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シナリオ詳細

再現性東京2010:夏休み・補習授業のお知らせ

完了

参加者 : 49 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●補習授業のお知らせ
「やぁ。夏休みは楽しんでいるかな?」
 希望ヶ浜学園――たまたま学園に用事のあったあなたは、『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162)に声をかけられた。
「――少し意地悪だったか。君たちには外の事件もあるし、長期の休みはとれないのかもしれないな。すまない」
 頭を下げるクロエ。ところで、と彼女は声をあげてから、続ける。
「補習授業に興味はないかな? といっても、別に君たちの成績や授業が悪い、と言う話ではない。君たちが本格的に学園に編入したのは、確かつい先日の事だろう? 元から再現性東京に住んでいたものはともかく、外から編入してきた子たちは、一学期の授業のほとんどを体験していないことになるわけだ」
 言われてみれば、確かにその通りだろう。当然ながら、これから本格的に授業に参加する、となると、一学期の基礎的な授業を習熟できていないのは、些か辛いかもしれない。
 これから学生として生活する者にとって、学業もまた切っても切れぬ間柄だ。ローレットのイレギュラーズとしての活動が最優先される以上、学業の優先度を上げろ、とは言わないが、しかし分からぬ授業を受けさせ続けるのも退屈だ。
「学ぶという事は楽しい。だが、その楽しさを感じてもらうためにも、準備は必要だ。そこで、夏休み中に希望者を募って、補習授業を行おう、という事になってね。興味があったら、参加してもらいたいな、と言う話なんだ」
 それに、とクロエは言うと、
「君たちローレットのイレギュラーズには、教員として学園に滞在してくれているもの達も居るはずだね。学習指導要綱は渡しているだろう? それを参考に補修に協力して、授業を行ってくれると助かるんだよ」
 そう言って、不器用に微笑んだ。
「教師として、補習授業を受け持ってみるのも、今後授業を行う際のいい練習になると思うんだ」
 補習授業は、初等部、中等部、高等部、そして大学部と、すべての学年を対象に行われるらしい。
 少人数制であるから、分からない所も質問しやすく、学習環境としてはちょうどいいだろう。
「まぁ、ちょっとした学校生活の一環として、気軽に参加してくれると、我々教師陣としても嬉しいね。詳細はこちらのプリントに書いてあるから、参加の意志があるなら連絡してくれ。では、またな」
 そう言って、クロエはあなたにプリントを手渡して、立ち去っていく。
 そのプリントを見つめながら――さて、どうしたものか、とあなたは考えていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 希望ヶ丘学園での学生生活。
 今回は、皆さんのためのちょっとした補習授業の1コマを切り抜いてみましょう。

●イベントの目的
 補修授業に参加する。

●状況
 学園に編入してまだ日の浅い皆さんのために、学園は補習授業を開催することにしました。
 初等部から大学まで、すべての学園を対象に行われる今回の補修は、これから始まる二学期の授業に対応するための、基礎的な内容を学習するためのものです。
 参加には、学生だけでなく、教師として滞在しているローレットのイレギュラーズの皆さんにも、講師役としてご協力いただければ幸いです。
 という訳で、残り少ない夏ですが、補習授業で学生生活を楽しんでみるのは如何でしょうか?
 今回は主に学園内での描写を行います。

●やれること
【1】補習授業
 補習授業に参加します。生徒としては、授業を受ける側や、参加者に勉強を教える側として。
 教師としては、講師役として参加できます。
 補習授業ですが、難しいものではありません。ちょっとした勉強会程度のものとして、お気軽にご参加ください。

【2】休憩タイム
 授業だけでは疲れてしまいますので、お昼には長く休憩時間を取ります。
 夏休み中ですが、学食は空いていますし、購買も変わらず品物を販売しています。
 お友達と食事や雑談などをするのも良いでしょう。

●プレイング書式協力のお願い
 お手数ではございますが、、プレイングの書式について、
 一行目:【行き先の数字】
 二行目:【一緒に参加する仲間の名前とID】、あるいは【グループタグ】
 三行目:本文

 の形式での記入のご協力をお願いいたします。
記入例
【1】
【クロエの化学授業】
 では、補習を始める。質問があったら遠慮なく手をあげるように。

●参加NPCについて
 『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162)や、洗井落雲が担当するNPCなどは、呼んでいただければ登場します。
 また、『音呂木・ひよの』や『無名偲・無意式』も、呼んでいただければ、先輩や教師として登場してくれるでしょう……無意式が、授業をしてくれるかは怪しい所ですが。

●その他の注意事項
 基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになります。アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングにご記入いただけますよう、ご協力お願いいたします。
 過度な暴力行為、性的な行為、未成年の飲酒喫煙、その他公序良俗に反する行為は、描写できかねる可能性がございます。
 可能な限りリプレイ内への登場、描写を行いますが、プレイングの不備(白紙など)などにより、出来かねる場合がございます。予めご了承ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 再現性東京2010:夏休み・補習授業のお知らせ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年09月06日 22時05分
  • 参加人数49/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 49 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(49人)

