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シナリオ詳細

空と海と無人島と遭難したイレギュラーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●無人島のイレギュラーズ
 ――拝啓、友人殿。お元気ですか? 俺は今、思いっきり遭難しています……。
 『ラド・バウC級闘士』シラス (p3p004421)は浜辺でひざなどを抱えつつ、胸中で呟いた。
 晴れた空。青い海。穏やかな風――海洋の温かな気候。これが休日に遊びに来たのであれば最高であったのだが、シラスの述懐した通り、イレギュラーズ達は思いっきり遭難していた。
 順を追ってはなそう。海洋の沖に現れたクラーケンの類を討伐してほしい――そのような依頼を受けたイレギュラーズ達は、いつものようにその依頼を受けて、いつものように魔物を倒した。
 何もかも順調だった――そこまでは。だが、断末魔とでもいうべき、クラーケンの死に際の最期の一撃が、船を大きく揺らした。イレギュラーズ達は海に投げ出され、クラーケンの呼び起こしていた渦潮に飲み込まれた――。
 気づいたら、八人全員が、この島にいた。五体満足でここまでたどり着けたのは、幸運だったといえるだろう。
「シラス君、黄昏てないで……とりあえず、これからどうしようか考えよう?」
 苦笑しつつ声をかけてきたのは、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)だ。それもそうである。シラスはほんの少しの自虐的な休憩時間を終えると、服についた砂を払いながら、立ち上がった。
「まぁ、その通りだよな……とりあえず、これからどうするか、だけど……」
「サバイバルに必須なのは、火! 水! 家屋(シェルター)! なのです!」
 ぴし、と手をあげて声をあげるのは、『求婚実績(レイガルテ)』夢見 ルル家 (p3p000016)だ。仲間達は、その言葉に頷く。火は猛獣や寒さから身を守るために必須だし、水が無ければ、餓死するよりも先に水分不足で死亡するリスクが高まる。シェルター……簡易なものでよいのではあるが、これは有害な動物や昆虫から身を守るためにどうしても必要になってくる。
「火に関しては、ボクに任せて!」
 はいはい! と元気よく手をあげる、『炎の御子』炎堂 焔 (p3p004727)。ギフトの力もあり、火の扱いに関して焔の右に出るものは、中々いないだろう。とりあえず、暖をとり、明かりとしての火は必要なさそうだ。
「となると、次は水……ですわね。最悪海水を蒸留するか、ですけれど。でも、意外と大きな島のようですし、水源は見つかりそうですわね」
 『辛味オイル歓迎』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)が、島の奥を見やりながら言う。
 まず、イレギュラーズ達の居る海岸。そこからは、見るからにジャングルと分かる密林の入り口が見て取れた。遠くには、山らしきものも見える。ちなみに、これは今のイレギュラーズ達にはわからぬことであったが、島は巨大な半円状をしている。イレギュラーズ達の居る浜辺は、半円の一番下方の、先端部分だ。
「生き残る眼が見えてきましたね」
 『旋律を知る者』リア・クォーツ (p3p004937)が、希望を見つけた喜びの笑顔を浮かべつつ、そう言う。
「きっと、船の皆さんも、あたしたちを探していくれているはずです……いつになるかまではわかりませんが、とにかく、生き延びましょう」
 その言葉に、イレギュラーズ達は頷く。救助の手が、いつになるかわからない……だが、イレギュラーズ達とて、ただの無力な遭難者たちという訳ではない。今まで培ってきた知識と覚悟が、イレギュラーズ達を奮い立たせる最後の活力として沸き立っているのだ。
 と――。
 ずん。
 と。地響きがなった。
 地震か。そう思ってあたりを見回したイレギュラーズ達。しかし、その目に飛び込んできたものは、意外なものだった。
 密林の木々をかき分けて、大きく顔を出したもの。それは巨大な――あまりにも巨大な、トカゲだった。遥か遠くに居ながらも、木々の合間から登るように現れた顔は、あまりにも大きい。
「きょ……」
 『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)は、たまらず目を丸くした。
「恐竜――!?」
 その声を聞いたかのように、恐竜は再び、木々の海へとその顔を隠す。途端に、ギャアギャアと密林の中より聞こえる何かの鳴き声――これが全て、恐竜の鳴き声のように聞こえてくる。
「ふむ――まずい、な」
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子 (p3p001385)は、あごに手をやりながら、言った。
「普段の吾らであれば――正面から戦って、打ち勝てない相手ではないだろう。だが、吾らは今、非常に消耗している」
 百合子のいう通りであった。魔物との闘い――そして遭難。イレギュラーズ達の体力は、予想以上に消耗している。そして、ここでは満足に休息を得ることもできないのだ。となれば――恐竜相手であっても、苦戦は必至。
「でも、水源や食料を考えると、森の中……恐竜がいる場所へ行くのは、必須だよね」
 スティアの言葉に、仲間達は、ううん、と唸った。
「でも……きっと、何とかなるよね?」
 アレクシアが言う。どんな困難であっても、イレギュラーズ達は立ち向かい、突破してきたのだ! ならばきっと今回も、なんとかなるはず。過去の実績からくる自信が、イレギュラーズ達の折れそうな心に添え木を当てた。
 イレギュラーズ達の心は一つ。
 必ず、生き残る。
 そしてイレギュラーズ達は、生き残るための戦いを始めるのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズ達の遭難(リクエスト)により発生した事件です……。

