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シナリオ詳細

<祓い屋>夢喰の咎

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 赤と黒に視界が明滅する。
 息をすることさえ儘ならない。
 胃の裏側にタールを流し込まれたみたいに吐き気がこみ上げる。
 砂利の上に身を投げ出せば視界の端に魔法陣が見えた。
 その中心から指先が出てくる。
「あ……」
 魔法陣越しに見える紫色のシャツの袖。灰銀の髪。アメジストの瞳。
 そして、悪性怪異『獏馬』の邪悪なシルエット。
 白銀と牡丹が練り直した『結界の内側』に、獏馬と澄原龍成が現われたのだ――

『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は首筋に刻まれた刻印を掻きむしる。
 獏馬と龍成はこの刻印から、燈堂の結界の中に入り込んだのだ。
 滲む血が爪の間に入り込む。
「何やってンだよ。そんな掻きむしったら傷がつくぞ」
 廻の手を掴み、傷口から爪を離す龍成。いくら抵抗しようとも引き剥がせない龍成の手。
 この絶望感には覚えがあった。何故、今まで忘れていたのだろう。
 現実世界ではほんの数時間前の話だ。夢の中に居たからずっと遠くの記憶のように蘇ってくる。
 カラオケの洗面所へ続く奥まった通路。ワインレッドのカーペットの感触。
 手を掴まれ壁際に追い詰められた廻の瞳に、龍成の唇が映り込む。
 記憶は漠馬によって消され、廻には知覚できなかった。
 けれど、目に見えぬ刻印は首筋に刻まれていたのだ。
 だからこそ、廻の意識を攫うことが出来たのだろう。

「放せっ……!」
「威勢良いじゃん。やっぱ、ホームだから気が大きくなってンのか?」
 目の前に龍成と獏馬が居る。燈堂の地に自分が呼び込んだ。
 守らなければならない人達の居る場所に、廻自身が忌避すべき存在を引き入れてしまったこと。
 それは、廻にとって在っては成らないことだった。
 どうしたらいいのだと考えを巡らせる。
 子供達が居る南棟や東棟に近づけさせる訳にはいかない。
 廻を追って本邸から仲間が来るだろう。一分にも満たない時間だ。
 自分が太刀打ち出来る相手では無い事も分かっている。
 ここで、自分が引き留めておかねばならない。
 一秒でも多く。何があっても。
「僕の家族に、手出しはさせない!」
 拘束されていないもう片方の手で小さな魔法を作り出す。
 傷一つ与えられないものだろう。けれど、目くらましぐらいには成る。
 否、簡単に躱され無意味になるに違いない。
 しかし本質は其処では無い。その先の龍成の行動だ。
「……はぁ、大人しくしてろよ。傷つけたくないンだよ」
 廻が動くより速く。術が発動する前に手を捻り上げ、廻を後ろから拘束する龍成。
 生命力の譲渡は獏馬の夜妖憑きである龍成も出来るのだ。
 首筋の傷に龍成の歯が立てられる感触に身体が震える。
 されど、廻の瞳は本邸から走ってくる人影を見つめて居た。


 飛び出した廻を追って中庭に走り込んでくる恋屍・愛無(p3p007296)とシルキィ(p3p008115)は目の前に現われた獏馬と龍成に目を見開く。
 そして、龍成の腕の中には苦しげな表情を浮かべる廻の姿があった。
「廻君に何をしたの?」
「暴れるからさ。大人しくさせただけ」
 シルキィは廻の瞳を見遣る。大丈夫だと言わんばかりに瞬かれた瞼。
「ほら、安全なとこに置いといてよ。廻はか弱いからさ」
 トンと背を押され、転げるように前のめりになった廻を愛無とシルキィが抱き留める。
「廻君……」
「すみません……大丈夫です」
 血だらけになった首筋を押さえ、二人に微笑んでみせる廻。

「こうも容易く結界の中に入れるとは思わなかったよ。ねぇ、暁月。お前、廻を使って此処に僕達を呼び込んだだろう」
 獏馬は廻の傷を癒す『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)に口の端を上げた。
「おやおや。これは心外だなぁ。そんな危険な事するはずが無いじゃないか」
『護蛇』白銀は獏馬達と対峙する暁月を見遣り、彼の意図を把握する。
『守狐』牡丹と共に練り上げた二重の結界を張り巡らせた。
 この守護の結界は外からの敵を退けるものではない。内側のものを外に出さない事に特化しているのだ。
 燈堂の門下生にはこの守護結界の他にもう一つ『要石』の結界がある事が知らされる。
 門下生である時尾 鈴(p3p009655)も聞かされているものだ。
 三重に張られた結界の中に居るからこそ、外界から隔絶され、安心して暮らせると教わるのだ。
 されど、この三重の結界は燈堂の地を守る為のものだ。
 獏馬自身を縛るものではない。
 つまり、龍成が廻に刻印を刻み、侵入してくることが暁月には分かっていたのだ。
「はっ、言ってなよ、道化め。まぁ。僕は僕の目的の為にお前の策に乗ったんだけどね」
 獏馬の身体から妖気が立籠める。暁月は眉を寄せ怪訝な表情で獏馬を見遣る。
「成程……、その力。イレギュラーズのものか。やってくれたね。そんなものを持ち込んで」
 以前の獏馬より格段に妖気の質が高い。夢の中でイレギュラーズの感情や想いを喰らった証。
「彼等は普通の人間とは魂の質が違うからね。流石、世界に選ばれた特異運命座標だよ。こんなにも力が溢れているのは初めてだ。今の僕は燈堂にとって脅威そのものだろう」
 掌から零れ落ちる妖気が紫炎となって辺りを照らしていく。
 獏馬は暁月を見遣り言葉を投げた。
「ねぇ、お前の目的と僕の目的は一緒なんじゃないか。暁月、お前にはそれが分かっているだろう」
「……反吐が出る程に嫌な奴だな君は。その選択を私にしろというのか。他の誰でも無いこの私に」
 利害の一致。此処に至る道筋は獏馬と暁月。何方が利用したのだろうか。

「暁月さん、どういう事だ? 目的が一緒ってどういう意味なんだ」
 浅蔵 竜真(p3p008541)は紫の妖気を纏う獏馬を睨み付けた。
「獏馬の真意は私には分からない。だが、今のあれを殺してはならない」
「でも倒さないといけないでしょう?」
 暁月の隣に立つアーリア・スピリッツ(p3p004400)は獏馬への警戒を強める。
「イレギュラーズの力を吸った獏馬は強大な力を得ている。命が散る瞬間にこの燈堂の地が焦土になる程のものだろう」
 白銀と牡丹の結界で外部への被害は免れるかもしれないが、燈堂の敷地は跡形も無く消え去るだろう。
 門下生や子供達が一瞬にして灰となる。イレギュラーズも無事ではすまない。
「じゃあ、どうすれば……」
「封印する、もしくは無力化するしかないだろう」
 その言葉に竜真は左手の甲に刻まれた術式を撫でた。
『双別の軛』と呼ばれるそれは夢の中で獏馬自身から託されたものだった。
 獏馬とあまねの力を等分する術式。竜真は掌をぎゅっと握り込む。
「俺はその方法を知ってる」
「本当かい?」
「ああ、でもその方法だけだ」
 早合点をするなと竜真は首を振った。
「そうですね。恐らく、夢の中で視たものが鍵となっているのではと推察します」
 ボディ・ダクレ(p3p008384)はこの場に集まったイレギュラーズを見つめる。
 ――識る者、導く者、繋ぐ者、与えし者、守る者を探し、『双別の軛』を成功させること。
 そうすれば獏馬の共存代償が龍成の命を蝕む事が無くなるとボディは夢の挾間で垣間見たのだ。

 白銀はラクリマ・イース(p3p004247)を呼び止め耳元で囁く。
「貴方は『月灯の歌鎖』を使えますね?」
 ラクリマは獏馬に悟られぬように小さく頷いた。
『月灯の歌鎖』とはラクリマが獏馬の夢の中で得た結界術式だ。
 燈堂の地に漂う霊気を糧に鎖となる歌を紡ぐもの。
「では、それは必ず来たるべき時に展開してください」
 戦闘の最中、獏馬の気が逸れた瞬間を狙い確実に結界を掛けるのだ。
 一人だけでは成し得ないだろう。けれど、この場には仲間が居る。
 そして、ここで獏馬を封じなければ親友が安心して眠れないだろうから。
「分かりました」
 ラクリマはブルーグリーンの瞳で頷いた。


 ――自分の首は自分で絞められない。
 悪性怪異『獏馬』は己の力を、自分自身で弱める事が出来ないのだ。
 長い間、意図して喰わなければ眠っている間に誰かを食べてしまう。
 どうするとこも出来ない生物としての本能。
 だから、脅威と見做されるまで力を膨れ上がらせた。
 一網打尽にしなければ、危険だと祓い屋に思わせるのが目的だった。
 恋人を狂わせたのだ。暁月は獏馬を強く憎んでいるだろう。
 暁月は夢の中へ逃げる獏馬を燈堂の地に引き寄せ、祓うつもりだったのだろう。
 しかし焦土にすると知れば自分を無力化する方法を取るはずなのだ。
 そして、それは『利害の一致』でもあった。
 その証拠にいとも容易く結界の中へ入る事ができた。

 獏馬の真意。それは『龍成の傍に居たい』という想いだ。
 悪性怪異たる獏馬が、ただお気に入りの玩具の傍で、同じ時を過ごしたいと願ったのだ。
 そして、特異運命座標との交わりで、道筋が繋がった。
 名を与えたのも、可能性を託されたのも、イレギュラーズが引き寄せた未来だ。
 その可能性を掴み取るのは――

GMコメント

 もみじです。獏馬との決着です。

●目的
 獏馬の無力化
 燈堂の地を守る

●ロケーション
 希望ヶ浜、燈堂一門の広大な中庭です。
 とても広いので、戦闘には支障ありません。
 門下生や子供達が住む建物への被害は牡丹の結界があるので問題ありません。
 中庭にある茶屋はその限りでは無いです。
 燈堂の地には『何か』を封じる『要石』が存在します。
 この場所が破壊されないように気をつけてください。

●出来る事
 分かりやすいように【A】~【D】に振ってみました。
 跨いでも問題ありません。一つに絞った方が描写は多くなります。

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【A】勿忘草と幻影を倒す
 中庭に蔓延る勿忘草と幻影が行く手を阻んでいます。

○勿忘草×30
 獏馬に操られている夜妖です。獏馬に栄養を送る役割を果たします。
 勿忘草は感情や思いを増幅し、後悔や未練といった幻覚を作り出します。
 龍成や獏馬を庇うことがあります。獏馬が撤退すると同時に消えます。
 勿忘草の強さはそこそこです。

○幻影×?
 大量に居ます。後から後から湧いてきます。
 勿忘草から生み出された幻影。勿忘草が消滅すれば増えることはありません。
 未練や後悔といった負の感情が具現化したもの。
 大切な誰かの形を取ることもあれば、自分自身だったりもします。
 目の前に突然現れ、神秘攻撃を仕掛けてきます。

▼ポイント
 幻影と戦う時は『大切なもの』を切る愉悦や葛藤が味わえます。

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【B】龍成と戦う
○『刃魔』澄原龍成(すみはらりゅうせい)
 獏馬の夜妖憑きで、その能力を使い廻の意識を攫いました。
 廻の『希望ヶ浜に来た後』の記憶を無理矢理引き出しています。
 あまねが持っている廻の記憶を解く鍵を探すためです。
 それも、暁月から廻を救う為に必要な事だと信じています。

 しかし、鍵が見つからないので強行手段として燈堂家に攻めてきました。
 暁月をぶちのめして廻の『呪い』を解く為です。
 其れを邪魔するイレギュラーズを排除しようとしてきます。

