PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Phantom Night2019>船上のファントムナイト

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●船の上で
「すごいねー。水がいっぱい」
 きらびやかな船上。そこで『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)ぼんやりとした眼を見広げながら、そう呟いた。海を見たのが初めてだったのだ。
 今宵は収穫祭。いわゆるハロウィンのような祭りなのだが、ここ海洋においても同様の祭は催されている。
 とはいえ、祭と言えばその本質から些か外れた、派手なものになってしまうのは世の常だ。海洋においては、この通り大量の船を港に浮かべて繋ぎ、その会場において飲めや歌えやの大騒ぎを行う街もある。
「というわけで、お祭りですよ、お祭り!」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、風呂敷を抱えながらふよふよと飛ぶ。風呂敷の結び目から中を覗けば、様々な菓子類が見て取れた。
「すごいね。貰ったの? それとも、配るの?」
 レライムが小首をかしげるのへ、ファーリナは頭を振った。
「まさか。売るんですよ! これを!」
「売るの?」
「祭りと言えば書き入れ時ですよ! こう、子供にお菓子をねだられたお父さんとかがターゲットです! 全部売り払ってがっぽり儲けてきます!」
 それじゃあ! と元気よく手を振って、ファーリナが飛んでいく――ほどなくして、ファーリナは子供たちにたかられ始めた。トリックオアトリート! の言葉と共に、子供たちにお菓子を奪われていく。
 ああ、それは売り物だから、と言った所で、お菓子くれ暴徒と化した子供たちを止めるものなどはいない。強く止めないファーリナもファーリナであるのだが。
 しばしの後に、ファーリナはボロボロの様子で、ふよふよと戻ってきた。
「売れた?」
 レライムが尋ねるのへ、ファーリナは虚勢を張った様子で肩をすくめた。
「ハッ――今日はお祭り、商売やる日じゃなくて遊ぶ日ですよええ。レライムさん、行きますよ! こうなったら思いっきり食べて飲んでやるんですから!」
 帽子の端を引っ張って、ファーリナはレライムを急かす。レライムはふむふむと唸りつつ、ぷにぷにとファーリナに引っ張られるまま、会場へと向かうのだった。

 会場には、いくつもの食べ物が並んでいて、給仕がせわしなく食べ物や飲み物を運ぶ。会場となっている船は一つではなく、無数の船が連結していて、ある船の上では輪投げや射的のようなミニゲームのコーナーも存在した。いわゆる縁日的な文化が、旅人の手によってだろう、もたらされているのだ。
 君はこの会場で、どう過ごすだろうか?
 食事に専念してもいいし、縁日コーナーで景品を狙ってみるのもいいだろう。恐らく、お目当ての品も、ゲームも、この大きな会場のどこかには必ずあるはずだ。
 遊ぶのに疲れたならば、静かな場所で海を眺め、休憩するのもいい。船から海を見てみれば、南瓜のランタンが明かりをともして海に浮かんでいて、幻想的な風景を映し出している。きっと心も体も、休まる事だろう。
 さあ、祭の夜は始まったばかり。
 心行くまで、祭の夜を楽しもう!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 今回は海洋でのハロウィンパーティとなっております。

●目的
 ハロウィンパーティを楽しむ

●状況
 海洋のとある街。港に浮かぶ無数の船の上が会場となっています。
 会場にはたくさんの食べ物や飲み物、縁日的なミニゲームや、静かな休憩スペースなどが存在します。
 心行くまで、お祭りを楽しみましょう。

●本シナリオにおけるルール
 以下の三つから、描写を希望するポイントを、『【数字】』という形式で、プレイング一行目にご記入ください。
 また、お友達、或いはグループ単位での参加や描写をご希望の方は、プレイング2行目に『【相手の名前とID】』或いは『【グループ名】』のご記入をお願い致します。
 記入のない場合は、希望の場所にて描写されない、迷子になってしまう等の不具合が発生する場合がございます。予めご了承ください。

 【1】メイン会場船
    様々な食品や飲料が置かれた、お祭りのメイン会場です。
    思う存分食べたり飲んだり、トリックオアトリートしたりされたりできます。

 【2】縁日会場船
    いわゆる縁日的なミニゲームが遊べる船です。縁日的な事は、旅人からもたらされたのでしょう、目当ての遊びも探してみればきっとあるはずです。

 【3】休憩用船
    お祭りにつかれたとき、静かな場所に行きたいときなどにお勧めのスペースです。
    幻想的な南瓜ランタンが、海上に浮かんでお待ちしております。

『プレイング記入例』
【2】
【ファーリナさんとゆかいな仲間達】
 もしかして、このカタヌキという遊びで高額カタヌキをカタヌキすれば、今回の損を取り返せるのでは……よし! 全部下さい!!!!!!

