シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2018>飴色スターレット
オープニング
●Starlet――
小さな星が東の空に儚く輝いていた。
スノー・ホワイトの雪にかき消されてしまうほどの小さな星。
それでも懸命に輝いて地上に仄かな光を落としている。
オールド・ラズベリーに染まる空は、あとほんの少し時計の針が進むだけで、ラピスラズリを散りばめた夜空になるだろう。
いつもなら王都メフ・メフィートのラドクリフ通りにある店たちは日が暮れる前に明かりを落とす所も多いのだが。
――今夜はシャイネン・ナハト。
星降る夜のお祭りに綺羅びやかな装いでランタンが灯る。
ラドクリフ通りにある小さなカフェで『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)はホットココアを飲んでいた。ストーブの点いた暖かい店内から夜空を眺めれば、星の煌きが視界を覆う。
この星空の何処かに、はちみつ色の小さな星を見つけられるだろうか。
ゆったりと沈み込むソファに身を預ければ、とろりとまぶたが落ちてしまいそう。
ブランケットの上に置いた絵本はシャイネン・ナハトの『聖女』のお話。
優しい聖女と友人の悪魔のお話。何度も読んでいる御伽噺なのに、今日はどこか違う物語のようにアルエットの心を揺さぶった。
「反転するって怖くないのかな?」
世界を救うために強い力を求めた聖女に想いを馳せ。そして、自身の記憶と重ね合わせる。
デモニアは。確かにとても強力だったけれど。対峙した彼らの思考は誰もが歪に撓んでいたから。
強大な力を持っているはずなのに。何処か満たされない心を抱えている者ばかりだった。
アルエットは絵本のページを繰りながら、思考の波に飲まれていく。
パチリ――
ストーブの薪が爆ぜる音が聞こえた。
クローム・オレンジの色合いが頬に暖かさをとどけていた。程よい温度に身体が沈んでいたようだ。
「少しぼーっとしてたかも……」
火照る顔を少し冷やそうと、窓枠に近づけば、街の明かりが瞳に写りこんだ。
煌めくカスティール・ゴールドの明かりにサロメ・ピンクとアイル・トーン・ブルーが散りばめられた魔法のツリーはアルエットの目を奪う。
「わぁ。すごいの」
外はすっかり夜の幄が降りている。
でも、今日はシャイネン・ナハト。少しぐらい遅くなっても誰も怒ったりしない。
もう少しだけ、この暖かなソファに身を委ねても悪くないだろう。
- <Scheinen Nacht2018>飴色スターレット完了
- GM名もみじ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月05日 21時00分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
オールド・ラズベリーに染まる空はもうすぐ夜がやって来るしるし。
一番星を見つけてはしゃぐ子供の声があたりに響き渡る。
夕暮れ時のルミネル広場にポーとルークが寄り添い合っていた。
「これからライトアップの時間かな?」
夜が濃くなるにつれて魔法の輝きが増していく。
その光景にポーはそわそわして。ルークの腕に抱きついた。
「えへへ、あったかい♪」
ツリーを見上げてポーは云う。
「ね、ルーク。この場所を空から見たら、もっと綺麗だと思わない?」
ふわりと広がる白雪の翼。
「空から見下ろすの?面白いね。それに素敵な発想だね!」
彼の手を取って。ゆっくりと上昇していくふたり。
地上の明かりがどんどん遠くなって星に包まれる。
「凄いね、空から見るとこんなに綺麗なんだ……!」
「地上も星空も、宝石が散りばめられているみたいだよ」
ラピスラズリの空と魔法の明かり。宝石箱の様に煌めいていた。
去年の今頃は別々の道を歩んでいたというのに。
今は二人で一緒に居る――
幸せに微笑んだ彼女へキスを落として。
この先ずっと一緒に。沢山の思い出を紡いで行こうと誓い合う。
「わぁ……にぎわってますね……!」
九鬼は大勢の人が歩くラドクリフ通りを見渡して声をあげた。
(気をつけないと……!)
