シナリオ詳細
咲き誇れ、私立プロメテウス百合女学院
オープニング
●ここは私立プロメテウス百合女学院
ここは再現性東京。
その中でもひときわに「お嬢様」らしい場所といえるでしょう。
この学校は希望ヶ浜の中でも有数のお嬢様学校であり、今日も幾多ものお嬢様たちが挨拶を交わされています。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
全寮制の女子中・女子高・女子大の箱庭。
ひとたびここに入ってしまえば、どのようなひとも、『お嬢様』になると言われております。
ええ、どのようなひとも、ですわ。
どんなはねっかえり娘も、ひとたび私立プロ百合学園に入れば立派なはねっかえりお嬢様になれますとは理事長の言。
え、はねっかえりはそのままなのかって?
……だって、お嬢様にはいろいろな形がありますもの。すごくつんつんしたお嬢様も、ボーイッシュでかっこいいと思いますわ。
そうそう、この前間違って足を踏み入れたリーゼントのヤンキーのお兄様は、出るときなどは両手に花を活けていらっしゃいましたわ。
ええ、殿方ですら、ここでは”お嬢様”であるのです。
そういう世界なのですわ。
しかし、なんだか……。
この学園にも、困難が訪れようとしているようで。
●試練の茨
「のばら、生誕祭に出られなくてすまなかった。聖母役はどうだったのかね?」
「っ……」
父君の言葉に、宇津呂義宮のばら(うつろぎみや のばら)様は涙を溜めてぎゅっと下を向きました。
全校生徒の憧れである「聖母」の役。
それを射止めたのは理事長の娘、のばら様ではなく――すい星のごとく転入された、オデット(p3p008824)様だったのです。
「あらいやだ。あなた、今年の聖母はのばらじゃなくってよ?」
「やあ、そうだったのかね? すまないのばら。仕事が忙しくって、学校のことは把握していなくてね」
「もういいですわ。おなかがいっぱいですの」と言って早々に食卓を立ったのばら様。それに、母君はため息をつきました。
「前にも言ったでしょう。食卓で感情を見せてはいけませんわ、のばら。淑女とは部屋に戻ってから泣くものでしてよ」
「お、お母様、あいつら、あいつらったら! 私を馬鹿にしたのよ。陥れたのよ――」
そういいながらも……この胸に刺さった”棘”のような感情はなんなのだろうと、のばらお嬢様は思っていました。
彼女は初めて心から”負け”たのです。にくいはずの敵を美しいと思ってしまったあの一瞬――どうして。
胸が熱い。
「のばら、誰があなたを陥れたの? 教えて頂戴」
「たくさんおりますの。まずオデット様は私から聖母の座を奪いましたわ。溝隠 瑠璃(p3p009137)様が裏で私の悪評をばらまいたに違いありませんの! ……悔しいことに。証拠は何一つないのですけれど……。花榮・しきみ(p3p008719)様は私のことをあれは……鼻で……鼻で笑ったに違いありませんし、何より心に決めた姉妹って誰なのです? ええ、いるはずありませんわ。
天之空・ミーナ(p3p005003)様は、は、は、破廉恥ですわ!」
くらりとして椅子にもたれかかるのばら。
「舞台の上で姉妹同士でキスだなんて……」
「まあ、のばら」
”のばら嬢にはもう少し心の余裕というか、度量を身に付ければ一層魅力が増すような気もしますが”……イレギュラーズに言われた言葉が頭をリフレインする。あれ以来、よく眠れていない。
でもなぜか、それは言えなかった。
「ひっく。ひっく。お母様。理事長であるお母様なら、彼らを退学にしてくださるわね、お母様……」
「その約束はできませんわ。でも、……そうね。彼らにはつらい困難が待ち受けているはずですわ」
「どうして……?」
「なぜならば。百合の花とは、冷たい冬にあって咲き誇るものだからです」
そう、この理事長は――。
この学園の理事長、宇津呂義宮 いばら(うつろぎみや いばら)様は……。
誰よりも過激な、百合厨(花を愛でるもの)でしたの……。
●全校集会
「……わたくしが段に立ったというのに、おしゃべり(小鳥のさえずり)がやまないのはどういうことかしら?」
いばら理事長のお言葉は、小さいはずだけれど、体育館中にざわりと響き渡りましたわ。
「わたくしはあなた方を少々甘やかしすぎたようですわね。
いいですか、あなたたちを”お嬢様”とは認めません」
「り、理事長?」
「みなさん、ごきげんよう。お久しぶりですわね。――当学園は、お嬢様足らぬものを生徒とは認めませんわ。たとえそう、特別な使命を帯びて特別に転入しているとしても、ですわよ」
にっこり笑ってそう言って、おそらくはちらりと特待生たちの方を見たことでしょう。
「お嬢様足らぬと判断したものは、退学していただきます」
そんな――!
え、喜んでお嬢様を卒業するですって?
それでは困りますわ。
なぜならば、あなたたちは――ヨルを退治する使命がありましたの。
「大変なことになりましたわね?」
そう言ってほほ笑む転校生……学園に紛れ込んだ「白百合 夜(しらゆり よる)」を。
- 咲き誇れ、私立プロメテウス百合女学院完了
- GM名布川
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月07日 22時10分
- 参加人数25/25人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 25 人
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参加者一覧(25人)
リプレイ
●いばら様が見てる
(いばら様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ)
私立プロ百合学園。
ここは、乙女の園。
門を押し開こうとして、『トキシック・スパイクス』アクア・サンシャイン(p3p000041)の手は止まる。
(平民というか、ただの村人というか。普通の出自の私が、高貴なお嬢様なんて出来るかしら?)
「心配はないよ」
「幻お姉様……!」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がそっとアクアに手を添え、共に門を開け放つ。
「僕たちは――姉妹だからね。全てから、アクアを守る」
颯爽とした王子様の出現に、あちこちからため息が漏れた。
「あら、ごめんあそばせ」
のばらは、わざとらしく自転車で泥水をはねたが……。
「アクア、大丈夫かい?」
目にもとまらぬ早さで、幻が颯爽とアクアをお姫様抱っこして駆け抜けていた。
「なっ……」
(優しさがまずなくしてお嬢様といえましょうか)
お嬢様たる規範を示し、幻は颯爽と去っていく。
ほのかなときめき。
(幻お姉様が守ってくれるのが嬉しい。
他の誰でもない、幻お姉様だからそう感じるのよ)
●最強(もっともつよい)パワー
大漁に用意されたパンケーキ――違う、これはヨルの仕業ではない。
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の用意した『すてぃあすぺしゃる』には、たっぷりの愛情が込められている。
「ごちそうさまでした。たいへんおいしゅうございました」
花榮・しきみ(p3p008719)は、もちろん、全てを完食していた。
(お姉様が腕を振るったお料理を、どうしてお残しなどできるでしょうか)
それがお姉愛の愛ならば、しきみは全てを受け入れる。
皿の下から現れる、『しきみちゃん凄い!』のメッセージ。
心が弾む。
お姉さまは一足先に新入生として向かっているはずだ。
(お嬢様力を試されるのは此れで二度目ですが本日の私は最強(もっともつよい)のです
何故ならば――! そう、スティアお姉様がいるから!)
