シナリオ詳細
瞳には映れども
オープニング
●過去、或いは未来か想像
天義の片隅に、誰も知らないうちに家が一軒建っていた。
――“映写機アリマス”
そういう看板が掲げられている。
映写機ってなんだろう。タダで入って不正義にならないだろうか。
ぽつねんと現れた家を不思議そうに見る人々の中には、勇気を出して家の中に入っていった者もいる。
彼らは一様に暗い顔、涙を流しながら家を出てきた。
危険なものがいたの? ――違う。
怖い目にあったの? ――違う。
――私は(俺は)、しあわせを見たよ。
●
「明けましておめでとう」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は淡々と述べた。顔にべったりと墨で落書きされている。去年もこの男、落書きされていたような……
「旅人から教わったフクワライというものをしたんだが、僕の方が芸術点が下だったので落書きされた。これはこれで芸術だよね」
さておき――墨塗れのグレモリー曰く、天義の外れに突然一軒家が出現したのだという。誰も見向きもしない郊外に、前触れの一切なく突然。
そして調べに入った村人が、情緒を乱された状態で出てくるという始末。
「という訳で、ローレットの調査員が複数人で入ったら……映写機が出てきたんだよね」
映写機。かたかたと動く写真をスクリーンに映し出すアレだ。練達辺りにいったら当たり前に出てくるかもしれないけれど、再現性東京にはないだろう、絶妙な懐かしさを持つものだ。
「その時も映像が流れていてね。聞くに、調査員の一人の家族が映っていたらしい。其の調査員は既に家族をなくしていて、映写機に記録した覚えなんてなかったらしいんだけど。興味深いよね、興味深い。なのでもうちょっとサンプルが欲しい。君たち、興味湧かないかな」
つまり生贄代わりに行って来いって事ね。
「うん。心配なら僕が一緒に入るよ。……それにしても、どうして天義だったんだろうね」
正義と不正義に悩める国だから、神様が悪戯したのかな。
グレモリーは小さく呟いて、……冗談だ、と肩を竦めた。
- 瞳には映れども完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年02月02日 22時05分
- 参加人数24/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 24 人
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参加者一覧(24人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
カタ、ジー……カタカタカタカタ……
ぴょこ、と映像を覗き込んだのは、ウェールによく似た毛色に目の色をした子狼だった。
子狼は成長してゆく。中学校の入学式、丈の合わぬ制服を着て緊張した佇まいから、卒業式に友人たちと涙ながらにVサインをするまで。体育祭では健脚で一等賞を取り、褒めてくれとばかりに尻尾を振っている。
映像は手振れが酷い。誰か――ウェールが撮っているのだろうか。突然映像が切れたかと思えば、次には季節が変わっている。人には見せられない映像だが、幸せが詰まっていた。
――梨尾。
ウェールは唇を噛みちぎりそうなほど噛んで、嗚咽を殺した。あれは梨尾だ、俺には判る。絶対に帰るんだ。帰って、見られなかった分幸せにしてやるんだ。
熱い雫が目から零れてやまなかった。映写機が止まっても、ずっと。
同じ顔をした二人の少女が、お揃いのドレスを着て花畑で踊っている。頭には花冠。二人はじゃれあうように走り出し、森の中へ入っていった。
秋の風情を見せる森の中は天然の絨毯だ。二人で倒れ込み、おかしげにくすくすと笑う。やがて二人は眠気にあくびを一つ。抗わず、夢の世界へ落ちていく。
映像が切り替わり、二人一緒の誕生日を祝う。ふう、と蝋燭を吹けば、画面は真っ暗に。
……エルメリア。私の妹。
アルテミスは其の姿を、視線を縫い留められたかのようにじっと見ていた。懐かしく、愛おしい。けれど二度とは戻らない幸せだったあの日々。
ぱ、と再び映像が灯った。シロツメクサの花畑に、少女が立っている。
『xxxxx』
少女は呟いて、優しく微笑むと――風に溶けるように透けていく。
「――エルメリア!」
椅子から立ち上がったアルテミスを、今度こそ静寂が包んだ。
