シナリオ詳細
<鳳圏戦忌憚>三本矢三つ巴、斯くて戦火は暁を飲むか
オープニング
●三つの依頼
――鳳圏よりの使者榛名 慶一大佐はこう述べた。
現在鳳圏の民は平和に、そして裕福に暮らしている。
飢える民もなく、物は豊かで人々は笑顔だ。
王への信用も厚く、民の心はひとつに纏まっている。
現状不要なのは、戦争中の隣国である鬼楽の存在なのだと。
「壱壱七戦線は鬼楽兵と鳳圏兵のにらみ合いによる膠着状態にあります。
ここへ攻撃をしかけ、戦況を覆すことが狙いです。
次世代の勇者称えられるほどのローレット・イレギュラーズならば、きっと鳳圏軍人の士気を高めこの戦線を勝利に導けることでしょう」
――鬼楽の軍長玉響 尊はこう述べた。
「六六八戦線は一進一退の状態でよ、うちの連中もバテてきてる。
けどそこへローレットが参戦したらどうだ? 連中もやる気を出すぜ?
そこから一気呵成に敵戦力を食い破って鳳圏に攻め込むって寸法よ」
確かに、ギアバジリカ戦やリヴァイアサン戦など多くの伝説をもつローレットが加わったなら、血気盛んな鬼楽兵士はテンションを上げるだろう。
勢いよく戦ってみせればなおのことだ。
「鳳圏ってのは血も涙もねえような連中だ。もしその国でヒデー目にあってる奴がいるならウチの国で面倒見てやったっていい。まずは、冷血非道な鳳王とやらをぶっ殺してやろうぜ。な!」
――伎庸に協力する久慈峰少佐はこう述べた。
「後日、伎庸にできた鳳圏占領地を襲撃し、アンデッド兵器工場を破壊、そして鳳圏兵士を撃退します。これには我々と伎庸の兵も参加しますが……やはり主力として動くのはローレット・イレギュラーズの皆様になるでしょう」
幻想、天義、深緑妖精郷、鉄帝、海洋、ラサ、そして豊穣。いくつもの国で危機を救ったローレットが前線に出て戦うことは、それだけで伎庸の兵に士気をもたらすという。
「我々は必ず、このような計画を推進する技術将校を撃ち倒し、鳳圏にあるべき姿を取り戻させる所存です。どうか皆様、ご協力の程を――」
鳳圏、鬼楽、伎庸。三つの組織から同時にローレットへと舞い込んだ依頼は、中立的立場からすべて平等に受諾することとなった。
まずはその経緯を、ふりかえることにしよう。
●戦乱
ヴィーザル東部に位置する鳳圏、鬼楽、伎庸という三つの小部族はそれぞれノーザンキングスに加わることなく独自性を保っていた。
しかしこの三つが平和だったかといえば、そうではない。
鳳圏は独立国家を名乗り、同時期に鬼楽もまた国家独立を宣言。両国は戦争状態に入り、その戦火は隣国伎庸にまで燃え移った。
鳳圏は鬼楽と戦争し領土の奪い合いを続ける一方、伎庸へも侵攻し土地を占領しはじめたのだった。
伎庸へ侵攻する兵力は奇妙なことにアンデッド兵ばかりが起用され、ローレットが請けた調査依頼によってそれが敵国兵を転用したアンデッドであると判明した。女子供でさえも容赦なく転用するその姿勢に怒りを抱いたイレギュラーズも少なくない。
一方で鳳圏国民たちはその実情を知らず、拡大した領土で平和に過ごしていた。
そんな中――。
鳳圏からは『戦争終結』のために鬼楽への攻撃を。
鬼楽からは『同胞への報い』のために鳳圏への攻撃を。
伎庸からは『占領地奪還』のために軍および兵器工場への攻撃を。
それぞれローレットは依頼されたのであった。
ローレットは中立の立場からそれぞれの依頼を同時に受諾し、20名のローレット・イレギュラーズに所属を選択させることとした。
受諾条件はローレット同士での直接戦闘を行わないこと。同じ戦地に配置させないこと。
かくして、戦乱は幕を開ける。
- <鳳圏戦忌憚>三本矢三つ巴、斯くて戦火は暁を飲むか完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月18日 22時10分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●明日の暁は、今日の黄昏と同じ色をしている
木の葉が風に舞い、木の柵を抜けて砂地へ落ち滑っていく。
渇いた砂が微風に舞うも、ひしゃくで水を撒く鳳圏軍服の兵士によって沈んだ。
「この辺は随分渇いてますねえ。伎庸の人らはちゃんと飯を食えてるんでしょうか」
「渇いた土地には渇いた土地なりの作物があるもんさ」
バケツに水をくんで川辺よりやってきた兵士が、ひしゃくをもつ兵士の空バケツとそれを交換した。
「連中にとって鳳圏の豊かな土地は魅力的だろうがな」
二人が振り向くと、そびえる軍事基地。伎庸の部族を示すロゴマークがペンキで乱暴に塗りつぶされ、そのうえに鳳圏の旗が貼り付けられている。
ここは伎庸占領地。
鳳圏との境にある……否、あったというべき土地である。
かつてここで暮らしていた伎庸の兵や市民たちは抹殺ないしは退去させられ、反撃に出ようにも鳳圏の軍事力を恐れて簡単に動けない状態にあった。
しかし『侵略』というものは急速に追い詰めるとすべてを失うものだ。補給の難しい敵地で破れかぶれの反撃にあい撤退を余儀なくされるということは歴史上あまたにある。そんな戦いで残るのはただ消耗した両国という不毛のみなのだ。
ゆえに、攻め方は本来慎重を期さねばならぬ。しかし鳳圏は急速に、そして劇的に侵略を行い、結果として――。
「ぐうっ!?」
川辺へ再び水くみにいった兵士が茂みから伸びた手に掴まれ、強引に引きずり込まれる。
頭を下にして寝かされた兵士に、力強く『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)の肘がたたき込まれた。
「ごめんね。今は手加減ができそうにないんだ」
ンクルスが手をかざす。ハンドサインに応じて、付近に隠れていた『人外誘う香り』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が勢いよく飛び出した。
目指すは占領地南側のゲート。
通行を監視していた兵隊が、走るベークの姿にぎょっとした。
一見して子供のそれだが、この世界において『容姿を理由に侮る』ことは死を意味する。兵士は迷わずベークに向けて銃を向け、「止まれ」と大きく叫んだ。
その判断は正しい。
正しいが、遅い。
ベークはかつて『絶望の青』攻略に際して国から高い貢献を評されたこともある戦士である。時には魔種を追い詰めるほどの『頑丈さ』が、彼の武器だ。
止まらぬベークに発砲を始める兵士。
だが防御姿勢で更に加速したベークは自らの再生能力で着弾した弾頭を即座に排出。傷口を元通りに再生させ、その勢いのまま兵士へタックルを浴びせた。
「今です!」
ベークが叫ぶと同時に伎庸の兵達が出現。ンクルスを先頭にしてゲートの兵たちへと一斉に突撃していった。
一方でベークは『甘い香り』を散布。彼の誘引能力は絶対ではないが、そうでないからこそ彼を無視することが難しい。火力の選択と集中は『選択と集中』ができてこそ価値がある。極論一割でももっていかれたなら火力は損なわれるのだ。
(まぁ……人の命を弄ぶような連中はあんまり好きじゃないんですよね。だから、ここは伎庸の人達に味方させてもらいます)
ベークが門前の兵士達を一部押さえている間、ンクルスは急いで閉じられたゲートを脚部パーツからのジェット噴射によって強引に突破。
着地からの浴びせ蹴りによって兵士を蹴り倒すと、地走遠隔操作機『AIM-GR』と味方兵士によってゲートを解放させた。
(鳳圏も鬼楽も伎庸も各々事情がありそうだよね。
悪い人が居るなら私もシスターさんとしてその人に天罰を与えに行けばいいのだけど……。
この場合は誰が悪い人なんだろうなぁ。難しいなぁ……)
