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シナリオ詳細

<希譚>逢坂有柄の伝承

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●有柄島伝承
 逢坂地区は再現性東京の中でも『近郊地区』にフォーカスを当てた地域である。
 神奈川県や静岡県の海沿い地域。『田舎』と漁業村をイメージし作られたロケーションには一つ離れ小島が存在して居た。

 ぽつりと存在するその島の名前は『有柄(ありえ)』――
 後藤(護島)と呼ばれる人々が守人として島を守ってきているらしい。
 蛇蠱と呼ばれた彼等は島を護り続ける。彼等の唯一の神を守るが為に

 [信仰ファイル:01 (著:葛籠 神璽)]
 有柄島の神について調査を行った。まず、彼等の信仰する神が何かという部分からだ。
 まず、有柄という島の名前が神より借りていると考えた方が良いだろう。地名とは地表の部位や地点を指す場合が多い。『沖の御島』と呼ばれているが本来であれば其方が先に名付けられた地名であり、『有柄』が後天的であると考えるべきだ。

 [信仰ファイル:02 (著:葛籠 神璽)]
 島に渡ってみた所、快く歓迎された。厄払いであるかを問われ『小芥子』を手渡された。其れを使用しての厄払いを行ってくれるらしい。
 神事を執り行うのは有柄の『護島』達だ。その中でも外部からの血を受けぬ者が『小芥子』を島内の祠に祀るそうである。
 是非、見せて欲しいと乞うたが決して覗いてはならないと叱られた。余り深入りしない方が良いのは確かだ。

●島へ渡る切欠
「阿僧祇の一件ではお疲れ様でした。事後の対応もすんで、無事に石神の屍憑(ゾンビ)は落ち着きましたよ」
 にんまりと微笑んだのは澄原・水夜子であった。相変わらずの学生服姿、年若い少女を思わせるが彼女の本来のプロフィールはシークレットな部分が多い。あくまでも協力相手でしかないと言うことだろう。
「実は私、『希譚』――希望ヶ浜 怪異譚の研究を行っておりまして。嗚呼、此処から説明しましょうか。
 希望ヶ浜には様々な都市伝説が存在して居ます.其れ等を収集した一冊の書というのが『希望ヶ浜 怪異譚』、通称を希譚です。
 この書が実在しているかさえ定かではないのですが、在るとした書物がいくつか刊行されています。
 葛籠 神璽という著者の足取りを追えば、必ずその先に『真性怪異』が存在して居ると言うわけです。単純明快でしょう?」
 水夜子曰く、今回はその足取りを追って『逢坂地区』へと向かうらしい。
 逢坂地区は『海沿いの田舎』『離島』にフォーカスを当てたシチュエーションだ。嘗てイレギュラーズが『朱殷の衣』と呼ばれた『喪服の下染めに血を使う』という都市伝説の調査に訪れた場所である。
「逢坂の離島、『沖の御島』と呼ばれた場所に関する書があります。葛籠 神璽が訪れた軌跡……。
 頑迷なる我々、澄原よりも希望ヶ浜学園の皆さんの方が『調査に適している』と言う判断で皆さんとの調査を提案しに来ました。
 人生に蹉躓は付き物です。まあ、気楽に怪異に挑みに参りませんか?」
 微笑んだ水夜子の言葉を繋ぐように音呂木・ひよのは「さて」と口を開いた。

 石神地区――その周囲で確認されたゾンビ事件。それが真性怪異と呼ばれる存在の狂気を受けて生み出された夜妖であったことは判明している。
 真性怪異とは神やそれに類する存在であり、一般的な対処では何ら手出しできないと言うものだ。故に、出会ったならば逃げ延びるか『封印』する他にない。
 水夜子は石神地区の真性怪異『来名戸神』とその妻となるべき『お嬢さん』を現世より僅かに遠ざけるという方法で暫くの時間を稼いだそうだ。と、言えども『来名戸神』は気に入った者を何時の日か迎えに来ることだろう――

「一先ずは、石神の調査は一旦『お休み』です。また向かうことがあれども、直近は向かうべきではない。
 神を遠ざけたのに、態々此方から近寄る理由はないからです。そして、水夜子さんからの情報提供の通り、一連の真性怪異事件に近い情報を持っていると思われる作家の足取りを追うことにしました。そして、次に向かうのが『逢坂地区』です」
 希望ヶ浜を縦横無尽に結ぶ『ネットワーク』のように存在する去夢鉄道には郊外へ繋がる路線もいくつか存在している。その中でも『海』側へと繋がっているのが去夢鉄道の逢坂線である。
 再現性東京の中で希望ヶ浜地区は『希望ヶ浜県』『神奈川県希望ヶ浜市』『埼玉でいい』『山梨の領土』だとか揶揄されている。故に、鉄道を使用して海に面する場所まで旅行を行うことが出来るのだ。再現性東京と言えどもぎゅうぎゅうと寿司詰め状態になっているその場所には日本の様々な文化が詰め込まれている。その海沿いの街、田舎、離島にフォーカスを当てた逢坂にも矢張り伝承は存在して居た。
「向かう先は離島の方ですので、情報が極端に少ない。何せ、逢坂の人々も島の名前を口にしたくはないと云うのですから。
 一応、島へ向かう船については水夜子さんが手配して下さいました。村の詳細についても資料に纏めてあります」
 ひよのはどうぞ、と資料を手渡した。
「……あの、特待生さん。余り無理はしないようにして下さいね。
 怪異や都市伝説、まだ見ぬ存在となれば心躍るのは確かなことなのですが――……呪われたり、しちゃったり」
 ひよのが困ったように伺う。それでも、行くならば止められない。せめて、無事を祈るだけだとひよのは肩を竦めて。

●船
 ごおごおと風を切るようにその船は進んだ。
 あなた達と水夜子を乗せて運ぶ船の乗組員達は皆、一様に口を噤んだままだった。
「あの島に本当に渡るってんなら、悪いことは言わない。『蛇』には気をつけな」
 そう、囁く彼等はそれっきり、何も言わなかった。

 ――俺ァ、内地で生まれ育ってますがね、弟嫁が島の出身で。
 色々としきたりだとか風習だとかで苦労したもんですよ。
 彼女が言うにゃ、蛇には気をつけろってんですから……まあ、そりゃあ、『身内に優しい島の子』で良かったと思うことも多くて……。

 ……『外部』から来るあなたも気をつけた方が良さそうだ。

GMコメント

石神から離れて、また別の『希譚』。宜しくお願いします。

●成功条件
 ・島の調査を行う事
 ・一連の調査後、「ただいま」と澄原・水夜子に伝えること

●希譚(希望ヶ浜 怪異譚)とは?
 それは希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書です。
 実在しているのかさえも『都市伝説』であるこの書には様々な物語が綴られています。
 例えば、『石神地区に住まう神様の話』。例えば、『逢坂地区の離島の伝承』。

 そうした一連の『都市伝説』を集約したシリーズとなります。
 前後を知らなくともお楽しみ頂けますが、各種報告書(リプレイ)を繙読して頂ければ雰囲気を更に感じ取って頂きお楽しみ頂けるかと思います。

[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]

●逢坂地区
 『海沿いの田舎』『離島』にフォーカスを当てたシチュエーションとなるこの地区は『近郊都市』をイメージスポットにしております。
 再現性東京・希望ヶ浜の学生達が鳥渡した外出や旅行に赴く東京街。電車で移動し作られたその場所は『神奈川県~静岡県』の海沿いの街を思わせます。
 漁師町です。それなりに文明は発達しており、遠く、工場街が確認できます。少し電車で移動すれば、工場や近代的な建築に変化し、その工業汚水などで漁業が衰退した……という歴史的な流れがありそうです。
 また『海の向こう側』については本来の海であるかは確証がありません。此の地は練達です。『日本列島から見える海』をホログラム的に投影してる可能性もあれば、海向こうは混沌の大陸である可能性だってあります。
 - 参考リプレイ:<希譚>朱殷の衣

●有柄島(沖の御島)
 逢坂地区から確認できる離島です。本依頼のメインスポット。
 地区内では『名前を呼んではいけない』『行ってはいけない』とされ、名を呼ばれる事は少ない様です。様々な伝承が付随しています。
 島の名前は『ありえ』と読みます。護島(ごとう)という一族が代々居住し、神託を齎す神様を護っているとされているようです。
 島内は外から見るよりも其れなりに広く、集落が一つぽつんと存在する他は自然が広がっています。
 島へと渡るために船を出してくれた漁師は「蛇には気をつけなさい」と何度も何度も忠告してきました。
 それは、この島に住む者達が『蛇蠱(へびみこ)』と呼ばれる事に謂れがあるのだとか……?

