シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>そうして彼女は――
オープニング
●ヴィーグリーズの丘で
死が迫っていた。
フランソワは胸部に突き立てられた剣が赤く染まっているのを見た。
突き立てた貴族は「この役立たずが!」とフランソワを罵り蹴り飛ばした。もはや痛みは感じなかった。
フランソワは奴隷だ。
幻想の貴族ミーミルンド家に与するミーミルンド派貴族によって奴隷へと落とされた少女だ。一連の闇奴隷騒動の被害者とも言える。
「どうせ死ぬなら敵を一人でも多く殺してから死なんか! このグズがッ!」
今、ヴィーグリーズの丘では、王家簒奪を目論んだミーミルンド派貴族と、それを討伐戦とするイレギュラーズ擁する幻想貴族との決戦が行われようとしていた。
フランソワはその中でももっとも過酷な場所にいた。
奴隷兵として訳も分からず貴族と戦わされ、死を恐れ前線から逃げ出した。そして主人である悪徳貴族に見つかり、敵前逃亡を罰しられ、興奮した貴族に処刑とされた。
(痛みも何も無い……ああ、どうか……神でも悪魔でもいい……この人でなしの貴族達を、同じ目にあわせてください……)
薄れゆく意識のなか、フランソワはそう願わずにはいられなかった。
果たして、願いは叶う。
興奮のまま剣を振るっていた貴族が”赤いシミ”となって絶命した。周囲を固めていた彼の部下達も同じようにシミになって言葉を話さなくなった。
なにが起きたのか。
わからないけど……神様の仕業ではないだろう。
なら、きっと――目の前に現れた、自身と同じ奴隷服を身につけた彼女は――悪魔の仕業に違いない。
「……終われない、まだ終わることはできない……この国は……この世界は、まだこんなにも”私”を生み続けている……終われるものか……!!」
彼女の怒りを、フランソワはよく理解できた。理解出来てしまった。
理不尽に奪われる生活。奴隷として主権もなく従わざるを得ない日々。
生き地獄。そう呼ぶに相応しかった。
そして、その果てに――貴族達の戦いに巻き込まれついに命を落とした。
こんな人生、運命に怒りを覚えるのは当然だった。
怒りの具現たる彼女が、それを知らしめてくれるなら、喜んで力を貸そうと思った。
絶命したフランソワの身体から、白い靄があふれ出し幽鬼となって魔種マリアナの参列に加わった。
「まだ……終われない……本当に? ……私は、もう……止まれない……もう……」
復讐は果たした。けれど怒りは止まらない。
世界を壊し尽くすまで、マリアナは止まれない。
だから、どうか……彼女の名前を知る”彼等”に、終わりにしてもらいたかった。
- <ヴィーグリーズ会戦>そうして彼女は――Lv:25以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月11日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●怒りの向かう先
頭のてっぺんからつま先まで、身体中が痛みに震えていた。
それは私にとって日常的なものであり、”奴隷となってから”続いてきたものだった。
その痛みを与えてきた男ドルヘンは、魔種へと反転したときに慈悲もなく殺した。
復讐を果たして、痛みと怒りは消えるかと思った。
けれど、身体中に走る傷痕は痛みを増し、心を黒く塗りつぶす怒りは消えるどころかさらに燃え上がった。
そうか、と私は理解した。
この超常の力は、何を成すべく自らのものとなったのか。
自身と同様に奴隷として殺されていった”仲間”達の魂を救い上げながら、この力の代償に私は痛みと怒りを覚え続けて居るのだと。
忘れてはならない、この痛み。
失くしてはならない、この怒り。
奴隷を扱う者達を、それらを見て見ぬ振りする者達を、それらが集まるこの国を――いや、世界を許してはならない。
すべてを壊し、消し去って……そうすることで、この痛みと怒りは消えるのだと、私は理解した。
だから、それまで自身は何者でも無い、名も無き者。怒りに燃え上がる鬼の面をつけて、そうあろうとした。したはずなのに……。
――マリアナ――
幾度も立ちふさがった彼等が、無くしたはずの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれる度に、”マリアナ”であった日々の記憶が蘇る。
何も知らなかった無垢な頃のわたし。
ふと、手を見れば――真っ赤に染まった――薄汚れた手のひらがあった。
あの頃の私と今のわたし。
怒りのままに人を殺め、今も殺し壊し続ける罪を背負った私。
もう戻ることはできない。いまさら引き返せる訳がない。
いまあの頃に戻ったとしても、あの頃のように無垢に笑えるわけがない。
だってもう、私は、穢れてしまっているのだから。
黒く染まった心が、赤く燃え上がる怒りが、思考を塗りつぶし身体を動かす。
ドルヘンを殺し、ドルヘンを唆したゲルヘンも殺した。
見て見ぬ振りをした街の人々を殺し、不快な街も破壊して回った。
私自身の復讐は終わったけれど、怒りは収まらない。
この世界に私と同じ奴隷が存在する限り、私は止まらないのだと、そう感じた。
だけど……本当は……。
涙が零れる。
帰りたいあの頃に――決して戻れないとわかっていても……あの頃のわたしに。
けれど私は進む。
奴隷達の嘆き、悲しみを辿って。
”私”をこれ以上生まないために――”わたし”を止めてくれるかもしれない誰かに会うために。
どうか、この戦いが最後でありますように。
●混戦
ヴィーグリーズの丘北東部。
丘全体での会戦からすぐ、北東部でも同じように戦いが始まっていた。
異様なのはその光景。
ミーミルンド派貴族の部隊の前に居並ぶ、満足な装備も与えられず武器を持つ奴隷兵達の姿だ。
貴族直轄の部隊が全身鎧であるのに対し、彼等はおきまりの奴隷服に、サイズの合わない革の鎧を着せられ、古びた剣や棍棒、整備の行き届いてない銃器などを持たされ、反ミーミルンド派の討伐隊の矢面に立たされていた。
その表情は皆暗く、諦観の色を濃くしていた。
逆らうことなどできはしない。逆らえばすぐその場で切り捨てられることは全員が知っていた。もちろんこのまま討伐隊とぶつかれば、遅かれ殺されてしまうのもわかっていた。
奴隷達にとってみれば、いまこの状況は八方塞がりだ。
故に、彼等は考えることをやめている。
このあと自身に訪れる、痛み、喪失、そして死は、運命づけられたものなのだと、思考を停止していた。
何もかも諦めてしまえば、その後に起こることなど些末なことである。たとえ命を手放すことになるとしても、すでに生きる事を諦めているのだから……。
対峙する奴隷兵たちを一瞥し、『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が討伐隊の面々にレガド・イルシオンの王フォルデルマンより与えられた勇者の証を掲げる。
「俺は黒狼の勇者、ベネディクト。これが俺をレガド・イルシオンの王が真に認めたという証、勇者の証だ!」
掲げられたブレイブメダリオンに視線が集まる。次々に討伐隊の面々から声が上がった。
「おお! あれが王より与えられたというブレイブメダリオン! 真の勇者の証か!」
「では、彼等が噂の――!」
「そうだ、彼ベネディクトと共に戦う僕達はイレギュラーズ。勇者として認められた面々だ」
ベネディクトと共に討伐部隊の前にでて、よく通る声で自らの立場を明らかにするのは『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)だ。
ベネディクトのブレイブメダリオンの威光を借りながら、この戦いにおける自分達、そして討伐部隊の役目を明確にする。
「見ての通り、ミーミルンド派の貴族は、奴隷を闇取引しこの国の人々を混乱に陥れた。それどころか、いま、目の前で奴隷を盾にし身を守ろうとしている!」
「俺達はそれを見過ごすことはできない。奴隷とされた彼等は選択の自由を持たず武器を持たされた。そのような者達を放って置いて良いはずがない。彼等は被害者だ。救うべき、この国の民だ。決してここで無碍に命を奪って良い相手ではない!」
