PandoraPartyProject

シナリオ詳細

年越しローレット

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ローレットゆくとしくるとし
 年も更けて参りました。
 この一年、皆様はどのように過ごされましたでしょうか。
 年越し用のお餅をつきながら、カルネ (p3n000010)はふと考えるのです。
 ローレットは、あまりにも多くの試練に挑んできた、と。
 一月。鉄帝のスラム街モリブデンから端を発した騒動は鉄帝軍による暗躍へとつながり、その闇と戦いました。
 二月。海洋王国の大号令から始まった『絶望の青』へのチャレンジは熾烈を極め、一方では妖精郷の妖精達がローレットへ助けを求め始めました。
 三月。モリブデンの騒動は巨大な歯車大聖堂(ギアバジリカ)の出現とその破壊という大騒動へと発展し、魔種へと堕ちたアナスタシアとの死闘の末鉄帝の平和は護られました。
 四月。絶望の青での戦いは激化し、ようやくたどり着いた妖精郷では錬金術師との戦いで女王を取り合う大戦争へと発展しました。
 五月。アルバニアとの最終決戦が幕を開け、いくつもの犠牲を払いながら戦いに勝利しました。
 六月。突如姿を現した竜リヴァイアサンの猛威が絶望そのものとなって海を隔て、しかし多くの犠牲と願いによってそれを退けることができ、海は『静寂の青』へと名を変えました。
 七月。ついに到着した豊穣郷カムイグラでの様々な出会いが大きな可能性と未来をひらきました。
 八月。カムイグラの裏に潜む肉腫事件。そして冬に閉ざされた妖精郷を取り返すための大決戦。見事妖精郷に春を取り戻し、奇しくも勇者王の伝説をなぞることになりました。
 九月。独立都市アドラステイアの発見と介入。練達再現性東京2010希望ヶ浜エリアへの特待生入り。各地に広がる様々な問題に深く鋭く介入し、ローレットの名は広まり続けます。
 十月。カムイグラを覆う呪いを払い、最終決戦へと突入しました。その一方でラサではファルベライズ遺跡群への侵入方が発見され本格的な攻略が始まりました。
 十一月。カムイグラの巫女姫を倒し神をも退けたことでカムイグラに新時代をもたらしました。
 十二月。ファルベライズ遺跡群を巡る大鴉盗賊団との戦いを終え、クリスタルの遺跡への扉を開きました。
 東奔西走。あまりにも多くの戦いが、ローレット・イレギュラーズにふりかかったのです。
 そしてそのたびに、世界を救う力であるパンドラは収集され、おおきな戦いであればあるほど、それは増大していきました。現に冠位魔種アルバニアを打ち倒すための力にもなりました。
 あまりに、あまりに多くの苦難。
 そして同時に、多くの日常。
 ですが、忘れてはいけません。
 イレギュラーズがパンドラを収集するのは、なにも激しい戦いの中ばかりではないことを。
 例えば平和に年を越すその日常の中でも、パンドラはたまってゆくことを。

 ゆえに今はひとまず武器をおろし。
 日常に触れ、語ろうではありませんか。
 年越しの、あなたを。

GMコメント

このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13

構成:一章構成予定
総描写人数:未定

■グループタグ
 誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
 このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【もふもふチーム】3名

================================

 このシナリオではあなたの年越しの様子を描きます
 あなたはどんな場所で、どんな人と、どんなふうに過ごしますか?
 特別にご馳走をつくって集まる人もいるでしょう。
 いつも通りの日常をあえて送るひともいるでしょう。
 ひとりで、けれどちょっぴり特別な夜にする人もいるかもしれません。
 あなたのペースで、あなたの年越しを覗いてみましょう。

  • 年越しローレット完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年12月31日 21時00分
  • 章数1章
  • 総採用数23人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

