シナリオ詳細
星と未来に想い馳せ
オープニング
●冬の夜
冷たい空気は頬を刺すかのようで、それが侵入してこないようにと厚手の外套を前で掻き寄せる。それでもじわじわと冷気が忍び込んでくるのはどうしようもない。
最も、この程度に負けていては星占いなどできはしない。『白夜占』ジェンナは天球儀を出すとその水面へ星を映す。──落ちてくるのだ。空から、水の中へと。
きらりと煌めく星を見つめ、しかしジェンナは苦笑を浮かべる。落ちてきた星ではなく、未だ空に浮かぶ星を見上げると「まったく」と呟いた。
「本当に読めない子ね」
その声音は苦く、若干の呆れを含んで──けれど温かく、優しい。誇らしいような、もどかしいような、複雑な気持ちをジェンナは抱いていた。
占おうとしたのは彼女の子、カイト・シャルラハ(p3n000684)に対して。けれど彼はいつも占うことができない。我が子の未来は彼自身が掴んでいるようで、星が教えてくれるより前に彼は動き出してしまっているのだ。
(なら、母親らしく祈るしかないわね)
安全かどうかもわからないけれど、少しでも祈りが力となるように。
そしてふと思う──あの子、元気かしらと。
「海洋の行く末も、未だ読めないまま……」
永くを生きている衆星の魔女は知っている。人には出会いと別れがあることを。それが束の間でなく、永遠と成り得ることも。
暫しの黙考をしたジェンナは、天球儀をしまうと踵を返した。戻り、急いで手紙を書くのだ。あと少しもすれば新たな年を祝う瞬間がやってくる。
折角だ──息子とその仲間たちを『星見の宴』へ招待するとしようではないか。
●ローレット
「……っていう招待状が来ているんだ」
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の言葉にほうと関心を向けた『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)。手紙を見せてもらうと、流麗な字でその旨が書かれていた。
場所は海洋のスペクルム島。先日海洋で勃発したグレイス・ヌレ海戦の海域からは離れており、被害にあったという話も聞いていない。特に凶暴なモンスターの出現情報もないので安全面は大丈夫だろう。
「手紙の相手はイレギュラーズと縁のある者、だったか」
「そう。ボクもお世話になったことのある人なんだけど、その人の母親なんだって」
母、家族といった縁にはシャルルもフレイムタンも薄い。強いていうなれば、フレイムタンが世界のことを母と称するくらいか。シャルルはそう言った相手もいないが、特別な相手なのだということは理解できる。
「フレイムタンも行く? 普通の年越しとは違うけれど、きっと悪いものじゃないよ」
首を傾げてそう問えば、フレイムタンは目を瞬かせたのちに小さく微笑んだ。
「我で良ければ同行しよう。他にも誘うなら手を貸すが?」
「あ、助かる。結構な人数で行ってもいいみたいなんだよね」
ほらここ、と示された箇所には──なるほど、カイトとそのお友達でという規模ではない。まさしくイレギュラーズ皆へ対しての招待状だった。
- 星と未来に想い馳せ完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年12月31日 22時15分
- 参加人数30/30人
- 相談5日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●
星が瞬き、夜闇は濃く。
”今年”が終わる最後の日、鏡の島へ人が集ってくる。
今宵は星見の宴。
さあ、星はどのような未来を映すのか。
●
「年越しで盛り上がってる時こそしっかりパトロールしてまわるのが正義のヒーローの心得ってやつだぜ!」
「えっ僕ヒーローじゃ──」
「バカ野郎! 男はみんなヒーローだ!」