シューヴェルトの堂に入った演説と、ベネディクトの強い意思が籠もった言葉に、討伐隊の騎士達が心を振るわせ胸に手を当てる。
「……終わらせなくてはならないんだ、こんな悲しい戦いは」
「僕らには民を守るというどんなものにも負けない最大の大義がある! だからこそ、この戦いで悪しき貴族を打倒して多くの民を救おう!」
「「おお――ッ!!」」
「うーん、素晴らしい演説だね。これは気合いが入るよ!」
『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)の頷きに『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)も自身の身体の形を変えてコクコクと頷いた。
空気を振るわす力強い応えに気合いをいれたイレギュラーズは、戦域へと目を向ける。
角笛が鳴る。
見れば、ミーミルンド派の悪徳貴族達の部隊が、奴隷兵を動かし展開を始めていた。
戦いが始まろうとしていた。
●
「皆さんに、聞いて欲しいことが、あります」
戦いが始まる直前、『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)が討伐隊の面々に、ある少女の話をした。
元奴隷であり、魔種へと反転した少女――マリアナ。
「この北東部の戦域に、マリアナさんが来たことを、エル達は知っています。
マリアナさんは、きっと奴隷を扱う人を、見て見ぬふりする人を、狙ってきます」
「魔種……人の天敵か。イレギュラーズの皆さんが相手をするのでしょうか?」
騎士の言葉にイレギュラーズは頷く。エルが付け加えて注意を促した。
「マリアナさんは、傷付いた奴隷の人達の、魂を救い上げます。奴隷の人達を、殺してしまえば、マリアナさんの力に、なってしまいます」
魔種マリアナは奴隷として死んだものの魂を幽鬼にする力を持っている。
この戦いにマリアナが介入してくるのは想定してしかるべきだが、そこに奴隷兵の死体があればマリアナにバフがかかると思った方がいいだろう。
魔種マリアナを止める為には、”一人でも多く奴隷兵を生かす”必要があるのだ。
「皆さんも、奴隷兵さんも、お命大事だって、エルは思いました。だから……」
いま戦いの火蓋は落とされて、先陣を切って恐慌状態の奴隷兵達が向かってきている。
「戦域に、目を飛ばします。相手の動きは、見逃しません」
エルが桃色の小鳥と水色の小鳥を飛ばす。同時、エルの瞳がうっすらと色づいた。五感共有によって戦域を俯瞰するレーダーの役目だ。
「来るぞ! 全員構え――ッ!」
討伐隊の部隊長が声を上げるのと同じくして、悲鳴のような声を上げながら奴隷兵達が走り込んできた。
「あ……あああ――ッ!」
「くっ! このような年端もいかぬ子供達も奴隷なのか!?」
灰色に沈み込んだ瞳に涙を溜めながら、奴隷兵である少年が討伐隊騎士に襲いかかる。騎士は悲痛な少年に心を痛め、一歩後退した。その心の隙は戦場にとって致命的である。
騎士の側面に回り込んできたもう一人の奴隷兵の青年が叫び声をあげながら斧を振り下ろす。
「しまった――」
騎士が不覚を口にし、死を覚悟した瞬間。青年の斧をはじき返し、威風堂々とベネディクトが名乗りをあげ、奴隷兵たちを説き伏せる。
「俺達はこの戦いを止めに来た。これ以上君達が虐げられる事が無い様に──未来を作る為に。その為に、武器を納めて話を聞いてくれないか!」
「な……なにを……」
「そんなこと、できるわけ、ない……」
奴隷達は困惑する。当然だ。主より敵とされた者たちが、勇者を名乗り自分達を保護するという。
甘言は絶望的、諦観した状況においてひどく魅力的だ。
だが、彼等は知っている。そうした言葉を疑いも無く信用した者達の末路を。多かれ少なかれ、奴隷となった者たちはそうした甘言に騙され財産を奪われたものたちもいる。或いはそうした話をよく目にしてきたこともあるだろう。
なにより、ここで敵に保護を求めるような真似を、後ろに控える貴族達が黙って見ているわけがない。
彼等は嗜虐することに優れ、いつ如何なる時でもそのチャンスを狙っているのだ。そう、例え自分達が矢面に立つこのような会戦の場であっても。
「むり……むりだぁぁ――!!」
奴隷兵の少年が剣を我武者羅に振るう。訳も分からず振った刃に、何かを斬りつけた手応えを感じた。
「ッ……!」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の腕から血が流れる。
古びた剣ゆえに切れ味は悪く、それ故にひどく痛みが走る。
「あ……ああ……」
傷つけてしまったことに、奴隷兵が怯える。敵を傷つけ仕留められなければ、待っているのは手痛い反撃だ。
傷つけた相手は女性だ。上手くもう一撃入れれば殺せるかもしれない。でも、もし殺せなかったら……その先に起こる未来を想像して、奴隷である少年は息を飲み怯えた。
そんな少年に、スティアは一歩、また一歩とゆっくり近づいていく。
「く、くるな……くるなぁぁ……!」
近づいてくるスティアに、少年は恐慌状態となり、剣を振り上げた。だが、剣が振り下ろされるより先に、スティアが少年に飛びついた。
戦場にありながら膝を折り、両手で少年を抱きしめる。
「大丈夫。もう大丈夫、私達が助けにきたから!」
「あ……う、あ……」
「怖かったんだね、逆らえなくて、選ぶことができなくて……でも、もう大丈夫。君たちが自由に生きる権利は私達が守って見せるから」
傷付いて、鈍く痛む腕のことを気にすることなく、優しく少年の頭を撫でる。
その視線の先には、怒りと恐怖に顔を歪ませた悪しき貴族の騎士がいる。
「何をしているっ!? いますぐその女を殺せッ!!」
苛立たしげに、醜悪な声で怒鳴り散らす悪辣の騎士。その声に少年がびくりと身体を震わせて、僅かにスティアから逃げようとした。
「大丈夫、私達を信じて」
スティアは立ち上がり少年を自らの後ろへと。掛ける声はスティアにだけ許された神聖の声色を帯びる。少年の不安、恐怖を和らげて、過酷な状況にある心を救い上げた。
少年が剣を放り捨て、スティアの腰にしがみついた。
「な、何をしている!? 奴隷のクズが俺の命令が聞けないのか!?」
貴族騎士の言葉に少年の震えは止まらない。
どうしたら、年端のいかない少年をここまで恐怖に染めることができるのか。子供を、人を、なんだと思っているのか。
「……女、なんだその目は……ッ!!」
ギリギリと歯ぎしりを立てながら悪しき貴族騎士が苛立たしげに手にした長銃を構えた。
「あなた達は、人の命をなんだと思っているの? 恐怖で隷属させて、使い捨てるように盾にする。好きで奴隷に落とされたわけでもないのに……そんな権利がどこにあるの?」
鋭く貴族を射貫くスティアの瞳。ギフトと合わさり、貴族はどこか焦燥感に狩り立てられるように怒鳴り散らす。
「そんなもの! 貴族と下民、生まれの差にあるに決まっている!! 我等貴族は生まれながらに優れているのだからッ!!」
銃声が響き渡る。
長銃より放たれた弾丸が、スティアの端正な顔を掠めて飛んでいった。わずかに血が流れる。少年が声を上げた。
「……大丈夫。こんなもの、傷のうちに入らないよ」
スティアの周囲から光りが広がり、魔力が煌めいた。魔力の残滓が花弁のように形を変え咲き乱れる。同時に傷付いた肉体が癒えていく。
「イレギュラーズの持つ魔術や異能か、だが……!」
貴族騎士が長銃を連射する。
脇目を振らない容赦のない攻撃は、たとえ傷が癒やせるものだとしても、致命傷になりかねない。だが――
「女性や子供に平然と凶器を向けるなんてな……同じ貴族として見てはいられない有様だ」
凶弾がスティアに届く直前、割り込むように現れたシューヴェルトが放たれた弾丸を斬り弾いた。
『翠刃』と呼ばれるシュヴァリエ家の騎士式剣術の一である。剣の早さに一目置かれるシューヴェルトであれば、斯様な芸当も可能となるのだ。
「助かったよ」
「なに気にすることはない。奴隷となったもの達を救うのも一つの目的だ。
