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シナリオ詳細

<青海のバッカニア>鯨は海上で歌う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●クジラの歌
 歌声が聞こえる。
 震えるような、繊細な歌声だった。
 海洋の海上、周囲に船の姿は見受けられない。ただ、歌声だけが響いていた。
 ざぶり、と――。
 海が、盛り上がった。
 波しぶきをあげて、何かが海中より姿を現したのだ。
 それは、一頭の大きな鯨であった。
 歌が、聞こえた。
 それは、クジラのひげが震える音。
 まるで歌声のように響く、自然の生み出した奇跡。

 マーレンクジラというクジラがいる。
 繊細にして独特の弾力を持つそのひげは、かつては高級球体関節人形の関節を支えるゴムとして利用されていた。
 そのため乱獲が進み、現在はめっぽう、姿を見せることがなくなっていたのである。その希少性から保護運動が進み、絶滅危惧種として保護が行われている。
 マーレンクジラが歌う。それは、数を減らした仲間たちの姿を悼んでか。
 ――だが、人の欲望と言う物は、とんと根深い。
 いかにクジラが悲しもうとも――その命を狙おうとするものは、いつの世も、現れるのである。

●バッカニアとクジラ
「22年ぶりの大号令の結果、今や海の上は、新たなるフロンティア求める者たちであふれかえっています。……そうなると、少々行儀の悪いものが出てくるのも致し方ない事で」
 海洋の生物保護観察担当者の女性が、ため息などをつきつつ、そう言った。
 海洋大号令――新天地を求め行われた、外洋征服のための鬨の声。
 その声は、多くのモノたちを海へといざなった。イレギュラーズ達もその例にもれず、様々な仕事が舞い込んでいる。
 とはいえ――海に出たすべての者たちが、ロマンに満ち溢れた好漢ばかりというわけではない。
 担当者の女性が言う事には、海洋の海が混雑し、その管理が追い付かなくなるころを狙って、絶滅危惧種であるマーレンクジラの密猟を狙うものが現れているのだという。
「マーレンクジラというのは、ヒゲが様々な工芸品……とりわけ高級な球体関節人形などに使われていたこともあり、現在も裏で高値で取引されているようで」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が、うんうんと頷きながら、言った。
「お金になるのはいい事ですが、それで資源を取りつくしてしまうのはなんか違いますよねー。相手も生き物ですし」
「マーレンクジラの個体は減少を続けています。このままでは、本当に絶滅してしまいますからね」
 担当者の言う言葉は事実だ。かつては多くみられていたマーレンクジラは、今や少しずつその姿を消し、今は見ることも難しくなった。
「密漁者たちの素性は分っています……あとは現場を取り押さえるだけです。皆さんには、私たちの巡視船に同船してもらって、現場に現れた密漁者たちを捕縛してもらいたいのです」
 なるほど、今回の依頼は、密漁者の逮捕、という事の様だ。
「というわけです。今回は割とエコロジーなお仕事ですね! それじゃあ、しっかり働いてきてくださいな!」
 と、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出したのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 マーレンクジラを狙う密猟者たちを撃退しましょう。

●成功条件
 すべての密猟者の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。

●状況
 海洋の、生物保護観察担当者たちが管理するマーレンクジラの生息地が舞台です。
 イレギュラーズの皆さんには、担当者たちの有する巡視船に乗り込み、付近の島にて待機。密猟者が現れた段階で行動を開始し、密猟船に接舷、乗り込み、すべての密猟者を無力化してください。
 なお、私物の船などをお持ちの場合は、そちらを利用してくださっても構いません。
 密猟者たちは屈強ながら一般的な漁師たちですが、数名海賊くずれのチンピラが、護衛代わりに同船しているようです。念のため、注意はしてください。
 なお、おまけですが、密猟者が現れる前ならば、多少、クジラと触れ合う余裕はありそうです。

●エネミーデータ
 密猟者 ×10
  特徴
   屈強な船乗りたち。手にした銛による近接攻撃を主に行います。
   BSとして、出血を付与してくることがあります。