しきみは紙片をそっと畳み、大切に懐にしまった。
●お嬢様駆け込み相談室
「今日は皆様に私の妹を紹介いたしますわ」
『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)の隣に、美しい女性が進み出た。凛と伸びた背筋。その瞳は、ミーナと同じようにルビーのように赤い。
不思議そうにこちらを見つめるお嬢様方に、気後れしそうになるけれど。
(……乙女とかお嬢様とかそういう柄では私はないと思うけど、ミーナお姉様が巻き込まれたというのなら、手助けしたい)
『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は堂々と向き直り、挨拶のために膝を折る。
「レイリー=シュタインと申します。若輩者ですが、皆さま色々と教えてくださると嬉しいですわ」
「まあ……!」
(この学院も大概変だよなぁ。毎度毎度夜妖に狙われて。
……こほん。まあ、関わった以上見捨てる事はしませんわよ。意外と情が深いので、死神は)
「ミーナ様。お話しを聞いてくださいませ」
頼れるお姉様の相談教室に、今日も迷える乙女たちが駆け込むのだった。
「女は愛嬌、度胸も必要。憧れのお姉様がいらっしゃるなら結果を恐れる前に行動する事こそ肝要ですわよ?」
「やはり、私しきみ様に一度このお気持ちを……っ!」
ハンカチを握りしめるお嬢様は、のちほど、他には見せたことがない笑顔で微笑むしきみを見て悟ることになるが。
「私? 私はほら……パートナーがここにいますから、ね?」
「え……? でも、その方は……」
「前回と違う? ええ、それが何か?」
「姉妹を解消されたのですか?」
「いいえ、どちらも妹達ですわ。私は全てを愛する死神、女神ですので」
「まあ!」顔を赤らめる女子生徒。
姉妹多き死神。数多くのあらぬ噂が耳に入ることもあったが、レイリーはすました顔だ。
「私、レイリーはミーナお姉様の事を信頼していますからね」
「ありがとう、レイリー」
ミーナがレイリーを大切に思う気持ちに嘘偽りはないのだ。
●姉妹のたわむれ
「しきみさん、タイが曲がっていてよ?」
「……っ!」
スティアがしきみのタイに手を伸ばす。
(一度こういうことをやってみたかったのですよね)
なんて、うきうきしているところまで含めて永久保存版。
破壊力抜群だ。
(ええ、ええ。曲げておきましたとも。こんな展開もあろうかとっ!)
「あら、なんだ、その人がお姉様ですの」
様子を見に来たのばらは、美しいお姉様の登場に内心歯噛みしていた。
(どうせ大したことないと思って笑ってやろうと思いましたのに……)
スティアはぱちりと不思議そうにまたたきして、首をかしげて微笑む。スティアは表情を曇らせることはない。
「はい。しきみさんともども、よろしくお願いしますね」
「!?」
(それでこそ、世界一のお姉様ですわ!)
別に、悪意に鈍感なわけではない。
(我が家は悪名もそれなりにありましたので……)
こう見えて、嫌がらせをされることにはなれているのだ。なんて、この少女は知らないだろうが。悔し紛れに何か言おうとしたのばらに、人差し指でしぃと形を作る。
「ダメですよ、そのようなことをしては。
貴女の格を下げてしまいますわ」
耳元で囁けば、顔を真っ赤にして去っていく。
「あら?」
不機嫌そうなしきみのタイが再度曲がっている。
「もう、だめですよ。しきみちゃん、ほら」
「ご機嫌よう。あなたが転校生ですね。っと……姉妹の歓談のお邪魔をしてしまいましたか? あなたのロッカーの場所をお伝えしていなくて」
「そうでしたか」
自分にだけ伝え忘れるということはないのではないだろうか――。
(親子でいやがらせとは、また。ですが、ご覧くださいませ。私のお姉様はそのようなことで心乱されたりしないのです)
「学園生活ですもの。そういうこともありますよね」
「やあ、学園長にすらひるまないなんて、面白いお嬢様だ」
やってきたのは、――雰囲気で分かる。この学園のヨル、白百合だ。いち早く察知して、威嚇の姿勢をとるしきみ。
「どうだろう、私のものにならないかい?」
「そうですねえ」
「は? その目でお姉様を見るな、穢らわしい」
しきみはその誘惑を一笑に付す。
「お姉様が他者を好きだと言うので、それが恋愛感情だと勘違いしているのですか?
貴女は少し知能が遅れていらっしゃるのでは? スティアお姉様検定は不合格ですよ
お姉様がその様な感情に聡く反応し答えてくれる訳ありませんでせう!」
スティアお姉様学の権威、しきみ。
(あらあらしきみさんと仲良くなったのね)
スティアは、その様子をほっこりと眺めているのだった。
(こういう役割を引き受けるのもお姉様のお仕事ですからね!)
(お姉様! お姉様! そんなところも素敵ですわ!)
●天然ほど怖いものはない
「ごきげんよー! 今日も清く正しく明るく楽しくやっていこっか♪」
『夏宵に咲く華』火夜(p3p008727)が爽やかに挨拶をする。太陽の君、と、下級生の中では噂になっている。火夜は大勢の女子生徒に取り囲まれていた。
「あ、あの、火夜様! お姉さまになってくださいませんか?」
「喜んで、だけど……ボクは来るもの拒まずだよ、いい?」
「構いませんわ! 太陽が万人に降り注ぐのは自然の摂理ですもの!」
両手に花を咲かせながら、火夜はぱあっと笑顔を浮かべる。
「よーし、みんなボクについてきて!」
(どいつもこいつも! ふ、不埒モノですわね!)
火夜の妹に足をひっかけようとするのばら。しかし、火夜は咄嗟に妹をかばい、のばらを巻き込んで転んだのだった。
「……!」
「あはは、ドジっちゃった。大丈夫?」
その悪意にまったく気が付いていないように、にこやかに笑う。
(! ど、どうしてこう、どいつもこいつも……)
「おっと、嫌われちゃったかな?」
「……どうしてまたここに来ちゃったんだろう、ですわ」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)ははっと口元を押さえ、頭を振る。
「あー! また勝手にですわって言っちゃうですわ!」
これがなれないからあんまり行きたくなかったのだ。
「リュコス様!」
「リュコスお嬢様!」
「みんなー、おひさしぶりですわー!」
瞬く間に年上のお姉さんたちに囲まれるリュコス。可愛いと抱きしめられたり頭を撫でられたりと忙しい。
「さむくなってカゼを引いちゃって……なかなか来れなかった、ですわ」
「まあ!? なんてことかしら!」
たちどころにマフラーやあたたかい飲み物で、もこもこにされるリュコス。
「お紅茶を淹れてきますわね」
「ありがとうですわ!」
(みなさま、淑女協定、お忘れではありませんわよね?)
――「学園の」妹だと。お姉様方が抜け駆けしないようにけん制しあっている中、リュコスはしゅっしゅとシャドーボクシングの構えだ。
(学園のみんなを守るんだよですわ)
痛いことやつらいことには慣れている。
(何をされても負けないぞってところをヨルにも見せてやるんだから!)
「あら、尻尾を巻いて逃げたのかと思いましたのに」
わざわざ引き返して来て下駄箱をふさぐのばら。
「ごめんあそばせ、私の靴はあなたの下駄箱の上ですの」
「ちょっとちょっと! またそんなことして!
聖女役になれなかったのがくやしいのはわかるけどさ。
そうやってまたいやがらせ続けてたらもっと嫌われちゃうよ」
「はっきり言ってくれますわね。私……」
下駄箱が倒れてくる。これは――ヨルの仕業か。
リュコスは飛び出し、生徒たちと、のばらをかばった。
「ちょっと、どうしてそうなりますの!?」
「のばらのことは苦手だけど!! ……ほんとうに心配してたんだよ」
「っ!」
「泣いてないもん、これは汗だもん……ですわ!!」
「ふ、ふん、覚えてらっしゃい!」
やけに慌てた様子で、のばらは去っていく。
●困難な時ほど咲き誇れ
(オデットお姉様と百合百合しい学園生活を満喫出来ると思ったら、理事長に厄介なタイプの夜妖とメンドクサイ奴等だゾ!)