君もよく武器を手放した。難しい選択だっただろう。だが、その選択――後悔はさせまいさ」
シューヴェルトの言葉に、少年が一つ頷いた。
「後方に味方の騎士達が控えている。そこまで走るんだ。投降を伝えれば、すぐにでも食料(プリン)をもらえることだろう。
それにこの戦いが終わったらローレットとシェヴァリエ家が君たちをサポートしよう。貴族のことは気にするな。僕らがすべて倒してやるからな」
「うん、あとは私達に任せて。さあ、走って!」
スティアの声に後押しされて、少年が走って行く。
「ま、まて――!!」
「待つのはお前達だ。これ以上貴族の評判を貶めるような行為はやめてもらおうか。同じ貴族騎士として、捨ては置けん」
手にした赤き刃の刀を突きつけて、シューヴェルトが同じ騎士格をもつ貴族に言葉をぶつける。
自分達を絶対の正義と信じて疑わないミーミルンド派の貴族達はこのシューヴェルトの反目許さぬ態度に激昂し、それぞれが武器を抜き放ち構えた。
「奴隷達をもっと前に出せ! イレギュラーズがいようと、数ではこちらが勝っているのだ!」
「動かぬ奴隷は殺して肉壁にしてしまえ! 奴等の刃を鈍らせることくらいはできるだろう!」
非人道的な物言いに怒り、そして悲しみを覚えるイレギュラーズ。
奴隷兵達が、武器を振り上げ詰め寄ってくる最中、戦域に辿々しくも力強い声が響いた。
「奴隷に、されてしまった、皆さん! 聞いて、くださいっ!」
貴族達がぶつかり合う戦場で、エルとベネディクトがスピーカーボムを使いながら奴隷達に声を掛ける。
「エル達は、皆さんを救いたい、もう、こんな悲しいこと、終わらせたいんです!」
「俺達はこの戦いを止めに来た。これ以上君達が虐げられる事が無い様に──未来を作る為に。その為に、武器を納めて話を聞いてくれないか!」
ベネディクトは、自らが勇者であることを明かし、動きを止めた奴隷兵達一人一人の目を見据えて声を上げる。
「住まう場所がないのなら、俺達が用意してやれる。だが、生きる決意をする事が出来るのは他でもない君達だけだ。
やりたい事があった筈だ、生きる理由が無いというなら後から考えれば良い!
君達の生きる権利を、俺達が守ってやる! だから戦うのを止めて、この戦場を離れてくれ!」
ベネディクトの力強い言葉に、奴隷兵たちは皆戦場をキョロキョロと見渡した。どうすればいいのか、判断ができないでいる。
後ろには絶対的な主たる貴族達。前方にいた敵だったものたちは、奴隷の解放を謳い投降を呼びかけている。
動きを止めた奴隷兵たちを後押しするように、ベネディクトに続いてエルが想いを吐露した。
「ベネディクトさんの、言うように、皆さんはエル達が、守ります。
誰かが、誰かを、無理矢理従える、なんてあっちゃだめなんです。
なので、悪い貴族さんは、エル達が、めっ! ってします。
エルは、皆様をお助け、出来るなら、たくさんたくさん、手を伸ばします。
だから、もう大丈夫ですよ」
エルの、辿々しくも想いのこもった言葉は、奴隷兵達の黒く沈んだ心に届いただろうか。
その答えは、一人、また一人と、武器を投げ捨て走り出す奴隷兵が証明していた。
だが、ここは戦場であり、また敵は理不尽に人を縛り犯す者達である。
悲鳴が聞こえた。
「あっ……!!」
目の前で起こった出来事に、エルが口を押さえた。
悪しき貴族騎士が、逃げだそうとする奴隷兵の少女を斬りつけたのだ。
「敵前逃亡など許すものか! ましてや、投降するなど万死に価する!」
「人の心を捨てたか。愚かな……!」
咄嗟にベネディクトが踏み込んで、貴族騎士を牽制する。駆け寄ったエルが傷付いた少女をかばった。
「大丈夫……、すぐに、スティアさんに。治してもらうから……あっ……」
傷の具合を確かめ、スティアの元へ少女を運ぼうとしたその時、エルは、いやその場にいたすべての者がその気配を察知した。
――許さない。絶対に。奴隷を生み出す者達も、見過ごす者達も――!!
戦域が、奴隷兵を除いて赤く染まる。
鋭い痛みとともに、鎧が、その下の肌が、叩かれ、切り裂かれ、熱した鉄の棒を押しつけられたかのように熱く、熱く焼かれた。
「マリアナさん……」
魔種マリアナが、憤怒と悲哀を撒き散らしながら、その場に現れたのだった。
●怒りを受け止める
「マリアナ君……!!」
マリアナの出現に、すぐに声を上げたのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。
彼女との邂逅はこれで三度目。けれど、一度目の街で出会った時よりも、二度目の廃村で出会った時よりも、彼女は辛く苦しいように見えて、アレクシアは悲痛に顔を歪めた。
「……世界は変わらない……いつまでも、”私”を生み出し続ける……だから、もう、私の怒りは――わたしは、止まれないんだ……!!」
赤いシミを生み出す、波動が戦域に広がる。身体中に傷と赤いシミを付けられた両軍の騎士達が悲鳴をあげた。
同時、マリアナ周囲に幽鬼達が出現する。これまでの邂逅でその数を百強から三十一体まで減らしているが、それでもその威圧感は十分だ。
「なるほど、報告書で確認はしていましたが、これは脅威ですね。
それに……なんて悲しい瞳をしているのでしょう。魔種マリアナ、正しい怒りを宿して反転した奴隷の少女ですか」
『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)が率先して仲間達の前に飛び出す。マリアナの持つ怒りと憎しみ、そして悲しみの色を認め、それら全てを受け止める覚悟を持った。
「あれが先日友軍を壊滅させたという魔種か! 構うものか、イレギュラーズものとも潰してしまえ! この戦いに勝ったものが正義を体現できるのだからな!!」
ミーミルンド派の貴族は状況を上手く読めていない。だからこそミーミルンド派についていると言えなくもないが、いまこの状況においては愚策も愚策の突撃命令だった。
悪しき貴族騎士達の動きに合わせて、幽鬼達がその場にいるすべての者に襲いかかる。
「勝てば官軍ね、その考えには賛成だが、ちっとは空気読めよな! こんな事態になってるのも元を正せばお前らみたいな連中のくだらない考えが大元だろうが」
『日向の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)が声をあげながら、幽鬼たちの視線を縫って距離を取る。
否応なく戦いは始まっている。パーティーの中には魔種マリアナとの因縁がある者もいるようだが、何を為すにしても、得意レンジを維持しておくことは重要だ。
「幽鬼が残ってる以上マリアナ君は倒れない! 道を開くにはまず幽鬼を倒していく必要があるよ!」
「ああ、聞いてる! 数が多いがやってやれないことはないだろ! グリーフ、カバーよろしくな! タイミングは合わせるぜ!」
「心得ています。敵視は引き受けましょう。存分に腕を振るって下さい」
グリーフの背中は心強い堅牢な盾のようだ。
それを視界に納めながら、ミヅハは手にした大弓を構える。
幽鬼が中空を縦横無尽に動き回り、グリーフへと嘆きの爪痕を残していた。
(俺の弓は神秘属性もついてる。だから幽鬼にも効果は十分のはずだ)
ミズハが魔力を編み、構えた弓に纏わせる。魔力は次第に紫電となって矢に稲光を纏わせた。
十分に狙いを付けて、幽鬼の動きを予測し、息を止めた瞬間、弓を放つ。
凡そ弓矢の射出音とは思えない、雷鳴を轟かせる矢が紫電となって幽鬼達を射貫いていく。
「――!!」
自らを貫ける物理的な矢の存在に、幽鬼達がミヅハをターゲットし向かっていく。
「させません」
その行く手をグリーフが遮る。
完全な盾としての動きで幽鬼達のヘイトコントロールを行うグリーフに、ミヅハは感謝しながら再度弓を引いて魔力を編んだ。
「私の仲間を……友達を……させない……!!」
マリアナもただ幽鬼達がやられていくのを見ているだけではない。
マリアナ固有の呪いというべき、隷属の呪縛が戦域にいるイレギュラーズや騎士を巻き込んで無制限にバラ撒かれる。
「マリアナ君! 手を止めて!
