シナリオ詳細
ゲラッセンハイトの遺骸
オープニング
●酒場は情報の宝庫
「サンディ!」
名を呼ばれたサンディ・カルタ(p3p000438)は相手に気づかれないよう小さく溜息をつく。ここひと月ほど見ていなかったというのに、また戻ってきたらしい。
「おーい、サンディ! 聞こえてんだろ?」
ポンとサンディの肩を叩いた男はほんの少し酒精の香りを漂わせ、上機嫌に笑っていた。
「はいはい、聞こえてるよ。元気そうで何よりだ、ベンタバール」
昼間からすっかり出来上がったベンタバールに誘われ、サンディはカウンター席の隣へ。座った以上は何か頼まねばならないとメニューに視線を走らせ、適当に注文する。
「聞いてくれよサンディ。俺はまたしても新しい遺跡を見つけちまったんだ!」
少しばかり声のトーンを落としたものの、高揚感は抑えきれないらしい。やはり彼の遺跡自慢トークか、と思いながらもサンディは出されたグラスに口をつけ、その先を促した。
以前からこうして何度か交流はあったものの、このあいだの件から特に絡まれるようになった気がする。とは言っても、顔を見れば「ちゃんと生きてたんだな」と思うあたり、サンディもベンタバールに対して何も思っていないわけではないのだ。でなければ、ユリーカへ彼の手がかりを聞きたいとも思わなかっただろうから。
ベンタバール曰く、ラサにあるオアシスの湖に沈む遺跡を見つけたらしい。海のように水の満ち引きがあり、最も水が引いた時のみ遺跡に入れそう、とのことだった。
「入れそう、なのか」
「そう、そうなんだ。入れそうだったんだよ!」
この口ぶりからすると『入れなかった』のだろう。そう考えながらグラスを傾けると、中の氷がカラリと音を立てる。
「湖の周りにでっけぇ岩が転がってるんだ。ラサじゃあそこまで珍しくもない。それがなんと──遺跡を守るゴーレムだったんだよ!」
湖の水が引いたところへ近づいたところ、それは音を立てて動き出したのだという。遺跡がいつ造られたものかもわからないが、守護者(ガーディアン)の防衛システムは今も動いているということだ。
「あいつらをどうにかしないと遺跡には入れねぇ。だが俺ほどの実力でも難しい」
「へぇ、」
その口ぶりにサンディは目を瞬かせた。いい加減でお調子者な彼がそんな発言をするとは。
ベンタバールは片眉をあげながら「そこで、だ」とサンディに詰め寄った。
「うおっ、なんだなんだ──」
「お前、代わりに行ってみないか。傭兵たちも手をこまねいているんだと。ローレットに依頼が行くよう口利きしておいてやるよ」
「は?」
困惑するサンディへ彼はニヤリと笑い、立ち上がる。
まだ受けるとは言っていないとか、口利きができるなんて何者なんだとか言ってやりたいことは色々あるが。
「じゃ、俺は次の遺跡へ行ってくるぜ! 今度こそ大金持ち間違いなしだ!」
言うことを言ってスッキリしたのか、さっさと勘定して酒場を飛び出していくベンタバール。先ほどまでの殊勝な言葉は何だったのかと思うくらいにいつも通りだ。
あれは多分──また1ヶ月くらい、姿を消すやつである。
●ローレットへ舞い込む依頼
「……という経緯があってだな」
サンディの言葉にはぁ、と何とも言えない言葉を吐き出す『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。聞いている限りだと『ベンタバールはやっぱりベンタバールである』。
「確かに来ているのです」
こちらですね、とユリーカはラサから舞い込んだ依頼の内容を見せた。。湖に沈む遺跡と守護者であるゴーレムの話は確かにベンタバールのそれと一致している。
「本当に強いみたいで、数々の冒険者や傭兵が返り討ちに遭っているみたいなのです。幸い、ある程度まで逃げれば追いかけてこないのですが……それでも重傷の方がたくさんいるのですよ。
サンディさんも行かれるなら気をつけて下さいね」
「ああ」
頷きながら羊皮紙を手に取ったサンディ。行くにしても仲間を募って、十分に作戦を練る必要がありそうだった。
●今日も、また
「ここが湖の遺跡か」
ベンタバールが撤退した後、彼からの報告により傭兵や冒険者たちの間では遺跡とゴーレムの話がよく上がるようになっていた。
冒険心、力試し、お金の匂い……理由は何であれ、同業者が酷い目にあったと聞いても誰かしらが訪れる。
男もそんな1人だった。
見渡せばただのオアシスと転がる岩。湖の水は引いている途中のようで、少しだけ遺跡の姿が見えている。
その遺跡へ向けて1歩を踏み出した男は、岩が揺れる様を見た。いいや揺れているのではない、起き上がっているのだ!
