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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2019>A Sweet Moments

完了

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは年が明けたばかりの頃だった。
 幻想国内のとある邸には、美しい令嬢がいた。
「ねえじぃや」
 その声はまるで、透き通った硝子のように。空気を小さく震わせたそれが傍らの執事を呼んだ。
 執事は知っている。嗚呼、これはお嬢様の突拍子もない思いつきだ、と。
「去年、イレギュラーズたちにお菓子の家を見せてもらったでしょう?」
「グラオ・クローネの前でしたな」
「ええ。今年はね、グラオ・クローネに見たいの」
 おや? と執事は内心、小さく首を傾げた。彼女にしては大人しいお願い事である。あれから1年、彼女も成長したのだろうか──。
「あっちのほうに草原が広がっているでしょう? いくつも建てて、今度はイレギュラーズにも過ごしてもらったどうかと思うのよ」
「……ん?」
 執事の聞き返した声は少女の耳へ入らない。
「前と同じように立ててもいいけれど、他の材料を使ってもできるかしら? その辺りはお願いね、じぃや」
「お嬢様、一体いくつ建てるおつもりで……?」
 少なくとも1軒ではない。5軒程度だろうか。いや、何せこのお嬢様だ。
 そうねぇ、と少女は首を傾げる。その視線は窓辺へ向けられ、次いで執事へ向き直って。

「──希望した全員が入れるくらいかしら。それくらい、我が家ならできるでしょう?」

●そして、グラオ・クローネ
「……というわけで、使用人の皆さんがそれはもう頑張ったのです。甘い物は暫く見たくないって言ってました」
 ひと口クッキーを口の中へ放り込む『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が語り終わる。丁度クッキーの袋も空になった。
「そんな使用人の皆さんと! その令嬢さんの気づかいによって! 皆さんはお菓子の家へ招待されることになったのです!!」
 羨ましいのです! とユリーカが半ば力任せに新しい菓子袋を開ける。
 令嬢が使用人に命じて作らせた菓子の家は数えきれぬほど。イレギュラーズがどれだけ来ても構わないとのことだった。家の形状を保つために暖房器具は持ち込めないし、家電や水回りの設備もない。けれども中々ない機会であることは間違いないだろう。
「お家の中でのんびりしてもいいし、誰かと集まってカードゲームとか楽しそうですよね。……あっ、そういえばお家は食べちゃっていいらしいですよ! 甘い物いっぱい、絶対に幸せなのです……」
 想像したのかふにゃりと表情を緩めるユリーカ。菓子へ伸びる手もテンポが上がる。


 甘い匂いが立ちこめる家の中。──皆さんは、どう過ごしますか?

GMコメント

●できること
 お菓子の家でひと時を過ごす

●詳細
 お菓子の家でできる事なら割と許容範囲となります。
 室内でティータイムを過ごしたり、マシュマロクッションをこれでもかと掻き集めて昼寝をしたり。勿論、1人でのんびり過ごしても構いません。
 グラオ・クローネが過ぎてしまえば取り壊してしまいますので、家を食べてしまっても大丈夫です。尚、お菓子は総じて大き目です。マシュマロならクッションのように、綿あめは布団のように、など。

●ロケーション
 だだっ広い草原にぽつぽつと、バンガローのようなお菓子の家が建っています。大きさも材質も様々です。家電等はありません。
 晴れていますが、チョコレートなどが融けてしまうほどの気温にはなりません。同時に、家の中は暖房がありません。防寒しましょう。
 しっかりとした作りのため、早々壊れません。……どう考えても倒れるような形にならなければ。