首にかけてあるお財布をぎゅっと握った九鬼は、隣のミルキィを見つめた。
「シャイネン・ナハトの時期だからどこも賑わっているね!」
笑顔で九鬼を見つめ返すミルキィ。
二人は雑貨屋の前を覗き込んで目を輝かせる。
「わぁ……!」
キラキラと目に映るもの全て素敵な宝物に思える空間。
「折角だし何かプレゼントを贈らせて貰おうかな……!」
九鬼は傍らの人魂を見遣るが、こういった華美なものは向かないだろうと視線を逸し。
「やっぱりプレゼントは自分で選ばないと」
黄色の柄が入った可愛い皿を手に取る九鬼。ミルキィはティーセットを手に取り笑顔を綻ばせた。
「えへへ、お揃いのティーセットってなんかいいよね!」
とっておきの紅茶とお菓子で飾るお茶会はどんなに楽しいだろうか。
ミルクレープはきっと絶品に違いない。
「……後はスープとパンと」
琥珀色の瞳がリゲルを見上げる。暖かい格好で防寒は万全だけど、少し耳が寒そうだ。
「……あ、今年のメインはローストビーフにしようかと思っているけど、リゲルは他に食べたいのあるか?」
「ラインナップが十分すぎていうことなしだよ。流石はポテトだな!」
片方の手に荷物を持って。もう片方はお互いの手を握っている。
シャイネン・ナハトは特別な夜だけど。こうして相談をしながら歩く町並み。他愛ない会話がくすぐったくも愛おしく幸せに満ちていた。
買い物を終わらせて、少しだけ寄り道。ルミネル広場のツリーはとても大きく、綺羅びやかな魔法でドレスアップされている。
「わぁ……」
ポテトの瞳に魔法の光が写り込んだ。その表情を見ているだけでリゲルは嬉しくなってしまう。
「リゲルと一緒に見れて良かった……有難う」
「俺もポテトと一緒に見ることが出来て嬉しいよ」
星の青年は愛しき精霊の指を優しく握る。
これからも沢山の思い出を重ねて。共に歩いて行こう――
アマリリスは目の前の品物をじっと見つめていた。
手の置物、占いの水晶玉に頑丈な鉄板。
「迷います。コーデリアさま、この三択どれがよろしいですか?」
くるりと振り返った彼女の純粋な眼差しにコーデリアは頭を抱える。
「あのですね、アマリリスさん。今日は聖夜ですよ? 混沌でも貴重な争いの絶える夜なのですよ?」
「はい」
「その贈り物が術具や鈍器や防弾板で相応しいと思いますか?」
「ええと……」
赤い視線が地面に落ちる。
「贈り物を決めるには、何時、誰に、どういう想いを込めて送るのかが大事です」
コーデリアの言葉に頬を染めて成る程と頷くアマリリス。
「……今日はお誕生日でしたよね。ジャンヌさんの」
ロケットを取り出したコーデリアは彼女の手にプレゼントを置いた。
「はわ、良いのですか! このアマリリス、いえ、ジャンヌにそのようなものを!」
大事にしますとロケットと共に胸に手を当てるアマリリス。
願わくば――戦いの乙女たる彼女だからこそ。日々のささやかな幸せを思い出せるものを入れてほしいとコーデリアは思うのだ。
飴色の石畳が伸びるジルバプラッツ通りに弥恵は足を伸ばす。
「今年の冬はほんとに寒いですからね」
動きやすい服も大事だが、舞姫たる華やかさは忘れてはならない。
弥恵にとってお洒落は大事な事柄の一つなのだ。
今年の流行りはどうだろうかと店員に聞いて。袖を通すは白いブラウス。
黒基調のロングスカートはアシンメトリーに布を合わせ、一部に銀のストライプが程よく引かれる。
黒曜石の髪を下ろし、しなやかに歩く様は百合の花を思わせる。
ヴェッラは吸い込まれるようにプリマヴェーラ通りに向かう。
「おや」
店の前で心惹かれるそれを手に取り柘榴石の瞳を細めた。
橙の灯火に透かせばゆらりと煌めく反射光。
「これは良きものじゃ……」
胡散臭い店が並ぶガラクタの中から彼女が見つけ出したのは美しい江戸切子――
瞳と同じ紅い色。
次はお土産選び。実用性より思い出になるものを。
紙風船か砂時計か。渡した時の反応を想像するだけで笑みが溢れるというものだ。
メイメイはぬくぬくの暖かいコートに身を包みシャイネン・ナハトのお菓子を探していた。
ランプに照らされたお菓子達にメイメイは心を奪われる。
(どれも、かわいい……ですね……そして、美味しそう……)
腕の中に溢れるお菓子。チョコにクッキー、マシュマロ、キャンディ。
お世話になっている人たちへの贈り物――喜ぶ顔が浮かぶよう。
嬉しそうなメイメイを視界に捉えたアーリアは優しく微笑んだ。
誰かが喜んでいるとわくわくしてくる。それは幸せの伝播。
「でも……」
今は誰かを誘うわけにはいかない。だって、大切な人へのプレゼント探しだから。
マフラーか帽子か手袋か。
アーリアは通りを往復しながら一つの店に入る。
寒がりでお洒落な彼にぴったりのミトンの手袋。可愛いぼんぼりの付いた柔らかい毛糸。
「……うん、これに決めたわぁ!」
身につけた姿を想像すれば自然と笑顔になってしまうのだ。
「”輝かんばかりのこの夜に”か」
クロバは星降る夜空を見上げて白い息を吐く。
戦場が日常。平和が非日常の彼にとって、こうしてゆっくりと歩く時間は何処か落ち着かない。
「こうして仲間と歩いたり、パーティで祝ったりするには平和な方がいいのよ!」