普久原・ほむら(p3n000159)
燈堂 廻(p3n000160)
掃除屋
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
主人=公(p3p000578)
ハム子
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
蔓崎 紅葉(p3p001349)
目指せ!正義の味方
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
沁入 礼拝(p3p005251)
足女
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ネリ(p3p007055)
妖怪・白うねり
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
リサ・ディーラング(p3p008016)
蒸気迫撃
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
クリスティアン=ベーレ(p3p008423)
夢想神威
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー
三國・誠司(p3p008563)
一般人
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
アルフィンレーヌ(p3p008672)
みんなの?お母ちゃん
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
十七女 藍(p3p008893)
希望ヶ浜学園の七不思議
朱月 蓮(p3p008899)
新たな可能性
レオ・カートライト(p3p008979)
海猫

リプレイ

●夏休みの学園で
 ここは希望ヶ浜学園。今日も授業開始のチャイムが――鳴る事は、夏休み期間中であるため無いのだが、それはそれとして、多くの学生たち、教師たちの姿が、学園には見受けられる。
 夏休みとは言え、普段も部活などで学生たちの姿もあるのだが、今日はとりわけ補習授業の日という事もあり、一般の生徒はもちろん、イレギュラーズ達も含めて、多くの生徒たちが学園へとやってきている。

 高等部の教室――ここでも、一般の生徒やイレギュラーズ達を交え、様々な教科の補習授業が行われている。
「リアちゃん、夏休みも仕事とかかわいそー」
 女子学生がはやし立てるのは、生徒の監督として補習授業のサブを務めるリアだ。音楽教師と言う立場ではあったが、やはりマンモス校となると人手が足りないのだろう、こうしてリアも駆り出されたわけだが。
「リアちゃんって呼ぶな! リア先生だ! せ ん せ い !! ちゃんと前向け!」
 きゃー、という声と共に笑い声が響く。年齢も近いという事もあり、学生たちからはフランクな態度を向けられている。
「まったく。いい? 学校生活で学ぶのは、知識はもちろん、組織に属して自分の責務を詰めあげるって事よ。勉強も分かるまでちゃんと付き合ってあげるから。ほら、授業始るわよ」
「はーい、リアちゃん!」
「だから! リアちゃんって言うな!」
 女子学生たちにとっては、教師でもあるリアも、友達の一人のような感覚なのかもしれない。

 補習授業が始まり、ひとまず教室には静寂と、教師の声のみが響いていく。
「うー、マジメに受けてはいるけど、マジわかんない……」
 むぅ、と教科書をにらみながら、夕子は唸り声をあげた。勉強なんてキャラじゃない……けどたまにはいいか、と受けた補習授業だった。真面目に受けてはいるものの、やっぱりちょっと、難しい。
「てゆーか、学校の勉強とか何の役に立つんだろー。数学とかわかんなくても生きて行けそー……ねね、せんせー、こういうってどういう時に使うんですか?」
 はい、と手をあげて、授業の必要性を尋ねる夕子に、初老の教師はふむ、と唸ってから、こう答えた。
「強いて言うなら、君たちの未来の可能性を広げるためだよ。例えば、数学ができれば計算だけでなく、より高度な機械などを作るための手助けになるだろう。歴史を知れば、次に同じような事が起きた時に、焦らず対処できる……今は実感がわかないかもしれないけれど、必ず皆の糧になっているんだよ」
「へー。そうなんだぁ。あーし一つ賢くなった。せんせー、ありがとー♪」
 なるほどな、と頷いて、教科書に視線を戻す――やる気は少し、戻ってきた。今日一日、可能性を広げるための勉強とやらを続けるのもいいだろう。
「でも……やっぱよくわかんないー……」
 でも、難しいものは難しいのだ。頑張れ女子学生。

 数子は今まで、学校なんて楽しくないと思っていた。でも、それでも国語の授業は、結構すきだった。元々本を読むことはすきだったし、再現性東京に来てからは、知っている物語から微妙に異なる物語まで、多様な物語を楽しむことができるのがうれしい。
「やっぱり、こっちの世界でも同じだったり、微妙に違ったり……大変よね。でも私、出来る子だし! 大丈夫大丈夫!」
 ぺらり、と古文の教科書をめくる。ベースとなる部分は、流石同じような世界であることもあり、数子にも理解できた。でも、各世界で異なるルールを併記していることもあり、その都度調べ直しが必要となる……。
「う、うーん……」
 思わず頭を抱える。でも、それもまた楽しい。前の世界では考えられなかった、楽しい学園生活――友達がいて、奇妙な出来事もあって、授業も面白く……なによりいじめられないし。
 学校とは、存外楽しいものだったのかもしれない。そう考えると、自然と笑みが浮かんでしまうのだ。

「えっと……この街の事ですよね」
 少し困惑した表情で、黒板の前に立つ廻。イレギュラーズ達の授業を見学していた廻――授業を真面目に受けつつも、イレギュラーズ達による『外』の話を興味深く聞いていた。廻はこの街にくる以前の記憶がない。だから、外の話は、とても新鮮に思えるのだ。そうして話を聞いていると、逆にイレギュラーズ達から、街についての質問を受けたのだ。
 となれば、これは面白いという事で、廻による希望ヶ浜講座が始まった、という訳だ。いくつか街について話していく。少し臆病で、夢見がちな街の物語。現実に打ちのめされ、目をそむけたとしても、逞しく生きようとする人々の話。
「皆さんを否定している訳では無いんです。ただ、この街の人達は怖がりが多いんです」
 だから、優しくし見守ってあげて欲しい。廻はそう言って、微笑むのだった。