鳳圏を取り巻く問題を前にして誰もが抱く迷いを、ンクルスもまたもっていた。
そしてだからこそ、シンプルにあくどい『黄泉路計画』の破壊活動に加わることにしたのだった。
「みんなはこのゲートを死守して! 味方を内部に送り込むんだ!」
飛来する銃弾を鋼の腕で防御し、放物線を描いて飛んできたグレネードをわしづかみにして爆発を抱え込む。
腕は大きくひしゃげたが、ぱきぱきと音を立てて自己修復されていく。
その様子に、兵士達は勢いをつけていた。
占領地は早くも混乱しかけていた。
鳳圏の絶対的軍事力によって伎庸が後退し、新たな領土を得たというプロパガンダが広まっていたためだ。
「僕はなじめなかったけど、プロパガンダを信じやすい人ほどこういう場所に移り住むんだ。なんだか気は進まないけど、利用させて貰おう」
風を切って走る軍用バイク。それに今井和彦は跨がっていた。
爆発とあがる粉塵に身をかがめ、バイクで煙を突き抜けていく。
隣には『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が同じ軍用バイクを借りて並んでいた。
タンデムシートには『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がしがみつくかたちで乗っている。
「仮にも伎庸の前線防衛拠点だ。簡単には突破できないよ。どうすうるの?」
「どうするって……」
リュカシスはきょとんと目を丸くして、掲げた右手でグーを作った。
「グッとしてドカーンですよ」
ジト目で返してくる今井。
フルールの方は意外となじんだようで、れっつごーと言って拳を突き上げた。
「それじゃあ突っ込んじゃいましょう。このまま」
「このまま!?」
並んで小銃を乱射する兵士達。
アクセルをひねるリュカシス。
加速し一切とまるつもりの無いバイクに、兵士達が慌てて左右に飛び、バリケードとバイクが激突。
あまりの衝撃にバイクがひしゃげ爆発をおこすも、放り出されたリュカシスはバリケードを飛び越えながら兵士の一人を殴り倒しつつ着地。
自慢の鉄腕『鉄鋼千軍万馬』からちろっとのびた輪っか状のタグに指をひっかけ、『ここを引いてね(H)』と書かれた部分のワイヤーを強く引っ張る。肩口から飛び出したロケット花火やネズミ花火が爆音をあげながら暴れ回る。
「ローレットです! 制圧に来ました! よろしくおねがいします!」
ファイティングポーズをとるリュカシス。
フルールは瓦礫のやまからすっくと立ち上がり、淑やかなお辞儀をしながら契約精霊『フィニクス』を召喚。
「終わったらきちんと弔ってあげるわね。だから、今はゆっくり眠りなさいな?」
翼を広げた炎の鳥めいた精霊が兵士たちへと襲いかかり、紅蓮の爪でなぎ払っていく。
(戦争、人を殺し、殺される。国交の最悪な形がそれだと聞いたことはあるけれど。ここまで酷い『蹂躙』もあるのね。捕虜ではなく、皆殺しにして。その後は弔うことも眠らせてあげることもせずに意思無き兵として扱うなんて、非道ね鳳圏という国は……)
紅蓮のオーラで燃え上がる基地を見て、フルールは目を細める。
「あぁ、あぁ。本当に最低ね、この戦争というものは」
リュカシスたちの『派手すぎる』突入は、仲間達に標準以上の恩恵をもたらしていた。
(よもやここまで派手に動いてくれるとは)
基地内に身を隠していた『不可視の』イスナーン(p3p008498)は、まるで俊敏なトカゲのように地をはいスクランブルに走って行く兵士達へと忍び寄る。
外からあれだけ派手に攻めてきた敵がよもや真後ろに忍び寄っていると思わない兵士にスッと手を伸ばし、まずは口を塞ぐ。
流体金属を袖から流し中指をナイフに変えると、イスナーンは静かに兵士の首に突き刺した。
兵士は暴れてイスナーンを肘で殴りつけようとするが、相手の首と顎を掴んだままイスナーンは軽やかに壁を後ろ向きに走る形で回避。そのまま壁を蹴って相手の前へと飛び移ると、その動きで兵士の首をへし折った。
「ふう……こういう直接戦闘を私一人にやらせないでもらいたいものです」
額の汗を拭い、息絶えた兵士を掃除用具入れへと押し込める。
今現在基地が混乱しかけていることには当然理由があるのだ。事前に潜入していたイスナーンが情報工作を行うことで伎庸の襲撃をこのときまで察知できていなかったのである。
が、鳳圏側とて無能というわけでもないようで。
「『不可視のイスナーン』、だな?」
背後の壁がスゥっと消え、拳銃を突きつけた男が現れた。
素早く振り返るイスナーンだが、別の壁を物質透過し三人の兵士が現れ同時に銃を突きつけた。
ゆっくりと両手をあげるイスナーン。
「このシチュエーション、デジャビューですねえ」
「榛名大佐の名を騙った偽命令を飛ばし我が基地を混乱させたことは分かっている」
事前に防げなかったと白状しているようなものだが、兵士はそれでも続けた。
「貴様からは聞き出すべきことが多いようだ。おとなしく投降し――」
「話の途中で悪いんですが」
イスナーンは掲げた手の中に赤いスイッチを持っていた。
そのスイッチを。
「すぐに撃ち殺したほうがよかったですね」
入れる。
と同時に複数の小爆発がおきた。
虚を突くには充分すぎる衝撃だ。
その衝撃に混じる形で天井を物質透過して現れる『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)。
兵士ひとりの背後に立つと、美しい刀『黒金』を抜刀した。
「油断大敵」
兵士の腕を切り落とすと、ありえないほど素早い動きで廊下の壁と天井を跳ね回る。それを打ち落とそうと兵士が拳銃を乱射するも、雷華はそれを当たり前のように回避し兵士全員の首を切り落としてしまった。
掲げた両手をおろすイスナーン。
「助かりました」
「まあ、囮にしたのはわたしの方なんだけどね」
刀を納め、ほほをかく雷華。
ひとしきり終わったところで、扉をフツーにあけて志村亮介准尉が現れた。
「よっ、やってる?」
「そんな居酒屋みたいに……」
帽子を被り直してハンサムな笑顔を光らせる志村。彼の手にはアタッシュケースがさがっていた。おそらくは様々な重要書類を盗み出してのことだろう。
「二人がいてくれて助かったよ。俺、こっそり侵入するのって苦手でさ」
笑う志村に、雷華は『よくいう』と小さくもらした。
鳳圏の基地職員のなかに一定数交ざっている女性職員をひっかけ、こっそり裏口の鍵をあけさせたのが志村である。そこを基点に警備網をくぐり抜け、雷華とイスナーンはタッグを組んで基地内の情報工作を十全に行うことができたのだ。
おかげでいま基地は壊滅寸前なわけだが……。
「情報ってのは偉大だよなあ。さ、俺たちは引き上げよう。間違えて一緒に殺されたらたまんないだろ」
手を振る志村。イスナーンと雷華は顔を見合わせ、そして頷き合った。
●銀の弾丸
『聞け、加賀。いま俺たちの祖国は我欲と悪徳に蝕まれてる。
祖先が、子孫が、冒涜されようとしてる。
久慈峰中将はそれを察知したが、持ちうる兵力でこれを止めることはかなわないとも察した。
ならばどうする。周辺敵国もアテにならない。ノーザンキングスはもっとアテにならないし、ゼシュテル鉄帝国はもっともっとアテにならない。だからとりうる手段は一つだけだ。
加賀。
いや、お前の後ろにある組織に火がつけば、自ずと祖国を食い破りに来る。
それも、できるだけ人道的に』
腐れ縁の友人から告げられた言葉が、頭の中をいまもはねている。
『自らの意志で飛ぶ弾頭』にされた『人生葉っぱ隊』加賀・栄龍(p3p007422)の心中を理解出来るものは、あまり多くはないだろう。
