PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悠久幻想オリエント

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●開かれし黄金の国
 豊穣郷カムイグラ。海洋王国が決死の思いで切り拓いた『静寂の青』の先で輝いていた新たな大陸。
 鬼と精霊達の住まうその大地はまさしく約束の地。黄金の穂が風に揺れ、美しい灰桜の花弁が舞う世界。
 だが魔種(ほろび)の魔の手はこの理想郷にも例外なく迫り、今にもはびころうとしている――

「いやあ、虎さん、今年も豊作、豊作、大豊作ですな!」
「んだんだ鷹さん、これで数年は食い扶持に困らないっぺよ!」
 カムイグラの首都、高天京(たかあまのみやこ)から数十里ほど、青空の下で二人の鬼の若者が鎌を手に実りを刈り取っていた。
 歯切れ良い音と共にその黄金の実は刃に跳ね飛ばされ、二人の傍でぼんやりとしている牛車の上に乱雑に積まれていく。

「じいさん達も心配性ですわ、こんな晴れた日に化け物なんて出るわけないべ」
「虎さんの言う通り! 早い所刈り取って嫁さん喜ばせないとな!」
「んだ!」

 汗を流しながら献身的に実りを刈り取る男達、その二人に這い寄る怪しげな影。
 太陽が雲に隠れ、少し寒気を感じた鬼の男が相方へと声をかける。
「ところで虎さん、嘘みたいな話なんだが聞いたところによると――なんでも龍神様が倒されて、黒い船に乗った男たちがこっちに来たんだとか――虎さん? 便所か?」
 だが、虎さんと呼ばれた男はそこにいない。ただそこに彼が持っていた農具だけが落ちているのである。
「まさか……虎さん! 虎さーん」
 不安にかられた男は隣にいたはずの仲間を求め続ける、すると突然、彼の隣でのんびりしていた牛が硬直すると、一目散に牛車を引きずりながら里の方へと逃げ出した!
「フフフ、タカサン、ココダヨ、タカサン」
 怪しげな甲高い声、さらに曇る黄金の稲畑。その鬼の男が振り返った先に居たものは――ぐったりと気絶し、痙攣する男の仲間と、白い衣をまとった女幽霊――

「ひっ、出たああ!?」
 男は血相を変えて農具を放りだし、逃げようとするも何かに蹴躓いて地面に転げ落ちる。それは白い毛玉の様なものであったが……二本の尾を生やすと、巨躯な男の体を優に超えるほど膨らみ、稲穂をつぶしながら男に迫る。
「オロローン……」

「う、うわああああ……!」

 哀れ、その地に響いた音は硬い何かが潰され折れる音と、男の遺した断末魔のみ――

●新たなる大地、新たなる種族
 イレギュラーズが赴いた先は、まさにその悲劇があった場所のすぐ近く――
「ここ……だよね? 農村にしては妙に大きい、けど……」
 村の周囲に恐ろしく広がる、鬱陶しいほどの黄金の輝きに目を擦りながら見渡した『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)が見た物は、木と藁で作られた家々が並び立つ豊穣の地の農村であった。
 イレギュラーズ達は特にあやかしの類が多いと言うこの村へ、『収穫期の農民達を守ってほしい』という依頼を受け訪れたのだが、様子が変だ。

 特に事前に情報が行っているという情報は聞いていないはずなのだが、やけにこちらを不思議な物を見る様な目の鬼人種(ゼノポルタ)達の姿が多い。彼らは何か別の出来事で村の大きな広場へと駆けつけている最中であるようだ。

 どうやら何かがあったらしい。異常があるという事は既に自分たちの仕事は始まっているのだ。
 となればのんびり護衛の申し出をしている暇はない。この村を救うためにも、また豊穣の鬼人種との友好を深めるためにも早速一仕事をしなければならないようだ……!

