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シナリオ詳細

【Autumn color】こととい書庫

完了

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あきのいろ
 深まる季節に擽られるように風はヒュウと音を立てた。揺れる木々は訪れた涼月に挨拶をする様に頭を垂れる。
 静けさに緑のほの灯りを揺らすランタンを手にしながら草木書き分け進めば、其処には古びた一件の屋敷があった。
 灯火揺れた其処には草臥れた木々に子供の落書きの如く文字を躍らせる。

 ――こととい書庫。

 秋の夜長にひっそりと、この季節だけ開くというその場所に踏み入れれば温かな空気がその身を包んだ。
 まるで宵待草が如く、夜にだけ開くその場所に鮮やかな光を差し入れて。


 緑のランタンを手にしながら『聖女の殻』エルピス(p3n000080)はもしもしと呟いた。そらいろが瞬き、彼女の白いスカートが地面に広がっている。
「こととい書庫、というらしいのです。
 みどりのいろを身に着けて扉に3つあいことばをくちにするのだとか」
「『もしもし』『月が綺麗ですね』『お邪魔してもよろしいですか』」
 指折り数えて3つ。『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)の言葉にエルピスは満足げに頷いた。
 深緑はその緑深き場所に『こととい書庫』と名のついた古い屋敷があるそうだ。
 秋のある夜にだけひっそりと開くその場所に遊びに行こうではないかとエルピスは笑みを溢した。
「おかしや、おちゃをいただけるのだそうです」
「そう。図書館って感じなんだけど、一応カフェも併設されてて。
 合言葉を口にしてのんびりと過ごす事が出来るってだけの――まあ、日常の空間なんだけど」
 広い屋敷の中は自由に使っていいのだという。個室も用意されており、その晩を明かすことだってできる。
 一人きりで過ごす事も出来る為、日常から少し離れたリフレッシュにもなるだろうと雪風は頷いた。
「緑の色、なのですね」
「これ。葉と滴をイメージしたランタンなんだけど、これを手にしてあいことばを口にすれば入れるよ。
 どなたさまでも、って感じたから、深緑の街でも普通にこの晩だけ配られてるものだし」
 お茶をしたり、お昼寝をしたり、自由に過ごすことができるのもいいだろうと雪風は告げる。
 秋の夜長をひっそりと――喧騒から離れて過ごすのもいいではないだろうか?

GMコメント

 日下部あやめと申します。秋にどうぞ、いらっしゃいませ。

●こととい書房
 深緑の奥深く穏やかな秋色のその場所にひっそりと存在する図書館です。
 夜だけこっそりと開くその場所には沢山の『ことば』が存在しているそうです。

●おねがい
 当シナリオではこととい書庫へのお客様の証として【緑色】を身に着けてくださいませ。
 葉っぱのランタン(※緑の光)だけでも構いません。

●行動
以下をプレイング冒頭にご記入くださいませ。
※行動は文字数短縮の為に数字でOKです。是非ご活用くださいね。
行動:【1】【2】

【1】こととい書庫の探索
 入館のご挨拶は緑のランタンを手に『もしもし』『月が綺麗ですね』『お邪魔してもよろしいですか』とお願いします。
 こととい書庫は大きな洋館です。古びていますが壁一面に様々な本が飾られています。個室やピアノ、ベッドルームにサロンなどが存在しています。

【2】サロン『宵待草』
 サロンでは食事を読書をしながら楽しむ事が出来ます。宵待草をイメージした花砂糖をカップに飾ったカフェオレやホットサンドがおすすめです。
 ソファはふかふかとしてつい転寝をしてしまうかも。ブランケットなども完備されています。

【3】洋館の個室でのんびり
 本や食事を持ち込んで個室でのんびりすることができます。こちらはプレイングの3行目に【合言葉】を記載してください。
 例:【みどりばな】
 合言葉が記載されている方同士だけの秘密のお部屋です。ベッドやソファなどが備え付けられていますのでのんびりと過ごしていただくことができます。

【4】その他
 何かございましたならば……。

●NPC
 山田・雪風とエルピスが参ります。お声かけがなければ出番はありません。
 その他、ローレット所属のNPCさんは無茶なお願いがない限りは『もしかすると』お顔出ししてくれるかもしれません。
 何かございましたらお気軽にお声掛けください。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • 【Autumn color】こととい書庫完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年10月29日 23時05分
  • 参加人数31/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(31人)