同じ鳳圏軍人である『不完不死』伊佐波 コウ(p3p007521)にも、もしかしたら同作戦に応じたローレット所属の鳳圏軍人たちにも難しいかもしれない。
それほど彼は実直であった。実直でありすぎた。
(祖国を一度離れ、そして今祖国の尊敬する上官に牙を剥いている。
俺にとって国とは何か、未だ回答を出せてねえが……戦場に立てば迷ったままではいられない)
手に取るは歩兵銃剣。腰より抜くは鳳圏紋章のついた軍刀。
いざ征かん。
「すべては我が祖国のために――覚悟しろッ!」
開けた視界には、味方の姿をした敵(せんか)が並んでいる。
『黄泉軍計画』兵器工場。
伎庸市民を素体として特殊なアンデッド兵器を作成するための工場である。
警備は厳重かつ強固。もとある建物を流用したとはいえ防御は入念に高められ、セキュリティも万全。知られず侵入するのはとてもではないが不可能な要塞と化していた。あるいは防衛拠点基地すらも越えるほどの重要性をもって。
「フリック役目 大戦力 相手スル 味方 継戦維持――」
両目をグワンとイエローに発光させた『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は、大地をがつんと殴るようにしながら加速。猛烈な速度で突っ込むと、バリケードをタックルによって破壊した。
「フリック 墓守。
死者 安寧 護ル者。
遺族 心 護ル者。
黄泉路計画 許容不可能。
安寧 心 返シテモラウ」
『それも縁だね』と、メモリーの中でかすれて聞こえる声。使命の延長上にあるものを、フリークライはわかりかけていた。
身体からはえる色鮮やかな花が花弁をちらし、フリークライの周囲をみるみる聖域化していく。
駆けつけた伊邪那岐型屍兵たちが小銃をバラバラに打ち始め、フリークライの周囲に固まった兵達へと弾を浴びせかける。
ダメージを吹き払うように、聖域化した花々が弾をつつみ土へと変えていく。
が、そこへ特別な腕章をつけた伊邪那岐型屍屍兵が現れ、『色』の力を宿した銃撃を開始。
「――ッ」
フリークライの聖域が赤い銃撃によって破壊され、そこへさらなる弾幕が襲いかかる。
「墓守か、縁があるな」
が、そこへ割り込みをかけたのが『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)だった。
スコップ型の杖で魔術障壁を張ると、フリークライの治癒能力を背に浴びながら弾幕を次々に打ち落としていく。
(……死を汚すか、死を穢すか、死を嗤うか。
なら倒さないとだ、なら壊さないとだ。
死者の眠りを妨げる者らに鉄槌を、死者の誇りを貶める者らに断罪を。
死が齎す救いは等しく万人が持つべきものであるはずだ)
最後の一発をスコップで打ち落とし、急速に接近。
伊邪那岐型屍屍兵たちを、炎のオーラを纏ったスコップでなぎ払った。
「自分が、俺が、墓守として絶対に潰す」
吹き飛ばされ壁に激突した兵達は、そのまま機能を停止。
グリムがあらためて周囲をみまわしてみると、助けを呼ぶ声と悲鳴ばかりをあげる霊魂ばかりでいっぱいになっていた。
その中には、今し方倒した兵に囚われていたものもあった。
そっと手をかざし、目を瞑る。
「罪なき者、無辜の民だった者、死の安寧さえも妨げられた者たちよ。
汝らの眠りを妨げる嵐は過ぎ去った。
汝らの名は墓守たる俺が此処に刻もう。
どうか安寧の地にて醒めぬ眠りあれ、そして次なる生に祝福あれと願わんことを」
フリークライもまた、自らの腕にはえた花をつみとりそっと遺体へとそえる。
「――哀悼ヲ」
「これより、抵抗するものは悉く斬り捨てる……!」
伎庸の兵を引き連れ、獅子奮迅の活躍を見せる『解放する者』レオンハルト(p3p004744)。
立ちはだかる屍兵を処刑剣によって斬り捨て、突き進む先にあったのは兵器格納庫であった。
迎え撃つは複数台の多脚戦車。
手足の内少女のアンデッドがアームによって戦車内へと差し込まれ、意志をもったかのようにぐわりと戦車が立ち上がる。
見れば、工場作業員たちが格納庫の隅で拳銃を手に震えている。
「非戦闘員に手を出すなよ伎庸の兵たちよ。俺たちは気難しい」
レオンハルトは伎庸兵たちに一言加えると、剣を手に多脚戦車たちへと襲いかかった。
彼の戦い方は極めてまっすぐだ。
発射される砲弾や機関銃弾幕をまるでよけることなく接近し、処刑剣『Pledge・Letter』の一撃でもって砲身を切断。脚を切断。
ただひたすらに力強い斬撃が、戦車の装甲をすら断ち切って爆発の中に沈めていく。
「鳳圏と鬼楽が戦う中で、なぜここに戦火を飛ばした?
攻められ、仲間をアンデッドにされた伎庸が貴様らにどういう対応をするか、考えたか!?」
呼びかける言葉が届くのか、それはあとで考えれば良い。今剣を振る理由を、彼は堂々と述べたまでである。
「無黒木 楓。奴がこの施設の責任者だ。見つけ次第拘束したい」
実験機である小銃を撃ちまくり、砲弾をその身で受けて尚突き進むコウがレオンハルトにそう声をかけた。
こくりと頷いて返すレオンハルト。
「生かして捕らえた工場職員たちがいる。連中から居場所を聞き出せ。ここは――」
レオンハルトは一瞬、ひどくベタな台詞を言いそうになって小さく笑ったが……あえて、そのまま言うことにした。
「ここは、俺に任せろ」
処刑剣を構え、何台もの多脚戦車へと向き直る。
「君、弱いなぁ――」
腕章つきの屍兵を一刀のもとに斬り伏せて、血しぶきを浴びる久慈峰弥彦中将の姿があった。
こんなんじゃあまるで楽しめない。そう顔に書いてあった。血に塗れた笑顔なれども。
「中将どの」
『どの』にアクセントをおいてつぶやく久慈峰はづみ少佐。いつの間にか背後にスッと回っていた恐ろしさもさることながら、彼女の囁きに含まれた意図に弥彦は苦笑した。
「わかっとるよ。今回は遊ばんから」
「普段も遊ばないでください。まったくもう」
ため息をひとつ。
ひとつつくうちに疾風のごとく駆け抜け、周囲の屍兵を連続で斬り捨てていく。
「エータツくん、今日はきみの見せ所やから。頼むで」
「は!」
短く、そして力強く応えた栄龍はコウと共に通路を走り工場裏手へと出た。
既にあちこちで住民避難が始まっているさなか、工場の裏手もまた避難民で溢れている。
「兵は打てても、民は打てない……かな?」
荷物を抱え、子供の手を引き走る兵の家族達。のなかにわざと……『黄泉軍計画 技術顧問』無黒木 楓は立っていた。
小銃を構えた栄龍はトリガーに指をかけてこそいるが、おびえすくんだ少女の目に指がとまる。
楓はそんな少女の肩を掴み、自分の前へとこれみよがしに突き出した。
「甘いですね。祖国のためならどんな犠牲も厭わない……それが鳳圏軍人では?」
ちらりと視線をコウへと向ける。
「僕はできたよ。そして力を手に入れた。蓮華姉さんを取り戻す力を」
コウは小銃の狙いをつけたまま、楓をにらみつけた。
「投降しろ無黒木楓。貴様には聞くべき事が山ほどある」
「嫌だと言ったら?」
と同時に、どこからともなく一人の兵士が現れた。
顔をフルフェイスヘルメットに隠し、黒い軍服に赤色の腕章をつけた特殊な兵隊である。特別製の屍兵、というわけだろう。
彼は軍刀を抜くとコウと栄龍へと襲いかかった。
小銃を盾にして斬撃を防御するコウ。しかしあまりの衝撃に吹き飛ばされ、逃げ惑う民衆の中へと転がった。悲鳴があがり、空白が広がる。
そこへ栄龍が飛びつき、兵士の首に軍刀をひっかけた。
皮膚まで頑丈に改造されているのか、刃がろくに通らない。しかし相手に脚をからめ両腕で剣を押し込んでいく。
「国は違えど我ら軍人、祖国の為勇んで玉砕するもんだ。
例え命が安かろうと、失われた後弄ばれているのを見るのは…気分が悪いんだよ!!