 【有柄での調査ポイント ※これ以外の行動も可能】
 (1)集落での情報収集
 彼等は此の地に昔から住まうとされている護島、こと、『後藤さん』です。一見すると優しそうな島民ですが……。
 逢坂本島(逢坂地区)では「身内に優しい島の子」と称されていました。部外者で有ることを忘れずに行動すれば比較的安全でしょう。

 (2)有柄のお山を見にいく
 (3)有柄の海を確認する
 No data……。一見すれば普通のお山&海です。
 自然豊かで漁業も盛ん。静けさを感じさせる島の一角には『立ち入り禁止』の看板や鳥居、祠なども存在して居そうですね。
 蛇には気をつけて。そうそう、伝承もお忘れなく。

●言葉&NPC
 ・真性怪異
 人の手によって斃すことの出来ない存在。つまりは『神』や『幽霊』等の神霊的存在。人知及ばぬ者とされています。
 神仏や霊魂などの超自然的存在のことを指し示し、特異運命座標の力を駆使したとて、その影響に対しては抗うことが出来ない存在のことです。
 つまり、『逢った』なら逃げるが勝ち。大体は呪いという結果で未来に何らかの影響を及ぼします。触らぬ神に祟りなし。触り(調査)に行きます。

 ・音呂木ひよの
 ご存じ、希望ヶ浜の夜妖専門家。音呂木神社の巫女。由緒正しき『希望ヶ浜』の血統であるが故か『希譚』の真性怪異には嫌われているようです。
 セーフティーゾーン扱い。ですが、大事な神域に立ち入れない他、制約が多そうです。おまもり代わりに音呂木神社の鈴やお守り如何でしょうか。

 ・澄原水夜子
「気軽にみやこ、と呼んで下さい」な澄原病院所属の澄原分家の少女。『希譚』や『真性怪異』の研究家です。
 一緒に行動可能です。役に立つかと言われれば、死なない程度にお役に立ちます。

 ・葛籠 神璽(つづら しんじ)
 作家。希譚関連では、良くその名が見られる。著書多数。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 何故ならば、怪異は人知の及ぶ物ではないですから……。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <希譚>逢坂有柄の伝承完了
  • GM名夏あかね
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月29日 20時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
結切
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀焔の乙女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
ノブレス・オブリージュ
ロト(p3p008480)
精霊教師
観音打 至東(p3p008495)
刹那一願
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
ヴェルグリーズ(p3p008566)
桜舞の暉剣
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
笹木 花丸(p3p008689)
竜交
葛籠 檻(p3p009493)
蛇蠱の傍
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 逢坂地区の海は昏い。そう『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が感じたのは先入観によるものであろうか。
 希望ヶ浜 怪異譚――それは、希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書。その存在さえも都市伝説だと語られたそれは『真性怪異』の情報を集約したとさえ語られる。
 もしも、逢坂から『渡る』この海が本物なのであれば、航海を経て行く事が叶えば『静寂の青』に繋がっているであろうに。
 そう思えないのは希譚に描かれた土地であるからか。それとも、此処も練達の一部であり『海』などではない可能性があるからであろうか。
 旅人で構成された近未来都市、元世界への回帰を目的とした人々の都、その中でも『異世界』を拒絶した者達の街――再現性東京。
 聴けば、彼等の故郷は島国であるらしい。海にぐるりと囲まれ、山が存在し、市街地や田舎、多種多様な街と村が広がっている。外海を辿れば異国へ繋がっている――そう聞いた。
 ならば、『そう見せかける』ホログラムである可能性もある。再現性東京とはそんな場所であった。
「話には聞いていたのだけれど希望ヶ浜ってこんなところだったのね」
 可笑しな程に漂う平穏に『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は首を傾いで見せた。外ならば剣靴(ぎそく)で活動しても気にはならないが、この土地では義足であるだけで奇異の目で見られるらしい。用意を調えたのは車椅子。顔も普段は目隠しのマスクで覆っているが黒いヴェールに変更した。
「何だか、遠い異国に来たみたいだわ」
 小さく呟いたヴィリスへと「この空気感はまぁ、俺は似た場所を知ってるが――」と前置きした『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は薄ら寒いモノを感じていた。
「これが『再現』の結果、偶発的に『再現』されて成り立ったのだとしたら。……人間ほど怖いものは存在しないんだがな」
「人間?」
「ああ。そもそも、この『再現性東京』は文字通り誰かが『再現』したものだろう。この怪異そのものが誰かの再現だとすれば……」
 其処まで口にしてからカイトは首を振った。余り言葉にするのは得策ではないだろうか。外の目もある。逢坂の――内地に居るならばそれ程問題ではないが船で渡らねばならないのだ。
「怖じ気付きました? ダメですよ。『チケット』はご準備したんですもの。此処で帰れば可愛い水夜子は寂寞の思いで見送らねばならなくなってしまう」
 悪戯めかしてそう告げたのは今回の水先案内人――そういえば、如何にも真犯人のように感じられるが危険はイレギュラーズ達と同様だ――である澄原・水夜子であった。
 逢坂から乗り込んだ船の乗組員達は沖合に浮かぶ島へ行く事を最初は拒絶したらしい。だが、仮にも希望ヶ浜では力を持つ澄原一族の一員だ。その申し入れを断り切れず船は真っ直ぐに彼等を運んでいた。
「いつぞやの場所の、更に"向こう側"か。流石に、きな臭さが跳ね上がったな?」
 警戒するのは尤ものことだ。『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は小さく溜息を吐く。海に隔たれた場所と言うだけで『数段』危険度が増した気配がするのだが、さて……。
「朱殷の衣のとき遠目で見た、あの島か。いつか行くことになるとは思ってたよ。……まあ、まずは調査だ。気負いすぎずにいこう」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)にとっては訪れたことのある場所だった。故に、予感はしていたのだと近付く『沖の御島』――有柄島を見据えていた。その意気だと微笑む水夜子は満足げである。
「澄原家って、あの院長さんと龍成の……なんだか大変な家だね……」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は水夜子について興味があるようであった。澄原病院と言えば夜妖の専門病棟を有する『夜妖憑き』のプロフェッショナルを自認する希望ヶ浜の大病院だ。通常の診療も行っており、その院長は才媛と謳われた澄腹・晴陽――水夜子の従姉妹だ――が務めている。そして、龍成と呼ばれたのがその晴陽の弟である。彼は祓い屋の一件でイレギュラーズとも面識があるらしい。
「二人とは仲いいのかな?」
「私は仲良しだと思っています。晴陽姉さんは感情表現ドヘタ族ですし、龍ちゃんは龍ちゃんで意地っ張りさんですけどね、ふふふん」
 楽しげに微笑んだ水夜子にサクラは案外身内だと外から見ている関係性とは大きく違うのだろうかと感じていた。
「うんうん、こういう田舎の島ってのも、なんか新鮮で良き良きだな! キャンプとかー」
 船の甲板で感じた風に『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は縮こまる。離島でキャンプ生活なんてのもオツなものだがそれをしたいと言い出せる程に暖かではなかった。
「まだ春だしチョットサムイ、仕方ない仕方ない。
 いよーっし、ひよの先輩とサイドポニーの…先輩? のみやこちゃんにお世話にならないように気を付けるぜーっ」
 みやこちゃん、と呼ばれたことに満足げである水夜子は「ええ、ええ、まあ、お世話するのは音呂木さんでしょうけれど!」と秋奈の頬をツンツンと突き続けている。
「水夜子君と言ったか。君は面白い。厄介な身内が多いせいか君も相当に面白い。食べていいかな。端っこだけでも良いのだが。多分、命には別条はないと思う。冗談だ。半分くらいは」
『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)の表情は変わらず、淡々とした言葉に水夜子はぎょっとする事もなく「齧ってみます?」と腕を差し出した。怖い物知らずか、それとも『愛無と言う人間については調査している』のか定かではないが余裕そうな雰囲気である。
「まあ、興味があるのは本当だ。どうかな。今度二人で食事でも。良い所は知らないから教えてくれると嬉しいな」
「でも、恋屍さんってー祓い屋のところのー、そう、廻さんとらぶずっきゅんではありません? 浮気は水夜子NGですよ。それは倫理に反し、懊悩しますから」
「別に浮気というわけでも無い。僕は博愛主義なんだ。多分。
 ……冗句はさておき君がいるから安全と見るべきか。それとも危険と見るべきか。実に面白い」
 水夜子はにっこりと微笑んだ。彼女とて危険であるか安全であるかなど分かっては居ないのだ。
 事前準備として『希望ヶ浜学園高等部理科教師』伏見 行人(p3p000858)は旅をしていると言った風貌に有柄島の地図など古い文献を携えていた。あくまでも旅人を粧っての上陸である。
「アシリカ、参加者で分かる人の連絡先の管理と、入手した地図を入れて簡易的なナビゲートを頼む。
 ああ、あと、今回の調査の最中や録音をばれないように……というのは無茶かも知れないが頼まれてくれるな? 科学じゃ到達できないモノが見られるかも知れないぜ?」
 アシリカ――とそう呼ばれたのはaPhoneに流れ着いた情報で構築された精霊だ。端末から出てくる事は無いが「オッケー」と軽く返す辺り現代の端末らしさが出ている。
 aPhoneは所有していても馴染みの無い『想心インク』古木・文(p3p001262)は行人のアシリカのサポートを得て、メッセージアプリの使い方をマスターしていた。
「これで良し。分かった事や写真はここに入力すればいいんだね?」
「そう、ただ『電波』が乱れていたり回線が存在しなかったりする場合は使い物にならないから注意してね」
 アシリカの忠告に行人と文は顔を見合わせた。確かにそうだ。離島である以上はaPhoneをどれだけ活用できるかも違ってくる。
「そんじゃ、いってきます!」
 微笑んで乗組員達へと手を振った風牙に手を振り替えした船員達は『僅かに距離』を取った島の沖合で待機するとだけ告げて。