 海賊くずれ ×5
  特徴
   海賊くずれの密猟者の護衛。手にした銃による遠距離攻撃を行います。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <青海のバッカニア>鯨は海上で歌う完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月23日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
彼岸会 空観(p3p007169)
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●歌うクジラ
 12月の海は、やはり少しばかり肌寒い。仄かな冷気の揺蕩う海上に、ざぱりと海を切り裂いて、巨大なその身体を現したのは、一頭のマーレンクジラだ。
「クジラ! マーレンクジラ! いと珍しき!」
 その姿を船上で眺めながら、『名乗りの』カンベエ(p3p007540)は、感嘆とした様子で声をあげた。
「でしょう。かつては多くの姿を見ることができたそうですが……」
 同船したスタッフが、相槌を打つ。
 イレギュラーズ達は、海洋の、生物保護観察担当者に先導されながら、目的の海域に向かっている。マーレンクジラはと言えは、物珍し気に、此方の船へと近づいてきては、つかず、離れずの位置で様子を窺っていた。
「人に慣れている……というよりかは、物おじしない子なのかしらぁ?」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がクスリと笑って、首をかしげた。好奇心旺盛で、人を恐れない……マーレンクジラは、そう言った特質を持っているのだろう。
「故に、悪意のある人間からすれば、恰好の獲物だったのかもしれませんね」
 『水天』水瀬 冬佳(p3p006383)が嘆息する。此方を恐れずに近寄ってくる……悪意のある人間からすれば、獲物が警戒せずにやって来るという事だ。
 マーレンクジラは、ヒゲの希少性から狙われていたわけだが、その性質も、乱獲に影響していたのかもしれない。
「くじらさん、こんにちわ!」
 『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)が、マーレンクジラにも届くように、声をあげた。クジラはちゃぷちゃぷと漂いながら、その眼をくりくりと動かす――リリーを探すように。
 やがてリリーの姿を見つけたクジラは、返礼のように、ひげを震わせた。歌うかのような、と評される音色が、辺りの海に響き渡る。
「すごい……本当に歌っているみたいなのね。妬ましいわ……!」
 『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が、わぁ、と声をあげる。ちなみに、この場合の妬ましいは『とっても素敵』位の意味合いだ。
「だが……どこか寂しそうに聞こえちまうのは、気の持ちようかねぇ」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が嘆息しつつ、言った。本来であれば、何頭ものクジラたちが歌う、これは合唱のようなものなのだろう。
 だが今は、その数を減らし、寂しいソロパートになっている――それはやはり、人間のせいでもあるのだ。
「わたくしでは力不足かもしれませんけれどー……」
 呟いて、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は静かに、合わせるような歌を歌った。今は、デュオ。其れでもきっと、クジラにとっては久方ぶりの合唱に、心震わせてくれただろう。
「……着きましたね。あの島ですか」
 静かに、彼岸会 無量(p3p007169)が言った。前方には小島が見えている。数隻の船なら、旨い具合に姿を隠すことができるだろう。
 海洋の、生物保護観察担当者たちが寄港することもある島だ。イレギュラーズ達は、いったんここに向かい、姿を隠す。そして、現れた密猟者を捕らえる……という作戦だ。
「さぁ、お仕事とまいりましょうか。あの歌、失うわけにはまいりませぬ!」
 カンベエの言葉に、仲間達は頷いた――。

 島についたイレギュラーズ達は、さっそく、行動を開始する。用意していた二隻の小型船に、二チームに分かれて乗り込んだ。
「我々は、此処で待機……という事でよろしいのですか?」
 生物保護観察担当のスタッフが声をかけるのへ、
「はい。実際に戦闘になりますから、危険ですよ」
 無量が答える。
「それじゃ、リリーがかもめのふぁみりあーをとばすね!」
 リトル・リリーは元気よく手をあげて、カモメのファミリアーを呼び出した。そのまま、偵察へと向かわせる。
「さて……敵も出てくるかねぇ?」
 そんなカモメを見やりながら、レイチェルが言う。答えたのはアーリアだ。
「スタッフの人が言うには、確実らしいわよぉ。……情報はあっても、現行犯じゃないと捕まえられないからぁ。スタッフの人たちも、もどかしいでしょうねぇ」
「年貢の納め時、という奴ですね。まとめて捕まえて差し上げましょう?」
 冬佳が言う。このタイミングに、密猟者たちを完全に捕まえてやるのが良いだろう。
「クジラさん、寂しそうでしたわー……何とか心穏やかに過ごせるようにしてあげたいものですわねー」
 メリルナートが言う。密猟から身を守り、人間たちも手助けをすれば、また少しずつ、マーレンクジラたちも姿を増やしていくことだろう。
 それにはきっと、途方もない年月が必要だろうが、だとしても、此処でその一歩を躓かせるわけにはいかない。
「あ! ふね! ふねだよ!」
 リトル・リリーが声をあげたのへ、仲間たちの間に緊張が走った。
「数は、分かるかしら?」
 エンヴィが尋ねるのへ、
「いち、に……じゅうごにん!」
 リトル・リリーが答える。
「なるほど、情報通り。密猟者の一味だな?」
 レイチェルが声をあげる――イレギュラーズ達は、一気に思考を戦闘モードへと切り替えた。
「弱肉強食は世の習い――なればこそ、我々が密猟者を食うも自然の道理と言うものです」
 無量が冷たく、その瞳を輝かせた。
「それじゃあ、悪い子には、お仕置きしちゃいましょぉ?」
 アーリアそう言うと、小型船を出航させた。