こんなもんで、誇りを穢すな!!」
首を強引に切り落とすが、屍兵はそれでも軍刀を振り込んだ。
狙いは栄龍から大きくはずれ、逃げ遅れた少女へと振り込まれる。
両手で握り込み無理矢理押さえ込むコウ。
腕を伝って血が滴るが、コウは歯を食いしばって剣を握りしめる。そこへ栄龍の蹴りが炸裂し、屍兵を転倒させた。
アンデッドとはいえ不死身ではない。大の字に転がったまま、それ以上動かなくなった。
逃げそこねて足を止めた鳳圏の民衆が、それを囲むように見ていた。
「命令じゃなく初めて選んだ行動が、祖国への背反行為だなんて笑っちまうよな」
「加賀……」
「けど、う何も言い訳にはしねえ。
俺にとっての国は、きっとふるさとの命だ。
民も街も、好きなもんばかりで……。
奪われないように、守りたくて、俺は戦っていたんだな」
気付けば無黒木 楓の姿は消えていた。だがそれ以上に大切なものを、二人は守れたのかもしれない。
●及川 忠臣
『占領地の制圧が完了したようデス』
これは、『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)と伎庸の長及川との間で交わされたハイテレパス通信の内容である。
盗聴をさけるべくレーダー使いをそばにおき、建物内にて行われたこの会談が、占領地とその中に実質取り残された鳳圏兵及びその家族たちの未来を左右することになる。
わんこはローレット側の護衛として数人をそばにつけ、デスクに組んだ両手を置く。
二人の間には緑茶と五平餅。
普段の放たれた弾丸のような、鎖の切れた獣のような雰囲気はどこへやら。静かな風が彼女の心のなかを吹いている。
『生き残った鳳圏軍人は撤退。逃げ残った家族達は捕虜としての人道的な待遇を求めマス』
『ふむ……』
及川ははげ上がった頭を撫で、そして対照的に豊かな髭を撫でる。困ったときの仕草だ。
『伎庸の兵も、民も殺され、あまつさえ兵隊に改造されたとあっては……伎庸の民が怒りを収めるのは難しいでしょう。その矛先が同胞や、その判断をした私にむかないとも限らない』
やわらかい言い方をしたが、及川は要するに伎庸民の怒りの矛先を求めてた。
感情は動くものだ。無理矢理に押さえようとすれば暴発する。そして逃がす先は、自らより遠く、被害のないものであるべきだ……というものである。
だが、わんこはその答え方に安堵した。
交渉をするとき、合理性の及ばない範囲というものがある。
わかっちゃ居るけど絶対ヤダ。と言われたら終わりなのだ。
及川はその点、『別の矛先が用意できるなら応じる』と述べているのである。
『我々は、この戦いと前回の調査の中で、鳳圏国内にて『秘密裏に』黄泉軍計画が動いていることを知りました。今回制圧した工場や基地の資料は大半が破壊されていましたが、確保できた証拠もいくつかありマス。
これを、捕虜とした鳳圏への説得材料として、そして伎庸兵と市民への……』
市民への、なんだろう。と言葉を選ぼうとした所で、及川はペチンと自らの額を叩いた。どうやら意図だけを察してくれたようだ。
『わかりました。直接伝えるには刺激が強すぎますが……そうですなあ、そちらの加賀殿と伊佐波殿をお借りできますかな』
その提案に、わんこはまたもう一つ先を察した。
『鳳圏と戦う鳳圏の兵』という別側面の真実を公表することで、伎庸市民の怒りの矛先をより先鋭化させようというのだ。
もしやそれが目的で自分たちが雇われたのでは、と思うほどに。
『持ちかえって話してみマス。それと、及川サン』
わんこは最後に、こう切り出した。
『あなたへの暗殺計画があることは?』
●鬼の国
ここ混沌世界にて、鬼人といえば遠き大地豊穣郷のゼノボルタを連想されるが、同名のウォーカーが大陸ヴィーザル地方に古く集落をひらき、集まる多くのノルダイン系民族が集合し、あるとき国家を名乗り上げた。
その名も略奪国家『鬼楽』。『巫女王』蒼華の存在から始まったこの国は、奇しくも霞帝の存在から始まったカムイグラのそれに似た『ウォーカーの興した国』であった。
「全軍抜刀(オールハンドレット)――我ら鬼楽は血の一族。己に流れる血潮よりも切り裂き流した血によって繋がる力の血族である!」
「何より俺は「愛」する者を守り、「正義」をもって略奪する「勇気」ある鬼楽の勇士諸君の事を信じている!」
『尽忠報国』の扇子を広げ掲げる軍団長玉響 尊と、力ある軍配を掲げる『愛と勇気が世界を救う』小刀祢・剣斗(p3p007699)。
手に手に武器をとった鬼楽の兵たちはギラリと笑い、塹壕より立ち上がる。
天を撃つ砲音。土をうつ爆音。銃剣を手に横一列になって発砲しじりじりと詰め寄る鳳圏兵たちの目には、こちらと同じ命の炎が輝いていた。
「フハハハ! 我が祖国からの依頼とあれば鬼楽の漢として受けぬ訳にはいくまい。
鬼楽男子たる者、略奪し、強者足らしめん事を示すのが誉れ!相手が仇敵、鳳圏なら尚更の事よ。
まあ、俺個人としては鳳圏の者は嫌いではないが……これも戦の常、思う存分殺し合おうか」
放り込まれた手投げ弾をジャンプングキャッチし、その勢いのまま相手側へと投げ返す剣斗。
「鬼楽の勇敢な勇士諸君!俺は「剣の小刀祢」の小刀祢剣士郎が息子、小刀祢剣斗である!
此度の戦、仇敵鳳圏打倒の為にイレギュラーズから高名な強者達が何人も我が鬼楽に助太刀に来てくれた!
彼らと協力し、己が武を奮ってくれ!さすれば、この戦線、確実に我が鬼楽の勝利となろう!」
空中で打ち抜かれた爆弾が炎と煙を散らすその下を、サキュバスの羽根をひろげた『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)が猛烈な勢いで駆け抜けていく。
「尊のおっさんの指名依頼とか本当に嫌だけど……過去の決闘の大量の借りの所為で僕に拒否権ないのが辛い所なのだゾ」
刑期と引き換えに仕事をうける囚人のような苦い顔をしながらも、しかしどこか気持ちは軽そうだった。
「どうせ一緒に戦うなら『黄泉軍計画』なんてモノやってる鳳圏よりはこっちの方が……ね」
爆煙に紛れて気配を消すと、相手の塹壕へと飛び込んで鳳圏兵の首筋に爪を突き立てる。
「アハッ! 鳳圏さんの精もこれはこれで美味しいのォ……遠慮なく全部の精を頂戴な」
乱射される小銃の音に、『最期に映した男』キドー(p3p000244)と『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は歯を見せて笑った。
「いやぁ~なんだっけこの辺鬼楽? どこの国とどーなってんだっけ? KIDOサンわかる?」
「俺が分かる分けねーだろバカヤロ! とりあえずあの鳳圏ヤローは俺に砲弾とアンデッドぶち込んできたってことだけは分かる!」
「マジかよホーケンサイテーだな!」
二人はビッを中指を立てると、『先鋒行きます!』と叫んで千尋が敵塹壕めがけて走った。
「イエエエエエエエエエエエエエイ!!
『悠久ーUQー』を愛し『悠久ーUQー』に愛された男ォ!
アルバニアを倒し!絶望を希望に変えた男! そう! 『悠久ーUQー』の!
