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シナリオ詳細

<希譚>石神地区来名戸村

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●音声データ ■■■■/09/30
(秋祭りの喧噪と祭り囃子が聞こえてくる)

 ――かごめ かごめ かごのなかのとりは――

(ぶつり、と大きな音がして場面が変化したようなノイズが入り込む)

「あの子達は何処に言ったんだか。来名戸村?
 ああ……申の日かい。仏さんにならんとええけど。ワカイシュはこっちに来てるんかい?」
「うん」
「そうかいな……」

●『去夢鉄道石神駅』
 深夜1時23分に『希望ヶ浜中央ターミナル駅』より出発するとされる心霊列車。利用者数減少により廃線が決定した石神線の石神駅に辿り着くという噂――その列車は異界に繋がっているだけではなく都市伝説『猿夢』を顕現させるものであった。
 電車に乗った者だけが辿り着く異界には土地神を思わせる大木と石剣、そして白蛇の巻き付いた夜妖が祭り囃子と共に駅へと練り歩いていた。制限時間を決定し、出来うる限りの情報収集を行った特異運命座標だが――

「……おはようございます。良き朝になりましたか?」
「それほど」
 小さく呻いたのは石神駅で鳴り止まぬ公衆電話の怪異と語らったロト(p3p008480)であった。『夜妖の情報を口にした』彼は意識を失い仲間達に保護されて居たが、異界より脱出した後も一晩眠り続けたそうだ。
「ここは?」
「音呂木神社、つまりは私の家ですよ。余り良いとは言えぬ状態でしたから……」
 音呂木・ひよの曰く『非常に不安定』であったというのだ。石神地区へと向かった者の中では自身のaPhoneに見知らぬ人間のSNSアプリのログやWeb辞典のURL、はたまた石神関連のニュースが突然届いたと言うのだ。
「倒れていたのは僕だけ――ではなさそうだね」
 うう、ううと小さく呻く声を上げた楊枝 茄子子(p3p008356)はがばりと大きな音を立てて起き上がる。脂汗に濡れた彼女の額を拭っていたバスティス・ナイア(p3p008666)は「神域を掘り返しちゃうからだね」と肩を竦めた。
「会長は何か見つかると思って、神域らしき山の辺りを掘り返したら、それから何かを見て……あれ? なんだったかな……申(サル)……?」
 頭を抱える茄子子に水を差し出しながらけろりとした表情のバスティスは「石神市街より山手に向かえば人工の灯なんて何もなかったよ。その辺りに石碑が存在してその奥からは異質な雰囲気がしてた」と淡々と語る。
「ええ、異質? 会長は普通の山だと思った」
「『神様』の勘かも知れないね」
 確かに土葬を行う地域である石神地区ではその遺体を集合墓地に埋めているわけではなく――ある一定のルールに基づいて葬儀を行っている可能性は拭えない。
『何かを見てしまった』彼女の傍らではぼんやりと虚空を眺めるクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)が「もう一度」と譫言のように呟いた。
「……あと、もう一度だけ――」
 彼女は故人の声を『聞いた』という。聞こえるはずもないその声が、公衆電話を――石神地区に存在したものを通して。
「行かねばならない」
「うん……会長も、呼ばれてるんだ」
 どこに、と。ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は呻いた。

「来名戸村……」

●『来名戸の歴史』 132ページ
 来名戸村は希望ヶ浜県石神地区に存在する小さな村である。この村には旅人たちが持ち込んだ旧い風習が存在している。ベースとなって居るのは民間信仰ではあるが混沌世界による召喚の影響で様々な神が融合したものと思われる歪な信仰が存在した。

●『来名戸の歴史』 150ページ
 来名戸村では例年9月30日に秋祭りが行われる。その際は来名戸村の神域なる山々に立ち入り、神へと挨拶を行うことが可能である。然し、立ち入る際は振り向いてはならず、呼び声に応えても、呼んではならない。何者かが憑いてきてしまうから。

●9月30日
 行かなくてはならないと、数名の特異運命座標が口にした日時は9月30日の22時であった。
 希望ヶ浜より送迎され、石神地区に辿り着いたのは21時50分。行かない方が良いのでは、とひよのは意見を行ったが『行かねばならない』と主張する者はどうしてそう考えているかは分からない状況なのだという。どうしても、行かなくてはならないと心が急いて足を其方に向ける。
「付きましたが……それからどこへ……?」
 周囲は殺風景な田舎道が広がっている。少数残った石神市街の住民達の姿は見えず、寧ろ何かから隠れるように息を潜めている印象さえ受けた。
「呼ばれてるよ」と茄子子はそう言った。
「うむ。呼ばれて居る。声がする……」
「聞こえませんよ?」
「嘘」
「嘘ではないです」
「こんなに? こんなに鮮明なのに!?」

 ――コイヨウ

 聞こえないとひよのは首を振る。

 ――コイヨウ

 そんな声は聞こえないと告げたひよのにロトは「コイヨウって、聞こえない?」と反芻した。ひよのには見えない。それでも、あなた には見えている。
 まるで嘗ての秋祭りのように提灯が立ち並び、石神駅から来名戸村へ――ダムの底に沈んだ村へ続いている。

 ――コイヨウ

 進むという彼等と同じように声が聞こえる者、提灯が見える者、『コイヨウ』と口にした者は来名戸村の方向に吸い寄せられるように進む。
「皆さん 、どこへ……」
 ひよのは特異運命座標の列について、来名戸の山を登る。石神山上ダムしか存在しない山だ。整備されたアスファルトも掛けて茂る草が煩わしい。巫女装束を揺らしひよのはあなた の名前を呼んだ。呼んだはずだった。あなた は振り向けない、ひよのの声なんて聞こえない。この喧しい程の祭り囃子の音と、誰かの呼ぶ声しか、もう聞こえないから。

「特待生 さん!」

 ダムに辿り着いた時、ひよのが名を呼んだあなた の姿はもう、無かった。
 見失ったのかと彼女は走る。それでも、元の場所に戻ってくるだけだ。
 この先は何が有ったか――地図から消えた一つの村が、底には存在した筈だ。

●『来名戸村の儀式』 35ページ
 秋祭りが行われている。中央には来名戸神社が存在している。
 来名戸村の中央に鎮座する招霊木はご神木と呼ばれ、周辺に広がる山間部の一部を鎮守の森として認識している。この根元には神の化身なる蛇が住まうとされているそうだ。
 この地は再現性東京地区の『外』に繋がる場所に存在するという事から、そちらの縁を切ると面も大きい事が推測される。塞の神としての認識も強く希望ヶ浜の発展に対する願いが込められているものだとも考えられる。歪に神が習合した結果、その奉り方も特異な発展を遂げてたこの地では例年、秋祭りの日のみが神域に立ち入ることが許される。
 鎮守の森の最奥――神域と呼ばれしその場所は申の日に亡くなった者達を土葬し神へとその忌むべき日に亡くなった穢を祓って貰う事ができると考えられた。そして、同時に死者は神へ仕え、共に仕える者を鬼籍へと導くそうだ。来いようと手招き、神域の中で神隠しに遭うという。しかし、時折、呼べずの者が出るらしい。呼べなくては神のお遣いが減り、そのお心に背くことになる。そうはならぬ為に神域では呼べずの者が出た際には人柱が立てられた。秋祭りはその霊魂を鎮める目的があるともされている。

●『ダムに沈んだ場所』
 ひよのと分かれてから少し経つ。祭り囃子が続く道を進めば、皆、顔に紙片を付けていた。
 太鼓と笛の音鳴り響き、村の中央、神社とその神域に向けた方向に祭壇が設置されている。果物や食べ物が並んでおり、その周辺では神酒を配る者の姿も存在した。
 周囲には猿の置物や地蔵が並んでおり、誰も彼もが楽しげな様子に見える。
 祭り囃子に目をやれば小猿が踊り、厳かに何かの神輿を背負って進んでいた。誰が見ても、そう、あなた が見ても此れは普通の秋祭りではない。だが、どうしたことか気分は高揚し、この村の中央まで足を進めてしまったのだ。
 ……戻り方は? 外へ向けて歩けば良いのかも知れない。

 ――コイヨウ。

 今、何か聞こえましたか。何か見ましたか。振り向いて良いのですか。
 そもそも、あなた が読んでいるその文献とは誰が書いたのでしょうか。本当にこれを最後まで呼んだときにあなた は現実の世界にいるのでしょうか。
 ……後ろの正面だぁれ?