 おこたに膝をつっこんで、『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)はテーブルに顎をぺたーんとくっつけていた。
「フラン~、あったかシチューのできあがりよぉ」
 めしあがれ~といって耐熱皿を鍋つかみでもってぱたぱたとやってくる母ミュスカ。
「おかーさん寿のぼこかま入れてくれた?」
「はいはい」
 テーブルに置かれたシチューには『寿!』て描かれたかまぼこ状の物体が中央に浮かんでいる。
 スープパスタとシチューの中間くらいのスープに、おさかな型のパスタが浮かんでいる。年越しはこれを食べなきゃねってのがフランのスタイルだ。
 パスタはむはむしながらフランはこの一年を振り返ってみた。
「今年はあたしもいっぱい冒険して……頼れるヒーラーになれたかな? 絶壁のフランなんて呼ばれちゃって……絶壁……ぜ……ふふ……」
 ほろりと落ちた涙を指でうけとめると、フランの友の幻影たちがなんか斜め上のほうから声をかけてきた。
 たいやきにタコガールパイセンのバイクにコヨーテにとらにいわし。最後のあたりは『いわしくうなよ?』って言ってきたので逆にブルッた。その隣で『ふらんや……』て優しく声かけてきた長老がビビッて消えた。
 そして出てくる森イワシのパイ。
「あっやばいこれ」

成否

成功


第1章 第2節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

「あれぇ? 水筒水筒……どこだろ。おっかしいなあ、確かに持って帰ってきた筈なんだけど」
 カムイグラでのちょっとしたお仕事を終え、宿に戻っていた『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)。
 折角来たんだし初詣はカムイグラの神社に行こうと決めていた。
 あんだけ神様がフレンドリーにしている都なら御利益もリアルにあるのでは、と思ったり思わなかったりである。
 けれど……。
「うええ、そんなに怒らないでよオフィーリアぁ。いっぱいお仕事の依頼を貰ったんだもの、このところ忙しくて……!」
 ベッドにちょこんと座ったぬいぐるみのオフィーリアへ振り返ると、イーハトーヴは弱ったように眉を下げた。
「うっ、わ、わかったってば! 帰ったらちゃんと片付けるし、来年は、針仕事をする時もお部屋を散らかさないから!
 うう、水筒どこだろ……あれに、あったかいチャイを入れていくって決めて……」
 あちこちをごそごそ探していると、ハッとしてオフィーリアへと振り返る。
「へ? 取り込んだままの洗濯物の中? わああ、あった! あったよ! ありがとう、オフィーリア!」
 急いで支度しなきゃ! 湧かしたお湯を持ってきてチャイを作り始めるイーハトーヴ。
「え? 慌ただしい年明けね、って? ご、ごめん……。
 でも、今年も君と新しい年を迎えられて、嬉しいよ」
 ね、オフィーリア。
 振り返ると、オフィーリアがちょっとだけ笑ったような気がした。

成否

成功


第1章 第3節

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

 深緑の深くに、『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)の領地はある。
 かつて悪の錬金術師の騒動によって傷ついた森の中央。そびえ立つマナの木にそっと手をかざし、フリーフは目を細めた。
 時折こうして木のそばにやってきては、いろいろなことを考えるのだ。
 昔のこと。
 自分のこと。
 そして自分のモデルとなった女性のこと。
 愛するために作られた。
 それゆえに棄てられた。
 愛と裏切りの記憶だけを抱えて目覚めた、悲しき人形。
 はじめは世界がわからないなりに生きてきた。
 様々な出会い。様々な戦場。そして敵。
 その中で、グリーフは確かに多くの感情に触れ、そして目覚めた時には戻れないほど変化してしまった。
(今”私”はこの深緑の地で生きています。
 私に明確な寿命はありません。
 この核が光を失うその日まで。
 この木と、あのお墓たちを守っていくのでしょう。
 皆の記憶の中で彼らが薄れていっても、私の記憶の中にとどめておけるように)
 きっと、生きるというのはそういうことなのだろう。
 出会いと、別れと、変化と……。