GMコメント

 黄金の稲穂実る大地へようこそおいでくださいました。

●依頼内容
 豊穣(カムイグラ)の田園地帯に発生した異常を取り除く。
 鬼人種(ゼノポルタ)との交流を深める。

●1章の内容について
 あやかしの被害が多いと言う農村にて何やら不穏な空気が流れています。
 人々はそわそわと家を飛び出し、大勢は村の大広場に、少数が近くの水車の下へと集まって何やら話しているようです。
 何があったのか、なぜ彼らはこの村に留まり続けるのか。現地調査をして異変の情報を少しでも掴みましょう。
(情報量に応じて2章以降の能力値に補正がかかります)

●2章以降
 おそらく田園地帯――にて発生した無数の妖怪との戦闘が予想されます。

●同行NPC
『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)が同行します。(プレイング内での指定が無ければ登場はしません)
 プレイング内にて指定があった場合のみ飛行と防戦でサポートします。(書かずとも必要最小限の援護防御は描写外でします)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 悠久幻想オリエント完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月01日 16時20分
  • 章数2章
  • 総採用数31人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家


「ほう、この国は……」
 神威神楽の農村を見渡した『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)はその光景に何処かデジャビュを感じ、感嘆のため息を漏らす。彼らのいた忍びの国と違いがあるとすれば、農村にしてはやけに大きすぎる村の規模と――これ程の稲穂を前に嘆き悲しむ農民の姿。
『でもなんだか、村の人達の様子が変なのだわ……?』
 鬼灯は嫁殿へと頷きかやぶき屋根へと飛び乗ると、次々と軽やかに飛び移り水車小屋の元へと飛び降りる。当然村人の視界に入るのは突然空から飛び降りた忍者と可愛らしい西洋人形の姿――興味を引くには十二分のインパクトであった。
「あ、あんたは……!?」
「すまない、我々は仕事でこの村を訪れたもの……君達の言葉では神使とでもいうべきか」
『良ければ何があったか教えてくださらないかしら? 私の旦那様はとっても優しいのよ!』
 自己紹介で農民は理解したのか恐る恐る頭を下げると、事情を説明する。

「うちの村では『昼間に稲穂を刈っちゃいけねえ』って決まりがあって。なのに虎さんと鷹さんっつー若者がいるんですけど、家族が腹空かせたとかで――何かあったみたいでさぁ」
「昼間に収穫を禁ずる?」『どうしてかしら?』
 村人は静かに頭を振る。
「わかりやせん、俺も親父から聞いたもので……」
「ふむ」
 情報は微か、しかし異変がある事は確定的に明らか。鬼灯は頭を下げると、近くの水車小屋へと急ぎ飛んでいくのであった。

成否

成功


第1章 第2節

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アヤメ・フリージア(p3p008574)
死神小鬼

 文明の収斂進化とでもいうべきか。鎖国の地に根付く文化は旅人達に強い既視感と郷愁を覚えさせる。
「向こうの皆は元気にしてるかなぁ……」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は心地良い稲穂の香に心を奪われかけ、思わず騒ぎも忘れかつて自分が居た世界の事を考えてしまう。
『死神小鬼』アヤメ・フリージア(p3p008574)もまた、軽く舗装された土の道を踏みしめながら、しみじみと呟く。
「私も……凄く懐かしい気がします……っ」
 自分のいた場所はこの様な世界ではなく、厳密には隣の『あの世』なのだが……。だからこそ、他人事とは思えない。
「焔さん、早くみなさんから情報を聞きましょう!」
「え……はっ!?」
 アヤメの声に慌てて焔は我に帰ると慌てて周囲の様子を確認する。この地区は既に住民が飛び出して行ったのか、しんと静まり返り、何人か子供らしきものの声がするのみ。
「そ、そうだね! ボクも急いで何が起きてるのか確認しなきゃ!」
 焔は頷くと天へと腕を掲げ、周囲から鶴の様な鳥を呼び寄せると、それへ優しく声をかける。
「鳥君、ちょっとあっちの広場に行ってみてくれないかな!」
 何十人と旅人が訪れれば村人は恐怖を覚えるだろう、なるべく自然に情報を得る事を期待した焔の思惑通り、数分後には彼女の耳に幾つかの会話が飛び込んでくる。
『虎さんの牛車だけが――こんなに怯えて』
『きっと不幸に襲われたのよ、早くいかないと、あの人が!』
『馬鹿、今は動くなって長老が言っただろう!』
 幾多の焦り、悲鳴、怒号……そして弱弱しくその中央で震え動かなくなった牛車。
 その光景に思わず一歩下がった焔は思わず何かに蹴躓く――それは牛の足跡、そして細い車輪が作った轍。轍は乱雑に歪み、村の広場へと繋がっているようであった。
 情報を整理しながら、焔は自分の推理をアヤメへ伝える。
「もしかしたら何かに村の人が襲われたのかも、飼ってる牛さんだけが、帰って来たって」
 焔の言葉にアヤメは口を抑え、小さく震える。どうしたのと焔が慌て落ち着かせると。弱弱しく。
「そのっ……近くに一人の男の人の……感じたんです」
 アヤメが言うには焔が鳥を飛ばした直後、背後から一人の霊が村へと入るのを感じたと。
「何があったか聞いても……『あんなに食べたのに、力がでない、でもおっかぁはもっと、お腹空かせてるっぺ』……そんな同じことを呟き続けるだけで、私に気が付かないぐらい弱ってるみたいでした」
「それって……」
 二人の頭に嫌な憶測がよぎる。だがそれを決定づけるにはまだ早い……ましてやそれを村人に伝えれば更に悲しみや混乱が増すばかり。
「……もう少し何があったか調べてみましょう」
「うん、そうしよっか」
 アヤメの提案に焔は頷くと、更に村人たちの会話に耳を傾けるのであった。