というわけでワモンとブラウは見回りに湖のほとりを回っていた。年末にもなれば寒さに困る者は多いはずだ。
「お、さっそく寒そうな人を発見だぜ!」
ワモンが1人の占い師を見る。座って星を見ているからか、指先を擦って温めているようだ。
「正義のヒーローとっかり仮面とひよこブラザー参上だぜ!」
さあ抱っこしろと言アザラシとひよこに目を丸くした占い師であるが、実際に抱き上げてみればぬくぬくふわふわ。そこへ鍋を台車に積んだシルフィナが通りかかる。
「生姜湯は如何ですか?」
占い師を始めとして湖の周りに向かってしまった者は多い。彼らに温まってもらうため、希望者へと特製生姜湯を配布しているのだ。
甘さのある生姜湯は体を温め、ほっとさせてくれることだろう。
「それにしても、もう年越しなのね」
「ええ……ついこの間、夏の海にいた気すらしますのに」
蛍と珠緒は満点の星空を見上げる。時間の流れがあっという間なのはローレットで多忙故か……いや、毎日が楽しくて時間が早く感じてしまうからか。
今年の思い出は、まるでこの星空の如く光る宝石箱のようだ。
「ありがとう、珠緒さん。優しい光で、ボクの夜を照らしてくれて」
「お礼を申し上げるのは、こちらこそなのですよ。蛍さんも、常々こうして手を引いてくださいますから」
実りある1年も、彼女がいたからこそ。差し出された手を取り、珠緒は蛍と共に湖のほとりを歩く。
蛍の手には贈られたミトンが嵌っており、それと互いの温もりがあれば、この寒い夜もずっと歩いていけるような気がした。
「来年は、あの星の数ほど珠緒さんを笑顔にするわ」
「笑顔が星の数ほどですか!?」
思わず声を上げた珠緒が夜空を見上げる。無数に星が見える。これほどは1年で笑いきれないに違いない。
だから──蛍と珠緒で半分こ。同じだけ笑顔になろう。
「ボクのいた世界とはお星さまの並び方とかが違うね」
「ふむ? 星には詳しいのか」
両親に教わったのだと告げる焔の表情はとても嬉し気で、けれどすぐにそれはしぼんでしまった。
「こっちの空じゃ全然見つけられないや……」
これまでとは違う空なのだと思うと寂しく感じる。この世界の星座なども覚えれば、いつかは楽しい気持ちで見上げられるかもしれない。
「なら、その時はまた見に来よう」
フレイムタンの言葉に頷いて、空を見上げた焔は年越しの時間だと気づく。彼へ向き直り、年始の挨拶をして。
「今年もいっぱい色んなところに遊びに行こうね!」
「ああ。楽しみにしている。今年もよろしく頼む」
焔の言葉に彼は微笑を浮かべて頷いた。
元の世界なら星読みもできたというルーキスに、ルナールが興味深げな目を向ける。
「へぇ、元の世界なら星読みもできたのか」
「此処じゃ無理だけどね。諦めてルナール先生と星見酒と洒落込もう」
いそいそと持ってきたのはホットワインと毛布。なんだかんだルナールもチキンサンドを持ってきている。
「星見酒……悪くないな」
毛布は2人で包まるけれど、ルーキスの方へと沢山寄せる。ホットワインが喉を通ると、内側からポカポカ温まった。共に過ごすのも、気が付けば3年目だ。
「時間経過はあっという間よなぁ」
「いつもお世話になってまーす」
もそもそと移動したルーキスが彼の背中へのしかかる。世話になっているのはお互い様。来年も互いを色々な場所へ連れまわすのだろうし、連れ回されるのも大歓迎だ。
ルーキスがおもむろに背中へぴとりとくっつく。何事かと思えば、小さくぼそりと。
「ふふふ、愛してるよー」
ルナールは目を瞬かせ、のちに嬉しそうに笑み崩れた。こんな表情、彼女以外の誰にも見せはしない。
「ほら、偶にはちゃんと言葉にしないとね?」
そう告げるルーキス。いつもは態度で示しているが、それでも言葉は格段に嬉しいもので。けれど背中越しはほんの少し寂しいから、ルナールはひょいとルーキスを抱き上げる。