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)にかかれば、のばら如きの意地悪はなんてことはない。
典型的な嫌がらせの黒板消しは、つんとすましたのばらの頭に移動している。
ひそひそと囁かれる声は、どれものばらを非難するものだ。のばらの影響力は、瑠璃の工作により弱まっていた。
瑠璃が結成した「オデットお姉様を慕う会」。……会員数はゆうに一クラス分を突破した。これは表向きの数字であり、これからもまだまだ増えるだろう。
「のばら様のそのような振舞……お嬢様として如何な物かと。理事長のお母様も言っていたではありませんか……「お嬢様に相応しくない者は退学」と」
『プロ百合女学園の聖母』オデット(p3p008824)は困ったように頬に手を当て、優雅にため息をついた。
「お母様が私を退学になさるなんて! ありえないわ!」
「どうでしょうか? のばら様、そんなのだから姉妹が出来ないのでは?」
「出来ないのではありませんわ。選んでいるのですわ!」
「そろそろ改めないと破滅しますわよ」
ふわりと微笑むオデットは、まっすぐにのばらを見つめて言った。きいとわめいているのばら。
(どっちがお嬢様か、一目瞭然だゾ)
「わたしはどちらかと言えばお友達に――なんてね」
「え?」
「それではね」、と去って行くオデット。
「素敵ですわ、オデット様……聖母役に選ばれたのも不思議ではありませんわね」
「聖母役は皆や瑠璃のお陰で勝ち取れたもの、ですからね。貴女たちのお陰です。ありがとう。こんなにきらきらした目で見つめられたらちょっと恥ずかしいなぁ……瑠璃はそんなことないみたいだね?」
「お姉様は素敵ですけれど、お姉様の隣にいたいですもの。……オデットお姉様、これで本当によろしいのですか?」
「瑠璃には、迷惑をかけるだろうけれど」
「ううん。オデットお姉様の望みが僕……いや、私の望みですわ」
オデットが望んだのは。目立ち、敵を引きつける役。
リュコスだってそうしている。聖母たる自分もそうやって頑張らなくては――。
(わたしへの妨害はさぞ大変だろうね?)
――学園の悪意に、オデットと瑠璃は立ち向かうのだ。
●保健室の眠り姫
(お嬢様とは――眠り姫と見つけたりっ!!)
『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)は、一直線に保健室を目指す。
「まあ、ワルツ様! どうなさいましたの?」
『……体調が少々宜しくなくて。ベッドを一つ拝借してもよろしいかしら……? 眩しい日差しに当たり過ぎてしまったのでしょうね』
「なんてこと。ええ、ええ、もちろんですわ!」
(……考えが纏まらなかったり、何をしていいか悩む時はとにかく寝るに限る! ここは学校だけれど、今の私には受けるべき授業も取るべき単位もないのだわ)
眠り姫はアラームをかけると、軽やかにイベントスキップをかます。
「おや、いけない生徒だな。のばらに見つかりでもしたら退学に――」
白百合はそれを見ていた。が――。
すやすやと、無垢な眠りにつく姿は物語の姫のよう。ただの保健室のベッドが、ワルツが身を横たえれば天蓋付きのベッドとなるのだ。
「わ、わたくし具合が悪くて!」
「私も!」「私も!」
保健室には眠り姫を、カーテン越しにでもその気配を感じたいという生徒たちが押し寄せていた。
いばらはふっと口元を緩ませて手元のバインダーに何か書き込んだ。
いついかなる時も。気絶している時ですらお嬢様はお嬢様たらん。――お嬢様力、”合格”。
恋に目を潤ませた生徒がそっと呟いた。
「わたくし†聖天使癒姫猫†《ホーリーエンジェルみゃーこ》様になりたいですわ」
ぐっすり眠るお嬢様は、よく育つ。
……ワルツお嬢様、良い夢を!
●魂は等しくお嬢様
「カード『お嬢様』インストール!」
変身ならば、『魔法騎士』セララ(p3p000273)のお手の物。ひとたびくるんと回ってポーズを決めれば、セララの髪はくるくると伸び、ドリルのツインテールとなる。
「魔法お嬢様セララ参上でございますわ! ごきげんよう。タイが……曲がっていませんね? おかしいですわ……」
首をかしげるセララ。
お嬢様とはタイを直すものではなかったのか。
(仕方ないから私のタイを曲げておきましょう)
「あら、ご機嫌よう、セララ様」
『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)が、くすりと笑って直してくれる――なるほど、これがお嬢様か。
ここはお嬢様(男性用)更衣室。
(……おのれ……ユリーカ……)
『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)は宇宙の終りが三回続けて訪れたような仏頂面をしていた。
”簡単な依頼”だって? ”のりこめ”だって?
「ぼ……けほん。私は……えっと……玄奈ですわ。
以降よろしくお願いしますわ……」
鏡に向かって練習してみる『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)。
(おかしいなぁ……男のはずなのに……)
麗しい声にも、制服姿に違和感はない。ないというのもどうしたものだろうか。
「お嬢様か……参ったな、こればかりはボクより妹の方が向いているような……」
『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は自分に戸惑っていた。しかし、フェルディンはどこまでも生真面目だ。
(いや、よそう……このフェルディン、如何なる戦いであれ、真っ向から全力で臨んでみせるとも!)
迷いを断ち切り、立ち上がった。
「それでは皆様――参りますわよ!」
(腹をくくるか――)
更衣室の外へ――。
「お姉様! 待ちわびておりましたわ!」
『ちゃろ子さんの方』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はプラックにぱっと顔を輝かせ、勢いよく飛びついてきた。
なんだかんだお姉様方にクッキーをもらったりちやほやされているちゃろ子であった。ついでに胸を張ったリュコス(護衛中)とドーナツを与えられたセララがいる。
「まあ! 初等部のお嬢様ですの!? はい、どうぞ」
玄奈は疑問を抱きつつも、貰えるものは穏便に貰っておくことにした。
「……よっ、チャロロ、元気にしてるか? 無理はすんなよ」
「うん。じゃなかった、えーと。ですのよ! お姉様はしゃべり方もいつもと変わりないですわね!」
「お嬢様口調だァ? んな事やってられっか」
見た目だけならばと妥協に妥協を重ねた結果、女装と化粧によりスケバンお嬢様となったプラックであった。
ヨルはともかく授業なんてのに真面目に出るつもりはない。
屋上で昼寝をしていると――。
「あなた、一体どういうことですの!?」
何やら、お嬢様らしからぬ現場に遭遇した。プラックではなく、別のお嬢様に向けられた言葉だ。
聞けばお姉様とおそろいのキーホルダーをつけていただのなんだの、というようだ。
「くっだらねぇな。直接お姉様に聞けば良いだろ」
自分よりも弱い立場のものに無理強いをするなど――お嬢様ではない。この制服を着崩した、言葉遣いもぞんざいなお嬢様が――。今、この場では誰よりもお嬢様だった。
「理事長に言いつけますから!」
「プラック様……」
「大変、ですわ……理事長がそこに」
慌てる玄奈。
「正しいことして退学になるなら、それだけの学校ってことだな」
「っ……」
自ら、汚れ役を受けるというのか。フェルディンは心打たれた。
「これはいったい、どういうことでしょうか? 我が校の規則をご存じですか?」
「俺がどういう格好しようと勝手だろ」
(気掛かりなのは、理事長先生は女性同士のお付き合いに強くご執心であるという噂ですわね……)
――男性お嬢様へのあたりは強いのかもしれない。
玄奈は空気と一体化し、とがめられることはまるでなかった。違和感が職務放棄している。
(私、今この場においては嘘偽りなく、最高のお嬢様であろうと努めておりますけれど、ご気分を害されてしまうでしょうか?
ですが、ええ……斃れる訳には参りませんわ。
我ら男華、身体などいう容れ物に縛られるつもりはありません。
我々こそ、真のお嬢様でしてよ!!)