……たった五文字の、愛しい言葉。ペンダントを握りしめ、アルテミスは涙を流して微笑んだ。
「新年早々派手にやられたな」
「まあね。でも、芸術点をつけたのは僕だから」
「お前かよ! ……にしても、妙な縁で天義に来る事になったもんだな」
ベルナルドは笑いながら扉をくぐる。グレモリーもまた。
「此処は恐ろしい場所だよ。……だが、俺の故郷でもある」
そんな国に、幸せを見せてくれる映写機が現れた意味とはなんだろう。
椅子に座り、ベルナルドはスクリーンをぼんやりと見つめていた。――ふと、風のようなものを感じるまでは。
白いスクリーンに、色が重ねられていく。赤。白を重ねれば桃。青を重ねて紫。
視点が変わる。身体が絵具塗れになる事も構わず、一心不乱に筆を執るベルナルド自身の姿が其処にあった。天義にはあり得ない爽やかな風が心を攫って行く心地がする。
そうだ。俺が筆を執ったのは、描けることが楽しかったから。描きたいものばかりだったから。いつから忘れていたんだろう。地位や義務に囚われて絵を描いてしまっていたのは、いつからだったのだろう。
「……どうだった?」
映像が終わり、グレモリーが問う。
「……絵を描きたい」
「何でもいい。静物でも風景でも、何でもいい。今、すごく絵を描きたいんだ」
両手をぐっと握って、ベルナルドは情熱燃える瞳でもって答えた。
ちょこん、と椅子に座ったのはメイメイです。
どんな映像が出てくるのだろう。あれかな、これかな、と思案していると、背後の機械が動き出してスクリーンが明るくなりました。
――村が一つ、映し出されます。メイメイはあれを知っています。あれはだって、メイメイの故郷。山奥の小さな村、大切なおうち。
小さなメイメイが、屋内でちょこちょこ歩いていました。誰かが、がんばれ、と優しく声を掛けます。メイメイは其れを追いかけるように小さな両手を伸ばします。
メイメイが泣いていました。泣かないで、と誰かが頭を撫で、ゆっくり抱きしめてくれます。
其れはメイメイばかりでした。誰かが見ている、メイメイの姿。
とうさま、かあさま、じじさま、ばばさま。それから、にいさまとねえさま。
皆が見守ってきたメイメイ。そう判った瞬間胸が苦しくなって、目が熱くなりました。
確かに私は、あの中にいたのですね。
ぼんやりとする映像に、いかないでと手を伸ばしても。僅かな嗚咽を聞き取って、周囲が暗くなってしまっても。
メイメイの心は苦しくて、幸せでたまりませんでした。
どんなに幸せを差し出そうとも、人の記憶だか心だかを読み取る装置なんてどうせロクでもない。ハロルドは壊すことも提案したが、其れは最後にしよう、とグレモリーは頑なだった。
ならば見てやろうじゃないか。俺にとっての幸せとはなんだ?
映写機の前にどっかりと座って、ハロルドは思案する。強くなる事だろうか。強者と戦うことだろうか。其れとも魔種と戦い、討ち果たす事だろうか。
――いや。
それらに「喜び」を感じた事はあっても、「幸せ」を感じた事はない。
……待っても何も映し出さない映写機に、ハロルドは溜息を吐いた。そうだろうな。リーゼロットはもういない。かつて胸に描いていた幸せは二度と叶わない。
俺は“ハロルド”だと。そう名乗ると決めた時から、幸せなどいらないと誓ったのだ。
いつか戦場で朽ちるまで、修羅の道を歩むのみ。
写真が動いてる。ニゼルはその奇妙な現象をどきどきしながら見ていた。
あれは……自分の村の学校だろうか。子どもたちが庭で遊んだり、先生に本を読んでもらったり、文字を教えて貰ったりしている。
友達がみんなでカエルを追いかけている。それは懐かしくも苦しい光景。何も知らない無垢な自分たち。
村を出たはずの二人はどうなったのか。そもそもあの村は、あの学校はなんだったのか?
“実験動物”
そう呼ばれている事にも気付かないまま、新しく覚えた文字に喜ぶ自分をニゼルは半ば呆然と見ていた。
僕は。どうすればいいの? 何もしなくていいの?
――何が、出来るの。
幸せ? ええ! 特異運命座標になる事でしょう?
己の繁栄が映し出される事を確信しながら心は椅子に座す。カタカタ、映し出した映写機がスクリーンに映し出したのは――朝、元の世界で目を覚ます心の姿だった。
覚えているわ。これは神殿に召喚される日の朝。此処から――え?
心は目を瞠る。だってスクリーンの中の心は、何のトラブルに見舞われる事もなく登校し、友達と挨拶していたからだ。
まさか、凡種として生きる事が私の幸せだとでもいうの!?