奴隷兵たちは、私の仲間が必ず助けるから!」
アレクシアがマリアナへ言葉を投げかける。
それは、マリアナが自身の意思で止められないことを承知で……それでも、少しでも手が緩むことを願っての言葉。
アレクシアの声を聞いて、マリアナが悲嘆に暮れ、怒りを燃え上がらせる瞳をアレクシアに向けた。
「前にもいったよ……もう次は……。”わたし”を知るあなた達を巻き込みたくない……けど、”私”の邪魔をするなら……!!」
マリアナの怒りの色に合わせて、幽鬼達がアレクシアに襲いかかる。
幽鬼の得意とする連係攻撃を、アレクシアは特段に優れた防御技術でいなし、致命打を避けて距離をとった。
「あなたたちも……もう眠って。マリアナ君を、友達を解放してあげよう!」
幽鬼達がマリアナと同じ奴隷だった者達のなれの果てだと言うことをアレクシアは知っている。
彼女達の中で唯一生き残ったのがマリアナであり、幽鬼達は自らの意思でマリアナを守ろうとしていた。それは幽鬼達の半分がマリアナの周囲を固め守っていることからも見て取れる。
「けど……それじゃいつまでも君達は救われない。怒りのままに、殺して、壊して、何もかも消し去っても、きっとその心に住み着いて裏返してしまった悪魔は生き続けてしまう」
それじゃ、いつまでたっても救われない。
いつまでも、何もないところで怒り続けて、悲しみ続けてしまうよ。
「そうなったら……奴隷だった頃となにも変わりはしないよ……。身体だけじゃない、心も支配から解放されなきゃ、何の意味もないじゃないか!」
アレクシアの放つ燃えさかる魔力片が幽鬼を焼いて火花のごとき花弁を生み出した。
その花弁を縫うように、紫電の矢がさらに幽鬼を貫いていく。
「その通りだな。原罪の呼び声なんてものを聞いた覚えはないけど、それの言いように身体を動かされてるんじゃ、奴隷となにも変わりはしないぜ。
……だからさ、自分で止められないっていうなら――」
ミヅハが弓を構え、アレクシアが魔力を両手に宿らせた。
「本当なら、君の手を取って、話をして、助けてあげたかった。
……だからせめて、君がこれ以上苦しまないように。
その心の傷を深めないように。ここで終わらせるよ!」
覚悟を決めて瞳で、マリアナを射貫くイレギュラーズ。
マリアナは、一瞬目を見開いて……そして、か細く、イレギュラーズに届きそうもない囁きをもらした。
ヴィーグリーズの丘、北東部の戦況はマリアナの出現で大きく変化していた。
マリアナの呪縛が、両軍の貴族騎士達を手ひどく痛めつけていく。
イレギュラーズ達は、マリアナを押さえる部隊と、奴隷兵を説得し貴族騎士達を撃破する部隊に別れ対応していた。
友軍の貴族騎士たちは、イレギュラーズの手助けもあって、何とか戦線を維持していた。奴隷兵達への説得が成功していたことも貴族騎士達にとっては幸いしただろう。そう士気を下げることなく、敵軍への対応ができた。
問題となったのは幽鬼達である。
マリアナを守るため、同じ奴隷となった者達を救うため、幽鬼となっても強い意思を感じさせイレギュラーズ、そして両軍の騎士たちへ襲いかかった。
これまでの依頼で生き残ってきた幽鬼たちもまた、戦いに対しての熟練度を上げてきたかのように絶え間ない連携で攻め続けてきていた。
幽鬼達もまたマリアナ同様に怒りに支配されているようにも見えた。
「……ごめんね。怒っているのはマリアナだけじゃない。君たちもだろう。
理不尽に奪われてきた君たちから、私はまた奪おうとしている」
そのことを理解する『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は、僅かに瞳を伏せ言葉を零した。
幽鬼達、この一体、一体が、本来生きていてしかるべき人々だった。
どのような経緯かはわからない。けれど奴隷として落とされて、理不尽な暴力に見舞われて、意思を奪われ、自由を奪われ、そして遂に体力の限界を迎え倒れて行った者達。
死後、魂はマリアナに救われた。生き残ったマリアナを守る為、共にこの世界の理不尽に怒りをぶつけるために。
そんな者達を、いま、また力によって消し去ろうとしている。
宵闇の刀振るい、乱撃を繰り出すシキは、その一撃一撃にいつも以上の重みを感じた。
アレクシアが幽鬼を引きつける。
幽鬼たちの視線が逸れたその隙に、シキは足に力を籠めて疾駆した。
「――でもそれでも。どうか、君たちの分まで背負わせてほしい。その感情を、想いを、決して忘れないために」
アレクシアを周囲を縫うように放たれた剣閃が幽鬼たちを消滅させる。
シキは残心のままに、マリアナへと視線を向けた。
「マリアナ。君を終わらせる。
悲しいくらいに強い君の怒りも、君の悲しみも、君の絶望も――ぜんぶ憶えてる」
初めてであった時、どうすればいいかはわからなかった。
鬼の面で隠されていたその表情の裏に、どれだけの想いがあったのかも。
けれど、素顔をみて、彼女の名前を呼んだとき、シキはマリアナを助けたかった、とそう想った。
その想いはいまも変わらない。
魔種となってしまった以上、救いはない。けれど、その魂が終わるとき、少しでもしがらみから解放されてくれていれば――それが救いになるかもしれなかった。
だからなんとしてでも止めてみせると、シキは強く強く武器の柄を握りしめた。
「そう……なら、止めて見せて……私のこの暗い感情を受け止められるなら……!!」
マリアナの身体中に走る傷痕が血のように赤く滲む。
マリアナの周囲に控えていた幽鬼たちがまた数体マリアナから離れてイレギュラーズへと襲いかかる。
「半数は動かないなら、遠距離から削れるかと思ったけど、そう上手くはいかないみたいだぜ」
ミヅハの言葉に、ロロンは丸い球体の身体を動かして、肩を竦めるように見せた。
(まあ、そう都合良くこちらの有利になるように動くわけはなかったね。とはいえ、やることに変わりはないのだけれど)
ぽむぽむと地面を跳ねながらロロンが自身にバフをかけ最大効率の攻撃をしかける。生み出された氷槍が横一線に並んだ。
(その動き、待っていたよ)
幽鬼達の連携攻撃は常に近い仲間と連動して動く。故に、同じ軸線上に並びやすく、例え縦横無尽に動き回っていようと、連係攻撃のあとには隙が生まれるものだ。
ロロンの読み通り、列に並んだ幽鬼を、生み出した氷槍で一気に貫く。幽鬼たちの半透明の身体が凍結するように霜が走り、怨嗟の声をあげる。
(しかし……これらが全部元奴隷か……)
ロロンはバフによってやや凍結気味になり形の変わった身体を転がしながら、マリアナ、そして幽鬼たちを見て思う。
それは奴隷というものについてだ。
奴隷という制度、システムについてロロンは一定の評価をしていた。つまり、そう悪いシステムではないと。
たしかに、今回の事件で奴隷制度の影の部分が取り上げられている。目の前に対峙するマリアナや幽鬼たちも、その尤もたる例だろう。
だが、同じ奴隷でも、主人との信頼関係を築けた例も存在する。奴隷にとっては幸運な部類に入るのかもしれないが、奴隷というシステムによって人的コストを手に入れることは悪ではないのだ。