フェルディンが見返す。
こちらに、恥じ入るところはないのだ。
「ま、待ってくださいませ! プラックお嬢様は私のことを庇ってくださったのです」
「……」
「あの方たちの心は、誇り高きお嬢様であるのです!」
「そう、ですか」
これほどの支持を集めるとは――さすがのいばらも、退学にはできない。その様子を見届けたフェルディンは安心したように微笑んだ。
(あら、プラック様は既にモテモテのご様子ですわね。それであれば、ええ、ええ……私は私で、運命の姉妹を探すと致しましょう)
「もし、どなたか……私と姉妹の契りを結んでくださる方はいらっしゃいませんか?」
これでも王家の身――カリスマや統率といった、人心を掌握する術は備わっている。
「!」「いえ、私が!」「ちょっと! 抜け駆けはやめてくださいませ!」
争いが――苛烈になっていく。
「だめーー! ケンカなんて……駄目ですわよ!」
慌ててちゃろ子が立ちふさがる。もみくちゃにされるちゃろ子を見てお嬢様方ははっと気が付いたようだ。
「おい、テメェら、困ってんだろ! お嬢様だってんならな……」
これは、フェルディンのカリスマもさることながら、悪意渦巻くヨルの仕業か。
これを発散させないことには、どうにも無事に帰れそうにない。
「よし、走るぞ」
校庭を優雅に走るお嬢様方。
竹刀を持って仁王立ちするプラック。そして、誰よりも疾く、先頭を走るフェルディン。
●猫耳、尻尾と美しき翼
「ごきげんよう皆様!
今日も皆様素敵ですわ。皆様が素敵ですととても嬉しく思いますの!」
「きゃあ、あの方は――」
「『氷翼』冰宮 椿(p3p009245)ですわ! 分け隔てなく微笑み、嬉しそうに笑みを向けてくださる! 椿様ですわ!」
そして、その隣にいらっしゃるのは――。
「ごきげんよう、皆様。
此度は、一端のお嬢様として存分に愉しませて頂こうかと思っておりますの
何卒、宜しくお願い致しますわ」
楚々としてお辞儀をする『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)。
「不肖私、お姉様を務めさせていただいておりますわ」
背の低い方が――お姉様!?
「っ……」
ギャップに胸を押さえるお嬢様方。それに加えて……。
「あれは……あれはいったい! このいけないきもちはなんですの!?」
ピクリと動く猫耳・猫尻尾をつい目で追ってしまう。
「ええ、そうですね。わたしの一族に伝わる伝統のアクセサリーですわ」
「! そうでしたのね。では、そちらの翼も……!」
「ええ、そうですね。わたしの一族に伝わる伝統のアクセサリーですわ」
学園において、羽飾りや猫耳がひそかな流行となったのは言うまでもない。
(……思っていた以上に楽しいな、これ?)
うきうきする汰磨羈お嬢様。
●大盛りてんこ盛り
(ふふん、みてらっしゃい……)
転校生の皆様はお腹がすいているようですの。けれど、年頃の乙女だから言えないのですわ――。と、のばらは吹き込んだ。
(何故か大量のドーナツが来ましたわ。これが試練?)
セララの前に、どんと出されるドーナツ。
(ふっ。この程度、軽く乗り越えるのがお嬢様ですわ!)
優雅にもぐもぐと両手でドーナツを頬張り、口元を拭く。
「あ、あの量を食べきった、ですって!?」
「シェフに「ドーナツ美味しゅうございましたわ」と伝えておいてくださいまし」
(心遣いまでっ……!)
純白の制服を纏った一般お嬢様の目の前に出てきたのはカレーうどん。残すことはできない。けれど……食べないのならば麺が伸びてしまう。
「あら、どうなさいましたの?」
「ご注文はこちら?」
「!」
颯爽と現れる椿とたまお姉様。
(目の前に困っている方がいらっしゃったならば助けるのがお嬢様。
どんな時も優雅たれ、そして華が咲き乱れるような姉妹仲を、ですわ!)
「私達こそ、最も美しく素晴らしい姉妹である事を――ふふ、椿。カレーが跳ねてしまいますわよ?」
しゅぴぴぴぴと素早いハンカチに阻まれ、カレーは染みをつけることはできない。
「ありがとう存じます、お姉様」
「まぁ! これならお姉様と分け合えますわ!」
たっぷりの食事に笑顔のちゃろ子。
上品にコロッケを半分こにすると、早速仲間たちのもとへとやっていった。
「玄奈お嬢様、食べます?」
「いただきますわ」
玄奈のご飯はもともとがお子様用メニューだったのか、大盛だとしてもさして無理のないものだ。
プラックのラーメンが勝手に大盛にされている。……いやどちらかというと食堂のお姉さんにモテているのかもしれない。
「……半分食うか?」
「ますわ!」
チャロロに飯をよそうプラックは、コロッケを貰った。
「えっと、お嬢様的にフォークとナイフでいいのかな?」
「ほらよ」
あーんでナルトを与える。
「! ありがとうですわ!」
「ほいよ! おまち! プロメテウス百合薔薇ゼリーだよ!」
(! あれ、オイラ頼んでないのに……!)
微妙な出来のオリジナルメニューが追加された。
「不味いものなら私が全部食うよ。乗せな」
「お待ちなさい。一人になどしておけませんわ!」
フェルディンが加勢に加わると、一般生徒たちは次々と謎の料理を注文していくのだった。
「このくらいの量、かんたんに食べ切れますわよ」
ミーナとレイリーの食卓は優雅なものだ。二人で仲良く食事を分け合い、微笑み合って、口元をぬぐったりなどしている。
「あら」
ぐぬぬ、とそれを見ているのばらに向かって、ミーナは微笑む。
「のばら様、そんなに私にちょっかいを出してきますと……食べちゃいますわよ? なーんて」
「! や、やっぱり破廉恥ですわ!」
「おや……これはなんとも」
「大丈夫よ、幻お姉さま」
アクアはそっと幻の器を引き寄せる。
(私って結構食い意地が張ってるの)
「胃薬もありますわ」
(ふふん、無駄よ。だってあなたたちのお食事は――カレーうどんですもの! さあ、どうなさるの? 幻お嬢様はともかく。あなたにそれがかわせるかしら?)
カレーうどんがはねた。しかし、アクアは――漂白剤を調合していた。
「なんですって!?」
「僕のために、無理をせずともいいのに。……その程度の跳ね、避けてみせるよ」
それとも信じられないのかい?
そう訴えるような目線。
「いいえ、これを見てくださいませ」
アクアは自白剤を調合し、飲み干す。
「まあ!」
「自白剤ですの!?」
なんという、姉妹愛だろうか。
(私がお姉様を疑うこと? あるかもしれない)
平常心でいられない? 精神安定剤も追加すればいいのだ。
アクアはただのお嬢様ではない。日夜、除草剤を作り続けてきた。
器が、違う。
あまりに違いすぎた。
●体育の時間ですわ!
「はっ!」
ちゃろ子はしゅたりとポーズを決める。
(どういうことですの!? 絶対無理な位置にボールを投げましたのよ!?)