成否

成功


第1章 第4節

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

 墓標。
 これが一体誰の墓標であったのか、誰が作ったのか。ノイズに閉ざされた『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)には明瞭に思い出すことはできない。
 つい最近になって蘇った記憶には、やさしく笑う少女と『Dr.こころ』というニックネームがあるが……。
 墓標の前に立ち、目をぱちぱちと点滅させる。
 ながく留守にしてしまったけれど、墓標は綺麗に手入れされていた。
 この場所を知る人間は決して多くない。いや、少なすぎると言って良いだろう。
 自分以外にここを手入れしてくれる人物があるとすれば……。
「アリガトウ Dr.フィジック……」
 フリークライ肩からはえてぱぁっと開いた花を指でつむと、墓標の前へと置いた。

 ン。主 久シブリ
 常ニ 主 思ッテルカラ 久シブリ 変カ?
 思エバ フリック 主 死後 ズット墓守シテタカラ
 コウシテ オ墓参リ 初メテ
 ナンダカ 新鮮
 主 新鮮 好キダッタ
 好奇心 イッパイダッタ
 フリック 今 新シイ 沢山
 土産話 聞イテ欲シイ

 そうして、墓守は語り始めた。
 沢山の出会いと、沢山の仲間。
 別れと、出会い。

 主。主
 フリックニ 心 クレタ
 ダカラ 寂シイ 楽シイ 感ジラレル。
 主
 心ヲ アリガトウ

成否

成功


第1章 第5節

鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号

 ホストクラブ・シャーマナイト。
 それは再現性東京に居を構えるクラブ。
 眠らぬ街。弾けぬ泡の街。夢から覚めぬ亡者たちの街。そんななかにあって、シャーマナイトは数少ない『本物』の夢を見せる店だった。
 そんな場所で大晦日に開かれるのはもちろん――

「年越しハッピーカウントダウンイベントォ!」
「「ハッピー!」」
 普段はしっとりめな店だが、今日は特別。
 なぜなら、特別な日をこの場所で過ごしたいというお客様のために、今という時間が開かれているのだから。
 いつぞやの怪我をすっかり治して復帰した一条も、シャンパンをあけてテーブルをひとつひとつ回っている。
 その様子に、『ホストクラブ・シャーマナイト店長』鵜来巣 冥夜(p3p008218)は満足そうに微笑んだ。
(正直、この時期は常連さんの殆どが里帰りで収益自体はあまり見込めません。それでも、独り寂しく年越しを過ごそうとしている方の心を癒す事が出来るなら、夜の蝶は舞うべきなのです……)
 はじめは借金の取り立てついでに押しつけられた店。
 劣悪な環境。劣悪な人材。積み上がったノルマ。頭を悩ませたことは一度や二度ではない。
 だが真剣に向き合ってきたからこそ、この笑顔と輝きがあるのだ。
(私自身も、この店に救われた者の一人。兄への復讐のために生きてきた人生に、新たに生きる理由を与えてくれた。楽しむ事を教えてくれた)

「店長! GOLD入りました!」
「よし……!」
 キラリと眼鏡を輝かせ、冥夜は指を高らかに鳴らした。
「スペシャルシャンパンコーーーーーーーール!」

(今年、この店に出会えた事が私の一番の幸福です!)