「……っ! へ、へえ。これが噂のゴーレムってわけか!」
先手必勝、と言わんばかりに武器を抜いて駆け出す男。渾身の力で振り下ろされた剣が、硬い岩に阻まれるような感触を手に感じる。だが、全く通っていないわけでもない。
「ふん。まあまあ硬いようだが遅いな。これくらいなら俺1人で──」
不意にズズ、と影が差す。はっと顔を上げた男は硬い何かに体を吹っ飛ばされた。地を転がり、転がり。骨を何本かいった音がした。地面に赤が散り、男の呼気にも朱が混じる。
ズズ、ズズ。
重い音を立て、ゴーレムが向かってくる。速度は思っているほど遅くない。そして自分は思っているほど俊敏に動けない。
──逃げなければ。
男は痛む身体に鞭打って這いずるようにゴーレムから逃げ始める。その動きは微々たるもので、けれどやらねば確実に死が待っているのだと体の痛みが示していた。
男はひたすら逃げた。後ろを見る余裕も体力もなく、けれど必死の思いで逃げ続けた。いつしかゴーレムが追ってこなくなったことにも気付かず──男は行商のキャラバンに保護され、ようやく気を失ったのだった。
- ゲラッセンハイトの遺骸Lv:13以上完了
- GM名愁
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年03月10日 22時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
その遺跡は静かに鎮座している。水が上がってこようとも、引いてこようとも、変わらず。
眠りに揺蕩うようなその時間を守るは、今もまだ動く防衛機構。
彼らは守るために設計された。
彼らは排除するため設定された。
少しの傷などものともせず、勇猛果敢な冒険者や傭兵たちを返り討ちにして。
今日もまた侵入者を排除して防衛機構たちは持ち場に戻る。その姿はさながら忠実な番犬のように──次なる侵入者を待ち構えていた。
●
「あの人は元気で、私達にゴーレム退治だけ任せて別の遺跡に向かいましたの!?」
目を剥いた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)が「そうなんだよなあ」と後頭部を掻く。
「よく考えたら敵討ちでもなんでもねーんだよなコレ」
「まったく……サンディ、付き合う友達は選んだ方が良いのではなくて?」
額に手を当てるヴァレーリヤ。サンディの友人を助けるためならば喜んで──などと思っていたのに、これはどちらかといえば尻拭いというか、何というか。
しかもあの男(ベンタバール)のことだ、ゴーレムを倒し終わってからひょっこり戻ってくることも有り得る。十分有り得る。
(その時は流石に物申すぜ、ベンタバール……)
自分だけ上手いところを持って行こうなんて──いやしかし、彼は遺跡荒らしである。自分で苦労せず宝を掠め取っていくのも当然……なのだろうか?
