=5』のxを思いつきで埋めるのは愚かだ。それが複雑な式であったとしても。
伏せられた数字が多いなら、端から掴んで解明していくほかない。それは数学でも神学でも歴史学でもなんでもそうだ。正しさとは、『他の正しさ』の地続きにあるのだから。
「ザーバのにーちゃんは最前線で戦ってきたんだよな? それも皇帝の命令で。
その立場からしたら、『皇帝におかしな命令をされるのは困る』んだと思う。だってさ、伝承のリーゼロッテ相手に正面突破をしろって命令を、わざわざそのまま実行しちゃうんだぜ?」
「いっそ自分が皇帝になって命令できる立場になるって線は?」
「他に最前線で指揮できるやつがいなさそうってのはあるけど……それ以前に、『一番強いヤツが皇帝』のルールに則ればわざわざゼシュテリオン軍閥に戦いを挑む理由ないだろ。ザーバがいきなり出てきて全員なぎ倒したあとヴェルスと一騎打ちすれば済む話だぜ」
「ははあ、なるほどな……」
自分でやればすむのに、部下や相手の部下を動かす理由。
「ザーバが最初に言ってたように、『現在皇帝の座に最有力のヴェルスの器を確かめに来た』って線が今のところ有効かな」
ヴェルスは皇帝殺害事件の最有力候補。それはこの国のルールに則るなら、『最も皇帝に近い人間』ということになる。このまま他全員を打ち倒していけば、彼が皇帝になってしまっても不思議ではないのだ。
「ってか、実際混沌ではあいつが皇帝だしな。そりゃあるだろ、器」
「わかんないぜ。混沌とROOじゃ別人ってケース山ほどあるからな」
こんな会話をしながらこっそりと滑り込んだのはザーバの執務室。
大きく黒い大理石の机を窓際に、どっしりとしたデザインの絨毯が置かれている。部屋の左側には天井までぴったりはめこまれた戸棚があり、大量の書類や調度品がガラス戸越しに置かれている。
右側にも同様の棚があるが、中央には扉。明けてみるとそこにはベッドとテーブル、そして小さな棚がそれぞれ置かれていた。執務室兼自室ということだろうか。間の扉を調べてみると元々は隠し扉だった跡があり、棚をレールにそって動かす仕組みが封殺されていた。なんとなくザーバらしいと言えなくもない。
逆にいうと、このギアブルグは元々ザーバの意図した設計でなかったということになるが……。
「なるほどなあ」
ユウキは棚の資料をいくつかあさってから頷いた。
「ジッサイ、このギアブルグは発掘された古代兵器の一種だったらしいぜ。元々は地下に埋まってたものを掘り出したんだそうだ」
「このでかさを?」
「このでかさを」
二人はそう言い合ってから、『混沌正史におけるギアバジリカ』がどうやって現れたのかを思い出した。地下に埋まっていた古代遺跡が飛び出しあちこちの村を併呑したことであの形になったのだ……とすれば、このギアブルグも脚をはやして歩き出したりするのだろうか。
「確かに、要塞のわりに堀も塀もなかったもんな。物流も自前の兵士じゃなくて外の商人を直接搬入させてたし。移動要塞だと考えたら納得いくか……」
更に探索を進めるルージュたち。
決定的な資料があったわけではないが、『決定的な疑いがない』という時点で、ザーバがヴェルスに宣言した通りの意図で動いていることがわかる。
つまりザーバは純粋に、『ヴェルスが王に相応しいかどうか』を確かめようとしているだけなのだ。
「けど変だよな。兵団そのものを動かしてまでやることなのか? それこそザーバ一人で済む話じゃねーか。部下のリュカシスたちが動員されたのは……なんでだ?」
ザーバの真意を確かめようと動いていたのはルージュたちだけではない。
『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)と『職業無職住所不定』ダリウス(p3x007978)は別ルートからこれらの真意を確かめるべく行動していた。
ギアブルグ内。それも、『ザーバの目が届かない場所』をあえて探すことで。
「におうぜ、この部屋だ」