 獏馬の力で強化されており、非常に強力です。
 黒いナイフを持っています。
 EXA、攻撃力、CTが高く、BS攻撃、必殺、ブレイクなども持っているようです。
 己の信念から人の命を奪う事を良しとしません。必殺を使いません。

▼ポイント
・暁月を集中的に攻撃してきます。
『廻の呪い』を解く方法を吐かせる為です。

・獏馬の弱点です。彼を殺した場合獏馬が絶望し、大人しくなるでしょう。
 ただし、その前に暴発して燈堂の地は焦土になりますので注意してください。

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【C】獏馬と戦う
 龍成に憑いている悪性怪異です。
 人の夢を渡り、記憶や感情、思い。果ては魂までも喰らい尽くす暴食の夜妖です。
 獏馬に憑かれると、徐々に記憶を失い狂っていきます。
 暁月の恋人も獏馬に憑かれ狂ってしまいました。
 龍成の事は気に入っているようで、彼ではなく他者の記憶や感情を喰らう事で生存代償を肩代わりさせています。
『廻には呪いが掛けられている』と龍成に吹き込みました。

 勿忘草から吸い取った養分で回復します。
 黒紫の日本刀で戦うようです。
 能力の詳細は不明。非常に強力な敵です。

▼ポイント
・龍成が殺されそうになる場合、それを庇います。
・結界『月灯の歌鎖』の中では弱体化します。
・『手順』通りに『触媒』を用いて『双別の軛』を掛ければ獏馬は無力化されます。

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【D】結界を張る、それを守る
 獏馬を弱体化させる『月灯の歌鎖』を張ります。
 展開のタイミングは『戦闘中に獏馬の気が逸れた瞬間』を狙いましょう。
 結界を維持する為には強固な意志が必要です。
 親しい人との思い出を心に描きましょう。それは自分を見失わない為に必要です。

 また、『月灯の歌鎖』を張る間は無防備になります。
 守り手に廻や門下生が居ますが、囲まれれば危ないかもしれません。

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●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 全ての場所に居て、共に戦うことが出来ます。
 あまねは廻の中に隠れて居ます。
 魔力障壁で攻撃を防ぎ、月の魔法で戦います。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 剣術を得意とし、自分の身は自分で守れるでしょう。
 腰に差した刀で戦います。簡単な回復が使えるようです。
 廻や門下生の窮地には身を挺して庇います。

○燈堂一門
 黒曜、湖潤・狸尾、湖潤・仁巳、煌星 夜空、剣崎・双葉、他。
 白銀と牡丹は強力な結界を張っているため戦闘には参加しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <祓い屋>夢喰の咎完了
  • GM名もみじ
  • 種別長編
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年04月29日 20時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
真実穿つ銀弾
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
郷田 貴道(p3p000401)
喰鋭の拳
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
威風戦柱
ラクリマ・イース(p3p004247)
守る者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ロロン・ラプス(p3p007992)
頂点捕食者
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
繰切の友人
楊枝 茄子子(p3p008356)
古竜語魔術師(嘘)
ボディ・ダクレ(p3p008384)
ぬくもり
眞田(p3p008414)
スカーレットの闇纏い
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
浅蔵 竜真(p3p008541)
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
時尾 鈴(p3p009655)
いつまでも傍に

リプレイ


 二月の夜空に浮かぶ月は冴え渡り、凜とした表情を浮かべていた。
 這い上がる冷たい風は燈堂の地に吹いている。中庭に置かれた巨大な要石に掛けられた注連縄が揺れた。
 水色の素体を揺らし『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)は目の前に現われた人影を見遣る。それは今まで無関係だと思って居た者たちだ。自分が滅ぼしたラプスの人々、それにファルベリヒト。
「後悔や未練か。今のボクには十分な凶器だね」
 冷静さを失わぬよう努めるけれど。ロロンの攻撃で吹き飛ばされる人々の姿に心を痛めない訳がない。
 ようやく大切だと自覚した者たち。幻影といえどラプスの人々を再び自らの手で壊さなくてはならない現実に怒りがこみ上げる。ジリジリとロロンの心の奥を焼いて離れない苦痛。
 こんなに苦しいなんて知らなかった。外傷より尚、深い心の痛み。
 ロロンは歯を食いしばり、攻撃を解き放った。
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は目の前に現われた勿忘草の幻影に視線を上げる。
「フリック」
 懐かしい声がフリークライの中に入り込んできた。
 もう何処にも存在していない少女の姿。
 Dr.こころの姿を見ても後悔は無いと言える。けれど、未練が無いとは言い切れないだろう。
 己の内側を冷静に分析すれば導き出される言葉があった。
「フリック 護ッテル。デモ 護ル 主 違ウ。フリック 思ウ。コレハ “寂シイ”」
 フリークライの中に渦巻く焦燥。手を伸ばして来る少女にフリークライは首を振った。
 どうしてと問うような少女の瞳。フリークライは彼女の手を握りしめる。
「ダケド。寂シイ。“負”トハ フリック 思ワナイ。……主。イツマデモ。マタ イツカ」
 腕の中で消えて行く少女へフリークライは言葉を贈る。

「全くもぉ」
 小さく溜息を吐いた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はエメラルドの瞳を上げる。
「廻くんも暁月さんもあの龍成って子も」
 獏馬は正確には分からないけれど。まあ、おそらく少年であろう。
「男って自分勝手で、欲しがりで、でも弱虫なんだから!」
 強がるくせに、肝心な所で折れてしまったり自信を無くしてしまったり。真っ直ぐぶつかって、手を取り合えばいいのにとアーリアは思うけれど。そう簡単には行かないのだろうと戦場を見渡した。
 茶屋の近くにある大きな要石。これが壊されれば危険なのだ。アーリアは懐から取り出した聖酒を媒介に保護結界を張り巡らせる。
 可能性が少しでもあるのなら、膝を着いて血を吐いたって掴み取ってみせる。
「希望ヶ浜学園の教師として、そしてただのおねーさん……いえ、『導く者』として
 未来へと、皆を導くのが私の役目!」
 アーリアは隣の『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)へと視線を送る。
「眉間の皺、色男が台無しよぉ」
 暁月の眉間を指でつついたアーリア。
「ああ、ありがとう」
 彼女の励ましに僅かに肩の力を抜いた暁月。
 刀を月光に晒しアーリアへと迫り来る幻影をなぎ払った。
 桃色の髪越しに背を預け、アーリアは『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)へと聖なる加護を施した。
「素敵な歌、聞かせてね?」
「ええ。守りたいものを守るために……ここですべて終わらせる」
 青白い顔をした『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の手を握り、ラクリマは祈るように言葉を紡ぐ。

「ハッ! そっちからノコノコとネギ背負って来てくれるなんざ都合がいいぜ。しかし、おめえらは運が悪いったら無ェなあ。なんせ──この最強のおれさまが、たまたまこの屋敷で茶ァしばいてたんだからなあ!」
 酒焼けした声が中庭に響き渡る。『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は斧を構え挑発するようにわざとらしく口の端を上げる。
 グドルフへと群がる幻影の中に『アラン』の姿があった。
 黒髪と胸元のロザリオを揺らす青年。
「何故僅かな金銭の為に、愛すべき隣人に刃を向けるのです」
 彼が紡ぐ言葉は聖職者たらんとする正しき者の言葉だ。
「そのような事を神も、先生も望んでは居ません」
 ――救ってくれる神なんて何処にも居ない。
 かつての『敬虔なる』青年が滑稽で、歯がゆくて、腹の底が掻きむしられる。
「うるせえんだよ、カミサマに縋る事しか出来ねえ腰抜け野郎が」
 斧で真横に引き裂けば僅かの驚きと口元に浮かぶ笑み。
「勿忘草の花言葉は──『真実の愛』。きっと、貴方が思い出せますように」
 昔の自分からの手向けの言葉にグドルフは舌打ちをした。
「笑わせるぜ。慰めにもなりゃしねえよ」
 愛を忘れたかった男へ向ける言葉にしては皮肉が効きすぎているのだと――
 それでもグドルフの周りに幻影は集まってくる。アーリアの手から放たれる魔法へ重なるは『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)の黒き閃光。
 虚空より穿たれる贖罪の鉄槌は戦場を突抜け、勿忘草を貫き焼き尽くしていく。
「獏馬の無力化のために、憑りついてる澄原龍成を止めるために、獏馬に栄養を与える勿忘草と、それが生み出す幻影を倒す……と……ややこしいね」
 希は返す手の平をグドルフの腕に食らい付く幻影へと向けた。
「なんにせよ、まず道をこじあげないとダメなわけね」
 打ち下ろされる慈悲の鉄槌。緋焔は舞い上がり宵闇の地面を照らす。

「……あの時の! また!」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は燈堂家の中庭を埋め尽くす幻影に眉を寄せた。
「まだあんなにたくさん持ってたんだ……」
 常磐公園で勿忘草と対峙したから知っている。誰が目の前に現われるのかも。
 だから初めて戦う人達より心の準備は出来ている。慣れていると言えばいいのだろうか。
「それに……こういったつらいことはたくさんの人にさせていいものじゃない。ぼく、前に出るよ!」
 廻やラクリマを守るようにリュコスは前に出る。
 リュコスの瞳に映り込む幻影は前と同じように元いた場所での家族達。
「Uh、ごめんね、また傷つけることになるよ……」
 戦場を駆け抜けるリュコスの帚星。七色の閃光を瞬かせ兄弟達の幻影を散り散りに闇へと返す。
 たとえそれが本物で無かろうと、彼等を傷つけるのは胸が痛むのだ。
 何度も繰り返される兄弟達の死。全然平気なんかじゃない。リュコスに其れ等を割り切る心は無い。
「だからこそ! はやく倒すんだ!」
 泣いてしまわないうちに。起こってしまわないうちに。
 リュコスの攻撃に合わせてアーリアが解き放った魔法の狭間。
 茨の刻印纏いし欠月の姿が彼女の瞳に映り込んだ。
「……ッ!」
 彼と同じ笑顔でアーリアの攻撃に飲まれていく其れに、悪酔いよりも酷い吐き気がこみ上げる。
 小さく息を吐いて唇を引き結んだ。
「でもきっと、私が帰って「こんな光景を見た」って言ったら――」
 欠月は『ありえませんわ』と笑ってくれるから。
 されどとアーリアは暁月を一瞥する。彼は幻影等では無く本当に『愛しい人』を斬ったのだ。何れだけの苦痛があったのだろう。
 この『双別の軛』の術式が終わったあと、情動のままに動いてしまわないかと心配になる。
(気に掛けておかないとね)
 優しいエメラルドの瞳が刀を振るう暁月を見つめた。