GMコメント

 夏あかねです。<希譚>は『希望ヶ浜関係』のシナリオより無差別に蒐集した『皆さんのアフターアクション』で派生していく長編シリーズです。
 その石神地区編です。もしかすると別地域へごを招待することもあるかもしれません。皆さんの素敵なアフターアクション、お待ちしております。

●シナリオ達成条件
 ・誰か一人でも正気の儘で『お祭りから帰ってくる』
 +抜け出すだけなら容易です。ソレを『見て』『聞いて』『話して』『振り向いて』しまわないように。
 「調査を行わねば異界は消滅しない」であろうという見方が強い ※努力条件

●石神地区
 詳細は拙作『<希譚>去夢鉄道石神駅』をご覧下さい。
 特異な信仰で成り立っている希望ヶ浜と練達のハザマの地域。石神は周囲を山が存在する田舎の村です。メインとなる部分を石神中央、または石神市街と呼びます。山手には『石神山上ダム』や『旧山道』が存在していました。
この村は希望ヶ浜の中でも特に田舎や土着信仰にスポットを当て作られたものであり、特に今はダムに沈んでしまった来名戸村では外界を隔てるこの山を岐の神とし神域であると定義し、歪な信仰で成り立たせているみたいです。

●来名戸村
 外界を隔てる山を岐の神として神域とし、その中腹に存在した村。今は『石神山上ダム』の底――にありますが、皆さんはどうやらそこにいます。しかも、ダムが出来上がる前の状態で……。
 音呂木ひよのにはダムにしか見えませんが、皆さんには普通のダムと、駅から続く提灯と祭り囃子の音色が聞こえています。
「死者は来名戸の神域なる山麓に全てお返しする事と決定され、その御霊が神の許へと辿り着く様にと祈りが捧げられる。例年の秋祭りの頃になれば来名戸神社より石神中央市街へと神の遣いとして猿の仮装をして練り歩く風習があるそうです。この界隈では猿を神の遣いとして好む傾向があるらしい。庚申信仰との習合が理由であるとされる……」と参考文献にもあります。
 また、意図的にこの地域の参考文献は消滅したものが多く、数は限られています。地図からも消えているので……仕方ありませんね。
 村には一つだけどこかに公衆電話が設置されています。電話ボックスの中では耐えず鳴り響いているようです。それはまるで『現実世界』との繋がりのように、存在を誇張していますね――

●神域・来名戸神社
 神社の中央にはご神木が、そして、『石神駅で見た夜妖のような姿の土地神の分身』が神輿に担がれています。
 神域に進めば何処からか声が聞こえます。それは死者の声、過去の残滓、思わず振り向きたくなる事ばかり。「助けて」や「こっちだよ」、両親や恋人、殺した人の声……鮮明に、聞こえますね。
 最奥に存在するのは清廉なる来名戸の滝であり、そこでは人柱を立てる儀式が行われているようですね。

●音呂木ひよの
 音呂木神社の巫女。皆さんを石神地区にて待っています。
 彼女は、辿り付けなかったみたいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。……二度目は、どうなるかな。

 それでは。いってらっしゃい。

  • <希譚>石神地区来名戸村完了
  • GM名夏あかね
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月03日 22時01分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
セララ(p3p000273)
魔法騎士
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
夕凪 恭介(p3p000803)
お裁縫マジック
武器商人(p3p001107)
闇之雲
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ロト(p3p008480)
精霊教師
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
望月 凛太郎(p3p009109)
誰がための光
ポワゾン・ダヴリール(p3p009110)
milk fed

リプレイ

【報告書を提出します:2020/09/30
 報告書の繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。】

●山に棲むと謂う事(著:佐伯製作所 石神研究室)
 石神地区は現代日本の『田舎』にフォーカスを当てて作成された拠点の一つである。其れらしさの付与の為に土着信仰というスポットを住民に与えた所、面白い結果が得られた。
 突如としての召喚と余儀なくされた異界での生活に馴染めぬ者達は架空の神を存在しているかのように祀り始めたのである。希望ヶ浜には精霊と似た悪性怪異と呼ばれる存在が事象より発生する事が多い。それ故に、この地区では『架空の伝承』から組み立てられた悪性怪異:夜妖<ヨル>の発生が頻繁に観測されている。

●来名戸村
「ひよのちゃん」と『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)はそう呼んだ。
 石神地区に辿り着いたのは21時50分。気が進まない音呂木・ひよのに「何かに呼ばれている」と告げたイレギュラーズ達はその呼び声に導かれるように山道を歩いていた。ざぐり、ざぐりと落ち葉を踏み締め千切る音が、耳に付いた。先程まで名前を呼んでいたひよのが突然に黙りこくった事にアカツキは不思議そうに「ひよのちゃん?」と振り返る。
「……あれ?」
 来名戸の山は明るい。沢山の提灯が、祭りへの道を飾っている。風の音に紛れて誰かに呼ばれ続けながらアカツキは騒めく草木の惧れを機敏に感じ取った。
「ひ、ひえ……は、はぐれたのじゃ。皆どこおおお。
 わ、妾こういうの苦手じゃが更にガチっぽいやつが更に駄目なのじゃ。帰る、おうち帰る……!!」
 慌て、周囲をぐるりと見回せば、「居りますよ」と静かな声音で『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は返した。なだらかになったばかりの山道は人の通り道を思わせ、整備されている。だが、欠けたアスファルトに刻み込まれたトラックのタイヤ痕は随分と昔のようにも思えた。
「お、おお……なんじゃ。ぼーっとしておっただけか」
「いいえ。どうやら、音呂木様の姿は見えませんね。後――先ほどまで、『ここはこんなに明るかった』でしょうか?」
 揺らぐ、提灯に照らされて。まるで導かれるように道が繋がっている。アカツキは首を振る。狐にでも化かされたかのような奇妙な感覚に、周囲を『歩む』イレギュラーズは皆揃って、その灯りが見えていた。この地へと訪れた者の中で『何かを感じ取った』者だけが此処へと辿り着けたのだろうか。
「……一先ず、動かなくてはなりませんね」
 行きましょうか、とリュティスに促されてアカツキは頷いた。村の子供たちが走り回っている。まるで、日常の風景。楽し気に、声を弾ませ練り歩く。

 ―― 行きはよいよい 帰りは怖い 怖いながらも 通りゃんせ 通りゃんせ ――

『その場所』が何であるかを考える事さえも、タブーであると『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は『認識』していた。否、それを認識する事さえも、そもそも脳がその場所の存在を是認しているかのようである。
「ふむ、練達にはこんな場所もあるのか。……いやここは練達なのか?」と口にした言葉を飲み込む様に一度大げさに嚥下する。言葉を咀嚼し、無かった事にするように周囲を見回せば、楽し気な祭囃子に混じり幾つもの笑い声。
「いやぁ僕としてはソレをソレという存在と認めてしまう事でアウトではないかと思っているから
 ソレが何であるか考えないようにしよう。あと、ほら。祭りって楽しむものだろう?」
 だからこそ。一人歩き。傍に誰かが居た方が安全だと言う者も居るだろうが、ランドウェラは考えた。『一人で祭りを楽しみたいのでね』と。それは建前である。人間は建前を述べて本音を隠さなくてはならない。特に『こんな場所』では其れは殊更に顕著にだ。
 ――仲間の、友人の、同行者の、聲がしたならば。
 思わず答えるかもしれない。ならば、その耳は何も聞かぬ様に、それが『あるもの』として扱わぬ様にと無理矢理にも全てを無かった事にした。
 祭囃子に呑まれぬ様に、『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は往く。先ほどまで心配性にも声を掛けていたひよのが居ないのだ。その時点で『彼女が聞こえない』と言って『自分が聞こえていた』のだからここが隔絶された場所である事が厭と言う程に理解できる。異世界に存在した駅、去夢鉄道石神駅の如く――音呂木・ひよのという女がこの場所には居れないのだとすれば。
(――楽しい物でもないだろうな、この祭りは)
 恐らくは、これは『本来ならば実在しない村』だ。そもそもに置いて、この村はダムの底に沈んでいる筈なのだから。
練り歩いているのは普通の人間に見えるが、皆、髪隠し――頭から白布を垂らしてその顔を見せないようにしている。それがその場所の風習なのだと言われればうなづけるが、猿の仮装をした人間たちの中に混ざった異様な存在にエイヴァンは声を掛ける気にもなれなかった。
(まともなもんじゃないだろうな。……不用意な接触は避けた方がいいか)
 観察を行うだけなら容易だ。だが、適度に視線を逸らす事は忘れない。
 何故ならば。一点を集中して見つめてみよう。其処に点があるだろう? その点が僅かに動いたとしよう。しかし、君は気づかない――そうして物語に取り込まれる可能性が存在するのだ。
 先ず、エイヴァンが気を付けたのは余計な声が聞こえたとしても見ないし、振り返らない。寧ろ、聞こえて居ないと自身に言い聞かせる事だ。話しかける事もそれ以上も耳を傾ける気もなく、声の方向を向かない様にと注意を怠る勿れ、である。
「……人柱の数やその年齢層、性別、祭りそのものの形態……。
 とりあえず、何か祭りの主軸になりそうな要素、特に詳細に書き記した文献や碑文があると尚良いが……」
 そうした物はないのか。寧ろ村が意図的に残していないのだろう。外に残った情報も伝聞でしかなく――この地の風習は部外者にとって忌むべきものである事をよくよく理解しているかのようだ。
(……ふむ、声に誘われて踏み出してみれば……随分と妙な場所に来てしまったな。
 情報屋としては、早速調査と行きたい所だが……慎重に進めるに越したことはない。
 正直分からぬ事だらけだが、一つでも多くの情報を持ち帰るよう努めるとしよう)
 声を出す勿れ。村人の声も祭囃子もまるっと聞こえて居らず仲間の声も直ぐに答えることはしないようにと『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は気を配った。