●漁の始まり
 密漁船には、15名の男たちが乗り込んでいて、うち5名は、懐に拳銃を忍ばせていた。まとう雰囲気も、一般人のそれとは明らかに違う、アウトローのそれだ。
 密漁船の目的は、もちろんマーレンクジラだ。保護海域に匿われたお宝――ヒゲの一本から肉、骨に至るまで有効活用可能な、生きた黄金。密猟者たちにとっては、クジラの価値などは、換算される金以上のそれはない。捕れなくなったらどうするか? そんなことは、捕れなくなった時に考えればよいのだ。そんな即物的な、刹那的なものの考えが、彼らを支配している。端的に言えば、悪党の集まりと言ってもいいだろう。
 さて、そんな彼らの船に、接近する一隻の船の姿があった。望遠鏡に覗いてみれば、乗り込むのは5人の人物の姿。
「巡視船か」
 密猟者たちは、即座にそう判断した。同時に、御しやすい相手である、とも。なにせ、相手の数はこちらの半分以下だ。奴らがずぶの素人ならば――たとえそうでなかったとしても、海の上でこの人数差をひっくり返すことは難しいだろう。
 故に。
「邪魔はできないだろうぜ。接舷して来たら、その時はやっちまえばいい」
 乱暴な考えで、船内の意見は一致した。
 と――。
「わしが! 名乗りのカンベエで御座います!」
 大音声が、周囲に響いた。
「数を減らしつつあるクジラを、私欲のために貪り喰らおうとは――些か人情にかけると言う物!」
 小型船に乗った男――カンベエの声であった。
「臨検ですわよー! 此方の指示に従いなさいなー!」
 続いて、メリルナートが声をあげた。
 密漁船の男たちの間に、失笑が漏れる。案の定、巡視船の様だ。しかもあの程度の戦力で、何をするというのか!
「どうする、大将」
 海賊くずれの密猟者が声をあげるのへ、漁師風の密猟者は頷いた。
「やっちまえ」
「おうよ」
 下卑た笑みを浮かべつつ、海賊くずれは、懐の銃を一斉に抜き放った! 途端、密漁船より打ち込まれる、無数の銃撃! それは海に、小型船の外壁に着弾しつつ、イレギュラーズ達へと迫る!
「撃ってきましたね……嬉しくはありませんが、想像通りです」
 冬佳が言った。抵抗などは予定の範疇だ。むしろ、盛大に抵抗してもらわらなければ、此方としても作戦の意味がない。
「密猟者さんがいるって聞いたんだけど、本当みたいねぇ? 今捕まれば刑は軽いわよぉ」
 アーリアの警告に、しかし返答は鉛玉である。足元に着弾したそれへと視線をやりながら、アーリアは嘆息した。
「嫌ねぇ。どうしてこう、短絡的なのかしらぁ」
「思慮深かったら、密漁なんてしませんわよー?」
 メリルナートが肩をすくめる――それには違いあるまい。
「では、此方も正当防衛とまいりましょうか」
 冬佳の言葉に頷いて、イレギュラーズ達は、銃弾の中を接舷目指して突撃する。
「てかげんなんて、してあげないよ!」
 リトル・リリーは胸を張って、大声で宣言する。悪しき者へと向かって、小さな勇者はその力を振り絞るのだ。
「まずはふかぁく……酔いましょぉ?」
 アーリアの甘い囁き――色で例えるなら菫色のそれ。囁きでありながら、遠く密漁船の上にいる男たち、その耳元でささやかれたかのように浸透する――!
 それは、甘い酔いをもたらす囁き言葉。漁師風の密猟者は、その酔いに任せたまま、付近にいた仲間へと殴りかかった!
「なんだ!?」
 突如巻き起こる同士討ちに、密猟者たちが浮足立つ――だが、此方の攻撃はそれだけで仕舞ではない。
「水の上に生きながら、その恵みに感謝できないというのなら!」
 冬佳の放つ、水の斬撃――それは、一筋の刃となって、遠く密漁船の戦場まで放たれる。鋭いその一撃は、漁師風の密猟者へと直撃し、派手に転倒させた。
「くじらさんをいじめるのは、だめだよ!」
 リトル・リリーはアルラトゥを呼び出した。それは、冥界より来るガゼルである。その身に纏う黒霧は、死そのもの。霧に飲み込まれたるは、例外なく命を蝕まれていく――!
「あなた達に、マーレンクジラの歌はもったいないですわよー!」
 続くメリルナートの歌声が、密漁船上に鳴り響いた。深い、絶望を歌い上げるそれは、密漁船上にさらなる混乱をもたらす!
 果たして、小型船は密漁船へと接近した。カンベエはその姿を悠然と晒し、
「さぁ、小悪党ども! かかって来るがいい!」
 挑発の言葉をあげる! 一触即発、二隻は接触し、近接戦闘が始まる……その直前!
(「さ、今よぉ!」)
 アーリアがテレパスにて声をあげた――仲間のファミリアーへと向かって。同時に、密漁船を挟み込むように、反対方向から迫る、もう一隻の小型船!
「二隻目、だと!?」
 海賊くずれの密猟者が悲鳴を上げた。
「さぁ、突っ込むわよ……気を付けて!」
