PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Kamchatka fritillary

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ネガイゴト
 ずっと、ぶっと、永遠にも近い時の中。
 『私』の願いは最初から最後までただ1つだけ。

 ──彼女に逢いたいだけなんだ。


●ローレット
「あれ? クロバさん、もう深緑からお戻りなのです?」
「? ああ、そうだな?」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉にクロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は首を傾げながらも頷いた。確かに最近は深緑の依頼を多く受けているから、そう言われても何ら不思議ではないのだが──何だろうか、普通のそれとはニュアンスが違うような。
 違和感の正体を見破れず、首を傾げるクロバを見上げながらユリーカはむっと頬を膨らませた。
「幻想種のお姉さんたちは素敵なのかもしれませんが、浮気は良くないのです。彼女さんが悲しんでしまいますよ」
「は??」
 口をあんぐりと開けるクロバ。いや待てどこからそんな話に。というか浮気なんてしてないし、万が一彼女に聞かれたらあらぬ誤解を受けるではないか。
 今とてローレットが無人な訳はなく、「え、そうなの?」みたいな視線がザクザク刺さる。痛い。違うんだって。
「……ユリーカ。そのデマはどこから?」
「デマじゃないのです! 幻想種のお姉さんたちを口説き回るクロバさんを見たって人がいたのです!」
 頼むからそんな大声で言わないで。違うのに。違うんだよ。
 頭痛がしてきてクロバは頭を押さえる。嘘偽りなく、ここにいる『クロバ』は幻想種を口説いてなどいない。……いないはずだ。
 かといってユリーカが嘘を言っているようにも思えない。双方の意見がどちらも真だとするならば。
「ドッペルゲンガーとか、よく似た誰かじゃないのか?」
「言い逃れは良くな──」
 なお詰め寄るユリーカの声に被ったのは「あれ?」というひよこの声。
「クロバさん、さっき深緑にいましたよね?」
「はっ??」
 目を丸くするクロバ。それ見たことかと勝ち誇った顔のユリーカに、しかしクロバとブラウ(p3n000090)は何とも言えぬ表情を浮かべた。
「俺、今日は行ってないんだが」
「……えっ」
「僕も見かけたのは本当についさっきなので……僕より早く帰ってくるのは無理じゃないですかね?」
「……えっ??」
 愕然とした表情になったユリーカはクロバとブラウを交互に見やる。静かに頷く2人を見て、ユリーカは「……ごめんなさいなのです、クロバさん」と小さく呟いた。

 閑話休題。

「最近、妖精が深緑を介して依頼してくることが多いのですが……クロバさんはご存知ですね」
「ああ」
 クロバは頷く。現在ローレットで扱う依頼は妖精たちの願い事や交流から始まり、彼らが混沌への出入り口としている妖精郷の門(アーカンシェル)を狙う輩の撃退まで幅広い。
「今回は僕とフレイムタンさんで敵の調査に行ってきたんです。あ、もちろん抱えられてました」
 単独行動で調査なんて自殺行為ですよ、と羊皮紙を広げながらブラウが言う。彼の体質を思えば然もありなん。
「それで結果は」
「これまでのモンスターと同じように、アーカンシェルを壊そうとしているようです。でも他のモンスターよりやけに強いことと……フレイムタンさんが気になることを言っていて」
 ──あれは同胞ではない。
 近づくことも危険な相手を見ながらそう呟いたのだと言う。ブラウづての言葉にユリーカとクロバは顔を見合わせた。
 もともと、深緑の奥まった場所で『それら』は確認されていた。というのもやはり妖精たちが助けを求めてきたからである。
 妖精たち──小さき精霊種たちが揃って「似ている変なもの」と称したことにより、同じ精霊種であるフレイムタンがブラウに同行する手はずとなった。
「精霊っぽいけれど、同じような精霊ではないってことでしょうか」
 イマイチ正体の掴めない敵。首を傾げるユリーカの傍ら、クロバはその報告書を手に取る。
「……まあほら、依頼は出すんだろう? ならそこで調べるなり何なりすればいい」
 情報が不透明ではあるが、それでもローレットへ寄せられた以上は遂行しなければならないものだ。
 ほら、とブラウたちの報告書をユリーカへ渡す。彼女はどうでしょうかねぇ、と言いたげな顔で。
「もちろん調べられるなら今後のためにもなるかもしれませんが……あくまでオーダーは相手を退けてくれってだけなのです。深追いして危険な目に遭わないでくださいね」
 もうクロバは頭数に入っていると言わんばかりの口ぶりでユリーカが釘を刺す。

