シナリオ詳細
曙の空は血色に塗れ
オープニング
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昼間は嫌い。だって、皆がいるから。
夜中は好き。だって、皆がいないから。
曙は大嫌い。だって――『私』が、殺されたから。
『気味が悪い』
『おかーさん、あの子の目、』
『見ちゃダメよ』
聞きたくなくても聞こえてしまう。周りでざわざわとざわつく群衆は、揃って『私』のことを話していた。
忌み子。悪魔。魔女。貧弱な語彙からひねり出したありきたりな罵詈雑言。私に降りかかってくる言葉はそればかり。
生まれつき、左右で目の色は違っていて。その右目はまるで御伽噺に出てくる吸血鬼のような赤い色をしていて。
産婆は悲鳴をあげ、両親も怯えた。同年代の子達からは孤立して石を投げられて、街に出れば大人たちがヒソヒソと噂する。
嗚呼、惨めだわ。私なにもしていないのに。生まれてきただけなのに。
不意に風を切る音がして、額に何かが勢いよくぶつかってくる。それなりに重い音をしてぶつかったそれが落ちて、遅れてつぅと額から零れた何かが地面に赤くシミを作った。視線を巡らせれば、今しがた石を投げてきたらしい少年たちが顔を引きつらせて逃げて行く。
(怖いなら、投げなきゃいいのに)
ねえ、私。キミたちに、なにかした?
――そんな私が『魔女狩り』にあったのは、とある日の夜明けが近づいた深夜のことだった。
●
「『曙の悪魔』ってご存じですか?」
「あけぼののあくま?」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉をそのまま復唱した炎堂 焔(p3n004737)は目を瞬かせた。なんだか、凄くヤバそうな名前である。
「幻想のとある町を騒がせている犯人なのです。ちょうどその悪魔から守って欲しい! っていう依頼があって。焔さん、どうですか?」
ユリーカが依頼書を見せてくる。場所は幻想南方。海へ続く崖へ面した町であるらしい。この町で時たま現れる『曙の悪魔』は、その名前の通り曙の時間帯に殺人を起こすのだとか。
「明けの時間に人が死ぬのは、曙の悪魔に魅入られてしまったから――なんて。その町では言われているそうですよ?」
ターゲットは明けの時間、外を歩いている者。老若男女の規則性は今のところ見つかっておらず、必ずしも殺されるわけではない。しかしその不規則性から皆怯え、最近ではしっかり門扉を閉ざして日が完全に出るまで外出しない日々らしい。
「でも、守ってほしい……護衛依頼なんだよね? どうしても外出しなきゃいけない理由があるのかな」
「みたいですね。町を出て行くご友人一家の見送りだそうですよ」
友人一家もこの時間に出なければならず、依頼人自身も『どうしても』出て行く時間に見送りたかったのだと言う。
「理由はともあれ、依頼されたなら遂行するのがイレギュラーズの皆さんのお仕事なのです。町から見る曙は燃えるように真っ赤で綺麗と聞きますし、それを見に行きがてらと思って!」
どうですか、どうですかとぐいぐい来るユリーカ。それに苦笑を浮かべ、焔は再び羊皮紙へ視線を落とした。
『曙の悪魔』。その正体は一体――?
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満点の夜空。夜は好き。皆がいないから。
もうすぐ来る曙。夜明けは嫌い。『私』が殺されたから。
闇夜に紛れて『ソレ』は町を見下ろす。嗚呼、夜なのに人がいる。のうのうと、楽しそうに、平凡で、平和な日常をおくる人間。
それは時に酔っぱらっていたり、疲れていたり、忍んでいたりするけれど。殺されるだなんて微塵も思っていない。平和が約束されてるって顔をして毎日を生きている。
忌々しい?
妬ましい?
羨ましい?
ぜんぶ、という言葉は吐息に紛れて消える。『私』が手に入れられなかったものだから。『あたし』も手に入れられないものだから。
ままならない。大きな力を得てもそう思ってしまう。結局世界なんて『手に入れられる人』と『手に入れられない人』で二分化する。
「あたしだって欲しいのにな」
欲しいものが手に入らないこんな世界、要らない。必要ない。全部全部壊し尽くしてあげる。欠片も残さず塵にして、そうしたらバルナバス様だって喜んでくれる。喜んでくれるならそれだけでこの行為には意味がある。
いいえ? 本当は、行き場なく淀み膨らむ怒りを叩きつけたいだけなの。だって、
「あたしに送れない日々なんて――見せないでよ」
こんなの、許せないでしょう?