 ――――
 ――

「また会いましたね、澄原龍成」
 グリーンのモニターが暗闇に浮かび上がる。『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)は龍成を正眼に捉えた。
「チッ! また、テメェかよ。どけよ。そこをどけ! 俺はなぁ、やらなきゃならねぇ事があんだよ!」
「したい事は分かっている。願いも意志も、貴方から聞いた。だから返しに、私がしたい事を教えます」
 腹の奥にこみ上げる痛みがボディの身体に熱を入れる。湧き上がり巡り、やがて行き場の無い感情が彼の思考を侵食していくのだ。
「今から貴方をぶん殴る。私は、貴方が気に食わない」
「奇遇だな。俺もお前が気にくわねぇ! 邪魔すんじゃねえ!」
 龍成の雄叫びが二月の宵闇に弾けた。
「……獏馬にとって、龍成さまは失いたくない、共に傍にありたい存在、なのです、ね」
 胸元に手を当てた『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)は『月夜の黒猫』の香りを身に纏う。
 大切な人が居るメイメイだからこそ、獏馬が龍成を失えば良く無い意味で全てが終わってしまうのだと感じるから。
「そうさせないためにも、わたしは戦います」
 ファミリアで呼び出した小鳥を空へと解き放ち、俯瞰的な視界を共有する。何かあれば直ぐに仲間へと知らせることが出来るように。
 今回の作戦は獏馬を無力化すること。
「うむ。あやつを殺してしまうとここら一帯が焦土と化してなるようであるな」
 メイメイは『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)の言葉に頷く。
「余はこの地に愛着があるわけではないが、それじゃあ後味の悪いのでな。ここは気絶してもらうしかないであるな」
「はい」
 獏馬の注意をこちら側に向けることで、結界を成功させるための隙を作り出す。メイメイやルーチェに与えられた役目だ。
「いくぞ!」
 龍成へと放たれる拳と魔弾。二つの異なる力が闇夜に走った。
「……ったく、俺は面倒事には首突っ込まない主義なんだが」
 深く溜息をついた『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は銀髪をくしゃりと掻いた。
「あーもう! !姉弟のすれ違いとか無視出来ないンだよ、こんちくしょう! 龍成の野郎は殴ってでも止めるさ。引き返せる内に。――絶対にだ!」
 保護結界はアーリアや希が張ったものをカバーするように展開する。
「要石は中庭に1つと本邸に1つ。燈堂家見取り図を見ると中庭と本邸は近い……と思ってたんだが。実物は結構距離があるな」
 されど、多重に張り巡らされた結界は強固なものとなり本邸への被害は抑えられるだろう。
「要石が破壊されたら不味いからな、念には念を」
 レイチェルは仲間をフォローするように臨機応変に思考を組み替えていく。
「やっと……廻氏の危機に駆けつけられた、けど……
 龍成氏って、僕が聞いた……昔の母さんと似てる気がして……」
 眼鏡の奥に遠き記憶を思い返すのは『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)だ。
 記憶の中の言葉を辿る。自分に価値が無いからと大切な人を己の命を対価に助けようとした。
「大切な人に嫌われても……いや、その人の幸福を願う為に寧ろ嫌われようとしてそうな……なら僕は……彼を止めたいんだ」
 昼顔は手を前に翳し唇を噛みしめる。この手は誰かを癒す為にあるのだ。
「風よ、吹いて! 皆に恵みを齎す為に
 炎よ、焼いて! 皆の苦境を救う為に」
 美しき昼顔の声色が戦場に響き渡る。

「燈堂君が無事ならいい。だから相手のことなんて知ったことではない……前までは、そう思ってたけど」
 胸の内から溢れる憤りに『Adam』眞田(p3p008414)の瞳は憂う。
 最初に戦った時から眞田の中に蟠っているものがあった。――勿忘草の呪縛。
「何度も悩まされた。やめてって言ったのに、約束したのに……そんな幻聴まで聞こえるし?」
 分かっているのだと眞田は拳を握りしめた。
「今日ちゃんと彼と話さないと俺はまた後悔するって」
 失って後悔しないように、勿忘草が警告してるのだと眞田は地面を一歩踏み込んだ。
 誰も殺さない。誰も死なずに終われるように。
 以前に対峙した時に感じた実力差。獏馬から掛けられたバフは龍成の身体能力を極端に向上させていた。
 ナイフを使い手数が多いという点では眞田とタイプが似ているだろう。
「とにかく手数で攻めないと攻撃はかすりもしないかな」
 接近して懐の際どいラインへとナイフを突き立てる。絶対命中の刃。されど、火花が夜空へ散れば、急所へ滑り込んだはずのナイフが弾かれていた。
「はっ、筋は良いがな、甘いぜ!」
「まだまだ……」
 続けざまに繰り返される剣檄。次へ繋ぐ為の一手。
『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)は眞田の攻撃にタイミングを合わせ氷の槍を龍成へと向けた。攻撃するのは得意では無いけれど。それでもエルは武器を取る。
「エルはここに居る人全員が、にこにこ笑っていられるように、したいです」
 儚き願いは『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の耳にも届いた。
「澄原晴陽が何を考えているのかわからない所は確かだけれど……愛されていますね貴方」
「……んなわけねぇだろ。嫌われてるに決まってら」
「家族なら……生きてるのなら。生きている間は、きちんと連絡してあげなさい」
 舞花の言葉に居心地が悪そうに視線を逸らす龍成。
「お前が龍成か、噂は聞いてるぜ」
『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)は刀を抜き放ち歩を進める。
「廻を救いたいとかって宣ってるらしいが……廻は本当にそれを望んでるのか?」
 刀を横薙ぎに一歩前へ踏み込んだ幻介は龍成の瞳を見つめながら問いかける。
「そうですね。今更改めて問う事でもないのだけど、それでも改めて問います。――此処へ何をしに来たのかしら、龍成君。廻君を救う為?」
「ああ? ンだよ。俺は廻を救う為に此処に居るってんだろ」
「いや、言い方が悪かったな……望んではいるんだろうさ、だがそれはこんな強引な手段を用いての事なのかっつー事だ」
 廻の意識を攫い記憶を暴いて、更に燈堂の地へ侵入してきた。その強引な行い。廻を助ける為にこのような手段を取ってきたのは何故なのか。それしかない、と教えられたからか。
 幻介と舞花は畳みかけるように言葉を投げる。
「恐らく時間が無いからと、得た情報を鵜呑みにして真っ直ぐやってくるのは……誰も死なせたくないという話といい、かわいい事ね」
「端から見てりゃあよ……お前のそれは独り善がり、自己中心的で勝手な思い込みにしか見えねえんだよ。廻が本当にそれを望むのなら、止めやしねえよ……どうなんだ、あぁ!?」
「あいつは……ッ! 呪われてンだ。暁月に。その只中に居てそれに気づけてないのが証拠だろうが!」
 救う為に此処までやってきたのだと、龍成は幻介と舞花に吠える。
「お姉さんも困った人なら弟も困った人だね! あのお姉さんには借りがあるから、きっちりお灸をすえつつ無事に助け出すよ!」
 月光に刀身が反射して『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の顔を細く照らす。
 仲間が結界を張るには獏馬の隙を狙うしか無い。それに集中するためにサクラ達は龍成を相手取るのだ。
 此処で失敗すれば全てが焦土と化す。何としても避けねば成らぬ正念場だ。
 狙われる暁月から注意を逸らす為にサクラは龍成の正面に立つ。
「私達を倒さないと先には進ませないよ!」
 刃は冴え渡り、二月の寒風に血飛沫が上がった。

「獏馬を倒せば事件は解決する……何て、やはり事は簡単には進まないようですね」
 赤い瞳が僅かに伏せられ『緋い月の』アンジェリカ(p3p009116)の呟きが寒空に霧散する。
「獏馬を倒せば燈堂の地が焦土と化し、例えソレを何とかしたとしてもあまねさんも死んでしまう。
 あまねさんが死んでしまえば、廻さんも――」
 だとするならば、選ぶ道は一つしかないのだとアンジェリカは杖を握った。
 されど、獏馬の無力化が成功したとして暁月の思いはどうなってしまうのだろうか。愛しき人を奪った獏馬を許す事が出来るのだろうか。術式が成功したとしても暁月の動きには念のため注意しておこうとアンジェリカは赤い瞳を戦場へと流した。
「なんかよくわからんけどやばいって感じね、なるほど」
 碧翠の瞳で中庭を見渡す『こむ☆すめ』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は腰に手を当て大きく溜息を吐いた。
「はぁ、爆発……ワンチャンイレギュラーズは耐えれてもって話ね」
 この燈堂の地には幼い子供も沢山住んでいる。
 獏馬をを殺さずに止めるということは、一筋縄では行かないのが容易に分かる。
「ま、大事そうなことは全部なんか使命みたいなのを背負ってる奴らに任せて私は私の仕事をしようか」
 大きな尻尾がふるりと揺れてマニエラは闇夜に飛んだ。
『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は廻の頭をわしわしと撫でる。
「大丈夫だよ」
 ――廻の命も、心も、居場所も、彼の家族も。何一つ奪わせない。
 イーハトーヴは強い決意の眼差しを廻に向けてから戦場へと踵を返した。
「友達、だからね。廻の護りたいものも護りたい」
 ――彼が、曇りのない笑顔で戻ってくるための道を繋いでみせる。
 バッグの中には御守のボールペン。獏馬の攻撃に惑わされないよう、回復の手が止まらないように。
「イシュミル、廻殿を頼む」
 マントを広げ一歩前に出た『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はイシュミルへと一瞥をくれる。廻の事が心配だが、アーマデルが取るべき一手は攻勢。最前線で刃を振るう事なのだ。
「……友達なんだ、少なくとも俺はそう思ってる。皆がいるから大丈夫だとは思うが……万一があれば、きっと後悔するから。……あんたも気を付けろよ。戦闘得意じゃないって言ってたが、身を守るくらいは出来るんだろう?」
「まあ、善処するよ。だから、存分に刃を振るってくるといい」
 イシュミルの声に頷いたアーマデルはナイフを取り出し獏馬へと走り込む。
「記憶、想い出、それに伴う感情。俺の故郷ではそれこそがヒトが生きた証」
 紡いだ運命の糸、魂が纏う彩、死して未練として残るものなのだろう。
「継続的に損ねられ続ければ……欠落に気付く程に焦燥は増し『自分』という存在が揺らぐのかもしれない。共に居たいが損ねたくないと、代償を他に求めたのだな」
「僕はヒトではない。怪異だよ。どうしようもなく怪異だ。相容れない近づけない」
 その事実を受入れているのに否定したい。だからこそ獏馬はこの場に存在する。せめて制御出来ればとアーマデルは眉を寄せた。
 双剣が月明かりに走る。『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)は口の端を上げ獏馬へと対峙した。
「お前らの悪食もここまでだと幕引きに参上した次第……あぁ、名乗っていなかったな。
”死神”クロバ・フユツキ。友の為に身命を賭す者や守らんとする者、因縁を断つべく戦う者の為、全力を尽くしにやってきた」
 中庭を埋め尽くす勿忘草を一瞥してクロバは姿勢を落とした。常磐公園で出会った勿忘草を操っていたのはこの獏馬なのだ。
「あんときの借りを返しに来たぜ!」
 見なくてもいい幻影を見せられて、掻きむしられた心の内に区切りを付けるため。クロバはこの場で獏馬と相対している。
「HAHAHA! ハロー、悪趣味なモンスターさんよ、久しぶり! さっきぶり? ミーのこと、覚えててくれてるかな?」
 横から突き入れられた強烈な拳を獏馬は紫黒の刀で受け止める。視線を上げれば『ドラゴンスマッシャー』郷田 貴道(p3p000401)が歯を見せて笑っていた。
「お前は夢の中で……」
「そう、ザッツライト! ユーのお気に入りのボーイの顔に青痣つけてやった男だよ、HAHAHA!
 今日はユーをタコ殴りにして、足腰立たなくしてやりに来たんだ」
 事情なんてものは貴道にとってどうでもいいことなのだ。彼が知りたいのは獏馬の強さ。龍成に力を与えた悪性怪異たる獏馬との勝負が楽しみで此処に立っている。
「殺しちゃ不味いらしいから、死なないように保ってくれよ?」
 貴道の拳が闇夜の暗がりから獏馬へと叩きつけられた。

「誰も死なせない。廻もあまねも。澄原も、獏馬も――俺は『強欲』なんだ」
 決意を胸に。必ず成功させるという意志を掲げ。『暁明』浅蔵 竜真(p3p008541)は視線を上げる。
 剣檄の音が戦場に響き、息づかいが交差した。獏馬の指が竜真の頬に触れ、ほんの一瞬だけ瞳が切なげに揺れた。