 上陸し、潮の香りを肺いっぱいに吸い込んだ『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)はあくまで調査の姿は見られぬようにと気を配るように海をまじまじと眺めて居た。ぞろぞろと島民が何のようだろうかと集まってきているのが遠目で見える。
(逢坂地区の有柄島かぁ……石神地区の外での調査は初めてになるねぇ。『身内に優しい島の子』とはいえ、希譚の記述からすれば取り付く島が無いわけじゃないはず)
 警戒を怠らず『もう少しだけ一緒に』シルキィ(p3p008115)は有柄の島――そう呼ぶのも憚られるという。名を呼ぶのは認識したことになるからだろうか――の島民達の様子を探るように見詰めていた。
(けれど、何が起こるか分からないっていうのも事実。……情報を得て帰るためにも、慎重に聞き込みをしなきゃねぇ)
 そう、此処は遠く離れた孤島である。イレギュラーズならば海を泳いで渡ることも出来るだろうが、海に何かが潜んでいないという証左はない。
 その調査にやってきたЯ・E・Dは背中に感じる海の気配は奇妙なモノだと感じていた。
「わあ、人が一杯居るね! ボク達も一斉に来たからビックリさせたかな?」
 あくまで友好的であるという姿勢を崩さずに『魔法騎士』セララ(p3p000273)は微笑んだ。厄払いの気持ちで、離れたがらないヒトガタはぺたりと貼りつけている。それはひよのに言わせれば別の怪異のお手付きであると言う証であり、島では『1ライフ』扱いされるだろうというのだ。
「こんにちはー!」
 手を振ったセララにおずおずと振り返す村の子供達。驚いた様子の島民の大人は小さな会釈を返してからささっと背を向けた。自身らが出迎えずとも客は迷わず集落に来るのだろうと感じさせることが叶ったか。
「さて――と。この手の話は初参加になる私なわけですけど、海沿いの田舎、離島、伝承と言ったら私ですよ私。
 まあ似たような環境で生まれ育ったのはあるわけです。その辺の経験を活かせればいいかなぁと」
 海沿いの田舎、離島、伝承。海洋王国には稀にある事なのだと『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は告げた。
 イリスがこの状況と言えば自分だとそう認識したのは訳がある。アトラクトスという一族は傾向として閉鎖的なのだ。詰るところ、アトラクトスという一族こそが有柄の島の現状に似ていると感じたのだろう。外部を遮断し、内の血を保全し血統を護り続ける――だが、それには二種類存在して居た。
(うん、さっきは『私達に驚いただけ』だった。嫌がる素振りもない、案外普通に見えた。
 けど……外から入らないようにするものか、中から出ていかないようにするものか。どういう意味合いで保守的なのかによって話が違うよね)
 それも調査を行えば判明するであろうか。悩ましげなイリスの傍らで偽書『ヨルの払い方』を手にしていた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は逸る気持ちを抑えながらも口元がにやけてしまう現状にやや困っていた。
(実は都市伝説の調査に行けるのを、俺はずっと楽しみにしていた。恥ずかしい話だが、この年齢になっても好奇心て奴には勝てないのさ。
 ――因みにどれだけ楽しみにしてたかというと、偽書『ヨルの払いかた』を買ってしまうぐらいにな。まあ書物はウソだらけだったが)
 それでも希望ヶ浜学園の校長の書物だ。やる気は伝わるだろうとガイドブックのように握りしめたそれを水夜子は「良き心がけ」と揶揄った。気合いも十分だ。海鳥と五巻を共有していたジェイクは「それにしても綺麗な海だな」と呟く。
「ああ、そうだねェ。この海なら『葛籠 神璽』も来たがるというモノさ。
 それにしても――『葛籠 神璽』……ねぇ。名前を聞く度に傲岸不遜な感じがして好ましいが。少なくとも石神の希譚は本物であった」
 石神と口にした『闇之雲』武器商人(p3p001107)の傍らでその身を固くしたのは『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)であった。
 石神――少子化と人口流出によって限られた公共交通機関さえも大部分が廃止が決定したその村はセピア色の漂う空間であった。市街地から出るには週に幾許かだけのバスだけというその場所はダムに沈んだ村があったという。その場所で息衝いていた怪異。
(……この島にも石神地区の真性怪異に似たナニカが存在するかもしれないのね……。今はまだ大事にはなっていないようだけれど、今後も起きないとは限らない)
 行きはよいよい、帰りは怖いと囁かれ。音呂木の巫女を『道しるべ』に調査を行った。今回は彼女ではなく敵か味方か、出自さえもあやふやな澄原と言う一族の女を連れてくることになったのだ。
「水夜子くん、同行してくれるかい? 葛籠氏に関する手がかりも探したい。学者の端くれとして、希譚の原本も読んでみたいしね」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の問い掛けに水夜子は「皆さんにお任せ致しましょう」と微笑んだ。
 ゼフィラは水夜子はキーになると考えていた。イレギュラーズとはまた別の、ある意味では隔絶された存在である。そんな彼女がここに居る。詰るところ、名を呼ぶことを禁忌とする島では言霊は力を持っていると考えられているのだ。
(水夜子くんに……ああ、それから外海で待つ船員に『いってきます』と宣言しておく。島民に『こんにちは』と合図する。
 その存在を認め、此処で活動する許しを得る。そして水夜子くんへのただいまを絶対に忘れない。それだけで私達は帰れるのだ)
 その安心感は言霊に着目したからであった。だが、今回帰れるとしても『気になること』は山のように存在して居る。
 武器商人が名を呼んだ葛籠という作家のように真性怪異と呼ばれた存在を蒐集する希譚。真性怪異を考えれば考えるほどに『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)は頭を悩ませた。
「石神の屍憑の件といい、真性怪異と呼称される存在が実在しているのは間違いないようですね。
 神性、神霊。そうした超自然的存在がこの島にも存在しているというのが本当なら……それら真性怪異は一体何処から現れたのでしょうね?」
 どこから――それは『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)とて悩ましく思うところである。来名戸での経験から彼を蝕んでいた呪いは変化を齎していた。霊的存在の声が聞こえる力が更に増したのだ。それが真性怪異への『欠片』を拾って来る事が叶えばとも考えるが、さて。
「この島にも『それ』が存在して居るというならば、山や海、そういった『ロケーション』に居るのだろう」
 シューヴェルトの言葉に如何にもがありそうだと『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は感じていた。
「ダムの中にある村の次は島かー……前よりは広い感じするしわかりやすい息苦しさみたいなのもないけど、ここもきっと怖いんだろうな……」
 怖いか怖くないかで言えば怖いに決まっている。現に、彼女の傍らで『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は自分は此程怖い物知らずだっただろうかと考えているほどだ。
「真性怪異は俺達の手に負えないと分かっているのに無性に人を引き付けるものがある気がするんだ……。不思議だよね」
 呟きながらも音呂木神社のお守りを握りしめたヴェルグリーズはさて、と頬を掻いた。何とも奇妙な空気がこの場所には漂っている。『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は頬を掻いて溜息を吐いた。
「葛籠神璽の足跡を辿れば真性怪異に辿り着くって、何か……誘われてるような感じがして少し嫌だな」
 葛籠神璽。葛籠神璽。葛籠神璽……。何度も名前を言えどもその存在は実在しているかさえ怪しく感じられる。
「ふむふむ、葛籠なるものの軌跡を追えば怪異にたどり着く。小生も葛籠なるものゆえ、これもなにかの縁であろう、はてさて蛇にはきをつけるが小生も一種の蛇かもしれぬな。龍であるが。あっはっは!」
 からからと笑ったのは『神仕紺龙』葛籠 檻(p3p009493)。彼は自身の名と、語られる作家の名に僅かな親近感を感じていた。
「仮にあんな希譚に何本も首を突っ込んでピンピンしてるんだとしたら……そいつは特上の探索者か、特上に狂った魔術師だと思いやしないかい?」
 武器商人の言葉にアルテミアは「もしくは」と恐る恐る口を開いた。その表情は何かを怖れるような、それでいて『そうでない事を願うような』そんな気配を孕んでいた。

「その存在そのものが怪異である、とか――」


『精霊教師』ロト(p3p008480)はふと、葛籠について語る皆の声を聴き思い出す。それは、出発前のことであった。
 見送る側となる事には随分慣れている音呂木ひよのに関してロトは気になっていた。希譚に定期的に出現する葛籠という男は彼女の血筋についても詳しいのだろう。所在を確認できるならば、接触したいと願っている。
 願いながら、ひよのに『無茶』をお願いしていた。

「そうだね、注射器一本分くらい。駄目ならハンカチに少しで良いから…君の血が欲しい」
 ロトのその言葉にひよのはぎょっとしたような表情を見せた。流石に彼女は神職の跡継ぎと言えども普通の少女なのだろうか。
「私の血を、ですか?」
「ああ。此れはお守りであり、危険探知、それと……探索場所の真性怪異の反応を見るための呪具……いや、霊具とでも言うべき物。
 もちろん、音呂木さんにリスクがある行為なら止めておくよ。代わりにありったけのお守りが欲しいかな、あはは」
 いつも通りの様子でそう微笑んだロトにひよのは自身の指先から少しだけハンカチに垂らした。僅かな緊張と共に彼女は自身の指先に絆創膏を貼りつけながら言った。
「逆があるかもしれませんよ」
「逆?」
「ええ。私の血を持っていたから、貴方は『何にも出会えない』可能性もあります。……神のテリトリーに無礼にも『外神』を持ち込むようなモノでしょう。
 音呂木は希望ヶ浜という場所に根付いた神社です。音呂木の信ずる神と真性怪異と呼ばれた神霊は全く別の存在ですから」

 ――さて、それがどう出るか。ロトは僅かな悩ましさを抱えている。『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は「あのひよのさんがあーいった反応をするってなると、それだけ今回の調査は大変な事になるって事なんだよね?」と呟いた。
 青い海は美しく、怖れるモノなど何もないように感じられるというのに――
「……それでも花丸ちゃん達は触らぬ神に祟りなしってモノに触らなきゃならない訳で」
 因みに、花丸もロトと同じくひよのにお願いをしていた。『ひよのさん、ひよのさんっ! 突っ込めないひよのさんの代わりにお守りとか色々と持ってっちゃっていいかなっ!?』と告げればお守りだとか鈴だとか、アクセサリーに改良したものだとか、様々な『ひよの装備』を花丸はゲットしてきたわけだが。
「そろそろ、進まないとね。石神地区とはまた違った区域なんだね。海洋とは全然違う海みたいだけど……何があるんだろう?」
 ざあざあと押し寄せる波を眺めて居た『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)に檻は「そうだな、うむ、行かねばならぬ」と頷いた。
 念のための音呂木神社のお守りは今回も役に立ってくれるだろうか。
「メイは祠を探しに行ってみようかとおもうのですよ! 神様を護っているなら、祠や社が合ってもいいはずなのですよ」
 いそいそと探索用のヘルメットを被った『シティーガール仮面』メイ=ルゥ(p3p007582)は堂々と「安全ヨシ!」と叫んだ。不安ばかりが溢れる場所だが、ちょっぴり探索のようで楽しい気配がするのだ。