- 曙の空は血色に塗れLv:23以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年03月17日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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空もまだ明けぬ、けれど月はすっかり傾きかけたAM――さて、何時だろうか? 丑三つ時と呼ばれる頃合いはとうに過ぎていそうだが。
そんな空の下でも、街は全くの無人まではいかない。酒場から出た酔っ払いは今日の事も忘れてへたり込んでいるし、盗人の類はこの時間こそ活発に動くべき時である。しかしいずれでもない9人、いや8人の塊が歩いているのは、傍から見れば誰であったとしても好奇の視線を向けた事だろう。
――進んで外を見ようと、出ようとする思考の持ち主がいたのなら。
「……ただの噂なら、鼻で笑い飛ばしてやるんだけどね」
『鳶指』シラス(p3p004421)はしっかりと閉ざされた扉や窓を一瞥して呟く。外に出ているのはまともな思考を失っているか、どうしてもこの時間帯に出なければならないかの二択だろう。そう思わざるを得ないほどにどこの家もきっちり戸締りし、物音ひとつだって立てやしない。
「二つ名がつくくらいだ。たくさん被害者が出たんだろうね」
「昨日もだ」
『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の言葉に返した青年は、一昨日もと続ける。必ず毎日ではないけれど、それくらいの頻度で明け方に人が殺される。その怯え方からしても『常日頃の護衛依頼』とは毛色が違う事をイレギュラーズたちは感じ取っていた。
(出来るなら討伐したい気持ちはあるけど、さて……どうなるかな)
ヴェルグリーズはそっと視線を巡らせる。相手に『探している』と気取られてはいけない。老若男女問わないのであれば、狙う相手はこの青年でなくても良い筈。ならば可能な限り油断していると思わせなければ。或いは濃い色の服を纏うなどして、存在自体を気取らせないように。
依頼人を囲いつつも、その意図を気取らせないように。そうして護衛しながら『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はくん、と鼻を利かせる。
(血の匂いはなし、か)
毎日のように殺めているのならば、例え洗おうと着替えようとその残滓は残るはずだ。『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が1人、空中で警戒してくれているがこちらも注意するに越した事はない。
『曙の悪魔』などという仰々しい二つ名を持つ者ではあるが、事実、それだけの脅威であるのだろう。幾度となく襲撃と殺害を繰り返していると言うのにその実力すら知り得ない存在。相対しなくともまごう事なき強者である。
「にしたって、快楽殺人となるとタチ悪いな」
『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)はやれやれ、と肩を竦める。暗殺者であるならば定石、常套手段であろうがその類ではないだろう。町人全員を抹殺するような依頼を請け負ったならもっと大掛かりに、こんなに時間をかけないはずだ。
「……ああ。まあ、止めるさ。心配しなくてもな」
不意に背中側から視線を感じ、ミーナは肩越しに振り返る。そして不安そうな表情をする青年へ小さく頷いた。そこへ「そうそう!」と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が同意する。
「護衛をつけてまで行きたいだなんて、よっぽど大事な人なんだね?」
焔の言葉に青年は照れた様子であるが、聞けばその想いは秘めたまま、伝えず見送るつもりであるらしい。彼らの上空を神の使いたる鳥が飛んでいくが、見えるのはただ暗闇ばかり。空が空けてくるまでには今、暫し。
飛び回る鳥へ視線を向けつつ、アルヴァは夜の空中散歩を楽しむフリをする。仲間たちより少し高い視点からは、薄らと向こうの空が明るんでいく予兆が見えていた。
(明けの時間に人が死ぬのは、曙の悪魔に魅入られてしまったから、か)
もうすぐその時間だ。ぼちぼち仕掛けてきてもおかしくはない。出てこないことを願うばかりだが、そうもいかないような予感があった。夜目の利く者であればこの大所帯は酷く目立つだろう。無差別殺人を狙うならもってこいのはずだ。