悪意を感じ取っていたちゃろ子に、そんな手は通用しない。
「行きますわよ、たまきお姉様!」
椿が打ち上げたバレーボールを、たまきが受け止める。
「ふ、お任せくださいませ」
(体育の時間などの物理的障害如き、無駄無駄の無駄ですわ)
意地悪なレシーブをむしろ3回転宙がえりをして撃ち返すたまきお姉様。点を決めると、辺りから歓声があがった。
「く、悔しい……」
ひょいと尻尾がボールをはね上げる。
「こう見えて私、フィジカルエリートですの。お生憎、年季が段違いですのよ?」
ハンカチをかみしめるのばら。
●図書室に咲く
「この少女小説なんだけどね」
「ふむふむ……」
顔を寄せ合い、お嬢様を研究するちゃろ子と玄奈お嬢様だった。
(むむむ、お嬢様力……)
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は悩んでいたが、その所作は洗練されている。田舎の旧家の娘で厳しいお父様に箱入り娘として育てられた、事実上のお嬢様なのだ。
(とは言うものの、その"らしさ"をどうやって発揮して宇津呂義宮様方にお認めいただくかというお話になるのですわー)
そこで、イリスが向かったのは図書館だ。
「やあ、ご機嫌よう。ここの書類が気に入ったのかな。なら、ゆっくりしていくと良い」
ばたんと、戸が閉められる。まるで、何かに塞がれているかのように。
「オデットお姉様……怖いですわ」
たまたま騒動に巻き込まれた瑠璃はぎゅうとオデットに抱き着く。
「瑠璃……本当は怖かったんだね」
困難に逆らえば逆らうほど。この学園の悪意は強いものとなる。気丈に振る舞ってきた瑠璃だが、怖いのだろう――たとえ咄嗟にオデットを庇い安全な位置に身を寄せていたとしてもである。
それならばそれでゆっくり出来るか。
イリスがそう思って振り返ると、図書委員とおぼしきお嬢様が泣きそうになっていた。
「ちょうど良かったです。こちらの本の続きなのですが」
こういうときでも平静を保つのがお嬢様であるのか――。図書委員のお嬢様は、恥じ入って頬を赤らめた。
「次の本が欲しかったのですわ」
「こちらです」
「ありがとう」
本を読んでいたイリスは、場所を近くに移していた。――さりげなく。閉じ込められたお嬢様が怖がらないように。
「っと、大丈夫?」
ちゃろ子が扉の向こうの障害物をよけてくれたようだ。どうやって気が付いたのか。聞かれて、玄奈お嬢様は答える。
「ええと……梟が教えてくれたのですわ」
●お嬢様の3つの翼
(力が集まってきました。けれど……)
思った以上に少ないことに、白百合は焦っていた。
もっと嫉妬を、もっと憎悪を蒐集しなくてはならないというのに――お嬢様方はどうやら手ごわい。
(どうして、すぐに解決されるの?)
木の葉が舞い落ち、白百合は上を見上げる。
3羽。
(並の悪意や嫉妬ではこの花を手折ることは難しくてよ?)
あのタイミングは偶然ではないのだ。
(わたくし、高貴の生まれの娘ではありません。乙女でもないわ。ですけれど、叩き込まれた教えは、荊の如く鋭く、華の如く艶やかに。師曰く――貴婦人は誇りによって生まれる。お嬢様も一緒だわ。そうでしょう?)
メルランヌはふわりと笑みを乗せる。獣であった自分の生まれを聞いたら、この学園に通う純粋なお嬢様たちは気絶でもしてしまうのではないだろうか。
お嬢様であれば、鳥を従えられなくてはなんだというの。
平和を愛する純白の鳩、凛々しいぬばたまの鴉、そして賢き梟。
(どれもお嬢様の美徳を象徴するもの。何の違和感もないわ)
現れた幻が蜂をやわらかく取り除き……泣いているお嬢様にハンカチを渡す。
「大丈夫かい、刺されてはいないようだけれど、驚いた拍子に転んでしまったのか。すこし、少しケガをしているね」
傷口を綺麗にしてからハンカチを押し当てる。
慈悲と包容力もお嬢様の美徳の一つ。漆黒の悪意には白薔薇の如き気高き愛で。
(あれか、あの鳥が……)
(まさか鳥を追い払うなど、お嬢様らしからぬことはしないわよね、白百合様?)
「この綺麗な花のような笑顔を見せてはくれないかな?」
幻が花束を差し出すと、女生徒は頬を赤らめた。
だめ、幻お姉さまにはもう既に姉妹がいらっしゃる。それも、自らのために自白剤を飲むことすら厭わないお嬢様が。けれど……。
「酷い目にあったのによく頑張ったね」
「っ……!」
その一言で、ぽろぽろと涙が出てきてしまった。
落ち着くまで、メルランヌと幻は付き添っていてくれた。
(私としたことが。掃除をしなくては理事長に叱られますわ)
ところが、どうだろう。庭はまるで魔術の様に、綺麗に整っていたのだ。
(行動を美しくみせることは奇術師の基本で御座います)
●日常のさなかにも安らぎを
失恋に心を痛めるお嬢様。あのしきみ様に憧れていたお嬢様だ。
「うう、分かります。分かりますわ。私も……私も椿さまのファンでしたの。……あの。よかったら、これ」
差し出されたチケットを見て、失恋お嬢様は目を見開く。
「こ、これは! 【福音三姉妹】のっ! 最前列S席チケットでは……!」
「往来のお嬢様方」
ぽろんと、美しい音が聞こえた。
『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)のハープの音。
「ご紹介にあずかりました、私(わたくし)は蓮子と申しますわ」
『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)はマスケットを傍らに礼をする。
「わたくし、李子と申します。
悠子姉様、妹の蓮子と共に、令嬢としての規範を示しに参りました」
『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)の笑みは、満天のものだ。
「規範、とは……?」
「どうか、ひと時、心をお安めになってくださいな」
その歌声こそが、答え。
ひとり、また一人。傷ついたお嬢様が。
はらり、と涙を流す。
くるくるとアーカーシャを片手に舞う蓮子。時にはどういうことか、空を踏み、草花を踏むことはない。
そして、草花は悠のハープの音色に答える様に、鳴り響き、奏で歌うようにその身を喜びで振るわしている。
「っ~~~~!」
覚えたことのない激情に身を震わせてへたりこむお嬢様。
(わたくしの歌をお聞きくださった方々へ、活力の言霊を届けます)
「李子様あああーーーー!」
「今絶対目があいましたの!」
「ふあっ……」
曲目は3つ。英雄叙情詩、魔神黙示録、天使の歌。それに合わせてしとやかに振られるサイリウムがまだういういしい。
ひと時の休憩。
蓮子お嬢様が紅茶を振る舞う。
「売れ行きは好調でしたわ」
「売り物なんてありましたっけ……?」
「よくわからないのですが、なぜかお金が集まってしまいまして……困ったものですわね」
推しユニットとして貢がれているお姉様たちであった。
●問題児「のばら」
(のばらさんは理事長の娘ということで、親の威を借りて我侭に学園生活を過ごされているようですね)
『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)と目が合った。ふいと目を背けるのばら。
どんな風に蹴落としてやろうか考えているのだろう。しかしリディアは――それを上回るお嬢様力で、こう考えていた。
(のばらさんがもっと充実した学園生活を送れるようにお手伝いするのが私のお嬢様としての道なのではないか)と。
「こんにちは、のばらさん」
「まあ! 転校生ではありませんの」
「リディア・ヴァイス・フォーマルハウトです。」
「フン」
払いのけて割れたクッキー。
手作りのものではなかっただろうか。
「わ、私のせいじゃありませんわ! どんくさいのが悪いのですわ。誰にあげるか知りませんけれど」