 ──かくして。精霊に似た何者かを撃退せよとの依頼がローレットより出されたのであった。


●森の中
 木の倒れる轟音が鳴り響き、鳥たちが一斉に飛び立っていく。
 精霊のようで異なるその3体は、道を自ら作るように目の前のものを破壊しながら進んでいた。その視線が止まるのはアーカンシェルのみ。その他には目もくれない。くれる必要もない。
 草木も、花も、動物も、妖精も、幻想種も。
 ただ彼らが進むためだけに為すすべなく薙ぎ払われ、無惨に殺される。

 壊すのだ。壊さなければ。壊せ、壊せ、壊せ、壊せ。
 アーカンシェルを、壊せ。

 そうして妖精たちの出入り口を探し、森を破壊して進む3体。それを──黒髪の男が木の陰から観察していた。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●エネミー
・精霊?×3
 自然から発生していないと思われる精霊です。通常遭遇するモンスターより強いのはそこに起因しているかもしれません。
 それぞれが別の性質と姿を持っています。生物の形を取っていますが、語りかけても反応はないようです。

・赤猿
 真っ赤な表皮の大柄なサル。ゴリラとかオランウータンとかそういうサイズです。実はサルじゃないのかもしれない。
 深く毛で覆われる代わりに炎を纏っています。あまり近いと火傷します。
 近接攻撃を主としています。HPと攻撃特化。その他はあまり高くないです。

 強撃:物近単:力一杯、強烈な一撃を叩き込みます。木が折れるくらい強いです。【必殺】【ショック】

・青蛇
 常に濡れた体を持つ大蛇。睨みつけられるとカエルのように竦んでしまいそうです。
 遠距離攻撃を主とする他、長い体で拘束・締め付けをすることができます。反応・回避に強いです。防御低め。

 雨水:神遠域:あめふりざあざあ。冷たい雨が痛いです。【凍結】

・黄亀
 人が1人乗れそうな大きさの亀。その足が地を踏むと地鳴りが起こるでしょう。
 範囲攻撃を主とし、防御に強いです。機動力低め。

 マイペース:物特特:ペースが乱されます。なんか腹立ってきた。【怒り】【自分を中心にレンジ2以内の敵にのみ影響】
 踏み抜き:物至範:地面が揺れるほど思い切り踏み抜きます。【体勢不利】

●ロケーション
 森の中。時は夕暮れ、影が伸びて若干視界は良くないかもしれません。
 足場に問題はありません。

●NPC
・???
 クロバ=ザ=ホロウメアさんによく似た人物、らしい。深緑で度々目撃されています。
 今回リプレイ上には登場しない予定です。

●ご挨拶
 愁と申します。何やら怪しげな影が在るようですね。
 まだその正体は引き出せないようですが……まずは目の前の脅威を追い返しましょう。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • Kamchatka fritillaryLv:15以上完了
  • GM名
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年04月04日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
讐焔宿す死神
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
サイズ(p3p000319)
妖精の守り手
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
神威の星
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
翼片の残滓
メルナ(p3p002292)
揺らぐ青の月
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
流麗花月
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
白薊 小夜(p3p006668)
盲御前
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
銀なる者