(今回でいえば、憤怒で反転したということらしいし、よほど飼い主はろくでなしだったらしい)
マリアナの”飼い主”だったドルヘンは、奴隷の主人としては最低であるのは明白だ。ただ由緒ある貴族たちが優良かと言われれば疑問を持つだろう。現にいま対峙しているミーミルンド派の貴族は奴隷兵を使い自らの盾として、逃げる者を殺そうとまでしたのだから。
このことは、ロロンとしては良いデータになったと感じた。
奴隷を飼うリスク。その一例としてリアルなデータだ。
(……ニンゲンの飼育って想定より難しいね。こんなにたくさんの怨みを生み出すんだから)
幽鬼達を氷槍で仕留めながら、ロロンという不可思議な生物は自身の奴隷に関する項目の修正を考える。
ある意味、奴隷というものについて一番冷静に考えてるのはロロンだったのかも知れない。
●絶死の楔
「――!」
グリーフが、前後左右から襲いかかる幽鬼の鋭い爪をはじき返す。
グリーフはルーンシールド、そしてマギ・ペンタグラムという鉄壁の障壁を展開し、幽鬼達の攻撃を悉く防いでいた。
敵視を稼ぎ続けるのは難しいが、幽鬼を引きつけ、また仲間達へと襲いかかる幽鬼達の攻撃を庇うことで、大きなダメージアドバンテージを得ていた。
人数差のあるこの戦況で、イレギュラーズが優勢に立ち回れたのは間違い無くグリーフの壁役としての活躍があってこそだろう。
「…………」
多くの攻撃を受けながしながら、グリーフはマリアナ達のことを思う。
感情に支配されたものたち。
愛情と憎しみならば、ぶつけられた記憶はあった。
けれどそれは自身の記憶であり、目の前のものたちの怒りや苦しみを本当の意味で”わかる”ことはできないだろうと感じていた。
だから、グリーフから彼女達へかける言葉は見つからなかった。
「――ただ、怒りや憎しみといった感情は、発露しなければ澱みとなって溜まり続けるものかと思います。
でしたら、どうぞ、私へぶつけてください。どれほどのものであっても、傾聴し、受け止めましょう」
どれだけの攻撃をぶつけられても自分は大丈夫だと、決して逃げることなく幽鬼たちへと立ち向かっていく。
怒りのままにグリーフに向かう幽鬼たちは、届かない攻撃を繰り返し、けれど尽きぬ怒りをぶつけるように、何度も何度も攻撃を放っていく。
「グリーフ君? ちゃんかな? は、大丈夫そうだけど……だからといって全部が楽になるわけじゃないよね……!」
バスティスは戦況をよく見ていた。
マリアナ対応班におけるメインヒーラーはバスティスだ。アレクシアもフォローをしてくれるが、あくまでフォローであり、仲間の体力管理はバスティスに任されていた。
数こそ減ってきたが、幽鬼達の連携は息を呑む間もない。次々にリンクし、攻撃を繰り返していた。
問題は幽鬼だけではない。
マリアナ本体の放つ呪縛による全体ダメージが、時間を経過するごとにジワジワと効き始めてくる。
「これだけのことができるくらい、世界を呪うなんてね……」
その脅威的な攻撃を前に、バスティスは思う。
この世界の理に則れば、マリアナのような存在が生まれてくるのは必然に思えた。
(人として扱わず、命を含む総てを奪い取り、絶望と怒りを与え続けたら、呼び声の一つや二つ聞こえていても不思議ではない、か……)
仲間達の中心に移動しながら、喉を慣らして福音を響かせるバスティス。天使の歌声は、やがて傷付いた仲間達を癒やしていく。
体力は戻せる。しかし気をつけなければならないのは呪縛によって流血が止まらなくなる事態だ。
スティアが合流すれば、その問題も解決しそうではあるが、いまはまだバスティスが体力の回復を行うことで対応せざるをえなかった。
肌を走る痛みを見て思う。
「魔種になった要因が容易に想像できるのも困ったものだね」
それは、単に奴隷が苦しみから反転したということではない。
肌を走る傷の一つ一つが、マリアナが受けてきた苦しみの証であり、怒りの根源に他ならないのだ。
全身をこれだけ傷つけられて――それでもなお、狂わずにいられる者がいるだろうか。
バスティスは魔力を拡散させながら瞳を伏せる。
マリアナの痛み、苦しみ、その辛い思い出を目の当たりにして……それでも、魔種となった以上倒すほかはない。
「幸せであった頃の君の為に、全力で行くよ。あたしの前で、仲間を倒れさせはしない!」
バスティスは、より強い意思と共に、仲間達の支援を続けるのだった。
――マリアナ対応班が多くの幽鬼たちを消滅させた頃。
「これで、終わりだ――!」
凄まじい速度で放たれるシューヴェルトの一閃が、貴族騎士の筆頭に直撃しついに撃破にいたる。
「この場のトップは、俺達が下した! これ以上無用な争いは不要だ。だが、まだやるというのなら、俺達が相手になるぞ」
シューヴェルトと共に、筆頭を下したベネディクトが勝利を宣言し、貴族騎士達の抵抗を終わらせる。
「奴隷兵にさせられてた方達も全て保護できたよ。こっちは、なんとか片付けられたかな?」
スティアの言葉にエルが頷く。
「向こうも、なんとか、凌いでるようです。私達も、向かいましょう」
悪しきミーミルンド派の貴族部隊はいまや戦意を失い崩壊している。あとは友軍の騎士達に任せても大丈夫だろう。
「部隊の再編をお願いするよ。傷が深い人は無理せず一度戦域から離れてね」
スティアは積極的に友軍の騎士達に声をかけ、残る部隊を再編する。
ここまで、スティアの支援もあり友軍に大きな被害はでていない。残る敵貴族騎士に対応する部隊を残し、まだ戦える騎士数名を連れ、奴隷兵対応班はマリアナの元へと走った。
移動中、ベネディクトがエルへと近づく。
「これを――」
ベネディクトはエルに、勇者の証を渡す。
「これは……大切なもの、なのでは?」
「ああ。あくまで貸すだけだ。
……勇気を持つ者こそが勇者と呼ぶのなら。この場に居る誰もが勇者になれる筈だ。
エル・エ・ルーエ。君もその一人だ」
「ベネディクトさん……ありがとうございます。
エルは、少し、不安でした。
マリアナさんと、向かい合ったとき、エルの、エル達の気持ちを、ちゃんと伝えられるか……」
マリアナという少女に出会い、彼女のことを救いたいと願った。
魔種は倒さなくてはならない、だからいまも苦しむ彼女に正面からぶつかりたかった。
「でも、いまは、勇気を持って、マリアナさんにぶつかろうと思います!」
「ああ、いこう!」
エル、ベネディクト、そしてスティアとシューヴェルトは共に仲間達が戦うマリアナの元へと走った。
四人が仲間の下に辿り着いた瞬間、ミヅハの放った矢が最後の幽鬼を消滅させた。
「よし! これで、後はお前だけだぜ、マリアナ!」
「ああ……みんな、逝ってしまったのね……これで、もう、私だけ……」
瞳を伏せるマリアナは、しかし戦いを止めるそぶりを見せることなく、より強く呪縛の波動を解き放つ。
「マリアナ君……もうやめて、と言っても止まれないんだね……。
本当なら、君の手を取って、話をして、助けてあげたかった」
アレクシアは自らの力不足を恨むように辛そうに歯噛みした。