「ごめんなさい。悪気はなかったの。のばらさんと仲良くなりたいなと思ってずっと見ていたの。おこがましいとは思うけど、よかったら私のお姉さまになってもらえたら嬉しいな、とか」
「は?」
のばらはしばし黙り込み、頷いた。
「ええ、ええわかりましたわ。私の地位が目当てなのですね」
「え?」
どうしてそこで意外そうな顔をするのか――。
「私じゃなくても、のばらお姉様は真の友人を作るべきですわ。生徒が庶民かどうかで差別するのはのばらお姉様のためによろしくないと思いますわ。折角お姉様は素敵なのに、その魅力をそれで損なってしまっています。学園生活は大事です。でも、卒業したら、広い世界が待っています」
理事長の娘という立場を抜きにした視点で周りを見てほしい、そうすれば――。
「っ!」
あまりに純粋な思い。のばらはそれから逃れる様に走り出した。
●密やかなる花園
(ねえ、白百合様)
『 』伽藍ノ 虚(p3p009208)はため息を吐く。関係性――そこから生まれる悪意を蒐集しているものがいる。
(それは、させませんわ――)
それならば、虚は。
(この世すべての悪だと、そう振る舞ってみせましょう)
どんなやりとりがなされたのか。それは――彼女たちだけの秘密だ。
気絶したのばらを抱え、虚は保健室を出ていった。
(……はぁ、慣れない演技は疲れますね)
血をぬぐい、 制服を着替える。
それは、荒療治だったに違いない。しかしのばらは――白百合と。ヨルと同じような道は歩まないだろう。
●蠢く悪意
「勝てない」
白百合は確信した。黒い重い――悪意が足りないのだ、と。
「あら、咲くのは白百合かしら」
「っ! 誰だ!」
気が付けば、赤の女王が後ろに立っていた。
「おや、どうされました?」
「もう悪意をばらまくのはやめたのかしら」
幻とアクアが、そこに現れる。
「あら、幻、貴方、わたくしがこんな辺鄙なところへわざわざ足を伸ばした意味が分かりますわよね。あ・の・マッドハッター様を見かけなかったかしら?」
「そのためにわざわざいらっしゃったのですか」
「仕事をサボってばかりで、本当にわたくしがいないとダメな方」
「……とりあえず、この問題を片付けるとしましょうか」
「ええ、そうね。トランプ兵達、そんなものは赤い百合に塗っておしまい!」
動き出す機械仕掛けのトランプ兵により、赤い百合が咲き乱れる。
『くっ……』
部外者の乱入とは、予想もしていなかった。
「アクア、僕と攻撃をあわせて! いくよ、姉妹愛の結晶『シスタークリスタル』!」
「はいっ!」
オーバーザリミット。幻の動きは――既に、目でとらえることができないほどの技巧となっていた。
幻の周りを舞う蝶とともに、アクアは攻撃を集中させる。アブソリュートゼロが、ヨルを凍てつかせ、氷のうちに閉じ込める。
『まさか、私が……っ』
「逃げるなんてずるいですわ!」
リュコスの叫びが――影が、ヨルへと迫っていた。ソニックエッジが、ヨルを切り刻む。
「今までがまんしてた分のお返しだよ……ですわ!」
リュコスはきっと相手を睨む。
(学園のみんなに妹みたいって認められたぼくにもみんなと同じ『お嬢様力』があるはず……)
「どんなことにも負けない、折れない、それがぼくのおじょーさま力だ! ですわ!」
リュコスの渾身の一撃が、ヨルを引き裂いた。
眩しいお嬢様力。そして、……姉妹愛。
(早く悪意を見つけなくては……)
「貴方、関係を引き裂くのがとてもお上手ですのね? ですが、そのような所業はお嬢様に非ず」
椿を見つけて踵を返す。だが、たまお姉様がしゅたりと、そこに降り立っていた。
「どんなことがあろうとも、たまお姉さまとなら負ける気がしませんわ! 共に参りましょうお姉さま!」
「ええ! そうですわ! 存分に愛し、愛で尽くす事が出来ない"モドキ"風情など、教室の片隅でハンカチを引き裂いているのがお似合いですわぁー!」
刋楼剣は二人の愛、姉妹愛を帯び――姉妹、陰陽二極の力を込めた太極霊刃を以て、雲耀の速さで薙ぎ払う!
それに追撃をくわえる椿の剣魔双撃は、さながらケーキ入刀といったごとくである。
(これは物理……いやっ! どちらも!)
「わたしがお嬢様たる所以を見せて差し上げますわ!」
引き裂かれる。このままでは、自分が!
「真のお嬢様力、お見舞いして差し上げますわよ!」
これは、挨拶に過ぎない。
(舞闘も優雅にこなしてこそお嬢様)
械氷剣『桐鳳凰』の剣先が揺れる。えぐりとるような、直死の一撃。そしてその剣筋に、寸分たがうことなく、たまお姉様の剣が重なる。
「ちなみに私、夜妖をブッた斬r……もとい、綺麗に二等分するのも得意ですの」
「姉妹の力、姉妹の絆! とくとご覧あそばせ!」
――まずい。
予想以上に、力を集めすぎた。
「あらまあはしたなくてよ、白百合様。どんな時も絶えず清らかな美を振りまくのがお嬢様というもの」
『何、いつからっ』
答えは、頭上の3羽にある。
メルランヌはヨルの手を取った。抗う暇もなく手を取り、流れ星のようにふりまいた。ヨルは、恍惚のうちに閉じ込められ、花壇の上を飛んだ。
その花壇はちゃろ子の保護結界により守られている。
「これ以上姉妹たちの絆を引き裂くような真似は許しません。
私たちと踊ってくださいませ!」
バックハンドブロウがヨルを貫く。
「くっ」
「トゲのある花は容易く摘めないでしょう?」
「ないすだ、ちゃろ子!」
「貴方たちは……」
「固い絆と優雅な信念!
数多の蔦を絡ませて、明日を彩る花を咲かす!
それが姉妹、それがお嬢様、それがぁ、私達なんだよぉ!」
プラックがそれに立ちふさがる。咲かせましょう、男華の面々だ。
「姉様たちは私が守ります!」
学園の中庭。その噴水に、プラックは乗る。
ブリッツボーイ・リヴァイアサン。ひらひらとまうスカートから繰り出される一撃。その軌跡はまるで天を駆ける龍が如く。
『痛みを――悪意を受けてもらうわ!』
プラックを狙った攻撃は、庇われた。
「これ以上お姉様を傷つけないでくださいませ!」
「ちゃろ子!」
「テメェ!」
プラックはわなわなと怒り狂う。
「いいのです」
ふるふると頭を振るちゃろ子。割と――無傷なのだが。
姉妹の絆が、いつしかここに芽生えていた。
「残念ですわ、白百合様。私、貴女とは良いお友達になれると思っていましたのに――
それでも、こういう決着をつけなければならない事もありますのね」
フェルディンは立ちふさがり、名乗り口上をあげる。
「我が名はフェルディン――貴女の視線を、釘付けにする者ですわ!」
それに、目を奪われずにはいられない。
星剣コメットブレイバーを構えるフェルディン。いつの間にかできていたファンクラブが悲鳴を上げて数名気絶した。
(色男め……)
全力で自身を殴り気合を入れるプラック。
「戦闘に関してはお任せくださいまし」
「玄奈!」
「玄奈お嬢様!」
「あ、いえ、お嬢様力が高いわけではないんですの。ただ、その、昂ってしまうのですわ」
文学少女が――ここにきてらんらんと、目の前の敵に立ち向かっていく!
息をのむ一般生徒たちの扉がばたばたと開いていく。
(チャロ子お姉様が守り、プラックお姉様が惹きつける……ならば私の役目は攻撃ですわ!)
此夜煌はそこに。
慣れた獲物を手に落首山茶花を喰らわせる。
『うそよ……未知数だわ、こんな連携はっ!』
「おに……お姉様方を傷付けた罪、その命で贖いなさいな!」
黒顎魔王が。苛烈に、華麗に、ヨルを散らす。
「気を付けてくださいのばらさん!」
「な、なんですの……!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのばら。
足が。震えて動かない。
(これが、私が……止められなければ、こうなっていましたの? これが、望んでいたことですの?)