椅子を蹴り倒しそうになったその時、心は気付いた。スクリーンの中の心が向ける笑顔は卑屈な愛想笑いじゃなくて、心からの笑みだという事に。
心は気付いてしまった。虚栄じゃない本物の自信。あの心は其れを持っている。今はもう手の届かない、今の心にも本当に必要なもの。
泣くことも出来ず、鼻で笑う事も出来ない。何でもない心の、何でもない幸せな一日が終わるまで、特異運命座標の心は動けずにいた。
大切なもの。其れは家族。今のように四つ子全員がばらばらな色をしてなくて、父か母に似ていた。
豊穣では双子は“魂を分かつ”といわれた。四つ子なら尚更だ。故に母はトウカのみを本当の子とし、三人の子を養子として扱った。
――でも、スクリーンの中の四つ子は、幸せそうに眠っている。成長して、四人で悪戯したり遊んだりして。俺たちは家族だと胸を張って言える、そんな日常。
この“もしも”が本当なら……
「二十年も眠らなかったんだろうな」
かたん。映写機が止まる。
トウカは今の映像を焼き付けるように――或いは忘れようとするかのように目を閉じて、開いた。兄たちと違う俺だから、今がある。特異運命座標として、見知らぬ誰かを助けられるのだ。
――ホームシックなのかね。
ぎいと椅子をきしませて、溜息を一つ。迷いは何処にもいけず、溜息と共に空中で散った。
ユリウスが見たのは、ごく普通の光景だった。
母が腹を痛めて生まれ、父に恐々と抱えられたあの時。両親に愛されながら育ち、母からは知恵を、父からは武を教わった。
映像の中の両親は穏やかな笑みを浮かべていた。きっと幸せなのだろう。だからこそ――
「違う」
ぽつり、と零したユリウスの声に、映写機が止まる。
「嘘だらけだ」
何もかも。二人が穏やかに笑うには、致命的な要素が入っている。――母の命を奪って生まれた私という人間が、いていいはずがないのだ。
「……」
気分ははっきりいって最悪だった。でも……虚構とはいえ、二人の笑顔が初めて見られたのは悪くない。父は、母は、あのように笑う人だったのだな。
「ふむ、これが」
幸せを映し出し、新たな記憶を生み出すという映写機であるか。
バクは興味深そうに映写機を見ている。――確か声に出すと映像が途切れるのだったか? ならば其処も含め、様々な事に留意せねばならぬな。
ようやく椅子に座ったバク。映写機がスクリーンに光を当てる。
孤児らと戯れるバクの姿が其処にあった。今はもう立派に大人となった子ども達もいる。ぱ、と視点が変わり、緊張した面持ちの青年と女性が立って、何事かを言っていた。ああ、これはきっと結婚の報告であろう。
子がしっかりと成長し、良き大人となって社会へ羽ばたいていく。其れは途方もない苦労の上に成り立つ幸せ。
ぷつり、と映像が切れた。バクは椅子に座り直し、成る程、と呟いた。
「これは確かに、幸せな一幕」
『見てママ!』
そう言いたげに、誇らしげに赤いカーネーションを持った男の子がいた。昼顔はこの顔を知っている。
『今日はお母さんの日なんだって! だから、いっぱいお小遣い貯めて買ったの!』
『……あれ? ママ、何で泣いてるの? ぎゅってして、どうしたの?』
ごめんなさい、ごめんなさい。
『……? 僕、言われるならありがとうの方が……』
不思議そうにそう零す僕は知らなかったんだ。僕は父親の代わりとして見られていたんだって。でもあの赤いカーネーションが、母さんを変えてくれたんだ。
でも、今なら判る。母さんは愛した分愛されたかっただけ。僕は無意識に“それ”をしたんだと。
母さんはきっと今も待っている。僕が帰って来るのを待っている筈なんだ。
「……母さんのために、早く帰らなきゃね」
あたしの幸せは当然決まってる。恋が叶って、先輩の傍にいられる事だ。
椅子に座ったウルズはそう信じて疑わなかった。けれど、違う。映し出されたのは過去の風景だ。
子どものころ、ウルズはその組織に拾われた。オヤジとアニキ、色んな人に色んな事を教わった。良い事もあったし悪い事もあった。
『お前は脚が早いな』
アニキに褒められて、頭を撫でられる。其れが堪らなく嬉しかった。そんな幸せがずっと続くと思っていたんだ。
でも。
「……でもなぁ」
ぷつり、途切れた映像。
ハッピーエンドで終わらないなら、この先は要らない。
ネリウムは静かに座して、映像を待つ。
カタカタ、と背後から音がして、スクリーンに光が灯る。映っているのは幼い子と夫婦の姿。――ああ。あれは僕の双子の片割れだ。そしてこれはきっと、僕の視点だろう。暖炉を囲んで、母さんは編み物をしていて、父さんは本を読んでいる。
僕らはブロックで遊んでいて、それはとても平凡な風景。
僕としては片割れがいればそれでいいと思うんだけど、これはきっとあいつの願望も反映しているんだろうなぁ。あいつは父さんと母さんも大好きだったし、あいつの幸せは僕の幸せでもあったから。
ぱちぱち、弾ける暖炉の薪。
「うん、悪くないね」
ネリウムは自ら、其の幸せから手を引いた。ぷつりと映像が消え、明かりが落ちる。
御伽話を見ているようで、悪くなかったよ。
わたしの描く幸せ? 其れは勿論、運命のお相手と出会いごーるいんすること。其れは其れははっぴーな生活を送っている事でしょう!何も怖い事などありません、流すとしたら間違いなく嬉し涙!