 蛇には気をつけて――

 その言葉が『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は気になって仕方が無かった。普通の蛇なら山の方が縁深いが、離島というある種の閉鎖的環境では『普通』という言葉を使うのも憚られる。
「そも、そこへ海を越えてやってくるものは忌みか稀人。いずれにせよ『日常』ではない」
 そう、日常ではないからこそ、怖れるモノがある。万が一を考慮して『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)は「何処へ行き、何をするか」「昼までに戻らねば自分のことを探さぬように」とメモを準備していた。至東の考案した調査作戦は空を飛んで逃げるのが肝要である。
 日中の至東は島内を適当にうろうろとするのだと宣言していた。いざという時の拠点にと『話をするのには向かないが』民宿の確保を行ったという水夜子に感謝しながら宿での待機を行うと決めていた。
 念のために持ってきた『落ちてた定期入れ』の行き先を見遣るが、それを傍らで眺めたセララは「石神駅だね」と微笑んだ。成程、その定期入れは石神駅での調査の際にイレギュラーズの手に渡ったモノなのだろう。だが、曰く付きで有ることには違いない。
「成程、成程……石神のモノが不幸を呼び寄せるならばここもそうであるかもしれんな」
 aPhoneを取り出してから民宿でメッセージを纏めておこうと紙と鉛筆を取り出して仲間達を送り出した。これから、島内で分担することになる仲間達が得る情報が有益で在る事を願いながら。

 集落へと辿り着いてからヴィリスは何を調べれば良いのかも分からない場合の対処法を一つ見つけていた。
 それは人に聞く、と言うことだ。情報収集は何をするでも現地の民に確認するのが一番だ。
 セララは民家を訪ねる際には菓子折を用意して無礼がないようにと気を配り礼儀正しい少女として振る舞った。
「余所者は余所者らしくしていればいいのよね? それなら得意だわ! どこでも余所者だもの!
 一応観光客? になるのかしら。それっぽく振舞いましょう。聞きたいのは『有柄という由来について』『蛇蠱とはなんなのか』そんなところね?」
「蛇蠱について触れるのは大丈夫かは様子を見てからの方が良いかな?」
 セララにヴィリスは小さく頷いた。確かに、外様で有るはずの『観光客』が知っていて良い情報で無かった場合は危険が隣り合わせだ。
 海へ行こうと考える武器商人は作家そのものの生年月日や来歴などの情報は全く出てこなかったのだと告げた。
「さて、後藤さんは蛇蠱なのだろう? なら蛇の憑物筋である可能性がある。
 かつて、海岸に流れ着いた長持を開いた人々であれば『何か』を祀っているなら海かもしれない。或いは――」
 長持が集落に飾ってあったら注意しておくれ、と武器商人は囁いた。音呂木神社で鈴をかい、タバコを用意して身の危険を感じればふうと吹くこととした。念のために此の地での厄除けの意味を持つこけしも準備しておいた。
「長持?」
 問い返したラダは立入り禁止区域、そして祠や鳥居と言った場所の位置や範囲の全体像を掴みたいと考えていた。
 山を中心として場合にとっては一部沿岸を回ると決定してから潮の満ち引きで見え隠れする部分にも注視。そう、それも『何か』があるかもしれないからだ。
「蛇蠱が伝え聞くモノに近いなら、蛇神が真性怪異の候補足りうる。そうであれば長持が何かしら拠り所になっている可能性があるね。
 ま、そんなものであれば家探しでもせねば見つからぬかもしれんが。まあ、なんにせよできれば『後藤さん』から憎まれぬに越したことはない。
 ……それこそ、蛇に心臓を掴まれたら事だからね。ヒヒヒヒヒ!」

 集落にて――
 人を集めるのは得意なのだと大道芸を見せて踊り続けるヴィリス。
「もし、ちょっといいかしら? 聞きたいことがあるのだけれど」
 視線を集めていたヴィリスは分かっていることの確認になるかも知れないと、感じながらも生の声――特に島民達の言葉は大事であると考えた。
 有柄島の由来が聞きたいと告げれば先程前で笑顔であった島民達の表情がす、と消える。
「ど、どうかしたの?」
「沖の御島とお呼び下さいな、お客人。この辺りじゃあ、そう呼ぶのが礼儀」
「でも、本来の名は――」
 睨め付けられてヴィリスは肩を揺らした。怯むことのない、何てことの無い存在である筈の島民に睨め付けられれば蛇に睨まれた蛙であるような気がしたのだ。
「不躾でごめんなさいね。初めて来たから気になってしまって……」
 そう告げれば一転したように笑みを浮かべた。島を探るモノは許さないとでも言うのか。彼等は普通の人間でありながら信仰心に溢れているのだろう。神を愚弄する存在かを品定めされている気さえした。
「構わないさね。そうね、そうだ……アリエ様は屹度許して下さるよ。小芥子をお持ちなさいな」
 小芥子、とソレを見下ろしてからヴィリスは首を傾いだ。それは厄払いに使用されるという小さなモノだ。島の入り口で配られていたことも記憶している。
「これを……?」
「ええ、ええ、ソレを持ってさえ居りゃあ救いは訪れますからね」
 厄を祓うではなくて、救いが訪れる。その奇妙な感覚にヴィリスは「有難う」と小さく呟いた。それにしても、蛇に気をつけろとはどういうことだろうか。外ではその言葉が多用されていたが島の中ではそれは全く以て触れられない。
(……蛇……毒のある子でもいるのかしら? 蛇を見つけたら噛まれない様に気をつけないといけないわね。……そもそもいるのかしら? 野生の蛇)
 その様子を眺めていたヴェルグリーズは問い掛けるのもどうにも憚られた。神とはどういう存在か。ソレを口にするにも禁忌であるかのような空気感なのだ。好意的に此方が接触すれども島は此方を疑惑の目で見ているか。
「厄払いを見ることはダメなのだろうか」
「駄目ですよ。特に血の濃い方だけしか入れませんからね」
 血が濃い――とその言い方からすれば外が混ざっていない者を差すのだろうか。ヴェルグリーズはそれが神聖なるものとして扱われている区域で行われているのだと察した。
 神も多種多様だ。石神同様、神様に認識された時点で影響が出ることもありそうだが有柄は真逆の感覚を覚えていた。
(石神と違って受入れられているような……何かに見られているのは確かだが……)
 呟き首を捻った。島から出ることは叶うかも知れないが、何かが此方を伺い見ているのは確かなのだろう。この島の成り立ちそのものを隠す島民達はヴェルグリーズに笑みを浮かべたまま言葉を発することを否定する賀のようだ。
「島の外でしきりに蛇に気を付けるよう言われたが何かあるのか」
「ああ、なんでしょうねえ」
 蛇は神様のお遣いだから、とそこまで言ってから自身を見詰めている島民の目にヴェルグリーズは息を飲んだ。突如として腕を掴まれ「大事そうに握ってるソレってなんですか」と島民が覗き込む。咄嗟のことでホームボタンを押したaPhoneには情報共有用のメッセージアプリは表示されていない。
「時間を見ていたんだ」
「時間?」
「帰りの、船があるから……」
「それならいいですけどね。外に何か写真なんか持ち出そうとしてるんじゃないかと思って。ごめんなさいねえ」
 外は穢らわしいと笑ったその言葉に薄ら寒さを感じながら。