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
レンジー(p3p000130)
帽子の中に夢が詰まってる
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
銀城 黒羽(p3p000505)
羽瀬川 瑠璃(p3p000833)
勿忘草に想いを託して
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
古木・文(p3p001262)
文具屋
七鳥・天十里(p3p001668)
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
シエル・フォン・ルニエ(p3p007603)
特異運命座標

リプレイ


 淡い色が辺りを包む。深き緑の名を冠したその場所に、若葉の色彩を茫と照らして訪れるが『こととい書庫』――丸い月がまるで春の陽光が如く耀るその場所にひっそりと建って居るその場所は秋の一夜にだけ来客を招くのだそうだ。

「やあ、こんばんは!」
 挨拶を一つして、ランタンをゆらりと揺らせばランジーは常より新緑に身を包んでいるのだと合言葉を口にする。

 ――『もしもし』『月が綺麗ですね』『お邪魔してもよろしいですか』――

 まるで、愛を紡ぐが如きその言葉が唇からするりと毀れれば開いた扉の向こう側は古い書架より感じるインクと埃の交じり合うかおりが鼻先を擽った。
「さて、せっかく来たのだから、珍しいものが読みたいねえ」
 招き入れた小さな幻想種におすすめは、と問い掛ければ穏やかな笑みで『とっておき』の書架へとレンジーを誘った。物語を紡いだそれを追い掛けて、ラウンジに静かに流れたジャズソングを耳朶に流して頁を捲る。嗚呼、また誰かが扉をノックする音がした。
 若草の色を裏地にあしらったローブに身を包んでドラマはランタンを手に合言葉を口にした。
 月が綺麗、と誰ぞに言う事はなく――きっと、それは恋物語の登場人物が口にすれば蠱惑的な響きだったのだろうか。目を伏せって、どこかの世界、そうした『言ノ葉』があるのだと本で読んだと脳裏に過る。
 未知に溢れるその場所に一歩踏み込むだけで心が躍る。未読の魔導書をカートに積み上げ、ストックの様に未だ見ぬ物語の世界へとその身を深く、深く沈める様に。
「べ、別に恋物語だとか、そう言ったモノは……探していないですよ?」
 ――いつか、王子様がその手を取るように。乙女はちょっぴり好奇と共に『未読』の物語を手に取った。
 あゝ、こんな夜に頁を捲る指先が止まる訳がないのだ。
「今夜は長い夜になりそうですね」
 まるでそこは童話の世界。シャルレィスは本の世界でくるりと周囲を見回した。冒険譚に憧れて、幾度も読んだ冒険物語。さて、今宵はどんな物語に浸ろうかと書架を歩む足取りも軽い。
「読むならやっぱり冒険物かなぁ…でも折角だしたまには? あ、そうだ!
 こんばんは、エルピスさん、雪風さん。二人も、読書?」
 その言葉に自身の好ましい本を勧めようとして百面相の雪風はシンプルなミステリーを手渡した。
 エルピスはまだ分からないから共に探しているのだとランタンを揺らして小さく笑う。
「ありがとう! 犯人分かるかな? あとで感想を言いに来るね!」
 書庫という位なのだからきっと素敵な本があるのよね、と書架を踊るように歩むヴァイスは楽し気にステップ踏んだ。
 珍しい植物図鑑に心躍る冒険譚。人がおりだす物語は空想だからこそ素敵なのだと、夢見るように緑色の帽子を手にして扉を楽し気にノックした。
『もしもし』――お返事はあるかしら?
『月がきれいですね』――それは逢引の誘いかしら?
『お邪魔してもよろしいですか』
 ノックの回数。駆け引きの様な言葉と共に入り込んだ埃っぽい書庫にヴァイスが小さく笑う。
 森深いその場所で合言葉を耳にして文はそうかと茫と思う。愛しい人と会うが為、お邪魔してもよいですかと言葉で問うて。言問う響きを耳にしてランタンの翠をゆらりと揺らす。
 シエルはゆらりゆらりと揺れる緑を追い掛けて、どんな本があるだろうと書架の中を巡りゆく。分類された書架の中、恋物語や冒険譚、図鑑だってと指折り数えて室内では静かにしなくては吐息を潜めた。
 大き目のソファやベッドのある部屋を探して眠りにつくまで本を楽しもう。物語の中にいざ割れるように夢を見るのだと足取りは只、軽く。
 沢山の本を見ればメリーは嫌な事を思いだしたと唇を尖らせた。
 何時か、本屋で立ち読みをしようとふらりと手に取ったティーン向けの雑誌。子供だからまだ早いと叱りつけられたそれに苛立って本を燃やすと云い捨てたそれを酷く怒られたものだ。
(ローレットって教育熱心だもの……すっごい怖かったわ……)
 気を取り直して本を探そう。故郷の風景に似た写真や挿絵を探そうと旅人の持ち込んだ本を探せば何所か知った場所の様な気がして心が躍る。
 赤色がトレードマークであるクリスティアンは緑色の装飾品は持って居ないとランタンを手にしながら名案だと自身の美しい瞳で認めて呉れないかと扉を叩いた。
 書架の中を進み、まろやかなカフェオレに舌鼓を打つ。読書は好きなのだと持ち込んだ本の頁を擽りながらソファーに深く深く沈んでいく。
(ソファもとってもふかふかだし……気持ちがいい……ね……)