 ――――
 ――

 カフェ・ローレットからの連絡を受け『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は必死に走っていた。
「燈堂家がピンチだって! あの温泉無くなるの会長いやだよ! また入りたいし!!」
 台風の夜妖退治の後で入った燈堂家の温泉は格別だった。あれが無くなるなんて信じられないと茄子子は首をぶんぶんと振る。
「それに、廻くんとは何度かいっしょに依頼をこなしたりしたからね! もうマブダチだよマブダチ!
 そんな廻くんのピンチだからね! かけつけないわけないじゃん!」
 ようやく辿り着いた燈堂家の中庭。既に戦闘は始まっている。
「まぁちょっといろいろと出遅れた感じあるけどね! こっから活躍するから任せて任せて!
 ということで、会長は結界を守るよ!」
 獏馬の攻撃を受け、後ろに下がっていた門下生の湖潤・仁巳、煌星 夜空へと回復を施す茄子子。
「ありがとうございます! もう行けます!」
「うんうん! 会長がいる限り、この場の誰も倒れさせないよ!!」
 仁巳と夜空を送り出し、茄子子は拳を振り上げる。
「鈴、行ける?」
「はい! 燈堂家の門下生として、絶対にこの地を守ります!」
 門下生の先輩剣崎・双葉の声に『ネコミミシッポ』時尾 鈴(p3p009655)が地を蹴った。
 鈴の役目は結界に集中するラクリマを守ること。戦場を揺らす獏馬と龍成の攻撃、それに幻影達から何があっても守り抜く。
「廻さん……無理しないでくださいね」
 鈴の言葉に眉を下げた廻。年下の門下生に心配されるなんて申し訳ないと思っているのだろう。
「うん。大丈夫だよ。ありがと、鈴」
 廻は鈴に敬語を使わない。そうして欲しいとお願いしたのもあるが、きっと、弟のように思われて居るのだろう。それだけ親しいのだと、少しだけ嬉しくなる。だからこそ、心配でもあった。意外と頑固で意地っ張りな所がある廻は、いくら辛くとも弟分の鈴には絶対に弱音を吐かないだろうから。
 ラクリマは幻影へと走り出す鈴をブルーグリーンの視線で追う。
 自分の役割は『月灯の歌鎖』を張り巡らせること。それに集中するためとはいえ、自分は攻撃もせず誰かに守って貰うだけというのは歯がゆいものがある。否応なしに思い出してしまうのだ。親友のことを。
「正直なこと言うとよ。俺は燈堂とはあんまし接点がねぇ。今までに関してもレポートで読んで理解したつもりになっているだけ……あ、いや一回会ったことがあったか」
 温泉に出た夜妖を倒して麻雀した記憶があるなと『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は口の端を上げた。
「まあ、俺にゃそこにあった想いもそこにある熱も真に分かっちゃいねぇんだろうよ。奴さんら、龍成も獏馬のも含めてよ。つまり俺は場違いってやつさ。……だがそれでも俺はここにいる。なら場違いなりにやってやろうじゃねぇか」
 灰色の瞳を上げてニコラスは幻影へと漆黒に染まる絶望の大剣を振り落とした。
『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は背中の青い羽根をゆるく握る。
 ――理由も執着も決意も無く、きっと縁によって僕は今此処に立っている。
 自分以外の人は夢の中で大切なものを守る為の情報や手段を掴み取ったけれど。ハンスに有益な情報は何一つ齎されなかった。
「……だけど、良いんだ」
 それでも、一つの『確信』を得たのだ。
「僕らの出会いはそうだったんだから……終わりも始まりも、あのページに書き綴ろう」
 図書館の本棚に隠してある秘密のノート。誰にも触れられない、ふたりだけの物語。
「どうやら彼には思っていたよりずぅっとたくさん友達がいるみたいだし。こういう特別な関係、崩しちゃうのも勿体ないもんね」
 ならば、ハンスの取るべき道は一つだけ。必ず無事に帰してみせる。
「――だって僕は、君からの返事をまだ貰って無いんだからさ!」
 月明かりに蒼穹の翼が広がった。

「龍成君は廻君を助けたくて、獏馬はそんな彼と一緒にいたくて……今は、ただそれだけなんだねぇ」
 ペリドットの瞳が切なげに揺れる。『もう少しだけ一緒に』シルキィ(p3p008115)は両手を開き月明かりに糸を張った。
 この戦いが『利害の一致』によるものだとしても。
「龍成君が廻君を思う気持ちは、獏馬が龍成君を思う気持ちは、それだけのものじゃないでしょう?」
 其処にある思いは一言で語り尽くせるものではない。時間を掛けてゆっくりと紡がなければ分からないものなのだ。
「だから、必ず『双別の軛』を成し遂げる」
 その為にも獏馬を抑えてみせるとシルキィは指に巻き付く糸を繰る。
「……廻君、あまね君、暁月さん。夜空ちゃんに、門下生の皆。無理だけはしないでねぇ。
 わたし、今はあの二人を助ける。今は『利害の一致』だけれど。……わたしの我儘が許されるなら」
 いつかは歩み寄れるはずだから。生きていれば可能性はゼロじゃない。

「御託を並べるな。餓鬼が」
「……」
 凍てつく様な『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)の声に獏馬が口を引き結ぶ。
「お前が僕に言っていい台詞は「助けて」だけだ。『殺して』なんぞ心にも無い事を言うな」
 夢の中で獏馬が愛無だけに告げた言葉。諦めてしまえば全て忘れてしまえるのだろうかと言葉に出すのは、それが出来ないからこそ言える類いのものだ。
「全て僕に任せろ。『子供』を守るのは『親』の役目だ。お前が考えて良いのは明日の幸せと僕に払うべき報酬だけだ」
 獏馬に『しゅう』という名を与えた愛無の――親の言葉は誰よりも獏馬を支配するものだ。
「さぁ、ハッピーエンドを始めようか」
 黒き粘膜が獏馬の肩を掴み歯を突き立てる。返して黒紫の刀が愛無の胴を走った。
「お前は僕の『子供』みたいなモノだからな。そして僕は『傭兵』だ。依頼はこなす。
 それが僕の「誇り」ゆえに。そして守りたいモノは守る。狩りたいモノは狩る」
 愛無にとって獏馬は狩りたい強敵から守りたい『子供』へと変化してしまった。猛き者と戦いたいという一抹の寂しさはあれど。それでも――
「何がどうなろうと。誰が何と言おうと。お前も守ってやる。その前に、ぶっ飛ばすが」
 それもウチの家訓だと愛無は獏馬へと告げる。ルウナ・アームストロングが愛無に教えた『愛と平和は覚悟の形』を拳で教え込むのだ。愛無がそうされたように。親から子へ紡ぐ愛の形。
「ゆえに。お前の覚悟を全部さらせ。全部まとめて喰い殺す。全部まとめて喰い止める」
 全て受け止めてみせるから。だから、安心して掛かってこいと愛無は大きな口を開ける。

 格好付けて言葉を叩きつけてみたものの。実際の所獏馬を名前で呼ぶのは気恥ずかしいきもすると愛無は首を捻る。
「とりあえず僕はママと呼べ。百歩譲ってパパだ。性別無いけどな。まず話は其処からだ」
「……ママ、パパ」
 愛無の声に廻がぽつりと呟いた。


 マニエラの周りに青と赤の魔法陣が多重に展開する。
 星の瞬きを携えて煌めくは幽玄なる青の戦扇。
 薄く色づく御霊の如し真素はマニエラの魔法陣からゆらりと舞い上がった。
 彼女が張り巡らせるは味方を鼓舞する癒やしの領域。
 青扇が月光に照らされ煌めきが視界に揺らぐ。
 紡ぐ御使いの言は前線で闘い続ける貴道とクロバを癒した。
「さ、どんな使命を受けたのか私は知らんし興味はないが、是非とも頑張ってくれ給えよ私の代わりに」
 果たして『双別の軛』が上手くいったとして、龍成が大人しく従うのかは誰も分からない。マニエラにとっては正直不安材料は多く残っているように見えた。
 警戒は怠らない方がいいだろう。茶屋の近くにある大きな要石を一瞥し、気を張り巡らせる。
「他の夜妖がこの気を狙って攻めてくるかもしれんしな」
 マニエラの呟きを掻き消すように戦場に轟音が叩きつけられた。貴道が獏馬へと牽制を放ったのだ。
「HAHAHA、ミーの拳で揃いのあざを付けてやるよ、クレイジー野郎?
 コイツはモノホンのライトニングよりずっと痺れるぜ?」
 言葉と体技。避けなければ当たるであろうと思わせるギリギリを狙い貴道は獏馬を追い込んでいく。
 されど、悪性怪異たる強さはイレギュラーズに猛威を振るった。
 目的の為。利害の一致。それを為すには獏馬とて力を出し切らねば叶わぬ願いなのだ。
 この戦場に手加減などありはしない。貴道はそうでなくてはと強気な笑みを零す。
「おうおう、楽しませてくれよ? 行くぜ!!!!」
 拳を叩きつける貴道の影からクロバが双剣を突き入れた。
「燈堂一門を守ろうとする人間たちがいるのなら、誰よりも前で立って断ち続ける」
 誰も失わせないという暁月の意志を果たさせる為にも。そして。
「死神としても魂や記憶の冒涜をするあいつらを許しちゃ置けないんでね――!」
 クロバは獏馬に刃を向ける。闇色を纏うクロバの剣が獏馬の左腕を裂いた。
「憑いてこれるのなら憑いて見せろ。俺もこの躰の中にどれだけ魂抱えてると思っている、お前らに食い潰せるわけないね」
 挑発の言葉を投げ更なる太刀筋を左下部から上段へ走らせるクロバ。

 アンジェリカは戦場で刀を振るう暁月へと視線を流す。
 同じ時を過ごしたいと思った彼の大切な人は既に亡く、けれど彼と同じようにお気に入りの相手と同じ時を過ごしたいと願う獏馬。願いが叶えられなかった者と、叶えたいと願う者。廻る因果の道行きにアンジェリカの胸は重く締め付けられる。
「――今はこれ以上考えるのは置いておきましょうか。
 考え、悩みながら戦って無事に済むような相手ではないでしょうから」
 アンジェリカは獏馬の範囲攻撃に巻き込まれ傷を負った仁巳を背に庇い、後ろへと後退する。
「ごめんなさい」
「いえ、謝る事ではありません。悔しいと思うのであれば、回復を受け上手く立ち回ればいいのです」
 自分の力では家族を守る事が出来ない歯がゆさがあるのだろう。アンジェリカは諭す様に仁巳へと言葉を掛ける。回復を施され再び戦場へ駆け出して行く門下生を見つめ少女は眉を寄せた。
「掴み取った可能性の先には何が残るのでしょうね」
 全てが丸く収まれば良いとアンジェリカは暁月へと視線を上げて祈る。
 獏馬と龍成、生死に関わる縁。アーマデルにとっては見知らぬ他人だろう。
 廻には代えられないが、叶う事ならこれ以上誰も損なわず収まって欲しいと願わずにはいられない。
「あんたに望みはあるか? ヒトは言葉を介さず分かり合う事も、言葉だけで分かり合う事も難しい」
「有るよ。有るからこそ此処に居る。他人から見ればちっぽけで大したことない願いだろうけど。僕にはそれがとても難しい」
「ねえ、『暁月先生と目的は同じ』って……龍成くんと一緒に生きたいから、その道を望んだんじゃない?
 あまねが、廻としているみたいに」
 獏馬の言葉にイーハトーヴが思いを乗せる。
「君達がしたことは許せないけど、誰かを大切に想う気持ちも、その大切な誰かとの幸せな日常を願う心も俺が持っているのと、きっと同じものだから」
 イーハトーヴは獏馬の瞳をしっかりと見つめて真摯に紡ぐ熱意。
「だから……綺麗事に聞こえるかもしれないけど、俺は、君と龍成くんも幸せになれる道が欲しい。
 全部上手くいったらさ、今度は、一緒に遊ぼうよ!」
 目の前で戦っている相手に其処までの親愛を示すイーハトーヴに獏馬は戸惑う様に目を瞠る。彼の言葉によって僅かに獏馬の心が揺れた。その隙に穿たれるは貴道の拳とクロバの双剣。
 繋がっていく輪。特異運命座標が引き寄せる可能性の道筋に光が差し込む。