伊――はぶおあ!?」
のけぞり超絶怒濤の名乗り口上をぶっ放そうとしたその瞬間、鼻っ面に手投げ弾がぶつかって。
仰向けに転倒し爆発する千尋。
「D.Tィーーーーーーーーーーー!!」
爆風にすっころんだキドーが顔を上げ、地面をドンを殴りつけ立ち上がった。
「よくも千尋くんをヤりやがったなオラァ! 全員ボコボコにし――はぶおあ!?」
後方から棘つき金棒を振り回しながら突っ走る鬼楽バイク集団(モヒカン)に撥ねられるキドー。
空中を数回転してから顔から落ちた。
「KIDOォーーーーーーーーーーー!!」
顔を上げ地面をドンと殴りながら立ち上がる千尋。
「よくもキドーさんをやりやがったなオラァ!」
「その下りもうやった」
「KIDOさァん!」
頭をがりがりかいて煙草をくわえると、キドーはフィンガースナップで火をつけた。
「千尋くん、やっぱ俺、車ダメだわ」
「それ俺の持ちネタ」
などとやっていると銃剣を抜いた鳳圏兵が突撃をかけてくる。
千尋はその動きを素早く察知してスピンスライディングをかけると相手を強制転倒。その瞬間にキドーが相手の頭を掴んで膝蹴りで顔面を潰し、ついでに懐から取り出した子鬼手榴弾をぶん投げる。
相手の砲台にスポンとはいり、内側から破壊する。
「っていうか今回は回復役も華も無いね千尋くん」
「いいんじゃね、花火はあがったぜキドーさん」
掲げた拳をゴツンとぶつけあわせ、二人は鳳圏兵へとさらなる突撃を仕掛けていく。
「オメーらが噂の『悠久ーUQー』か。ハンパネー気合いだぜ」
金棒を肩に担ぎ革のライダージャケットを素肌に直接羽織ったノルダイン系男性二人組がニッと笑って千尋たちの肩を叩いた。
「鬼楽にゃあ移民も多い。モリブデンの伝説はこっちにも伝わってるんだぜ?」
「一緒に鳳圏のクソヤローどもをぶちのめそうぜ」
二人がビッと親指を立てると、千尋とキドーも同じく親指を立てた。
そして。
「ってかむさ苦しさ増してんじゃねえか。華まだかよ華ぁ!」
軽くキレながら突撃していった。
戦場を歩く薄着の美少年があった。
たった一人で前線をゆくその姿に降り注ぐ砲弾。殺到する兵隊。銃剣が何本も突き刺さったがしかし、美少年は――『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は目をきらりと光らせ動き出した。
(目的は『敵陣営の攻撃』。叩けば叩くほどよく、やり方は当人らに任されている。
動機は『復讐』。殺された仲間の敵討ち。同じかそれ以上の死と苦しみで報いる。
つまり、依頼主達の目的と動機を満たすやり方というのは……)
「なんだ。いつもの『汚れ仕事』より、ずっと凄惨で分かり易いじゃないか」
随伴する死霊騎士・スウィンバーンの影が巨大な剣を一回転させ兵士達を切り裂いていく。
ローレット界の初見殺しことセレマの、対鳳圏戦における初陣であった。
『これ』と最初にあたってしまった兵士たちは不幸としか言いようがない。
そしてできる限り情報を持ち帰らせないことが、初見殺しの有効な維持方法である。(対策されると逆に初見で殺される)
「美少年ンッ! 伏せてろ――否、そのまま打ち抜かれろ!」
火縄銃を構えた一列横隊の砲手たちが一斉砲火。鬼の炎を纏った弾丸が空中で炸裂を起こし、セレマによってよろめいた兵士達めがけて激しい弾幕を浴びせた。更に砲台から発射された爆弾がたたき込まれ、セレマを中心に激しい爆発を引きおこす。
ちょっとしたクレーターができ敵兵がシルエットすら残さなくなったその中心で、全裸のセレマが素早く肉片から自らを再生させ爽やかに髪をかきあげる。
「目には目を、歯には歯を、心臓には心臓を、命には命で――」
「やるな美少年ンッ!」
そんなセレマの肩をガシッと掴む尊。
「おめぇが女なら何番目かの嫁にしてたところだ」
「君の文化圏って一夫多妻制なの?」
「決闘で倒せば嫁にできる」
「嫌だよ。ボクなんか一瞬じゃないか」
冗談めかした顔で笑うセレマ。
その横を『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)が駆け抜けていく。
「ボク犬頭だからよくわからないけど、敵に味方がいて、味方が敵になるって厄介だね!」
赤いフードをさげ、バスケット型のウェポンケースからドローンの群れを一斉展開。
「さて、勝負ぱんつも履いてきたことだし、ひと仕事してきますかね!」
こちらへ向け控えめな発砲をしてくる兵士達。
セレマの戦術的な牽制が敵兵の攻め方を慎重に(あるいは面倒臭そうに)していた。
リコリスは飛来する弾丸をジグザグの走行によって回避すると、笛をふいて円盤状のドローンを一斉にけしかける。
円盤はそれぞれ刃を展開すると兵士へ殺到。
「みゅーじっく!」
敵兵を五つに分割したドローンからマイクロスピーカーがひらき、荘厳なオーケストラミュージックを流し始めた。
「キミが気配ダダ漏れで近づいてる間、ボクが何考えてたか教えてあげよっか? 今夜食べるお肉のことだよ」
指についた砂粒をフッと吹き飛ばし、誰かに……否、背後に忍び寄っていた敵兵へと呼びかける。
気付かれていたことにびくりとした兵士へ、逆手に持ったナイフがはしる。
こめかみを貫くアイスピック状のナイフ。それを引き抜き、ついた血を振り払った。
「さーて、みんないこっか!」
ミュージックにのせて行進するリコリス。鬼楽の兵士たちは歌いながらそれに続いた。
●戦神。不動 界善
小銃を発砲しながら走る鬼楽兵士達の真ん中を突き抜けて、最前線へと飛び出していく『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
「どのような事情があるにせよ、罪もない人々を踏み台にして栄える国などあっていい筈がありません」
握りしめたメイスに炎が、見開いた瞳に炎が、彼女の背より広がる炎の翼が彼女自身を加速させ、猛スピードで突進したヴァレーリヤは跳躍。振りかざした炎のメイスを次々に振り込み、鳳圏兵たちをボーリングのピンのごとく吹き飛ばしていく。
両足でしっかりと土の地面を削りブレーキ。
それでも鳳圏兵士たちは士気を落とすことなく攻撃を継続していた。
メイスで弾を防ぎつつ、周囲の様子を今一度観察する。
「敵兵の士気が高すぎる。元々鳳圏兵士は士気旺盛だが、それにしても異常だ」
ヴァレーリヤの前へ割り込み、飛来する砲弾を大きな白盾によって斜めに弾く『展開式増加装甲』レイリー=シュタイン(p3p007270)。
そこへ鬼楽兵士たちが集まり、反撃を開始した。
「このエリアを突破すれば事実上の緩衝地帯を抜ける……つまり鳳圏国内へ踏み込むことができる」
兵士の言わんとすることを、レイリーとヴァレーリヤは理解した。
なんとしても突破したい。しかし、それなりの防衛戦力が現れるだろう、と。
桃李門・信康と名乗ったその鬼楽兵士は、ヴァレーリヤとレイリーが配属された小隊のリーダーだ。無敵の槍と無敵の矛をふたつ揃えれば真に無敵という理由で彼女たちをチームの象徴に据えたのである。
桃李門はニッと笑ってレイリーとヴァレーリヤを見た。
「あなた方を見ていれば、それもできる気がしてくる。ついに、我ら鬼楽は勝利するうのだ。かの悪逆非道な鳳圏に!」
続け! と叫び前へ出る。
「大丈夫です、ここからは敵を警戒しなが――」
言葉は途中で途切れた。
もとい。
桃李門の身体が首から脇腹にかけて斜めに切断され、回転しながら頭が転落した。
「――!?」
咄嗟のことに何かを察知したレイリーがシールドを更に展開。巨大な壁のように広げるが、その壁をつきぬけるほどの衝撃がレイリーを周囲の兵ごと吹き飛ばした。
「これまでの戦いぶり、見事」
鳳圏側より現れた、それはたったひとりの兵士だった。
赤い野太刀の鞘より、真っ黒な刀身を抜き、それを当たり前のように片手にぶら下げてあるく黒い軍服姿を――レイリーとヴァレーリヤは資料の中で知っていた。
「不動――」
「界善――」
不動界善鳳圏憲兵隊陸軍大将。この場所に出てくることがおかしいようなビッグネームである。
「お前達に、命を賭せるものはあるか?」
両手で太刀を握るその姿に、ビリビリとプレッシャーが走った。
本能で構えるヴァレーリヤ。ひしゃげた盾を放り投げ、新たに腕から増加装甲を展開するレイリー。
「レイリー!」
「――10秒だ」
指を一本たて、その腕さえも装甲で覆っていく。
自らを大鎧の中に収めると、レイリーはヴァレーリヤを庇うよううにして不動めがけて突進をしかけた。
起き上がった桃李門隊の兵たちが援護射撃。
不動は構わず太刀を横一文字に振り込み、レイリーの装甲へと叩きつける。