●成功条件
 一週間生き残る

●状況
 海洋にて、魔物退治を依頼されたイレギュラーズ。それは無事解決したのですが、ふとしたことから海に投げ出され、見知らぬ無人島へと漂着してしまいます。
 その無人島は、恐竜の闊歩する島でした。
 万全の状態なら恐竜など相手にならぬイレギュラーズ達であっても、消耗した今では正面から当たるのは危険。
 果たして、イレギュラーズ達は生き残ることができるのか――。
 と言うシリアスな状況のように思えますが、プレイヤー情報として、一週間後に救助の船がやってきます。
 ですので、割とのんびりスローライフを送れると思います(恐竜はいますが)。

●無人島について
 おおむね以下のようなロケーションが存在します。

 1.浜辺
  イレギュラーズ達が流れ着いた浜辺です。一週間後、ここに救助の船がやってきます。
  基本的に安全地帯なので、ここで過ごしているだけでも割と何とかなります。魚も取れますし、何かが流れ着いてくることもあるでしょう。

 2.密林
  島の大半を占める、密林地帯です。水場や、フルーツなどの食料があるほか、たまに恐竜がいます。
  恐竜との遭遇率は高くはありません。でも見つけようと思えば見つかります。
  皆さんは消耗しているため、まともに恐竜と戦って倒すのは難しいでしょう。罠などを駆使して捕獲したり、何らかの手段で意思疎通を図ったりすると、楽しいかもしれません。
  ちなみに恐竜は鳥みたいな味がします。

 3.山岳地帯
  島の北側に存在する山岳地帯です。山菜をはじめとする野菜が良く見つかります。
  特に険しい山という訳ではないので、気軽に登ることが可能です。頂上からは、島の景色を一望できるでしょう。