リプレイ

●影笑う
 10人のイレギュラーズが森を駆ける。地面には自分たちの影が長く、長く伸びていて。木々のざわめきがまるで誰かを嘲笑うかのようだ。
 その相手は自分かもしれない──なんて、『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は深く重い溜息を吐き出した。
「まったく、誰なんだろうな。俺に似た顔で幻想種ナンパなんてしてんの……」
 お陰ですっかりとばっちりである。今回ともに向かう仲間はといえば顔見知りばかりでやれ「日頃の行いだ」とか「浮気サイテー」とか。ようするに針の筵だったのだ。
「クロバが色んな女に声かけてるのは事実じゃ──いや冗談だって」
 言いかけた『希祈の星図』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は、クロバからの刺すような視線を受けてすっと視線を逸らす。『真昼の月』白薊 小夜(p3p006668)はそんな気配を感じて小さく笑った。
「少しからかっただけよ。クロバさんはナンパなんて器用な事できる質じゃないものね?」
 擁護されたクロバはといえば、なんとも複雑そうな表情を浮かべる。
 自分だってナンパのひとつくらいできる、と言いたいところだ。けれどそれを言ってはやはり日頃の行い、浮気だと返されかねない。何よりクロバには大切な恋人がいるのだ。彼女の耳に入ったら──どうなるのだろうか。少なくとも想像したくないし、現実にもしたくない。
「しかし間違える程似てるなら、ドッペルゲンガーみたいな何かなのか……」
「ドッペルゲンガーか……作れた可能性はあるが」
 ウィリアムの言葉を聞き、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はクロバに髪や血を奪われたことはないかと問うた。対するクロバはあまり覚えがなさそうである。
(だとすれば、本人が気づかないうちに? そんなことができる魔物がいるのなら厄介だ)
 勿論ドッペルゲンガーではない可能性もあるが、決して慢心してはいけない。こういうのはあらゆるケースを想定しておくべきだ。
「熱烈なクロバさまのファンで、格好を真似している……のだと平和なのですけどねー」
 クロバは『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)の言葉に渋面を浮かべる。自身の深緑名声を利用するつもりであれば許しがたい、と思っていたがそれはそれで良い迷惑だ。リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)は小さく首を傾げながらぼそりと呟く。
「クロバさんによく似た何某か。危険人物じゃない、ただの空似ならいいんだけど」
「まあ、クロバ似のナンパマンは横に置くとして──」
 『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がきっと前を見据える。開けた場所に出た。
 大きな大きな1本道。それは巨人が横断したかのような悲惨さと共に作られていた。
「ふむ、……あちらか」
「だな」
 踏まれた草花。不幸にも逃げそびれた動物の骸。傷つけられ、薙ぎ倒された木々。根っこまで起き上がってしまったそれが此度の敵は何処へ向かったのかを示している。
「まずは深緑を荒らす不自然な精霊達を大人しくさせないとですね」
 この地を故郷とする幻想種の1人、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)がその方向を見据える。
 あわや害されかけた木々が、草花が、動物たちが怯えている。嘆いている。これ以上壊させるわけにはいかない。
「アーカンシェルを破壊しようとしているのなら、撃退しないとね」
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は仲間が示した方へと走り始め、一同が後に続く。影の色がまた少し、先ほどよりも濃くなった。
(現地で何か分かると良いんだけど……)
 クロバのそっくりさんも、自然に生まれたわけでないらしい精霊のことも。『青の十六夜』メルナ(p3p002292)は束の間地面へ、自分の前に落ちる影へと視線を落とす。さあ──兄ならば、どう動くだろうか?
「いたぞ!」
 汰磨羈の言葉に一同は緊張を走らせる。まず見えたのは亀のような巨体。それが動くたびに地が響き、イレギュラーズの足元を軽く揺らす。次いで大蛇と火を纏った大柄な哺乳類──サルなどの類だ──が視界に映った。
 3体はまだ背後から追いかけてきたイレギュラーズに気づいていない様子で、真っ赤に燃えるサルが木の幹を掴む。自らの火が燃え移るのもお構いなしに無理やりそれを引っこ抜くと、進路を遮る木々へ勢いよく投げつけた。
「森が……!」
 悲鳴を上げるような音を立てて折られた木にドラマが声を上げる。汰磨羈は成程、と目を細めた。
(見るからに厄介な手合いだな)
 人数ではこちらの方が勝っているが、3体それぞれの動きを崩さねば人数による優勢は覆されてしまうことだろう。
 汰磨羈はとん、と軽く地面を蹴り──その俊敏なる動きで赤猿へ肉薄した。