 エンヴィが声をあげるのへ、仲間たちが頷く。
 つまり、挟み撃ちである。
 一隻を囮とし、注意をひきつけてから、もう一隻で後ろから殴り掛かる。
 これにより、密猟者たちは、一気に混乱のただなかへと放り込まれるのだ!
「く、くそ! どうする、大将!?」
 海賊くずれが悲鳴を上げるのへ、漁師風の密猟者もまた、慌てた様子で声を張り上げる!
「ここまで来ちまったらしょうがねぇだろ! 全員始末してくれ!」
 もはや自棄になっているようなものではあったが、密猟者たちにとっては、ほかに手段がなかったのは事実だ。
 だが、もちろん、そんな反撃の芽を、イレギュラーズ達が摘まずに放っておいてやるわけがない。
「一足お先に」
 接舷よりも少し前、無量は空を蹴って、密漁船へと乗り込んだ。手近にいた海賊くずれの男へ向けて、刃を振るった。
 振った、だけである。
 その刃は、海賊くずれの男にあたることは無い。空を切った。
 だが、海賊くずれの男に――いや、一人ではない、複数の男たちの精神に、激痛を走らせた。それは、斬られたという、実感を伴った錯覚。
 研ぎ澄まされた剣気と殺意によってのみ実行される、心を殺す斬撃!
「――ああ、殺してはいけないのでしたか?」
 ひどく冷たい声が上がると同時に、三隻の船は接舷した。
「ま、できる限り頼む」
 苦笑しつつ、レイチェル。一行は一気に、密漁船へと乗り込んだ。
「く、くそ! 応戦しろ!」
 瞬く間に船上は混乱の戦場と化した。銃弾と鋭いモリが飛び交い、イレギュラーズ達に襲い掛かる。
「まったく、それじゃ加減もしてやれねぇぞ?」
 もとより、手加減などはするつもりもないのではあるが。レイチェルは己の血を媒介とし、魔法陣を描いた。途端、魔法陣より放たれるのは煉獄の炎! 船上を奔る炎が、海賊くずれの男たちを飲み込み、焼き尽くす!
「こいつら、タダもんじゃねぇ……っ!」
 イレギュラーズ達の勢いに、うめく密猟者たち。
「そうね、皆妬ましいくらいに、強いのよ?」
 エンヴィが召喚する怨霊が、海賊くずれの男を貫いた。不吉な怨霊に体力を奪われた海賊くずれが、意識を失い、倒れ伏す。
 奇襲の成功により、形勢は一気にイレギュラーズへと傾いている。
 密猟者たちは少しずつ、確実にその数を減らしていった。
 アーリアの艶やかな声が海賊くずれを捕らえ、その隙をついた無量の斬撃が、海賊くずれの意識を奪う。
 イレギュラーズ達の基本方針は、密猟者たちの護衛である、五人の海賊くずれの早期排除であった。これには、実力者である海賊くずれを早期に無力化し、安全を確保するという狙いがある。同時に、もう一つの狙いがあった。
「もう一息ですよ、皆さん!」
 冬佳の、清浄なる白い、雪のような花がちらちらと散り、イレギュラーズ達の傷を癒していく。
「わるいこは、やっつけるんだからっ!」
 リトル・リリーが放つ、冥闇の黒炎烏が、最後の海賊くずれを狙い撃つ。その衝撃に、海賊くずれは意識を失った。
 さて、すべての海賊くずれを撃退したイレギュラーズ達は、一度攻撃の手を止めた。そして、一歩前に出たのは、アーリアだった。
「さて……改めて聞くけれどぉ。今投降すれば、この後の処遇について考えてあげても良いわよぉ?」
 降伏勧告である。敵集団の頼みの綱は、護衛である海賊くずれである――そう判断したイレギュラーズ達は海賊くずれのみを早期に無力化し、降伏勧告を行ったわけだ。
 これには、敵の命を救う――というよりは、的確に裁きを受けさせ、他の密猟者へ対する抑止を行いたいという狙いもあった。
「これ以上戦っても、無駄に怪我を増やすだけよ?」
 エンヴィが言う。それは事実である。イレギュラーズ達との乱戦の結果、海賊くずれだけではなく、漁師風の密猟者たちにも相応の損害は出ているし、このまま戦った所で、勝ち目がないという事は目に見ていているだろう。
 そしてここは海上。
 逃げ場などないのだ。
「まだ戦うと言うのなら……容赦はしないわ」
 エンヴィの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。これも事実だ。もし戦わなければならないのであれば、イレギュラーズ達は容赦はしないだろう――その意志も、密猟者たちには充分に伝わったのである。
「わ……わかった」
 男が武器を放り捨てると、残る男たちも、応じるように武器を放り捨てた。
 イレギュラーズ達は、内心胸をなでおろした。説得が無事に終わったこともそうだが、これにより、事件は解決したのだ。
「安心してねぇ。私、こう見えても海洋にはちょーっと顔が効くのよぉ」
 アーリアはにっこりと笑って、そう言ったのであった。