 ――決して振り返らない。

 後ろに誰が立っているか、分からないのだから。『かごめかごめ』と云う児戯には様々な逸話がある。神示説、囚人説……たくさんの信仰が綯い交ぜになっていると聞いていた『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)にとって、その場所は異質そのものであった。
 純種――混沌世界の土着人としての文化も同じように取り入れられているのかと周囲を見回す。混沌を拒み、元居た故郷に閉じこもる『閉鎖的な国家』深緑の出身らしい着眼点である。だが、この世界は深緑さえも拒んでいるように思えた。
「……まあ、『ここ』での常識やお約束は僕にはわからないけどさ」
 祭囃子の音に耳を傾けて、小さく息を吐く。滝や神社などの神域に踏み入れる訳ではなく、『もともとは人が生きていた人の領域』から出る事を拒む。
「超常的なよく分からないものの声を聞くのはスレイ・ベガとしても日常茶飯事、行住坐臥だ。聞いてみるか……」
 鎮守の森、そこにいるかもしれない存在に対して精霊、植物、動物との疎通能力で非言語レベルの意識を感じ取って見る――だが、どうだろうか。そこに何が存在するかもわからぬ儘に、耳を傾けて良いのだろうか。

 ――……。

 何かの息遣いがルフナの喉元へと掛かった。生暖かい気配だ。まるで背後にべったりと人が引っ付いているかのような。温い、空気が頬を撫でる。ルフナは黙する。視界に入るものは得であり、一つの物には注目しないようにと目を伏せる。聞くのは人の声という『音』だ。言葉ではない。振り向きたくなる衝動は、抑えた。電源の切れたaPhone越しにも見てはならぬものがそこに存在している。
 黙した儘、ルフナは寝食を拒絶した。ただ、終わるまで見つめ続ける。自分自身がこの世界で『混沌世界』の住民である事を忘れてはならないとそう、念じ続けた。
「今日は何の祭り何だい?」
「秋祭りだよ。『外』の人かい?」
「ああ。噂で聞いてね。何やら……神様がきている? とか」
「ああ。ワカイシュが練り歩いているだろう? それで心を鎮めて貰うんだ」
「ワカイシュ? ……ふむ。ここは猿と蛇を大事にすると聞いたが」
 会話をしているうちに周囲から取り残されたかのような感覚がランドウェラを襲った。果たして、彼が『何者であるか』は定かではないが――笑っていたと思えた店主もその顔に髪隠しをだらりと垂らしている。記念に持って帰りな、と手渡された木彫りの人形はどうした事かじいっとランドウェラを眺めていた。
 どうした事か時計は2020/09/30の22:00を差したまま微動だにしない。その様子を眺めていた『神鳴る鮮紅』マリア・レイシス(p3p006685)は『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)と共に祭りの調査を行っていた。鳶がぐるりと空を舞う。
(同僚の先祖が古代国日本出身で良く聞かされた神話にあるような黄泉に近い空間なのかな?
 『見て』『聞いて』『話して』『振り向いて』しまわないように細心の注意を払おう……少々リュコス君の不安定な精神が心配だね。私がしっかりしなくては……)
 気丈にも、帰る事を最優先に考えるマリアはリュコスを心配していた。
「マリアおねえさんと同じ気持ちで危ないことはするけどなんとかみんなで帰りたい。
 なんだかとてもいやな感じというか……鬼更木駅でひとりになったときと同じ感じというか」
 呟く。リュコスは悍ましい気配をその身でひしひしと感じていた。気付いた頃には村祭りの中に二人で立っていた。『こいよう』と呼ばれるのが心地よくて、つい、足が動き出しそうになる、それがとても恐ろしい――こいよう、とは何処へ?
「……情報を集めるならひきずられて帰ってこれなくなる人を出さないためにだれかと行動した方がいいと思った。
 けど、だれかといないとほんとうにあっち側にいってしまいそうな気がして怖い……だれでもいいんだ。ぼくをひきとめて」
「ああ。引き止めるよ」
 そっと、リュコスの手を握ったマリア。リュコスは小さく頷いた。髪隠しで顔を隠して祭囃子の喧騒を楽しむ者に、立ち並ぶ屋台を眺める子供たち。『猿』は踊り練り歩く――馨しい肉串は香草で臭みを消したのだろうか。山の恵みを分け与える村人たちに唾液が正直にも反応を示す。
 こういう場所では食べてはいけない。そう認識しているからこそ忍び足で歩むリュコスと共にマリアはぐるりと回って見せる。
「いいかい? リュコス君。呼ぶ声は基本的に無視するしかないまぁ。まぁ私にはヴァリューシャがいるから全然平気だし……
 リュコス君、引きずられてはいけないよ? こんなところに知り合いがいるはずはないからね? 心を強く持つんだ」
「……でも」
 誰に呼ばれているかが、リュコスには分かっていた。理解している事が罪だと言うならば。当り前の様に人間の脳が否定を出来るわけではない。
『あの場所においていったみんな』『殺されたみんな』――ぼくの、きょうだい。
 リュコスは握っていたマリアの手が灼ける様な熱さを発していると感じた。
 そうだ、リュコスは期待していた。『みんな』に遭えるのではないか、と。また一緒に誰も傷つけられずに過ごせるんじゃないか、と。
「でも――」
 やらなきゃいけないことがある。皆だけの空間と変わったとリュコスはやけに熱い掌を思わず払い除けた。
「ち、違うんだ。君たちがきらいになったわけじゃない。
 君たちはここにいないはずで、ここはぼくの帰るところじゃない。
 君たちを傷つけたくない。お願いだからぼくにかまわないで。ぼくは帰るんだ」
 冷え切っていく左手の指先がやけに悴んだ。握りしめていた誰かの手。誰か。誰であったかをリュコスは最早憶えて居ない。
 心地よい祭囃子の中で、ふと、その灯りを双眸に映してから唇は、音を立てた。