●影広がる
 風にふわりと乗ったのは甘い菫とバニラ。神秘の調和を高めるそれを感じながら、ウィリアムは魔力を練る。
(炎、水、それに土の精霊……か?)
 フレイムタンの言によれば精霊ではないということだったが、何か──悪い思惑など──によって歪められて生まれたのだろうか。
「……そうだとしたら、放っておけないな」
 ウィリアムの周囲に独特の術式が描かれる。構築された魔の光は逃がすことなく濡れた体の大蛇を飲み込んだ。
「アルテミア!」
 彼の言葉とほぼ同時。アルテミアの戦衣が翻る。細剣から放たれた魔力の斬撃は火焔を纏い、大蛇の濡れた表皮を軽く炙った。
「各個撃破するのが一番だけれど……蛇は引き付けておくから、手早くお願いね!」
 自分の方を向いた大蛇が勢いよく迫ってくる。目を逸らさず告げるアルテミアの脇を駆け、クロバは「任せたぞ」とすれ違いざま声をかけた。
 見るからに厄介そうな敵。激戦覚悟となれば、力を温存などとは言っていられない。
 クロバはガンブレードを抜き放ち、そこへ瞬時に魔力を込める。踏み込むは赤猿の懐だ。
「はぁっ!」
 爆裂と共にガンブレードが地面を擦り、砂を巻き上げる。ぐわん、と重い反動がクロバの全身へかかった。赤猿が腕でその砂をガードする間にも、小さな影が飛び込んだ。影は──サイズは肌を炙るような火にもさしたる怯えを見せず、自身の鎖を複製する。
「リソースは此方で用意致しますので皆様全力で、お願い致します!」
 言葉は言霊──口から出した言の葉は力を持つ。ドラマは勝利と栄光の象徴たる指揮杖を振り、仲間の士気を上げていく。
(日が落ちる前に終わらせたいものね)
 白く凝った瞳はどこを映しているわけでもなく、けれど世界をその瞳に映す仲間たちは違う。小夜は普段押さえている心の在り方を解き放ち、視覚以外の五感が示すままに地を蹴った。まずは舞うように──1撃。
 ぶわりと肌を撫でた火の熱さを感じて小夜が目を細めると、同時にリウィルディアが黒いキューブで赤猿を包み込む。苦悶の叫びをあげながら猿が跳躍し抜け出すと、すかさず足元を狙ってメルナが剣を向けた。
 赤猿はよたつくものの、屈強な体は見せかけでないらしい。まだまだ体力はあると言わんばかりに近くの木を引っこ抜き、目に付いたらしい小夜へと振り下ろした。
「……っ!」
 半身を捻り、直撃を回避した小夜。すぐ近くで地面が凹むほどの音が響く。もしも直撃していたら──いいや、考えるのはよしておこう。
「申し訳ございませんが、皆様に近づかせるわけには参りませんわー」
 ユゥリアリアが相対するのは赤猿──ではなく、黄亀。勿論すべきことを為せば仲間の助力へ向かうが、この亀を放っておくわけにはいくまい。特に亀のマイペースさは人を乱す。
(何と言いますか、不自然な姿ですわねー)
 それほど感覚が鋭いわけではないが、少なくとも自然に生まれたのではないだろうことはわかる。
 ユゥリアリアより放たれるは青の衝撃波。執拗なるそれに亀の巨体が動き、他の2体との距離が空いた。大蛇はアルテミアが引き付け、こうして他の仲間たちが1体に集中する土台が出来上がる。
「肉達磨とて、脊椎や関節部までは鍛えられまい?」
 汰磨羈の内で外れるリミッター。自らの撃鉄を下ろした彼女は時間さえ置き去りにせんとする攻撃を叩き込んだ。
 とんでもないほどの重量を持った攻撃に猿は大きくよろめく。反して汰磨羈は火に炙られても涼しい顔だ。
 ──グオオォォォ!!!
 猿が吠える。まだまだ戦えると言わんばかりに足を踏み鳴らし、猿は敵意と殺意で以てイレギュラーズたちを睨みつけた。