成否

成功


第1章 第6節

古木・文(p3p001262)
文具屋
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

 『文具屋』古木・文(p3p001262)は静かに雲のよぎる夜の王都をひとり、ゆっくりと歩いていた。
 年中開いていた文具店は年の瀬だからと閉めて、今夜はローレットへと顔を出そうというのだ。
(今年は色々とありましたが……いえ今年も色々とありましたが、知人や顔馴染みの元気な姿を見ると安心しますからね)
 イレギュラーズとして召喚されて、そしてローレットの一員となってから彼の人生は大きく変わった。
 そんな彼が決して孤独でなかったのは、ローレットの仲間達がいるからに他ならない。
「よう、眼鏡のにいちゃん。アンタも飲みに来たのか? 依頼ならねえぞ」
 暖炉の前でギターを弾いていた『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が、演奏をとめてかたわらのビールに手をつけた。
 どうやら酒場をいくつもはしごしてきたらしく顔は真っ赤でどこかふらついてすらいる。
 しかしビールジョッキを空っぽにしてからひくギターは、どこか落ち着くカントリーミュージックだった。
 これが、ローレットのいいところだ。
 気づけば知らない顔が増えていて、そのくせ『ローレット』というつながり一つで仲間になれる。
 面識の浅い、ともすれば無い相手だが……。
「はい。僕にとって一年を無事に過ごしたというのは大層めでたい出来事ですから、今日ばかりは酒量が増えていてもお目溢し願いたく」
「かしこまったこと言うな。ほらこっちこい。乾杯!」
 強引に手招きされ、ビール瓶からジョッキになみなみと注がれ突き出される。
 文は苦笑しながらそれを受け取ると、ヤツェクをカチンとジョッキをうちあわせた。
「この世界のいい所は酒やつまみがマトモな所だ。
 変な合成酒や合成肉が出て来る可能性が低い。……いや、謎の肉とかあるっちゃあるんだが。店主、そちらのレディに薔薇色の葡萄酒を! 眼鏡のにーちゃんには熱い火酒を! おれにはご機嫌な麦酒を! 揚げたつまみも山ほどに!」
 さあ歌おう! 陽気なカントリーミュージックを奏で始め、故郷の歌をうたいはじめる。
 そう、これが、ローレットのいいところだ。
 世界を越えて友達ができる。
 文はビールにくちをつけ、くすくすと笑った。

成否

成功


第1章 第7節

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

 鉄帝スチールグラードの冷たい夜。
 白い息をきらせながら石畳の坂道を走る『マリ屋の大将(虎)』マリア・レイシス(p3p006685)。
「ヴァリューシャ! そんなに急いでどうしたんだい!?」
 長い上り坂のさきで、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は笑って手を振っていた。
「マリィマリィ、急いでくださいまし! もうすぐ始まってしまいますわよ!」
「始まるってなにがさ!」
「それは――」
 パンッという弾ける音。空に炎が昇っていく音。
 どこか聞き慣れたその音は、夜空に大きな花火を作ることで結実した。
 まばゆい花火を背に、両出を大きく広げ笑うヴァレーリヤがいた。
「急がせてしまってごめんなさい。でも、ここが一番綺麗に見えるからっ」
「んーん! いいんだよ!」
 笑ってかけより、二人で二発目の花火を見上げる。

 坂の上から眺める花火は、不思議と街によく溶け込んだ。
「どう、素敵でしょう? これを貴女に見せたかったんですの!」
「とっても素敵! 本当にありがとう」
 並んだふたり。
 マリアの手が僅かに動いて、とまどって、もういちどだけ動いて……ヴァレーリヤの暖かい指先にそっと触れた。
 あら? とそれに気づいたヴァレーリヤが手をぎゅっと繋ぎ、マリアのほうへと向き直る。
「新年おめでとう、マリィ。今年もどうぞよろしくね?」
「ふふっ! 新年明けましておめでとう! 今年もよろしくね!」
「貴女の道行きに、主の御加護が――」
 お祈りの言葉を言おうとしたヴァレーリヤの、その横顔を。
 カラフルな光が数瞬だけ照らし出した。
 ずっとこの時間が続けばいい。
 花火がずっとのぼったまま。
 私たちを照らしてくれればいい。
 そんな気持ちが、マリアの手に力をこめさせた。

「――っ」
 気づけば、マリアはヴァレーリヤを抱きしめていた。
「……マリィ?」
「ごめん。ごめんね。けど」
 もうすこしだけこのままで。
 消えいるような声で言うマリアに、ヴァレーリヤは目を閉じた。
「いいえ、気にしないで下さいまし。私も貴女と、もう少しこうしていたいから」
 黒い鋼の手が、マリアの背を優しく叩いた。