●参加NPCについて
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)
 『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)
 以上二名が会場にいます。
 お声がけいただければ、どこにでも参上いたします。

●諸注意
 基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになります。アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングにご記入いただけますよう、ご協力お願いいたします。
 過度な暴力行為、性的な行為、その他公序良俗に反する行為はお控えくださいますようよろしくお願い致します。
 可能な限りリプレイ内への登場、描写を行いますが、プレイングの不備(白紙など)やキャパシティの限界により、出来かねる場合がございます。予めご了承ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <Phantom Night2019>船上のファントムナイト完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年11月19日 22時15分
  • 参加人数25/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック
Melting・Emma・Love(p3p006309)
溶融する普遍的な愛
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
彼岸会 空観(p3p007169)
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
小神野 陽花(p3p007751)
特異運命座標

リプレイ

●船上パーティー
「トリックオアトリート、ですよ〜!」
 ぱたぱたと飛び回るシマエナガ、ノースポールは先手必勝とばかりに待ち合わせ相手の猫又――炎堂 焔へと声をかける。焔は一瞬、驚いた顔をした後、すぐに笑顔を見せてくれた。
「先を越されちゃったかぁ。ポーちゃんのイタズラなら受けても楽しそうだけど、ちゃんとお菓子は用意してるよ」
 差し出したのは、お饅頭だった。それはどこか、シマエナガのノースポールを思わせる、ふわふわの真っ白なものだ。
「わっ、お饅頭! ありがとうございますっ♪ 私も用意してあるんですよ」
 ノースポールが差し出したものは、南瓜のクッキーだった。手作りのようで、可愛らしいラッピングがしてある。
「わぁ、ありがとう! 美味しそう」
「お菓子は食後のデザートに取っておきましょう」
 ノースポールの言葉に、焔は頷いた。二人は仲良く、パーティの会場へと歩いていった。

「見ろよこの姿、立派だろう」
 猫がふわふわと飛んでいる。それは、魔法で黒猫へと姿を変えたシラスだ。得意げに胸を反らす黒猫の頭を、ふわふわと撫でたのは、アレクシア・アトリー・アバークロンビーだ。
「かわいい! なんだか、ペットというか使い魔がいるみたいな気分になってくるね!」
 魔法使いと言えば使い魔、使い魔と言えばやっぱり黒猫だろう。だが、ペット、という言葉に黒猫はにゃにゃ、と口を尖らせた。
「ペットじゃないって、猫の王様!」
 その様子が可愛らしくて、アレクシアはたまらず頬を緩ませた。
「あはは、ごめんなさい。じゃあ王様、此方は異世界の逸品でございます。先ほど私めが食べたおり、とても美味しかったです」
「うむ、よきにはからえ」
 かしこまる様子を見せながら、アレクシアは料理をシラスの口元へと運ぶ。いわゆるアーン、という奴である。差し出された料理を、シラスは口に含んだ。
「おいしい……けど、なんかシャキシャキする……これ、なんて料理なんだ?」
「んーと、ちんじゃおろーすー?」
「ピーマン入ってる奴じゃん!」
 シラスがしっぽをパタパタと振って抗議するのを、アレクシアはきゃー、とかわいらしく悲鳴を上げながら、しっぽを受け入れたりした。