マリアナは薄く笑って言う。
「私も……あなた達とは、もっと前に出会いたかった……そうして、もっと、話して見たかった……」
「なら、いまからでも……」そう、言葉にしようとして、それは無理だと言うことを改めて痛感する。
目の前にか弱く立つ奴隷服の少女。
彼女から発せられる気は、人として絶対に受け入れられない、邪悪さを纏う。
魔種――人に仇なす存在である。
アレクシアはグッと拳を握りしめて……不幸にも魔種へと反転した彼女に覚悟を突きつけた。
「……だからせめて、君がこれ以上苦しまないように。
その心の傷を深めないように。これで終わらせるよ!」
アレクシアが練り込んだ魔力を射出する。
幽鬼の盾を失ったマリアナが回避しようと走るが――遅い。対象を逃さず追い詰めるアレクシアの《リコリス・ラディアータ》が苛烈な火花を散らしながらマリアナに直撃し、花弁の如き魔力残滓を撒き散らした。
「――ッ!!」
爆煙の中からマリアナが飛び出す。痛みに耐え涙を零しながら身体を抱き込めば、アレクシアの放った魔力片と等しい”何か”を生み出して射出する。
「反射行動……! くぅ――ッ!」
マリアナの特性である反射行動は見越している。また反射される攻撃は、自身の攻撃そのものであることも。
技の特性は理解してるが、身をもって自身の技を味わう機会はそうはない。アレクシアは桃花結界を全開にしてマリアナから射出された魔力片から身を守った。
爆煙に包まれるアレクシアの後ろからシキが飛び出す。
「マリアナ……君を救うために――ここで終わらせる!」
マリアナとの距離を計りながら、直死の一撃を練り上げて、生み出された黒き顎がマリアナを噛み砕く。
「これが私の覚悟。私が君を連れていく証。そして、ただの私のわがままだ」
「うぅ……! まだ……まだ、止まれない……! 私の心を燃やす、この怒りがあるかぎり……!」
マリアナの噛み砕かれた傷痕から、黒い焔が燃え上がり巨大な顎を生みだして、カウンターをするようにシキの身体を貪り喰らう。
膝を付いたシキを確認したバスティスが、魔力を全身に練り上げて賦活の力を送り出す。
「やっぱり、もう止まれないんだね……だったら、こんな負の連鎖、断ち切ってみせる」
バスティスを中心に神域が展開し、響かせる歌が傷付いた味方に活力を与えてく。
マリアナはもう止まれない。たとえ、どんなにつよく願おうとも、彼女の心を黒く染め上げた怒りと絶望がそれを許さない。
いまイレギュラーズができること、為すべき事は――
「魔種相手に加減して勝てる見込みはない、か……だったら、全力でいかせてもらうぜ!」
「あぁぁ――っ!! もう、やめたい――いや、許せるものか! こんな世界!!」
叫ぶマリアナの呪縛が広がる。
ミヅハを守るようにグリーフが障壁を張った。その後ろからミヅハが弓を射る。
「マリアナ、いまはそんな風には思えないかもしれないけど――世界ってのはお前が考えてるよりずっとマシなんだぜ!」
大樹の剣にして、新芽の矢が空気を切り裂く。それは神聖にして魔性を予感をさせる魔剣を彷彿とさせ、錬成されるは美しき剣の矢。
ミズハの放ったミスティルテインがマリアナを貫く。果たして、黒く染まった瓜二つの魔矢が生み出され、ミヅハへ向けて射出された。
「それを通すわけにはいきません」
あらゆる攻撃に対応する、万能にして無敵の盾。この戦いにおけるマリアナの天敵にして、キーポジションに立つグリーフが、反射された魔矢に真っ向から立ち向かう。
展開した障壁が暗き魔矢の進行を止める。
「……私は寿命もなく死なない存在です。ですから。皆さんのことを、私は記憶し続けます。穏やかな眠りを願い続けましょう」
「穏やかな眠り……私にそれが許されるの……?」
「当然です。誰にだってその権利はあります。それを貴方に与えるために、私達はここへ来たのですから」
魔矢を受けきったグリーフ。その前にエルが一歩踏み出す。
「マリアナさん。
エルが、エル達が、やって来ました。
マリアナさんが、大好きで、会いたくて、止めたくて、やって来ました」
エルの嘘偽りのない言葉に、マリアナは目を見開いた。
最初の邂逅から、今日に至るまで、エルとマリアナはまるで引き合うように結びついていた。
マリアナの事情を知ったとき、誰よりも先にマリアナの身になって怒りの声を上げたのは、エルに他ならなかった。
偶然で会った敵同士の間でありながら、エルにはマリアナを見捨てることができなかったのだ。
「その、心に溜まった膿を、全部、吐き出してください。
エル達は、ちょっと頑丈なので、大丈夫ですよ。
安心して、エル達に、ぶつかって下さい」
魔種マリアナはここで倒さなくてはならない。そのことに、エルは悲しみの色を見せるわけにはいかない。必ず”救い”を与えるために、笑顔を浮かべてマリアナへと向かっていく。
痛みと、嬉しさと、嘆きと、悔しさと――マリアナは複雑に顔を歪めて、瞳から涙を零す。
その涙を斬り飛ばすように、シューヴェルトが接近する。
「生きる道を縛られ、復讐の道に走った少女よ。
抗えない衝動に隷属するしかないと言うのなら、いま解き放ってやろう――安らかに眠り給え」
マリアナの呪縛にも等しい、禍々しき闇の力の一撃が、呪刻と奪命の煉獄へとマリアナを誘う。
「あ、ああぁ――!」
だが、マリアナの身体は、心を埋め尽くす黒い怒りは、まだ終わりを認めようとしない。
黒き剣が現出し、シューヴェルトを切り裂き弾き飛ばす。
マリアナの身体中に走る傷痕が、赤い血を滲ませて凄惨に輝いた。
呪縛が、尚も戦域へとバラ撒かれる。
「いけない! みんな、集まって!」
スティアが皆を集めて破邪の結界を広げる。幾度となく付けられた赤いシミを消失させ、生命の活動を正常なものへと転換する。
イレギュラーズだけではない。この戦いで共に戦った騎士たちも含め、誰一人倒れさせたりはしないと、強い意思と行動力でスティアが魔力を編み上げる。
「私も手伝うね」
傷付き、可能性の光に縋った者もいる。アレクシアはスティアと共に魔力を練り上げて、仲間達の支援へと回る。
二人の魔力は混ざり合い、花開く。魔力の残滓が色とりどりの花弁となって舞い散る中、終わりの時は近づいていた。
「ボクの主砲なら確実に止めを差すことができると思う。けど――」
ロロンの必殺技というべき技はパーティー中最大の攻撃力を誇る。ただし、技の特性上対象に取りつくことが必要条件だ。
マリアナの運動能力が低いとはいえ、魔種であることには変わりない。確実に取りつく必要があるのだと、ロロンは言った。
「ならば、その道は俺が拓こう」
ベネディクトが、名乗りを上げて、一歩マリアナの間合いへと踏み込んだ。
「マリアナ、君が自分で止まる事が出来ないというのなら。今度こそ、俺達が止めて見せる!」
弾けるように飛び出すベネディクト。
マリアナを知った時、すぐに止めることができなかった。それは様々な要因あれど、真にマリアナを止める覚悟が足りてなかったのかもしれない。
けれど今は違う。
あの戦いの時に為せなかった事。それをいま、成し遂げてみせる!