 君の未来が、幸福で満ちていますように

成否

成功


第1章 第8節

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

 揺れる船のそのうえで、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は夜風をうけていた。
「お、見えた!」
 遠い船影。赤い光の点滅パターンは、カイトの父にして伝説の男『赫嵐』のファクルが自らを示す信号である。
 毎年この日になると、父が『遠洋漁業』から帰ってくる。夜遅く。ときにはカウントダウンが始まる頃にもなるが、父は約束を破らない男だった。
 カイトは点滅装置のついたランタンを掲げて、『おかえりなさい』の信号をおくった。

 海洋王国に伝説を残した『風読禽』のカイトも、『赫嵐』のファクルも、おうちにかえればただのとり。
 二人してコタツに足をつっこんでぬくぬくのどてら姿で暖かい蕎麦をちゅるちゅるやるのだ。
「親父、みかんとって」
「自分でとれ。ほら」
 そういいながらみかんをパスしてるファクル。
 それをキャッチして、カイトはのんびりと目を閉じた。

成否

成功


第1章 第9節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

 ゴリョウ亭。
 それはカムイグラにたてられた料亭である。
 和食を中心に様々な国、そしてゴリョウの暮らした世界の料理がならぶ、ある意味カムイグラらしい店だ。
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)はそんな店の厨房でいくつもの料理を平行して作っていた。
 普段店番を担当している板前の男トンソクが『なにを作ってるんです?』と問いかけてくると、ゴリョウは洗った重箱をゆびさした。
「『おせち』だ。年末は年越し蕎麦とかそういうもんを食うだろうが、年始は急におせちだからな。俺たち料理人は先んじて仕込むのが仕事ってわけよ」
「うへえ、厨房に入るとすぐに料理人になるんだからなあゴリョウの旦那は」
「ぶはははっ! これも楽しいもんだぜ?」
 忙しそうにしながらも、いずれ鳴る除夜の鐘をまってゴリョウは笑った。
「折角カムイグラの騒動も一区切りしたんだ。年始くれぇはゆっくりしてほしいもんだねぇ」

成否

成功


第1章 第10節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

 深い深い森の奥。白い鹿さんが大きなおうちへと入っていった。
 持ち上がらないほどおおきなトランクには沢山のステッカー。鹿さんが――『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)が旅してきた沢山の国々の思い出が貼り付けられているのだ。
 その後ろに続いていくのは仲良くなった妖精達である。
 金色砂のクララ、白鍵盤のネージュ、胴の長い犬たち。
 扉を閉じると外の風は鳴き声をひそめ、暖炉のぱちぱちという暖かい音が部屋をつつんだ。
 おかえりなさいと出迎える魔女エルマー。
 ポシェティケトはこぼれそうなほど幸せな笑顔で、ただいまをした。

 ――エルマーあのワタシね、今年はたくさんの場所へ行ったのよ。
 ――新しいお友達もできたし、境界の世界もたくさん救ったわ。
 ――それになにより、こういう鹿でいたいって、わかったの。
 ――たくさん頑張ったのよ、だからたくさん褒めてちょうだいな。