 4.その他
  おかしな島なので、探せば色々あるかもしれません。謎の地下遺跡とか。

●持ち込みアイテムのルールについて
 皆さんは身一つで遭難してきたので、大体『手に持っていたり、カバンに入っていたりしたもの』程度のサイズの物のみ持ち込みを許可します。
 とはいえ、無人島ですので、色々流れ着くかもしれませんし、皆さんの活躍によっては、色々と見つかるものもあるでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 空と海と無人島と遭難したイレギュラーズ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●無人島生活、開始
「とりあえずこの島を夢見島と名付けます!」
 どん、と効果音が入りそうな勢いで声をあげたのは、『婚活ファイヤー』夢見 ルル家(p3p000016)である。此処が未知の島であれば、その所有権は発見者に在りそうな気がしないでもない。
「あっはっはっはぁー! くそったれ!! なんでこんな事になってんだくそやろー!!!!!」
 と、海に向って叫ぶ『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)。その叫びは無情にも、海の向こうへと消えていった。
「はぁ、はぁ……って、海に叫んだってしょうがないですよね……わかった。おら、シラス! いつまでも落ち込んでんじゃねぇぞ! 別にお前のせいじゃねーんだからシャキッとしろ!」
「まぁ、別に落ち込んでるわけじゃないけど」
 苦笑する『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)。とはいえ、ツイてない、と思ってしまうのは仕方ない。
「そうなのですよ! 前向きに前向きに。拙者などは夢見島に建てた夢見御殿で優雅に生活を送る所まで目標を立てました!」
 それもどうなのだろう、と言う気がしないでもないが、しかしルル家のいう事ももっともである。シラスはうん、と頷き、
「確かに、未知の無人島……なら、誰にも見つかってない海賊のお宝とかあるかもしれないからな。そう考えると、やる気が出て来たぜ」
 にっ、と笑ってみせる。
「お、その意気、その意気。まずは浜辺から制覇してきましょう!」
 リアの言葉に、一同はおーっ! と片手をあげるのであった。
 そんなわけで、恐竜闊歩する夢見島の探索を始めた一行。まずは拠点となる浜辺付近を歩き始めた。
「お酒……お酒はないかしら……」
 親指の爪をガジガジとかんだりしながら、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がややハイライトの消えた目で呟く。
「う、うーん、まずい……ヴァレーリヤさんのお酒が切れ始めた……」
 苦笑するのは、『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だ。ちょうど、浜辺に流れ着いた資材を拾い集めている所だ。
 不思議なことに、浜辺には色々なものが流れ着いている。木材や、漁のための浮きや網……。
 ……が、空気を読まずか、あるいは読んでか。お酒の類は転がっていないようだった。時折、酒瓶の様なものを見つけたヴァレーリヤが全力ダイブで飛びつくが、中身は空か、あるいは腐って酢のようになってしまったワインか。
「……おお主よ、私をお見捨てになったのですか!? このままでは……死んでしまいますわ」
 しおしおと、悲し気に顔にしわを寄せるヴァレーリヤ。
「お酒はないけど、辛味オイルなら、なぜか流されたときに握ってたんだよね」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、小さな小瓶を取り出す。そうしてにこり、と微笑んで、
「お魚を取って、調味料にかけてみよう? お酒の代わりにはならないかもしれないけれど、気晴らしにはなるんじゃないかな?」
「うっうっ、ありがとー! やっぱり持つべきものは友達でございますわー!」
 ヴァレーリヤは小瓶に飛びつくと、愛おし気に頬ずりをして見せる。ひとまず、これで大丈夫だろう。
 と――突然、ばしゃり、と海を割いて、飛び出してきた巨大な影。
 三人が驚いて視線を移せば、砂浜でじたばたとしているのは、巨大なサメであった!
「さ、サメ!?」
 スティアが驚き、慌てふためく――同時に、再び水しぶきをあげて、海から今度は美少女が飛び出してくる!
「はっはっは! 逃がすまいぞサメよ! 大人しく吾らの夕餉となるがよい!」
 美少女――『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は、手にした網に大量の魚を詰め込み、呵々大笑。海に潜り、海女さんもかくやの水中行動で魚を取りまくっていた百合子である。あまりにも美少女的なその姿。その美少女力に圧倒されたか、サメはずりずりと砂浜を這いずり、スティアの背後へと隠れてしまう。
「百合子さん?」
 スティアが思わず声をあげるのへ、百合子は頷く。
「うむ、百合子さんである。スティア殿、そのサメを押さえておいてくだされ。余す所なく頂こうではないか」
 ぎらり、と美少女アイがサメを捉えた瞬間、サメはひい、と身体を震わせ、スティアを盾にするようにうずくまった。スティアはそんな様子に苦笑を浮かべつつ、
「あー……サメは、良いんじゃないかな? それだけお魚があれば、充分だと思うよ?」
「で、あるか? ふむ、スティア殿が言うのであれば。サメよ、命拾いしたな――では、吾は今しばらく、漁を続ける故」
 美少女は美少女飛び込みの態勢を取ると、美少女的に海へと飛び込んでいった。
「あ、ボクもお魚取るの手伝うよ! じゃあね、二人とも!」
 焔は二人に手を振ると、美少女を追って海へと向かう。サメはそれを見届けると、潤んだ瞳でスティアを見上げた。
「さ、海へとお帰り。あんまり乱暴しちゃだめだよ?」
 その笑顔は、サメには救いの天使に見えただろう。サメはぺこぺこと頭を下げると、ずりずりと身体を引きずり、海へと帰っていった――。
「……なるほど! こうすれば、夜には、助けてもらったお礼に、サメがお酒を持ってきてくれますのね!?」
 ヴァレーリヤが、期待に満ちた表情で、言った。
「それはないかな」
 スティアは笑顔でバッサリ斬った。