「オォォ――ッ!!」
一足飛びに疾走し、マリアナの間合いから自身の得意とする至近へと踏み込むベネディクト。
振り貫くは苦難を破り、栄光を掴み取る一手。蒼銀の腕がマリアナの胸部を打ち貫く。
「あうぅ……!」
マリアナの身体から、黒銀の腕が生み出される。隷属からの解放であり、力で従えようとするものに、同じ力を返すマリアナにだけ許された絶対反射だ。
振り抜かれる黒銀の腕をベネディクトは甘んじて受ける。だが、ただ受けるだけではない。その威力、その反動をすべて力に転換し、回転させた身体からさらなる一撃を繰り出していく。
「マリアナ、約束するよ。
もうこんな悲しい事が起きないように。
君の様な子がまた生まれない様に、誰かが君の様に怒りに支配されない様に――ロロン!」
「わかってる! これで終わりだよ!」
ベネディクトのバックハンドブロウを受けて蹌踉めいたマリアナに、ロロンが取り付く。
流体ボディであるロロンはそのまま、己の裡で残った魔力を急速に加速させていく。
「これで反撃されると、こっちの身が持たないけれど……そこは賭けかな……!」
ロロンの身体が魔力の加速度に合わせて発光し、限界を向かえた魔力が一気に膨れあがって、大爆発を引き起こす。
轟音と衝撃に爆煙が広がって、イレギュラーズは目を細め勝負の行方を見守った。
爆煙が、ゆっくりと消えて行く。
爆発の中心――そこには、いまだ膝をおらないマリアナがいた。
「仕留めきれなかった……? いや、手応えはあったはず……」
ロロンの言葉を裏付けるように、マリアナの様子は、どこか違っていた。
意識を失い、いやそれどころか生気を感じさせず今にも倒れそうな、そんな雰囲気を纏っていた。
だから、イレギュラーズがマリアナの下へ近づこうと足を進めた時、それは起こった。
マリアナの身体から歪な黒い波動が飛び出して、イレギュラーズに――否、戦域に存在するすべての生命目がけて、黒き波動の楔が飛びかかった。
「絶対反撃……!?」
その場にいる全員が思った。
マリアナの特性にして、マリアナにのみ許された隷属への叛逆。
仕留めきれなかったことによる反撃と誰もが思ったが、同時にその楔を目にした者全員がこう感じた。
即ち、貫かれれば――死ぬと。
それはマリアナの最大にして最後の攻撃。自らの死をもって発動する『絶死の楔』だった。
自らが殺される攻撃には、等しく死を与える反撃をもって、世界を終わらせる怒りの終着点。
その秘められた邪悪な罠が、果たして発動した瞬間だった。
「――ッ!!」
全員が動けなかった。驚愕と恐怖。差し迫った命の終わりを前に呼吸すら止めていた。
その中を、グリーフが一人動いた。
全員をかばいきることはできない、けれど一人でも多く命を繋ぐために。決死の盾となって障壁を展開する。
絶死の楔がグリーフの展開した絶対防御の障壁にぶつかる。
「くっ!?」
グリーフの目が見開かれる。
物理、神秘を無効化する二枚の障壁が、音もなく突き破られて消失する。
瞬間、グリーフは理解する。
この楔は、あらゆる理を超越し、因果を無視して死という結果だけを与えるものなのだと。
時がスローモーションのようにゆっくりと流れる。
イレギュラーズの誰もが、瞬間的に可能性を模索した。自らの可能性の消費しきっても大いなる奇跡を起こそうとしたものも居たかも知れない。
けれど、奇跡を引き起こしたのは、そんな世界のシステムではなく……巡り合わせた縁と、救いを願い続けた二人の声だった。
「――マリアナさん!」「――マリアナ君!」
エル、そしてアレクシアの声に反応するように、絶死の楔が、イレギュラーズの心臓の手前で停止して、消失した。
そして、まるで時が動き出すように、マリアナはゆっくりと崩れ倒れて行った。
●そうして彼女は――
「マリアナ(さん/君)!」
エルと、アレクシアを先頭にイレギュラーズが倒れたマリアナの下へ駆け寄った。
抱えた肌に、すでに熱はなく、うっすらと開かれた両の瞳に光はない。
それでも、マリアナは小さく口を動かして、言葉と共に息を吐き出した。
「……ありがとう……」
頭の中で声を聞いたときから、マリアナは”わたし”ではなく”私”になっていた。
止まれなかった。あらゆるものを敵と見做して、復讐に怒りを燃やした。
止まれなかった。復讐を為してもまだ、心の怒りは晴れなかった。
終わることのない怒りは、命を失っても、溢れ出ようとした。
「……声、聞こえたよ……」
でも、そんな暗く寒い心の中に、届くものがあった。
イレギュラーズ達の声、想い。その優しさと強い意思がとても眩しかった。
そして、最後の時。
エルと、アレクシア。マリアナと出会ってから思い続けた二人の声が、マリアナにこれ以上の犠牲を踏みとどまらせた。
「……ありがとね。名前、呼んでくれて……」
いつか聞いた台詞。
あの時は、次ぎに拒絶の言葉があった。けれど、今回は――
「来てくれて……嬉し……かった……わたしを……止めてくれて……あり……が……と……」
最期の息を吐くように、マリアナの身体から力が抜けた。
奴隷にされて、何もかも奪われた少女、マリアナ。
人を憎み、世界に怒り、復讐の果てに打ち倒された魔種。
イレギュラーズに見守られる中、そうして彼女は――微笑みと涙を浮かべて、人生に別れを告げた。
「マリアナ。君の名前を、私は生涯忘れない」
マリアナの微笑みを脳裏に刻み込み、シキは別れを告げる。
「優しい心をもった貴方が安らかに眠れるように、あとのことは任せて下さい」
人として眠れる墓所を用意すると、スティアは約束した。
「最期……自らの意思で反撃を止めたのだとしたら……彼女は奴隷から抜け出せたんじゃないかな」
意思の強制。隷属から正しく解放されていいれば、きっと安らかに眠れるはずだとロロンは言う。
「おやすみ、マリアナ……どうかこの眠りが、良い眠りであります様に」
マリアナの薄く開いた目蓋を、ベネディクトが優しく閉じる。
もう二度と、同じようなものを生みだしてはならないと、決意を新たにした。
「他の奴隷にされた者達のことは心配するな。シュヴァリエ家の名にかけて、自立できるようにサポートしよう」
シューヴェルトはそう、約束する。ベネディクトと共に、この戦いに巻き込まれた奴隷兵達の世話をする予定だ。
「……安らかに」
「ああ、こんな悲劇これっきりで十分だぜ。もう二度と起こさないようにしないとな」
グリーフと、ミヅハが黙祷し、マリアナの安寧を願った。
「悲劇の原因は国の腐敗もあると思う。だから、国が動いてくれるように、私達も働きかけてみるよ」
だから、見守っていて、とバスティスは決意と共に願った。