「――……あれ? ぼくの帰るところって、どこだっけ」

●https://dohatter.com/■■■/
 秋祭りなう! 猪の香草焼き串だって! -22:05

 ……写真が添付されている。リュコスやリュグナーの姿がそこには映っている。
 鮮やかな祭囃子の中で、皆、楽し気に練り歩いている。誰かの手を、握って。

●来名戸神社
「初めて受けた依頼が、背筋がゾクゾクするもので、ちょっと後悔しているけれどワクワクでもゾクゾクしているからおあいこだね」
『milk fed』ポワゾン・ダヴリール(p3p009110)は秋祭り会場を歩み、村の中心に存在する神社へと向かっていた。
 信仰の対象たる気を中心に据え、その裾野の森を神聖なる場に定義する。それはルフナが言う『故郷』――深緑の文化を思い起こさせる。しかし、彼方と比べれば様々な相違点がある。
「神さまは蛇としながらも、そのお遣いは猿……。
 よく分からないから、そこを調べたいと思うんだよね。
 お猿は山と村、あの世とこの世を行き来する神の眷属。
 どちらかと言うと悪鬼や災いへ来るな来るなと押し止める役割があるんだけれど。
 ……ああ、そうだね。僕の耳にもずっと響いているとも。コイヨウってね」
 聞こえていた。こいよう、こいよう。この地は様々な風習が混ざり合い、土着信仰として『定義』された一種のフィールドだ。そう思えばポワゾンとて考察に力が入る。
 そう、この地は歪に神が習合した結果、その奉り方も特異な発展を遂げているのだ。
「今日は禁足の解かれる日。神の世界と人の世界、あの世とこの世の繋がる境界の日。呼ばれるのはどこへやら……」
 無数に歩き回る仮装の猿たちに本来の『神の遣い』が混じっている可能性も存在している。蛇に関してはどうだろうか。何処かに存在しているのかもしれない。それを探してみたいのだ。
「今日は神様に挨拶が許される日なんだろう? なら、きちんと挨拶をしてこなきゃあね。周囲に倣って参拝してみようか。庚申待ってのは寝てはいけない日なのは僕も存じているよ」
 そう言って、本殿へ向けて足を進める。ポワゾンの脚には迷いはなかった。
「うーん、呼ばれるってこんな感じか。軽い精神支配を受けていた感じ」
 うーんと小さく呻いた『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は「はっきり言って不愉快だなあ」と呟いた。本来ならば異界の神格である彼女にとって『異界と云えども神様らしき存在』に支配されることは不快であるのだ。
「入ってしまったからには出て行かねばならない。でも、ただ出るだけだとつまらないよね」
 本来ならばダムに沈んだ筈の場所。澱みと停滞、昏い水底に存在したその場所は今は只人が練り歩く不可思議な祭り会場としてバスティスの目の前に存在しているのだ。
「淀み水は邪な流れを溜め込みやすく、水の底の異郷がある話もよく聞くね。
 うん、なるほど、ダムに沈む事すらも織り込み済みだったのかな」
 一先ずは神社の中を見て歩こう。祭りの日だから、こちらを覗き込む『御神体』の姿があるかもしれない。
 死者など珍しくはない。死者の国の猫神は心揺らがすこともない。縁無ければ、それは只の風切音。邪魔立てするものは問題ない――何があれでも『異能力(スキル)』さえ存在すれば関係はない筈なのだ。
「来名戸村。岐の神、くなどのかみから名前を貰った境界の村って事だね。
『来など』来てはならない村。外からも内からも来てはいけない。境界の地……今、『コイヨウ』と呼び寄せる怪となり、贄を求める邪神となっている。本来の役割と『反転』しているように」
 それは実に混沌世界的な『推理』であった。それを『聞いていない振りをしながら』『魔法騎士』セララ(p3p000273)は俯き加減で耳栓をして神社の祭殿を眺める。
 賽銭箱へと向き直り、ご神木に「彷徨っている亡霊が安らかに眠れますように」と祈りを込めた。
 ご神木へと供えたのは現より持ち込んだ飲み物と食べ物、酒にまんじゅうの各種である。
「うん、これでよし」
 神木の周りをぐるり、と回ってみる。普通の風景だ、とセララは感じた。
 だが、そもそも『この場所に普通の存在』が在る事が一番に可笑しいのだ。どうしてか、そんなことは簡単だ。この村は――イレギュラーズが普通に調査を行っているこの村は――『ダムに沈んでいる場所なのだから』
「気が付いたら妙なお祭りに迷い込んでしまいましたな……何か変な声も聞こえるし吾輩怖い! 帰りたい!
 とはいえ何も調べず帰っては仕事をさぼったと怒られてしまいますよな……怖いけど吾輩なりに調査をしましょうか」
 その体を縮ませてから『おかえりなさいませご主人様』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)は怖い怖いと呟いた。祭り会場では猿が躍って神輿を担ぐ。其れは見方によれば長閑な風景である。
「さてさて……見て聞いて話して振り向いてはダメでしたかな?
 ならば読むのは止められてないゆえー、猿の思考をリーディングですぞ!」
 ぐらり、とジョーイの体が傾いだ。何かが頭の中に流れ込んでくる。
「ここは引かぬ! 媚びぬ! かえりみ……いや省みるのは必要ですな。
 不穏な気配をちょっとでも感じたら速攻で逃げるが勝ちであります! 深追い厳禁!」
 ああ、だけど、首に何かが纏わりついている。何かの手のように思える。皺の刻まれた細い指がぺたりと首筋を撫でているのだ。
「そもそも吾輩の親の事も全くおぼえておりませぬし、殺した相手なんてのもおりませぬー、知り合い? ろくでもないやつしかいねぇ! そんな声より情報を持ち帰ってひよの殿にジョーイさんすっごーい! かっこいい! すてき! 抱いて! とほめてもらう事充填でありますゆえ! 言われなくてもすたこらさっさであります!」
 呼び声がひよのの声音で『すごーい! かっこいい! 素敵! 抱いて!』と云おうとも、ひよの殿はそんなことは言わないとジョーイは何度も何度も繰り返した。
 走り抜けていくジョーイの姿がすれ違う。セララはaPhoneを構えた儘、そっと、一枚撮影した。境内よりゆっくりと進んでくる彼女は――角隠しをした、あの彼女は。

●『来名戸村の儀式』65ページ
 来名戸村では未婚の儘で亡くなった者が連れて行かれぬ様に、棺へと花嫁人形を収める俗習がある。それは、神域で行われる土葬の儀式と同じく夫婦の契りもなく逝った者は神の許へと導かれ、全てが呼べずの者となるからだと言われている。その為に、死者儀礼の一環として続いているらしい。

●石神地区
「音呂木さん!」
 慌てたように走り寄ってきたのは無名偲・無意式校長のファンである定真理・ゆらぎであった。
「その……夕凪先生に頼まれて、手作りの人形を以てお祈りして欲しいって……」
「成程。そのお人形、可愛いですね。『女の子』ですか?」
「え? うん、そうですよ」
「祈りましょう。けれど、そのお人形はどうか『ダムの底へと投げ入れて』ください。
 此処では人型は危険です――それに、きっとそれが何かの突破口に為る筈ですから。いいですか? 投げ入れた後、決して振り向かないように」

●境内
『仕立屋』夕凪 恭介(p3p000803)は事前に自身の生徒であるゆらぎに『もしも異界に呼ばれてしまったならば忘れないでいて』と頼んでいた。祈りを捧げる事で、自身らの存在を現実へと紐付ける為である。
「神の姿はじっとみてはいけないわ」
 口にはせずとも、邪神降臨の儀式を思い出しては仕方がないのだ。いけにえを必要とするならば、血と肉が絡むならば、それが正常な結果をもたらす訳もない。
「この怪異はそれを成す為に動いてる。何処かに核や首謀者怪異が居るやも。
 ……誰が始めたか、何がこの村の信仰の始まりなのかを中心に探りましょう」
 そっと、己の髪の毛を一本忍ばせた人形を手にしてそろそろと進んでいく。霊魂疎通は奥の手だ。そんなものを使って『話してしまったら』とぞうと背筋に走る気配が一つ。
 鏡は捕まりそうになったならば怪異へ向けるが為。そうして脱出のための準備を整える。
(かわいがっていた元の世界の従姉妹の声がしても、いるはずもないし、あの子お化け苦手だから無いわ! 他のアタシを呼ぶ声は、ろくでもない声しかしないし、振り返る必要はないもの)
 ゆらぎが祈ってくれるから。それ故に、心を保って居られると小さく小さく息を吐く。吐き出して、そして進み出すその向こう側はまだ、美しい祭囃子が響いている。

 ――くちるさんご くじらのむくろ ぼくのなまえは――

「……いや、我は」
 初めに戻る。声が聞こえる。どこからか、コイヨウ、コイヨウと。行こうよと、歌う声が響いてくる。鈴の音が、転がっては楽し気に。『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は首を振る。死者の祭りの村を歩きながら、じりじりと鳴り響く電話を気にしながら奥へ奥へと進んでいく。
「……祭りとは、とても意味のある行いじゃ。然らばそれを見物すれば、……」
 視界が揺らいだ。
 祭りはハレの日――彼岸と此岸の境界。境界があいまいになる。輪郭がぼやけて器に僅かに水が差す。
 色々見て回りたい。歩み往く足は気づけばどこか駆け足に。

 ――いきたいと ねがうものはしにいたり しにたいと おもっていてもしねはせぬ
 いとしごたちよ あるがまま ちにみち ふえて しんでゆけ――

「神社。ふふ、面白いね。なんだかすごく呼ぶ声がする。
 神様はそこにいるのに、人はわざわざ祀らないとそれが見えないんだから」
 くるり、くるりと少女は踊る。まるで『片割れ』の如く、カタラァナの如く、少女の笑みを浮かべて、歌う。

 ――あるこう あるこう でこぼこ じゃりみち かきわけて
 ひとつふんだら にほすすめ さんをとばして しあわせよ――

 神様が、そこには存在していた。『神様を受け入れる器』と『それを祀る人』に別つその魂が、その刹那だけ混ざり合う。ぴたり、とクレマァダは脚を止めた。
「うん、帰らないと。僕は帰らないと。へんなの。『僕はここにいるのに』
 僕は、絶対に、僕(クレマァダ)を連れて逝こうなんて思わないのに。
 僕は真実じゃなくて、もしかしたら僕(クレマァダ)が自分を守るために心の中から寄せ集めた妄想かもしれない……でも、なら、尚更、きちんと守ってあげないと」
 首を振る。鳴り響く電話がやけに気になった。彼女が歩むその後をゆっくりと進むリュグナーは村人たちの心を覗いた。

 ――ワカイシュが来てるんかいな。
 ――ああ、恐ろしや。祭りで心を鎮めてもらわんと。

 それが生前の記憶だというならば大したものだ。リュグナーの足元が揺らぐ。どうして、と聞こえた気がして『誰かがこちらへと語り掛けた』感覚に冷や汗が伝った。
「何故だ、何故あえて危険な方に行くんだ! 何でも口に入れようとするな! 知らない奴に付いて行こうとするな! 赤ん坊か!?」
『はいはいバブー。いやでもさ、実際気になるじゃん。来いって言われてんだから行くっきゃないでしょ』
 騒がしくも一人でないならばより自由に動けるとでも言うように。『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の稔と虚は対話をしながら神社へと進む。イヤホンで流れる流行のポップスはこの村には余りに不釣り合いだ。
「木を触ろうとするな! そんなもの『覗く』からこそ祟られるんだ!」
 そう告げる稔に虚は『けど気になるでしょー?』とけらけらと笑った。覗き込み、そして、虚なる真実を戯曲として顕現させる。だが、その中身を確認する前に『それを覗いてしまった』ならば?
 稔は何かが背後に立っている気配をひしりと感じ取る。それが背後で何かを囁いている気がして――
『どうかなさったか?』
 ぐん、と現実へと意識を引き戻したのは『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が服を引いた感覚か。aPhoneに打ち込まれた文字に返答する様に同じく、筆談を返す。
『あ、ああ……いや、ご神木について調べていただけだ』
『成程……』
 咲耶は小さく呟いた。どうして呼ばれたのかを探る必要がある。此処も常識が通じぬ場所だ。それ故に――気を付けなくてはならないと気を引き締めていた。
「この場所は元より混沌を拒絶する者達が住まう場所、来名戸とは正に御誂え向きの名でござるな」
 呟く咲耶に会話するわけではなく、虚は思いついたようにふと顔を上げた。
「ああ。『来るなと』言う事か」
『どういう意味?』
「語源だ、莫迦」
 咲耶は虚と稔の会話に小さく笑う。詰まる所、此処は混沌世界を拒絶して作り上げられた地域であり、その中でも田舎にフォーカススポットを当てた場所なのだ。ならばこそ、近代文明など『来るな』という意図を認識する事も出来る。
「木を調べたのだったな。成程……あまり見ないで置いた方が良いものは多そうでござる」
 咲耶は小さく息を吐く。暗殺に裏工作は今まで数え切れぬほどに嗜んできた。それ故に、ここが『黄泉』であるというならば、自身を恨むの者など多数存在するはずだ。
 平常心を抱かねばならない。忍びであるならば、まやかしに心を惑わされる訳には行かない。たとえそれが『牡丹様』であったとしても、だ。