 ――――
 ――

「1000年も生きてたら、そりゃ色んな姿の自分が出てくる……」
 死ねば良いのにと耳元で囁く声がする。殺そう。狂って死ねと希の鼓膜を揺さぶる声。
「……いや、わかってるんだけどね。自分を大切にできない人間が、他人を大切にできるわけがない
 自分ひとり幸せにできない人間が、他者を幸せにすることなんてできない」
 己の感情を封じて、相手の為に誰かの為に行動した所で、最終的にはすれ違い上手く行かない。
「だって相手も自分のために、誰かも自分のためにと行動してくれてるのだから」
 希は己の姿をした夜妖を切り裂いていく。
 終焉の帳が降りて幻影や勿忘草を狂わせる。何を歌ったのかは秘密なのだ。
 ――理解しがたい深淵なる者の言葉詩。
「くくく……、目の前が暗くて狙いづらいであろう?」
 ルーチェの笑い声が戦場に響く。彼女が放った魔法は龍成の視界を奪ったのだ。
 龍成の限られた視界の中にグリーンのモニターが浮かぶ。
 暗闇の中でもボディの顔は不思議なほどよく見えた。
「暁月様の元へは行かせない。前に言っただろう、貴方の相手は、私だ。今更嫌とは言わせない」
「しつけぇ……」
 龍成が命を奪う事をよしとしないのだとしても。
「私は命も無い、死者にも生者にも寄り切れない物体だ。だったら限界まで貴方と向き合ってやる」
 ボディは己の内側に吐き出され続ける怒り(エラー)に拳を握った。

「そんなに構ってほしいのかい、ボウズ。おれさまが遊んでやろうか? ええ?」
 グドルフの斧が龍成の脇腹に直撃する。死角からの攻撃に傷口を押さえグドルフから距離を取る龍成。
「てめぇ……クソ野郎が」
 ドロドロとブラッディレッドの血が龍成の脇腹から流れ出る。
「力づくで奪おうとするのはシンプルでいい。おれさまも山賊だからな、否定はしねえさ。だがよ、相手を間違えたな?」
 グドルフの挑発に龍成はナイフを走らせた。皮一枚を斬らせ躱すナイフ。されど、其の儘重心を懐に飛び込ませたタックルに今度はグドルフが痛みを噛みしめる。
「かかっ! やってやろうじゃねぇか!」
 グドルフの笑いがリュコスの耳に届いた。リュコスの視線は見覚えのある龍成に注がれる。
「公園で出てきた人……!」
 常磐公園で遭遇した龍成を指差す。
「大事にしたいならなんでその人を傷つけるの!
 助けるならたくさんの人傷つけて、ぐちゃぐちゃにする方法なんて使っちゃだめだよ!
 そんなやり方で助けられてもぜったいに笑顔になれない! 君は間違ってる!」
「……ッ! 間違ってねぇ! 俺は間違ってなんかねぇ!」
 リュコスの真っ直ぐな言葉に龍成が首を振る。それはまるで間違っていないのだと自分に言い聞かせるような仕草だ。舞花は子供じみた振る舞いをする龍成へと言葉を投げる。
「実行したら取り返しがつかなくなる可能性を少しでも考えたのかしら。せめて『自分で』情報の裏位は取りなさい」
 常に共に居る獏馬に『廻には呪いが掛けられている』と吹き込まれていたのなら、信じてしまうのも無理はないのかもしれない。けれどと舞花は視線を上げる。
「暁月さんが何故そうしているのか、今どうしているのか、そして廻君について……
 何故そうなっているのか、それを正しく理解しなければ望む結果には辿り着けない」
「……本当に暁月が本当に廻を縛ってるって証拠はあんのか、あるなら教えて欲しいもんだな」
 舞花の声に幻介が重ねる言葉。
「それが示せねえってんなら……俺は此処を譲る気は無え!!」
 幻介は龍成のナイフを弾き、上段から刃を走らせる。
「暁月も廻も……俺達の仲間で、俺のダチ公だ!」
 自分には特別な役目も、この血を守る大仰な理由も無いと幻介は嘯く。されど、そんなものは関係ないと口の端を上げた。
「仇成そうってなら、振り払う……それが『友人』としての俺のやるべき事だ。
 どんな結末が待ってようが……俺は、コイツ等を信じる! 例えこの先、何が起ころうがな!」
 意地らしい程の暁月への信頼を幻介は高らかに叫んだ。龍成にとってそれは自分が得たかったものに違いない。いとも容易くイレギュラーズは手に入れてしまうのだ。
「記憶を探っても見つからなかったのでしょう? 無駄に『大切な人』を傷付けて」
「それは……」
「如何にかしたいと思っているのは貴方だけではありません。
 ――彼を生かす為にはどうするのが正しいのか、一度よく考える事を勧めます。
 だから、貴方を止めさせていただく」
 舞花と幻介の言葉で確定的に龍成の中に疑念が生まれた。
『本当にこれは正しいのか』というものだ。廻の為と言い聞かせやってきた全ての行いは間違っていたのでは無いのか。其れを他者から明確に突きつけられた時に龍成は『否定』が出来なかったのだ。
 その変化をレイチェルの瞳は正確に捉えていた。
 負傷具合、出血量、顔色や表情、呼吸の様子。ナイフを振るう手に『迷い』が生じ始める。
「──伊達に医者やってる訳じゃねぇ。相手は人だ、辛けりゃ上手く動けなくなる」
 此処からは一瞬の油断も出来ないとレイチェルは眉を寄せた。
 レイチェルは昼顔へと合図を送る。何かあれば直ぐに回復をしろというものだ。されど、まだ龍成の闘志は消えていない。危うい綱渡りが開始されたのだと昼顔は頷く。
「ねぇ、龍成氏。そんなに廻氏を好きな君なら分かるはずだよ。例え、自分が救われたとしても、誰かが犠牲になったら優しい廻氏は泣いてしまうって。少なくとも、そんなに友人を……廻氏を思ってくれる人が消えてしまうのは……僕は寂しいよ。だから君を絶対に止めてみせる」
 昼顔の決意は龍成の耳にしっかりと届いただろう。

「キミ、お姉さんとは仲いいの?」
 サクラは刀越しに龍成へと問いかけた。姉である晴陽と龍成の仲は微妙なものなのだろう。
「私は彼女にちょっとした借りがあってね」
 北希にある澄原病院で起こった天使症候群の事件。それに纏わる話しにサクラもまた関わっていたのだ。
「だからキミが不幸になるのを見てられなくってね」
 弾ける火花。重なる刃は月夜に咲いた。
 色々な歯車が食い違い、燈堂の地が戦場になった。ここまで来てしまった。けれど、まだ間に合うとサクラは強い眼差しで叫ぶ。
「私は、廻くんも、暁月さんも、キミも、獏馬も――全てを助ける為にここに来たんだ!」
 絶対に諦めない。無様でみっともなくても、最後まで遣り遂げて見せる。
 でなければ、此処に居る全員が報われない結末になってしまう。
「澄原さんは、廻さんと、お友達になりたいし、お力になりたいって、エルは知っています」
 氷の結晶を身に纏わせエルは龍成に聞こえるよう大声を張り上げる。
「だったら、獏馬さんの力を借りずに、廻さんが、痛がる事や嫌な事はしないで、ゆっくりしっかり、お話をした方がいいって、エルは思いました。気持ちの押しつけは、めっ! です」
 積み重なる攻撃と疲労。龍成は口の中に溜った血を吐き捨ててエルへと視線を向けた。
「それに、獏馬さんは、澄原さんの事を、もぐもぐしたくないし、澄原さんも、獏馬さんが、いなくなったら、しょんぼりしちゃうって、エルは考えました。なのでエルは、隠し事をしないで、しっかりお話して、後悔しないように、して欲しいです!」
 言葉を紡ぐ度にエルの瞳には涙が浮かぶ。感情が揺れる。
「わたしには、わかりません。
 みんな、大事な存在がいて、それなのに、誰かを傷つけなくてはいけなくて。
 ぐるぐると、廻って絡まって……歪な円環」
 黒猫の瓶をぎゅっと握りしめメイメイも、龍成へ手を伸ばす。言葉を掛ける。
「廻さまに、呪いが掛けられているのなら、わたしも救いたいと、思います。
 だから、一緒に。道を見つけにいきません、か?」
 廻を無理矢理攫ったことは、ちょっぴり怒っているから反省してほしいけれど、とメイメイは少しだけ眉を上げた。
 願うはただ一つ。――すべてが解けて、綺麗な輪に戻りますように。

 ――――
 ――

 戦場に傷跡は増えていく。刻まれた剣檄の回数だけ心がぶつかり合った。
「みんな防御よりの構成にしてもらって、みんなで結界を守るからね! 協力してね!!」
「はい!」
 茄子子は門下生へと指示を飛ばし、それに頷く子供達。
「囲まれないようにバラけて! 仁巳ちゃんと夜空ちゃん、双葉ちゃんと鈴君は挟み撃ち!」
「分かったわ、行くよ! 鈴」
「はい! 双葉さん」
 夜空と仁巳が幻影を挟み撃ちし、双葉と鈴が刀を十字に重ねる。
「全員無事でようやく勝利だからね! 気は抜かないでいこう!
 ラクリマくん達は結界の維持に集中して! こっちは会長達でなんとかするから!」
 茄子子の先導のお陰で、門下生は組織的に動けるようになり、傷を負うことも減っていた。

「っと、こっから先は行かせねぇぜ」
 クロバがシルキィへと食らい付く幻影をなぎ払う。
「お前らが要だろ、さっさと友人たちを助けに行って来いよ……!!!」
「うん、支えてくれてありがとねぇ!」
 シルキィとラクリマにアーリアの聖なる力が降り注いだ。
「私はね、特別な力はないけど、こうやって、両手で届く範囲くらい護れるわ」
 アーリアの影からハンスが飛び出す。先の先――
 視線で追うよりも早く幻影へと刃が穿たれ崩れていった。
 先手を取り、幻影が動くよりも早く戦場を切る。
「今の僕と夜妖憑き(キミ)達は、少し似ていると思うんだ。
 もしかしたらそれより厄介かもね。……だから、放っておかなかったのかもね」
 美しい花を汚す土に対して別に怒りはしないけど……払って落としはするだろうとハンスは空色の仁巳を細める。
「さあ──今日という日の花を摘め」
 ニコラスは「はっ」と小さく息を吐いた。
「守る。護るね。俺にゃ向いてねぇことだ。かはは。俺にできるのは思うがままに暴れることだけだ。
 だからよ、近づいた奴等は任せろ。結界の邪魔にならねぇよう蹴散らしてやるからよ」
 漆黒の剣が月光を浴びて光る。ニコラスへと群がる幻影。
 されど、ニコラスは怯む所か笑って見せる。
「命なんざよりもこの結界の維持が第一優先だ。命の価値は俺よりも役割持ちの奴らの方が上。
 なら身を挺して守るのに躊躇う必要がどこにある?
 この命で向いてねぇことをこなせるなんざ安いもんだろ!!!!」
 血反吐を吐いたって、倒れる事は出来ない。
 此処で自分が倒れれば、ラクリマやシルキィ、アーリアに凶刃が向かってしまう。
「命の張りどころってやつだ。まだ倒れてやらねぇよ――!!!!」
 ニコラスはアガットの赤に塗れながら、それでも歯を食いしばり立ち上がる。
 いくらでも、何度だって。絶対に倒れたりしないのだと――
「フリック イル限リ 不倒。護ル!」
 フリークライは倒れ掛けたニコラスを支えた。
「……。獏馬 寂シイ? 龍成 寂シイ? 勿忘草 忘レテ欲シクナイ 願イ 違ウ?」
 獏馬への言葉。問いかける思い。真意を知りたいのだとフリークライは手を差し伸べる。
「廻 龍成 アマネ 獏馬 マダ生キテル。マダ 話 デキル。
 寂シイ サセナイ。フリック 癒ヤス――」
 獏馬へと走り込んでいくフリークライ。