 音楽室では、音楽の補習授業も行われていた。基礎的な授業という事で、リコーダーを利用した楽器の習熟授業などを、ヨタカが担当となって行っている。
 教科書の、課題曲のページを開かせ、黒板には演奏の際の注意や楽譜の読み方などを記していく。
「リコーダーか……懐かしいな。久しぶりに吹いてみるけれど……」
 レオが呟き、リコーダーを演奏してみる。流石音楽技術を持っているレオと言った所か、リコーダーと言う基礎的な楽器ながら、流れる音色は美しい。
「素晴らしいな……基礎的な授業だけれど、教えることは無いんじゃないかな……?」
 苦笑するヨタカ。レオはしっかりと、そのあたりの技術には習熟しているようだ。
「先生、ヴァイオリンの演奏を見てもらっても良いかな? 今練習中なんだ」
「そうだな……まずはリコーダーの授業を終えてからになるが……」
 と、ぽー、ぴー、と些か外れた音が鳴る。其方に視線を移してみれば、武器商人がリコーダーを咥えて、外れた音を出していた。
「うーん、音が外れるねぇー……アストラルノヴァ先生、指の運び方とか音程とか教えておくれ。ね?」
 にぃ、と笑う武器商人。ヨタカは、
「もちろんだ……」
 頷いて、その指に触れた。
「紫月……そこ違うよ、こう……」
「おや、意外と難しいねぇ、先生」
 にやにやと笑う武器商人に、ヨタカは苦笑する。多分、ワザとやっているのだろう……だが、それもまた、お互いには楽しさを感じるしぐさであった。
 しばらくして、武器商人は鮮やかに、リコーダーを奏でて見せる。おや、と武器商人は笑い。
「できるようになったねぇ。これも先生の腕がいいからだ」
「それはそれは……お役に立てて何よりだよ……」
 この日の音楽室には、鮮やかな音色が響き渡っていた。

 中等部の教室では、クロエによる理科の授業が行われていた。
「中学範囲では、化学や物理などの基礎的なものをまとめて、理科として学ぶ。少し難しいかもしれないが、とても楽しい分野だ」
「あの、その、お恥ずかしい話、なのですが、どうにも……右から左に抜けてしまいそうに、なりまして…。基本のキ、からお願い、します……」
 ノートとペンを手に、ぺこり、とお辞儀をするメイメイ。クロエは「もちろん」と頷いて、授業を開始する。
「……」
 真面目に授業を聞きながら、時折ノートに内容をメモしていくのはサイズだ。鍛冶屋のクラスを持つサイズは、特に鍛冶技能に有用そうなものをピックアップして、授業を受けていた。
「何か役に立ちそうなものはあるか?」
 クロエが尋ねるのへ、サイズは頷いた。
「ん……確かに、仕事と関係はしているんだろうけれど」
 と、サイズは頭を掻いた。
「流用ができるかと言うと……難しいかな。金属について専門的にやるわけでもないし、物理分野も……法則とか式とか把握が……そう言うの、感覚で覚えちゃってるから」
 クロエはそうか、と笑う。
「だが、知識として知っておくことは重要だと思うよ。そこから何かに発展できるかもしれない……教師としては、実践も重要だが、勉強も頑張ってもらいたいな……ええと、メイメイ君、大丈夫か?」
 クロエたちの話を聞きながら、メイメイがぽかんとした――まるで宇宙空間に浮かぶ猫のミームのような――顔をしている。メイメイははっ、とした様子をしてから、
「は、はい、大丈夫……です……」
 ぱたぱたと手を振りながら、
「少し、難しいお話だったので……ぽかんと、してしまった、といいますか……」
「分からなかったか? 遠慮なく聞いてくれ。そのための補習だからな」
 うむ、と頷くクロエに、メイメイは、
「は、はい……お願いします……!」
 と、ぺこり、と頭を下げるのであった。
「むー……」
 と、唸りながらノートに筆を走らせているのは、セララである。熱心にノートに書き写す姿は、真面目を通り過ぎて、何やら熱中している様だ。
「ふむ……『セララ、ギガセララブレイクで来い!』か」
 そんなセララの様子を後ろから覗いたクロエが、珍しくにこりと笑った。ノートに目を移してみれば、そこにはセララが描く、『魔法騎士セララ』の漫画が、非常によく描き込まれていた。
「うん! この後、EXAからのギガセララブレイク二連撃で、敵をやっつけるの!」
「なるほど、よくできている」
「でしょ! この後ネットにアップしようと思うんだ!」
「それはいい。あはははは」
「あはははは!」
 ぺし、と、丸めた教科書で、クロエはセララの頭を軽く小突いた。
「うぇー、先生、体罰だ」
 ぶーぶーとセララがぼやくのへ、クロエは肩を落として、ため息をつく。
「疲れたのなら少し休憩しよう……でも、授業は真面目に受けて欲しいな……」
 そんな様子を見ながら、シルフィナは少しだけ、微笑んでみた。
 なんだかとても――楽しい。同年代の学友たちと、こうして勉学に励める。それは、孤児院で育ち、そのままメイドとして貴族の館で働くことになったシルフィナにとっては、夢のような光景だったといえるだろう。
 その光景の中に、今自分がいる。その不思議な感覚はくすぐったく、しかし幸せなものだ。それに身を委ねながら、シルフィナ達中等部の補習授業は続いていく。