独自の能力によってギアブルグの下士官たちに紛れ込んでいたダリウス。彼は悪事への嗅覚をはたらかせ、ギアブルグ内に巧妙に隠された部屋をはやくも発見していた。
「よく見つけたわね、こんなところ……」
セフィーロはセフィーロでザーバへの忠誠心があつい連中を中心に言動を調査し、彼らの考え方を確認したあとだった。
ザーバ派閥の軍人、なかでもザーバの人柄や考え方に賛同したタイプの連中は『ザーバが皇帝になるべきではない』と考えていた。
彼は戦略というレイヤーにおいて無敵の守護神となるが、政略において非常に脆弱である。戦術面においても非常に優れるうえ、戦士一個体と考えても極めて優秀。そのため『ザーバをよくしらない』多くの人間が戦士→戦士長→軍団長までの優秀さを認めた上で皇帝になっても優れた成果をだすと考えがちだが……。
「求められるのは全然別のスキル。まあ、元々『一番強い人間が皇帝』って政策の弱点でもあるけど……」
皇帝にリーチをかけた人間は『強さの使い方』を求められるということなのかもしれない。それは事実、混沌でもおきていることだ。ビッツがS級の門番として『強さの使い方をわきまえている』人間を選別している節があるし、最強のファイターはあえて皇帝に戦いを挑まず最優先カードを後回しにし続けている。ザーバに至っては挑戦すらせず命令を忠実に実行する格好だ。
コンバルグ・コングが良い例だ。彼は強いが、皇帝には決してなり得ない。
「――とすると謎だぜ? ザーバの真意とは『別』に動いてる連中が、ザーバ軍閥の中にいることになる。しかもかなりの権限つきでな」
そういってダリウスが見つけ出したのは、隠されたいくつかの文書だった。
内容を要約すると……。
「ザーバからの代行を装ってノーザンキングスを動かしたエッダ派閥。連中の意図は闘争本能にかられたノーザンキングスの精鋭たちを■■■に取り込むこと。この塗りつぶされてる部分は分からねえが、ヤベえ奴だってのは確実だな」
次に……と資料を並べるダリウス。
そして気付いた内容を口に出しつつ、煙に隠れた顔をしかめた。
「ザーバを■■■に……取り込む……?」
「おっと」
ポン、とダリウスの肩に手が置かれた。
ダリウス本人はもちろん、すぐそばで資料を覗き込んでいたセフィーロですらその瞬間まで存在に気付くことが出来なかった。
そしてそれ故に、対応は決まっている。
「――!」
瞬間的にソバットキックを繰り出し対象の顔面を崩壊――させようとしたところで相手はぐにゃんと体をブリッジ姿勢にして回避。反転からのキックでセフィーロを蹴飛ばすと、転がるように距離をとった。
彼の手にはそれまでダリウスが集めていた資料。
まだ読み切れていない部分もあるのだが……。
「『これ』はまだ知られては困るのですよ」
彼の笑顔。死体が無理矢理笑ったような、いびつな笑顔。
慇懃な態度に隠された毒ナイフのような殺意。
「……『俺』か」
資料を手に笑顔を浮かべていたのは、ROO世界におけるバルガル・ミフィストであった。
「……? まあご安心ください。いずれ分かりますよ。『手遅れになってから』ですがね」
追撃しようと身構えるセフィーロの手を、がしりとつかむダリウス。
「戻るぞ。この情報を仲間に伝えねえとマズ――!」
「ははははは」
平坦すぎる笑いが、すぐ背後から聞こえた。
バルガルがおかしな移動によってダリウスの背後をとり、首をごきりとねじまげていた。
崩れ落ちるダリウス。逃げだそうとしたセフィーロに、バルガルの手が伸びる。
「逃がすわけないでしょう。死ぬんですよ、二人ともここで」
●真意と悪意と
闘争本能。
それは誰しもが持つ、生物としての本能である。
餌を奪い合い、番いを奪い合い、住処を奪い合う。
力が無くては奪われ、力があれば奪う事が出来るという極めてシンプルなルールは、複雑怪奇なルールに縛られた社会の中でも依然存在し続けている。
もっとも、力の種類は増え、そのベクトルもまた複雑怪奇に繋がったためにシンプルさこそ失いつつあるものだ。
そんな中でも、鋼鉄国はシンプルだった。