●NPC
 『ざんげ』以外でステータスシートがあり、幻想国にいるNPCは登場する可能性があります。

●注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。

●ご挨拶
 愁と申します。美味しい依頼になりました。
 お砂糖なプレイングもそうでないプレイングも大歓迎です。今回無制限なので、お気軽に参加して頂ければと思います。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <グラオ・クローネ2019>A Sweet Moments完了
  • GM名
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年03月03日 22時20分
  • 参加人数34/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(34人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
知識の蒐集者
はぐるま姫(p3p000123)
リラ・ギアハート
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
讐焔宿す死神
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
鉄壁鯛焼伝説
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
ポテト=アークライト(p3p000294)
ハニーゴールドの温もり
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
Knowl-Edge
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
マム
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
星に願いを
マルク・シリング(p3p001309)
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
血華可憐
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
セレネ(p3p002267)
珠々祈り
タルト・ティラミー(p3p002298)
あま〜いお菓子をプレゼント♡
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
藤野 蛍(p3p003861)
二人でひとつ
レスト・リゾート(p3p003959)
夢色観光旅行
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
二人でひとつ
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘いかおり
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
おもちゃのお医者さん
フィーア・プレイアディ(p3p006980)
CS-AZ0410

リプレイ

●Sweet!
 菓子の家に目をキラキラとさせたルアナは傍らのグレイシアを振り返った。
「おじさま! ルアナ達のお家もお菓子の家にしよ! 頻繁に建て替えて、いつでも美味しいお家!」
「自宅をお菓子の家に、か。……その建て替え、ルアナがするのだろうか?」
 グレイシアの言葉に、彼の手を握ってぶんぶん振っていたルアナの手が止まる。
 見た目おじさまな──ルアナが本当の年齢を知っているか定かではないが──グレイシアに重労働をさせるわけにはいかない。だがルアナ1人でできるはずもない。
「こういうものは、偶に体験するから良いと思えるものだからな」
 そっかぁ、としょんぼりするのも束の間。ルアナはケーキサイズの菓子の家を作ってもらう、とグレイシアに約束してもらい、うきうきと家を食べに行った。
「おじさま、柱持ってきた!」
「言葉だけ聞くと不思議な行動だな……」
 差し出されるままに柱へ齧りつくグレイシア。悪くないと告げればルアナが満面の笑みを浮かべて「沢山持ってくる!」と駆けだしていく。その背を見ながら、グレイシアはゆっくり過ごすために珈琲を入れようと動き出した。
「おいひい!」
「おいしいか、そりゃ良かった」
 はしゃぎ過ぎるなと言おうとして、しかしウィリアムはその言葉を飲み込んだ。
(まあ、無理な話だよな)
 サンティールの齧ったビスケットのレンガからお菓子の家へ視線を移す。胴やら誇張でも何でもなく、全て菓子で作られているらしい。
 大きなマシュマロへサンティールが背中を預けると、ふわりと体が沈む。ふわぁ、なんて声がもれた。ウィリアムも室内へと足を踏み入れれば、甘い匂いに包まれて。

 ──夢のよう。

 恐らくこの家は2人が見る夢の欠片に過ぎないけれど──。
「ねえねえ、ウィル。僕、格好良く渡せなかったけど……それでも、きもちだけはいっぱいこめたつもりだよ」
 その灰色の王冠はウィリアムだけのもの。目覚めた後に彼だけが『ひとりじめ』できるもの。
 その言葉にウィリアムはああ、と頷いた。
「誰にも譲るつもりもないし、話す事もきっと無い。……独り占めさせてもらうよ」
 サンティールの表情に満面の笑みが浮かぶ。つられるようにウィリアムも端正な顔に笑みを浮かべた。
 いつもと違うのはきっと──満ちた甘い香りのせい。
「マシュマロクッション、とっても柔らかいですよ」
「本当ねぇ……わたあめの布団もふかふかだし、もう立ち上がれなくなっちゃいそうだわぁ……」
 セレネとアーリアはマシュマロを抱き枕に、綿あめの布団でのんびりと。セレネが横を向けば大人な雰囲気を纏うアーリアと、彼女の良い匂いが鼻腔を掠めて。
(大人になったら、こんな風になれるかなぁ……)
 ドキドキするけれど、憧れてしまう。
 不意に首元へ何かがかけられ、セレネは目を瞬かせた。
「うふふー、これでばっちり!」
 微笑むアーリア。その首に巻かれていたはずのマフラーはなく、セレネの首元からは彼女と同じ香りがした。
「マフラーあったかいです。……へへ、ありがとうございます」
 ふにゃり、と微笑むセレネ。視線を落としたついでにマシュマロへ小さく齧りつき、目を丸くする。
「……ほんとに甘いです!」
「それじゃあ私も!」
 頷くセレネに、アーリアも同じクッションへかぷり。口の中が甘さで満たされる。
 気が付けばセレネの顔には菓子だらけ。そんな彼女が可愛らしくてアーリアは顔を綻ばせたのだけれど、当のセレネは『菓子が美味しくて笑ったのだろう』なんて考えて。
 いずれにせよ、まだまだ甘く楽しい時間は終わりを見せない。