●クジラの歌
「助かりました……見事な手腕です!」
 捕縛した密猟者たちをイレギュラーズ達はスタッフへと引き渡した。と言っても、此処は海の上。しばらくは同船することになる。
「2度目はないとよく覚えておくことだ」
 カンベエは、そんな彼らを見張り、船へと同船した。カンベエに睨みつけられた密猟者たちは、バツが悪そうに意気消沈する。
 果たして帰路へとつくイレギュラーズ達の前に、再び一頭のマーレンクジラが姿を現した。クジラは、此方の苦労を知ってか知らずか、興味深そうに、イレギュラーズ達を見つめている。
「くじらさん、もうだいじょうぶだよ!」
 えへん、と胸を張って、リトル・リリーが声をあげる。くじらは楽し気に、その身体を揺らした。
「密漁者みたいな糞も居るが、アンタらを守ろうとしてる奴も居る」
 レイチェルは静かに、マーレンクジラへと告げた。
「……まぁ、そいつらは信じてやってくれねぇか?」
 その言葉は、マーレンクジラへと伝わったのだろうか。マーレンクジラはわずかに鳴き声をあげた後、再びそのひげを震わせた。
「やっぱり、良い音色ですね」
 冬佳がそう呟くのへ、頷くように、無量は瞼を閉じた。
「お仕事も終わったしぃ……クジラの歌を肴に一杯♪ いいわよねぇ♪」
 どこからかボトルを取り出し、グラスへとお酒を注ぐアーリア。
「またとない機会ですしー……また、一緒に歌っていただけますのー?」
 メリルナートは、マーレンクジラに合わせるように、再び歌い出した。
 それは、先ほどとは違う、楽し気な歌だった。
「やっぱり、妬ましいわね……」
 微笑んで、エンヴィが頷く。
 しばしの間に訪れたクジラとの合唱は、とても穏やかで温かく。
 種族を超えた友による、喜びの歌に聞こえた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍によりマーレンクジラは無事に保護されました。
 彼らが落ち着きを取り戻す日も、そう遠くないでしょう。

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