 その一方で――
「教えて欲しいことがあるんだよねぇ。一つ目は『この島の名物』!
 せっかくなら美味しいものの一つは食べて帰りたいよねぇ? 漁業が盛んみたいだし、新鮮な魚介なんかが食べられると嬉しいねぇ〜」
 離島に大勢で詰めかけているこの現状を『できるだけ警戒を緩めて貰えるように』とシルキィは穏やかに問い掛けた。先ずは取っかかりである。
 客人を持てなすと呼ばれるが、料理には口を付けてはならない気がしている。さて、他にも聞きたいことがあるのだとシルキィは話を逸らした。
「もう一つ聴いてもいいかなぁ?」
「はいはい。何でしょうか」
「二つ目は『厄祓いについて』! 知り合いに聴いたんだけれどね、厄祓い、今でもやってくれるのかなぁ?
 改めてその内容について話を聞いて、もしやってくれるのならお願いしたいねぇ。
 知り合いによると、"手渡された"小芥子が単に『これを使う』って説明だったのか、『一度手で触れる』ことが重要なのかは気になるんだぁ」
 お作法は、と問い掛ければ『小芥子は触れて持ち歩き必ず奉納して帰らねばならない』とそう言われた。よく考えれば集落に来たイレギュラーズは皆、その小芥子を最初に手渡されている。
 情報を集めたい。祠を探しに行く人々に伝えたいと考えるが小芥子は持ち歩いて下さいと言うだけだ。
「小芥子を使っての厄払いを体験してみたいんだけど、いいかな? 厄払いが実際に機能するんだったら心強いよね」
 それは石神の事件に対しての手札が一つ増えたと言う認識だった。島民達は外の真性怪異を知らない。セララが『厄払い』がどんな効果かを気にしている程度に捕えたのだろう。
「大丈夫、『小芥子』を持って今日は一日歩いて下さいな。夕刻になったら此処へと戻ってきて下さい。
 いいですか、神様は貴方を裏切りません。神様は貴方の行いを見ていらっしゃいますからね」
「それだけでいいの? ええと……厄払いして貰った分、ボクも神様にお返ししたほうが良い?
 神様は何が好きなのかなー? 食べ物だったら、ドーナツでも良い? 折角だし、お礼はしたいよね?」
 セララがこてりと首を傾いだその言葉に島民は感激したとでも言うように「良いお嬢さんだ」と彼女を持て囃した。
 どうやら島の神――此処で言う神様とは信仰の対象を指す。ひよのに言わせればそれが神様であるか真性怪異であるかを一般的には区別しないのだそうだ――へと配慮し、感謝の気持ちを忘れない彼女は良き隣人であると認識されたようだ。先程までは淡々としていた『護島』と名乗った人々にセララは驚いたようにぱちりと瞬いた。
(……な、何だか、凄いことになった……?)
 外のお嬢さんも捨てたモノじゃないと騒ぎ立てる島の人々の中で、幼い少年を連れた母親が「お嬢さん、旦那さんはお決まりですか?」と問い掛けた。
「え、え?」
「『外』のお嬢さんでも、この島への感謝を忘れない方ならば受入れましょう。倅は丁度13歳になります。どうでしょう?」
 ズイズイと迫ってくる彼等にセララは愛想笑いを一つしてから「ボクは外から来たし、この島のことは余り知らないから答えられないかな!」と『島の人々にとっての模範解答』を返した。
「私はこの島で禁止されていることとか、しきたりとか、知らないんだ。知らないうちにルールを破っちゃったら大変だからね。皆と仲良くするためにも教えて貰えたら嬉しいな!」
 にっこりと微笑んだセララへと村人達はお山は向かわぬようにと頻りに言った。その言葉に文はセララの友人だと名乗り出てから問い掛ける。
「実は本島で朱殷の衣について聴きまして。元は島の風習なんだっけ。ああいった逸話が他にもあるのなら少し嬉――いや、困るから存在について聞いてみたいんです。ええと……この島の代表者は後藤、いや『護島さん』でいいですか?」
「貴方は?」
 自身が民俗学などに携わって古典を学んでいるモノだとそう名乗り出た文に本島でよく聴いてきたのだと島民達は『命知らずな奴等が居る者だ』と感じていた。
「しきたりや風習について、やはり踏み入れた以上はし云っておくべきですし……病院や商店なんかはあるんでしょうか? 島の文化的年代も気になります」
「病院は小さな診療所がある程度ですよ。商店はありますが、その物資も本島から運んできています。沖の御島の人間は嫁ぐ以外は滅多に出ませんからね」
 そう応えたのは年若い女であった。例外として外で子を成してから島に子を戻すと言うこともあるらしいが、その婚姻も逢坂でだけしか行われないらしい。
(逢坂の名や噂話からするに、異界に繋がる神域に蛇や道が関係しているのかな。
 ……来名、例の怪異と此処の怪異は仲が悪い気がするのはどうしてかな。お互いに因縁でもあるんだろうか。気になるけど迂闊には聞けないか。とにかく希望ヶ浜怪異譚にまつわるヒントが見つかればいいな)
 迂闊に聴けば蛇に睨まれるか。先程のヴィリスの様子を見る限り余り無闇に彼等に聴いてはいけないのだろう。
 セララが握りしめた小芥子にも興味があった。木で出来た女の子――それは石神の『お嬢さん』のような存在なのだろうか。
「小芥子を使うのは何か意味が?」
「まあ、身代わりですよ」
「……身代わりっていうのは?」
 首を傾いだシルキィに島民は静かな声音で言った――「護島が代わりに蛇様に持って行って下さるんですよ。聖域ですからね、護島じゃなくっちゃいけない」


「『蛇に気をつけろ』ってどういう意味だろう。
 たしかに蛇は毒もってたりし、しめてきたりとか危ないのもいるけど……けっこうおいしいよね? あんまり怖いってイメージはないかな」
 リュコスにとって蛇は食物だが、知らない蛇も無数に居るらしい。色んな事に気をつけろと言われても頭が混乱して仕方が内ではないか。
「で、でも今はまだ何も起こってないよね。安心して調べられるかな……そうだ海に行こう。
 島だし、村があるし、きっとおにくはお魚さんからもらってるんだよ!
 えっとつまりお魚さん食べてみたいなーってわけじゃなくて村の人にとって海はとっても大事ってこと!
 遊びに来たわけじゃないよ! 海とかあんまり行かないなー、海辺の遊びもできるかなーって思ったりもしてないよ!」
 あわあわと言葉を連ねるリュコスに『裏』や『目的』を感じないからか村人達は微笑んで居た。成程、海で魚を捕って食すのは許される行為なのだろう。
「泳ぐ……のは危ないかな?」
 とりあえずはぱしゃぱしゃと水遊びをしてみる。近付いてくる魚たちに僅かな安心が胸を過った。
「普通の海だよね……? お魚さんが集まってるところ、釣りができそうなところはないかな? 釣りをしてる人はいないかな?」
「魚を釣るのかい?」
「あ、は、はい。その……ここならいいのかな、って?」
 首を傾いだリュコスに釣り人は釣り座をお菓子与えてくれるが洞穴には近付かないようにと口を酸っぱくした。どうやら危険区域は存在して居るようである。
 海沿いを歩き回る。なるべく道を歩くつもりだが、そうも行かないならば道なき道を進むことも辞さない。そう考えながらごくごく普通に自然に歩き続けていた。
(ありえない……なんてことはない、って所だとは思うが……蛇には気をつけなさい、という忠告は胸の中に留めておいて、調査の取っ掛かりになりそうな物は何でも保存をする。それを判断するのはこの島から安全に退避してからでも遅くはないだろうから)
 出来れば魚も釣ろうと考えていた。海を調べるには魚を確認した方が良い。
 怪異というよりも先ずはこの島を知るところからだ。それを腰が退けているとは云う事無かれ。無理無茶無謀のタイミングはまだ先だと認識しているのだ。
「俺たちは何かがあると思って来ている。調査の基本でもあるが、同時に危うさでもある。疑われなければ良いんだけれどもねぇ……」
 ――もしも、この場所に何もなければ?
 そう感じてしまえば目を背けることだってある。何かがあればそれでいい。出来る限り疑って進むのが吉である。
 aPhoheを通じて齎される情報は島民達は此方の様子を伺っているという事だ。派手に動きすぎれば良い事には余りであえないであろう。
(まあ、怪しまれても致し方がないか……立入り禁止区域は島民にとっては『大事な場所』だろう)
 故に、自身も誰かに見られているとは感じていた。島民達が張り巡らせる目は驚くほどである。
 近くに人が居るならば一番だとイリスは「海についての調査をしたいんです。『魚』の研究をしていて」と微笑んだ。
 それならば小型船を出すのも許されるだろう。島民の目を背中に受けながら小型船で沖合へと出航する。見張られている気配がするのは良い心地ではないがこの際仕方が無いだろう。
「見るなのタブー然り、彼岸と此岸と言うように。禁域を設ける事、ヒトの世界とヒトではないものの世界を区切る事は当たり前のように行われてきたわ。
 聞く限り、この地にもそういった伝承は分かりやすく息づいている。
 護島とは果たして『何』を護るものなのかって話もあるしね……ここまでは前提として、さて、果たしてこの地の海は『どちら』の領域なのかしらね?」
 もしも、内地から隔てるならばソレは何処から始まっているか。
 例えば――良く在ることならば海は元は存在せず、この下には陸地であった場所があるか農政だ。海中に遺跡が残っている可能性もある。
 報告書には潮が引けば道が、とも告げられていた。蛇は蛇でもウミヘビである可能性も捨てきれない。
 水深を配慮して、昏い海でも見通すようにイリスは『魚を調べているフリ』をして深い海へと潜った。
 予想通り、道がある。幾つもの鳥居が連なり、有柄の島へと続いている。
(……これが、向こうから此方に繋がる道、か)
 振り向けば、分岐点が幾つか存在して居た。真っ直ぐに有柄の島に上陸するだけではない。三つ股に分れたソレが何処に続いているのかは一目するだけでは分からないが――まるで、蛇が此処に存在して居るように思えた。
 直ぐさまにaPhoneで連絡を行えばジェイクの鳥が『調査』に上空から確認してくれるらしい。さて、その報告を待とうか。

「八岐大蛇ならず三つ首の蛇か?」
 そう呟きたくもなる。ぐねぐねと入り組んだ道をジェイクは見詰めていた。
 蛇――先程から視線を感じる島民も『蛇蠱』と呼ばれているらしい。鳥居の場所は確認できているが立入り禁止区域に程近いこともある。
 どうやら、イリスが言った海底の道がこの鳥居に繋がっているらしい。
「さて――どうするか」
 鳥居をまじまじと見遣る。草臥れたソレが随分古い時代に作られた意匠で在る事は確かであった。刻まれたのは蛇を思わす文様である。
「神に触るなら、この先へ行けって事だろ。鳥居は神域への入口って事だ。即ち人の世界と神の世界に境界が鳥居だ。
 だが――『海から此処に繋がっている』というのは?」
 さて、どういうことであろうか。海からひょこりと顔を出した武器商人は「此処に繋がって居るだなんてねェ」と小さく呟いて見せた。
 武器商人と行動を共にして居たのはカイトだ。彼は霊魂疎通で霊魂から情報を拾おうと考えていたが、逆に全くソレが存在しないことに違和感を憶えて居たらしい。
「ここは違和感だらけだ。気がかりなのは『こけし』っていうヒトガタを使って祓ってるって部分だからな……何かを『食ってる』可能性があるか、ってトコか」
「此処に鳥居が在るなら食われているのは誰だろうねェ」
 笑う武器商人の言葉にジェイクとカイトは強烈な気味の悪さを感じていた。
「念の為にどっからどうすれば泳いで逃げられそうかとかも確認しとくべきだろうか。
 ……こっちも杞憂であって欲しいんだがな。帰りの船を叩き落されて詰む、なんて『よくあるシチュエーション』だしな?」
「ああ、なら道を辿りゃ良いみたいだぞ。向こう――『逢坂』には海底で道が繋がってる。潮が引けば歩いても帰れそうだ」
 鳥居を潜って? と武器商人が問えばジェイクは更に気味が悪いものだと呟いた。
 武器商人が気になっているのは民俗学的にこの島は風習があるのだろうか、という事であった。漁を行いながら此方の様子を逐一見詰めていた島民に物怖じすることなく声を掛ける。
 ジェイクがその様子を伺い見るが島民の鋭い目付きは悍ましい者であるかのように思えた。
(さて、鳥居は他にも存在するが……全てを辿れば『立入り禁止区域』の祠に着くのかね。神様の正体を暴きたいが――)
『目』が多い。島民達が此方を見張っている。外に厳しいと聞いていたが此処までか。
「この島は何を信仰しているんだい?」
「島そのものをお支えしております」
「島を……? ああ、じゃあ葛籠 神璽という名に聞き覚えは?」
 武器商人が問い掛けたその刹那、カイトは強烈な悪寒に襲われジェイクは精神的な不安と漠然とした死の気配を感じた。
 ソレが何出るかは分からない。だが――『葛籠 神璽』という存在がこの島で何かをしたのは確かなのだろう。
「さあ、憶えておりませぬ」
 にっこりと微笑んだ島民はこれ以上は聴くなとでも言うように、その言葉を打ち切って。