(異世界おそるべし……)
 驚愕の表情を浮かべる蛍。その傍らには目をグルグルとさせた珠緒が家を見上げていた。
(お礼をしようにも、この家にどうお返しすれば……)
「じゃ、思う存分堪能しましょ!」
 差し出された手に珠緒ははっとして、自らのそれを重ねる。
(そうです、何よりお楽しむ事こそが、きっと)
 そうして入った空間は甘い匂いに満たされ、お菓子の家具や床に2人の視線は目移りして。
 気が付けば珠緒の気持ちも落ち着いた──吹っ切ったともいうかもしれない。
「桜咲さん、楽しんでる? クッション集めたから一休みしましょ」
 蛍がマシュマロを集め、2人でその中へ埋もれる。珠緒の視線は蛍の持つチョコレートの本へ吸い寄せられた。
 読み聞かせてもらった結末は登場人物の2人がいつまでも幸せに暮らすもの。
「……ね、よかったら2人で食べましょ?」
 物語の幸せを分け合うように、甘い本も食べきって。
 2人でのんびり過ごせば、蛍の瞼が重くなってくる。その頭は珠緒に勧められて彼女の膝上だ。
(甘い香りに包まれて……桜咲さんがいて、楽しくて幸せで……)
 いつしか寝息を立て始めた蛍に、静かな祝詞が降り注ぐ。
(心穏やかに過ごされますように)