目を丸くする彼女を膝の上に乗せ、抱き上げて毛布に包まり直せば──心も体も、温かい。
フィーゼと卵丸は並んで星を眺めていた。この景色の中で1年を振り返るとは、なんとロマンチックなことか。卵丸としては、もちろん、変な意味で誘ったわけではないのだけれど。
「誘ってくれて有り難う、卵丸」
フィーゼのいた世界にこのような景色はもう存在していなかった。綺麗な景色を見ると、改めてこの世界に呼ばれて良かったという思いが湧き上がる。
「卵丸、実は湖ってあんな位の大きさが普通だってずっと思ってて。故郷を出てきて衝撃的だったよ」
指差したのは海が見える方角。この世界にいても、知らないことばかりだった。
「フィーゼに出会えて本当に良かった。念願の海賊団も作れたし……今年も色々あったけど、あの、その、来年もよろしくなんだからなっ」
顔を赤らめて、手を重ねる卵丸。それに気付いて笑みを浮かべたフィーゼは頷く。
「私も卵丸と出会えて本当に良かったよ。海賊団の結成もおめでとう。
こちらこそよろしくね、卵丸」
この友情が、来年もまた続きますように。
ヴァイスはわくわくしながら占い師の前に座った。見聞きしたことはあれど、自らを占ってもらうのは初めてである。
(所詮占いだ、なんて言う人はいるけれど)
折角だから良し悪し関係なく全部聞きたい。それは自ら受け止めて、考えるべきものだから。
彼女の未来を視た占い師はただ一言──『友人と真剣に向き合いなさい』と告げた。
「本当にたくさんの占星術師が集まっているのねぇ、どんな事を占っているのかしら?」
アルテミアが顔を上げ、鳴もつられて空を見る。けれどどんなことが読み取れるのか、2人にはさっぱりだ。ここは本職にお願いしてみるとしよう。
「なのっ! 来年もいい年にするために、占ってもらうのー!」
2人はそれぞれ占い師の元へ。鳴は告げられた言葉に首を傾げる。
「『激動、そして大きな選択』……なるほど、なのっ?」
吉兆か、凶兆か。鳴にはまだわからない。
(アルテミアさんにも伝えてみれば、一緒に考えてくれるかも……なの!)
共に訪れた友人の元へと戻る鳴。一方のアルテミアもまた小首を傾げていた。
(『いつか人生を左右する決断が迫る』……どういう意味かしら?)
ありがとう、と笑顔で礼を告げて占い師の元を去るアルテミア。楽観はできないが、さりとて気にし過ぎても仕方がない。分からないものは分からないのだ。
「アルテミアさん!」
「鳴ちゃん、どうだった?」
友人と合流し、結果を教え合う。その頭上で──きらり、と2つの星が瞬いた。
「あの星空のどこかに、ボクらの星もあるのかな……?」
「誰にも、宿命を示す星はあるって言うよね」
ヒィロと美咲は空を見上げた。混沌は何でもあるのだから、星だって旅人の分もあるだろう。もしくは星占い師に問えば答えてくれるかもしれない。
「ね、2人で占ってもらお!」
「よし、いっちょ年越し運試しといきますか!」
2人は意気揚々と星占い師の元を訪ね、占いを頼む。
「ボクはねー、来年の運勢とラッキーアイテム! 御守り的な……拠り所があると心強いなって思ったんだ」
ヒィロがそう告げ、無意識に美咲の手をぎゅっと握る。それに気付いた美咲は優しく握り返した。
占い師は星を見て、そしてヒィロへ視線を移すと穏やかな微笑みを浮かべる。来年も今年のように、彼女次第ではそれ以上に星が輝くだろうと。
「運を寄せる物は……黒い石、ですね」
大きさは問わないという占い師に、今度は美咲が来年の運勢とラッキーカラーを視てもらう。
(来年が今年に劣らないものであるよう、弾みを付けたいものね)
そんな彼女が告げられたのは波乱万丈の言葉。そしてラッキーカラーは緑だそう。
「Fooo! いいじゃない、風向き来てる感じあるわ。どんとこいってもんよ」
「ね、美咲さん! 来年も2人ですっごく楽しい年にしよ!」
瞳の色を緑へと変えた美咲にヒィロが抱き着く。美咲は彼女を見下ろし、笑みを浮かべた。