 大学の教室でも、また補習授業は行われている。
「再現性東京……いわゆる『ニホン』出身のウォーカーの人たちは、こういう学校に通って、こんな風に勉強するんだね」
 教室の机につきながら、マルクは呟いた。マルクは読み書きなどは教わっていたけど、それ以外は本を読んでの独学で学んでいたから、こういった集団で学ぶような場所は新鮮だった。それに、生徒たちが脱落しないよう、このように補習授業を行う、と言うのも面白い試みだ。
「という訳で、アーリア先生。よろしくお願いします」
「はぁいよろしくね……ってマルクくん!?」
 驚いたのは、教員担当のアーリアだ。夏休みとは言え、いや、だからこそなのだろうか、いつもと変わらぬ胸元の大きく開いたセクシーな衣装身を包んだアーリアである。集まった一般生徒の中には、その姿が目当ての者もいるのかもしれない。青少年だからしょうがないね。
 さておき、マルクの姿には、さすがのアーリアも緊張してしまうようだ。自分より賢そうに見える生徒を受け持つとなると、それも仕方ないかもしれない。
 アーリアによる授業が始まる。教師然とした格好とはかけ離れていたが、しかしアーリアの授業はいたってまともだ。静かな時間が過ぎていく……マルクはふと、手をあげた。
「先生。この方程式ってやつが少し……」
「あら、わからない? これはね……此処を、こうしてぇ……ほら。物事は複雑そうに見えても、実はシンプルだったりするのよねぇ」
 そう言って、にっこりと笑うアーリア。
「さ、他の皆も、分からない所があったらちゃんと質問するのよぉ? 終わったら、社会科見学といきましょ! 頭を使った分、美味しいものとお酒でご褒美よぉ!」
「あはは。課外授業の社会科見学……お酒もまだまだ勉強中なので、ご教授よろしくお願いします、アーリア先生」
 教室中に歓声が響き渡ったのは、言うまでもない。

「私! 希望ヶ浜学園生徒、ジョセフにじゅうななさい! 私の愛しいオラボナが美術教師を務めていると聞いて参った。教えてオラボナ先生。どうして貴女はそんなに魅力に満ち溢れているのでしょうか!」
 美術室に、異様に元気な声が響き渡る。ここでは美術部顧問たるオラボナの下、美術の補習授業が行われていた。
「ハイマン君、おちついて。先生を困らせるような事しちゃだめよ?」
 べり、とオラボナから、ジョセフを引きはがす礼拝。どうどう、とジョセフを宥める礼拝を見やりながら、オラボナはnyahaha、と笑い声をあげた。
「貴様等の個性を活かして己の思う『芸術性』を創り給え。勿論、表現方法は自由だ。彫刻でも絵画でも――授業的には違うが、音楽でも構わない。しかし【テーマ】は必要か。嗚呼――人間。人間が好い」
「人間、かぁ。興味深いテーマだね」
 クリスティアンが呟く。テーマは人間――広く、様々な解釈のできるテーマであった。さて、授業の参加者たちは、様々な人間観の作品の制作に取り掛かる。
 礼拝が描いたのは、宗教画である。
「私(バイオロイド)にとって人間とは創造主そのもの。私にとっては今こそが神代で、私こそが人間――中々倒錯していますね、私(芸術品)が美術をするというのも含めれば中々かしら?」
 描いた宗教画は、人を神として描いたものである。被造物にとって、造物主とはすなわち神だ。造物主が人間であるならば、神とはすなわち人間であるのだろう――礼拝の言う通り、倒錯しているのかもしれない。
「私が作ったものはこれ! 仮面だ。今付けている鉄仮面の前に使用していたものをモデルにしていてな。材質は……」
 ジョセフが作り上げたものは、仮面だ。ジョセフは言う。人間を人間たらしめるものは何か? と。それは顔である。貌、それは光あたらぬ精神を包み込み、影を結び、無き筈の形を認識させるもの。
 人はそれを幾つも使い分ける。仮面のように。立場、肩書き等々によって。ここ希望ヶ浜ではその傾向が顕著だろう。ならば、仮面こそが、人間というテーマにふさわしい――!
「僕のはこれ。水彩画だよ」
 クリスティアンが提出したものは、様々な色や形の水流が描かれた、水彩画だ。人の感情、関係性、人そのものを、色と水流で表したものなのだろう。水をつかさどるグリムアザースという事もあり、世界を水としてとらえている、中々現代的なアートだ。
「Nyahahahaha!」
 様々な人間を現す芸術作品に、オラボナは満足げに笑った。
「さぁ、まだまだ授業時間はあるぞ。お前たちの脳髄を神経を精神をカンヴァスにぶつけるのだ。導はいくらでも差し出そう、さぁさぁさぁ!」
 一風変わった喋り方ではあるが、オラボナの指導は平等かつ丁寧であり、一般生徒にも人気のあるものだ。かくして美術部での補習授業の時間は、楽しく過ぎていく。

●お昼の学校で
「~♪」
 鼻歌交じりで配膳用のカートを押しているのは、養護教諭のシルキィだ。カートの中には大きな水筒と紙コップが入っていて、シルキィは授業中の教室を回りながら、水分補給のための麦茶を配っているのだ。
「夏休みなのに勉強だなんて、皆感心だよねぇ。熱中症で倒れたりしないようにしてあげないとねぇ」
 夏休みと言えど、養護教諭のシルキィは保健室で待機している。とはいえ、それだけではなんだか申し訳なくて、昼休みを見計らって、こうして配膳に出たという訳だ。
「あ、シルキィ先生! お茶頂戴!」
 ちょうど休憩のタイミングで教室から出てきた生徒たちと鉢合わせする。次々とやってくる生徒に、シルキィは微笑んだ。
「はいはい、順番だよぉ。午後の授業も頑張ってねぇ」