「ふむ……ハロウィンというのは仮装と菓子の祭りなのだな」
 リアム・マクスウェルは、手にした文庫本サイズの本を閉じて、懐にしまい込んだ。
 ハロウィンというまつりについての知識がなかったリアムは、相方である美咲・マクスウェルが少し離れた際に、事前に知識を調べておこう、と思ったのである。
(「おや、今回は予習してるんだね、偉い偉い」)
 そんな様子を見つけた美咲は、リアムの様子を近くから眺めてみる。
「しかし……菓子を配るのは子供達へなのか。残念だな、美咲の喜ぶ顔が見たかったのだが……美咲の笑顔は何処か暖かく、そして愛らしい」
 ストレートに語られる言葉。たまらず、美咲はたじろいでしまった。
(「……ぉ……ん……聞こえてないと思って……まあ、そうまでべた褒めされて、悪い気はしませんけどー?」)
 こほん、と咳払い一つ、美咲は何事もなかったかのように、リアムへと合流する。
「おまたせ? 次はどうする?」
「ああ、美咲、折角の祭りだ。少し戯れてみないか?」
 リアムはそう言うと、テーブルに盛られた料理を小皿に移した。小さな野菜をフォークで突き刺して、美咲の口元へと運ぶ。
「なりの「悪戯」というものだ。今更菓子が欲しい歳でも無いのでな、お前の色んな表情が見たい」
 ほんの少しだけの、ささやかな笑みが、リアムの表情を彩る。それに気づいた美咲は、少しだけ、ほほを赤らめつつ、
「戯れ……悪戯って いいけど いいけどさー」
 照れ隠しをするように、がぶり、と料理にかぶりついて見せた。

「わぁ、お船の上でパーティーなんて素敵ね、Love? 寒くはないかしら?」
 きらびやかな船上に目を輝かせながら、フルール プリュニエはMelting・Emma・Loveへと語りかける。
「Loveは大丈夫なの。フルールの方こそ寒いのは大丈夫なの?」
「私は大丈夫よ? みて、Love、お料理がたくさん♪ どれから食べようかしら?」
 子供のようにはしゃぎながら、テーブルに置かれた料理に、視線を移していくフルール。Loveはフルールに続くように、テーブルに視線を移した。和洋折衷、様々な世界から伝えられた料理も満載のテーブルの上には、なるほど、Loveでも目移りしてしまいそうなほどに、沢山の種類の料理がある。
「そうだ、Loveは普通の食事もできるの?」
 小首をかしげるフルールへ、Loveは頷いた。
「Loveは普通に食事できるの」
「不思議ね、どこでご飯が消えていくのかしら?」
 ぷに、と、Loveのおなかのあたりへと、フルールが触れる。Loveは、不思議気に小首をかしげた。
「Loveの体内に消えていく感じだと思うの、たぶん」
「ふふ、まだまだ知らないことがいっぱいね。さ、Love、何から食べようかしら? Loveは何が好き?」
 可愛らしく笑うフルールへ、Loveはこくり、と頷いて、
「Loveは甘いお菓子が好きなの」
「なら、南瓜のパイなんてどうかしら? 甘くて蕩ける、今日の夜みたいな素敵なパイよ?」
 一口大に切り取ったパイを、Loveの口元へと運ぶ。あーん、と口に含めば、甘く、口の中でほろりと蕩ける。
「ん、甘くて美味しいの。お返しに甘いチョコのブルーベリーパイを食べさせてあげるの」
 お返しと差し出されたパイを、フルールは口へと運んだ。二人の関係みたいに甘い味が、口中へと広がった。

「日本でもハロウィンだって騒いでるやつらはいたが、こっちの世界は段違いだな」
 秋月 誠吾は、きょろきょろとあたりを見回しながら、会場を歩く。
 出身世界のハロウィンもなかなかの大騒ぎであったが、混沌、海洋のハロウィンもそれに負けず劣らずの大きなお祭りだ。派手な会場、様々な仮装。自然、あちこちに目を奪われて、前方へと注意がおざなりになってしまう。どん、と、誠吾は、誰かにぶつかってしまった。
「わっ、ご、ごめん! 君、大丈夫かい? すまなかったね」
 ぶつかった相手は、オッドアイが特徴の青年だった。綺麗な人だな、と誠吾はふと思う。
「ああいや、こちらこそすまん」
 頭を下げた。青年はこちらこそ、と頭を下げ、
「これも何かの縁だね。僕はカイト・C・ロストレイン、きみは?」
 握手を求め、手を差し出した。ロストレイン……どこかで聞いたよう気がしたが、すぐには思い出せなかったので、気のせいだと思う事にした。カイトの手を握り、
「俺は誠吾。秋月誠吾だ。日本、て場所からこの世界に来たばかりでな」
「なるほど、旅人だね。にほん……聞いた事がある様な、無いような。あはは」
 苦笑するカイト。誠吾はなんだか、もう少しカイトと話をしてみたいと思うようになった。それは、カイトが親しみやすい雰囲気を持っていたからかもしれない。
「一人で来てるなら、一緒にメシ食わねーか? いう通りこれも何かの縁ってことでな」
 初対面の相手に、不審だったかもしれない、と誠吾は思った。だが、カイトは、
「あはは、僕と飯か! それなら構わないよ! ひとりより、ふたりのほうが楽しいからね!」
 にこりと、どこか嬉しそうに笑って、頷くのであった。