「のばらさんは私が守る!」
リディアのブレイクフィアーが、のばらを鼓舞する。僅かな勇気、それによって動くことができた。
お嬢様方は、可憐なる花々に夢中。
「あら、きっと演劇の舞台をごらんになったのでせうね」
「お花が……」
「さもなくば夢と、思っていてくださいませ」
スティアの花天が、舞う。
(お姉様は自身こそ前線でというお方)
なれば、私はお姉様の意志を尊重しませう。
スティアは手をかざす。魔力構成を読み取り、解き放つ。鋭く舞い落ちる終焉の花。それは、ヨルを取り囲む氷結の花。
『うそよ、うそよ、私が、この私が!』
ヨルの攻撃は苛烈さを増す。
(あ、お前、今お姉様に傷を付けたな)
しきみはぎりと敵を睨む。
「首をはねてやりませう」
ダークムーン。闇の月が敵をほの暗く照らす。スケフィントンが、ヨルを閉じ込める。
「お姉様を傷つけたのだから罪を償え!」
『こんなの、予定していませんでしたわ!』
ひとまずあそこでお茶会をたしなんでいるお嬢様を襲って――。しかし、そのお嬢様は逃げようともせず、スッと立ち上がった。
それは、お嬢様ティータイムをたしなむセララお嬢様だった。
「いきますわ! セバスチャン、下がっていなさい」
概念執事を下がらせながら、踊るように華麗に剣を操る。
「何!」
「百花繚乱! ギガお嬢様ブレイク!!」
呼び寄せたお嬢様力が、セララの聖剣ラグナロクへと集まっている。そしてそれがダイレクトに――さく裂した。
(なら――)
夜が狙ったのは瑠璃だった。しかし、オデットが其処へ立ちふさがる。
いつかの、再演。
「何があってもきみを守るよ、瑠璃」
オデットのファントムチェイサーが、ヨルを追う。
「人との絆を引き裂いて喜ぶなんて、ほんとうに、うん、許せないよね?」
どうして、傷一つ、つけられない。
「あら、夜様は無粋ですわね。
どれほど嫉妬や破滅に導こうとも決して壊せない物がありますわ
そう! 私とオデットお姉様の愛ですわ!」
外三光――まばゆい、姉妹愛の力はきらきらと降り注ぐ。
「私の「特別」を傷つける事は何人たりともさせませんわ!
お姉様大好きですわ!」
全てを飲み込む、瑠璃の吸精結界。へなへなと腰が砕けてしまいそうな、そんなきもち。
「はい、逃げてー!」
イリスが割り込み、ブロックする。
「よくご覧ください。この脅威に対して、のばら様がどういう態度であったか。そして、それを看過するいばら様も――」
傷を癒す虚。
理事長のことをぜったいと信じている生徒たちに揺らぎが見えた。
「お嬢様同士が傷つけあうような悲しい展開にはさせないし、悪意から守るのが私の務め」
イリスの制服が切り裂かれる。思わず目を覆う一般生徒。しかし……。
その箱入りのお嬢様は――制服の下に、鱗を隠す。
『あなたにもあるでしょう! 美しいものを破滅させたいという衝動が! 美しいものへの……嫉妬が!』
「そんなみみっちい感情は置いておいて我が道を行くのですわー」
聖躰降臨によって生み出された神聖を、ヨルが侵した。
「何故なら美しいから!!」
これが。これが思いを超えたお嬢様力というものなのか……。攻撃すらも通さないというのか。
「お気づきかしら、綺麗な薔薇には"棘"があるという事をッ!!」
懐に飛び込みすぎた。夜がそう思ったときには、もうあまりに遅い。
イリスのハンズオブグローリーが、思い切りヨルを殴りつけていた。
「お願いするよ!」
オデットのスーパーアンコールが、李子お嬢様へと渡る。
(これはっ……この声はっ……)
希望の歌。
(癒し、励まし、共に打ち克てるよう、わたくしはまた歌を紡ぎます)
このような事態でも、令嬢としての振る舞いを片時も乱すことなくいられますように。そう、願いを込めて、気丈に前に出て、涙を隠すお嬢様方に天使の歌声を。
(悠子姉様が奏でる戦場を鼓舞する音色。蓮子の精密かつ凄烈な狙撃。わたくしたち三姉妹、それぞれの役目を全うするために支援を怠りはしませんことよ)
スーパーアンコールが、演奏のバトンを渡す。
「さあ、どうぞ、お姉さま方」
現れたヨルに対して悠が奏でるべきは、やはり、――音楽だったのだ。
(戦闘においても、わたくしのやるべきことは変わりません)
勇敢なるお嬢様の姿を、思い描いて――。
『――』
ヨルの不協和音は、演奏を打ち消すことなどできなかった。
「少々、お耳を拝借させていただきますわ」
抗えない。強制調律。構造を解析して分解された要素に、何かが割り込んだ。
(これは、これはっ……)
壊してしまいたい――その衝動をかき消さんばかりの清らかな思い。
「いきますわよ」
天使の歌声に乗って、天使が舞う。天穿つアーカーシャはついに解き放たれた。魔砲が高らかに演奏に加わる。
「ええ、綺麗な蒼薔薇には棘が付きものでしょう?」
翼を広げ、空へと飛び立つ。
「穢翼・宵闇」。曲調が僅かに変わる。――崩折れよ、頭を垂れよ、眼を鎖せ。 我は、汝が帰り着く家成れば。 その歌は狂気を蝕ませる呪詛の歌。
『があ……っ、ああ!』
苦しむヨル。周りに、苦痛を振りまきながら――。
あの演奏を、止めなくては。そう思って刺を飛ばしたが。
「無粋な真似は許しませんわ。私はレイリー。悪い夜妖にはお仕置きですの」
武装化四肢(アームドコンテナ)が、それを受け止める。いったいどこから――武器は秘すもの、だ。レイリーが盾となり、攻撃を防ぐ。防ぎ続けて、一歩も引かない。ただ、華麗にまっすぐに受けて、舞うように。
レイリーを狙うヨルの上から、白百合の首を狙った、落首山茶花が降り注ぐ。レイリーはただ、祈るようなしぐさで、聖なる光を放ち、お姉様へと力を差し出す――聖躰降臨を受けたミーナが頭上から舞い降りてきた。
「誠に残念ですが、私に精神攻撃は効きません事よ。何故ならば、愛するレイリーが傍にいるからですわ!」
「っ……」
「ああ、レイリー。少しよろしいですこと?」
ここで一発、姉妹愛のなんたるかを披露、だ。ミーナはそっとレイリーに口づける。
「……お姉様、皆さまが見てますわよ」
頬を染めるレイリー。
「あなたもこうされたいのではなくて?」
目覚めを告げる、アラーム音に、白百合ははっとした。
ファントムチェイサーが、白百合へと降り注ぐ。
『間に合いましたわね!』
ワルツの登場だ。
「可愛い妹達を傷物にされちゃ堪らないもの! みんなのコトはボクが守る!」
火夜の大太刀「七色宵華」が風を切った。
ヘイトレッド・トランプル。……妹たちに囲まれて。
姉妹のパワーが、ここに集まっていた。
「逃がしません」
しきみのファントムチェイサーが、夜を砕いた。
『あああああ――どうして、どうしてなの、浄化されてしまう! どうして――』
「確かに、貴女は凄腕のお嬢様でした――でもそのお嬢様力は間違った強さ。願わくば……次の生では善きお嬢様として生きられますよう」
メルランヌが楚々として祈りをささげる。
●学園のその後
「みなさま、お疲れ様でした」
「もう一曲、よろしければ聞いていってくださいね」
「どんな曲がよろしいでしょうか」
「そうですね。終わりよければ全てよし、そう思えるように明るい曲を……」
明るく凛々しく鮮烈に。
(下を向いていてはいけませんもの)
福音三姉妹の歌が、校庭に響き渡っている。その音色が、どれほどお嬢様方を元気づけただろうか。
「ご機嫌よう、イリス様。お怪我のないようでなによりですわ」
「ご機嫌よう。なんてね。お嬢様って、なんだろうね」
イリスは間違いなく洗練されたお嬢様だったが――それは、生まれに由来するものだけではないような気がした。あそこでともにヨルを退けた、お嬢様方が持っていたもの。それは。
「きっと、誇り、だと思いますわ」
「火夜お姉様!」
「やあ、大丈夫だった?」
妹たちはわっと胸に飛び込んでくる。
「大丈夫だよー。ね?」
心配なんてかけたくはない。だから、今は微笑むのだ。
「しきみちゃん、お疲れ様」
スティアお姉様の、その一言で、しきみはいくらでも頑張れる気がする。
「のばらさん、おはよう!」
声をかけるリディア。
「お、おはようございますわ」
ふいと顔を逸らすリュコス。
「ふん! そちらの庶民も、おはようございますわ!」
(あれ?)