成否

成功


第1章 第11節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

 ラサはザントマン事件以来の大騒ぎで誰もが疲れ果てていた――かに思われたが、それはラサの民を知らぬと言わざるを得ない。
「今年もまた宴会か」
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はもたされたコップにブドウジュースをなみなみと注がれ、やれやれといった様子でくちをつける。
 ジグリの家は親戚一同が集まって年の暮れから年始にかけて夜通し宴会を開くのがきまりだ。
 それ自体はいつものことだったが……。
「おいラダ。あんた今回は大活躍だったそうじゃあないか。フェルネストの深層にたどり着いたんだって?」
 彼らの殆どは商売人。大きな事件には大きな金が動くことを知っている。
 その渦中にあるラダに興味が湧くのもまた必然であった。
「絶望の青を抜けたときはどうだった。リヴァイアサンを見たんだろう? 鱗とか残ってないかね」
 そんな話も振られる程だ。
 思えばラダは砂漠をてくてく荷物をのせて運んでいた頃よりずっと多くの土地へわたり、多くの事件に触れてきた。
 時には国同士の戦争に関わったことすらある。
 ちらりと見ると、父が青い顔をしていた。
 武勇伝を語る趣味もないし、この辺にしておこう。
(いまもラサは大騒ぎだけど、ここでの生活に悪い影響がない事を祈ろう。
 一喜一憂は商売だけで十分だ)

成否

成功


第1章 第12節

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

「今年ももう終わりで御座るか……早いもので御座るな、御主人。
 こんな年末まで仕事とは熱心で御座るな?」
 高天京郊外にもった領地……からだーいぶ離れた街のそば屋台。
 かけそばを脇に熱燗をちびちびやりつつ、『血道は決意とありて』咲々宮 幻介(p3p001387)は店主とのんびりとした雑談を交わしていた。
 今夜はこうして更けていくだろうと思われた、その時。
「先輩! 奇遇っすね!」
 ものすごい勢いでダッシュアンドブレーキした『恋に駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が、黙って席を立とうとした幻介の肩をガシィって掴んで無理矢理座らせた。
「げぇ、ウルズ!?」
「げぇってなんすか、こんな可愛い乙女に捕まっておいてなにが不満なんすか!」
 ンッンと咳払いをして、幻介はウルズをチラ見した。
「ど、どうして此所に……」
「え、まあ、たまたま?」
 両手でがっしりと肩を掴まれ椅子から立てない幻介。
 彼の周りにはいろんな女がいるが、その大半は幻介に物理的マウントをとれる女達である。姉からしてそうだったので、きっとそういう星の下に生まれたのだろう。
 諦めたようにため息をついて、熱燗へと手を伸ばす。
「ほら、座るといい。今宵は特別に拙者が奢ってやるで御座る」
「奢りだやったー!!」
 そして隣に座るウルズ。
「そういや先輩、なんで蕎麦なんです? 他にも色々ありそうなもんなのに」
「何だ、知らぬのか? 年越し蕎麦と言って、来年も細く長く健康長寿に生きれる様にという願掛けに御座る」
「へぇ………細く長くっすか、あたしの太く短く楽しくとは反対っすね。
 そうっすね……あたしも先輩とはこの先も長く仲良くしていきたいっす。
 だからその願掛け、あたしも乗っかる事にしてみるっす」
 ウルズもマネして蕎麦と熱燗を注文すると、幻介はお猪口を小さくかざした。
「気休めかもしれぬが、せぬよりはマシで御座ろう?
 ……まぁ、来年も宜しくな」
「来年もよろしくっすよ、先輩」
 かちん、とお猪口が軽くぶつかった。

成否

成功


第1章 第13節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
アヴニール・ベニ・アルシュ(p3p009417)