受け止めた。一瞬だけだが、確かに。
装甲がへこみ、レイリーの身体がうきあがり、後方の兵士達めがけて吹き飛んでいく。
ヴァレーリヤはその下をスライディングで抜けると、炎をあげたメイスを不動めがけて打ち込んだ。
直撃。
だったはずだ。
しかし、不動の片手がヴァレーリヤのメイスを受け止め、両足は微動だにしていない。
「そんなはずが……」
ヴァレーリヤの打撃はもはや常人を一瞬のもとに粉砕する戦車砲のそれである。
「いい打撃だ。お前が我が鳳圏に味方していたならよかったものを。……惜しい」
めき、と音がしてヴァレーリヤは本能的に飛び退いた。それがよかった。彼女が立っていた場所が爆破し吹き飛んだのだ。不動がただ片足でスタンピングをかけただけで、大地が爆ぜるほどの衝撃が走ったのである。
が、浮いたヴァレーリヤは続く不動の斬撃によって吹き飛び、ガード姿勢のまま地面と平行に10メートルほどを飛んだ。
「ありえませんわ、あんな戦闘力を常人がもてるはずが……」
思い出されるのは鉄帝モリブデンの悲劇。命を賭して夢を賭して、かつての友とぶつかり合ったあの一瞬。
ヴァレーリヤは……そして彼女を抱え起こしたレイリーは、この僅かな間で強く確信した。
「不動 界善……彼は、魔種だ」
この後、不動への激しい牽制を行いながらも部隊は撤退。鳳圏軍をあと僅かのところまで追い詰めるという大きな戦果と……最後の難関に戦神『不動 界善』が待ち構えるという事実をそれぞれ鬼楽本国へ持ち帰るに至ったのだった。
●戦争の終わらせ方
斧砲『白狂濤』に冷凍弾を装填。勇猛に吼えながらガンモードとした白狂濤から冷凍弾を発射すると、『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は自分へ釘付けにした鬼楽兵めがけて突進。つきささる銃剣を意にも介さず敵兵を払いのける。
ガキンとアックスモードに切り替えた『白狂濤』を握り、ヒグマのごとく吼えると群がる兵士を次々に放り投げ、弾き飛ばし、ずんずんと敵陣へと前身していく。
(俺自身別に人殺しの趣味も占領やら蹂躙も興味がある訳じゃない。
勿論、それが仕事となりゃそれなりにはやる。
今回はあくまでイレギュラーズとしての参加だが。一応、軍人っちゃ軍人だしな。
まぁ、船の上ならもうちょいやり易いんだが……贅沢は言ってられんな)
エイヴァンは己の個性を活かすべく敵の注意を引きつけ、タフネスを武器にずんずんと敵陣へ突っ込み陣形を破壊していくという枠割りを担っていた。
ここは壱壱七戦線。鬼楽と拮抗状態にあった戦場へ鮮烈なまでに投入されたエイヴァンたちはその優位性をここぞとばかりに発揮していた。
それまで互いの情報を握り対策しあうことで拮抗状態を保っていた鳳圏鬼楽双方にとって、エイヴァンたちのような初見殺しタイプの戦力は戦況を傾けるに充分だったのだ。
エイヴァンがこうして敵を引きつける間、援護射撃によって弱った敵兵に『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が金色の頭髪を一斉に伸ばして兵達の首や腕へと絡みつける。
(鳳圏とやらも、随分ときな臭い部分が多いよう、だ。とはいえ、今回は味方として動くのだし、余計な詮索はやめておこう、か。前線の兵が、重要気密を握っているわけも、ない。
信用を得ておけば、情報は自然と手に入れる機会も、増えるかも、しれない。また、今後敵対関係となった場合でも、何かしらの役には立つはず、だ)
掴んだ敵兵たちを思い切り振り回し、抵抗しようとする兵士達を互いにがつんがつんとぶつけ合わせていく。
しばらく彼らを弄んだ後は、放り出した敵兵へ特殊な術……波濤瞳術とでもいうべき魔術を発動。金色の荒波が敵兵たちを派手になぎ払っていった。
こちらもこちらで初見殺し。スーパーアタッカーとしての個性を遺憾なく発揮し、エクスマリアは形勢を大きく優位にすすめていく。
そこへ加わった『アイドル系運び屋さん』ハロー・ハロウ(p3p008053)が『スーパーアンコール』をまきながら跳ね回っていく。
――ハローハロウはノーザンキングスのシルヴァンス族の出身であり、ローレットに籍を置きつつポンコツしながら運び屋をしていた。彼女は故郷近くの騒動と聞いて、この依頼に駆けつけたのだが依頼内容自体は良く読んで無かった為に依頼内にノーザンキングスとしての陣容がないことに気づいていなかったのだった。鬼楽も鳳圏も結果シルヴァンスに敵対しかねないため、故郷愛から助力は出来ないしかといってハイ・ルールもあるしで、しばらく悩んで『よし、詰んだね!』とあえて開き直って鳳圏サイドにつくこととした。
動き方としてはエクスマリアのそれと同じ。敵とか味方とかじゃなくて内に入り込めば鳳圏の内部事情もわかるだろうといううアレである。
「wow! 可愛い僕が愛しい故郷のDangerに駆けつけたらスノーもFriendsも1人も居ないじゃないか!
はっ……きっと、恥ずかしがってるんだな! ふふーん、仕方ないねっ!
それなら、皆が来るまで僕が故郷の為にFightしてあげようっ!」
そうした彼女たちとある意味では同じ狙いで鳳圏サイドについた者がいる。『リトルの皆は友達!』リトル・リリー(p3p000955)だ。
(……確かに思うところはあるけど、依頼は依頼、だよっ! 頑張らなくちゃねっ。
それに、リリーは鳳圏のことよく分かってないから、ちゃんと知りたいし。
……何かを判断するなら、その後でも遅くはないはず、だもん)
尾花栗毛の牡馬『カヤ』の頭のうえにのり、魔道銃『DFCA47Wolfstal改』を構えるリリー。
鬼楽兵へ呪術弾を撃ち込むと、続けざまに別の呪術弾を発射。
二連続で放たれた弾が鬼楽兵へと浸透し、呪術によってその場に硬直させる。
そうなればカヤによって撥ねとばして突き進むまでである。
「確かにリリーは小さいけど……小さいからって舐めてたら痛い目にあうからねっ!」
リリーにとって鳳圏という土地は未知の国。人も土地も知らない上に戦い方も新戦術となれば気もしまるというもの。
普段のはしゃいだ雰囲気をいったん心のおしいれにしまって、クールでマジメなリリーとして戦うことにした。
「何かあれば、調べて貰えばいいもんね。気になることは後回し。今は……」
カヤの背から魔道銃を撃ちまくり、リリーは鬼楽兵たちの塹壕を飛び越えた。
空を裂く風の中で思い出すのは、昨日のこと……。
●鳳圏というくに
「ようこそ、わが鳳圏へ」
落ち着いた、しっとりとした低い声。
伎庸占領地を経由したゲートを越えたその先で、迎えの兵士たちに付き添われたローレット・イレギュラーズは榛名 慶一大佐に出迎えられた。
兵士達は身体に一本太い筋が通ったように背筋を伸ばし、敬礼の姿勢をとっている。
エイヴァンは長い経験から、エクスマリアはその豊かな直感から、今自分たちに付き添っている鳳圏兵士たちの実力が高いことを察した。たとえばこの場で突然暴れ回ったなら、一分とたたずに鎮圧されることだろう。生きているかどうかすらあやしい。
地球人類が『軍隊』を作り出したのははるか紀元前のことだが、その理由が少しわかる。
軍とは、人間に対する強制力になりえるのだ。
それはハローやリリーにもよくわかった。
シルヴァンスがノーザンキングス連合に加盟した大きな理由は、個々人の影響力に限界があると知っているからだ。ノルダイン及びハイエスタという、周辺ではかなり強い影響力をもつ部族さえも、帝国軍の前ではただの『集団』に過ぎない。軍隊とは、それだけ脅威なのだ。
「私達を招いて良かったのっ?」
ハローの肩の上に座っていたリリーが声をかけると、榛名大佐は優しく笑みを作った。
傷のある顔によった皺が、どこか深い歴史を感じさせる。
「百聞は一見にしかず、と言いますから」
約10名のイレギュラーズは榛名大佐の客人という形で鳳圏国内へと案内された。
自由に歩き回ることは戦時中ゆえ流石に難しいが、人々の暮らしぶりを見るには充分だ。
「随分、裕福そうですね……」
ジープの中から見た景色は、豊かな牧場とそこを走って遊ぶ子供達。あくびをする猫。ゆっくりと流れる雲と、バーベキューを楽しむ家族。
建物の多いエリアに入ると、綺麗な普段着をした人々が楽しげに街を歩き、ショッピングやランチを楽しんでいた。
自動車や馬、スクーターといった乗り物は一般に広く流通していて若い女性がパンをリュックからはみ出させながら通り過ぎるのを見た。
「平和に過ごす人々、ですか」
「なんだか、聞いていたのと随分違いますね」