●屋台の一夜
「船上でハロウィン、なんてこじゃれてるね~」
 りんご飴を齧りつつ、橘花 芽衣は呟いた。
 ここは縁日船。旅人たちの文化が色濃く出たこの船には、様々なゲーム等の屋台が所狭しと並んでいる。大人たちから子供まで、多くの人々が楽しむ様子が見て取れて、芽衣もなんだか、ワクワクとした気持ちがわいてくると言う物だ。
「さて、他には何があるのかな? パーティ会場の食べ物もいいけど、やっぱりお祭りと行ったら屋台だよね」
 屋台料理を見回しつつ、芽衣は言う。堅苦しいのは苦手だ。こういった、自由な気風の方が、自分には合っている。
「さ、全部回るぞ!」
 にっこりと笑いながら、芽衣は祭りの会場へと消えていった。

「メイメイちゃん、こっちこっち!」
 そう言って手を引くヒィロ=エヒトに連れられて、羽をぴょこぴょこと動かしながら、ついていくのはメイメイ・ルーだ。
「わ、わ、『強欲』のヒィロさま、に攫われてしまいました、ね。えへへ」
 ぽかぽかとした笑顔を浮かべて、二人は人々の合間を縫って、祭の屋台をはしごしていく。
「これ、ヨーヨー釣り! やろうよ!」
 ヒィロは店主から釣り糸を受け取ると、むむむ、と集中してみせた。隣では、メイメイがどきどきの表情で、ヨーヨーを見つめる。
「えいっ!」
 気合と共に垂らした釣り糸が、白いヨーヨーをひっかける。見事に釣り上げた白いヨーヨーを、ヒィロはメイメイにプレゼントしてあげた。白くて、メイメイちゃんにぴったりだと思って。そう言って笑うヒィロに、メイメイは何度もお礼の言葉をあげる。
 二人が続いて向かったのは、輪投げの屋台だった。これは、メイメイの希望だ。先ほどとは逆、むむむ、と集中してみせるメイメイと、どきどきの表情で的を見つめるヒィロ。
「てやぁっ」
 可愛らしい気合と共に、放り投げたわっかが見事に的に引っ掛かった。メイメイが景品に選んだのは、狐のマスコットだ。
「これ、ヒィロさまにプレゼント、します」
 どや、と誇らしげな表情を見せるメイメイから、ヒィロはマスコットを受け取った。
「ありがとう……! 大切にするね!」
 ぎゅっ、と抱きしめたマスコットが、楽しそうな二人を見つめていた。

●静かな夜に
「空の月もいいが、水面に映る月もオツなモンだろ?」
 十夜 縁は、傍らにたたずむ蜻蛉へと、静かに語り掛けた。
 水面に映る月は、大きく、欠けることなく丸い。まるで水中にある月が、そのまま顔を出しているかのように。
「……海の上で見るお月さんは、また違ったお顔をしとるのね……綺麗」
 呟くように言う蜻蛉も、どこか遠くのように聞こえた。縁の目に映る、明るい水底。これだけ明るければ。きっと海の底からでも。思考が、水底へと引き込まれる。ちゃぷちゃぷと響く水音が、それを加速する。
 引き込まれる。沈む。沈む。沈んでいく――だが、ころり、という鈴の音が、縁を現実へと引き上げた。
「あの日のお月さんも、綺麗よ……うちのお守り」
 三日月という名の鈴。はぐれた時は、それを鳴らして呼んでくれ。そう冗談交じりに渡した、宝物。
「……なぁ、もしも」
 続く言葉は告げられず。それを飲み込んだ。
「……いや、何でもねぇ。その仮装にもよく似合ってるぜ、その鈴」
「……そう。褒めてくれるやなんて珍し……おおきに」
 蜻蛉は微笑んで見せた。この鈴を鳴らしても、戻ってきてくれないのかもしれない。そんな拭い去れぬ不安が、顔に出ていなければいいと、蜻蛉は思った。