「クロバさん」
「ああ!」
 小夜とクロバは赤猿に対して真反対の位置を取り、それぞれが異なる剣術で敵を翻弄する。兎に角適当に攻撃先を決め、強烈な力でぶん殴ってくる猿の攻撃を癒すのはウィリアムとドラマの役目だ。
「アルテミア、もう少し耐えてくれ!」
 大天使の祝福が大蛇を引き付け、戦うアルテミアを癒す。敵はかなりの反応速度で彼女を翻弄するが、彼女とてそう易々と当てられる的ではない。
 水と、雷撃と。それらが入り混じる傍ら、ドラマがスーパーアンコールで汰磨羈を更に鼓舞する。仲間の支援に小さく笑みを浮かべた汰磨羈は、立ち位置を頻繁に変えて敵を翻弄しながら敵へ鉄扇を向けた。
「火炎対策は講じてある。纏わりつかせて貰うぞ!」
 辺りを焦がさんばかりに燃え盛る炎。けれど汰磨羈だけでなくサイズもまた恐れず敵へぶつかっていく。アーカンシェルより来たる妖精たちほどの大きさとなったサイズは羽根を羽ばたかせ、魔力を纏わせた鎌を振るった。
「あと、もう少し……!」
 3体まとめてであればどれも倒しにくかっただろうが、ユゥリアリアが今も黄亀を吹き飛ばし続け、アルテミアが大蛇を抑え込んでいる。防御能力のそう高くない大猿も目に見えて疲弊している。
 メルナが仲間から仲間へと攻撃を繋ぐ。彼女の剣で追い詰められていく大猿は、突如としてぱっくりと開いた傷に呻くような声を上げた。防御など許さない不可視の刃に、とうとう赤猿が膝をつく。
「まずは1匹か」
 汰磨羈は地に沈んだ赤猿を一瞥し、すぐに次の標的となる大蛇へ向ける。そこにはアルテミアが膝をつきそうになりながらも立ち上がる姿があった。ウィリアムとリウィルディアがすかさず彼女を治癒し、危険域を脱させる。
「待たせた」
 その瞳は閉じ、自らの鋭い聴力と仲間たちの声を頼りに方向を把握するクロバ。彼は大蛇の横合いから魔力を込めたガンブレードを振るう。
(こいつは苦手だな……)
 仲間たちの戦い始めた様を見ながら、サイズは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。こればっかりは相性もあるので仕方がないのだが──仕方がないから失敗した、など言い訳にならないししたくもない。
 仮に確実な命中を求めるのであれば、敢えて食われることで内部からダメージを与えられるようにはなる。しかし捕食と消化のダメージに予想が立てられない以上、できるだけその戦法を取りたくないのも事実だった。
(今は仲間たちもいるしな)
 1人で戦っているのではない、と辺りを見回すサイズ。仲間がいるのであれば、躱されてしまうような攻撃も翻弄されて当たるだろう。
 大蛇の濡れた体が不意にぱきり、と小さな音を立てる。ひやりと涼しい空気は大蛇の濡れた体が発するものではなく、ユゥリアリアが発生させたものだ。
「ほら、足元がお留守でしてよー」
 動きの鈍くなる大蛇。重ねるようにリウィルディアの占星術具が大蛇を追い詰め、傷つける。
 占星術が示すは『不吉』。大蛇を凶兆とも呼ぶべき何かが取り巻いた。そこへ瞬間的に極意を宿した小夜の太刀筋が大蛇の首を狙っていく。
 鬱陶し気な大蛇は近づいてくる汰磨羈を拘束しようとその身をうねらせるが。
「捕まえたのは……こっちだ!」
 光の如き速さで背中へ回り込み、打撃を食らわせる汰磨羈。ウィリアムはドラマが仲間の治療をする姿に再び魔光を放つための術式を組み始める。
 ユゥリアリアの口ずさむ哀切のソネットが大蛇を捉えると、メルナはその隙を突いてレジストクラッシュを叩き込んだ。正気に戻った蛇の眼がぎろり、と彼女を見る。
「メルナさん! アルテミアさん!」
 ドラマの声と共に冷たい雨が降りかかる。雨雲もないのに降るそれは、まるで針でつつかれるかのように肌を刺した。
「くっ……」
 ひらりとそれを交わすアルテミアの代わりに戦衣の裾に穴が空く。気をそちらへ取られたほんの一瞬の隙に、大蛇の胴体は2人を取り囲んでいた。
「まさか、まとめて──」
 大蛇の全長を考えればできない事でも、有り得ない事でもない。
 言葉も終わらぬ間に2人の体は宙へ浮いた。体がきしんで悲鳴を上げ、ともすれば武器を取り落としてしまいそうだ。