「ふわぁぁ……良く寝ましたわぁ」
 あくびなどをしつつ、とことこと廊下を早足で歩いていくのは、ヴァレーリヤ。その様子から察するに、授業は完全に眠っていたらしい。そして今は、お昼ご飯に意識を集中している。
 さて、何を食べようか。学食のハンバーグが美味しいと聞いている……しかし、売店のメロンパンも捨てがたい……。
「ヴァリューシャ、速いよー!」
 と、後ろから置いてかれた子犬みたいに、ぱたぱたと走って来るのは、マリアだ。一緒に教室を出た気がするのだが、ヴァレーリヤの方が速度が速かったらしい。
「……はっ、ごめんなさいね、夢中になってしまって」
 ヴァレーリヤが苦笑する。追い付いたマリアは、ううん、と頭を振って、
「構わないさ! 君のそういう所も好きだよ!」
 と、からかうように言う。ヴァレーリヤはふふ、と笑ってみせた。
「あら、ありがと? マリィは食べたい物はありまして? 折角ですもの。補習授業なんて忘れて楽しい思い出を作りましょう!」
 補習授業がメインなので、補習授業を忘れてもらっては困るのだがさておき。
「どうしようかな? ラーメンっていう食べ物が気になる!」
「じゃあ、学食ですわね? さ、参りましょう、マリィ?」
 そう言って、ヴァレーリヤはその手を差し出した。ちょっとびっくりしてから、差し出された手を握り返すマリア。
「君は学生時代はどう過ごしてた? 私は士官学校だったし訓練ばっかりだったよ……」
「ふふ、大変でしたのね。でもちょっと見てみたかったかも」
 二人は今度は歩調を合わせながら、学食へと向かうのであった。

「午前の授業、お疲れ様、珠緒さん。学園はどう?」
 食後の紅茶とケーキセットを楽しみながら、蛍は珠緒へと声をかける。珠緒はミルクティーのカップを片手に、微笑んだ。
「学園は……ここがかの、という驚きが最初にありまして。学業に集中すべく整えられた設備にあれこれ目がいき、授業という体制そのものが、まだまだ新鮮……そんな感じですね」
 かつての世界では、こういった学園施設には縁がなかったのだろう。勉学として学ぶものの知識はあれど、こうした学校教育としての体験は、珠緒には新鮮に映る。
「大変って思うことがあれば、いつでもどんなことでも、「先輩」で――「恋人」のボクを頼ってちょうだい!」
 とん、と胸を叩き、蛍は胸を張る。珠緒は、それがとてもっ頼もしく、愛しく思えて、
「知識取得に問題はないのですが、生活面では頼らせてください」
 そう言いながら、思わず微笑んでしまうのだ。
「……ボクはね、今この時が楽しくて仕方ないんだ。だって……もう一度学生に戻れることも、こんな風に珠緒さんと学園生活を送れることも、思ってもいなかったから――」
 蛍が言う。かつての世界での生活――二度と戻れないと思っていた、学校生活。それが疑似的なものとはいえ、目の前にある。大切な人もまた、その光景の中にあるのだ。それがどれだけ幸せな事か――。蛍は、珠緒の手を優しく握って、
「だからね、珠緒さん。めいっぱいこの生活を楽しみましょ!」
 そう言って、にっこりと笑顔を見せた。
「この場の存在は様々な方々の思惑があるとは思いますが……今この時間を共に過ごせることは、純粋に嬉しいですものね」
 珠緒も優しく、握られた手に、自身のもう一方の手を添えて、
「楽しみながら、全て終えた後に向けての予習をしていきますよ」
 蛍に負けないくらいに、にっこりと笑って返すのだ。

「やっぱりアイシャちゃん、制服似合ってるよね」
 食堂の片隅で、誠司はアイシャに、そう声をかけた。ぽん、とアイシャの頬が赤くなる。褒められたことが、たまらなくうれしくて、火照る頬っぺたを冷ますために、イチゴミルクを一口、飲み干す。
「えと、お勉強ってとっても楽しいですね。午後の授業も待ち遠しいです♪」
 話題をそらすように、そう言う。とはいえ、授業楽しかったのは本音だ。一緒に受ける、学園の授業は新鮮で、くすぐったくて、楽しい。
「じゃあ、頑張るためにもちゃんと食べないとね。ほら、唐揚げ」
 そう言って、誠司はアイシャへ、唐揚げを差し出した。アイシャはびっくりして目を白黒させたが、やがて口を開けて、それを受け入れた。
「おいしい、です」
「よかった」
 そう告げる誠司の瞳が、どこか遠くを見るように、懐かし気な色に染まった。学園に……再現性東京にいると、否が応でも思い出す。かつて誠司がいた世界の事。此処は、其処によく似ていた。平和な街。平凡な日常。――自分もそこを生きる一般人であったことを。そしてそれが、今は失われてしまったのだという事を。
 その瞳に、アイシャは胸を締め付けられる思いだった。大好きな、兄のように思っている彼が見ている、故郷の景色。いずれは彼は、其処へと帰るのだろうか? いずれ――別離の時は、訪れるのだろうか。
「誠司さんが望むなら、いつか絶対に元の世界に帰れますよ」
 アイシャがそう言うのへ、誠司は驚いたような顔を見せた。見透かされちゃったかな。苦笑する。
「その日まではたくさん一緒にご飯を食べましょう。約束です♪」
 差し出された小指を絡める。ゆびきりげんまん。約束の儀式。
 アイシャは、寂しさを笑顔に隠して。
 約束をして、指を切った。