だが、だからと言ってわざわざ自分から他者を陥れるような性格でもない。謎が多い男ではあるが、少なくともサンディはそう思う。
「経緯はどうあれ、ゴーレム達を破壊しましょ」
まだ自分たちは入り口にすら立っていないのだからと『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)進んでいく先を見る。その心にあるのは好奇心。
(ラサにもこんな所があったなんて)
あたり一帯を砂漠で埋め尽くした場所。所々にオアシスはあるし、砂上の遺跡も少ないわけではない。けれどオアシスの中に遺跡があるというケースはなかなか聞かないものであった。
そんな遺跡につられた1人が「えっ」と声を漏らす。
「遺跡探索ではないの!?」
騙された! と言わんばかりの表情を浮かべた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。その肩を『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が手足のように操る髪でぽんぽん、と叩く。
「落ち着け、イーリン。遺跡の探索は、門番を排除してから、だ」
逆に門番を倒しさえすれば遺跡探索ができるのだ。そう思えばあながち間違いでもないだろう。
「え、ええそうよね。次は探索だから、そのための足がかりよね」
頷き納得するイーリンの前でサンディが立ち止まる。後続の仲間たちもそれに倣った。
「事前の情報だとこの辺りからだったか」
「うん、この木より少し先だね」
『その手に詩篇を』アリア・テリア(p3p007129)が大木のそばまで行き、チョークを取り出すと地面へ線を描く。これは一同の生命線であり、撤退ラインだ。
イーリンはよく見えるその魔眼であたりを観察する。殆どはただの岩のようだが、いくつかの岩の表面、その所々にチラチラと赤がちらついているようだ。イーリンは自らの持ち得る知識とインスピレーションで、1つの解を導き出す。
「あそこと、あそこと、あとはあの岩。ゴーレムが擬態しているわ」
引き終わったアリアが顔を上げればオアシスはほど近く、その手前にイーリンの示した岩がゴロゴロと転がっている様が見えた。
(あれが遺跡を守るゴーレム……御伽噺のテンプレだね!)
今はオアシスの湖も水が減っているため、その中まで遠目でもはっきりとわかる。遺跡の姿に、手で扇いで風を送っていた『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は「おお」と小さく感嘆の声を上げた。
「たしかになにか沈んでいる……」
「わざわざこんな所に建ててゴーレムまで置いておくなんて、よっぽど大事なものでも隠してあるのかな」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も遺跡には興味津々。どうしてこれを建てたのか、そもそもあんな場所にどうやって建てたのか。中を調べれば判明していくのだろうか。
「……うーん、気になる! そのためにもまずこのゴーレムをやっつけないとね!」
「そうだね、頑張るとしようか」
簡易式召喚陣を設置した『凡才』回言 世界(p3p007315)が立ち上がる。探せば精霊もいそうなものだが、召喚してしまった方が早そうだ。準備を整えた世界は仲間たちの身体能力を強化させていく。
今回のオーダーは『敵を撃破する』というなんともシンプルでわかりやすい内容だ。もちろん、攻略の難易度が低いほどやりやすいのは当たり前なのだが──。
(それは高望みというやつかな)
望みが全て叶うなどそうそうないこと。ならば努力だとかそういったもので補うしかない。
久々の仕事、それも大仕事に『子連れ紅茶マイスター』Suvia=Westbury(p3p000114)は緊張した面持ちだ。だけれども生活費──特に養育費と茶葉代──を稼ぐため。難しい依頼だろうが頑張らねばならない。
サンディの呼び出した魔法の風が一同を包み取り巻く。イーリンはオアシスの方を見て口を開いた。
「さ、始めましょ。『神がそれを望まれる』」
頷き、誰からともなく1歩を踏み出して──岩が大きく揺れた。
●
振動。小さな振動。生き物の振動。
──シンニュウシャ。
プログラミングされたそれが警告を発する。侵入者。侵入者。直ちに排除せよ。
──シンニュウシャ。タダチニハイジョセヨ。
ぐわりと起き上がる。動作、異常なし。標的、視認。
──ヒョウテキ。シンニュウシャ。
──ハイジョセヨ!!