成否

成功


第1章 第3節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

 村の周囲を走る水流は金色の畑に潤沢な水を提供するが、同時に農業に欠かせない幾つかの動力の源にもなる……その水車小屋の一つへと『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が大胆にも扉を開けて訪れると、その匂いに思わず口元が緩んでしまう。
「あらぁ、この国にもいいお酒がありそうねぇ」
「んあ……?」
 中に居た鬼人種の壮年の男性は侵入者を怪訝そうな目で見るが――その美しさにすぐに警戒心を解き近寄るとアーリアの差し伸べた手を掴み会釈をする。
「徴無。旅の人か、この村には獄人しか居ないからすぐにわかる」
「ええ、はじめまして、アーリアよぉ――ここは酒造かしら?」
 相手の男は頷くと、若干困った様に背中を見せ頭を掻く。
「美しい上に鋭いとは……だが、今は飲みかわせるような状況でもないみたいだ」
「あら、何かあったのかしら?」
 隙を逃さず、自然に情報を探るアーリア。男性はいそいそと仕事をしながら応える。
「さあね……お姉さん、悪い事は言わない。すぐにこの村を出るべきだと思うぜ」
 それに続く言葉を、アーリアは聞き逃さなかった。

 どうせ生きちゃいねえ、今騒いだって判るのは数日後だってのに――

 アーリアは静かに立ち上がると、名前を記した紙を置き残し、水車小屋に背を向けるのであった。
「それじゃまたねぇ、呑めるようにしたらこちらのお酒と飲み比べといきましょうかぁ♪」

「『したら』? ……変な美人だったな」

成否

成功


第1章 第4節

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

 事情を調べるも何も見知らぬ大地、やり方なんてわかるわけないじゃないか。
「いよーし! まずはあの水車だ! ビビッときたー!」
 ただ直感のままに『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は思い切って不思議な匂いがする水車小屋の前へと飛び込むと、ビシっと自己紹介!
「訳あって此処に参上致しました、『ろおれっと』の冒険者、茶屋ヶ坂アキナと申します。しがない旅人の我が身ではありますが、何かお困りの様子。何があったかお話しいただけないでしょうか」
「あ……」
 早口。目を見開く獄人の男性。反応の悪さに秋奈は愛想笑いを重ね。
「えーと……挨拶とかってこーんなもんでいいかな?」
「俺にそれを聞かれても……いや、困った事はあるんだけどさ、俺にはわからなくて」
「わかんないんかーい!」
 ずっこけた。でも。

「長老なら何か知ってるかもなぁ……」
「!」
 如何にも偉そうな人の名前が出てきた、聞いてみる物だ。
「会いたいのか? 今ぁ散歩してる時間のはずだからな。この騒ぎで広場に戻ってくるだろうけど」
 そしてその偉そうな人が来る時間と場所も分かった。早く仲間に伝えなければ――でも、その前に。
「ありがとー! ところで凄く香ばしい匂いがするんだけど、ここで何作ってるの?」
 秋奈は思わず奥の水車小屋から漂う匂いについて、男性に尋ねてみるのであった――