●神域の中心にて
「やれやれ……元は怪異側の身であった筈ですのに……」
 溜息を一つ。『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は呼び声に導かれて辿り着いたがこの地に満ちた様々な怪異や歪んた神の信仰が妙に心地よく感じていた。自身が『そちら側』であるが故に、受け入れられるのかもしれない。とはいえ、だ。自身は今、怪異ではなく人の身を手に入れたイレギュラーズである。
「今のワタクシにはここを受け入れる力などございません。調査の後、速やかに脱出せねばなりませんね」
 ロトが注意しろと言ったのは見る、喋る、聴く――所謂『見ざる聞かざる言わざる』である。この空間の事を『認識する』事が囚われる原因となるならば、怪異という存在は存分に自分勝手だ。
「……とはいえ、意識しすぎても何も出来はしません。不確かですが、直感的に致命的な気配を感じるまでは意識するだけに留めましょう。祭りの食べ物に手をつけるなど以ての外です」
 楽し気に笑う声がする。皆、顔を隠しているのは其れ等が現の存在ではないという事か――それとも『顔を晒していることが生者の証』という事なのかは定かではない。
「――逆位置の死神。
 ……この神社と、そして土葬された遺体の事に結びついてるのやもしれません。
 穢れを払いきれなかった遺体が、どのような歪みを生み出しているのか……改めて、調査をする必要がありそうです」
 背後から何かが付いてくる。ヴァイオレットは其れを知りながらも知らないふりをした。知ってしまえば囚われる。ざくざくと土を踏み締めて鎮守の森の奥まで差し差し掛かり、再度占いをとタロットを手繰る。
『このままではどうなるか』――そして、出る。吊された男、逆位置。
「―――」
 名前を呼ぶ声がした。ぞう、と背筋を奔った気味の悪い気配にヴァイオレットは息を飲む。
 その声は。忘れる訳のない過去の残滓は。かの記憶は――

「どうして――」

 文ちゃんと、ヴァイオレットは認識した。その認識から逃れられずに唇を震わせる。
 助けられず、その心を砕き潰した大切な友達。一緒に居たかっただけなのに、と膝を付きかける。頭の中を支配したのは強烈な眠気だった。眠ってしまえば、其の儘、彼女の側に行けると囁く声がする。
「っ―――! 違う、これは、これは違う……!」
 振り向きかけた体を強張らせる。震える手が、土を掻いた。違う、違うと何時もの笑みを『作る』ヴァイオレットの背後に生暖かい獣の息遣いがそうっと背筋を撫でた。
「来い……よう? 良いでしょう、眠るべき何かが眠れずにいるのならば、私はおやすみなさいを告げに行く」
 静かな声音で、『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)はそう言った。ラヴは『人』の声が聞こえぬのだと耳を澄ませる。生存している人間など、特異運命座標しか存在していないのだろうか。
 だが、『センサー』には反応しないが、声は聞こえていた。何かの声である。
 助けて、助けて、どうしてと。乞い続ける声音を聞きながらラヴは首を振る。
「――貴方達はもう、おやすみなさい」
 過去を振り返らない事には自信があるからと、はらはらと涙を流しながら『視る』
 そして――ラヴは背後から何かの気配を感じて息を飲んだ。濃い、獣の吐息である。それだけではない、境内を下り歩いてくる白無垢の女が笑っている。その着物の袷は逆向き、ころりころりと鈴鳴る声音が響き渡る。
「あ」
 霊魂と疎通した事によりラヴの視界は揺らいだ。だが、その地は神に守られていた場所である。そして、神に対して、セララが『お祈り』と『お供え』をしていた事が幸運だったのだろうか。
「うああ」
 意味の解らぬ言葉だけが口から飛び出した。それは何の意味もなさぬ獣の声だ。
「あうああ」
 おかしい、と咄嗟に誰もが感じただろう。ぼちゃり、と何処からか音がして人形がラヴの前へと落ちた。
 ぶちり、と音を立てて人形の体が崩れ落ちた。獣がそうしたように爪の痕が痛々しくも刻み付けられる。
「……ああ……」
 そう呟いてから、ラヴは自身は振り返ってはいない。後ろに進んでいるだけ、それこそが救いのある頓智であると、静かに告げた。
 てんてん、鞠をつきながら。『白い死神』白夜 希(p3p009099)は怪異として接した方が良いのだろうと武器も持たずに、異質なる童の姿で現れた。
『ちと尋ねたい。この侘しい地の名はなんと申す』
「来名戸ですよ、お嬢さん」
 にんまりと微笑んだ村人はその顔を髪隠しで多い、まるで葬列に加わるかの如き存在だ。
『妾に名はない。人はみな座敷童と呼ぶがのう。じゃが見ての通り、幸福を授ける力は失せて久しい。
 されど助ける力くらいは残っていよう。見た所、あの滝壺で行われるは供物の儀のようじゃが、ちと勿体ないのう』
 そう、と鎮守の森の最奥を指さした希に村人は烈火の如く怒りを散らした。何がだ、と。叫ぶ。
「何者だ。何者がそう言っているのか、お前は来名戸の神を愚弄しているのか」
『いいや。五行思想は知っておるな? この村には些か火の気が足りぬように見える。
 人が失せれば拍車もかかろう。火が弱れば土も弱る、土が弱れば金、否、石も弱り水の抑えも効かぬ、悩みの種のひとつは水の気じゃろ?』
 そう――希望ヶ浜は水害に見舞われた土地である。石神を夜妖が誑かしたのではないか、とは言えなかった。小石を投じるだけでも烈火の如く怒って見せるのだ。
『幸い、石の神はご健勝のようであるが、このお山に火の神はおいでになっておらぬのかえ?
 人の敵はいつの世も人。誰ぞこの地を貶める不埒な輩に覚えはないかのう?』
「必要ありません」
 ぴしゃり、とそう言った村人に希はふむ、と呟いた。来名戸の者達はこの地を護る為に外様を嫌っているのだろう。
 希はその瞳を丸くして、小さく小さく頷く。見なかったことにされた人々、存在を否定された村。この異界が人柱の儀を見せたのは――見せたのは……?
『では参るかの。供物の儀、大儀である。主らを幸せにするには時が足りぬやも知れぬ、されど後の世には必ず……の』
 そう。人柱の儀は行われているとは言ったが、人柱が『立って居る訳』ではなかったか。希はふと、気づいたように「成程」と呟いた。
 この地に踏み入れた時点で『顔を隠さぬ者は皆人柱の候補』であったのか!

●『希望ヶ浜譚』序文
 目に見えぬからこそ人は懼れる、とはよく言ったものである。
 神仏や霊魂、それらは目にも見えず、感じ得る者ではない。それ故に説明のつかぬ事象や急な不幸には祟りであるという分かり切った理由を付けるのであろう。
 石神地区に存在した信仰は寄る辺なき人々たちの支えとなるべく存在したが、『魔が差した』と表現するのが正しいだろう。
 生活の隙間に顕現する悪性怪異。正しく『魔が差した』結果、本来ならば起こりえない、説明もつかぬ事象が一つ存在したのだ。其れ等を無かった物にすべく希望ヶ浜では石神山上ダムの建設を決定した。
 今は其れしかできなかった。人間とは斯くも勝手な生き物であろうか。勝手に創り出し信仰し、それらが助長した結果に生み出された『怪異』に太刀打ちするために全てを沈めてしまえというのだから。