 甘い空間の、静かなひと時だ。
「寒くないか?」
「ああ、有難う。リゲルと一緒ならぬくぬくだな」
 お菓子の家に入る前から甘い雰囲気を醸し出す2人。手を恋人繋ぎにしたリゲルとポテトは、家に入るとマシュマロクッションへ座る。
「お菓子に囲まれるなんて、滅多にない機会だな」
 ふかふかなその感触を楽しんでいると、ふいにリゲルから名を呼ばれ。
「ほら、あーん!」
「え、あ、あーん……」
 いつの間にやら壁を小さく剥がして食べていたリゲルが、ポテトの口元へ菓子を持ってくる。頬を染めながら食べる彼女に小さく笑みを浮かべ、リゲルは部屋を見渡した。
「折角だから、スイーツビュッフェ感覚で食べてみようか」
 色々なものを、少しずつ。
 紅茶も持ってきた、と見せるリゲルにポテトはふふっと笑った。口直しにと持ってきた少量のサンドイッチもお供に「お菓子の国のお姫様」「紅茶の国の王子様」なんて呼び合ってみせて。
「帰ったらミニチュアサイズでお菓子の家を作ってみようか」
「そうだな、あの子が大喜びしそうだ。その時も王子様に美味しい紅茶をお願いしても?」
「勿論だよ、お姫様」
 3人でそれを囲む姿を想像して、2人は微笑み合った。
「見て見てマリー! お菓子の家だよ。物語の中みたい!」
「甘い匂いで満たされてる感じがするね」
 少し寒い気もするけれど、と辺りを見回すハイデマリー。ふと目に留まった本棚のチョコレートを少し割り、セララの口元へ持っていった。
「あーん……もぐもぐ。美味しい!」
 にぱっと笑うセララの顔をハイデマリーはじぃっと見る。
 菓子を食べているセララを見ると、彼女自身は甘いのだろうか……なんて変な思考に陥られる。
(甘いわけはないけど、セララは何か甘そうな感じが……ちょっとだけなら……)
「んー……? じーっと見つめてどうかした?」
「っ! ううん、別に、」
「あっ、分かった。マリーもあーんってして欲しいんだね」
 顔を真っ赤にしてぱっと離れたハイデマリーを気にした風もなく、セララはチョコレートを割って彼女の口元へ。
「はい、チョコレートをどうぞ。あーん」
「あ、あーん……」
 口に入れられたチョコは甘くて美味しい。けれど。
(ワタシは一体、何を、)
 菓子を味わいながらそっとセララを窺って、思う。
 ──彼女は変な存在であり、多分ワタシにとって大切な何か……なのかもしれない。
 一方、幻とジェイクのいる家はとても賑やかだった。
『子供? 勿論構わないわ!』
 依頼人に許可を取り、普段甘い物を──食事もままならない者もいるが──食べられない子どもたちを連れてきたのである。
 きゃいきゃいとはしゃぐ子どもたちに2人の表情が緩む。
(子どもは未来の宝だ。この子たちに少しでも、夢と希望を与えてあげたい)
 それは自らの憧れと、将来的な願望も相まっての願い。
 幻は家の外で炭を燃やしながら、お菓子の家とそこにいる子どもたちに過去見た夢を重ねる。
 一時凌ぎの自己満足かもしれない。けれど、どうせなら子どもたちにお菓子の家を堪能してもらいたかった。
「さあ、紅茶が欲しい方は順番に並んで──」
 幻がそう言うと、子どもたちは喉が渇いていたのだろう
あっという間に長蛇の列ができた。
「はい、どうぞ」
 奇術に孤蝶の夢が華やぎを添える。紅茶を受け取った子どもはそれに見とれ、他の子供とジェイクは拍手を送った。
「さあ、沢山あるから遠慮しないで食えよ」
 ジェイクの声に「はーい!」と子供たちの元気な声が響く。
 2人きりではないけれど、これもまた思い出に残るグラオ・クローネとなるだろう。幻とジェイクは視線を交錯させ、微笑み合った。


●Sweet? Sweet!!
 そう、あれは前日のことだった。
「お菓子の妖精としてはぜぇったいに見逃せないわね! 真の臓までスイーツを堪能するわよっ☆彡」
 タルトが誘ってきたのは菓子の家への招待。良かった食べられるのは僕じゃないとベークは安堵し、当然のことながら人化してやってきた。
 なのに。
「やだあああぁぁあぁぁ聞いてない!! 聞いてないです!!! お菓子の家食べに来たって聞いたんですけど!?!?」
 今、ベークはグミで作られた網の中にいた。その真ん前ではタルトが興味深げに菓子の家を眺めている。
「やっぱりどんな感じで出来てるのか、気になっちゃうのがお菓子の妖精の性よね~」
 昔なら指先1つで城まで作れたものだが、混沌ではそうはいかない。
「しんみりしてるなら離して!!!!!」
「しんみりなんてしてないわよ……こうして網にかかったたい焼きがいるんだからね!」
 グミを引きちぎって逃げようとするベーク、飴玉のような瞳を爛々と輝かせて迫るタルト。哀れなたい焼きの視線は、騒がしい2人を余所に菓子の家を謳歌している情報屋へ向けられた。
「どうしたベーク──ああ。見ての通り、我は両手が塞がっている」
 見せられたリュグナーの両手には違う種類のクッキー。頭を使う職にあるため、糖分の摂取は大変重要なのだ。ついでに──どちらがついでか不明だが──菓子の家という情報も可能な限り集めておきたい。
「なに、骨……いや、あんこは拾ってやるが故、安心するが良い」
「あんこ詰まってないです!!!! 助けて!!!!!」
 たい焼きの運命や、いかに。