 アヴニール・ベニ・アルシュ(p3p009417)は、気づいたときにはよくわからない場所にいた。
 賑やかで、活気に満ちて、そしてなにより――。
(誰も僕に《想い》(願い、夢想、妄想、要求、恨み、妬み、嫉み、…)を押シ付けない。体が軽い)
 そこがどこなのかを考えることは、あえてしなかった。
(身体は軽い、けれど、おなかも軽い……)
 どこであれ、おなかがすいてははじまらない。
 アヴニールは嗅覚と直感を頼りに進み、そしてたまたま見つけた建物へと入った。
 そして、座った席の向かい側には……。
「……なんだ?」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が食事をしていた。
 ここは彼の所属する草カフェバー『ダンデリオン』。
 ハーブを使った料理やお茶をだす、優しい雰囲気の店だ。
 アヴニールが吸い寄せられるのもさもあらん。
 イシュミルがシャイネンナハトにゲーミング青汁とかいうとちくるった商品を出したのがバレて新年セットのケーキにチョコプレートを載せるお仕事を課せられ、その手伝いを……と加わったら早くも戦力外通告を受けいまこうしてハーブチキンをもぐもぐしているところである。
 要するに、暇だ。
「…………」
 そうしていると、アヴニールがアーマデルの皿からハーブチキンを一個つまんで食べ始めた。
「…………」
 目(?)が合う。
 そして今度はフライドポテトをつまんでもふもふしだすアヴニール。
「それは、俺の飯なんだが……」
「……?」
 なにを言われているのかわからないという雰囲気で首をかしげるアヴニールに、アーマデルはさらなる困惑に包まれた。
 そうしていると、アヴニールがそっと青汁だけをアーマデルに返してくる。
「それだけ返すな」
「好き嫌いせず摂取、シないと。大きくなれない」
「お前の方が余程小さいだろう」
 ぐいっと相手に押しつけにかかるアーマデル。
 年越しなのにいつもと同じ事をしているような気がして、これもまた日常か……とアーマデルは独りごちた。あとチキンは全部食われた。

成否

成功


第1章 第14節

トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて

 年明けを待つ、夜。
 豊穣の一角にある畳部屋。二つに折りたたまれた敷き布団。
 それに寄りかかるようにして目を閉じる『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)の姿があった。
 年越しの瞬間を、鐘を聞きながら晩酌で過ごそうと試みた……かと思いきや数口飲んだだけで眠りに落ちてしまったようだ。
 今年は思えばいろいろなことがあった。
 海の向こうから見知らぬ集団がやってきたかと思えば神だ仏だ巫女姫だという大騒動に巻き込まれ、その流れでローレットという組織に所属するうち練達の片田舎……なのか、再現性東京というエリアに足げく通うようになり、気づけば豊穣で暮らしている時より有名になった気すらする。
 そんないったりきたりの生活は、どうやらトキノエをくたくたにするには充分であったようで……。

 どうやら鐘が鳴る時まで、もしくは日が昇って昼になるまで眠っていることだろう。
 いや、もしかしたら、彼の性分は根っからこうなのかもしれない。
「うぅん……」
 唸って転がり、空っぽになったトックリを倒す。
 きっと明日目覚めたら、また酒を飲み直すのだろう。

成否

成功


第1章 第15節

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業

 練達の一区画。再現性東京の蕎麦屋には古い演歌が流れ、古民家を改装して作られたらしいレトロモダンなインテリアに囲まれて『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)はのんびりと窓の外を眺めていた。
 操作された天候によってぱらぱらと粉のような雪が降る野外。
 瑠璃は窓に映る自分の姿をぼうっと眺め、そば茶にちびちびと口をつけている。
 やがて運ばれてくる蕎麦。今日は大晦日だからねといって店主は天ぷらをつけてくれたが、瑠璃は『熱燗』も一緒に……と言いかけたところで店主が困った顔をした。
 はたと窓を見れば、希望ヶ浜の学生服を着た自分。
 この町では身分のついでに年齢も偽っているのだったか、と苦笑した。
 演歌が終わりラジオDJが混沌世界からはるか遠い日常を語っている。
 もう少し、もうしばらく……この雰囲気を楽しもう。