 上空を調査するファミリアーの調査を併用しながら山道を行く。『探検隊』は今回は島の探索に徹することとしていた。
 ゼフィラは「水夜子くん、見たまえ。これは人の痕跡だろう?」と獣道を指さした。花丸が上空に飛ばしたファミリアーもこの道がある程度は繋がっているという事を示している。
「該博な知識を持つゼフィラさんの言うとおりですもの」
「ふふ、みやこさんは難しい言葉を沢山使うよね。そんなみやこさんに改めて聞いてみたいことがあるんだけど、いいかな?」
 花丸が伺えば水夜子は快く頷いた。この場では協力関係に当たるからであろう。
「希譚の事とか真性怪異の事とか改めて聞いておきたいかな。知りすぎるのも困りものだけど、何も知らないって言うのはどうかと思うしね――って事でご教授お願いします、みやこ先生!」
「先生と言われると悪い気がしないのです」
 ふふん、と胸を張って見せた水夜子は何から話したモノかと悩ましげである。道を行く水夜子が立ち止まり「ううん」と唸った様子を確認してからサクラは「じゃあ、最初に一つ」と提案した。
「この地域の伝承ってどういう感じなのかな? どういう神様がいるとか、どういう祟りがあるとか」
「ああ、それなら。逢坂は文献に寄れば『名前を呼んではいけない』『行ってはいけない』と呼ばれる島、まあここですけど……があります。
 良くも悪くも色んな伝承がありますよ。一度踏み込めば戻ることが出来なくなる、だとか。神様に気に入られたら帰れない、とか。良い伝承で言えば『海出人』なんか……」
 サクラは「海出人」と呟いた。これが肝である。水夜子はこの島が『有柄』と呼ばれている一つの理由が此れに当たると考えていた。
 例えば、アマビエやアマビコ、そして『アリエ』と呼ばれる海より現われて吉凶にまつわる予言を残すと妖怪の伝承がある。これが此の地に根付いているのだそうだ。
「じゃあ、その妖怪信仰があるってこと?」
「その信仰『も』ですねえ」
 水夜この言葉を継ぐようにゼフィラは「再現性東京は何者かが再現した場所だ。だからこそ、様々な伝承が混じり合っている……と言うことだろう?」と問うた。
「ピンポーン、大正解です」
「成程……」
 山の入り口に立てば、立入り禁止と書かれた看板が立てられている。冬佳は「この辺りから立入り禁止、ですか」と小さく呟いた。
「山……海……アリエ伝承と、蛇……。さて、此処に到着する前に真性怪異とは何か、と口にしましたね。ソレについて良いでしょうか」
 其処から進む前にサクラが耳を欹てて確認しラダは周囲を見回している。手持ち無沙汰である水夜子をちらりと見遣ってから冬佳は微笑んだ。
「ええ」
「では、影響を及ぼす地域とその性質を見るに、この混沌世界に元から存在していたとも思い難いものです。
 或いは……夜妖と同様に旅人が再現性東京のような都市を作り出し集まって生活してるが故に発生した存在、と仮定すると」
「ええ、ええ!」
「人々の信仰を母体として発生する超常存在もまた神と呼称され得るのであるからして。
 まるで、旅人という外的要因による混沌世界への概念浸食とでも呼ぶべき現象と言える――決してあり得ない事でもないと思えます」
 冬佳の仮説に水夜子は心を躍らせた。詰る所、混沌世界への概念浸食というのはイレギュラーズにも身に覚えが在る事である。例えば精霊種だ。それは、『パンドラ』が影響を及ぼして生まれた新たな命。旅人達が生み出したと考えればある意味納得できる。滅びのアークから生まれた肉腫達が存在するのと同じような意味ではないか。
「怪異とは、倒せないのが道理。物理的に其れ等へと対処するというのはどういう料簡だ、と言われてしまいます」
「だから、ひよのさんは石神から一度距離を置こうって行ったの?」
 花丸の問い掛けに水夜子は頷いた。石神地区は現在、その『真性怪異』がイレギュラーズを追う側の立場になっていた。隔絶されている異界とも思わしき『場』にそれを閉じ込めておくだけの術を掛けている最中なのだという。
「つまり――『真性怪異と呼ばれた存在は人々が倒せないことを前提に組み立てた存在』であるとして良いでしょうか。
 そして、それは信仰の対象である故に、その信仰心が揺らがない限りは決して『崩れない』と……石神地区が多少物理攻撃を是としたのは信仰の支えである信奉者が人口減少で減ったから」
「ピンポーン。大正解! ええ、ですから『真性怪異』としては此方の方が分が悪い。
 何故ってこの島は血を大事にしています。外を拒絶する隔離された島。つまり、此処の住民は皆、信奉者なのですよ。アリエであるか、それとも、『もっと別』であるかは分かりませんが」
 水夜子は饒舌に語ってから「このお山はどうでしょうねえ~」とにこにこと微笑んだ。ラダは「誰かがいる」と小さく呟き、花丸が僅かに構える。
「こんにちは。迷い込んでしまったのだけれど、帰りは何処かな?」
 悪びれることもなく、調査などしていないと言うようにゼフィラは笑みを零す。葛籠氏が辿ったルートは『イレギュラーズが辿る恐れがある』からか、島民が先回りしていたように感じた。
「あちらですよ。それから、ここから先は踏み入りませんように」
「……ああ、そうするよ」
 蚊取り線香を手にしていたゼフィラに島民は「煙たいなあ」とぶつぶつと呟いた。
 サクラは「有難うございます」とくるりと背を向ける。蛇はゆで卵を好むはずだ。弁当も持ち込んでいる。
(ゆで卵や肉類でも差し上げて、恨みは買わないようにしたいけれど……)
 ゼフィラは回り道をしようとこっそりと提案した。獣道を辿るのは一度止め、ぐるりと様子を見にいけば良い。
「まだら虫まだら虫、我が行く先を妨ぐと、やまたつひめと語ろうぞ」
「山……。ともあれ、山……深い森を擁する山は、この島で一番何かあり得る場所に感じますね。
 山は、『日本においては』古より神が宿る神体とされる最古の神社、神殿、神域であり、古の蛇信仰においては、山とは蛇神が蜷局を巻いた姿だという。
 ……話にあった蛇蠱というものが私の知るものと同じならば、それは蛇憑きのこと。蛇憑き……そういえば、憑き物筋は概念的にとても夜妖憑きに似て……います、ね」
 冬佳はそもそも夜妖も『悪性怪異』と呼ばれるではないか、と小さく呟いた。
「……島民が蛇神を信仰し、蛇神が島民を依代とする事による共生関係……荒唐無稽な話でもない、か?」
「それにしても蛇蠱、蛇蠱……この島に住む人達がそうだって言うのなら蛇の霊を取り憑かせて……みたいなのもあるのかな?
 そう呼ばれてるって事なら相応の意味はあるだろうし。
 漁師さんの言ってた蛇も言葉通りの蛇なのか、蛇蠱って言われる島に住む人達の事なのか……うん、気をつけよう」
 島民が蛇であるならば。花丸は気をつけようと再度そう言った。注意深く観察する冬佳は「ええ、きっと――『蛇』とは普通の動物ではなく」と呟いた。
 回り道をすることになれどaPhoneを駆使すれば地図という情報を得るのは容易かった。問題と言えたのはラダがその操作が覚束ないことであろうか。
「そういえば厄除け神事を行うのは外部の血を受けぬ島民なんだっけ。
 ここの神は余所者嫌いなのかね。周辺を動き回る私達は煩わしかろうな」
 故に、武器商人の言葉が思い返された。――後藤さんに恨まれないように、だ。その通りであろう。
 立入り禁止区域には踏み入らず遠目に覗き見る程度は出来るだろうかと高台から気配を消し眺める。地元民が通るのであろう獣道に風化した鳥居が存在して居る。高台から見遣れば潮が引いたときにのみ入ることが来そうな窪みが存在して居ることに気付いた。
「……あれは、洞穴か?」
 その近くで、Я・E・Dが泳いでいる姿が確認できた。島沿いに泳ぐ彼女は立入り禁止区域に僅かに触れるかどうかの部分を泳いでいるのだろう。島の周辺の地形や動植物、人工的な建造物の位置図の作成に『洞穴』が気になったか。
「有柄……うーーん。有柄類ってあるけど、ウミユリの事なんだよね。放射状の腕部分が蛇に姿が似て無いことも無いんだけど」
 棘皮動物であるウミユリは生きている化石とも称されるものである。其れ等がこの周辺に存在して居るとでも言うのだろうか。
 透視を使用して洞穴を覗くЯ・E・Dは奇妙な違和感に『洞穴の奥にある者を見てはならない』と察知していた。
「小芥子で厄払い……人の代わりだとは思うけど、蛇っていう言い方も考えると、人を食べるというか飲み込む神様のイメージが湧いてくるよね」
 呟き、洞穴の入り口に手を掛けた刹那、ぞわりと体を何かが覆った。
 十分な情報は手に入れた筈だ。ならば、此処からは逃げた方が良い。本能がそう訴えかけているのだ。
(真性怪異……? わからない、けど……)
 そろそろと後方へと下がった。自然に覆われた手つかずであろう場所。そこに人の気配と何か別のモノが存在する気さえしたのだ。
 そうして一度退いたЯ・E・Dを高台から幾人もで見送って顔を見合わせる。蛇。冬かが言ったとおり山は蜷局を巻いた姿だと言われている。
 蛇、と聴けばラダにとっては再生へと繋がるイメージが強かった。この辺りでは水に関連するともいわれているのだろうか。
「……ま、下手に踏んだり追いかけたりはないよう気をつけるよ。無事ただいまするまでが仕事と言われてるし」
 ――此処が蛇の腹の中だと言われればどうしようもないのだけれど。