●滝
 ざあざあと音がする。『精霊教師』ロト(p3p008480)は教師としていくつかのルールを設けていた。
『話さない』『聞かない』『見ない』『振り返らない』――それを自身が前回破ったからこそ、こんな場所まで――滝まで足を運んだのだろうか。此処は黄泉だというならば幽世の食事は取るべき勿れだ。
 平常心を保ち、滝へとその足を向ける。ざくざくと落ち葉を踏み荒らし、その下に踏み固められた土が存在する事をしっかりと認識した。
「異世界(しんぴ)には目を背けるのに神秘(しんこう)には縋るってのも面白い話だよねぇ。
 ま、こういうのって心の拠り所になるものだからしょうがないといえばそうかもしれんが。ヒヒヒヒヒ……わかってるよ、面白いことがあるんだろぅ?」
煙草と火。気休め程度のまじないに。蛇は煙草の煙を厭う。鈴はひよのに願って音呂木神社で購入したものだ。人と神を繋ぐモノ――現と繋がり『闇之雲』武器商人(p3p001107)は滝の側へと辿り着く。
 人柱の儀式を行うには鎮守の森の最奥の滝だという。だからこそ、複数名が此処には来た。儀式は未だ始まっていないだろう。土葬主流とはいえ人柱を立てる現場なのだ。何かが居る可能性だって否定はできない。
「なんで私が呼ばれたんでしょうか? ……まぁいいです。私は私のやりたい事を。
 確か奥の滝に人柱を立ててるんでしたよね? ならその人の死体とか探しに行きましょう♪」
 心を躍らせたのは『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)。死体を怖がる素振りはなくaPhoneで脱出を行う『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)と連絡を取り合っている。身代わりねねこ人形を手にしながら滝の調査をとちょこりと岩陰に座った。
「しかし……『見て』『聞いて』『話して』『振り向いて』いけないですか……見て聞いて話さないと調査ってのは難しいと思いますけどねぇ……」
 それでも、調査が求められる。ある意味で捨て身での行動という事だろうか――いや、然し、一人でも『異界を破った』ならば世界は脆く崩れる可能性さえある。
「あ、でもaPhoneで文字を書いて人に見せるようにすれば少しはタブーからそれるでしょうか? やれる事はやっておくのです!」
 静かに息を吐く。霊と疎通しようとした刹那に、頭が酷く痛んだ。
「あ」
 口がばくり、と開いた。
「ああ」
 何度も声が漏れる。ここは霊界、そもそも疎通する霊魂が存在するか――目に見えている人こそが『霊』であったのかもしれない。其れは作用し、さらなる存在の声を下す。
「あああ」
 ぐるりと目が反転する。咄嗟にロトはねねこの頬をぱちりと叩いた。
「ああああーーあーー」
 取り留めもない言葉を唇から漏らした彼女を『呼ぶ』様にその体を揺さぶる。べちり、べちりと音を立てて起こせばぎょろりと目がロトの側を向いた。
 虚ろである。一見すれば危ない事も分かっていたが、それで調べず悪い物であると決めつけたくはなかった。そんなねねこの行動の『結果』であったのかもしれない。身代わりねねこ人形が彼女の手から滑り落ちる。
「……」
 拾い上げた『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)の掌の中でそれはぱん、と音を立てて弾け飛んだ。
「死者の声に振り向くのもタブーね。ここは冥界かってんだ。
 ……いやクナドの神だってんならあながち間違いじゃねぇか。
 それに含めて『話すのも』ってんなら、ますます此処に取り込まれるな、って言ってるかのようだ」
 ニコラスは肩を竦める。深い話を聞こうとすれば危ない、だが、その『何か』を選択すれば危険も少なくこなせる可能性は存在しているのだ。
「境界塞ぎの神。様々な信仰が習合されたるあの神が大元にあるとしたら現世と分かたれたここは確かに冥界と言えるだろうからよ」
 ニコラスは恨みと嫉みの声など気にしなかった。幼い頃は殺しだって普通に行い続けた。だが、それで立ち止まる訳もなく――自身の足を止めたいというならば『糞爺』を寄越せ、とまで考えていた。
 世界を救えと命を賭したあの爺は今はどこで何をしているだろうか。
「無いはずの村の調査……と言うより、これはもう異界だな。『見て』『聞いて』『話して』『振り向いて』はいけない……と」
 肩を竦めた『新たな可能性』久泉 清鷹(p3p008726)は命取りにもなりかねないのだと小さく身震いし、余計な感情や動揺が調査の足枷になりかねんとそれらすべてを封印する。
 aPhoneを用いたメールでの会話を想定し、いざとなればとメモとペンは用意してきた。先ほど、霊魂疎通を行ったねねこの様子がああなのだ。清鷹は考える。
(さて、神域の最奥は虎がでるか、蛇が出るか……滝のある場所ならば水場か……。
 突如水中から伸びた手に引きずり込まれるなどが有り得ない訳ではなかろうに……)
 人柱を立てる儀式、という事はなるべく調査を行う気配を察されぬ様に留意しておきたい。
 どのような儀式であるかを確認すべく全員で固まっての行動ではあるが――ここまで危険を顧みず最奥まで調査に来たのだから、何も情報を持ち帰らずに帰るわけには行かないと清鷹はしかと祭壇に目を凝らす。
「さて、再現性東京の依頼に向かうまでに、私なりに二ホンという国について学習をしました。
 神話では黄泉路を塞いだ大岩が、岐の神として奉られているようです。
 ならばこの死者の魂を還す山(岐の神)その最奥、人柱を行う滝は黄泉そのものとして見立てられるのではないでしょうか。重要そうですし探りましょう」
『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)はそう言った。狭間の世界に、彼方と此方を隔てる中つ場所。そう思えば納得も行くのだ。
 自身へと張り付く『少年』の声に、ふざけるなと呟いた。生きたいと願った『天使憑き』を殺したのは自分なのだ。彼の声を語る勿れ、弄ぶ勿れ、絶対に見てやるものかと真っ直ぐに前を向く。
 aPhoneでのメモ帳などの筆談で『話す』こと無き様に意識を死、滝の上より式に調査を指示した。
「さて、猿は神の遣いとされている。死者は神に仕え、生者をコイヨウと招く者。
 さて、なんだったかね? 猿の石像にワカイシュと記載があり、呼べずの者が居ると神の遣いが減るため人柱を立てるという風習があるという……」
 武器商人はそう呟いた。人柱の儀式で生まれる者は何であるか。サルボトケ、ワカイシュという言葉が気にかかる。ふと、清鷹は「サルボトケというのは申の日に亡くなる者を指すのではないか」と書き示した。
「成程。ならば理解はできる」
 頷く仲間たちの中で、武器商人は猿は神の遣いならば、『人柱を所望する神』に注意しなくてはならない事は確かだと告げた。
「此処の神はミシャグジ様がベースのひとつになっているだろう。
 かの神は現人神が有名だが神が夜妖の一種だとすれば、現人神は夜妖憑きの一種とも言えるだろうか」
「さて、人柱を『選定する』ようだ」
 ニコラスが意識を送る。ニコラスとロトの推理では今回は『呼べずの者』が出た上での秋祭りなのだろう。そして、呼べずの者とは――彼らは音呂木・ひよのを差していると想定した。
「いいえ」
 首を振る。ボディはそうは思わなかった。今回を、この村へと呼び寄せられたのは『イレギュラーズ』であり、ひよのではない。そもそも、呼べずの者と言うのは申の日に鬼籍(し)んだ者か、もしくは未婚の儘、亡くなった者が『その日に、死者を誘発する』ことを言うらしい。ひよのは生者であり、紛れもなく『希望ヶ浜』に所属する『希望ヶ浜出身の存在』だ。
「私達は今回『呼ばれた者』、そしてひよのさんという『呼ばれなかった者』がいる」
「なら? ひよのさんは呼べずの者ではなく、『人柱となる資格がない』者か」
 恐らくは、とボディは頷いた。音呂木は地に根付く由緒正しき神社である。ならば、邪魔をしたのは――「血、か」
 清鷹に「血統とは最も濃い枷だからね」と武器商人はからりと笑う。その血が枷となりひよのはこちら側には手も足も出ない。寧ろ、『来名戸』の神を視認する事も出来ないのだ。
「……ならば『人柱は俺ら』なのは確かだ。
 となるとだ。人柱をどうやって神の元に送ろうとする。滝に落とすのかね。それとも包丁か何かで開きにするってのもありえるか」
「つまりは"神"は人柱を求めていて、秋祭りはその霊魂を鎮める為?
 またはこの異界から脱出した者が出た場合、残された者に人柱を求められるかもね。その場合は……抗ってみせようか」
 静かに告げるロトにニコラスは頷いた。人柱をどうやって神に捧げるかは得難い情報だ。
 まじまじと見遣る儀式の中で「人柱を選定しなくてはならない」「ワカイシュは何をやっているのか」と戸惑う声が聞こえてくる。
「異界に迷い込んで真っ先に振り返って帰れなくして『人柱』にしているのかな」
 ロトの言葉に清鷹は僅かな違和感を感じていた。そもそもここは、『ダムに沈んだ筈の村』だ。その場所がこうして目の前に存在して、儀式を行っている――?
 ダムに沈めてまでも『無かった事』にされたこの場所で?
 人柱が居ないと告げた村人たちが去っていく。ボディは誰にも似つかぬ存在を模した人形をそっと祭壇へと置いて――それが一瞬で『ぶちりぶちり』と四肢が別たれたのを見る。
「……ご立腹だね」
 ロトが肩を竦める。気を付けてくれ、と清鷹は告げた。いざとなれば水の中での行動を、と考える彼の前の前で「覚悟完了」とロトはそう告げ、飛び込んだ。

●『水の中』
 どぷり。――音がする。

 此処を根の国と考えると滝の裏、水の底。滝で隠された先は最も調査対象で最も危険であろう。。
 有名な見てはならぬイザナミの様にね。だからこそ調査する。

 深い湖の中。
 今はダムの底に存在する其れ。
 ロトを掴んだのは――無数の腕であった。

「ロト殿!」
 ぐ、と引き上げた清鷹は声を発したが『振り向くな』と叫ぶ。
 眩い光が周囲に広がり、直ぐ様に走って逃げよとロトは言う。蒼褪めた唇は「なぁんだ」と笑っていた。

 大木が、沈んでいる。朽ちて、落ちた、その姿。
 ああ、それは『今』の姿ではないか!