 一晃は『お菓子の家』の話を聞くや否や、依頼人へ注文をつけていた。
(この野望の成就には、あえて誰も邪魔されない空間でなければならない)
 他者に気にされない──極限までただのログハウスにでも見えるような、お菓子の家。そして野望の元となる巨大なミルクレープ。
 誇張なく千枚重ねられたそれを、ただ1人で貪ることが一晃の野望であった。
 存在感のあるミルクレープを食べる、食べる。ティータイムは孤独で、しかし好物をひたすら食べる一晃はそれがいいと頭の隅でちらりと思う。
(菓子とは誰にも邪魔されず自由で救われていなければならない……!)
「このミルクレープは俺が全て喰らう! 他を当たれ!」
 聞こえてきたノックへ、咄嗟にそう叫んだ一晃。外からそれを聞いたミルキィは目を丸くした。
「わ、人がいた!」 ごめんなさい、と声をかけてミルキィは他の家へ。外装や内装の違いを見ては顔を綻ばせる。
(シュガーランドでもこれを作れるパティシエは滅多にいないって究極のスイーツ、まさかここでお目にかかれるとは思わなかったね♪)
 いずれ作るためにも、今回はしっかり楽しんで回るのだ。
 ミルキィは見て、覚えて、時に食べてみて。その姿は花を転々と回る蝶の如く。
「リラ! 見て、ドーナツ輪っかがたっぷりのお家。いちご色もオレンジ色も、たくさんついて、かわいいわ」
 まるで貴女の歯車みたい、という言葉にポシェティケトのポシェットから紫水晶の瞳が覗く。
 はぐるま姫──リラから見れば、それは最早お城の様だ。内装も大きいけれど、リラにとっては何処か懐かしい風景でもあって。
「リラ、まんまるの時計もお菓子よ!」
「こっちには蹄のクッキーがあるわ」
 互いの象徴ともモチーフとも言えるそれを探しあってくすくすと笑い合う。ポシェティケトは時計の分け合いっこを提案し、リラは喜んでと頷いた。
 この分け合う行為は菓子だけでなく、甘くて楽しい時間も共有するもの。1人より2人のほうが美味しく感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
「それから、大事な友達にひとつ、贈り物」
 そう言ってリラが差し出したのは、その名と同じ花を模った飴細工。きらりと輝くそれにポシェティケトが感嘆の息を漏らす。
 そこに込められた意味は──友情。
「あのね、これをあなたに。ワタシからの祝福、よ」
 ポシェティケトもまた、リラへとその手を出してゆっくり開く。手に乗っていたのは、宝石のような苺の飴が飾られた指輪。それはまるで王冠のように、リラの頭へ収まったのだった。
「お菓子で家作るなんてすごいじゃない!」
 瞳を輝かせたルーミニスはごろんごろんと綿あめの布団を転がり、家具のクッキーを摘まみ食い。クロバはチョコレートの使われた部位をまじまじと眺め、感嘆の息を漏らした。
「お菓子の家なら依然作ったことがあるが……グラオ・クローネだとこんな家も作られてるんだな」
「……え」
 ルーミニスがばっと振り返り、クロバが「作ったぞ」と言わんばかりに頷く。
(お菓子の家を楽しむのを、先越されたって若干悔しいわね……)
「もういっそ、次はお城作りなさいよ!」
「いや、限度があるだろ。そもそもコストどのくらいだ??」
 一体どれだけの労力と金がいるのか。いや、混沌で協力が得られればできるのか。
(城より、俺が作るなら……)
 間取りは、家具は。そんなことを考えて暫し、クロバははてと首を傾げる。
 なぜ自分は『誰かと共に生活する家』を想像しているのだろうか?
「どうしたのよ」
「いや……とりあえず食いすぎるなよ。家自体が崩れるかもしれないからな」
 頷いたルーミニスはふと小さく笑って見せた。菓子の家が存在するならば、菓子で出来た国や生きた菓子もどこかに存在しているかも、なんて思ったのだ。