 回り道を。アルテミアは線で結んだ鳥居が本島から繋がり、蛇のようにぐるぐると蜷局を巻いた山となっていることに気付く。
 まるで有柄は蛇そのものだ。隠れて山道を進んだアルテミアは立入り禁止の看板に気付く。どうやら此処に辿り着くまでによく回りくねった道を歩いてきたらしい。
「あの集落……さっきも見た。と言うことは、あの地点の直ぐ上に当たるのね」
 鳥居を重ねたその道を進めば、住民達が立っていた。「迷子ですか」とそう問われた言葉にアルテミアは背をピンと伸ばして頷いた。
「ええ。辿れば良いのかと思ったのだけれど」
「なら元来た道を振り返らずに戻りなさい。そうすれば戻れますよ」
 そう笑った住民の背後には今まで潜ってきた鳥居とは別の――大鳥居と呼べる者が存在して居た。その奥に祠が存在して居るのだろうか。
『現世と神域を隔てる境界・門』と称されるソレが一等大きいのだ。目星は付けて奥に越したことはない。
「どうかなさいましたか」
「ああ、いいえ。とても大きいなと思って……」
「ええ。三つありますよ、この大鳥居は。ですがどれも潜ってはなりません。外の方ですもの」
 境界線か。アルテミアは神を鎮めているのはこの奥なのだと感じていた。脇に道にそれずに来たが注連縄で行く手を遮っている大鳥居からは奇妙な気配が感じられる。
 アルテミアが島民達と会話をしている最中に、汰磨羈は息を潜めてソレを聴いていた。
 蛇蠱――それは憑き物筋ではなかったか。家系そのものが誰かに憎悪を抱けば相手に蛇の霊が取り憑き殺す。だからこそ、この島の人間には従い、機嫌を損ねることなきようにと皆で徹底していたのだ。
 汰磨羈は由来も同じなのならば、長持から無数の蛇が這い出した可能性もある。武器商人が注意を促したソレは『集落』ではなくてこの奥に存在する可能性もあるか。
「……ああ、蛇の霊の取り憑きは外れていて欲しいがな。……内臓には気を付けろよ?」
 呟いた。神格に類するモノの祠に存在するのが『蛇が這い出る長持』でなければ良いが――さて。
 獣の縄張りになっていない箇所を探し進んだ汰磨羈はaPhoneで連絡を続けていた。
 島・海・有柄。海に住まうウミツボミやウミユリのような触手の腕を持つそれらがもしも真性怪異として存在したならば。
 その腕が蛇の頭一つとして認識され無数に『この島の住民に憑いていた』ならば。
(……島民そのものが真性怪異の目であるなどとは考えたくは無かったが――)
 汰磨羈はアルテミアと話をしていた島民の頭がぐりんと勢いよく此方を見たことに「ああ」と小さく呻いた。

 人気の無い場所を選んで檻は進んでいた。己の姿は再現性東京では物珍しいものだと認識している。薄らぼんやりとした夜闇に紛れた方が都合は良い。昼間は下調べ程度に澄ませておくべきだろう。
「有柄――ありえの島とはいうが名前の響きからするに『ゆうへい』、幽閉の島であってもおかしくはなかろう。
 特に後天的につけられた名前であるのであれば何かが『ゆうへい』されていてもおかしくはない。まあ人がいなさそうなときに立ち入り禁止のところに静かに入って覗き込んでみたりしようか」
 ならば、それも夜か。驚くほどに霊魂が存在して居ない。さて、如何したモノだろうか。否、逆だ。『霊魂が綺麗さっぱりないと言うことは何かがそれらを淘汰』しているのだ。
「小生は、小生の『神』を奉じている。異教のものであれど、異境のものであれど。島は受け入れて呉れるのであろうか。……それとも、『なかま』を増やすのだろうか?」
 ――屹度、音呂木の巫女の反応を見るに恐らくは受入れてはくれないのだろう。
 そう感じながら、進む。
 それは風牙も同じであった。人目を避けてから、山林を割って入ってゆく。島民達の『目』という包囲網は余りに完成されすぎていた。故に、幻影でカモフラージュをし、出来る限り姿勢を低くして進む。
 がさがさ、と音を立てたのは秋奈であったか。普通に廃屋や地蔵を探すにして物足りない。此処は自然が驚くほどに溢れているのだ。
「自然な部分より『忘れられた』ということが重要そうだよね。あと立ち入り禁止に看板があれば猶更。ヘビの抜け殻とかこの場合どっちになるんだろ。相殺されて運+0か!」
 くすくすと小さく笑う。『朱殷の衣』について思い出せば、そうした曰く付きの物品を残しているならば山の天辺であろうか。
 先程アルテミアが足止めをされていたが――さて。汰磨羈からaPhoneで連絡があったのはできるだけ見つからぬように道を進めという伝令であった。頂点には何らか怪しい存在が有り得るかも知れない。近場の高台ならば自由に上がれるようだと一度海側へと出てみればジェイクやカイト、武器商人が立っていた地点がよく見える。
「上からだし、海辺というか海中が全体的に見えないかな? 蛇様がーってことは何かいたりしそうだしー? と言うか道が蛇様っってかー?」
 首を捻った秋奈はハッとしたように逢坂と何度も繰り返した。
「そういえば逢坂の関じゃーってどこじゃーはっ! 私ちゃんがよくわかってないだけか!」
 逢坂(あふさか)は国境の関所であるという。だが、あの地区が逢坂である意味とは何か。しんにょうが蛇を顕わしているとして、その他の意味は――神に『逢う』だろうかと首を捻った。
「神社に行けるかなあ。祀ってそうだし、蛇の何かとかあるのかな?
 それともアリエ様? が祀られてるんだっけー? いいことありますように! 二礼二拍手一礼っ。あってるっけ?」
 そう呟いた秋奈に「逢っていますよ」と女が声を掛けた。だれだと振り返れば巫女服の女である事に気付いた。
「へび巫女? ひよの先輩ちとは別に巫女さんがいるのかな? がっはっはー! 秋奈ちゃんのここ、空いてますよ?」
 微笑んだ秋奈の視界がいきなり暗くなる。その刹那、巫女の女が「空いてないじゃない」と呟く声だけが聞こえていた。

 ――空いてないって? あ、そっか。ひよの先輩の加護貰ってるようなもんだもんな、私ちゃん。


 柄が有る。それが蛇の事なのか、とアーマデルは考えた。さて、『ゆうへい』と読ませればこの島には何かが封じられている可能性もある。
「小芥子はヒトガタ……時に贄の代替え。外部からの血を受けぬ者が祀る……『身内に優しい島』の子……外部の者には祟るのか、礼儀を知らず怒らせる外来者を危惧してるのか」
 どちらかと言えば後者であるかとアーマデルは感じていた。村人達は何かを畏れ、他人行儀だ。そして、山の中腹の聖域へ向かう者を怖れているようにも見えた。知識面の師であるイシュミルは『蛇神』と聞いたアーマデルが余計な事に首を突っ込まぬようにと僅かな畏れを抱いて居るようだった。
 こうした田舎を知っている彼は、危ないことには首を突っ込むなと告げるアーマデルにお前が、とは言わなかった。
「海に出る仕事の人に尋ねてみたが……どうやら島には洞があるようだな。潮の流れで漂流物が集まるような場所だと『特別』な場所になるだろう。
 それは穢れの溜まる忌み地かもしれないし、寄り神(漂着物)を祀る祠かもしれない。
 蛇が丸呑みにする為に大きく開けた口のようでもあり、死者が現世へ再来する為の、母の産道の象徴であったり……」
 蛇が、丸呑みに――そこまで告げてからアーマデルは息を飲んだ。先程仲間達からの『情報』では内地から繋がる道の一本はその洞から繋がり山へと連なってゆくらしい。
(……まさか――?)
 此処が、蛇の腹の中。そんなまさかは想像しないようにして。
 蛇蠱(へびみこ)――蠱は「まじない」等の意味を持つのだと愛無は考えた。蠱(みこ)は『こ』に転ずる。
 つまりは住民は蛇の子孫であり、蛇憑きであり、神(へび)の子であるという暗示である可能性があった。「身内に優しい」という点は禍福の反転。憑物筋には、よく見られる構図ではある。小芥子や有柄という名前も蛇の形状からの見立てだろうか。
 さて、そこまで考えてから此処が漁村で在る事を悩ましく考えた。山は分かる。山を蛇の象徴とすることもある。
 祖霊信仰のように、時期等により姿を変える神なのか。それならば蛇の脱皮という特性とも合致する部分があるかもしれない。
 ――川を辿る。川の形状を地図で見れば頂点へと繋がっていることが分かった。念のために己を隠して進めば村人達は警戒が強く情報を多く得ることは出来なかった。
(川か川の跡か。音と臭いで周囲の警戒とあわせて探索。川があるなら尚いい。無くてもいい。単に見当違いなだけだ。だが「今はない」場合、どう見るか。神の死なのか。それに対し村人はどう考えるか)
 川。
 メイは愛無に「こちらにありますよ」とそう言った。真性怪異の存在は周囲に確認できては居ない気もするが、今まで『よく分からぬ女』が出た等そうした情報を元にすれば島の中央に位置する山が怪しそうである。
「山、というか、丘というか、むむ、なんだか可笑しなふいん……ふんい……ふいんき? 雰囲気! ではあるですね」
「ああ。この山に幾つもの鳥居が点在して居るのも気になる。そして、どうやら――あの注連縄の奥は『海側』に繋がっているようだな」
 愛無が指さした先には注連縄と何かの洞が存在して居た。それが海側から確認できる洞穴に繋がっているならば。
「進むかい?」
「進まない方が良い気がするのです。けど、むむ?」
 メイは僅かな違和感を感じていた。何となくだが、それが『入り口』には見えなかったのだ。
 どちらかと言えば、出口――もはや帯散るべきではない場所の渦中に存在して居るかのようである。この山を中心にぐるりと存在する鳥居――そして、外から繋がった鳥居の道を辿るように、存在する幾つもの。