「この村の名物、辛味油……」
「あるの!? こっちにも辛味オイルあるの!?」

成否

成功


第1章 第5節

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
トーラ・ファーレングッド(p3p007299)
帰る場所
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

「ここが豊穣の田園地帯かぁ……」
 稲の香りとのどかな雰囲気に強烈な眠気を覚え、『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が目をこすりながら、ゆっくりと村の門を潜り抜ける。
「でも……何か、何でしょうね? どこか違和感があるような」
「ああ、なんか不穏な雰囲気だな、絶好の収穫日和というのに、稲も刈らず――」
『帰る場所』トーラ・ファーレングッド(p3p007299)は辺りを見回し首を傾けるが、数秒後にはまずは調査と村の中へと駆け出していく。一方トーラに追い抜かされる形となった『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は顎に手をあて考え込む。
「きっと禁止されてるのよ、稲を勝手に刈ってる人はいねーよね? ってね」
「何はともあれ村全体を回って話を聞いてみよう」
「ちょっと」
 渾身の一発をファンブって硬直した『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はさておき、利一は村の一角を指さした。あの大広場に行けば何かわかるだろう、もしかしたら他の仲間もそこに集まっているかもしれない、と。
「こっち、こっちよー!! 人がいるわー!」
 気が付けばトーラが何かを見つけたのか、上空からこちらへと手を振って合図を送っている。善は急げ、ユーリエはトーラへと合図を送り返すと、仲間へと「急ぎましょう!」と声をかけるのであった。

「ああ、どうしましょう……鷹さん虎さんがが見当たらないんですって」
「やっぱり! あの人たちは長老の話を聞かないから――」
 文化も近ければ人々も近いのだろうか。広場へと向かう途中、トーラが指示した場所では道端で何人かの壮年の女性たちが集まり、話し込んでいた。だが彼女たちの誰もが底知れぬ不安に包まれているかの様で、数十秒も聞かぬ内にそれが同じ話の堂々巡りであるとイレギュラーズたちは気が付いた。
 このまま盗み聞きを続けては効果は出まい。一番乗りのトーラは脅かさない様にゆっくりと着地すると、彼女たちの一人に話しかける。
「ねえ、ちょっとお話いいかしら?」
 彼女よりも身長の高い鬼の女たちはその言葉に会話を止めると、トーラの姿を見下ろした。見知らぬ他人ではあるが、トーラの透き通る様な瞳はその女性たちに冷静な思考能力を与えるであろう。
「天狗のお姉さん? 見ない顔ね?」
「ええ、海の向こうからやって来たもの」
「海――!」
 トーラのその言葉は一瞬でも世間話から女性たちの関心を引くには十分であったろう。その間に集まった仲間たちもトーラに続くように無難に情報を引き出そうと試みる。
「ああ、私たちはあの絶望の青――とにかく、外洋を越えてここに辿り着いたんだ」
「じゃあ、海神様は……」
「『説得した』。今は京からの令により周囲のあやかし退治を受け持っている。手伝えることがあったらなんでもしよう」
 利一の言葉に女たちは息を呑む、驚くべき情報が一気に2個も3個も来たのだ、無理もあるまい。中には「あそこがここを気遣うなんてねえ」なんて言葉も混ざっていて。
 だが力を持つ存在であると言う事は伝わった。ユーリエは女性たちを見上げると、口をやや大きく開け――その犬歯を見せつける。
「その、私事にわたって恐縮ですが、同じ”鬼”としてこの村の困った事は見逃せなくて――差し支えなければ教えていただければ……」
 鬼人種の女性たちは目を合わせると、そうねえと口にして。
「この村には、御狐様がいると言われているのよ」
「御狐様……? 稲荷様みたいなものですか?」
 ユーリエの言葉に女性は頷く。
「さあ、私たちには御狐様としか。この村の長老は御狐様に呪われていて、長老の定めた時間以外は収穫してはいけない決まりがあるの――それも決まって夜だったわ」
「ええ、お陰でこーんなに植えても採れるのは1割ありゃいい方よ! あの糞村長、もうちょっと狐にゴマ擦って増やしてもらえばいいのに!」
「ちょっと! 今そんなこと言っちゃダメよ! 鷹さんたちに『不運』が襲ったかもしれないのに!」
 そんな彼女たちの話を小耳に挟みつつ、道の傍らの木の上で稲畑を眺めていたセリアが呆れたようにつぶやく。
「変な村ね、得体の知れない狐の機嫌を取らないといけないなんて、よく見たら田んぼの端っこも丸いし――それにしても、稲が風に揺れる音、きれい。やっぱりいーね」
「……あら、良く気が付いたわね、村の端の田んぼは角を落として丸くしているのよ、何でも御狐様は丸い物が好きなんだとか……」
「……『ふぅん』、ところでその狐とやらとはお話できるのかしら」
 セリアの言葉に女性は目を見開く。
「ああそうだな、あの竜神をも説得した私たちならここの狐やらも説得できるかもしれない。長老と話せば接触する機会はあるだろうか?」
 利一の言葉に女性は「多分、できるかもしれないけど……」と小さな声で応える。
「よしなさいよ、もし御狐様の機嫌を損ねてあなたたちまで不運が訪れたら……」
 女性の言葉にトーラは振り返ると、ぐっと腕を見せつけ、自信を持ってその言葉を跳ねのけた。
「大丈夫よ、私たち、こういうことには慣れっこだから!」