●
「わー、立った立った、すごーい。写メ……あ、撮れないのか、残念……」
ゴーレムに感動して写真を撮ろうとし、手段がないことに気づいてしょんもりする睦月。その脇を抜けていった小柄な影は、メイスに刻まれた聖句を唱える。
『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』
そのフレーズを唱えきり、その者はすぅと息を吸って──。
「どおおりゃああああああ!!!」
メイスを掲げ、ゴーレムの集まっている場所へ向けて振り下ろすヴァレーリヤ。魔術による炎が舞い散り、どでかい地声にゴーレムの数体が彼女を向く。彼女の動きに合わせたサンディは彼女が引き付けていないゴーレムたちの元まで駆け、高らかに名乗り上げた。
「マリア、先駆け任せる!」
イーリンの叫びにエクスマリアが呼応する。迫る雷撃に耐えるゴーレムの体は流石、と言うべきか。そのような評価を下しながらエクスマリアはちらりとその後方、少しずつ水位の上がり始めた遺跡へ視線を向けた。
(防衛機構が、生きている、ならば。中身も、期待できるといいのだが)
そう、期待だ。彼女も、イーリンも、ここにいる誰もがこの先を期待している。だからこそ負けられないしゴーレムを倒さなくてはならない。
エクスマリアに次いだイーリンは魔書より召喚した戦旗へ魔力を込める。注いで溜めて、溢れんばかりに満たされて──それは彼女の剣捌きと共にさく裂した。
進んでくるゴーレムを休ませる暇なく、冷たい呪いを帯びた歌声が辺りに響く。その明確なる悪意は設計書通りに作られた無機物にも確かに届いたようで。
「呪いの歌のお味はいかが? なんてね♪」
相手の間合いに入らず攻めるアリアはぺろりと小さく舌を出す。鈍重なその体であれば、こちらが遠ざかるのは容易。徹底的に相手の間合いから逃れる構えである。
不意に1歩を進めようとしたゴーレムの足元で爆発が起きた。地面が陥没し、ゴーレムも足を下ろさないわけにはいかず穴の中へ足を置く。
「一気に全員を相手にするのはしんどいし少しでも足止めしないとな」
ゴーレムの様子を冷静に観察する世界。彼の周りをふわふわと飛ぶのは先ほど設置した簡易式召喚陣より呼び出されし風の精霊である。
(バランスを崩しては……くれないか)
2体ほど穴に落とせれば理想であったが、1体かかっただけでも十分。世界は風の精霊を操って突風を吹かせようとする。しかし──それより早く、ゴーレムが動き出した。
振り回される腕。唸る風。周囲にいた一同が痛みに歯を食いしばる。
(こんな早々に……やられるわけにはいきません!)
Suviaはゴーレムへ手をかざして魔性の茨を指先から伸ばす。Erstineの外三光がゴーレムの動きを鈍らせ、畳みかけるように焔の言葉が朗々と響き渡った。
「そっちには行かせないよ! ボクが相手だ!」
槍を軽く振って挑発し、前に立ちはだかる焔。ゴーレムが緩慢に顔を向ける。それまで敵味方全ての動きを見ていた睦月も一通り観察したということもあり、そっとその口を開いた。
「……おめざめになられませさいじんさま、これなるはふゆみやのかんおういんむつき、ごかごをたまわりませ」
その言葉に反応し、戒めんとする意思が縄のようにゴーレムへ迫る。彼らの様子を見たサンディは自分の引き付けたゴーレムたちへ視線を戻した。
(こっから先は……徹底して盾になる)
相手は2体。内1体が思い切り腕を振りかぶる。サンディは急所の前で腕を交差させながらも半身捻り、直撃を避ける。無傷とまではいかないが──ただやられるだけではない。
「さあ、オトコの見せ所だ……!」
Suviaの応援がイーリンの魔力を底上げし、世界がゴーレムを引き付けている2人を順番に回復する。睦月のブレッシングウィスパーが彼女らの魔力も持たせようと祝福を捧げていた。
「ほらほら、私を放っておくつもりですの? そんなことをしたら貴方がたが大事にしている遺跡の奥の財宝、私が頂いてしまいましてよ?」