「もし見つけた日には、今日みたいに一緒に行くわよ!」
「ああ、勿論だ」
 まだ見ぬ世界に期待して、2人は小さく頷き合った。
 フィーアの知るお菓子の家は童話に登場する。決して衛生的に良いとは言えない、この世界ならではの食べられる建物。虫歯製造機と言っても差し支えないかもしれない。
(……でも、食べたいと言う欲求が湧きあがってきます)
 頭でどう考えていようと、結局『食べたい』へ帰結するのだ。
 家の中に入ったフィーアは壁に近づいてみる。触れた感覚はビスケットか、ウエハースのような。
(レーションのクッキーの様な感じでしょうか)
 けれどあれよりは断然美味しいに違いない。食事の代用品ではないのだから。
「すごい……本物のお菓子の家だ……!」
 イーハトーヴ、初めての菓子である。思わず頬をつねると──痛い。夢じゃない。
 クッキーを恐る恐る口に入れるとさくっとした感触と、優しい甘さ。マシュマロは蕩けるように甘く、触るとふわふわで弾力がある。
(こんな美味しい物が沢山あるのか……!)
 ぬいぐるみの衣装デザインも浮かんできて、そうなるとウズウズしてしまうのは職人の性かもしれない。
「帰ったら早速、甘やかで愛らしいドレスを縫い始めよう!」
 少しでも持ち帰るアイディアを多く、とその手は違う菓子へ伸ばされる。
「どうやって用意したんだろう……」
「……この無駄な技術と努力に敬礼をしたいわ」
 それを見上げる視線には感嘆と呆れの色が宿っているように見えた。
 作らされる側は堪ったものではないだろう。しかも、グラオ・クローネが終わったら取り壊してしまうのである。
「とりあえず、お茶淹れるね」
 マルクが持参していたお湯とティーセットで2人分の茶を淹れ始める。甘い菓子が多いため、少々苦めに。
 その間にアンナは部屋のあちこちを眺めてみた。
(……お菓子の家の作法がよくわからないけれど、そもそも存在するのか怪しいわね)
 2人分の菓子を少しずつ削って皿へ盛り付け、テーブルの元へ戻る。アンナはマルクの持つものに目を瞬かせた。
「20歳になったからね。こう言う事もできるようになったんだ」
「その姿だけで、不思議と大人という印象が強くなるわね」
 ブランデーをほんの少し垂らしたマルク。2人は椅子に座って菓子を摘まみ──ふと去年のことを思いだした。
 去年は綿あめから夜の街を眺め。今年はお菓子の家。
「今年もアンナさんと一緒に居られて、嬉しいよ」
「あっという間に1年が過ぎてしまったわね。来年は何へ一緒に乗るのかしら」
 今年を楽しみながらも、2人の言葉は未来を語る。
「何処かのお伽噺で聞いた事はあったが、実物はすげぇなァ」
 中へ踏み込むと、甘い香りがレイチェルたち3人を包み込む。
「おばさんは、レイチェルちゃんの為にお菓子の棺桶を作ってみるわ~」
 いつも廃墟の子たちを遊びに連れて行ってくれるお礼に、と言うレスト。
「なら、俺はレスト用のベッドを作るか」
「ふむ……私は机や椅子を担当しよう」
 こうして各々が作る物を決め、完成まで一旦解散。
(確か、レストの好みはストロベリーのチョコだったな)
 レイチェルは元からあるベッドを参考に、乙女ちっくな天蓋付きベッドの設計図を書きだして材料を集めていく。
(ある程度の強度は必要だろうな?)
 シグは飴を火で溶かし、持参した工具でガラス細工のように成型していく。滑らかに、されど強度は失わないように。
「ほらほら見て~、じゃ~ん!」
「ふむ。レストは器用なのだな?」
 きっちりと組み立てられた棺桶にシグが感嘆の声を洩らした。それはレイチェルもまた同じで、試しに入ってみる。
 甘すぎないビターチョコで作られたそれは棺桶の中も大した甘ったるさでなく、中に敷き詰められたマシュマロのおかげで体が痛くない。今のレイチェルからは見えないが、外側には可愛らしいビスケットが装飾として飾られている。