「せっかくだし一緒に包まる?」
 ――なんて。冷え込むその首筋を包んだマフラー。冗談めかしたオデットにルチアは緑の髪留め付けて、合言葉を口にした。
 月が綺麗ですね、と淡々と『合言葉』として告げられたそれは古来、愛の告白ではなかったか。
 二人、入った室内は暖炉がぱちりと音たてる。クッションにその身を埋めてオデットは本を何となく読み進めるルチアの横顔をぼんやりと眺めた。
「ふーん。千年後には麗しの帝国も滅びてるのね。というか船で山越えって、馬鹿じゃないの」
 故郷の事が描かれた書物を興味なさげにぽつり、ぽつりとつぶやいて。
「ルチアが元々いた世界の話? 千年ぐらいでなくなっちゃうのね」
 まるで瞬きする様に。時の流れをぼやりと呟いて。また、頁を捲る音がした。

 偶にはこんな日があったって良い。のんびりと過ごそうと深緑のワンピースに身を包んだ瑠璃の背をそっと後ろから包み込んで紅茶の香りに酔い痴れる。
 二人きり、その言葉は『愛してる』よりも甘美な響きで。膝の上、甘えた様に瑠璃が見上げたその瞳に黒羽は小さく笑った。
「瑠璃が望むならどんなことだって」
「……本当に、ですか?」
「ああ。折角の『二人きり』なんだから、バラバラなんて詰らないだろ?」
 包み込んだ温もりを離さぬように。望むなら愛を口にし、唇を合わせたり。声を震わせて、瑠璃は云った。愛してます、と。
 ――だから、今日はそうして二人きりを過ごしましょう。

「ふふん、ついにメルトにも左腕の義手が完成しました!
 可動の確認、不具合等ないか点検も含めシュバルツさまのためにお林檎むきむきします!」
 得意げに、メルトリリスはシュバルツへとそう言った。淡い櫻の色の髪を揺らした焔眸の聖少女にシュバルツは「義手の完成祝いパーティじゃなくて披露会だったか」と頬杖吐いた儘呟いた。
「ええ、勿論。見て居てください! ――はわあ」
 つるり、と林檎が落ちる。ナイフは滑り壁へと遊びに行ったそれに頬にかあと熱が昇った。
「緊張、してんのか?」
「き、緊張するもん! そりゃ殿方と一緒にお部屋にいたら緊張くらいしますっ!」
 ぷい、と視線を逸らした彼女が不貞腐れるように頭をクッションへと埋める。只、優し気に――それが兄が妹にするものであるかは分からない――シュバルツはメルトリリスを呼んだ。
「完成したばかりで慣れてないだけだろう。出来るようになるまで付き合ってやるさ」
「……ええい後生だっ、も、もっと撫でなさいよっ」
 頑張りますから、とそっぽを向いた彼女に何だかおかしくなってつい、声を漏らして笑った。

 緑のスカーフを身に着けたエストレーリャへとソアは髪を結ったのだと緑のリボンを飾った後ろ髪を見てと何度も繰り返す。
「髪を結ったソアも、リボンが似合ってて可愛いよ!」
「ほんと?」
 一生懸命頑張ったから。そう口にした彼女に頷いて、エストレーリャに本を読んでもらうのだと隣に腰かけた。
「それはお姫様のお話? ねね、早く聞かせて!」
 毒林檎を手にした白雪姫のお噺。エストレーリャの声音が心地よくソアに響く。哀し気な場面は涙をぼろぼろと流し、耳と尾はペタリと落ちる。恐怖を感じればそっと腕を掴んで物語に入り浸る。
 あゝ、幸せな話だった。「……楽しかったぁ」と満足な息を吐き出して、お腹が減ったとずるりと座る。
 そんな反応が可愛らしくて、お腹が空いたならアップルパイがあるとよフォークでひとかけら。あーん、とその満足な唇へと運んだ。