強い者が王になる。王になった者はすなわち強いため、すべてを奪う権利を前提としてもつ。
そのルールに従うか否かは相手が選ぶことができるが、『従わせる』ことは前提の時点で可能なのだ。それができないということは弱いこと。すなわち王ではないということになるのだから。
そうした『力と王のルール』の中で、王が従わせる気を起こさなかったのがノーザンキングス連合王国である。単に痩せた大地を奪う価値とコストが見合わなかったとも言えるし、それをわざわざ奪おうとする個人や挑もうとする個人が現れなかったとも言える。
だがそんな場所にも戦士は生まれ、密かに育まれていた。
いつか鋼鉄国をかみちぎる牙とするために。
そしてその力の育成を密かに援助していた存在が、鋼鉄国にはあった。
「将軍殿。この辺で」
ぽんと肩を叩くリュカシス。
軍団長を物理的にも精神的にもとめようとする行為に、敵味方皆がざわついた。
エンジンのかかりきった、熱くなりきったザーバが相手である。
当然――。
「止めるなリュカシス。もしどうしてもというなら、その腕事引きちぎることになるぞ?」
普段温厚な雰囲気を見せるザーバからはやや逸脱した、非常に獰猛な台詞によってこれを退けた。
退けた、ように見えた。
「やってみてくださいよ」
リュカシスはあろうことか相手を煽るような言い方をしつつ、ザーバにそっと耳打ちをした。
いや、変だ。
小柄なリュカシスがあの大柄なザーバに? そう考えたところで、リュカシスがまるで大人のような高身長に変わっていることに気付いた。
流麗な目。洗練された動き。大人びた顔立ち。リュカシスはザーバの耳元で、優しく、そして甘く言った。
「あなたが全部壊して暴れ回るところ、見たいなァ」
ぶわりと湧き上がる『黒い影』。いつの間にかリュカシスの手に握られていた杖がカツンと地を叩くと同時に、『黒い影』はザーバをたちまちの内に包み込んだ。
それだけではない。ゼシュテリオンのイレギュラーズと戦っていた何人かの戦士たちも同じ影に包み込まれ、驚きに目を見開く。
瞬間、ギアバジリカから強制射出によって飛び出してきたショッケンが仲間達との間にはいって無数のアリキメデスレーザー照射器を展開。
「離れろ! 奴は、魔――」
激しい爆発があたりを包み込んだ。
緊急避難によって爆発を逃れた者たち。緊急発進シークエンスにそって激しく動き出すギアバジリカ。
その爆発は、あろうことかザーバがただ一歩踏み出しただけで起きていた。
衝撃が大地で炸裂し、周囲の風景を吹き飛ばしていたのだ。
それでもまだ己の意志が残っているのか、ギアバジリカに手を伸ばす。
「離れろ、今すぐ、俺から――!」
爆発に飲み込まれ死亡したイレギュラーズたちを(リスポーンに期待して)そのままにしつつ、ギリギリ乗り込んだ仲間達をつれて猛スピードでその場を離れるギアバジリカ。
●同盟
激しく揺れる要塞の中で、フラッシュドスコイはサクラメントからぽんと飛び出した。
「あれは!? さっきのは!? この世界の『リュカシス』はなんであんな――!」
「まあ落ち着け」
両腕をばたつかせてはずむフラッシュドスコイの頭をがしりと(バスケットボールのように)掴んだ大男。それこそバスケ選手やラグビー選手のようなガタイをした筋肉豊かなナイスガイである。
その顔には見覚えがあった。
「――ジェイビー!」
「おっ。俺を知ってるか? なら話は早いぜ。ホリー!」
「あ、もう出てきて大丈夫?」
物陰に隠れていた熊獣種のホランドがひょこっと顔を出す。
フラッシュドスコイをそのへんの椅子に座らせる(置く)と、ジェイビーはまわりを見回した。
そこにはイレギュラーズのほか、先ほど戦った戦士のうち数名が混ざっていた。
「紹介がダブるが、俺はザーバ軍閥の戦士、ジェイビーだ。専門学校で兵役についてる。さっきザーバを『堕とした』のがリュカシス……俺の親友だ。たぶん、な」
彼の言い方に含まれた悲しみを感じて、フラッシュドスコイはじっと彼の顔を見た。
物陰から出てくるホランド。眼鏡をとりだし、熊の顔に装着した。