ヴィーグリーズの丘に、一陣の風が吹く。
「優しいマリアナさんの事、エルは絶対に、忘れません。
マリアナさんのように、苦しむ方々を、エルはこれからも、助けます」
祈るように、エルはマリアナの手を握り、約束を交わす。
大好きな彼女との、決して忘れることの出来ない約束を。
エルの側に座っていたアレクシアが立ち上がる。
「マリアナ君……君の名前も、怒りや悲しみも、私は絶対に忘れない。
いつか必ず、新しい"君"が生まれないようにしてみせる……約束する。
だから、今はゆっくり休んでね……おつかれさま」
言葉にして、そして自らのギフトを行使するアレクシア。
この戦域で、消滅していった幽鬼たち、そしてマリアナの魂の欠片をその身に集め――自身の魂に刻み込んだ。
奴隷だったものたちの、辛く苦しい記憶に泣きそうになる。
けれど、涙を流すわけにはいかない。
「頑張らなきゃね……悲劇を失くす、ヒーローにならなきゃ」
決意を込めて、一歩歩き出す。
ヴィーグリーズの丘北東部。
奴隷の少女と、一連の事件の因縁は、こうして決着を見るのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。
皆様の活躍もあって、戦いは勝利、魔種マリアナも救いを受けて生を終わらせました。
今回が初参加の方も含めて、一連のシナリオにご参加頂きありがとうございました。
願わくば、このお話しが皆さんの心に残ればと思います。
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
いよいよ決戦となりました。
元奴隷少女の魔種マリアナを止められるのは皆さんだけです。
どうかこの戦いに、魔種マリアナに終わりを。
●依頼達成条件
魔種マリアナの撃破
■オプション
奴隷兵を一人でも多く戦闘から離脱させる
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
情報は正確ですが、情報外の出来事も発生します。
●このシナリオについて
『<ナグルファルの兆し>隷属の末路』のアフターアクションにより発生したものとなります。
前回シナリオはこちら(読まなくても問題ありません)
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5755
●魔種マリアナについて
奴隷服を身に纏い、ゆらりゆらりと歩く少女。憤怒に連なる魔種。
元奴隷であり、奴隷であること以外一切をなくされた純種の女の子です。
名前はマリアナ・セルネイ、貧困層の生まれで父アドス、母マーサと三人家族。
貧困ながら幸せな生活を送っていたが、借金取りと奴隷商人を兼ねていたゲルヘンの弟ドルヘンによって両親を殺害、自身も殺されかけた後ドルヘンの奴隷となる。
その後暴力によって隷属を余儀なくされ、ある日魔種へと反転する。
誰も助けてくれない、汚れ腐った世界を全てぶち壊すという怒りとともに。
ドルヘンを殺し、ドルヘンを唆したゲルヘンをも殺し復讐を果たしたが、怒りは消えることはなかった。
いまはもう、衝動に任せるまま奴隷を扱う者達を殺し続けている。
前回の戦いでわかった能力は以下。
・隷属への抗い(自付与・反動1)
戦闘開始後1ターン経過で自動発動。自身のHPが最大値の場合自傷行為によってHPを減らします。HPが最大値を下回ってる場合発動しません。
・隷属の呪縛(物理・特レ・万能・識別・必中・防無・疫病・流血)
魔種マリアナのHPが最大値を下回ると、手番時に自動発動。回避不能の全域攻撃ですが、威力はそこまで高くありませんが、一般兵士には手痛いものとなるでしょう。
・隷属からの解放(Exスキル)
魔種マリアナへの攻撃は、攻撃を行った対象に攻撃から1ターン後、反射される。
この際の反射攻撃は、受けた攻撃の能力と同じものが反射され、攻防判定をすべて無視して必中(クリーンヒット判定)する。
ただし、この反射は庇うことができる。
庇った場合、全て必中(ライトヒット)判定となり、命中回避判定以外の攻防判定が行われる。
・魂の救済(Exスキル)
幽鬼が存在する限り魔種マリアナのHPは1以下にならない。
HPが10%未満となると、幽鬼一体と融合し、HPを最大値まで回復し、全てのBSを解除する。
この行動は魔種マリアナの手番を消費しない。
幽鬼が一体も存在しない場合、このスキルは発動しない。
●幽鬼について
魔種マリアナを守るように周囲を固め、視界に映る全てのものを殺し、破壊します。
その数、31。
能力的にはそう強いモンスターではありませんが、数の暴力が厄介です。
また物理攻撃に対して耐性が強めです(効かないわけではありません)
一体の攻撃に合わせて近場の二体までが手番を飛ばして連携攻撃してきます。
半数は魔種マリアナの周囲から動くことはありません(近接距離まで近づかないと攻撃してきません)
●周辺部隊について
ヴィーグリーズの丘北東部ではイレギュラーズ擁する幻想貴族と、ミーミルンド派の悪徳貴族が小競り合いを続けて居ます。
部隊は共に25と互角の数ですが、悪徳貴族はそれに加え15の奴隷部隊を編成しています。
奴隷部隊は戦闘能力こそ低いものの、イレギュラーズ友軍の貴族達の士気を低下させます。
幻想貴族の兵士達は勇者であるイレギュラーズ達の指示を違うことなく聞き入れます。指示がない場合、奴隷兵及び悪徳貴族とのみ戦います。
奴隷兵は説得によって投降、保護することができます。この説得は幻想貴族にしてもらうことも可能ですが勇者であるイレギュラーズの言葉の方が効果的でしょう。
奴隷兵は放っておくと毎ターン死者がでます。奴隷兵が死んだ場合、五割の確率でマリアナの幽鬼となります。
悪徳貴族を全滅させると自動的に奴隷兵は投降します。
なお、マリアナがスキル《隷属の呪縛》を発動した場合、”奴隷兵以外”の全ユニットにダメージ判定が行われます。戦域から離脱した場合のみ、これを回避できます。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●戦闘地域
ヴィーグリーズの丘北東部が戦域になります。
広大な丘で、一時期村があったのか石造りの廃屋が幾つか点在しています。
障害物はあり隠れたりも容易ですが、見渡しはよく自由な戦闘が可能でしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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