「まあ、レイチェルちゃんもシグちゃんもとっても上手に出来てるわね~」
 よくできましたぁ、と褒めるレストの顔は綻んで。
(んふふ~、しばらくはお菓子に苦労しなさそうだわ)
 だがしかし、目と閉じていたレイチェルがはっと瞠目した。
「……俺、大事な事を忘れてた気がする」
 棺桶に入り、寝るまでは問題ない。
 しかし。この棺桶はチョコレートである。
「チョコが溶けたら大惨事じゃねぇかこれ!! チョコまみれの吸血鬼になっちまう!!」
「お前さんは体温が低い故、その問題はないと思うが……」
 首を傾げたシグは、しかし、悪戯っぽく微笑んでみせた。
「……ただ、その状態も。或いは面白いかも知れんな?」
 ──色々な動物が舐めに寄ってくるかもしれない、なんて。
 レジーナとお忍びでやって来たリーゼロッテは1対1で向かい合っていた。
「お嬢様は恋愛というものをするならば、どういうものがいいでしょう」
「あら、……ふふ、唐突ですわね?」
「ぐ、グラオ・クローネですから。こういう話題もあり、かな、と」
 どこか緊張した声で紡がれたそれにリーゼロッテは少し考える素振りをして、「貴女はどうなのかしら?」と問うてみせた。
 その問いに対する答えは──奪い合う恋。
 願う事も、捧げる事も難しくはない。故に奪い、奪われたい。
 情熱的ですわね、なんてリーゼロッテは小さく微笑んで見せた。
 あっ、と声を上げた九鬼にシャルレィスが振り返る。
「九鬼さんどうかした?」
「な、何でもないです……」
 そっと手元のもげたドアノブを隠す。大丈夫、後で食べれば問題ない──裏を返せば食べなければ出られない、になってしまったわけだが。
 幸いにして深く追及される事は無く、シャルレィスはキャンディでできた花や花瓶など、家中をぐるぐると見て回って。
「まあ、まあ……! すっごいですわーー!」
 煌めくお嬢様、タントは鮮やかなアクロバットを決めながらパンケーキのベッドにダイブ!
 ふわふわの上で転がれば甘い香りが自分に付くようで。
 それを見た九鬼はタントの真似をしてアクロバットにダイブ──しようとしてつんのめり、ぼふんとマシュマロベッドに顔から突っ込んだ。
「そろそろお茶会しようー! あれ、タント様寝ちゃってる?」
「はっ──起きてますわよ!」
 うっかり夢の世界へ行きかけていたタント、がばりと身を起こして周りを見渡した。
「何を持っていくか、早い者勝ちだからね!」
「折角だし、色んな種類を……」
 2人のそんな会話も右から左。タントはくっと俯くと、次の瞬間勢いよくダッシュした。
「お行儀は悪いですが我慢できませんわーっ!」
「ああー! タント様ずるい!」
 チョコレートの扉に齧り付いたタントにシャルレィスが声を上げる。お茶会が終わるまでは我慢をしようとしていたのに、まさか先を越されるなんて。
「私たちもお茶会の前にちょっとやっちゃおっか、九鬼さん!」
「ふふ、そうですね……!」
 シャルレィスはチョコウエハースの暖炉に齧り付き、九鬼はタントと反対側から扉を食べる。どさくさに紛れてドアノブも証拠隠滅。
 他人には見せづらい姿だが、仲良し3人だけしかいないから気にならない。
 童話や物語のような世界で、お菓子を口いっぱいに頬張って。
 3人の気が済んだら、改めてお茶会が始まるのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。甘い香りに包まれた時間をお楽しみ頂けたでしょうか?
 またご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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