「ええ、一緒に盛り上げていきましょ! 来年もよろしく!」
ジェンナは自らの元を訪れた人影にまあ、と顔を綻ばせた。その表情に史之が思わずドキリとする。
「カイト、今年も手伝いをありがとう。そちらの片側はお友達?」
「ああ。それと──」
へへ、と照れ臭そうに笑うカイト。その首元からひょこり、とリリーが顔をのぞかせる。ジェンナは目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、そう! 皆さん、折角だから占いは如何?」
「遠慮しないで占ってもらうと良いぞ! 結構当たるらしいしな!」
残念ながら1度として占ってもらったことはないが、今年こそは占ってもらえるだろうか。最後でいいから占ってもらいたいとカイトは母に告げる。
「えーとえーと、そうだなあ。来年の今頃、俺が生きているか……とか」
史之は絞り出すように答える。考えてきていたはずなのに、すっかり吹き飛んでしまったのだ。
史之の言葉にジェンナは目を瞬かせ、優しい表情で首を振る。星は未来を占うが、その結果で人がどうなるかまでは教えてくれない。最後の最後は自身が握っているのだと。
「うーん、じゃあ明日の天気は?」
洗濯物が溜まっているんだ、と告げる彼に私もと返し、ジェンナが空を仰ぐ。共に見上げれば、綺麗な星空が広がっていた。
(来年は節目の年。後悔だけはしたくないな)
心の中で独り言ちた史之は、明日は晴れと言う言葉に嬉しそうに笑った。
「何を占って貰うかなぁ……あ、秋宮さんとイザベラ女王様の相性とか?」
プラックの言葉に顔を赤くする史之。ジェンナはそちらに興味がありそうな表情をしながらも、「自分のことは良いの?」と問う。
「知らなくても別に良いかなって。気にならねー訳じゃねーけど」
少なくとも、皆と楽しく出来りゃ十分だからとプラックは笑った。女王と史之の相性占いの行方は──本人のみぞ知る。
海洋の民としてこれまでに参加したことがあったデイジーは『家族に気を付けろ』というような内容を神妙な顔で聞き、ぱっと笑顔を見せて頷く。
「うむ、気を付けるとするのじゃー」
元気に礼を告げる姿は、占いの結果をきにしていないようなそれ。けれど──一瞬、その笑顔が鳴りを潜める。
「──気を付けるも何も、気を付けなかった日はないからのう」
その言葉は小さく、小さく。誰の耳に入ることもなく、消えた。
「リリーもうらなってもらいたいな! うーんと……カイトさんとのこれから、とか?」
わくわくとした表情で告げるリリー。どのような結果になるのだろう。それに、あとで皆の占い結果も聞いてみたい!
ジェンナは息子のことを占えないのだけれど──息子の可愛らしい彼女を悲しませたら怒られてしまうかも。彼女自身の星を読み、その輝きからカイトとのことを予測して伝える。彼女の輝きが薄れてしまっていないのなら、きっと息子が大切にしてくれていることだろう。
彼らが去って暫し。エイヴァンもまた占ってほしいと彼女の元を訪れる。結果がどうであれ、それは起こりうる可能性の1つに過ぎない。気に入らないなら自力で変えれば良いのだ。
「……息子のことを占わないらしいな」
「あら、誰かから聞いたの? あの子、見えないのよね」
苦笑するジェンナにエイヴァンは「それだけの可能性があるってことだ」と告げる。
先が分かるばかりが良いことではない。知ってしまったからこそ後悔しかできないことだってあるだろう。
「──それは、誰よりも心得ているわ」
すっと表情を改めたジェンナになら良いのだが、とエイヴァンはそれ以上言うことをやめる。分かっている者へ更に言葉を重ねる必要はない。
では最後に、とエイヴァンはジェンナへ問うた。
──海洋は、イレギュラーズは。絶望の海へ辿り着けるか?
空には星、地には水鏡。
(……まあ、悪くないんじゃない?)