 幻介は廻を庇う暁月の援護へ向かう。
「大丈夫か!」
「幻介……、か。私は問題無いよ」
 背中に傷を負いながら肩で息をする暁月の手を取った幻介。
 暁月の瞳には憂うような色が浮かんでいた。
「なぁ、暁月……アンタ、迷ってんだろ?
 表面上は平静ぶっても、内心では揺れてるんじゃねぇか?」
 幻介にも覚えがあった。そういった記憶が今の暁月と重なってしまう。
「……全く、君はそうやって無遠慮に踏み込んでくる」
「守るって言ったんだろうが……男なら、テメエで言った事くらいは有言実行してみせろ!」
 胸ぐらを掴み暁月を立ち上がらせる幻介。


「分かってるとも。だから、そんなに心配しなくても、私は死なない」
「けっ、言ってろ。死んだら俺がぶっ殺すからな」
 友人の手にぽんぽんと手を重ね、微笑んでみせる暁月。
「鈴……廻を頼む」
「はい!」
 暁月の声に元気よく返事をした鈴は傷を負った廻を抱え、回復役である茄子子の元へ駆ける。
「お願いします」
「オッケー! 会長に任せて! ばっちり回復するよ!」
 茄子子に廻を託した鈴は急いで暁月の元へ走り込んだ。
 されど、その暁月が突然鈴へと彼方を向ける。鈴は戦場に視線を廻らせた。
 其処にはもう一人の暁月が見える。ならば目の前の暁月は幻影なのだろう。
「……僕は門下生になったばかりで、みんなとの、親しい人との思い出は多くありません」
 それでも、鈴の心に刻まれた光景がある。
 ビルの狭間に掬う夜妖に追われていた鈴は走り続けていた。何れだけ走ろうとも逃げ出す事の出来ない狭間に囚われてしまったのだ。刀を手に走り続け、体力の限界を迎えた所で諦めかけた。
 されど、ビルの隙間に差した月の光を仰ぎ見た瞬間、空間が砕けて暁月が現われた。
 ――間に合ったね。君、よく頑張ったな。偉いぞ。
 差し伸べられた手は鈴の頭を撫でて彼を抱きしめた。
 忘れがたき情景。無辜なる混沌においての時尾 鈴の原風景。
 それから廻に出会い優しくして貰ったこと、先輩門下生達に受入れてもらえたこと。
「全てが強く、いまの僕を……俺を支えてくれています!」
 偽物の暁月を打ち払い、鈴は叫んだ。
「燈堂一門に仇なすものには、絶対に負けたりしないッ――!!!!」
 幻影とはいえ、暁月を斬る事に胸を痛める鈴。けれど、後悔なんてない。鈴が信じる暁月は簡単にやられやしないのだから。


 アーマデルは戦場を見渡した。龍成も獏馬も疲弊してきている。
 勿忘草も残り数体と行った所だ。希やロロン達が頑張ってくれている。この分だったら問題無いだろう。
「俺の神は復讐を肯定するもの。生者が前を向き、死者を留めないように。
 だがそれは他に贖う術がない場合。それを果たして後の生が大事なのだと。
 仲良き事は美しき哉、で終われるよう」
 イシュミルの幻影を切り裂いてラクリマへと視線を送る。
 戦いの最中、地面へ膝を着き祈るように手を組むラクリマ。
 忘れ得ぬ詩。親友の声が聞こえてくる。
 いつもラクリマの弱音をきいてくれて、傍で支えて励ましてくれたノエル。
 嬉しいという笑顔も、寂しいという涙もノエルが教えてくれたものだ。
 目を閉じればノエルの笑顔と声が色鮮やかに蘇る。
 故郷で共にライバルとして力を競い、学び、親友として過ごした時間は、何よりも大切な掛け替えの無い幸せの詩だった。
「貴方と過ごした日々、廻さんと過ごす時間と少し似ているのです」
 其処に存在する感情は違うけれど。
 馬鹿な事を言って笑い合って、感情のままに二人で弱音を吐いて、涙を見せる事ができる。
「とても楽しくて、気を張らず落ち着ける、優しく暖かい時間」
 たとえこの時間が父が言ったように、道が交わっただけの短い遭遇だったのだとしても。
 大切なのだと思える。親友と過ごしたあの時のように。眩しい程の思い出となる。
「だから絶対に、お前たちの思い通りにはさせやしない!
 俺が守りたいのは未来でも過去でもない、今この時です――!!!!」
 守る為に与えられた『月灯の御守』と神から授かりし歌の力を乗せ。
「月灯の歌鎖でこの戦いを終結に導きましょう!」
 ラクリマのブルーグリーンの瞳が仄かに揺らめいた。
 魔法陣は光を帯びて地に膝を着いたラクリマの周囲にゆっくりと展開する。

「廻君は呪われてる、なんて言ってまで……キミは彼の側に居たいんだねぇ」
 シルキィは手の中から魔法陣を描き夜空へと走らせる。獏馬の口から聞きたかった。龍成への思いを。
「どうして、そこまでするの?」
 ペリドットの視線が獏馬へと向けられた。刻まれた傷は深く、高威力の一撃を叩き込めば沈んでしまいそうな程、疲弊しているように見える。
「……そうだな。始めは『興味』だった。僕に命を奪うなという龍成を生意気だと思い、それが次第に好意に変わって行ったんだよ。お気に入りの玩具だった」
 ただの玩具だったのに。観察していると結構危なっかしくて。人一倍他人の命を気にするくせに。自分の命を投げ打ってしまう龍成が危ういと思い始めたのだ。
「僕が傍に付いていないとと思ってさ。けれど、僕の共存代償は龍成には毒になる。だから、まあ一計を打たせて貰った。暁月は僕を殺したいと思っているだろうけど」
 シルキィの糸は獏馬の身体を緩く縛る。はらはらと解けて月明かりに糸が煌めいた。
 獏馬はシルキィの耳元で彼女にだけ聞こえる声で囁く。
「それに――呪われてるというのはあながち嘘じゃないよ」
「どういうこと?」
「強い封呪を掛けられている。あまねが食べた廻の記憶は、本来であれば僕にも共有される。
 けれど、夢の中でいくら記憶を暴いても見つからなかったんだ。
 つまり、かなり強力な封印が廻には施されている。最初はあまねを廻の中に封じ込める為かと思ったのだけれど、それはどうやら副次的なものらしい。
 暁月にとって……いや、『燈堂』にとって、他人に知られたくないものが廻の中にあるんだろうね」
 だから『呪い』なのだと獏馬はシルキィに告げた。

 愛無は龍成の剣檄を耳に、思い至る。
『能力の強化』は代償の増加。獏馬の力で引き上げられた能力を使う度に共存代償が龍成の命を蝕んでいる事は容易に想像が付く。それらに注意を払いながら、ふと胸に広がる不安に苛まれた。
 双別の軛でしゅうとあまねの力が等分されるのならば。極限まで共存代償を減らしているあまねの状態は改善強化されるということだ。
 則ち偏った力を『等分』することで廻側への負担は増えてしまうのだろう。
「廻君……」
「愛無さん、僕は大丈夫ですよ。此処で皆が死んでしまうより、ずっといい。それに、あまねが力を取り戻せばコントロールが出来るようになるかもしれません。あと、きっと暁月さんが何とかしてくれます」
「君は暁月君の事を信用しすぎではないのかね」
「だって、名前を付けてくれた『親』ですから」
 名を付けた親。暁月と廻。愛無としゅう。目の前の『子』を救えるのは『親』の特権だ。
 愛無は獏馬へと食らいつき羽交い締めにする。抵抗する獏馬を抑え愛無は懐から一冊の本を取り出した。
「お前に渡す物がある。誕生日プレゼントだ」
 目の前に差し出された真っ白の本。質の良いハードカバーの中身は写真を入れるアルバムだ。
「特別な物でもないが。人間は『コレ』に思い出を綴るらしい」
 獏馬の手の中に落ちてくる何の変哲も無い只のアルバム。
「今なら、お前だって解るだろ。『特別』な物は。喰うんじゃなくて取っておけ。それが、きっとお前を幸せにしてくれる。お前が。お前達がコイツを『特別』にしてけ」
 本当は腹立たしく思った。愛無が欲する強さを持つ獏馬が弱くなりたいなんて言うものだから。
 でも、それでも。名を与えた時点でどうしようもなく、しゅうは愛無の子になった。
 そう成ってしまった。だから。ルウナがそうしたように。

「――お前は幸せになっても良いんだ。しゅう。僕が守ってやるからよ」

 羽交い締めから抱擁へ。
 世界から与えられた奇跡なんかじゃない。
 これは愛無自身が引き寄せた未来だ。
 獏馬を襲うのは驚きと動揺。今すぐに縋って泣いてしまいたい程の情動。
 こんなもの知らなかった。これは愛無が与えてくれたものだ。
 月灯の歌鎖は戦場に響き渡り、獏馬から龍成への強化術式が途絶えた。

 ――――
 ――

 夜空に浮かぶ月明かりにレイチェルは金銀妖瞳を細める。
 冷たい風に白衣がはためき剣檄が耳に届いた。
 廻とあまね、龍成と晴陽。暁月と獏馬、雁字搦めに描かれる輪にレイチェルは小さく息を吐く。
 不幸の連鎖。負の連鎖。其れ等を断ち切る道があるというのなら、どんな茨の道とて進むべきなのだ。
「初めは蟠りがあるとしても――」
 龍成は己の信念で人を殺さないのだという。けれど、暁月を殴ったとしても根本的な解決にはならないだろう。それに暁月が怪我を負えば廻の心も傷付いてしまう。取り返しの付かない禍根を残すことになる。
「それに、姉貴が心配してるっての、伝えなきゃな」
 弟や妹の心配をしない姉など居ないのだ。言いたい言葉はあれど、それを伝える事の難しさはレイチェル自身がよくわかっていた。大抵の姉というものは存外不器用なのだ。
「澄原、澄原龍成……澄原晴陽先生の弟ね」
 舞花は龍成の懐へ入り込み掬い上げるように足を払った。
「んだよ。てめぇも姉貴の事知ってんのかよ。まぁ、デカい病院の医院長サマだから、知ってても驚かねぇけどな。でも、あいつと俺は関係ねえぞ」
「彼女については色々疑問に思っていた事もあったのだけれど、貴方を実際に見て色々腑に落ちました」
「はぁ? 分かったような口聞くんじゃねぇよ。俺でさえ分かんねぇのに」
 ばつの悪そうな顔で悪態を吐く龍成に舞花は目の前の男を一瞥する。人を寄せ付けない紫の瞳。やはりよく似ている。晴陽は夜妖憑きについて様々な情報を求めていた。
 特性、知性、能力、そして……代償。患者や病院への被害を許容してまで、何故ぎりぎりまで『天使』の観察を続けていたのかずっと疑問だったのだと舞花は視線を上げる。
 彼女は祓い屋とは違うやり方で夜妖を祓う方法を模索していた。
 それは獏馬の夜妖憑きとなった『弟を救う為』ではないのだろうかと舞花は思案したのだ。