『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は鳳圏が戦時中の国だと聞いていたし、なんならひどい徴兵制度によって苦しんでいるとも聞いた。亡命してきたという少女と老婆はぼろぼろの服をきて、贅沢など一度も知らないといった雰囲気だったはずだ。
だというのに、この町はとても豊かで、民は平和で、バーのテラスでは昼間から酒を飲む男達の姿があるほど庶民的な贅沢が広まっている。
「演技という線は?」
「んー、違うんじゃね」
『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)はジープの席から景色を一通り眺めてからぽつりといった。
「見ろよあいつの靴。踵んとこがやけにすり減ってる。日常的にフツーのやつが履いてる証拠だぜ。それにそこそこいい靴だ」
企業は靴を見れば分かる、というのは先輩サラリーマンの教えだっただろうか。
偏った価値観だとは思うが、今この場では意味がありそうだ。
「本当に、ここの連中は平和に暮らしてるんだろうぜ」
窮鼠のいた世界と比べると、幻想の街はひどく荒れていた。貴族たちの街はキレイで整頓されているが、一転平民の街は汚くみなどこかすさんでいた。
鳳圏の印象はその中間……というか、地球世界21世紀日本のそれに似ていた。
「ってか、よくわかんねーんだよな。戦争を終わらせるのに攻撃って必要あんのか? やめればいいだけじゃね?」
「実に賢い意見だね」
すこしだけ砕けた口調で、優しく返す榛名大佐。
「お互い、『やめるための理由』を求めているんだ。ただどちらかが手をとめただけでは、無抵抗に殺されてしまう。両者がただ手をとめただけでは、それでも不満をもつ者が勝手に手をあげてしまう」
「あー…………」
窮鼠は学校どうしのケンカが『センソー』とか呼ばれていた時のことを思い出した。
榛名大佐の話は続いていたが、その一方で。
「ついに――当方茅野、祖国帰還であります!!」
『折れぬ華』茅野・華綾(p3p007676)は感激のあまりだくだくと涙をながしながら、鳳圏本国中央局に天高くなびく鳳圏国旗に敬礼した。
「わたくし達は、ずっとこれを望んでおりました。
空中庭園へ召喚され、ろぅれっとへ身を寄せ、いれぎゅらぁずとなりましたが、わたくしは鳳圏の軍人です。故郷の土が、恋しかった……」
「ま、そうだよねえ。鳳圏はずっと周りとバチバチやってたから、国に帰るなんてできなかったもんなあ」
『特異運命座標』時任 零時(p3p007579)は腕を組み、鳳圏国内でだけ流通している煙草をくわえて、うっとりと呼吸した。
周辺国と今まさに領土を取り合って戦争している国が、他国民を領土内に入れるわけがなく、逆に鳳圏を侵略者と見なしている周辺国が鳳圏国民を(たとえローレットだとしても)入れたがらなかった。依頼という形でギリギリ伎庸までは近づけたのがついこの間の話である。
「大げさですよ茅野殿」
『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)はそんな風にいいつつも、軍帽を脱いで胸に当てていた。
「……本当に帰ってきたのですね。傭兵としてではありますが、懐かしきこの戦場に再び立つことが出来て嬉しいです」
ひとしきり帰国の感動に浸った後、迅たちはあらためて周りの様子を眺めてみた。
「それにしても、我々が召喚された時よりかなり色々と発展していますね」
「そうだろうなあ。驚いたろ」
後ろから声をかけられ、迅はハッとして振り返った。
「先輩!」
「おめーあれからも素手でやってんのか? また味方誤射してねえだろうな」
とんでもありません! と言って敬礼する迅。
華綾と零時は顔を見合わせ、そして笑った。
「おめーらが召喚で出て行ってから、この国はやたら発展してな。
作物は他じゃみられねーくらいよく育つし、機械はよく動くし、金はやたら回る。
新築の家なんてあちこちに建ってるだろ?」
先輩軍人に案内されて居住区を歩く零時たち。
よく煙草を買っていた店が改築してぴかぴかになっているのを見た。
当時貧しかった近所の家族が綺麗な服を着てドライブをしているのを見た。
豊かな国。
嘘みたいに、幸せな国。
「これが、同胞たちが戦って得たものなのですね」
華綾が感激していると、先輩軍人は「おうよ」といってまた笑った。
「鳳王様に忠義を尽くして、得たモノさ! けどなぁ」
「けれど――」
榛名大佐は、こう続けた。
砲音なりやまぬ戦場から離れた後衛テント。
壱壱七戦線を支える鳳圏軍の陣地にて、響子や華綾たちは戦力投入の命令を待っていた。
「鳳圏国民は増えすぎました。これまでの土地に収まらないほどに拡大し、国民それぞれのおこした事業も国外進出を必要としていた。
しかし伎庸や鬼楽といった保守的な部族は近代化や国外進出をよしとせず、迎合しませんでした。
どころか、鬼楽は豊かになった鳳圏への略奪を計画した。彼らの基本理念は略奪ですから、無理のないことですが……」
「それで、戦争を?」
構図はこうだ。
鬼楽と伎庸を制圧し、鳳圏国の属州とすることで併合。鳳圏の豊かな作物や技術や文化を広め、それぞれの国民に豊かさを与えることで満足させる。
一方で土地に収まりきれない鳳圏国民を進出させ、事業の拡大や鉄帝をはじめとした大国への進出をはかる。
もちろんこの方式は鬼楽伎庸双方の権力者たちにとっては既得権益の剥奪に等しい。土地も一度奪われることになるため納得はできないだろう。
どちらかが消えなければ解決しないなら、どちらかを消すしかない。
お互いに『戦争の必要がなくなる』ために、戦争をするという選択が必要だったのだ。
「国のために、戦ってくれるね?」
優しく、そして特に迅、零時、華綾の三名にはこう加えた。
「誇り高い、軍人ならば」
●突撃命令
「さあ、鳳圏の皆さん! この炎のように熱い闘いを見せつけてやりましょう!」
響子は地を駆け空を裂き、迫る鬼楽兵の列へと加速した。
同じく迅と零時が加速。
三人は降り注ぐ砲弾の中を駆け抜けると、全く同時に地を蹴り跳躍。棍棒を一文字に振り込み地面をえぐる巨漢の鬼楽兵の頭上をとらえると、全く同時の宙返りからの跳び蹴りによって巨漢兵士を蹴り倒した。
勢いよく着地し空手の構えをとる迅。
獣のように身を低く下げると、咄嗟に抜刀した砲兵たちの間をつむじ風のように吹き抜けていく。
「軍役から退いて久しいけれど、戦場に立つと血が滾ってくるね。ローレットの人達と同じ戦場でなくてよかった。戦場で敵として前に立たれたら、殺し合わざるを得ないもんね」
一方の零時はここへきて抜刀。豪快な斬撃によって大砲を破壊すると、続く鳳圏兵士たちへ『続け』と呼びかけた。
(正直、『黄泉軍計画』とかきな臭いとこだけど……真っ当な方法で綺麗な戦争したからって、侵略・蹂躙・略奪・殺戮された側の怒りとか恨みとかが和らいだり無くなったりするわけじゃないしね)
響子は兵に混じり『河鳲式戦闘術・不浄移し』を発動。
繰り出した貫手が気の刃となり鬼楽兵士たちの間を突き抜けていく。
崩壊した砲兵たちの間を抜け、華綾、ステラ、窮鼠が後衛部隊へと迫る。
が、そんな彼らを迎え撃ったのは般若の面をかぶった半裸の鬼楽兵たちだった。
常人の倍はあろうかという体躯に、棘の突いた金棍棒を備えている。
「オラオラ、かかってこいや鬼さんこちら手の鳴る方へってなぁ!」
窮鼠は臆することなく突進。
拳に渦巻くエネルギーを発生させると巨大な妖骨を纏って鬼楽兵へと殴りかかった。
『我門流陰陽道・大骨』である。
激しい衝撃によろめく巨漢鬼楽兵。
ステラは転がり落ちた金棍棒を拾いあげると、すさまじい勢いで巨漢鬼楽兵の脚を払った。
「……」
はじめに見せられた鳳圏の風景は、人々の表情は、ステラの想像したものと大きくかけ離れていた。
いや、占領地で見た人々の平和さにとても近いのだが、本国があれほどにまで平和だとは。
(兵器工場の破壊は上手くいったのでしょうか。そしてそれは、あの平和な人々をどう変えるのでしょうか……)
戦争に『終わらせ方』があるように、ものには『壊し方』がある。
鳳圏の軍人が見せた悪逆非道な兵器は今すぐにでも破壊するべきだと考えるが、それにしたって壊し方を考える必要がありそうだった。
国そのものを燃やし潰し消し去ったなら、平和な風景もまた焼き尽くすことになる。あの占領地のように、兵士たちにも家族がいて、家族やその国家のために戦う人々がいて……。
「ただすべてを破壊し尽くすのでは、いけませんね。
きっと私達は『求められている』のでしょう。私達にしかできない『破壊のしかた』を」
敵兵を斬り進んできた華綾が巨漢鬼楽兵を切り倒す。
「同胞達よ!