ルフナは美しい光景をそう評して、再び空を見上げる。冬の空は星見に適していると教えてくれたのは、確か2番目の兄だったか。
夜が長く、空気が乾燥している。そして気温が低いから空気の密度が詰まっており、星が瞬くように見えるのだと。
ルフナは抽象的な占いより、そういった理屈的なうんちくのほうが夢があると思う。そう感じるのは少数かもしれないが。
(兄様たち、元気かな)
同じように星を見上げたりしているだろうか。目を閉じれば、懐かしい家族の顔が瞼の裏に浮かんだ。
1つの毛布にミディーセラとアーリアは包まって、ぴったりとくっつく。寒いからホットワインも飲もう。果物にスパイスと準備は万端。はちみつも垂らして。
みでぃーくん、と声をかけられアーリアの方を向けば、ふんわりと笑みを浮かべていた。
「私ね、去年みでぃーくんに出会って……今年、こうやって並んで過ごせる特別な関係になれて、すっごく幸せなの」
彼の長い人生の中で、今年が幸せだと思ってもらえていたら、きっともっと幸せだ。
彼女の言葉にミディーセラは今年を振り返る。彼女と出会ってからの時間はまだ短い方だろう。けれど過ごした時間はぎゅっと詰まっていて、とっても大切で。
「……そう。なんといまなら、一緒にいるだけで幸せポイントも増えてとてもお得」
「ふふ、なぁにその幸せポイントって? 溜まったら素敵なことがあるの?」
くすくす笑うアーリアに、彼は秘密と人差し指を立ててみせる。沢山幸せになれることは確かだ。
「だから、先が見えなくても、未来がわからなくても。ずっと隣にいてくださいね」
「ふふ、じゃあ……隣で楽しみにしてるわぁ」
秘密なんてずるい、と思うけれど。まだまだ時間はあるのだから。
エルはもこもこ防寒装備で寝転がり、星を見上げる。
(色々あったよね……そして、これからもあるよね)
特に──鉄帝。かの国が徹底的にボコボコにされる様はあまり見たくないが、皇帝だけなら別にいいかなと思ってしまう。
(資源が欲しかったらローレットに依頼すればいいのに)
それに、なんだか下々の方をあまり見ていないような気がしてしまうから。
故郷は今も細々とやっているのだろうか。もしも星に願えるのなら──どうか、あの場所が平穏で、豊作になりますように。
冬空に煙をくゆらせて、十夜はそっと目を閉じた。
今年もいつもの通り、これまでと何も変わらない1年。だけど──ずっと願っている。
明日なんて来なければいい。
未来なんてなくなればいい。
だって神託の有無に関わらず世界は時を刻み続けるし、世界が滅ぶ頃には後悔する者も悲しむ者も残らない。
(なら──最初から諦めちまえば、苦しまねぇですむのに)
──本当に?
心のずっと、ずっと奥の方から問われた気がした。薄らと瞼を上げれば、変わらず星は瞬いているけれど。
(あぁ。……今更、未来の願い方なんてわからねぇんだから)
占ってもらったかというイーハトーヴの言葉にシャルルは首を横へ振る。
「俺はね、ふふ、怖くなってやめちゃった」
占ってもらおうかと思ったのだけれど、1歩が踏み出せなくて。今日もまた、イーハトーヴは──停滞している。
混沌に召喚され、もうすぐ1年。ずっと幸せで、来年もその先もこの時間が続けばと願っている。……けれど。
「皆も、世界も、前に向かって進んでて。俺だけが世界から切り離されているみたいで──」
「……イーハトーヴ? 大丈夫?」
シャルルの声にはっと目を瞬かせたイーハトーヴ。苦笑を浮かべて小さく頷いた。
「ならいいけど……あ、そろそろ?」
「うん? ああ、そうだね。新しい年もよろしくね、シャルル嬢」
「こちらこそ、よろしく」
年の終わり、年の始まり。それを感じて、2人は小さく微笑みあった。
「……占い、興味あった?」
「……んぁ、占い? ううん、あんまり」
冬が寒くとも繋いだ手が、寄せ合った身が温かい。
ついぼうっとしてしまったイーリンが首を振ってウィズィへ返す。彼女もまた興味はなかったようだった。
「焦がれるほど求めるものがあれば、どれだけ波乱万丈でも全力で掴み取りに行くしか無い。……そうして貴女に振り向いてもらったんだから」
ウィズィの言葉に顔を綻ばせたイーリンは、繋いでいない方の手で湖を示す。
「占いは見えないけれど、星はね、どんなに遠くても見えてるわ」
それに占いではこの温もりは──どこまでの共に行けると信じさせてくれる彼女は感じられない。
「これからも2人で一緒に歩いていくことしかできないから。だから来年も……これから先ずっと、よろしくね」
「ええ、来年も。できればその先も、よろしくね」
イーリンへ頷いて、ちらりと時計を確認すればもうすぐ年越し。ウィズィはそっと顔を寄せた。
「ねぇ、イーリン。年越しの瞬間はさ──」
その言葉が途切れる。唇にも熱が込められて、それは年越しの瞬間も離れる事がない。
「寒くない?」
「……さむいわ」
ゼファーにすり寄るアリス。準備よくゼファーは小さな火をおこし、彼女を膝の上にのせてブランケットで包み込む。
──此処がわたしの特等席になったのはいつ頃からだったかしら?