成否

成功


第1章 第6節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

「大きな田園地帯だが……不自然だ」
『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は村の外に広がる黄金の畑を観察しながら広場へと歩みを進めていく。
 村の周囲に広がる沼の様な畑はおそらく人為的に植えたもの、即ちこの村人達が植えた農作物であろう。あの黄金の稲穂はこれでもかと大量に実をつけ風に揺れているというのに、ここの飢えた村人達は稲穂や、少なくともそれを求めて近寄る動物たちにすら手を付けようともしない。彼ほどの観察眼の持ち主であればその不調和に気が付くのは容易かったであろう。
「なんということではない。これも高天京の連中が言っていた『あやかし』とやらの仕業なんだろう」
『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)はリゲルにそうきっぱりと言い切りながら手を額に当て広場の人だかりから手がかりを見つけようとする仕草を取った。この国もまた魔種が深く国の頂点にまで根付く場所であるというのならば、あやかしを駆使し収穫をしようとする農民に『嫌がらせ』をする程度の事ならばしても不思議ではあるまい。
 だが今は急がば回れ――あの魔種達の言いなりになってでも住民の信頼を勝ち取らねばならぬ。愛無は人だかりの中から嫌な臭いを感じ取ると隣で眺めていた『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)に目くばせをする。
「うん、わかった」
 ぴょん、ぴょんとコゼットは素早く人ごみの周囲へと近寄ると、耳を立て周囲の気を引き付ける――どうやらこの村の者は余所者に対しては寛容な様だ――『雑音』が殆ど無い事にコゼットは内心ほっと胸を撫で下ろしながら、鬼人種の中でも背の低そうな男性へと声をかける。
「こんにちは、あたしたちあやかし退治のおしごとしに来たんだけど、なにか困ったことあったんですか?」
「あやかし退治! ああ、良かった――みんな、京からあやかし退治の使者が訪れたらしい!」
「何だって!?」「やっとか……遅すぎる」
 その男の言葉にまるで巨大な壁の様に背の高い鬼人種達は反応し、来訪者達も入りやすいように道を開ける――なるほど、他の仲間が蒐集した情報通り、その中央には怯えてぴくりとも動かなくなった牛と彼の引く牛車があるではないか。
「もし、積み荷をどかしてもいいか?」
 あれには何かがある――その牛車の様子に反応したのは愛無。村の男達は顔を見合わせ、首を振る。
「それはまずい、万が一穀物に触れて使者殿に不幸が襲い掛かったらどうなるか……」
 また『禁忌』という奴か。だがこの手がかりは――唯一事故現場から帰って来た牛車だけは多少踏み込んででも調査しなければなるまい。
「不幸なら大丈夫、あたし達結構強いんだよ」
「急な頼みですみません、仲間の願いを聞いてくれませんか? 俺達は世界を救う仲間として、貴方達の助けになりたいのです」
 コゼットとリゲルの必死の説得に「じゃあ、そこまで言うなら……知らないぞ」と村人は折れて更に幅を広げる。
「協力感謝する、では」
 愛無は深々と頭を下げると稲穂の山へおもむろに手を突っ込み、勢いよくひっくり返す。
「ああ、臭い通り――さしずめ見せしめ、か」
 稲穂の山の下にあったものは、まるで中身が繰り抜かれた――否、生気を搾られたかのように、薄皮だけになった人だったもの。
 一体どうやって、いつの間に。精気と魂を奪われたカスの様な状態となり果てた村人の姿に愛無はため息をつくと。静かに稲穂を元の形に戻して嘘をついた。
「協力感謝する、何もない様だが――君達の言う通りこれは触らない方がいい物の様だ」
 今は村人を刺激しない方がいいだろう。愛無がそう判断し仲間の元へ戻ろうとしたその時――ひとりの老人の声が愛無の耳へと飛び込む。
「その通りでございます――」
「ん……?」