 龍成は獏馬の弱点なればこそ、死なせてはならないと眞田は対峙する男に視線を向ける。
 喪失の絶望。それが訪れた時自分がどうなってしまうだろうかと想像した。
「……俺だったら全員殺すかな。……燈堂先生もそうなんだろうな」
 何時もだったら暁月がそうしたいのであれば止めなかっただろう。けれど、今日は誰も殺させはしない。
 それに眞田は龍成へ伝えたい言葉があったのだ。
「俺も君も少し誤解しているかもしれないからさ」
「誤解、だと?」
 少しだけでいい、耳を傾けて欲しいと眞田は龍成の前に執拗に立ち続けた。
「……俺と君って少し似てる気がするんだよ。どこか……雰囲気とか。自暴自棄っぽいところ?」
「俺とお前が似てるだって? んなわけねぇだろ!」
「あと燈堂君好きでしょ? 俺もなんだよね!」
 龍成の眉が寄せられる。歯を噛みしめ眞田へと叩きつけられる拳。眞田は向かってくる龍成へと逆に近づいて間合いを詰めた。
「……ねえ、仲良くする気は無い? 今まで君にしたことはもちろん謝るよ。一回落ち着いて考えてみて。
 急いで突っ走ったら、大事なもの落としても気づけないし。もう遅いってこともあるからさ」
 眞田の言葉に舌打ちをした龍成は心の奥底にむず痒さを感じた。
 イレギュラーズが自分に掛ける言葉の数々が、無性にむず痒い。首を振って拒絶したくなる。
「お前はいいよな。廻の傍に居られてと貴方はいいましたよね」
「……言った」
 ラクリマは夢の中で龍成が放った言葉を思い返していた。
「あれは貴方の何よりの本心で。廻さんのために戦い、彼を思う感情は本物なんですよね。どうしたら良いのかわからないだけで」
 ラクリマの言葉に龍成は視線を逸らす。それは的を射ていると同義だ。
「戦わなくても、きっとゆっくり落ち着いて話ができれば、今より少しは分かり合えると思うのです。綺麗事かもしれませんが、でも!」
 ラクリマは龍成と話しをするために此処へ立っている。
「戦う事は此処でお終いにして話しをするのです! 手が早いのでちょっとぶん殴るかもしれませんが!」
「やっぱり結局殴ンのかよ!」
 戦場に龍成の声が響く。
「キミは悪い人じゃないと思うよ」
 だからこそ、なおさら過ちを犯そうとするのを止めたいのだとサクラは龍成へと手を伸ばす。少しでも『掴む』事が出来れば此方の間合いへと引き込めるからだ。
 気持ちを言葉に乗せて、意志は青瞳へ宿し。
「廻くんがこんな事を望んでいると思っているの!? 廻くんと友達になりたいんでしょ! 廻くんに幸せになって欲しいんでしょ! お姉さんが大切なんでしょ!」
 サクラから溢れる言葉。それに気圧されるように龍成は首を振る。
「うるせぇ! 何なんだよ!」
 向き合わなければ分からない。
 押しつけるだけじゃ意味が無い。
 それは、大切な人を傷つけるだけの独りよがりだ。
「幸せにしたい人がいるなら、その人とちゃんと話をしなさい!」
 龍成にはサクラの言葉が分からなかった。否、言葉の意味自体は分かったけれど、サクラがそれを自分に強く訴えかける道理が理解出来なかった。
「何で、そんなこと、言うンだよ。関係ぇねえのに……」
 今正に戦っている他人の為に心を砕くなんて、有り得ない。有り得ないと龍成は首を振る。
 だって、今までそんな事を経験したこともなかった。

「何もかも奪わせない。皆の大切な人も、貴方の命も、全部、奪わされてたまるか」
 朦朧とする意識の中ボディの言葉が龍成の鼓膜を揺さぶる。
「私は許さない、命の重さを知っているのに自らの命を軽んじる貴方を」
「うっせぇ……俺は大事なもんを守る為にっ」
 精彩を掻く拳。だが、諦めきれない強い思いに突き動かされボディへと掴みかかる龍成。
 勝負の決着など既に見えている。龍成とてそれを分かっているはずなのだ。
 それでもボディへと向かってくる意志はたった一つの願いなのだろう。
 廻の為に、己の命を省みない。命の大切さを知っているくせに。
 ボディの身体中を駆け巡る痛み。エラーは龍成と向かい合う度に増えていく。
 激情に塗りつぶされていく。

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「だから歯を食いしばれ、澄原龍成。貴方のそのふざけた歪み、壊してやるッ──!!!!」

 拳はボディ自身を苛みエラーを吐き出す。龍成の頬へと叩きつけた想い。
 地を転がる龍成はどうしたって届かない希望に打ちひしがれた。
 そして、同時に目の前のボディへとアメジストの視線が向けられる。意識が向けられる。
 ボディが情動を返したのと同じように。龍成はボディへと苛立ちを覚えた。
 意地のぶつけ合いが行き着く先はどちらかの死だ。それなのに目の前の男はトドメを差さなかった。
「何で殺さねぇんだよ! いま、お前は俺を殺せたはずだろ!? 何でだよ!」
 救えないという絶望を抱え生きろというのか。近づいて来るボディへと手を伸ばす龍成。ボディは蹲った龍成の前に屈み込んだ。血だらけでボロボロになっているけれど、二人とも生きている。
「言っただろう、貴方の命は奪わせないと」
 ボディの言葉が龍成の耳に届く。
 この戦場で掛けられたイレギュラーズからの言葉の数々が意味を成す。
 サクラが、ラクリマが、眞田が、昼顔が、エルが、リュコスが、イレギュラーズが叫んだ言葉。
 目の前の男達は自分を『生かす』為に居るのだと、龍成は『ようやく理解した』のだ。
「………………は? な、っ」
「あの子と同じ願いを抱く貴方には、死んでほしくない」
 ボディの腕を掴み龍成は視線を上げる。怒りと悔しさと抑えきれない嬉しさの様な感情に上手く表情が作れない。生きて欲しいと思われているなんて思ってもみなかったのだ。
 落ちぶれてしまった自分をきっと嫌っているであろう家族と不良達しか身近に居なかったから。
 不良達には死ねだ、ぶっ殺すだと散々言われてきたから、姉以外の大抵の人は皆、他人の死を願っているのだと思っていたのだ。
「な、んなんだよ。お前ら、おかしいだろ……敵に、そんな……」
「――生きていて下さい。それが、私の願いだ」
 ボディの言葉が染みこんでいく。イレギュラーズの言葉が反芻する。
 大凡初めて触れた『人のあたたかさ』に龍成はくしゃりと顔を顰めたのだ。


 獏馬の力は削がれ、愛無の腕に収まった。擦切れた力に獏馬は小さく息を吐くのみ。
「今度は私の番!」
 シルキィは手の平に碧と朱の糸を作り出す。二つの糸は折り重なって紫へと変じた。
 アーリアが導いた手順を踏んで。切れない糸を紡ぎ。
 廻の中から呼び出したあまねと、獏馬の間に糸を繰る――
「この糸はわたしの、皆の想いが籠った糸。だから、今だけは。
 皆の、廻君の、龍成君の想いを、感じてくれると嬉しいなぁ!」
 シルキィの紫糸は夜空に舞い上がり、月光を帯びて美しく輝いた。
「結界に、紡ぐ糸に、想いが必要なら私の分も」
 アーリアの思いを手繰り寄せ、糸は月の魔力を浴びてより強固なものへと変わって行く。
「欠月と、燈堂の皆と、やさしい蚕の少女と、食いしん坊な子と――龍成くんも、しゅうくんも
 沢山の思い出を、ここから紡ぎましょうよ!」
 あまねのぬいぐるみの手と、獏馬の小指に紫の糸がくるくると結びつけられる。
「……『触媒』の準備は終わった! 後は、任せたからねぇ!」

「俺は誰かのため、守るために剣を振るう者だ。それしかできない。それ以外を知らない。
 なら今ここで。俺の全霊を以って、全てを救う」
 だから───
 竜真は強い意志を持った眼差しを獏馬へと向ける。

「俺は英雄だ。英雄で、そして廻の親友だ。廻ならきっと、助けたいと言うだろう。
 等身大の、友達の言葉はきっとそうなんだ」
 獏馬が抱く願いを聞き届ける。全てが上手く行くように手を尽くした。何も失う事は無い。
「お前に纏わりつく夜の闇を、俺が祓う。お前に朝日が昇る時を見せる!!」
 あまねと獏馬の周りに術式が広がる。
 ラクリマが月灯の歌を奏で、鈴の知識を手に、アーリアの導く香りに誘われて、シルキィが切れない糸を紡ぎ、愛無が名を与え、此処に存在する全てのイレギュラーズの手で円環へと繋がっていく。
 全ては、生かす為なのだと慟哭する。
「だから言え、獏馬。助けてくれと」
 双別の軛から溢れる暁光が竜真の手から離れた。
 愛無の腕の中、儚き願いを月に祈るように、獏馬は助けを請う。
 助けて。
 助けて――
 自分の罪は許されるべきでは無いと知りながら。
 されど、たった一つの願いの為に。
 夢喰の咎を救って欲しい。
「悪いと思ったら、まず『ごめんなさい』だな。一緒に謝ってやるから」
 愛無の言葉は『しゅう』へと響く。子を離すまいとする愛無の腕に抱かれて。
 この戦場に居る全ての人に。謝罪と願いを叫んだ。

「覚悟しろ。
 俺たちは、お前も澄原も廻もあまねも
 全部まとめて完膚なきまでに救ってみせるッ――――!!!!」

 廻り巡り――
 双別の軛は相成った。
 獏馬という悪性怪異は『しゅう』と『あまね』に別たれる。
 それは悪性と呼べぬ代物。其処に存在するだけの弱い怪異だ。

 静かになった燈堂家の中庭。二月の空に月の明かりが優しく降り注ぐ。
 二日前のバレンタイン。昨日は夢の中を渡り、表では防衛戦。そして、獏馬の来襲。
 本当に目まぐるしい三日間だった。
 戦いの後は生々しく残れど、イレギュラーズが張り巡らせた結界で要石も茶屋も傷一つ無い。
 此処に集まった全ての人達が戦ったからこそ紡がれた結果だ。
 戦いが終わったという事実に皆、安堵の表情を見せる。
 憑きものが落ちたようなしゅうの寝顔。その傍らに同じ顔のあまねがしゅうの手を握りしめ眠っている。
 二人の小指にはシルキィの糸と、愛無から送られた真新しいアルバムが抱きしめられていた。