●『神様を見るという事』
「ひとつ、確認したいことがあるんだ」
 バスティスはそう言った。
 神のねぐらを、髪の痕跡を。確認したら帰ろうとゆらりと尾っぽが揺れている。
 姿を見る勿れ。
 ――全てを、知る勿れ。
 全容語られぬ物語。その先を見ないと告げたバスティスの頭の中に疑問が擡げる。

 本 当 に ?

 無理だ。無理に決まっている。『あたし』はそう言う存在だとバスティスはゆくりと覗き込む。
「あたしは神だ。健やかなるを尊び、猫と民を見守る神だ。
 この異郷に蔓延った悪徳を、見過ごすことは出来ない。成らば何を臆する事がある――あたしのあたし達の敵とする者の姿を見ずして戻ることが出来ようか」
『祈 阿宗祇霊園』の文字列を発見したバスティスはふむ、と頷いてから『覗き込む』

 そして、あんぐりと口を開けた。――ああ、どうして。見てしまったの……?

●石神地区 民俗語彙
 ワカイシュ:来名戸の山々でのみ使用される山詞で猿を指す。
 サルボトケ:申の日にその遺体をお山にお返しする事を指す。申の日に埋めた者だけがサルボトケとなり、その穢れを払い落し神の遣いとなるとされている。

●公衆電話
「はっ、そうじゃ。現実世界への繋がり……公衆電話!!
 探すのじゃ、公衆電話を……テレカとやらはないけど10円玉ならあるぞ。とはいえ場所も分からぬのでは……」
 アカツキは混乱しながらゆらぐ影に咄嗟に手を伸ばし――「あっ、そこゆく人、公衆電話の場所、を……ぴぃっ」
 首を振った。顔を隠した村人は常人ではないかのようにぐるりと顔を向けている。然し、鳴り響く公衆電話が近づいてきている気がするのだ。
「そう言えば、ここへ来たのは異界の調査の為であったな。お仕事、しなくてはならんのう
 鳴り続ける公衆電話以外にも何か……。そうじゃ、植物さんに話を聞いてみるかのう
 幻想種の特権というやつじゃな。植物さん植物さん、この場所の事を教えて欲しいのじゃ」
 微笑んで式の『しきちゃん』と手を繋いでいたアカツキは何もかも恐ろしくないと言うように微笑んでいる。だが――確実にその周囲の空気は変貌していた。
「……え? あ、あれ、妾何をしておったのじゃっけ。
 しきちゃん? あ、そうか、公衆電話を探しておったのじゃな」
 手を引かれる。ぐい、ぐいと。だがアカツキは「祭囃子がうるさくて聞こえぬのかのう」と唇を尖らせた。違う、違うと式神は首を振る。それは神をその名に宿した存在だ。それ故に『反応』したのだろうか。違う、違う。繰り返される。
「しかしうるさいのう、こんなにうるさい音が……」
 ――祭囃子は、もう聞こえて居ないのに。
 だが、それを言葉にすることは『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)にはできなかった。息を飲む。聞き耳で鈴の音が聞こえる様にと探し続ける。
「……恐らくだが。公衆電話が外との繋がりだとして、この土地が俺達を呼び込もうとしているなら、電話は獲物を外へと逃がす邪魔物のはず。辿り着かせまいと何らかの妨害があってもおかしくない」
 スカル曰く、それがアカツキを包み込んだあの気配だ。彼女は完璧に『外へと帰還する』という意識が薄れている。ならば、道中に聞こえた声も見知った見知らぬものすべて目も向けず知らぬ者として扱うべきだ。
 はっきりとソレを視認することは避ける、と。其処まで自身の『作戦』を考えてからスカルの中で疑問が首を擡げた。

 ――ソレ? ソレとは、なんだ。

 そう告げぬように。息を飲む。発煙筒を焚いて発見した公衆電話の前でまずまずと息を吐いた。
「呼ばれている……けど、どこから? だれに? 分からない。けど――」
 これ以上進んではならないと警鐘を鳴らす。それが自分自身である事に気付いた時、『誰がための光』望月 凛太郎(p3p009109)は『見て、聞いて、話して、振り向いてはいけない』の警告に従うように足早に公衆電話を探していた。耳栓を手にして何も聞いていないと、塞いだ聴覚にはくぐもった音だけが聞こえている。
 そちらへ向けて走り出したのは『必殺の一矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)も同じであった。
 猿夢、異界に繋がる無人駅、怪人アンサー。それはどれもが有名な都市伝説である。此処に付随して様々な存在が出てこない事を願うが……。
「迂闊な行動できねーぞ……」
 何もしないわけにも行かない。祭りにも近づきたくはなく、神社をぶらりと眺めていたが、神聖なる境内にこそ何かが潜んでいたかのようにミヅハは妙な焦燥を感じた。
「ご神木……か。あの神輿に担がれた大木と蛇が祀られている神様だな。
 木、蛇、『石神』ってと『ミシャグジ様』が元かな。道祖神って点からも練達には合ってそうだ。ただ見た感じ他の信仰も混ざってるよな。どういう意図でこんな……」
 それこそが再現性東京の成り立ちなのだろう。詰まる所、此処は居世界だ。ミヅハが想像した通りに有象無象が混ざり合う奇妙な異世界。すべての要素が搔い摘んでは結ばれる。そして、世界を形成し始める。胡乱に作り上げられた箱庭――希望ヶ浜。
 誰かが持ち込んだ文化に尾鰭がついたのだろう。だが、それ以上は考えられないかと顔を上げた途端――
「ん? 今誰か呼んだか? …………この声は……じいちゃん?
 呼んでたのはじいちゃんだったのか。そっか、そうか。悪いな、じいちゃん!
 俺、行かなきゃなんないんだ。知らない世界で、行きたいところもやりたいこともいっぱいなんだ。『墓場に呼ばれるにゃまだ早ぇーよ!』」
 振り払うように笑うが、頭に過ったのは『答えた』という事だった。呼び声に、答えた彼の首筋に嫌な気配がなぞる。だが、振り払うように、振り返らずに走り出す。
 電話が、電話がなって居る――ジリリリリとけたたましい。その前に立っていた凛太郎はまずは一度息を吐いた。
 先ずは耳栓を外して、目を瞑った。出来る限り同時に『複数の条件』を通過したくはない。凛太郎はぎゅうと目を瞑ってから、受話器を取った。

 ツ―――

 ノイズが獣の吐息の様に耳朶を撫でた。怖くて堪らないが、マモリガタナに勇気を呉れと願う。
(……俺はイレギュラーズとして何が起きてるのかを知らなければならないんだ)
 受話器から何か聞こえたとしても無視をしなくてはならない。受け答えはいけない。来た道を戻れば屹度――屹度、元の場所に戻れる筈なのだから。
 どうしても、電話を取らねばならないと、そんな気がしてミヅハは受話器を代わってくれと手を伸ばす。
「もしもし、俺は――」
 奇妙な空気が頬を包んだ。自棄に冷め切っていく掌が、冷たい。冷たい。
「――いや、アンタは誰だ?」
 ミヅハの体を受け止めたのはにんまりと微笑んでいたクレマァダであった。「足元、気を付けてね?」と微笑んだそれは決して『クレマァダ』のものではない。まるで――まるで、それは、嗚呼、奇妙なことも起こるものだ。この地はそれをも是とするのか。
「電話、出たいんだ。夢から醒めるには、頃合だもの」
 受話器を手にしてから我(カタラァナ)はもしもしと決まりの合図を口にした。
『こんばんは。そんなところにいたのね』
「うん、こんばんは。お母様」
『偉いわ。とっても素敵よ。——さあ、クレマァダ。呆けている暇はないわ。貴女にはまだ、役目があるのよ』

 頭の上でぢぢ、ぢぢと音がした。焦げた匂いと共に蛾の死骸が転がり落ちてきた――それは、どこで?