焔が相手取っていたゴーレムごと再び挑発にかけるヴァレーリヤ。その言動にゴーレムたちが引っ張られわらわらと集まっていく。素振りを見せるために片足を湖へ下ろしたヴァレーリヤは、くるぶしにひんやりとしたものを感じた。
「……あなた達の護りの姿……余程それに忠実なのかしら、ね」
湖へ踏み入ったヴァレーリヤとそれを追うゴーレムたちを視界に認め、Erstineが呟く。その視線はすぐ湖に薄ら存在する水へと向けられた。
(徐々に水位が上がってくるという事だったし……注意しておかなきゃね)
引き付けてくれる彼女が素振りとはいえ、どこまで行くつもりかわからない。いつ戻れなくなるともしれないのだから周りも気を付けておくべきだろう。
「私もここで手を抜く事は出来ないわ。これも、ラサの為になるならば……!」
氷の旋風が巻き起こり、ゴーレムたちが遺跡の方へと押し出される。重いものが落ち、バシャンと水の跳ねる音が響いた。
遺跡を守るというゴーレムたちの行動はかつての人々が願い作った在り方であり、Erstineたちは正しく『侵入者』である。けれども、前へ進むことをやめられるかと問われれば──否。
「範囲が、くる、ぞ」
ゴーレムの動きにエクスマリアが仲間へ呼びかけ、彼女の言う通りにゴーレムが腕を振り回す。それを軽く回避しながらエクスマリアは目を細めた。
(大した性能のようだが、事前に情報は、得ている。慌てることは、ない)
戦闘中も冷静に、彼らの行動を観察し見極める。今のような予備動作からの予測も完全ではないだろうが、全くできないことはない。
「強敵であることに、変わりはない。確実に勝機をものに、する」
エクスマリアは時が経てば経つほど身軽かつ正確に動き始める。速く、疾く、勝利を掴むために。
彼女が飛ばした衝撃波でゴーレムの体がぐらつくと、そこへすかさず瞳を煌々と輝かせたイーリンが一撃振りぬく。そこへSuviaからの応援が飛び、視線を向けると睦月が丁度切れたブレッシングウィスパーをかけなおしに向かっていた。
更に視線を滑らせれば、ヴァレーリヤとサンディへ交互に回復を回す世界の姿。ヴァレーリヤも都度自らの怪我を癒し、サンディもまた強烈な修復力で傷を治していく。
「出し惜しみしている余裕もねーからな」
荒ぶる嵐神は暴風を呼び、サンディを取り巻いていたゴーレムの1体へ直撃する。怒りの外れた敵もいるが、こちらから離れる気がないのは好都合と言うべきか。
(あとは咄嗟に動けるかどうかだが……)
2か所に分かれて引き付ける作戦を取っている以上、身動きを取れなくなってしまう状況も仕方ない。動かなければならなくなる前に、その敵をこちらへ引き付けるのがサンディの仕事だ。
「さあ、まだまだいけるぜ。俺の耐久力を甘く見るなよ……!」
耐える姿勢を貫くサンディ。一方のヴァレーリヤは3体となったゴーレムたちをうまく攻撃しあうように誘導していた。
ゴーレムたちに互いへの制御が働いていれば話は変わっただろうが、彼らは個々に動いており互いを味方とは判断していない。あくまで『敵ではないから進んで攻撃しにいかない』だけだ。
ヴァレーリヤという侵入者を退けようと腕をめちゃくちゃに振り回し、それが別のゴーレムへ当たって傷をつける。多少の怪我はなんのその、彼女とてあの鉄帝人だ。
ゴーレムたちの背後から跳躍したのは槍を振り上げた焔。その視線が捉えたのはこれまでの冒険者、傭兵たちがつけたと思しき傷。
「ここだ……っ!!」
火焔を叩きつけると、これまでより確かな手ごたえを感じる。同時にちりりと小さく焦げるような気配。
(全く効かないわけじゃないみたいだね)
「……っと、」
ゴーレムが暴れだす気配に焔は後退する。それと同時、焔の傷つけた場所が更に抉れた。目を丸くして視線を向ければ、そこには剣を携えたアリアの姿。不可視の刃──ファントムレイザーだ。
(あともう一押し……!)