「僕はホランド。ジェイビーもリュカシスも同級生です。僕らは彼の様子が変だったので、色々調べたり警戒したりしてたんですが……」
鬼丸が歩み出て、ジャック翁と一度顔を見合わせる。
「さっきのあれは何だったの? ザーバがこう……暴走したように見えたけど」
「『ように』ではない」
ジャック翁はゴーグルを外し、脇に抱えた。前髪をかきあげるようにして整える。
「あれは完全な『暴走』だ。自身で制御できない力が溢れていた。自我はかろうじてあったようだが……いつまで残っているものか……」
くしゃりと後悔や怒りがないまぜになった顔をするジェイビー。
「まさかこれが狙いだったなんで、俺も思わなかった。
あいつは、リュカシスは……ザーバを暴走させるつもりでゼシュテリオンにぶつけたんだ!」
走り続けるギアバジリカの西側地平に、茜色の日が沈んでいく。
やがてくる夜を、やがてくる混乱を、やがてくるべき戦乱を予感させながら。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ザーバ軍閥にはリュカシス、エッダ、カイトというより深い闇に覆われた者たちが潜んでいました。
彼らはゼシュテリオン軍閥との激しい戦いを起こさせることで戦士達の闘争本能をたきつけ、できあがった心の隙に自分たちの闇を流し込み暴走させたのです。
戦乱の獣と化したノーザンキングスの戦士達。そして鋼鉄国の守護神から破壊神へと変じたザーバ。
その向かう先は王なき鋼鉄国の破壊と滅亡。
滅亡の未来を回避するため、そして『イベント』として出現したこの異変を攻略しR.O.O.に秘められた謎を解明するために――
大いなる戦いが、幕を開けようとしている。
GMコメント
このシナリオには複数のパートが存在します。
自分のパートを選択し、参加してください。
●パートタグ
【ザーバ】【ノーザン】【スパイ】ののうちからタグを一つだけ選択し、プレイング冒頭に記載してください。
以下は各パートの説明になります
================================
【ザーバ】
※2021/07/28追記
優先参加PCが当シナリオに参加していなかった場合、混沌側同名キャラクターは戦いにあえて参加せず様子見する格好になります。
・成功条件:ザーバの用意したチームに挑み、実力を示すこと
勝敗にかかわらず、挑むことができればOKです。
誰か一人でも強さや覚悟を示すことが出来れば成功とします。
・概要
『戦って理解する』というスタイルで攻め込んできたザーバとその軍勢に戦いを挑みます。
今回は互いに出場する人数が絞られており戦闘規模も限られています。
こちらもチームを組み、南方戦線特殊部隊選抜チームとぶつかります。
目的は勝利することではなく、自分たちの軍閥が勇猛果敢な戦士たちであることを証明することです。
ここで対戦相手となるメンバーはリュカシス、ルクト、シュピーゲル、オニキス、ラムダ、イルミナ、ローガン、弾正の8人に加えて複数名の追加メンバーで構成されます。
基本的には分散してそれぞれタイマンはって戦うのがよいでしょう。集中攻撃で一人ずつ潰す作戦は十中八九大変なことになります。(ザーバが『よしわかった』とかいって一人ずつ潰しにきたらこちらは実力を示すチャンスを失いそうです)
この戦いで『勝利』する必要はありません。敗北(なしいは死亡)しても真後ろにあるギアバジリカ内のサクラメントから復活でき、その後のザーバ戦にトライできます。
ただし実力を示すことが目的なだけあって、死に戻りによるゾンビアタックには応じてくれそうにありません。それぞれの戦いはリトライ不能のつもりで挑みましょう。
整理すると『PCNPC戦、1デスまで』『ザーバ戦、1デスまで』で合計2デスまでです。
※メタ情報
このパートに参加すると、混沌側でのPCそっくりのPCNPCが相手チームに現れ、アバターであるあなたに勝負を挑むかもしれません。夢の対決を実現させましょう!