「今助ける!」
 クロバが大きく跳躍する。ソウルイーターの能力を目覚めさせた彼は、的確に大蛇の体へ連撃を叩き込んだ。傷を負って暴れる大蛇は捕まえていたアルテミアとメルナを地面へ落とす。──その際に。
「いた……っ!?」
 メルナが後頭部を押さえる。慌てて視線を上げると、先ほどまで拘束されていた辺りの鱗に髪の毛が数本引っかかっていた。脱出する際に抜けてしまったらしい。
 ドラマがそれに気付いてはっとすると同時、大蛇がぐるりとあらぬ方向を向く。汰磨羈は黄亀と合流するのかと身構えたが、大蛇が向いたのはイレギュラーズがいるほうでも、ましてや亀がいる方向でもない。
 そのまま森の道なき道へ逃げようとする大蛇。それを追いかけようとしたアルテミアの足元を腹に響くような轟音が揺らす。ペースを乱されるそれに振り向くと、想定よりも黄亀が近くまで迫っていた。その背後ではユゥリアリアが膝をついている。
「すみませんー……思った以上に吹き飛びませんわねー」
 ふらりと立ち上がるユゥリアリア。森の方を見れば、もう既に蛇の姿は小さい。あれに追いつくのは難しいだろう。だがあと1体残っていると思えばここで力尽きる訳にもいかない。
「防御能力が高いからジリ貧になりそうだ……」
 鎖の複製をしながらサイズがぼやく。1体には逃げられたが、最後の亀は動きが遅い。ならば大蛇のように逃げ切られることはないだろう。
 イレギュラーズが力尽きるのが先か。それとも黄亀が力尽きるのが先か。
(いや──)
 アルテミアとメルナは視線を交わし、そして周囲に向ける。敵が3体だけだとは限らない。イレギュラーズたちもこれまでの戦闘による消耗は少なくないのだ。
 リウィルディアはそれを少しでも立て直そうと、傷を負った仲間たちを治癒していく。簡易充填のおかげで自分はもう少し余力がある。
 ずしん、と響く地鳴り。イレギュラーズはよろけながらも亀へと武器を向けた。
 ユゥリアリアは冷え冷えとした空気を亀へ送りつけ、クロバがガンブレードに込めた魔力を炸裂させて連撃を叩き込む。その感触はとてつもなく硬いが、決して無駄ではない。
 クロバの攻撃に合わせて虚無の剣を振り下ろした汰磨羈は足元を再び揺らされ眉を寄せる。不定期にやってくる地鳴りはとてつもなく不快だ。
 しかしそんな不快感をはじき、メルナは剣身に蒼の炎を纏わせる。その硬い体などものともしない無垢なる正義の炎だ。
(さっき倒した赤猿も、逃げた青蛇も……自然じゃない、他の要因で生まれた精霊? この間のブルーベルっていう魔種の子が関係してる……?)
 内なる疑問にまだ答えは出ない。けれど今は只々前に──勝利に突き進んでいくのみ。
 メルナによる浄化の斬撃に亀はどすんどすんと暴れまわる。辺りを踏み抜くようなそれに巻き込まれた小夜は傷を庇いながらも立ち上がった。倒れねば困るのだが、そう簡単に倒れられても面白くない。そういう意味では彼らのような存在は──そう、心が躍ると言うのだろうか。
「中々どうして斬り応えのある……ふふっ」
 楽しそうな小夜はアクアヴィタエの瓶をあけ、その霊薬を飲み干す。月の光を閉じ込めたようなそれを嚥下し、小夜は再び武器を握った。
「皆様、扇動されないように!」
 ドラマの号令が、その指が操る指揮杖が仲間を正気に返らせ士気を上げる。サイズの鎖が亀へと張り巡らされる中、ウィリアムは小さく魔術を紡いだ。
 ──星と命は巡り流れ、循環するもの。還元されるもの。
 その生命力を媒体にしてエネルギーを吸い取るウィリアム。自然に充填される分も含めば、仲間たちを支えるに支障ない。
 急所を狙おうというアルテミアの闘気が苛烈なる火焔へと変化する。叩き込まれたそれはメルナの作っていた甲羅のヒビをさらに大きいものとした。さらにそれを砕かんとリウィルディアの放った不可視の刃が亀の体をズタボロにしていった。
 最後まで足掻くのだというように足を踏み鳴らし、揺らし、周囲のイレギュラーズを翻弄する黄亀。そんな姿が見えなくとも耳で、鼻で、肌で。視覚以外の全てを使って感じ取る小夜はトドメだと再び極意をその身へ宿らせる。
「邪剣は緩急。其は月の満ち欠けが如く、花が散るが如く──」