はじめてあいさつされた気がする。
のばらはびっくりするほどに大人しくなった。しおらしい――とはまた違うが。
「いったい、あの騒ぎはなんです? 減点を――」
「理事長――」
理事長につきつけられた視線は、厳しいものだ。
(あら、あらあら――従順に評価される側だと思っていただろう娘たちが、反抗を覚えましたか)
この学園は、変わろうとしていた。
「……――お嬢様、か。強いんだね、女性達は……」
あれほどのことがあったというのに、もう笑顔を取り戻している。フェルディンは関心しきりだった。
「よし、このことは忘れよう。飯食って帰るぞ」
プラックは学園を背にする。
「ふふん、じゃーん!」
セララの取り出した『みらこみ!』
「皆様のお嬢様っぷりは私のギフトで漫画にしておきましたわ。
全員に一冊ずつ配布しますので、記念にどうぞ」
画風は少女漫画風。美化200%のまつげばちばちの一冊。
「十冊ください」
すかさず手をあげるしきみ。この書籍は『聖典』として、多くのお嬢様方に流通することとなる。
「ふむ、悪くない」
楽しむたまお姉様であった。
「お嬢様として学び舎に通うのは……なんだか、楽しいです!
練達のことはまだあまり知りませんが、不思議で未知に満ち溢れている。素敵です!」
微笑む椿。
「あの、折角ですし。これをきっかけに汰磨羈様をこれからもたま様とお呼びしたいです!」
「ふむ、好きにすると良い。しかし――中々に良いな、椿の制服姿は」
「ひぁ……まっすぐ褒められると照れちゃいますっ……」
そっと、髪をすくう。
「このまま、私のギルドにお持ち帰りしてしまいたいくらいだ」
「お、お持ち帰りっ……!?」
「……ふふ、冗談だぞ、椿。」
「 って冗談ですか……もうっ」
たまお姉様なら、いいですよ。だなんて――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
大変お待たせいたしました。
百花繚乱、さまざまなお嬢様方が見れて私とても幸せでしたわ!
お楽しみいただけると幸いです!
GMコメント
布川です。ご機嫌麗しゅう。
あなたもお嬢様。私もお嬢様。みんなお嬢様です。
●やること
フェーズ1『お嬢様力を発揮』
学園でお嬢様力を存分に発揮した学園生活を送りますのよ。
皆さんがお嬢様であることを知らしめるのですわ。
フェーズ2『襲いかかってくる悪性怪異夜妖の撃破』
実は『白百合 夜(しらゆり よる)』は、悪役令嬢の概念から産まれた怪異ですわ。
お嬢様力を発揮していると最終決戦になりますので、お嬢様力を発揮して倒しましょう。
お嬢様力と姉妹の力――見せつけてさしあげますわよ!
●お嬢様is何
あら、そんなこともお分りになりませんの?
かっこよくて憧れちゃうようなものなら誰しもがお嬢様なのですわ。
性別? それとこれと何の関係がありますの?
●敵
白百合 夜(しらゆり よる)
「あら、私にかまっている場合ではないのでは?」
白髪の美しい少女。……謎の転校生、とみせかけて、正体は、この学園に試練をもたらしているヨルです。
理事長とは違い、「人と人の関係を引き裂くこと」にこの上ない喜びを抱いています。
おかげで何人もの姉妹(後述)が破局しており、学園内の空気は最悪です。
その能力は「(一般生徒に)違和感を抱かれないこと」と、「少しの間であれば他者をあやつれること」。
お嬢様に与える試練の形は様々。
それは時として間抜けで、時として苛烈でしょう。ヨルの妨害に負けないようにお嬢様力を発揮しましょう。
・食堂で無傷で食べきるのが難しい料理を出す(クロワッサンやカレーうどん)、あるいは頼んでもいないのに大盛にされる(食べ残しなどお嬢様のすることではありませんわ)
・「ごめん、あいつのこと……好きだから、貴方とは姉妹になれない」と断るときに本命が「好きだから」だけ都合よく聞いて泣きながら去っていくように仕向ける。
・体育の時間に操ってケガをさせる
ほか、様々な嫌がらせを行います。
とくに精神的なものが多いようです。恐ろしいですわね。
「嫉妬」や、「破滅」、黒い感情が大好物です。波乱を引き起こそうとしています。
数々のお嬢様を目撃し、「このお嬢様には勝てない」と感じたところで、正体を現して襲い掛かってくることでしょう。
弱点は例によって姉妹愛です。そしてお嬢様力。
●登場NPC
宇津呂義宮のばら(うつろぎみや のばら)
「あーらっ、庶民のくせに、よくも顔を出せたものですわねっ!」
この学園の理事長の娘です。
威張りんぼ。こっちはこっちで嫌がらせしてきます。
目立ちたがり屋で、目立つ転入性が気に入らず何かと絡んできます。わざと花瓶の水をかけてきたり足をかけてきたりするかもしれません。クラスメイトが急に無視をするかもしれません。
いざケガをさせたら慌てるくらいは小物です。
詰めが甘い面があります。
まだそっちの気はありません。
宇津呂義宮いばら(うつろぎみや いばら)
理事長です。
趣味は花を愛でること。
娘よりも大人で狡猾で感情が表に出ません。
無駄に二人で掃除をさせたり二人で倉庫の整理を言いつけたりうっかり図書室のカギをかけちゃったり、なにかと要所要所で理不尽なうっかりをすることがあります。
しかしひねくれているだけで、悪意は……たぶん……ないんじゃないかな……。
ハピエンが好きです。その前に立ちはだかる困難が好きなだけです。
●私立プロメテウス百合女学院
再現性東京2010に存在する全寮制の女子中・女子高・女子大(併設エスカレーター式)。
男子禁制の、いわゆるお嬢様学校ですわ。
男子禁制とはいっても条件は”お嬢様であること”ただひとつ。
言い張ってくれればそれがお嬢様ですわ。
心が清いお嬢様は信じます。理事長もおっしゃっていました。大切なものはお嬢様としてのふるまいであると……。
多くの有力者を輩出する名門校であり、運営資金の多くは寄付金で賄われています。
・姉妹制度
このプロ百合女学院には「姉妹制度」がありますわ。誰かただ一人のお姉さまと妹を定めてお手紙を交換したりするやつですわ。
二人三人、姉や妹を作る不実なお嬢様もおります。
いいんですよ楽園を作り上げても。
お嬢様らしいご活躍をされると、下駄箱がパンパンになりますし調理実習でクッキーを渡されますしとにかく大変です。クッキーも炭だったりするかもしれない。たいへんだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
ご依頼人のお言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もありますわ。お嬢様力is何?
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