当然、空中散歩をしているアルヴァだって例外ではない。
「……時々、すごく早く目が覚める時があって」
『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は地上からでも少し明るんできたことがわかる空を見上げる。少しずつ、少しずつ、紺色が薄くなっていく。
こんな早朝は二度寝も良いけれど、窓を開けて空気を胸いっぱいに吸い込むのだって好き
「誰もいなくて、独り占めしているような……特別な気分になれるんだよ」
(……それが、曙の悪魔さんは寂しかったのかなぁ)
そんなことを呟けば、これまで亡くなってしまった者に失礼かもしれない。それでもそう思ってしまうことは止められない。
「そろそろ、でしょうか」
不安を濃くする青年にフランは笑いかける。ここで大切なのは信じてもらうこと。絶対に守るのだと言う思いが伝わったなら、きっとパニックにもならないはず。
「ええ、お仕事ですもの。きっちり守らせていただきますわー」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)も彼からつかず離れずの場所を維持しながらにっこり笑いかける。自分たちとてもうじきと思っている。なればこそ、その緊張感で彼を怯えさせてはならない。
その配慮は護衛開始時からあり、家族や日常の話題を振られていた青年は比較的、体力精神ともに安定していた。
「――来たぞ!!」
不意に、アルヴァがそう叫んだのと同時。
エクスマリアが臭いを嗅ぎつけると同時。
空を飛んでいたアルヴァが、地面へ落下した。
「アルヴァさん!」
フランが叫ぶ。落下する直前、風の精霊たちが向かっていくのは見えたけれど、落下を緩和できたのかもアルヴァがどうなっているのかも土煙で分からない。
「落ち着いて下さいませねー」
ユゥリアリアがすかさず青年の前へ立つ。シラスはアルヴァが飛んでいたはずの空を見上げ、魔力弾を撃とうとしたが――。
「いない……!? そっちか!」
白み始めた空には何の影もなく。晴れてきた土煙の中へ視線を向けた。
「……あれ?」
その中から聞こえてきたのは少女の声。そして、
「ったく、バレルが曲がったらどうすんだオイ」
苦々しいアルヴァの声。発声地点から敵の場所を突き止めたシラスの魔力弾が飛ぶ。軽やかに跳躍した『ソレ』はやや後方に着地し、イレギュラーズたちを見て目を細めた。
「一撃で殺せないなんて……キミたち、何者?」
「何者だって関係ねぇ。『曙の悪魔』だな?」
ミーナが魔哭剣を向けて肉薄する。今、大切なのはソレを――禍々しい力を持つ少女を依頼人に近づけない事だ。
「少しばかり相手してやるよ!」
「あははっ! 相手されるのはどっちだろうね?」
攻撃を大鎌で受け止める少女。ヴェルグリーズは依頼人と敵の射線を塞ぐように立ちながらその武器へ目を留める。
「あの大鎌、よく斬れそうだね。範囲も広そうだ」
「あれが町の人を殺す時に使ってた凶器かもしれないね」
焔は神炎を辺りに散らし、周囲を煌々と照らす。敵が見つかった以上、敢えて光源を使わぬ理由はない。
「大丈夫! ボクたちが絶対に守るから!」
「慌てず、こちらの指示に従ってくだされば大丈夫ですよー」
焔と共に青年を励まし、ユゥリアリアは視線を曙の悪魔へ向ける。少女のナリこそしているものの、身に纏うオーラは常人のそれではない。気を引き締めて、守りぬかなければ。
ユゥリアリアのキャロルが響き、戦旗が翻る。そこへミーナから距離を取り、ぐんと詰めてきた曙の悪魔が突っ込んできた。
「っ!」
青年の短い悲鳴。武器と武器がぶつかり合う硬質な音。ヴェルグリーズは束の間の鍔迫り合いをした曙の悪魔の横っ面に黒顎魔王を叩き込み、後退した彼女へ険しい視線を向けた。
(空中も移動手段として使え、高い機動力を持っている……味方同士で固まって一網打尽にされても困るが)
距離を開けるということはそれだけフォローの手も入れにくいと言うこと。丁度良い塩梅、という見極めには難儀しそうだ。
とはいえ、今のカウンターには多少彼女も警戒心を抱いたらしい。鋭くヴェルグリーズを睨みつけてくる。
「キミたち、面倒ね」
「面倒で結構だ。それで? 尻尾巻いて逃げるのか?」
アルヴァはこれ見よがしに嘲り、彼女の敵意を煽り立てる。もう一押し? ならば押してやろう。執拗な煽りに少女が屈した時、フランは大気中のマナを体内に巡らせ練り上げる。その祝福はアルヴァへと。
アルヴァにそれとなく誘導される少女を観察していたエクスマリアはぱちり、と蒼の瞳を瞬かせる。
(やはり、強敵、だ)