 まるで椿の花が落ちるときのように。

 ボトリと亀の首が落ちて地面へと転がる。次いで、大きな体がゆっくりと傾いで。
 最後の最期に、巨体は森中へ響く音を立てた。


●陰残る
「随分と、強力な個体でしたねぇ……」
 皆の傷をある程度癒すドラマ。これで帰路はどうにかなるはずだ。
「すっかり暗くなったな」
 ウィリアムが座り込み、顔を上げる。茜色を映していたはずの空はもう藍色だ。周りには木々ばかり、このまま時間を潰していれば天気も悪くない空には星や月が浮かぶことだろう。
 だが、それで帰り道を見失ってしまったら大変だ。
 ウィリアムはぎゅっと手を握りこみ、いつしか感じた質量にそっと開く。何もなかったはずの掌へ生まれた石は、地面に転がされたことで薄ぼんやりと辺りを照らした。
 ランプや松明に比べれば大した明かりではないかもしれない。けれど全くないよりは断然良い。
「この3体、一体どこから進んできたのでしょうかー?」
 ユゥリアリアは3体の進んできた方向を見返す。木々がなぎ倒され、草花が踏み散らされ。自然を荒らした道がそこにはあった。
「随分と派手に壊してきたようですし、辿ってみると何かあるかもしれませんわねー」
「ええ。けれど……夜の森は危ないわ」
 小夜が風の吹く方へ顔を向ける。頬を撫でる風は先ほどより冷たく、夜の気配を乗せていた。もう間も無くして夜になるだろう。
 この痕跡を辿れば何かの証拠は掴めるかもしれない。しかしそこで更なる戦闘が待ち受けていないという保証はなく、ユゥリアリアもそこまで深追いしたいとは思わない。
「さて……折角だ、クロバ。そっくり人間に関する情報でも集めて帰るか?」
 汰磨羈の言葉にクロバは勿論だと返す。これ以上濡れ衣を着せられてはたまらない。
 だが、その前に。
「何かしら情報になるような痕跡が残っていないか、付近を調査したいですね」
 ドラマの言葉に一同は頷き、各自での調査を始める。サイズは周辺を警戒しておく、と森の中へ入っていった。
 仲間たちが見える程度の距離でふわふわと飛ぶサイズは、暗くなってきた森の中をぐるりと見渡す。
 ずっと懸念しているのは以前持っていかれた、髪の一部。
 先ほどの大蛇も、メルナの髪を得るなりどこかへと逃げていった。恐らくは他にも採取された髪や血と同様にどこかへ持って行っているのだろう。集めているということは何かに使うということで、ぱっと思いつくのは──。
(──ドッペルゲンガー)
 心の中で呟き、サイズは自分の体を見下ろす。
 もしも自分のコピーが現れたとしたら。周りの人間は区別がつくのだろうか?
(いや、一応ギフトの切り替えで区別つけれるかな?)
 自分の場合は、だが。人の子ども程度の大きさから、妖精であった力の残滓によって小さくなれば、ドッペルゲンガーとは見分けてもらえるだろう。
 他の仲間たちには自身でなんとかしてもらう他ない。いつ何処から現れるかもわからないのだから、帰還までは周囲を警戒しておいた方が良さそうだ。