「危ないことをしなければ、ごく普通に人が生活出来る場所なんじゃないかなと思うよ。
 なんというか穏やかというか長閑というか……こういう光景は結構好きだな」
 そうドゥーが告げたのは『鳥居の外側』であった。山に向かわなければ穏やかな空気が存在して居る。島の人々が外の存在を厭うのは特に山に近付いたときだと確認は出来ていた。仲間達との連絡の取り合いで、鳥居を一つ潜っただけで何者かの腹の中にいると言う閉塞感を感じるというのはドゥーの言葉の通りだ。
『危ないことをしなければ』ごく普通に人々が過ごしている。田舎の街。必要物資は外から輸送し、自身らで生活し続ける。
 護島以外は入ってはいけないと呼ばれた空間も存在して居る。立入り禁止というのがそれを隔てているのだろう。島民達は決して踏み入れぬようにと口を酸っぱくして言う。
 海を歩いているだけでも視線が追いかけてくるのはそうした理由なのであろうか。ドゥーは何となく居心地の悪さを感じていた。
 山の調査に赴いていた水夜子が一度集落に戻ってきたのは少し時間が経ってからであった。シューヴェルトが霊魂を探すという言葉に彼女はノッた! と心弾ませもう一度山に赴くことに決めたのだろう。
「危険区域には入ってはならないって言われてるよ」
「そうですね。うんうん、已む無しです。ですが、シューヴェルトさんの仰るように対話できる存在が余りに少ないのは気になります」
 逆に気になるのだとシューヴェルトが考えたそれに同意を示したのはロトであった。
 メインは山。中腹辺りまでは一緒に進んで其処から別行動を取ることとした。
「考察を聞いて貰っても? 土地神へ混ざっている伝承に八坂刀売神が混ざっている事自体は想像に難くないね。
 蛇神、水の神、狩猟の神、風鎮めの神、または軍神と伝えられる存在だけど合致点が多い。夫の建御名方神は『石神』に混じっている神と同一視される事もある守谷神と争う話もあるらしい。と、言っても本場のトウキョーって所は海神や蛇神は多い。
 ……混ざってると推測出来ても……無礼を働かないってくらいが精々出来る対策かな」
「その論で言えば、ご夫婦で仲違いでもしているのでしょうか。まあ、良く在ることなきもしますが」
 水夜子に「良く在るって」とロトは小さく笑った。山を進むシューヴェルトは「霊魂が居ない」と幾度も繰り返す。ロトも奇妙な違和感を感じていた。
 逆なのだ。石神の時に感じた危険と真逆。此処は、安全だとさえ思わせる。
「……何だろうね。まるで、腹の中だ」
「腹の中」
「霊魂を感じないのと同じだ。奇妙な安心感を感じるんだ。鳥居を潜る度にその気持ちは大きくなる」
 呟くロトにシューヴェルトも確かにその気持ちを感じているのだと呟いた。


 何かに誘われている気がするとそう感じながらグリムは集まる情報から立入り禁止の場所を確認し続けていた。
 島の夜は早かった。日が沈めば島民達は直ぐにその活動を止めた。檻やグリムは先に調べておいた『立入り禁止区域』へと向かうことと決めていた。
 夜に小さく笛を吹く。ソレに反応して蛇が出る可能性はナイだろうかと感じながら。気をつけろという警告は出来る。何が起きても一人だけで済むと檻とは別のルートで山を目指した。
「潮風鳴らす精霊様、静寂に眠りし死霊様。どうか我が声お聞きください。
 古きモノ、強きモノ、畏れられるモノ。この島に住まう最も恐きモノ。神と呼ばれる偉大なるモノ。
 どうか我が前にお誘いください。どうか我が眼にお映しください。欠片だけでもどうか我が耳にお聞かせください」
 言葉を重ねるグリムは霊魂達が答えないことに気付いていた。蛇、蛇と言えるモノが出るかは分からない。
 立入り禁止の区域を目指した至東は上空から口笛をぴゅうと吹いた。
「蛇に『気をつけろ』……。
『逃げろ』だとか『絶対に遭うな』だとかでは無いところが、きっとこのあやかしの限界に候。
 気をつければ、よい。なので蛇を見たら海上へ一目散! ダメそうなら……仕方ない、一刀仕らん!」
 そう決意していた至東はグリムの姿と――そして彼の前に立った女を認識する。着物の女だ。
(女……?)
 ソレは村人ではないだろうか。黒い髪の女だ。グリムは「貴方は神ですか」と問うが答えはない。
 上空に存在した至東は気付いた。その女の下半身が『人間』ではない事に。蛇だ。何処かに繋がっている。上から見ればよく分かる。
 夜に山に入り込んだ誰もの前に、その女が立っていたのだ。
 ――まるで、村人が日中目を光らせていたかのように。
「……もし」
 その声から、行けないと感じて至東は一目散に逃げ出した。

 檻と言えば日中にЯ・E・Dが危険を感じた場所に繋がっていたのだろうか。潮が満ちれば沈んでしまう洞穴の入り口。
 其処に、何かが存在して居る気がして檻は小さな声音で囁いた。
「――汝の名前はいかほどか。小生の『神』になりうるか?」
 返答はない。
「……なんてな。小生の神は、小生のものになるものにしかなれぬ。怪異など小生に手懐けられるものではなかろうて」
 呪うならば呪えば良い。そう微笑めば、檻の前に姿を現したのは予想に反した存在であった。

「もし」

 人語だ。着物をその身に纏った女が其処には立っている。濡れそぼった黒髪はだらりと垂らされ、黒々とした瞳が檻を見詰めている。
「もし」
 答えてはならない。そう感じた。好奇心をも越えるような何か。
 その背後で、風牙は「わ」と小さく言った。女の下半身は蛇であり、何処かに繋がっている。遠く山まで繋がっているだろうか。
「もし」
 何度も繰り返されるそれから逃れるように「すみません、ちょーっとお邪魔させていただきます……」と拝んでからそっと手にしていた『厄除け』を置いた。小芥子を設置してから後方へと下がる。
 小芥子をまじまじと眺めて居た女は首を傾いでから「ああ、なんだ」と呟いて後方へと下がった。

 
 気付けば朝が来ていた。
 村人が「浜辺に倒れていた」と連れてきたのは秋奈、風牙、グリム、檻である。逃げ果せた至東は強烈な吐き気を感じ水夜子に介抱されているらしい。
「まさか夜に出歩いてアリエ様に会ったんじゃあるまいね」
「アリエ様……?」
 問うたシルキィに「この御島には素晴らしい方が住んでいらっしゃるんだ。ああ、こんな事ならもっと『目』を増やせば良かった!」
 呻いた島民達はイレギュラーズを見遣って溜息を吐いた。彼等は頭を抱え、どうして逢ってしまったんだと口々に言う。
 メイはその様子に怯え竦んだように一体何が起こったのだと島民達をまじまじと見ていた。少女の不安を他所に島民達は言葉を紡ぎ続けている。
「……長らく私達で良かったのにねえ」
「これだから外はダメなんだ。沖の御島の人間以外を招き入れるからこうなるんだ」
「外でこの情報を話した奴が悪い。ああ、ああ、もう起きちまったのか」
 島民達が視線を送れば潮が引いたわけではないのに、鳥居の道であろう部分だけが干上がり、船を必要と為ず内地へと向かう道が繋がっている。
 まるで、外人間を招くような――そんな景色だ。
 気付けばその身を包むのは生暖かい気配だ。まるで、誰かの腹の内のような温かさと心地よさ。蛇に丸呑みにされたかのような気味の悪さ。
「……ええと、メイたちは……」
 どうすれば――そう問う前に島民は「はよう帰りなさい」と迎えの船を指さしてから小さな声音で呟いた。
 ヴェルグリーズはふと、水夜子にただいまを告げる。それが、帰りの合図であるように、彼女は「帰りましょう」と歩き出す。
 その背中に、小さな小さな――誰の物かも分からない声がかけられた。

「――呪われるねえ、あんたら」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この島にはなにがあるのでしょうね。
 お疲れ様でした。石神とは違った雰囲気を感じて頂けますと嬉しいです。

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