機動力も、反応も、その手数も。フィジカルの高さも予想されれば、なおさら確実にダメージを通していかなければこちらが落とされる。
エクスマリアの髪が静かにうねる。視線は曙の悪魔へ、その隙を見逃さんと見据え――迅雷が轟いた。ばちん、と大きく弾かれるような音と共に少女が吹っ飛んでいくが、空中で2度、3度と回転して止まると一直線に戻ってくる。
「ちっ」
大ぶりながらも鋭い攻撃をかわし、ミーナは舌打ちする。肌で感じられるほどの強さ。よりその詳細を知るために集中――。
「――ってぇな」
斬撃が彼女を襲う。熱と痛みに歯を食いしばり、ミーナは自らを強烈に回復させた。攻撃の止んだ隙にシラスが少女へ肉薄し、刃の如く蹴りを放つ。あちらも手数には自身があるようだが、シラスとて負けてはいない。度重なる魔の爪が少女の肌へ無数の赤い筋を作り出した。
「あーヤダヤダ! 女の子に傷をつけるなんてサイッテー!」
「人を殺す奴はサイテーじゃないのか?」
相手の動きを阻害し、たびたび煽るアルヴァ。その影から前に出てきた焔が闘気を火焔に変えて叩きつける。
相手の明確なステータスが分からなくとも、イレギュラーズたちは十分に食いついている。それを後方から支え続けるフランは曙の悪魔へ口を開いた。
「ねぇ、あなたの名前はなぁに?」
「あたし? あたしはねぇ、アリス。曙の悪魔なんて誰がつけたのか知らないけど、年頃の女の子に随分な言いようじゃない?」
名前を問われた少女――アリスは、意外にも嬉しそうに笑って。そして二つ名は自らの所業によるものでも気に入らないらしく、ふんと鼻を鳴らした。
「いい名前だね! 髪も瞳も綺麗だよね、お友達になりたかったなぁ。あ、甘い物好き? 美味しいケーキ屋さん知って――」
立て板に水の如く語り掛けたフランは、その途中で思いもよらぬ姿に思わず言葉が詰まる。
そりゃあ、話で気を引けば皆が攻撃しやすくなるかもとは思ったのだけれど。
「き、きれ……ともだちっ!? ああああ甘い物なんて食べたことないデスケド!?」
大変、わかりやすく、照れていた。
そこへイレギュラーズからの攻撃をぶち込まれ、アリスは我に返る。そして――瞳を怒りに濁らせた。
「……不覚だったわ。こんな『作戦』にまんまとハマるなんて」
二度目はない。そう思わせる声音でアリスはより一層殺意を膨らませる。仲間へ花の囀りで活力を分け与えたフランはアリスを見て目を細めた。
(……ほんとに、同い年くらいだから。お友達になれたらよかったのに)
同じことを言っても、彼女は罠だと言ってその大鎌を振るうだろう。そこに込められた想いは届かないかもしれない。
「大丈夫、見送りたいのでしょう」
「は、はい……っ」
ユゥリアリアに常に庇われながら青年が答える。これならばエクスマリアの魔眼に頼るまではないだろう。ユゥリアリアはそう判断しつつ、すかさず氷雪で造られたマスケットから弾丸を放つ。
「ただの愉快犯かと思っていたが、そういう訳でも無さそうだな」
アリスと相対していたアルヴァはずっと感じていた違和感に眉を顰める。
目の前の少女はこの戦いに楽しむでもなく、喜ぶでもなく――フランが気を引いたあの時以外はずっと恨めしそうな表情を浮かべている。戦いや血を好んでいるという訳ではなさそうだ。
「何が目的だ? 他人の幸せを壊してまですることなのか? それでお前は幸せになれるのか?」
矢継ぎ早に問いかけたアルヴァは横合いから降ってくる影にはっと身をよじる。躱しきれてはいない。けれど直撃もしていない。
「幸せ?」
空中からアルヴァを建物の壁へ叩きつけたアリスは、笑って、嗤って。
「なれないから、壊すだけ」
さらにアルヴァへ畳みかけんとするアリスをミーナが食い止める。
「幸せなんて憎たらしいもの! だから、壊すの!!」
そこに込められた憎悪が、怒りが、イレギュラーズたちへとぶつけられる。周囲にいた一同はほんの一瞬、身体に過大な負荷を感じた。
「……っ」
エクスマリアは眉を寄せ、その動き辛い一瞬を打ち破って大天使の祝福を興す。まずは傷の深いアルヴァへ。戦線維持できなければアリスはいともたやすく誰かの命を刈り取って逃げおおせるだろう。フランも皆へ回復を施し、その一瞬に戦場が崩壊してしまわぬよう立て直しを図る。
(あの時を、思い出す)
とはいっても、昔の事はぼんやりとしてしまっているのだけれど。故郷の村を襲ってきた人から友人を守ろうとして、容易く捕まって。死んでしまうのだろうかと思っていた時に故郷の皆が助けてくれたのだ。
1人では勝てない時がある。今だってまさにそうだろう。それでも助けてくれる人がいるならば。私が助けになれるならば!