 一方、此方は密林地帯。響くのは笑い声と悲鳴であった。
「ハハッハハハハ! アヒャヒャヒャヒャ!」
「わーっ、ルル家! ぺっしろ、ぺっ!」
 リアがルル家の口に手を突っ込み、叫んだ。ルル家が食べたのは、いわゆるワライタケの類のもので、今はかなりハッピーな幻覚がルル家を楽しませているはずである。
「逆にすごいわねルル家! 何でこんだけフルーツとかあるのにワライタケピックアップできるの!? 確率すごくない!?」
「アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
 さて、キノコに限らず、密林には様々な資源が存在する。とりわけ、豊富な水源を発見できたのは、一行にとっては幸運だった。水分補給にもなるし、海水でべたついた身体を洗いたい。
「温めれば風呂に入れるな」
 そんな水源、小さな湖のほとり。手にした桶――漂着していたものだ――に水をため込んで、シラスが言った。
「そうだね。気持ちも切り替えらえるし、楽しみだよ」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)も、嬉しげに笑って水をくむ。前向きに、とは言うモノの、やはり精神的にも肉体的にも、疲労が蓄積しているのは事実だ。となれば、それらの疲労を取り除くためにも――そしてやっぱり女の子だし、お風呂には入りたい。
「とは言え、風呂に貯めるには何往復かしなきゃなー」
 シラスがぼやく。これは少しばかり、重労働になりそうだ。
 と――。
 がさり、と何かが草をかき分ける音がした。
「……なんだろう?」
 アレクシアが小首をかしげる――その瞬間! 草木をかき分けて、巨大な影が湖に現れた!
 それは、二足歩行の太い脚と、巨大なあごと鋭い牙もつ、狂暴な捕食動物!
「きょ、恐竜だ!」
 シラスが叫ぶ――そう、それは紛れもなく、肉食恐竜の類だ! 今日の内も、何度か遭遇して、そのたびに追いかけまわされた。となれば、シラスの行動は早かった。シラスはアレクシアの手を取ると、一目散に走りだす。持っていた桶が地に落ちて、水をこぼした。
「水が……」
 思わず声をあげたアレクシアだったが、すぐに気を取り直して、シラスと共に走った。
 幸い、今回は、恐竜は此方をおって来ることは無かった。その口の端が、少しばかり笑んだように見えたのは気のせいだろうか。シラスはぎり、と歯を食いしばって、アレクシアを引っ張って走り続けた。
「くそっ、魔力が戻ったらステーキにしてやるからな!」
 そう、固く誓うその叫びを、沈み始めた太陽が聞いていた。