「これはこれは、あなた達ですか、村の衆が言っていた神使というのは」
 コゼットが一瞬その声に身構えるも、彼に敵意がほとんどない事に気付き戦闘態勢を解除する。
 広場はしんと静まり返り、一人の老人がリゲル達の元へと歩み寄る。
「これはこれは失礼、うちの村は獄人以外は見慣れないものでしてな、何、心配なさらくていい」
「あなたは――」
 黒曜に輝く強靭にして巨大な角、真紅に染まった特異な肌、そして老人とは思えないほどの力強い歩き方。間違いない、彼が鬼人種の長老――その人であろう。
「よくぞおいでくださいました、神使の皆様――さあ、こちらへ」

成否

成功


第1章 第7節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花

 掟も時が経ち、世代が変わる度に重くなり――この村で稲を刈るには夜中に済ませなければならず、月の光があってはならず、大きな音を立ててはならず。その他育てるにも気の滅入る程の条件と戒律。厄介な事に、最後には『戒律を全て知る物は、稲を刈っ「おう、じいさん! 急に来たのに歓迎してくれてありがとな!」
「いえいえ、神使の皆様を丁重にお出迎えするのは我々の役目ですから」
 広場での出会いから数十分後、集まった『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)達イレギュラーズを自分の屋敷へと案内した村の長老は、彼らを米茶で歓迎する。
「いやぁ、流石はカムイグラ! 特にこの村は遠目に見ても稲穂の質も量もすごいな! 米茶もうまいし本場は違うぜ!」
「ふふ、ありがとうございます」
「ええ、黄金色の稲穂、黄金色の大地、本当に見事だったわ」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)もゴリョウに乗る様に長老と盛り上がり、初対面のアイスブレイクを限りなく自然体に行っていく。
 短い時間の中でこれほどまでに友好を養えたのはひとえに彼らの米に対する熱弁や助けたいと思った心があったからに他なるまい。そして話も弾んだ頃――本題へと斬り込んだのは『讐焔宿す死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)であった。
「長老。同じ鬼の名を持つものとして、この国に近い世界で育った身として、何があったのか教えて欲しい――」
「何があったか、ですか」
「ああ、折角来た新しい国や、ウチらはイレギュラーズ……えっと、神使の一人としてこの国とこの村をあやかしから守りたいんや!」
 胸を張り頼もしさをアピールする『花は散らず』箕島 つつじ(p3p008266)の隣で、静かに『大好きな海を守るため』ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)も正座をしながら彼へと頷いた。
「ああ、この茶に使われている米は今は収穫期と聞いていたのだが、なぜ刈り取りを行わないのか――差し支えなければ聞いてみたいのだが」
 長老は畳へと視線を下ろすと、深く、深く息を吐く……微かに流れた涙の一筋が、チクリと誰かの心に刺さったかもしれない――
「そうですね、そろそろ話をせねばなりません……イナリ様には居心地悪い話になるかもしれませんが」
「大丈夫よ、事前に子猫さんを使って情報は集めてるわ……村の疫病神『御狐様』についてでしょう?」
「流石でございますね」
 長老は静かにほほ笑むと、事情をぽつりと説明する。
「村の者には完全に教えては居ないのですが――あの稲畑は呪われているのであります」
 長老の言葉を要約すると、この村はその龍脈の集う地を中心に家が集い、次第に村となっていったのだという。龍脈は大地に恵みをもたらす、その証拠にこの村は他の村と文字通り桁違いの米を得られるようになり、その規模も収穫量相応になったのだが――