焔はリーガルブレイドで自ら態勢を立て直そうとし、ヴェルグリーズはアリスへと肉薄すると何もかもを叩ききらんと武器を振りかぶる。
「生憎、キミの怒りを受け止める気は毛頭ないよ」
彼は日常を愛している。彼は依頼人の日常を守りたいと思っている。故に、それを邪魔する彼女の怒りも事情も分かつべくヴェルグリーズはここにいる。流れるようにシラスの連撃がアリスを翻弄し、特にその翼を傷付けんと四肢の刃を向ける。
「日常なんてくだらない……そんなもの、なくなっちゃえばいいんだ!」
「――勝手な言い分だ、な」
シラスへ打って出んとしたアリスへ、エクスマリアの呟きが忍び込む。視界の端に見えたのは彼女が全力を込めた攻撃。さらに焔はそこへ踏み込んでいく。
(街の人たちが怯えなくてもいい、普通の日々を取り戻してあげたい!)
このままならどうにか、明けの時間を乗り切れるかもしれない。けれど明日は? 明後日は? 先の保証なんてどこにもない。
「こちらはわたくしが守ります。皆様、存分に――」
ユゥリアリアが天使の歌で仲間たちを鼓舞し、イレギュラーズはアリスへ攻撃を叩き込んでいく。だが、不意にアリスは高く飛び上がった。
「え……」
「おしまい」
そう呟くアリスの頬を『明けの光が照らした』。
「待て……っ!」
くるりと背を向け、勢いよくどこかへ飛び去ろうとする彼女へミーナがピューピルシールを飛ばす。されども彼女は止まらない。止まる必要がない。だって逃げるだけだから。
「綺麗な、朝焼け……」
ぽつりとフランが零す。シラスははっと青年を振り返った。
「見送る場所は!?」
半ば放心していた青年ははっとしてこの先だと告げる。シラスは仲間を急き立てながらそちらへ急いだ。
見送りに行くというのだからその一家も家を出ているのだろう。そして他の物は曙の悪魔を恐れて家に籠っている。アリスが逃げて行く途中に無力な、抵抗もろくにできなさそうな人々と鉢合わせたなら?
イレギュラーズは疲れた体に鞭打って見送る先まで走る。青年はその先を見てあっと声を上げた。正反対に一同の歩調は緩んでいき、青年が一同を追い越して。
「無事みたいだ、な」
「良かった……!」
朝日に照らされながら言葉を交わす男女を見て、ほっと息をつく焔。そしてすっかり上った太陽の方へ顔を向ける。
――曙の時間は、おしまい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
『曙の悪魔』アリスは逃亡。その行方は知れません。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●Danger!!
このシナリオは『原罪の呼び声』が発生する可能性が有り得ます。
純種のキャラクターは予めご了承の上、参加するようにお願い致します。
●成功条件
依頼人の防衛
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態を警戒してください。
●曙の悪魔
『明けの時間に人が死ぬのは、曙の悪魔に魅入られてしまったから』
そんな噂が流れる連続殺人犯。その姿は定かでありませんが、老若男女を問わない事、そして必ず明けの時間に殺すことが判明しています。言い方を返せば、明けを過ぎるまで凌げば撤退するでしょう。
などと言っているとラチがあかないのでメタに。下記関係者です。
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1282924#bbs-1282924
『曙の悪魔』アリス。元スカイウェザーの魔種です。詳しい戦い方は全くの不明ですが、姿からある程度推測してください。
後手に回り、非常に不利な戦いを強いられるでしょう。皆様がどのように『護る』のか、負けぬ想いと共にプレイングへぶつけてください。
●依頼人
20代前半くらいの青年です。どうしても友人一家の引っ越しをちゃんと見送りたいと、危険覚悟で明けの時間に外出します。ちなみに友人は同い年の女性で『片思い』らしいです。
皆さんは彼を護衛しながら町を行く中、空中からの不意打ち攻撃を仕掛けられることになります。
基本的に皆さんの言うことを聞きますが、守られていない状態ではパニックになる可能性があります。戦闘能力はありません。また戦闘を間近で見るような経験もありません。
●フィールド
町中です。町の外門に通ずる最短ルートを移動しており、広さと見晴らし自体は良好です。
地平線から薄らと日が昇り始めた様が見えるでしょう。視界は段々明るくなっていきます。
●ご挨拶
愁と申します。
彼が無事に見送りへ行けるよう、死守してください。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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