(ROO内はバグによって大きく歪んでいるため、自分に似た人間が複数いることがあります。ので、他の場面で別人として登場していても問題なしであります)
彼ら選抜チームと戦い、能力を示すことが出来たら次はザーバとの戦いが待っています。
彼は鋼鉄軍最強の男であり『塊鬼将』。
戦闘力は計り知れず、その気になれば彼一人で伝承軍を圧倒できるかもしれないほど。
彼との戦いは勝敗ではなく『どこまで食い下がれるか』『どれだけ戦って見せるか』『覚悟を見せられるか』に主眼が置かれます。
そして彼をこの戦いで倒すことはおよそ不可能です。そしてだからこそ軍閥たりえるのです。
================================
【ノーザン】
・成功条件:ノーザン&ザーバ軍閥兵を迎撃ないしは鎮圧する
戦闘によってノーザンキングス&ザーバ軍閥の連合部隊を倒します。
ネームドは基礎戦闘力が高く純粋な戦闘行為だけで倒すのは難しくなるでしょう。彼らのメンタル(もといWISH)に訴えかけることでこの難易度は解消されます。
・概要
ザーバインパクトの最中、虚を突く形でゼシュテリオン軍閥に属する停泊地が襲撃されました。
襲撃にあたっているのは主にノーザンキングス選りすぐりの戦士達ですが、そこにエッダ、カイトといった南部戦線部隊が加わり作戦を指揮しているようです。
本来敵同士の筈の鋼鉄軍とノーザンキングス戦士の内通には、何か裏がありそうですが……。
またノーザンキングス兵の殆どはDARK†WISHに侵さシャドーレギオンとなっています。
彼彼女たちのもつ本来の美しい、ないしは高潔な魂は悪意あるバグによって歪められて締まっています。倒すことで、彼女たちの正気を取り戻すことができるかもしれません。
・リズリー・クレイグ(ROOのすがた)
強きを尊ぶベルゼルガの蛮族戦士。『荒熊』の異名を持ち、類い希なるパワーによって敵を粉砕する。
強きを尊び高潔であろうとするWISHは、バグによって歪められてしまっている。
DARK†WISHに支配された今、一族に伝わる剣や鎧をエネルギー化して取り込み、熊の怪物となってすべてを破壊してしまいます。
・長谷部 朋子(ROOのすがた)
伝説の石斧ネアンデルタールを引き抜いた蛮族戦士。
毎日楽しく行きようというWISHは歪み、本当に楽しいことが何なのか分からなくなってしまった。
DARK†WISHに支配されたことで極振りされた暴力衝動がネアンデルタールと朋子の中を渦巻いている。
こうして笑いながらすべてを破壊し喰らい尽くすダークネアンデルタール・レディが誕生してしまった。
・ウサーシャ(ROOのすがた)
魔法のハサミを使って戦う魔剣の申し子にして裁断者。
はじめはただ格好良いからという理由で名乗っていたこれらに実が伴ってしまったために、もう後には引けなくなってしまったひと。
はじめはキャラづくりでやっていた厳めしい話し方も、今では板についてしまった。
その上でDARK†WISHに支配されてしまったことで鋼鉄の裁断者となり、その力を破壊のために使ってしまっている。
元々は格好良い自分になりたいというWISHを抱いていたが、歪んでしまった今は忘れてしまっているようだ……。
・エッダ(ROOのすがた)
鋼鉄軍人大佐。南方部隊所属。詳細不明――
・カイト(ROOのすがた)
鋼鉄軍人大佐。南方部隊所属。詳細不明――
※WISH&DARK†WISHに関して
オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。
※メタ情報
このパートに参加すると、混沌側でのPCそっくりのPCNPCが相手チームに現れ、アバターであるあなたに勝負を挑むかもしれません。夢の対決を実現させましょう!