「凄い、海賊の本がこんなに……!」
 卵丸は瞳をきらりと輝かせた。温泉で出会い、そうして今日も会うというのは何かの縁だ。一緒に過ごすのも楽しいとフィーゼは揶揄う甲斐のある彼の隣で小さく笑う。
 魔術関係の書物を手にしたいと元の世界とは異なる魔術系統を学ぶべく、書庫の高い位置の本へと手を伸ばし――ふと、フィーゼは小さく笑った。
「何か面白いものでも、見つけたかしら?」
 悪戯めかして。かあ、と頬を赤らませた卵丸が視線を逸らす。えっと、もその、も唇から滑りだす。
 くすくすと笑って、食事を手に二人でどこかで本を読みましょうとと手招いた。その仕草だけで心臓が跳ね上がる。卵丸のその様子が、くすぐったくてフィーゼは目を細めた。


「あ。焔ちゃーん! 頭のリボンを緑にしたよ! 焔ちゃんもいっしょにどう?」
 緑の色が入館の証ならば、同じアイテムを纏うのだって楽しいだろうとルアナは焔に笑みを浮かべる。その笑みを受ければ、焔は嬉しいとリボンで髪を結い上げた。高い位置でまとめた炎色。それはルアナの髪型と同じもの。
 二人の結わえたポニーテールがゆらゆらと揺れ動く。ソファに座って手にしたマグカップは猫の尾を模した持ち手が愛らしかった。
「カフェオレも美味しいし、このお花の砂糖も素敵だよね」
「涼しくなってきたから、あったかいカフェオレが美味しいねー」
 可愛らしい絵本の頁を捲りながら焔が手にした神話に耳をを傾けた。ブランケットに二人くるまれば、次第にふわりと眠気が誘う。
 ルアナちゃん、と名を呼んでその温もりに誘われるように焔もゆっくりと目を伏せた。

 若葉の色のリボンを髪に飾って、ことのはを共に綴りエルピスとエーリカは笑み溢す。
 いいこは眠る時間よと、鳥の鳴く声を聴いても、声を潜めて眠りを遠ざける様にエーリカは「ねえ」とエルピスを呼んだ。
「しってる?にがい珈琲はね、こうして……おさとうとミルクを入れると、おいしくなるの」
 黒い液体に白が混ざってゆく。ぱちり、と一度瞬いてエルピスは「おいしく?」と首を傾いだ。
「そう、おいしくなるの。それから――それから、夢の世界を口遊むの」
 大判の絵本はお母さんの誕生日の贈り物に森に果物を摘みに出かける男の子のお噺。
 交互に読み聞かせ合う姿は子供達から見れば『へん』かもしれない。けれど、頁を捲れば心が躍り、声で物語を紡げば心の臓がとくりと跳ねた。
 ――さいごはもちろん、めでたし、めでたし
「……ふふ! ね、エルピス。ものがたりってすてきだね。
 ことのはを綴って、紡ぐことって。とっても、とってもたのしいね」
「はい。もっと、もっと、紡ぎましょう。次は何を読みましょうか」

 母として(※性別:男)、我が娘(※性別:不明)を可愛がる――とやる気十分の天十里。
 少しばかりの違和感を感じる事も無く、本を読みつつ母が居なかったというタントの言葉を聞きながら両親と過ごした幸福を思いだしては天十里は「僕はいっぱい幸せをもらえたから、タントちゃんにもあげないとね!」と微笑んだ。
「わたくし、母に御本を読んで頂くというのが夢でしたのよ!」
 膝をぽん、と叩いた天十里にタントは瞳を輝かせる。膝枕をしてもらいながら児童向けの絵本を読み聞かせて貰うのだとセレクトしたのはお姫様の冒険譚。
 ――そうして、お姫様は悪い魔女を倒したのでした!
 そんな終わりだったかと思いだしながら頭を撫でる。タントの目が細められて「お母様」とふにゃりと笑みがこぼれる。
「……そうしてお姫様は、七番目に見つけた鳥を連れて……」
 寝てないなんて、いいのだ。眠ってしまうまで言葉を重ねよう。本当の母の様に、深い愛情でその言葉は続けられるから。