「オーッホッホッホッ! テニスはお嬢様のスポーツと聞きますわ! わたくしが似合うのも道理というもの!」
 テニスコートの真中、ラケットを振り回しながら、タントがホッピングジャンピングステッピングポーズを決める。対するコートでは、ジェックがラケットを構えている。
 事の起こりは少し前。食事を済ませてのお昼休み、校庭を歩いていた二人は、テニス部員たちが練習を行っているコートの近くを通りがかった。
「あ、転入生の人でしょ! どう? テニス部、興味ない?」
 テニス部員たちに気さくに語り掛けられた二人は、誘われるがままにコートにやってきて、あれよあれよとラケットとボールを手渡されたのだ。とはいえ、嫌な気持ちはない。何となく興味はあったし、楽しそうだと思ったからだ。
「さあ! わたくしのさーぶですわよー! ……ほあっ!」
 タントがボールを打つ――それは明後日の方向へと飛んで行って、コートを囲うフェンスを飛び越えて外へ。
「あっ! やりましたわー! 柵越えホームランですわー!」
「タント、それじゃアウトだよ……」
 ジェックが苦笑する。
「あら、違いますの?」
 小首をかしげるタントへ、
「うん。ボールは相手のコートへ。お互い打ち合って遊ぶんだ」
 ジェックは軽く、ボールを打ち込んだ。わわ、とタントは、それをジェックへと打ち返す。
「そうそう、上手だよ」
 ジェックはそれを優しく撃ち返した。タントが慌てて、ボールに走り寄る。お互い加減しての者だったけれど、それはラリーと呼べる程度には、続いていく――。
「ふふ、なるほど! テニスって楽しいですわね……って、こんな時間!」
 がしゃん、とタントはラケットを取り落としてしまった。気づけば、もうすぐ午後の授業が始まる時間だ!
「わわ、急がなきゃ!」
 ジェックはいそいそとラケットをテニス部員たちに返す。タントが走ってきて、ジェックの手を握った。
「さ、急ぎましょう! ジェック様!」
 慌ててかけてゆく二人の背中へ、
「テニス部、入ってよね!」
 楽しげな、部員たちの声がかけられた。