──重みと温もりの心地よさに慣れたのもいつ頃だったかしら?
ふとそう思うけれど、心地よいから些末なことは気にしない。アリスはゼファーに小さく声をかけた。
冬の冷たい空気は、ゼファーたちと星々を近づけてくれるような、そんな気持ちになる──彼女はそう言っていた。
「でもね、もっともっと近い所に星はあると思わ」
わたしのいちばん星さん、と告げられたゼファーは小さく微笑んで頷く。優しい輝きは、地上にだって──すぐ傍らにだって存在している。今はこの膝の上に。
「ええ、ええ。私にとっても、きっと貴女がいちばんよ」
年越しの時が近づいて、アリスはゼファーに年を越す瞬間に何をしたいかと問うた。
「わたしは、息を止めていたい、かな」
弾む息で星を見上げれば、すぐにいちばん星が視界を埋め尽くして。
ん、と小さく声が漏れる。息が止まって、指が絡み合って。
(此れは一等の秘密ね)
このお星さまが金平糖みたいに甘いことは、アリスしか知らないもの。
寄り添った2つの小さな星を、空から月と無数の星が見下ろしていた。
●
未来を願う者にも、そうでない者にも等しく未来は訪れる。
まだ世界はここに在り、彼等もまたそこに在るのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
年越しのお話なので早めにお返し致しました。お楽しみ頂けたら幸いです。
どうぞ、良いお年を。来年もよろしくお願い致します。
GMコメント
●すること
スペクルム島で年越しする
●スペクルム島
海洋にある島の1つ。中心に大きな湖があり、鏡のように夜空を映すことからスペクルム(鏡)と名付けられています。湖の周囲は森が広がっており、平和です。海側には小さな町もあります。
毎年ここではジェンナを始めとした星占い師が年越しの星見──通称『星見の宴』を開くそうです。
●『白夜占』ジェンナ
カイト・シャルラハ(p3p000684)の関係者(母親)。占星術師であり、星や空を見て航海の忠告や安全を祈る仕事をしています。高精度で天気などを当てることからお天気お姉さんとも呼ばれています。
●できること
・星を見上げる(タグ:【星】)
湖のほとりでは夜空を見上げることができます。
1人で、或いは友人と、もしくは大切な誰かと。星を見上げながら年末もギリギリの忘年会を開いたり、静かに今年を振り返ってみるのも良いと思います。
・占ってもらう(タグ:【占】)
ジェンナを始めとした星占い師が湖のほとりのあちこちにいます。お願いすれば来年を占ってもらえるでしょう。
メタ的注意として、彼女らは占い師ですが当方は占い師じゃありません。「結果は好きにしてくれ!」という方以外はプレイングに『占い結果(簡易的でOK)』『結果に対するリアクション』を必ずお書き下さい。
・その他(タグ:なし)
スペクルム島で年越しをするという内容に逸脱しなければ、大抵のことはしても大丈夫です。
突如宴会開き始めても構いません。
●NPC
私の所有するNPCは登場可能です。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
もうすぐ年末ですね。愁と申します。
去年は鉄帝、今年は海洋で年越しイベシナをお届け致します。素敵な関係者様をお借り致しました。
それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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