だいぶ危うくなったゴーレムにすかさずErstineが砂を蹴る。魔術と格闘を織り交ぜた技により、ゴーレムがまた1体地へ沈んだのだった。
●
少しずつ、少しずつ。
静けさを湛えるように遺跡が沈んでいく。
くるぶしまで使っていた水が、膝下へ。膝上へ。腰へ。
最初は見えていた扉も戦いが佳境になるにつれ水に沈んで見えなくなる。
それはヴァレーリヤが湖より上がって、暫しのことだった。
●
「サンディ、まだやれる……?」
「ああ」
返事をする彼も、しかし声にいささか精彩が欠ける。けれど──やるしかないとサンディはゴーレムの1体をマークして逃さない。
絶望の青を歌うアリアをバックに、魔力を回復させたイーリンはゴーレムへ切りかからんと前へ出る。レジストクラッシュを決めたErstineに次いで焔の槍がゴーレムの体を削った。
不意に横から頑強な岩の腕が薙いでくる。耐えられず吹き飛ばされたイーリンは、しかし背中を何者かに守られた。
「……きゅう」
「え? あ、ちょっと」
軽くゆすると彼女を受け止めた睦月がすぐに目を覚ます。起き上がった睦月はイーリンの傷に治癒符を使って癒した。
エクスマリアは逆境に曝されながらも、だからこそ更に身軽く早く。ここからが本番だ、とでも言うように。
全てを停滞させるように青い瞳がゴーレムを見つめる。硬い岩の体などものともしないそれに、一瞬ゴーレムの動きが止まった。今だと言わんばかりにヴァレーリヤがメイスを構える。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え──』」
直後吹きあがる炎。天を貫きそうなそれはメイスを振り下ろすことで蛇か濁流のようにゴーレムたちへ流れていく。ぶすぶすと黒煙を上げてゴーレムが倒れた、それを見届けたヴァレーリヤは差した影へ咄嗟に上を見た。
同時、残った1体の腕が勢いよく振り下ろされる。
「くっ……」
「ヴァレーリヤちゃん!」
膝を折るヴァレーリヤに代わり、すぐさま焔がゴーレムたちを引き付ける。彼女が身軽く躱し、受け流していく間にもErstineが起こした氷の旋風がゴーレムを押し流そうと巻き起こった。
「……ねのくにへながしまするさいじんさま、おうけとりくださいませ」
刹那生まれる疑似生命体。睦月はそれをゴーレムへけしかける。アリアは少しでも仲間たちを援護すべく声を張って冷たく呪う歌を紡いだ。
「マリアは、こちら、だ」
抑揚のない声にゴーレムが向けば、吸い込まれるような青い瞳がゴーレムを見返している。吸い込まれて、囚われて──留まってしまいそうな、瞳。
焔を回復しながらも周囲を見渡していたSuviaがはっと視線を向けると、サンディが引き付けていたはずのゴーレムが自由になっている。イーリンが彼の名を叫ぶと、臥せっていた体が緩慢に起き上がった。
──生きている。
そのことに安堵を覚えながらもまだ油断はできない。自由になったゴーレムたちが侵入者全員を打ちのめさんと腕を振り回す。
ある者は跳躍して回避し、ある者は武器や防具で受け流し。或いは『ここで倒れる』という運命に抗って。
「皆、下がって」
そう告げるイーリンの姿は別人のように変貌を遂げていた。
赤紫の髪は深い紫苑へ。紅玉の瞳は更に濃く血の色へ。白い肌は精気を失って陶磁のような青白さへ。
武器を掲げる彼女の髪が燐光を漏らし、瞳の光が尾を引く。振りぬいた渾身の一撃は衝撃波なんてものではなく、まるで──明けの明星。今この場においては、まさにイレギュラーズたちの退路を切り開くものだった。
イーリンの攻撃にゴーレムたちが呑まれ、1体が耐え切れずにボロボロと崩れていく。今だと言わんばかりにアリアは声を張り上げた。
「──皆、あの線まで走って!」
アリアの声に一同は踵を返す。世界はサンディへ肩を貸し、Erstineとイーリンでヴァレーリヤを両脇から支えて。ゴーレムの鈍重さならば撤退するくらいはさほど難しいことでもない。
痛む身体を叱咤して走りながら焔はなるほどと納得する。この情報をローレットへ回したベンタバールは遺跡の調査をしないのかと疑問に思っていたが──。