●午後の授業
 さて、補習の授業も午後の部へと移る。
 今回、多くのイレギュラーズ達が参加したのは、新田 寛治の主催した『新田ゼミ』だ。
「盛況だな……流石新田先生……」
 呟きながら席に着くのは、リゲルだ。その姿は学生服に眼鏡……新人国語教師として希望ヶ浜に籍を置くリゲルだったが、今回は生徒としてゼミに参加したい……そこで、と生徒に変装したわけなのだが、事情を知る他の参加者にはバレバレである。
「皆さん、本日は補習として『新田ゼミ』にお集まりいただき、ありがとうございます」
 寛治が一礼。今回のテーマは、イレギュラーズ達が任務を受けるうえでの、作戦遂行のための相談(コミュニケーション)と行動申請書類(プレイング)について、各々が気をつけたり意識したりしていることをディスカッションしていこう、と言うものだ。
 寛治の作成した教材が手元に配られ、各メンバーが討論を続けていく。
「例えば、私の場合は、「Why」と「How」を意識した行動を心がけています。『・その行動は何を狙って行うのか、どのような意図があるのか』『・その行動は、どんな工夫で行うのか』と言ったことですね」
 寛治の開設から、授業は始まった。
「あー、あ、はは。どうも。普久原ほむらです。その、よろしくお願いします。あ、新田さん、このあいだはどうもお世話になりました」
 ぺこぺこと頭を下げるほむら。ほむらは、うーん、と唸ってから、続けた。
「あー、夜なんかに書き物する時……で、いいんですかね? SNSなんかを閉じることですかねっ! そんでとにかく書き切る気合いとかですかね。あとはー、自分の中で締め切りを決めることとか。たとえばその、23時までに絶対仕上げるぞっていう、そういう感じですね。そしたら絶対お酒のむんだって」
 あはは、と参加者たちから笑い声が上がる。まちがったかなー、とほむらが首をかしげるのへ、
「いえいえ、集中すること、そして集中するためのご褒美を用意することは、良いと思いますよ」
 寛治が言う。
「わたしはまず、成功を強く意識します」
 ココロは身振り手振りを交えながら、説明を続ける。
「でも、そうなると役割が固定されてしまいます……役割だけで見るなら、わたし以外にもできる人がいる。だから、わたしじゃなきゃできないこと、私の唯一性とか……依頼に対してどう向き合っているかとか、そう言うのをちゃんと説明するようにしてます」
「そう言うの分かる。でも、ネリ、そこをバランスよく報告するのが難しいって思うの」
 ネリが続いた。
「ネリは、語尾の『。』とか省略したりして、詰め込んでるんだけど……それで増える枠って雀の涙だし。何とかしたいんだけど……ううん。答えが出ないのよ」
「……僕は、出発前に……仮の行動表(プレイング)を作って……皆に、見てもらって……意見をもらったり……するよ」
 グレイルが言う。
「……もちろん、必ず意見が貰える……わけじゃないし……それを、強要……したりもしない、けれど。……僕は、そうして……自分だけじゃ、見落としてしまったりする所を……見つけようとする、かな……?」
「俺は、戦闘行動を真っ先に抑えるようにしているな」
 リゲルが続く。
「相談をおさらいしながら取りこぼしが無いよう気をつけて、場の流れを想像し、フォローを組み込み……残る字数で心情を埋める。こんな感じかな」
「私ならそうねえ、心情! 全体の作戦! 戦闘プレとか個別にやること! アドリブ歓迎! 特に工夫無し!」
 秋奈は腰に手をやって胸を張ると、
「ヨシ! 私せんせーの言ってるコト、ぜんぜんできねーですな!」
 わはは、と笑う。
「ま、一番力を入れてるといえば、戦闘だねっ」
「私は……うまくできている自信はありませんが、援護役という少し後ろから皆様を見る立場ですので。戦況、面子を確認しつつ回復の優先度をしっかりとつけることを重視しています」
 リンディスが言った。
「また、敵の目的に対してどのような対処が行えるか。依頼内容が「敵の討伐」でも、それぞれに違う物語を歩んで来ていますので、可能であればそれに応じた事後対処などが行えればと思います」
「私は作戦に沿った動きの中でどう動けばうまく仲間を支えられるか、に気を付けているかな」
 ポテトが続く。
「回復特化だから勿論回復メインだけど、回復でも、回復の基準を敵の攻撃力や仲間のHPによって変えたり……付与が使える時は手持ちの付与のうち、どれを持っていくのが一番効率が良くなるかを考えるな」
 そう言って、ポテトは笑う。
「少しでもみんなが戦いやすく、少しでもみんなが全力で戦えるようにするのがヒーラーの役目だと思っているからな」
「皆さん、優先している所が違うのは興味深いですね。もちろん、どれが正解という訳ではありませんが」
 寛治が微笑む。と、うーん、と伸びをして見せる千尋。
「悪い。ホワイ? とかフー? の辺りから聞いてなかったわ」
 そう言って、苦笑する。
「俺頭悪いからよぉ~? 難しい事とか考えねえでこうガーッとやってシュッとキメる感じで動いてるぜぇ~? 超カッコイイ俺をイメージして、そう動くように自分をアゲていく感じ?」
 トントン、と机を指で叩きつつ。
「相談もよぉ~、作戦とか立てらんねえから誰かに「上手い作戦ねえ?」って聞いてるぜぇ~?」
「あ、でも、認識を共有するのは重要ですよ」
 花丸が続いた。
「依頼で倒すべき敵がいた場合、先ず敵が何をしてきてどんな事に注意しておかないといけないか。
敵に対して何が有効であるか……とか。その辺を改めて共有すればその敵に対して皆で何をすべきか自ずと見えてくるから」
「あとあと、相談についても出された意見はまず否定せずにどんどん意見を言って貰うとかっす?」
 リサが手をあげた。
「沢山あればあるほど処理は大変っすけど、実際の場面での対処も対策が立てやすいっすし。意見に対して是か非かの返答とかもっすし、その場の方針や行動の理解不十分なら分からないなりに質問したりする等で相談に参加すると良いと思うっす!」
「うむ。意見が衝突した際、まず着目すべきは『大概に於いて、どちらにも長所と短所がある』と言う点」
 汰磨羈が静かに手をあげる。
「そこを踏まえて、まずは双方の長所・短所を客観的に抜き出す。この時点で、決して主観による好嫌を述べてはならない。その上で、互いの長所を生かし、短所を除去した『妥協案』を構築する……肝に銘じて欲しいのは、妥協とは負けて譲る事ではなく、互いに適度なWIN-WINとなるように調整する事だという点だ。でなければ、互いに納得する事はできんさ」
「そうだね。全体の齟齬を少なくする事、この作戦の表現がわかりにくい、誤解を招きそうって部分を、『○○って事だよね?』って噛み砕いて聞く事でわかりやすく出来るかなって考えてるよ」
 ナイアが言う。
「あたしもルーキーだけど、初心者にもわかりやすい作戦行動の共有って大事だと思うんだよね」
「えっと、会長はヒーラーだから回復しか出来ないんだけど、それは最初に言うようにしておくよ!ㅤ全員で攻めまくるぜってなっても会長攻撃できないからね! これも認識を一致させるって事だよね!」
 続いたのは、茄子子だ。
「あとは、状況に応じて会長が何ができるか、どういう行動ができるかは、ちゃんと言っておいてるよ! じゃないとみんなBSにかかった場合とかAPが無くなった場合を想定して戦闘しなくちゃいけなくなるからね! ㅤ会長が入れば安心安全!ㅤ 都合がいい!」
 ぐっ、と胸を張る会長である。
「しにゃは割と本能で生きてるんで! 気になった事をぐだぐだ喋ってますかね……」
 と、言うのはしにゃこ。
「それから、相談は相談する場所なんですけど、交流もしたいので。いじり甲斐がありそうな人は積極的に襲いにいきますね!」
「さて、意見も色々と出尽くしたでしょうか」
 寛治はぱん、と手を叩いた。
「もちろん、今回の誰が正しく誰が間違っている……などとは言いません。これは答えのない命題について考え続ける場なのですから。今回のゼミが終了した後も、皆さんにはこうやって意見を出し合い続けてもらいたいですね」
 と――おずおずと、手が上がった。
「あの……後で資料貰えますか……」
 蓮が小声で、そう尋ねるのだった。