 祭りに参加している者の声を聞きながら、マリアは帰還方法は誰か知らないだろうかと電話ボックスを探していた。出来れば仲間と情報共有したいが――さて、それが上手くいくのかは分からない。
(ああ、それにしても……さっきからぶつぶつとうるさいけど、全然ヴァリューシャに似てないんだよね……。本物は5000兆倍可愛いし……。もー。早く帰って一緒に晩酌したいなぁ……。
 は? ヴァリューシャはそんなこと言わないし……無視無視……ヴァリューシャ……早くヴァリューシャに会いたい……。
 だからうるさいよ……今のちょっとだけ可愛かったけど駄目だね。本物の100兆分の1の可愛さだった。出直して?)
 呼び声を払い除ける様にマリアは溜息をついて、そこで思い出した。先ほどまで握っていたリュコスの掌が、そこにはない。宙ぶらりんになった掌に「あれ?」と小さく声を発する。
「リュコス君……?」
 ふと、顔を上げたのはリュティスであった。公衆電話の受話器を取った仲間たちは皆、それぞれ不思議な反応を見せている。全員そろって脱出する必要はなさそうだが――できれば脱出したいというのが彼女の考えだ。
「それにしても……。ここはなんでしょうか?
 かごめかごめという童謡から作られた世界? そして猿が神の使いとしているということから猿夢鉄道にも繋がってるということでしょうか。それとも猿夢鉄道の猿や獣はここから来たということかもしれませんね」
 後ろを振り向けば猿や獣が居るのだろうか、と口にする。だが――それを恐ろしくないと感じるリュティスは一つの可能性が抜けて居る事に気付いていない。神とは獣の姿を象り現れ、そして祟るのだ。
 故に、この地域では動物には決してそうした対応を取ってはならない。そう考えながら公衆電話を取る。
「もしもし」と口にする――電話先では彼女の予想に反して、聞き慣れた声が聞こえた。

『もしかして、リュティスさんですか? 私です、音呂木です』

 ――外は、案外近くに存在しているのかもしれない。

●『外界』
「コイヨウ……コイヨウ……。『来いよう』『行こうよ』一体何のことを言っているんだ……? 奴は何を求めている?」
 呟いた『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)の事を心配する様に章殿はそうと問いかける。「鬼灯くん、大丈夫?」と、その声に、彼女を安心させる様に「大丈夫だよ」と優しく声を掛けた。
 何が呼んでいるのかは定かではないが――それでも、此方を呼ぶ声があるのだ。茄子子とは連絡を取り合い『声に出さず』に『連動しない時計』を見遣る。
 どれくらい時間が立ったか分からない。視線で指示を送ろうと振り返るがそこには忍が一人、卯月は存在しなかった。
(逸れたか……? いや、あの時は共に電車に乗ったから共に入れたか。今回は――)
 誘われる事が無かったのか、と鬼灯はそう認識した。その傍で、ずんずんと進むのは茄子子である。
「会長は一足先に脱出させてもらうぜ!! 呼ばれてるとかしらない!ㅤ会長に会いたいならそっちから来いってね!!」
 最初から後ろ向きに進んでいたならば振り向いた事にもならない。羽衣協会の会長として出口付近に待機するがためにaPhoneを手にしているが圏外の表示がある。
「繋がんないよね!! 次元って恐ろしい! けど、会長は此処でみんなの情報を貰うよ!」
 何らかの干渉で内容がバグることが恐ろしい。だからこそ、外的要因に対しては鬼灯のサポートを得たかったのだ。
 頷く鬼灯は長く見てはならないものや見てはいけないものに対しては魔的な勘を差渡らせた。
(何がなんでも帰るさ、置いて、遺して逝くにはあまりにも多くのものを抱えすぎた)
(皆が待っているのだわ、怖くなんかないのだわ)
 鬼灯もこの世に紐づける様に章姫はそこにあり続けた。彼女が鬼灯も現世へと紐づける存在なのだろう。それ故に、彼の庇護を受ける茄子子も安全地帯に立っているのだろう。
「あ、そうだ」
 石を拾い上げて投げる。こん、こん、と転がっていく。先ほど一歩踏み出したその場所。ひよのと自分の境目。
 ふと、茄子子は自身の手元を見下ろした。……電話である。
「どうした」とaPhoneの文字を通して鬼灯が問いかける。首を振った後、茄子子はスピーカーにしたまま、電話に出た。

「もしもし」

 ――あああうあえあえうううあおふぁ。

 意味の解らぬ言葉が響く。だが、それは幾重にも重なっていく。聞き覚えのある声になって。
 誰だったか、それはロトか、ボディか、それとも……。
 誰だっただろうか、と忘れそうになる。茄子子はそっと電話を切った。
「会長忘れるのは嫌いなんだ……これ以上何かを忘れるのは耐えられないよ」
 もしも自分の事を忘れてしまったら――自分を『ナチュカだった私』を憶えて居てくれる人が一人も居なくなってしまう。
 その悍ましさに茄子子は「出よう」と地面に文字を書いた。振り向いてなどいない。進むだけだ。進んで進んで、そして全てを否定する。aPhoneが熱を持ったように熱くなる。いやだ、と投げ捨てればそれは何処かに呑まれて赤々と炎を上げ――

「茄子子さん!?」
 揺さぶるその動きに茄子子はがばりと起き上がる。「ひよのくん!?」と思わず名を呼べばほっとしたように彼女は息を吐いた。
 突如として茄子子が自分の前へと飛び込んできたのだという。そして、次々と、彼女の帰還をきっかけに『まるで元からそこに居たかのように』地へと転がる無数の人影が現れたらしい。
「……帰ってきた!?」
「え、ええ。ほら……もう、どこへ行ってたんですか?」
 心配しましたよ、と呟いたひよののaPhoneには22時05分の文字が並んでいる。ほんの5分間の出来事だとでもいうのか――いや、それ以上の時間が経ったはずだ。あの祭りを一晩、見ていた筈なのに。
 誘蛾灯の音。「……お母様?」と唇が動く。がばりと体を起こしたクレマァダに「わ」とひよのが驚いたように肩を跳ねさせた。
「おはようございます。お加減は?」
「……良いように見えるかの?」
「いいえ。けれど、『良き旅』を熟して来たかのようには」
 ひよのはそう首を振った。分かった事は幾つかある。
 あの場所は人為的に『沈められた』存在だ。そして、これは秋祭りの存在をしっかりと知った者、そして、その素質があったものが呼び寄せられた結果なのだろう。
 希望ヶ浜に存在する神社の娘であるひよのは『来名戸の人柱』の資格はないとして声も聞こえなかったのかもしれない。そもそもに置いて、音呂木神社は希望ヶ浜の『悪性怪異』を撃退する隠れ蓑である。この地に『神』と『悪性怪異』のそれぞれが存在するというならば――少なくとも、『音呂木・ひよの』は来名戸にとっての敵だったのだろう。
「一先ず、帰りませんか……?」
 一度体を休めましょう、と微笑んだひよのは「振り向かないで」とイレギュラーズへと言った。

●音声データ ■■■■/09/30
「ええ、ええ、これで来名戸の歴史は最後です。
 けれど、初めに言っておかねばならない事がありましたね。ああ、もう遅いか……」
「それは何ですか?」
「ああ、ああ、ごめんなさいねえ。気になっちゃいますよね。それじゃあ、お教えしますね。
 来名戸の風習は本来は伝えてはいけない者なのですよ。何でって、神様はその存在を信じて頂けていると認識すればその姿を現しますから――」
「……はあ」
「つまりね、これは聞いてはいけない類の、そう、そういう類のお話だったんですよ」

●後日。
 彼らは何かを見て、何かを感じ、そしてあの場所の事を『憶えて居る』。
 少なくとも、『この報告書をローレットへと提出できる』位には。
 それ故にひよのは言った。
「どうして、そんなものを連れてきたんですか」と。
「いいですか。報告書をまとめた後、それはすぐに無かった事にしましょう。
 皆さんの報告を聞いただけでも私は……音呂木は直ぐにその穢れを祓わねばならない」
 震えるひよのは目を背ける。巫女装束に身を包んだ由緒正しき音呂木の巫女。
 唇を震わせて、ひよのは言った。分かった事が二つある、と。

 ダムは、本来『この怪異と遭わないため』に存在したのだろう、と。
 そしてそれは自身らを護るための護身のすべであったのだろう。それ故に、『沈んでいるモノは本来は有り得やしないもので憶えて居てはいけない』と。

 そして、もう一つ――報告に上がった『阿宗祇霊園』について。
 それは希望ヶ浜地区では冠婚葬祭を担う組織であり、澄原病院と同じく、知らぬ者はいない筈だ。
 だが、それらが来名戸村にサルユメなどの夜妖を潜ませていたというならば――『現人神』と云う夜妖憑きを生み出そうとしている可能性はある。
 これは非常に『混沌世界の依頼』らしい結果である。無論、前述された『怪異』が夜妖と異なるというひよのの言を信じるならば――『怪異』に対してなせる対策は存在しないのだ。

 ――良いですか。倒せぬ悪性怪異はこの希望ヶ浜には存在しません。
 逆に言えば希望ヶ浜の怪異は『倒せる存在』であるということ――

 ああ、けれど。アレは――『希望ヶ浜の怪異』ではない。本来的な意味の『オカルトの存在』。
 ならば、倒せる者は全て現世に存在している筈だ。
 あの、岐の神ではない。其れを悪用して存在する悪性怪異:夜妖<ヨル>が。

「振り向かないでください。そして、何もかも、知らない振りをしましょう。
 良いですか。皆さんは来名戸になんて行っていない。ないも見て居ない。誰も、連れて帰ってきていない」
 神様は、獣は、妖は、執念深く気紛れだ。ちょっとした何かが『害を為す』可能性があるのだから。

 そういえば何か後ろで音がしませんでしたか?

【決して応えないでください。】

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ど
 う
 し
 て
 見てしまったの?

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