「フレイムタンさんが『同胞ではない』と言うのなら、厳密には精霊では無いのでしょう。何か手掛かりになる物があれば良いのだけれど……」
「だな。ま、俺たちじゃ限度がある」
 自らのモンスター知識と目の前の骸を照らし合わせるアルテミア。その傍らでクロバは「良いか?」と声をかけてから骸の一部を採取する。持ち帰れば調査材料として活躍することだろう。
 アルテミアは立ち上がり、辺りを見回す。“夜を見つめる者”と名付けられた目薬は彼女に暗視効果をもたらしていた。お陰で薄暗くなっても比較的視界は良好である。
(……他にはもういない、かしら)
 隠れている敵、或いはイレギュラーズでない何者か。そういった気配は感じられず、直感が頭の中で警鐘を打ち鳴らすこともない。辺りには夜の前の静けさと仲間たちがいるばかりだ。
「何もない……かな」
 茂みの向こうを覗いたメルナはそこに何も痕跡が残っていないことを確認し、別の場所をまた探す。誰かが潜めそうな暗がりに何かの跡があるかもしれない。精霊たちの出自を予想すれば尚更だ。
(ブルーベルもモンスターを連れてた……その例を意識しすぎかもだけど)
 それでも、可能性はゼロじゃない。
 隠れることができそうな暗がりを丹念に探すメルナの瞳に、ふと折れた草が映って留まった。日も陰ってきて視界はいよいよ悪くなってきていたが、どうにも違和感をぬぐえない。
「……?」
 仲間がさほど遠くにいないことを確認し、メルナはそれへ近寄って屈む。草は何かに踏まれたようで、一部分だけが痛んでしまっていた。草に付着した土とその形はまるで──足跡。
(誰かが、ここにいた……?)
 どうして。何のために。
 メルナは仲間たちへ声をかけつつも足跡が向かった方を見る。そこには何者の姿もなく、ただただ深い森が闇を湛えて在るばかりだ。
 仲間たちもその足跡を見るや否や難しい表情を浮かべる。何者かがここにいたことは確かだが、追跡するのはもう少し視界が良くなってからでなければならないだろう。しかし日が昇るまで待っていれば足跡の主は行方を眩ませてしまう。
「報告はするとしても……撤退、でしょうか」
 ドラマの呟きに頷く一同。もうすぐ夜の帳が完全に落ちてしまう。
 一同はウィリアムが道しるべのように転がしていく淡い光を光源に、森の外へと向かったのだった。

成否

成功

MVP

ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
神威の星

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981) [重傷]
翼片の残滓

あとがき

 大変お待たせいたしました、イレギュラーズ。申し訳ありません。
 EX量のリプレイをお楽しみ頂ければ幸いです。

 MVPは味方の動きを円滑にした貴方へ。

 またのご縁をお待ちしております。

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