「今年のファントムナイトもとっても楽しかったの!」
「そうだね……美味しいものも、色んな遊びも沢山満喫できたしとっても楽しかった……!」
 備え付けられたベンチに、二人で腰掛けながら、焔宮 鳴と竜胆・シオンは船上から海を見やる。
 輝く南瓜のランタンと、水面に映る大きな月。星々も負けじと輝いて水面に映り、さながら海が夜空へと変わったかのようだった。
 海の夜空を見つめながら、シオンは思わず、ふわ、とあくびを漏らした。どうやら、祭の疲れが出てしまったようで、鳴はくすりと笑ってみせる。
「シオンさん、眠くなったの? そうだ、膝枕してあげるの! くっついていればちょっとした寒さも平気なのっ!」
 鳴の提案に、シオンは嬉しそうに頷いた。
「膝枕してくれるの……? じゃあ遠慮なくー……!」
「尻尾もお布団みたいに掛けて、ぬくぬくぽかぽかーなのー!」
 鳴を、シオンにかけてあげる。シオンは抱きしめるようにしっぽに包まれると、やがてすやすやと寝息を立て始める。
 そんな寝顔を見ながら、鳴は優し気に微笑んだ。
(「えへへ……シオンさんと一緒にいるとなんだかどきどきしちゃうのっ」)
 それは、夏をと一緒に過ごした時にも感じたもの。胸の奥からあふれる、温かなもの。同時に、顔がどこか、熱くなってくる。
 それは、友達として好き、とは違う、好きの現れ方。ただ、鳴はまだ、その感情がなんであるのか、わからずにいたのであった。

 ちゃぷ、ちゃぷ、かぽん、ぽこん、ちゃぷ、ちゃぷ。
 よせては返す波の音。浮かぶ南瓜の灯篭が、波間に揺れる水の音。
 そんな静かな音を聞きながら、彼岸会 無量は瞳を閉じる。
 瞼の裏からさす仄かな明かり。静かな水音。
 まるでまるで三途の川を一人渡されるかの様な寂寞。遠くに聞こえるヒトの声。
 ここは此岸か彼岸か。その境目すらもわからなくなる。果たして何方が此方なのか、何方が彼方なのか、その答えすら。くるくると闇夜に消えていく。
「心地良い音です」
 ちゃぷ、ちゃぷ、かぽん。
 そんな世界に身を寄せて、ひと時の休息を、無量は堪能していた。

「折角の休みでゆっくり出来ないのも癪じゃない?」
 ルーキス・グリムゲルデは、ワインボトルとグラスを差し出しながら、そう告げた。
 休憩船のはずれのはずれ。ここまで遠ければ、周りに人の気配もない。
 聞こえるのは、はるか遠くから聞こえる祭の喧騒。そして揺れる潮騒の音だけ。
「うん、休み位はゆっくりしたいよなぁ」
 二人は背中合わせに腰かけて、お互いにお互いの身体を任せた。背中越しに乾杯をすると、少しだけ、グラスを傾ける。
「ルナールと暮らし始めてもう二年かあ。日時が過ぎるのはあっという間だねぇ」
「二年か、確かにあっという間だな。……だが全部楽しかったよなぁ」
「ああ、楽しかった」
 数々の思い出を思い出しながら、二人は笑った。
 楽しい思い出もあった。戦いの記憶もあった。
 だが――全部、楽しかった。今だからこそ、そう思える。
「ま、どこまで行ってもいつも通りさ」
 ルーキスが、グラスを差し出す。
「これからも変わらず宜しくね」
 背中越しに差し出されたそれへ、ルナールはグラスをかちり、とぶつけた。
「ん、俺こそ宜しく。これからもずっとな」
 再びグラスを傾ける。
「あぁ、いつも通りが一番だ……でも置いて行かれるのは嫌だけどな」
 背中に感じる熱が消えないように、二人は再び、お互いの身体を預けた。