 読書の秋。だからこそ、気分を変えてこうして『こととい書庫』で楽しむのは嬉しいのだとアルメリアは長編物の小説を手にしていた。本を読む事に一生懸命であるアルメリアとは対照的に、フランは今日は『重要なミッションがある』と気を張っていた。
(今日はそんなアルちゃんに、お誕生日プレゼントをあげる一大ミッションがあるの!!)
 気合十分。オススメがあるんだけど、と嬉しそうに進めてくる彼女に一段落すればプレゼントを渡すのだとフランはちらちらと何度も視線を送る。あゝ、けれど無常かな――時間は経つばかりでプレゼントの暇が無い。
 後ろ手にプレゼントを弄りながら気づけば夢の中。フラン、と呼んだアルメリアはクッションの上でプレゼントを抱き締めて眠る彼女に気付いてぱちりと瞬いた。
「むにゃ……あるちゃんおたんじょうびおめでとう……いつもあそんでくれてありがと……」
 誕生日だったのね、と小さく笑う。ありがとうはこちらこそ――そんな親友が、とても愛おしい。



「今日は、読書の秋、ですね。書物やその内なる世界、表現する言葉に想いを馳せ……
 お茶や食事により一時引き戻し、また書に触れる。大いに文化的なひとときと言えましょう」
 珠緒は随筆を指先なぞる。著者が触れる言葉は徒然なる儘記される。
 カフェオレとホットサンド。珠緒の読むエッセイを眺めて蛍は覗き込む。
「エッセイって書き手の感性がストレートに伝わってきて、新しい角度で物事を見たりできそう。読書の本来的な意義って言えるわよね」
「はい。秋は夕暮れが特に素晴らしい……など、と」
 その風景を夢見るように珠緒が目を伏せる。蛍は「秋の山を見るのもいいね」と小さく笑った。
「ボクはね、洋館が舞台の推理小説。こんな古風なお屋敷で読むと、臨場感たっぷりよ。
 そう、まるで突然悲鳴が聞こえて来て、本当に殺人事件が起こるみたいに――!」
「推理小説もよいですね。自身も謎に挑むもよし、あくまで読み手として楽しむもよしです」
 本当に殺人事件は起こるでしょうかと首を傾げた珠緒に可笑しくなって蛍がひらりと手を振った。
「……なんてね。解決パートの爽快さもいいものだし」
 そうして、頁を捲る。次は何を読もう。来年は何を読もう。その時は、どう過ごそう――?

 髪に揺れたのはお揃いの翠のリボン。ココアを手にした雪之丞は蜻蛉と共にぼんやりと時を過ごす。
「ねえ、雪ちゃんは、何を読んどるの?」
 真剣に頁を捲った彼女に悪戯心と興味本位で蜻蛉は覗き込む。雪之丞が抱えたのは熱砂の恋心をモチーフにした異種婚姻譚。世界が違っても、選ばれる題材は何時だって似ているのだと彼女は「恋物語です」と真剣な顔のまま答えた。
「……あら。お勉強しとかんとね?」
「勉強……。拙には、まだ遠いお話に思えます」
 茫とした雪之丞が胸に手を当てる。何時か、こうした恋に芽生えるのかと拙い思いを紡ぐ様に蜻蛉が紅茶を煽る其れを小さく真似た。
「蜻蛉さんは、何を読まれているのですか?」
「うち……? うちは、この世界に暮らしとる種族について書かれとる本」
 心なしか嬉しそうに――そして、何所か真剣に。楽し気な蜻蛉眺めて雪之丞は瞬いた。
 理由は秘密。教える事なきそれを呑み込んで蜻蛉は「さ、読み進めんと」と雪之丞へと促した。

「重たくない?」
 そう静かに問い掛けたシラスにアレクシアは「大丈夫?」と首を傾いだ。
 初めての膝枕。ちゃんと枕になってるのだろうかとアレクシアは頬を掻いた。
「そんなに高級な枕じゃなくてごめんね」
 葛藤していたシラスにとっては寝心地は最高だとしか答えられなかった。あゝ、けれど彼女からは耳が赤くなってるのもわかるんだろうなと視線を逸らす。自分でわかる位に顔が赤いから――シラスはゆっくりと思いだしたように言葉を交わしながら甘えるように目を伏せた。
「シラスくん」
「うん」
「あのね」
「うん……ねえ、アレクシア……いつも側に居てくれてありがとう、俺なんかの……」
 これだけは伝えなくっちゃ――大切で、言いたい言葉。
 瞬いて、アレクシアは小さく笑う。シラスと見て来た景色はどれも大切で、ありがとうは自分の言葉で。
 ……寝顔を見れば、幼く見えて。印象が違って見えて、擽ったい。頭をそっと撫でながら、暖かな気持ちになると小さく笑みがこぼれた。

 ――秒針が音たてる。ねえ微睡は、もう少し。
 こととい書庫に流れるのは静かな秋の刻。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加ありがとうございました。
 皆様の秋が素晴らしきものになりますように――

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