「はぁ~~~いいお湯。ここでお酒があれば……まぁ、ぜいたくは言えませんわねぇ……」
 と、湯船に肩までつかりながら、ヴァレーリヤがため息をついた。
 さて、一行の活躍により、簡易的な拠点の確保は出来た。夕食は、皆で集めたフルーツや魚の類が満載だった。主に調理を担当したのはスティアで、まさに『すてぃあすぺしゃる』のフルコースは、仲間達の体力と気力を癒してくれたのだ。
 さて、腹を満たしたら次は風呂、と言った形で、一同は漂着したバスタブに水をためた湯船に、焔のギフトで生じた炎を当てて、温める。
「お湯加減、どうかな?」
 焔が尋ねるのへ、
「ええ、ちょうどいいですよ……焔さんのお陰ね」
 リアもまた、伸びなどしながら湯船につかる。
「えへへ、よかった! じゃあ、火の番はもう大丈夫かな。ねね、アレクシアちゃん! 洗いっこしよ!」
「え、ええっ!? 洗いっこ……皆、するものなのかな? でも、焔君が言うなら……」
「ならアレクシア殿! 拙者は髪の毛を洗いますよ! お任せ下さい!」
 むむむ、と唸るアレクシアへ、焔、そしてルル家がじゃれつく。アレクシアがくすぐったくて笑い声をあげて、焔は屈託のない笑みを浮かべる。
「皆で入るのも、ちょっとドキドキしたけど……楽しいものね」
 月明かりにその裸体を惜しげもなくさらしながら、スティアは微笑んだ。一日の疲れが、吹き飛ぶほどの楽しさ。
「うむ! 皆歴戦の猛者である故、キレッキレの体つきであるなぁ」
 そんな彼女らの肢体を眺めつつ、力強く頷く美少女である。美少女は美少女であればあるほど美少女なので、その感想は実に美少女的であった。
 ……そんなやりとりを、衝立の向こうで聞いている男がいた。シラスである。ひとり男なので、仲間外れ的になってしまうのは仕方あるまい。そして生殺し的になってしまうのも。そんな気配は、リアにはお見通しで、リアは意地悪気に、くすりと笑った。
「おーい! シラスー! 近くに居るのはお前の旋律で分かってんだぞ! 今日は一緒にお風呂入っても許すぞー?」
「シラスー、早く早く! アレクシアも呼んでいましてよー!」
 ヴァレーリヤも其れに乗って、少しばかり色っぽい声色を出してみる――シラスはたまらず、叫び返した。
「行けるわけないだろ!」
「む! シラス殿を呼ぶのですか? 拙者が呼んでまいりますよ!」
 と、ルル家が立ち上がった。衝立の向こうへと行こうとするのを、慌てて止めるアレクシア。
「だ、だめだよ! 服! 服着なくちゃ!」
「? お風呂に呼ぶのですから、良いのではありませんか?」
 ルル家がぐい、とアレクシアを引っ張るのを、アレクシアは必死で踏みとどまる――突如発生した、綱引きのような応酬――それが小さな振動を生んで、急ごしらえの衝立を揺らしたのは、もはや仕方のない流れであった。そして、その衝立がぐらり、と傾いたのも、仕方のない事であった。
 仕方がない事だった。
 衝立が倒れ、急に現れたその光景に、シラスが思わず目を見開いてしまったのも。
 その後に生じた甲高い悲鳴と、シラスが美少女に海まで投げ飛ばされてしまったのも。
 仕方がない事だったのだ。

●無人島の日々
「すごいね、こんな形の島だったんだ!」
 感嘆に声をあげるのはアレクシアだ。
 今、イレギュラーズ達は島の北側、山の山頂まで来ている。決して険しい山ではないが、山頂まで登れば島の全容を一望できるほどだ。
「あ、あれ! ボクたちの拠点だよね!」
 焔が指をさす先には、島の南端、海岸と、精一杯組み上げた拠点が見えて、なんだかうれしい気持ちになる。
「あれは……遺跡でしょうか? 森の真ん中あたりですよ!」
 ルル家が指さす先には、密林の真中に、人工物らしき、崩れた石の建築物が見えた。
「宝物とかあったら、お金持ちになれるかもしれないよ、ルル家ちゃん!」
 焔の言葉に、おお、とルル家が頷く。
「宝物が見つかれば婚活資金に出来ますね!」
「俺は恐竜を何とかしたいな……」
 シラスが声をあげる。例の恐竜を何とかできれば、探索も随分と楽になるだろう。
「では、こうするのである。明日は恐竜を何とかして、明後日は遺跡を探索する」
 百合子が言う。幸い時間はある。ゆっくり進めていけばいいだろう。ヴァレーリヤは頷いた。
「良いですわね! 遺跡は楽しみですわね! 年代物のお酒があるかもしれませんし!」
「私は……恐竜の方かな。ちょっとお話してみたいし」
 にこやかに言うスティアに、仲間達はびっくりした表情を見せ、
「恐竜と……お話? すげぇですね……」
 リアは思わず、声をあげるのであった。

 例えばある日。恐竜を見つけるため、一行は密林を進んでいる。先頭に立つのは、スティアとアレクシアで、残りのメンバーは、有事に備えて隠れている。
 ふと、前方の草が揺れた。すぐにガサガサと音が聞こえるや、木々をかぎ分けて、巨大な顔がその姿を見せた。恐竜だ。
「こ……こんにちわ! いい天気だね!」
 スティアが声をかける――道端であいさつをするように、恐竜は、不思議気に鼻を鳴らした。
「今日は、お話に来たんだけれど」
 アレクシアが言う――できるだけ穏やかに。
「私達、別にあなたの島を荒らしに来たわけじゃないの。ちょっと、迷っちゃって」
 スティアの言葉に、恐竜はがぁ、と吠えた。びりびりと、空気を震わせる。スティアは思わず目をつぶったが、すぐに目を開いて、微笑んだ。
「だから、仲良く……出来たらいいな……って」
 アレクシアが言う――恐竜は理解しているのか、していないのか。しばし視線を二人にさまよわせていたが、やがて視線を外すと、くるり、と踵を返した。
 そして静かに鳴き声をあげると、何処かへと消えていく――。