 学校のプールでは、夏休みという事もあり水泳の補習、水泳教室のようなものがひらかれている。
 主人=公もまた、その授業に参加していた。補習とは言え、水泳教室は楽なものだ。既定の距離を、既定の泳ぎ方で泳ぐことを確認したら、後は時間まで、自由に泳いでいい。
「夏だもん、これくらい役得役得」
 ビート板に捕まって、プールに浮かぶ。外気温の暑さと、プールの涼しさのコントラストが堪らない
「あー……そうだ、飲み物かってこよ」
 と、プールから上がって、軽くタオルで体の水けをふき取る。そして水着のまま廊下へ出ようとして――。
「ばかもん! せめてタオルくらい羽織っていけ!」
 と、体育教師からのお叱りを受けて、苦笑いする主人=公であった。

「メイちゃんだ。今日は勉強なの?」
 と、小学部の教室で、補習の授業を受けるメイに声をかけたのは、クラスメイトの少女だ。
「あ、リンさん! そうなのです! メイは補習授業なのですよ!」
 なぜかぐいっ、と胸を張るメイ。そうなんだ、と、リンは笑った。
「がんばってるね。転校生さんだもんね」
「はいなのです! リンさんもお勉強なのですか?」
 リンはううん、と頭を振ると、
「今日はウサギ小屋のお世話。生き物係だから」
「そうなのですね! お仕事頑張ってください!」
「うん! メイちゃんも、また二学期に学校でね!」
 ぱたぱたと手を振って、分かれる。学校で、クラスメイトと会うのが、こんなに楽しい事だとは思わなかった。都会って素晴らしい。
 また二学期に、皆と一緒に勉強するために……。
「がんばるのですよー! ……でも、難しくて……あううう……」
 目をぐるぐると回して、ぶすぶすと煙をあげる。覚えるのは得意だが、算数などの計算系は苦手だ。でも、ちゃんと勉強しなきゃ……。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
 呻きつつ、しかし頑張るメイの補習授業は続く。

「さ、ちょうどおやつの時間になりました。家庭科の授業として、おまんじゅうを作るわよ」
 と、アルフィンレーヌは家庭科室にて、家庭科の補習授業を行っていた。
 題材は、調理実習。作るのは、おまんじゅう。
「おまんじゅうは大きく分けて、2種類あるわ。それは……遠足の時、おやつに含まれるか否か。ぶたまん、カレーまん、ピザまんなどは主食だから、おやつじゃない。よって、今回は割愛ね」
 ぱしぱし、と黒板にまんじゅうの種類を書いて、丸印とバツ印をつけていく。
「あんこは一般的には、こしあん、つぶあん、小倉あん、しろあん、芋あん、栗あん、うぐいすあん、ずんだあんってとこかしらね。材料はたくさんあるから、この中から好きなあんこを選んで作ろうね。それじゃ、分からない所があったら教えるから、さっそく作ってみましょう!」
 その声と共に、生徒たちはおまんじゅうの調理を始めた。アルフィンレーヌはそれぞれのグループを見回りながら、
「お茶も用意してありますから、終わったらおまんじゅうを食べながら休憩よ。だから、みんな頑張ってね」
 そう言って、微笑むのであった。

「お断りだ」
 にべもなく無名偲・無意式にそう告げられたので、十七女 藍は無意式に縋りついた。
「そぉぉんなぁぁ! 助けてぇ! 校長というなら、すべての先生の上位互換……全科目を教えられるはずでしょぉぉ!」 
 そんなばかな、と言う発言をしつつ、藍は言う。
 かつては学校に通っていた藍。しかし、中一の頃に召喚され、後は全く勉強していなかった藍の頭の中からは、勉強したことなどすべてきれいさっぱり消えてなくなっていたのだ!
 そこで一発逆転を狙い、無意式に授業をしてくれと泣きついたわけだが――。
「そうか。では特別に、一つだけ俺がお前に教えてやろう」
 無意式は無表情で、そう告げた。
「学校長は、教育者じゃない。監督者だ。一つ賢くなったな? では、諦めて一つ一つ補習を受けてこい。せいぜい頑張れ」
「ぞぉぉぉぉんなぁぁぁぁぁぁ! こーーちょーーーーー!!!!」
 ぞんざいにあしらう無意式。しかし藍は、そんな校長に意地でもしがみつき、歩き去ろうとする好調にずるずると引きずられる形で、しばし廊下を進んでいくのであった。

 この日、希望ヶ浜学園に新たな七不思議が生まれた。
 ある夏の日、廊下を歩く校長の足元に、死体がしがみついていたのだという。その死体は、すがるような声で、「助けてぇ」と叫んでいたのだそうだ。
 この話を聞くと、七日以内にあなたの下にもその死体がやってきて、突然足元にしがみつき、「助けてぇ」と叫ぶのだとか叫ばないのだとか、返事をすると霊界に連れていかれるとか連れていかれないとか。
 どっとはらい。

成否

成功

MVP

十七女 藍(p3p008893)
希望ヶ浜学園の七不思議

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ささやかではありますが、皆様の夏の思い出の一ページとなりましたら幸いです。
 それでは、希望ヶ浜学園での生活をお楽しみください。

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