成否

成功


第1章 第16節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛

 各地が年末にのんびりとした時間を過ごそうというなか。
 『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は――。
「ラド・バウの年越しドリームデスマッチへようこそーーーーーー!」
「ウホウホウホウホウホ!!」
 マイク片手に叫ぶ司会者とドラミングするコンバルグ・コング。
 闘技場に籠もって外の世界から距離をとり続けていたA級闘士がローレットと関わることで露出を増やしたというのも、この一年で変わった出来事のひとつだ。
 リュカシスは『あのコングと一緒に戦ったのかよ!』とクラスでは大の評判であった。
 そんなクラスメイトたちと共に観客席に座るリュカシス。
 わくわくと待っていると、司会者が早速コールを始めた。
「このリングに参入したい方はいませんか!? 今夜限定、飛び入り参加をどうぞ!」
「ヤッター! 勝つぞーーー!」
 まってましたとばかりに、観客席を駆け下りリングへと飛び込むリュカシス。
「みんな今年も頑張って生き延びましたね。
 また来年も、無事に揃って年を越せますように!」

成否

成功


第1章 第17節

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補

 雪降る幻想のスラム街。
 隙間風の吹き込む廃屋の、かび臭い藁の上に『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はすやすやと眠っていた。
 世間は大晦日とカウントダウンイベントにうかれているが、自分にとっては太陽が沈んで昇るだけのこと。
 今日も明日の労働のために眠るのだ。

 そんな彼女の夢の中には、彼女と同じ顔をした人工生命体がいた。
 同じような廃屋の、同じような藁の上。
 傍らに座る彼女は、自分に何かを語りかけているような気がした。
 これまでどんな人生だった?
 最近どんなことがあった?
 あの子は助けられた?
 呼びかけられて振り返れば、助けられなかった誰か……もしくは名も知らない誰かがこちらをじっと見つめている。

 そして吹き込む強い風に、目を覚ます。
 いつか自分がむくわれる日は来るのだろうか。
 わからないけれど。
 今は、眠ろう。

成否

成功


第1章 第18節

朝長 晴明(p3p001866)
甘い香りの紳士
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束

 『聖女の小鳥』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)と『Red hot toxic』朝長 晴明(p3p001866)。
 二人は豊穣の険しい山のただなかに居た。
 山の上に作られたという神社へ続く石階段は、数えるのもばかばかしいくらいにながくうねって続いている。
「は? これ登るの? それともう一回確認するけど儲け話は嘘かよ!?」
「登る。それにしつこいようだが儲け話は嘘だ。
 そうでも言わないとお前さん、付き合っちゃくれんだろう?
 いつも俺を利用して儲けようとするんだから、たまには俺の我儘に付き合え」
 まじかよとつぶやいて、水筒の水を飲み干す晴明。

(月日は残酷に過ぎていく。その中で俺は、未来を見失った。
 恨んでいた聖女に悲しい過去がある事を思い出し、
 失った宮廷画家の夢も、フェネスト六世陛下の肖像を描く機会を得られて、ほぼ成就したようなもの。
 聖女の悲劇は止める。だがその先に、何をして生きればいいか)
 階段を上り続けるベルナルドの目には、道を求める寂しそうな光があった。
 僧侶が修行をするのも、祈るのも、教えを請うのもみな即物的な意味をもたない。
 彼らはみな、外に向けて動くことで内なる答えを探しているのだ。
 誰よりも近い場所にあるのに、見えも聞こえもしないのだから。
(うまく行き過ぎて先が見えなくなっちまったのか。
 別に、やりきってない今から先の事なんて考えたって、答えが出る訳ねぇだろう?
 足を止める事になったっていい。そっから仕切り直してゆっくり考えればいいじゃねぇの)
 などと晴明は思うが、足を止めるためには何かをする必要がある……というのが、人生らしかった。
「ところで山頂はまだかよ。神秘術使いの体力のなさナメんな、着く頃にはヘトヘトだ!」
「その時には初日の出が拝めるはずだ。歩け」
 へいへい、とため息をつく晴明。
 けれど。
(あんたが次に進む道を見つけるまでの介添人ってことか。まあ、いいぜ。山頂くらいまでなら付き合ってやるよ)

成否

成功


第1章 第19節

 やがてカウントダウンが始まる。
 それぞれの夜。
 そらぞれの空の下。
 思い思いの過ごし方で、年を越そうとしている。

 良いお年を。
 来年もよろしく、と。

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