 ――――
 ――

「廻、大丈夫?」
「ええ、問題ないですよ。イーハトーヴさん」
 イーハトーヴは廻が一連の出来事を気に病んでしまうのでは無いかと顔を覗き込む。
 座り込んでいる彼の視線に合わせるようにイーハトーヴも地面へ屈んだ。
「廻君……、廻君……っ!」
 シルキィが涙を浮かべ抱きつき、愛無が支えるように後ろから抱き留める。シルキィは廻の頬に付いた汚れをぐいぐいと白衣の裾で擦った。廻は安心させる為に彼女の背を優しくぽんぽんと叩く。
「シルキィさん愛無さん」
「怪我は無いかね?」
 愛無の指先が廻の頬を包み込んだ。違和感は少しあるだろうか。顔色はあまり良く無い。
 無理も無いだろう。この数日は大変な出来事が起きすぎたのだから。
 二日前のバレンタインから続く騒動。昨日は夢の中に囚われ、今日目覚めれば敵が攻めてきて。
 それでも愛無とシルキィの温もりに安堵する。それに、二人だけではない。この場に駆けつけてくれた全員の助けがあったからこそ獏馬を無力化する事ができた。
「愛無さん、シルキィさん、イーハトーヴさん、それから皆さんお疲れ様です。ありがとうございます」
 燈堂家を防衛する為にイーハトーヴも一昼夜を戦った。
 その直後に獏馬と龍成が結界の中に現われたのだ。長い長い戦いだった。
「俺は廻の笑顔が見られたらそれで幸せだから」
 微笑みを分かち合うことがこんなにも幸せだなんて、思ってもみなかった。
 はじめての友達を抱きしめてイーハトーヴは安堵する。
 もし、獏馬が目覚めたなら何処に遊びに行きたいかなんて聞いてみるのも良いだろう。
 龍成とも少しずつ仲良くなれたらと視線を上げた。
 この場に居る皆のこれからに、沢山の幸せが降り注ぎますようにとイーハトーヴは祈った。
「双別の軛は成功した。だが、油断はするなよ。あまね側の共存代償は増えるんだ」
 心配そうな顔で竜真は廻の頭をわしわしと撫でる。双別の軛はしゅうとあまねの力を『等分』する術式。廻に負担を掛けぬよう極限まで力を削いでいたあまねの力は増える。つまり共存代償の増加だ。
 されど、あまね側のデメリットばかりではない。安定すればコントロールが出来るようになるのだ。
「はい。でも、今はまだすごく不安定みたい」
 廻は人間の姿を維持したままのあまねへと視線を送った。
「大丈夫なんですか?」
 廻の手をぎゅっと握ったラクリマが憂うブルーグリーンの瞳を向ける。
「今は沢山生命力を吸われたり、反対にあまねの生命力が逆流してきたり」
「それって、凄く大変なのでは? 廻さん?」
「えーと、そうですねぇ……例えるなら貧血と風邪とハイテンションを往ったり来たり」
「燈堂君それは今すぐ寝た方が良いんじゃないの?」
 額に手を当てる眞田に「へへ」と力の無い笑いを返す廻。そこへアーマデルとイシュミルがやってきて廻のもう片方の手を握る。イシュミルは心身の不調を感知出来る。相手が許すのであれば接触する事により、体内で何が起こっているのかある程度読み取る事が可能なのだ。つまり凄腕の医者だ。
「どうだ。イシュミル。廻殿は大丈夫そうか?」
「そうだね。三回ほど月が廻れば……春になれば安定はするかな。調整は私より彼の保護者が詳しいだろうから。問題なさそうだね」
 今は二月。春になれば前と変わり無く動けるようになるだろうとイシュミルはアーマデルに頷く。
「ならよかったじゃん! マブダチの廻くんが良い感じになるんだよね! よしよし! 終わり良ければ全て良しって感じだよ!」
「ン。フリックモ 護レテ 嬉シイ」
 茄子子の笑顔にフリークライが身体をコロコロと揺らした。

 暁月の隣に立ったアーリアはしゅうとあまねへと近づいていく彼の袖を掴む。
 幻介やアンジェリカも心配そうに暁月へと視線を向けた。
「……ありがとう。アーリア君達は優しいね。大丈夫、何もしないさ。こんな二月の寒い夜に『子供』を地面に寝かせたままじゃ風邪を引いてしまうからね」
「暁月さん」
「思う所が無い訳じゃない。殺してやりたい程、憎らしく思う……思って此処まで来た。けれど、それは私の個人的な感情だ。燈堂家当主の考えじゃない」
 しゅうとあまねの土を払う暁月を手伝うのは鈴だ。しゅうを背負いあまねを暁月へと預ける。
 二人の間に繋がった糸が切れないように、鈴は暁月の傍に寄り添い歩を進めた。
「この身はこの地を守る為にあるものだ。本来であればこの地へ獏馬誘い込み討伐するという行為は許されないものなんだよ」
「それはどういう意味ですか?」
 アンジェリカは暁月へと問いかける。
「この地にある二つの要石。それを守るのが燈堂当主の役目だからね。見つかったら、大目玉だろうなぁ」
「誰に見つかるんだ?」
 幻介の言葉に一瞬躊躇した暁月は、夜空の月を仰ぎ言葉を紡ぐ。
「実は『燈堂』は分家でね。もう一つの分家『周藤』と合わせて、京都の『深道』が本家にあたるんだよ。其処のお偉い方に見つかれば、まぁかなりドヤされる」
 深道。燈堂。周藤。其れ其れの地を統べる当主の役目を侵してなお、暁月は獏馬を討つ事を選んだのだ。
 宿願は果たされた。されど、それは暁月の予想とは異なった終止符だった。
 特異運命座標が関わった事によって道筋が変わったのだ。
「でも、この場所で、誰も死ぬことは無かったのは君達のお陰だよ。ありがとう。とても感謝しているよ」
 戦いに寄る死。それは少なからず穢れを呼び寄せるものだから。
 マニエラは中庭の要石の前に立ちその周りを注意深く観察する。数メートルはあろうかという大きな石に注連縄が掛けられていた。
「神域……か」
「何かを封じているのかねぇ?」
 マニエラと共にニコラスも要石へとやってくる。
「ったく、疲れたぜ。早く帰って酒でもかっくらうか」
 グドルフの言葉に貴道が頷く。握り込んだ拳は火照り、冷たい二月の風が心地よかった。

「ぅわ、ちょ、何だよ」
「エルは、お父さんが生きている間に、仲直りできませんでした。エルはとっても、後悔しています」
 龍成の慌てる声にハンスが振り向けばエルがぐいぐいと彼の背中を小さな手で押していた。
「なので、ちゃんとお話が、出来る時間を、逃したら駄目だって、エルは思いました」
 顔を真っ赤にしながらエルは龍成を廻の元へ押して行く。龍成が蟠り無く一歩を踏み出せるように、話し笑い合いあえるように。ロロンと希は二人のやり取りを見守る。
「どんなに時間が、かかっても、エルは頑張ります。もう大丈夫、ですよ」
「痛ぇ。押すな押すな。こっちは怪我人だっての」
 エルの気持ちを受け取り、龍成は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。それは龍成なりの『感謝』の現われだ。
 昼顔はエルと龍成のやり取りを見つめ回復を施す。
 ――きっと、共存代償が命を蝕む事が無くなっても、龍成の根本的な問題……自己犠牲は消えないのだと昼顔は唇を引き結んだ。
 大切だから、生きていて欲しいと伝えるには、昼顔と龍成はお互いの事を知らなさすぎる。
 廻と龍成の架け橋になれるよう昼顔は言葉を繰る。
「初めまして。僕の名前は、星影 昼顔。僕と友達になってくれない……かな?」
 昼顔は龍成に手を差し出した。
「はぁ? んだよ、てめぇ友達になってとか、今、戦ってたヤツに言う台詞か?」
「駄目かな?」
「ぅ、うるせぇ! 勝手にしやがれ!」
 差し出された手をパシっと叩いて龍成は顔を背ける。
 されど、叩かれた手の平の痛みは拒絶などではなく、照れからくるものなのだと昼顔は目を細めた。
 そのやり取りをレイチェルは安心した表情で見つめる。擽ったい程の嬉しさに顔がほころぶ。
 サクラと舞花もくすりと笑みを零した。リュコスとメイメイはこてりと小首を傾げ、クロバがくつくつと含んだ笑いを見せる。

「澄原龍成。この騒動が終わったら、ちゃんと廻様や獏馬、後は気に食わなくても暁月様、そして澄原晴陽と話をしてください」
 ボディは龍成の隣に立ち言葉を掛ける。
「ねぇちゃ……姉貴は……何考えてるか、マジで分かんねぇんだよ。あいつ、ほんと。何なの?」
「難しくても、強引に事を運ぶよりかはマシです。気後れするなら私も同行しますから」
「いやいや。同行とか要らねぇ。何で姉貴と話すのにお前来んの」
「一人じゃ話せないのでしょう?」
「うるせぇ! お前に聞かれる方が照れンだろうが!」
 血を流しすぎた龍成がふらつくのをボディが支える。
「間違えたって、何度でもやり直せば良い。それは生者の特権だ。だから、自分の命は大事にしてください。貴方はまだ――生きているのだから」
「お前も生きてるだろぅがよ」
 ボディのモニターを見上げた龍成の目に飛び込んでくるのは、はぐらかす様な『ーー』の顔文字。
「あぁでも、また貴方が命を投げ捨てるのなら。何度でも私がぶん殴りますので」
「はっ、そりゃそんときゃ、お前も道連れか?」
 もし命を投げ出す時が訪れるならば、誰かを救う時だ。
 則ち『敵』と戦う中で命を賭ける瞬間があるとするならば、隣に立ってくれるかと龍成は問うたのだ。
 その応えなど――

 エルとボディに背を押され、廻の前に立った龍成は照れくさそうに。されど、真剣な表情で。
「ごめん。廻。俺が間違ってた。沢山傷つけて迷惑掛けちまった。許してくれなんて言わねぇ。殴られても文句言えねぇし……でも、俺は廻を救いたかった、其れだけなんだ」
「誰にでも間違いはあります。でも、本当に沢山の人に迷惑を掛けてます。僕だけじゃない。此処に集まってくれた人達も、僕を夢の中に救いに来てくれた人達もです。貴方はそれをこれから償えますか」
 廻は素直に怒っていた。独りよがりで他人に迷惑を掛けた行いに腹を立てていた。
「……分かった。俺に出来る事なら、どんな償いもする」
「じゃあ、歯を食いしばってください」
「えっ」
 冷ややかな怒りに満ちた廻の表情。普段温厚な彼が見せる怒りに龍成は息を飲んだ。
 廻の拳が龍成の頬を打つ。此までの行いへの腹立たしさ、悔しさ全てを込めた一撃だ。
 イレギュラーズと戦った龍成にとっては軽い打撃だろう。されど、何よりも重い意味を持つ。
「痛てて……はぁ、慣れない事をするものじゃないですね。僕の分はこれで終わりです。
 じゃあ、これからよろしくお願いしますね。――龍成」

 今度は拳ではなく、手の平を差し出して。
 龍成は戸惑いと嬉しさを混ぜた瞳で廻の手を取った。

成否

成功

MVP

ボディ・ダクレ(p3p008384)
ぬくもり

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
山賊
咲々宮 幻介(p3p001387)[重傷]
背で語る
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
獏馬の夜妖憑き
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)[重傷]
名無しの
ロロン・ラプス(p3p007992)[重傷]
頂点捕食者
シルキィ(p3p008115)[重傷]
繋ぐ者
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)[重傷]
異世界転移魔王
ボディ・ダクレ(p3p008384)[重傷]
ぬくもり
浅蔵 竜真(p3p008541)[重傷]
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切
時尾 鈴(p3p009655)[重傷]
いつまでも傍に

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 獏馬との戦いに終止符が打たれました。
 実は時系列的に、2月14日の『月夢のプレリュード』、2月15日の『<祓い屋>月匂追い、糸廻り』『燈堂家防衛戦』、2月16日の『<祓い屋>夢喰の咎』と三日間の出来事でありました。
 これにて『祓い屋』第一部、閉幕となります。お付き合い頂きありがとうございました。
 此処からは第二部へ突入していきます。
 第二部も、一部以上に盛り上げて参りますので、引き続きお楽しみ下さい!

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