 例えば、ある日。山頂から見つけた遺跡に、一行は向かう。そこは先住民か、あるいは漂着者が作り上げたのか。地下にも広がる立派なものだった。
「拙者、潜入任務は得意です! まぁこういう旧式の遺跡の罠に対応した事はありませんがーーっ!」
 ルル家がぽちり、と踏み抜いたスイッチが、突如として床に落とし穴を出現させた。言葉だけを残して、ルル家が転落していく――。
「る、ルル家ーーーっ!!」
 ヴァレーリヤが叫んだ。ルル家の落ちた穴へ向けて、大声を張り上げた。
「落ちた先にお酒があったら、拾って帰ってくださいましね!」
 自分の欲望に忠実なヴァレーリヤであったが、帰ってきたのは意外な答えである。
「……あ。ありましたーーーっ!」
 と、驚きを隠せぬ返答に、
「マジですの!? さすが、ルル家ーっ!」
 ヴァレーリヤは瞳を輝かせて、ルル家を引き上げる――ルル家の手には、年代物のお酒の瓶が輝いていた。
 とはいえ、ルル家の表情は微妙な所である。売ればそこそこのお金になるかもしれないお酒だが、ヴァレーリヤに渡せば、即飲み干されるだろう。
 ……が。
「これ、どうぞ」
 流石にしおしおのヴァレーリヤがかわいそうだったのだろう。渋々ではあったが、ルル家はヴァレーリヤに、それを手渡すのであった。

 例えば、ある日。
 特に当てもなく、浜辺を散歩する。
 キラキラの砂浜には、色々なものが埋まっていた。それは、外から流れ着いたものかもしれない。
「ねぇねぇリア、この貝を耳に当てると、波の音、するよ!」
 ぴょこぴょこと、拾った貝を持って飛び跳ねる、焔。
「おう、転ばないようにね?」
 そんな焔の様子を見ながら、リアは苦笑する――。
 驚くほどに、穏やかでゆったりとした時間が、流れていた。遭難していることを、忘れるほどに。
「ふむ……この状況、幼少の頃の修業を思い出したものだったが」
 大きな岩の上に座り、釣り糸を垂らしつつ、百合子が言う。
「あれは蹴落とし合いであった。だが、今、協力し合う仲間と共にあるならば……なんとも快適なものよな」
 呵々大笑、笑う美少女。
「快適か。妙な感じだけど、それはあるかもしれませんね」
 リアもまた笑った。
「ねぇ、リアーっ!」
 焔の呼び声に、リアは「はいはい」と声をあげると、ゆっくりと歩きだした。

 そして、ある日。
 砂浜に、シラスとアレクシアは座って、海を眺めていた。
 二人の間に言葉はない。アレクシアといるだけで、シラスは楽しいのだ。きっとアレクシアも、そうに違いない。
「ねぇ、シラス君」
 アレクシアが、声をあげた。
「このまま帰れなかったらどうしよう?」
 意地悪気に――そして、少しの不安を隠して。アレクシアは、シラスに尋ねる。
「そう……だな」
 シラスは少しだけ、考えた。
 このままここで皆と生活していても、きっと楽しい。
 でもそれは――違う。
 皆――シラスだって、こんな所で立ち止まってはいられない。
 目指すべき場所がある。
 だから――。
「キミのこと抱えて、泳いででも帰るさ」
 目は合わさず――ちょっとだけ、恥ずかしかったから――そう告げる。
 アレクシアが、くすりと笑ったのが、気配で分かった。
 そんな二人の視線の先に、一隻の船が見えた。それは、イレギュラーズ達を探していた救助の船で、少しずつ、此方に近づいてくるのが分かった。
 二人は立ち上がって、声をあげながら、手を振った。やがてそれに気づいた仲間達も、船に向かって手を振り、声をあげる。
 そして、その声に気づいたように、救助船は少しずつ、少しずつ――島へと近づいていくのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、ご参加ありがとうございました。
 ご帰還おめでとうございます!
 遭難……と言う非常事態でしたが、転じて不思議なバカンスとして、皆さんお楽しみいただけたのではないかと思います。
 いつかまた、この島で……恐竜や鮫も、お待ちしております。

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