(ROO内はバグによって大きく歪んでいるため、自分に似た人間が複数いることがあります。ので、他の場面で別人として登場していても問題なしであります)
サクラメントが遠いため、この戦いで再出撃はできません。
================================
【スパイ】
・成功条件:なんらかの情報を獲得して持ち帰る
情報の大小を問わず、持ち帰ることができれば成功とします。
ただしここで得た情報は後の展開に大きく影響する可能性があります。
・概要
ザーバとノーザンの内通。そして今になって動き出した意図。
単純に考えればザーバ派がヴェルス派を潰しにきているように見えますが、ザーバのようなさっぱりした性格の男がそういうやり方をするとは考えづらく、何かの裏――あるいは陰謀が存在している可能性があります。
ザーバの城でもある『ギアブルグ』へ潜入し、調査しましょう。
この作戦は『operationt Troy』と名付けられ、作戦終了まで味方にすら秘密にされています。
潜入したあなたは、あなたが望んで連携しない限りは個別に行動し、ザーバ軍内部へとまるでずっとまえからそこにいたかのように溶け込んでいることでしょう。
このパートに参加した際は、特別なスキルやAFがなくてもある程度は書類や身分を偽って内部へ潜入できるものとします。
そのうえでどんな情報収集を行うか。何を重点的に調べるか。誰に接触を試みるかを選択してください。
『全部を確実に調べ上げる』だけの時間は、おそらくありません。同じくスパイパートを選んだメンバーと協力し、『開くべきカード』を整理し、『開くカード』を絞り『開く担当』を割り振りましょう。
相手もスパイをあぶり出す努力をしていますし、永遠に溶け込むには少々手強い部隊であるからです。
また、この作戦で死亡による再出撃はできません。逆に言うと敵にバレちゃっても死に戻りで帰還できるので安全(?)に調査が可能です。
※この結果によって、この先の作戦の成功度や影響力が大きく変わり、場合によっては重大かつ絶望的な運命を回避することができるかもしれません。
================================
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
●フルメタルバトルロア
https://rev1.reversion.jp/page/fullmetalbattleroar
こちらは『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』のシナリオです。
・ゼシュテリオン軍閥
ヴェルスが皇帝殺害容疑を物理で晴らすべく組織した軍閥です。
鋼鉄将校ショッケンをはじめとするヴェルス派閥軍人とヴァルフォロメイを筆頭とする教派クラースナヤ・ズヴェズダーが一緒になって組織した軍閥で、移動要塞ギアバジリカを拠点とし様々な軍閥と戦います。
・黒鉄十字柩(エクスギア)
戦士をただちに戦場へと送り出す高機動棺型出撃装置です。
ギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。
・移動要塞ギアバジリカ
クラースナヤ・ズヴェズダーによって発見、改造された古代の要塞です。
巨大な聖堂が無数に組み合わさった外見をしており、折りたたまれた複数の脚を使った移動を可能としています。
Tweet