「この世に旨い話などありますまい、豊かな大地を望む者は、我々生者だけではなかったのです」
 龍脈が運ぶのは生気だけではない――霊、妖怪、そして悪しき心を持つ存在――そういった邪気もまた、この地に集っていったのだという。
「そしてこの地にはいつしか、日の光すら恐れぬ凶悪なあやかし――御狐様が住み着いたのです」
 その強大なあやかしは周囲のあやかしを呼び寄せ、強化するという性質を持つらしい。そして掟を敷き、違反した存在を使役するあやかしに例外なく殺させるのだ――最初の犠牲となった村人が9本の火に焼かれていたことから九尾の狐に例えられ、御狐様という名がついたのだと言う。
「何やそいつ、随分と回りくどい悪霊やな!」
 つつじが思わずそう漏らしてしまったのも無理はない。
「恐らく、我々が掟に怯え暮らすのを眺め楽しんでいるのでしょう……その証拠に、掟を破ったものはどれも無残な姿で見つかりました。四肢を斬り落とされ放置されたもの。生気を奪われた物――果てには巨大な塊の様なものに押しつぶされたものまで」
 事情を話し終えた村長は清聴に感謝すると、深くため息を吐いた。
「……これだけの稲穂を前にしても収穫は短くとも数日後。二人は我慢がならなかったのでしょう、家族のために」
「それで静止も聞かずに、か」
 クロバの言葉に長老は涙を流す。
「はい、そして恐らく彼らは掟を意図的に破って挑発したのでしょう、若いですからな……『全てを知る物は、稲を育ててはならぬ』。ああ、彼らが全て知っていれば……わたくし以外の者にこれを伝えられたのならば!」
 長老の話にソロアは首を振る。
「無知を強いるとは、恐ろしいものだな……厳しい話だが、長老、この地を離れてはならない事は戒律にはないのか?」
「ありません、ですが……見ての通りこの村は大きい、これだけの食い扶持を稼げる場は、早々ありませぬ、ソロア様も見たでしょう? この村の住民が、獄人しか居ないことに」
「ああ、彼らの不思議そうな視線がずっと気になっていたな」
「あれは八百万が我々に強いているのです――獄人だけはこの村を出ずに、あやかしにも負けず京に納める米を、作り出せと」
 長老は黙り込む。そして静かに絞り出すように、こう呟いた。
「八百万が、我々獄人を気遣う事などありません」
 黙り込む長老。あやかしに縛られ、種族差別に縛られ、全てを唯一知る自分は何もできず。この定めを変えれる存在がいるとすれば――
「そのあやかしとやらは、殺せないのか?」
 立ち上がったクロバの言葉に長老は顔を見上げる。
「わかりませぬ。御狐様は狡賢い、万が一襲い掛かるあやかしだけでも倒すことができたのならば、2,3年は掟に縛られる事はなくなるでしょうが……
 十分だ、とクロバは静かに応えると。
「……わかった、俺が倒そう」
「危険です!いくら貴方たちでもそれは……御狐様に勝負を挑むとは!」
「『御狐様』だから挑むのよ、そんな狐の恥さらし、ギャフン! と言わせてやらないと許せないわ!」
 イナリも強く頷くと、気合を入れるポーズを取る。まあ、戦って倒せる奴なら倒してやればいいじゃないという戦闘直球な思考もあっただろうが。
 腕を組み頷いたゴリョウも村長の肩に手をやると、もう片方の手で威勢よく腹太鼓を叩くのであった。
「任せろ。こんだけの米作るオメェさんらにこれ以上危害はかけさせねぇさ!」
 後ろで聞いていた他のイレギュラーズも同じ考えであろう。稲畑に入り、暴れまわるあやかしを倒す――それで村人たちの脅威が少しでも減れば、それで良い。
「長老、ウチらにその掟を教えてくれや、ぶっ殺しに来た悪霊に目にもの見せてやるで!」
「……あなたたちを、信じますよ」
 長老はつつじに頷くと、静かに掟の内容を語り始めた――
てはならぬ』とまで締めくくられていた。

成否

成功

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