と、椅子に座した澄恋。カタカタと映写機が映し出したのは、彼女の結婚式――ではなく。
小さな少女が箸を片手にご飯を食べていた。意外な映像に、澄恋は目を丸くする。
見れば両親と共に――この頃は確か、離婚で大変だった筈だけれど――仲良さげに食事を共にしている。張り詰めた空気などなく、和気藹々と。
「(――お父様、お母様)」
あのような顔も出来たのか。本当に心許した者の前でしか出来ない、穏やかな表情だった。あんな優しい微笑み、一緒にいた時は一度も……
「……ああ」
嘆息に、スクリーンが翳る。
確かにこれは、幸せなまぼろし。優しく残酷なまろい棘。
リゲルとポテトは椅子を並べて座り、どちらからともなく手を繋いだ。
映写機が動き出して、ゆっくりと映像が流れだす。
――ぱっと映ったのは、美味しそうなお弁当の写真。ゆっくりと視点が上へ移り、楽しくお弁当を作るポテトと娘が映し出される。リゲルと三人で、何処かへ行く算段をしているようだ。
そこで映像が切り替わる。リゲルの父母、そして女神様――みんなが楽しそうに笑いあい、お喋りをして、そうして上兄様の美味しいご飯をみんなで食べる。
――また、映像が切り替わる。知らない国にリゲルとポテト、そして娘が一緒にいた。異国情緒のある店を覗いては、あれこれと品々を見て。珍しい食べ物に、娘とポテトが一緒に目を輝かせたり。
俺はこれを実現できる。そう、リゲルは思う。世界を家族と共に渡り歩く、其れは“夢のような幸せ”ではないはずだ。手にできるはずなのだ。
……けれど。願わくば、父にも傍にいてほしかった。自分と妻の未来を祝福して欲しかった。
「……リゲル」
ぱたり、と映像がやんだ。
「一緒に、幸せになろうな」
妻が言う。
なれるさ。俺たちは、既に幸せに指が触れているはずなんだ。
「――ああ。幸せになろう」
ヴァレーリヤとマリアは、訝し気な表情ながら椅子に座る。
映写機が動き出し、映し出したものは――
「(……嗚呼)」
食べきれないほど豊かに実った果実。重たげに頭を垂れる稲穂。まさに季節は秋、そして収穫祭が、畑の奥の広場で繰り広げられている。
ギア・バジリカの事変で命を落とした者たちも笑い、酒を飲み、身分の高低なく喋り合っていた。
「(……ヴァリューシャ)」
マリアは見入るヴァレーリヤを心配げに見つめていた。あの事変が起こった当時、自分はこの世界にはいなかったけれど――出来るなら、彼女の力になりたかった。
映像はゆっくりと歩むように進み、広場を抜けた先の家に入る。あたたかな木造の扉を開くと、暖炉が火をたてていた。
『 !』
「……! あ、」
声なく小さな少年が駆け寄ってきたところで、ヴァレーリヤは思わず立ち上がり、声を上げてしまう。ふつり、と無情に映像が落ちる。
「……ヴァリューシャ」
心配げに声をかけるマリアに、ヴァレーリヤは振り返った。ぽろりと一粒涙が零れ落ちる。
「ええ。――確かに此処には、『しあわせ』がありましたわ」
マリアはその涙にどんな顔をしたらいいか判らなかった。ただ、次こそは。次こそは守って見せるのだと、強い意志を宿して。
手を繋いでいて。
それがアーリアからの、たった一つのお願いだった。きっと泣いてしまうから、きっと声をあげてしまうから、そうならないように手を繋いでいてと。
そうして動き出す映写機が映し出したのは、一つの家族の風景だった。アーリアと妹。母と父。海を見せてくれた父ではなく、医者として人の命を繋いでいた実の父だ。
姉妹はどちらが抱っこしてもらうかと喧嘩をしている。――アーリアの手が震えているような気がして、ミディーセラは彼女の手を強く握った。彼のものとは少し違う、だけど確かな家族の幸せ。懐かしそうに、嬉しそうに、けれど泣いてしまいそうな顔で見ている彼女を、今は見ていることしか出来ないのがもどかしい。