(これじゃあ、調べようとしても調べられないよね)
イレギュラーズ10人がここまで苦戦させられる相手だ。彼1人でどうにかできるとも思えない。
1人、また1人とアリアによってチョークで引かれた線を追い越す。全員がそこを抜けた事で、追いかけてきていたゴーレムたちもまた持ち場へ戻るかのように引き返して行った。
「些か……いや、だいぶ、骨の折れる」
疲れた声でエクスマリアが呟く。油断していたわけではない。慢心していたわけでもない。けれど想定以上だったということだろうか。
「……ガーディアン《守護者》。その名の通り、立派にここを護っているというわけね」
Erstineが悔しそうに彼らの戻っていった方向を見て、そして目を伏せた。ラサのためと戦って、しかし。でも、だからこそ。
「──次に生かしましょう」
こんなところでは、終われない。
イレギュラーズたちは頷き、態勢を立て直すためにローレットへ引き返し始める。動けぬ者にはどうにか必要最低限の回復を施し、動ける者が肩を貸して。
「……遺跡は、次の機会にですね」
睦月の言葉にエクスマリアは首肯した。
あれほどのゴーレムが守る遺跡。それなら以上のものが眠っているのだろう。それを確かめるためにも、今度こそ。
●
その遺跡は静かに鎮座している。水が上がってこようとも、引いてこようとも、変わらず。
眠りに揺蕩うようなその時間を守るは、今もまだ動く防衛機構。
彼らは守るために設計された。
彼らは排除するため設定された。
今やそれは得意運命座標と呼ばれる侵入者たちによって数体がただの岩となり下がり、残りの数体もかなりの損傷を残すこととなった。
その機能を果たさなくなる時は、いつの日か。けれど──そう遠いことではなくなっただろう。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
撃破まではなりませんでしたが、ここまで痛手を負わせればいつかゴーレムたちは完全に倒されることでしょう。
MVPは同士討ちを狙っていった貴女へ。
風を纏う貴方には称号をお送りしています。ご確認下さい。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ガーディアンゴーレムの破壊
●情報精度
このシナリオにおける情報精度はAです。
数々の冒険者や傭兵が戦っていることから、十分に情報は得られているでしょう。
●エネミー
ガーディアンゴーレム×6
古よりあの遺跡を守護していると思われる巨大ゴーレムたちです。近づくとただの岩から擬態をやめ襲いかかってきます。
単体〜広範囲への非常に強力な攻撃を繰り出す他、ハイ・ウォールと同等に2人までブロックを可能としています。
巨大なためか鈍重ですが、他のステータスはそれを補えるくらいに高水準です。
守の鉄槌:近物単:勢いの良い単体攻撃。それは侵入者へ正義の鉄槌を下すが如く。
攻の領域:特レ物:【自分中心の域範囲】【自分以外を対象】自分の周りのモノを壊します。それは立ち上がるモノを許さぬ領域。【飛】
護の壁:2人までブロック可能。それはそびえ立つ壁の如く。
●フィールド
オアシスにある湖の付近です。湖の水は引いており、遺跡が見えています。
戦闘中に水位が上がってしまうため今回の探索はできません。しかしここでゴーレムを倒しておけば、次回以降は探索が可能となるでしょう。
●ベンタバール
サンディ・カルタさんの関係者。いい加減でお調子者な遺跡荒らし。冒険の資金源や情報の入手元など謎が多い男ですが大体は見た目通りでしょう。
リプレイでは基本的に登場しません。
●ご挨拶
愁と申します。ベンタバールさんをお借りしました。
とても危ないゴーレムではありますが、冒険に危険は付き物。倒してさらなる冒険へ臨みましょう!
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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