命を燃やし、戦うのです!
ただ前へ進むのです!
祖国の為に!!!」
伝説とともに還ってきた鳳圏軍人である華綾に、同胞の軍人たちは烈火の如く戦った。
残る鬼楽兵たちが撤退を始める。
「安心してください、負けを認めた者の命は取りません」
響子が倒した巨漢の鬼楽兵へ掛けより、般若の面を取り外した。
そして、ぞくりと固まる。
「どうしました? えっと、敵兵の手当は捕虜とするなら別に構わないとおもいますが……」
華綾はそんな事をいいながら近づいて。
腐敗を通り越して白骨化した兵士の顔面を見た。
見るからに、それは死骸であった。
手加減抜きで斬り捨てたのは事実だが、殺した覚えはない。
仮に殺したとしてもこの短時間で白骨化などするはずはない。
「彼らは……元から、死体だったのですか?」
「おい、待てよ。アンデッドを兵器利用してんのは鳳圏のほうだろ!」
窮鼠が怒気をはらんで叫んだ。
「なんで、鬼楽の奴らが同じ兵器を使ってんだよ!」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
任務完了。
各陣営の状況を報告します。
・伎庸
占領地の制圧に成功。占領軍は撤退し、近隣にて陣地を構築する模様。技術将校無黒木 楓はこの陣地に入ったものと思われる。
軍の撤退行動に遅れた鳳圏市民は領内に取り残され、伎庸兵からのヘイトに晒されています。
ローレットは伎庸に対し鳳圏市民への人道的対応を求め、交渉を開始。
ヘイトの向く先を別に用意する必要に迫られました。
伎庸兵は領地を取り戻したことで防衛と牽制にシフト。鳳圏軍との積極戦闘を避けようと保守的な姿勢をみせています。
伎庸の長及川を狙う暗殺計画はまだ実行されていません。追加情報を求めています。
・鬼楽
六六八戦線にて鳳圏軍をギリギリの所まで追い詰めることに成功しました。
鳳圏軍は切り札として軍神不動 界善を投入。
前線のローレット及び鬼楽兵は不動が反転(魔種化)していることを突き止め、同時に現存戦力での突破は危険と判断して撤退しました。
不動の打倒と防衛ライン突破の手段が求められています。
また、鳳圏軍をあと一歩の所まで追い詰めたことで鬼楽兵からは一定の満足を得ています。
・鳳圏
壱壱七戦線にて鬼楽兵の撃破に成功。防衛ラインを突破したことで追い詰める形になりました。六六八戦線の状況とあわせ、互いの喉元に刃を突きつける状態にあります。
また、鬼楽が『黄泉軍計画』と類似したアンデッド兵を運用していることが判明しました。
その技術の由来や、運用の理由、そして誰が運用したのかについては分かっていません。追加の調査が求められます。
以上の情報はローレット内で共有され、全ローレット・イレギュラーズが知り得るものとします。
●次回予告
平和な日常を守るべく『誰もが納得する侵略』を進める鳳圏の榛名大佐。
一方黄泉軍計画を拡大させるであろうプラントの破壊に成功した久慈峰中将らは占領地に取り残された鳳圏市民の扱いに追われることに。
鳳圏ではそれぞれ防衛ラインへ到達したことで敵兵の国内流入リスクを抱えていた。
一歩間違えば泥沼化するこの戦争。
渦巻く疑念と暗躍する影。
各陣営へ再び加わったローレット・イレギュラーズたちの『それぞれの戦い』が幕を開ける。
次回鳳圏戦忌憚――戦火に覚悟せよ。
GMコメント
※このシナリオは情報量がとても多いため、特設ページを用意しました。この先のシリーズでも役に立つので是非ご活用ください。
https://rev1.reversion.jp/page/houken
このシナリオには三つのパートが存在します。
自分のパートを選択し、参加してください。
●パートタグ
【鳳圏】【鬼楽】【伎庸】の三つのうちかタグを一つだけ選択し、プレイング冒頭に記載してください。
以下は各パートの説明になります
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【鳳圏】
鳳圏軍人と共に鬼楽と拮抗状態にある壱壱七戦線へ参加し、鬼楽軍へと攻撃を仕掛けます。
依頼人の目的は戦争の終結であり、戦争敵国である鬼楽をある程度まで追い詰め降伏させることが狙いのようです。
ローレットの噂は鳳圏にも伝わっているので、勢いよく戦えば戦うほど味方の鳳圏軍人は士気を高め、勝利が近づきます。
・敵対する鬼楽軍人
少数精鋭の軍人たちです。鬼楽軍人は主に防衛より攻撃に重きを置くので、この防衛ラインを突破すると鬼楽を大きく不利にすることができます。
※注意
このパートを選択した場合、以降の<鳳圏戦忌憚>シナリオで【鳳圏】サイドからの信頼を得ることが出来ます。
同時に【鬼楽】パートでの活動がしにくくなります。
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【鬼楽】
六六八戦線に参加し、鳳圏軍人の守りを食い破って鳳圏領土へ攻め込みます。
現地には敵味方が大勢いますが、皆さんが勇猛に活躍することで味方の士気が上がり、鳳圏軍を食い破ることができるでしょう。
依頼人の目的は『同胞に報いること』とあり、鳳圏にダメージを与えれば与えるほど喜ばれます。
また、この戦いに勝利すると鳳圏国内にちょっと踏み込むことができ、前線基地を作ることもできるようになります。
・敵対する鳳圏軍人
鳳圏国内から徴兵された軍人たちです。全員鳳圏に戸籍があり家族があります。
前線に配置されるだけあってそれなりの戦力を有しています。
雰囲気は旧日本軍の軍服や装備に近いイメージです。
※注意
このパートを選択した場合、以降の<鳳圏戦忌憚>シナリオで【鬼楽】サイドからの信頼を得ることが出来ます。
同時に【鳳圏】パートでの活動がしにくくなります。
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【伎庸】
鳳圏占領地へ襲撃をしかけます。
主な破壊目標は『黄泉路計画』における兵器工場です。
同時に、反撃に参加する鳳圏軍人たちを撃退し、占領地から撤退させる必要があります。
・占領地の様子
土地に残っていた伎庸国民は残らず死亡しており、代わりに鳳圏軍人が駐留しています。
駐留する軍人の殆どは家族ごとこの土地に移っており、西側居住区には軍人の家族たちが生活しています。
また、襲撃時には『黄泉路計画』によって製造されたアンデッド兵が迎撃に出てくると思われます。特に兵器工場破壊時にはかなりの戦力が迎え撃ってくると考えてください。
・補足
この土地を調査した際、伎庸の長を暗殺する計画があることが判明しています。
いついかなる方法で行うかはまだ判明していません。今回のシナリオ内かもしれないし、もっと後かも知れません。
※注意
このパートを選択した場合、以降の<鳳圏戦忌憚>シナリオで【鬼楽】サイドからの信頼を得ることが出来ます。
同時に【鳳圏】パートでの活動がしにくくなります。
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【その他】
こっそりはえた第四のパートです。誰も選ばなければこのまま消滅します。
本当に『その他』の選択肢をどうしても選びたかった場合これを選択してください。
選んだ結果おこした行動には成功の保証は一切できませんので、自己責任で挑戦してください。
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●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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