ぎゅっ、と手を握り返された。泣かないで、アーリアさん。わたしはきっと、貴女を泣かせまいと声をあげてしまうから。そうさせないでくださいな。
――映像が終わる。
「……終わりましたよ、アーリアさん」
「うん」
「アーリアさんには貰ってばかり。今日も貰ってしまいましたわ」
「うん……」
「それにしても、子どもの頃のアーリアさんも可愛らしい」
「……」
「今も昔も独り占めしてしまいたいくらい」
「……ありがとう」
「あら」
「私の全部を、知ってて欲しかったの。あれがね、私の家族なのよ」
そう言った彼女は、泣きそうな嬉しそうなすべてがないまぜになった、とても美しい顔をしていた。
藪蛇先生の注射は痛い。べそをかくリコリスに「この近くに面白いものがあるとか」と華魂が提案したのがこの映写機だった。
飛び入りだね、と案内人の男がいうのを聞きながら、二人は家の中に入る。
二つ並んだ椅子に座ると、カタカタと映写機が回りだした。
美しい女性がいた。リコリスは覚えがなかったので、華魂を見上げ、でもすぐにスクリーンに視線を戻した。華魂の妻であった。桜の木の下、儚げに佇んでいる。忘れもしない貌。自分の顔に皮膚を重ね、妻の顔をしてみても、あの笑顔は彼女だけのものだ。
ぱ、と映像が切り替わる。立てかけられた猟銃に、何かの毛皮。素朴な山小屋の中の様子が映し出されている。一人の青年が刃物の手入れをしているが、顔はぼやけて良く判らない。映像は続き、四季折々の彼の人生を映し出した。
――そしてふと気が付いたように、青年がこちらへ手を差し伸べる。差し伸べて、ぷつり。映像が止まった。
リコリスが泣いていた。何を思って泣いたのだろうか。何を思い出したのだろうか。華魂の“検診”は続く。
●Next…
綾姫が出てきた扉を、アオイがくぐる。
もしかしたら、懐かしい恩人が見られるかもしれない。帽子を脱いで、大事に抱いて、椅子に座った。
カタカタ……動き出す映写機。会えるかな。会えるといいな。――先輩!
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
懐かしい、或いはあり得ない幻は、優しいですが残酷でもあります。
どうかその棘が、貴方の心に刺さりますように。
個人的に「心ォーーーーーッ!」となったのでMVPは貴方に送ります。
それはずるいよ……
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。遅ればせながら明けましておめでとうございます。
新年一発目のOPはイベントシナリオです。
貴方には、大切な情景はありますか?
●目的
大切なものを前にせよ
●立地
天義の外れにある突如出現した一軒家です。
“映写機アリマス”と看板が書かれているだけで、生活感はありません。
入ると言葉通り映写機が置いてあり、向かい側にはスクリーン。
それと椅子がいくつか並んでいます。
●出来ること
今回は1つしかありません。
・“幻影”を見る
映写機の前に座り、映像が流れるのを見ることが出来ます。
其れは貴方の過去かもしれませんし、未来かもしれません。
あるいはそのどちらでもないかもしれません。
共通するのは“貴方が思い描くしあわせ”である事です。
ただ、声を出してしまうと映写機は止まります。
どういう仕組みなのかはわかりません。
●NPC
グレモリーが扉の外にいます。
一人で心細い方は一緒に見て貰うのも手かもしれません。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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