「おっと、隣、良いッスか?」
 そう言って小神野 陽花の隣に座ってきたのは、メイドだった。いや、よく見たらそれは男の人で、普通は男の人はメイドの格好はしない。
「えっと……メイドさん? 男の人、だよね?」
 不意に口をついて出た言葉に、メイドは一瞬、ビックリした顔をした後、ケタケタと笑った。
「まぁな! 女の子に見えた?」
 メイドは楽しげにひとしきり笑った後、
「ああ、自己紹介しないと。日向 葵。よろしくッス」
 そう言うのへ、
「えと、小神野 陽花……」
 陽花はそう告げる。男性と話すのは初めてだった。だが緊張はあれど、普通に話すことができたのは、葵の持つ空気が、穏やかだったからかもしれない。
「アンタも休憩? 楽しく騒ぐのもいいっスけど、こうやって静かに過ごすのもやっぱいいもんだな
心が落ち着くっつーか、なんと言うか」
「う、うん。そうだね」
 緊張交じりで会話を続ける。どきどきして、陽花は頬が少し熱くなるのを自覚していた。
「そういえば、メイドに見えた? ホントの所、アンタの目には、オレはどう見える?」
 じっと、此方を見つめる葵。陽花はあうあうと口を開きつつ、何とか言葉を紡いだ。
「え、えと、かっこいい、と、思う」
「そっか? ありがと」
 葵はにっこりと笑うと、懐からお菓子を一袋、取り出した。
「メイドからのささやかな贈り物。トリックオアトリートはなしで、受け取っときな」
 こくこくと頷きながら、陽花はお菓子を受け取った。ありがとう、と礼を言うと、葵は笑って立ち上がる。
「じゃ、またどこかで会えると良いな」
 そう言って去っていく葵の背中を、陽花はドキドキしながら見送っていた。

「あはは、子供たちのお祭りだと思ってたけど、ボクもはしゃぎすぎて疲れちゃうなんて」
 苦笑交じりに藤野 蛍は言う。
「今日は、誰もが誰でもないそうですし、大人も子供もありませんとも。桜咲は、そう思いますよ」
 桜咲 珠緒は静かに微笑んで、ベンチに腰掛けた。蛍も合わせて、腰掛ける。
 眼前には、幻想的な風景が広がっていた。南瓜のランタン。輝く月。はかない幻にも似た風景。
「……こんな幻想的な中にいると、なんか今在ることが全部、夢なんじゃないかなって」
 蛍は、珠緒の頬へと、手を重ねた。
 仄かな温かさが、かろうじてこれは現実だと伝えてくれる。
「こうして触れている珠緒さんとの日々が、明日には幻になっちゃわないかなって……」
「同じ場にいる桜咲は、蛍さんの不安を綺麗に消して差し上げることはできません」
 桜咲は優しく、蛍の手へと、手を重ねた。
 重なり合う二つの温かさは、決して幻などではないのだと、心に訴えかけている。
「夢でも、幻でも、この温もりは、ここにあります。忘れることは、ありません」
 『我思う、故に我在り』という言葉もある、と桜咲は言った。二人ならば、我ら思う、ゆえに我ら在り、だ。想いは倍。ならば、虚構であるはずがない。
 蛍は笑った。桜咲の言葉が、なんだかたまらなく嬉しかった。
「きっと、目の前のこの幸せをめいっぱい楽しんで、楽しい思い出をたくさん作って――その幸せな思い出で、辛いことを押し流しちゃえばいいのよね!」
「ええ、多くの幸いを積み上げて、多くの苦難を乗り越えましょう。偽物だとしても、本物にも負けませんとも」
 二人は手を重ねて、顔を近づけて笑い合った。
 離れても肌に残る二人のぬくもりは、決して嘘ではなかった。

「さて、何でこうなっちまったかな」
 エイヴァン=フルブス=グラキオールは、頭に手をやりながら苦笑した。
 エイヴァンの足元にはたくさんの子供たちが集まっていて、眼前の扉が開かれるのを今か今かと待ちわびている。
 休息に訪れたエイヴァンであったが、そういう時に限って、子供たちに囲まれてしまった。あげられるお菓子は、既にほかの子供たちに上げてしまっていて、他に手立てがない。
「しょうがねぇ、がきんちょども、船の探検と行くか」
 管理者に頼んで、可能な範囲での船の探検を許可してもらった。となれば、子供たちが子供たちを呼び、いまやちょっとした大所帯の探検隊となったわけだ。
「さて、足元には気をつけろよ。探検ツアーの始まりだ」
 そう言って、エイヴァンは扉を開けた――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の思い出となれば幸いです。

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