彼の思いを察して明るい声を上げるルーミニス。
「夜空も綺麗で、空気も澄んだ感じがするし! それに……」
少しは笑うようになった相棒はこんな日でなければ捕まえる事ができない。
刃を血で濡らしているその手を止める事が出来る。それはきっとお互いが少し成長した証。
笑いながらクロバの背をバンバンと叩くルーミニス。
クロバの瞳が露店に注がれる。
「ん、気になる物でもあったの?」
立ち止まった彼が手に取った満月と新月、白銀と黒の二つのペンダントを少女は見つめる。
そのまま白銀のペンダントを少女の手に落とす青年。
「ほら、メリー……いや、輝かんばかりのこの夜に」
「フフ……素直に嬉しいわ。ずっと大事にさせてもらうわね」
穏やかな彼女の笑顔は。まるで白銀の満月の様に輝いて――
●
大怪我を負ったアルエットを心配してルル家は少女が居るカフェへと入る。
声を掛けて良いか迷い。頭を振ってエメラルドの瞳を前へ向けた。
「アルエット殿! お加減は如何ですか!」
ずばっと。対面の椅子に腰掛けたルル家。
「わわ。ルル家さん。アルエットは大丈夫よ。それよりルル家さんの傷は大丈夫かしら?」
小首を傾げたアルエットにルル家は大げさに胸を張る。
「えぇ、拙者は大丈夫です! 無敵です! それに拙者は慣れてますから!」
過酷な経験をした幼いアルエットが落ち込まないように。ルル家は明るい笑顔を少女にもたらす。同じ戦場を共にした仲間の笑顔は何よりの特効薬だろう。
「今度なんか本がいっぱい売ってるイベント? にいってくるのでアルエット殿が喜ぶ本を手に入れてみせます! お仕事優先ではありますが! 必ず!」
食い気味に指切りを取り付けるルル家にアルエットは嬉しそうに笑顔で頷いた。
その二人の様子を遠くの席で見守っているのはレイチェルだ。
アルエットを危険な目に合わせたという負い目から。少女の前に出ていくのは気が引けるのだと言うレイチェルにシグは文句を言うこと無く付き合っている。
そんなシグの優しさにレイチェルは安らぎを覚えていた。彼が居なければ負い目から自分を責め立てていたかもしれない。
ルル家と共に笑顔を見せるアルエットに安堵の吐息を漏らしたレイチェルは恋人に向き直った。
「って、レモネードになってる」
「ちょっとした悪戯だ」
元気付ける為の可愛い悪戯に口の端を上げる。
「なぁ……シグ。俺、もっと強くなりてぇンだ。どうやったらもっと強くなれる?」
「私は強いと、お前さんは思うか?」
強き者の心の内側。
「んー、その解が浮かぶ時点で。シグは俺より『強い』と思うぞ」
「……私は弱い」
常に己を見つめ。冷静にあれと課すのは弱さを知っているから。
「故に『勝てる法』を考えるのだ。……お前さんや、仲間たちと共に……な?」
これからも共に在るために――
「ここでゆっくり一休みしましょ」
キラキラと輝く街は眩しくて。蛍と珠緒はカフェに入る。
ココアとミルクティの香りが二人の鼻孔を擽る。
「誘った時に約束した交換用のプレゼント、上手く買えた?」
蛍の問いに微笑んだ珠緒は少し思考の渦へ想いを馳せる。
かつての自分はお互いにプレゼントを選び、贈り合うこと。そんなこと思いつきもしなかった。
否、そんな事を考えている余地すら無かったのだ。
けれど、この世界に来て沢山の人と――蛍と出会い。思い出を重ねて来た。
「喜んでいただけるといいのですが」
そう心から思える相手が目の前に居る幸福。
「桜咲さんに喜んでほしくて一生懸命選んだから、楽しみにしててね!」
屈託なく笑う蛍に心が和む。思い出話は進んでいく。
「これ、あの本屋で買った『治癒魔法と医療・序論』魔法なんて非常識で便利なものがあるんだもの
不可能を可能にする道も……」
「論じられるとおり、理屈はあり、万能ではないのです」
練達製のお手伝いロボットを可愛いと撫でる蛍に珠緒は穏やかに微笑んだ。
アレクシアとアリスは二人で仲良くカフェに入っていく。
「えへへー」
「ふふ、いつも色々遊んでいるけど、偶にはゆっくりするのもいいよね」
アリスが笑えばアレクシアも笑顔を返す。
「あ、店員さんっ! チョコレートケーキとホットココアを一つお願いしますっ! 後、軽く摘まめるのと、アレクシアさんは何にする?」
「えーっと、私は温かいアップルティーと……この蜜柑風味のチーズケーキを!」
レースのカーテンで仕切られたカフェのテーブルは、人目を気にせず寛げる空間だ。
運ばれてきたチョコケーキとココアの香りに蜂蜜とアップルの甘さが漂う。
二人だけの素敵なひととき。
「えへへ、クリスマス……じゃなかった! シャイネンナハトって言ったらやっぱりケーキだよね? いっただっきまーすっ!」
アリスが可愛いフォークでチョコケーキを掬った。
その様子をアレクシアは目を細めて見つめる。幸せそうでこっちまで嬉しくなってしまうから。
ケーキの交換をして。お互い同じ味を共に食べる。
それは、幸せを分かち合う素敵な時間――
リースリットとラビはカフェで温かいミルクティを飲んでいた。
「ラビさんがローレットに来てから、もうすぐ一年かな。シャイネン・ナハトは初めてですよね」
こくりと頷いた幼女。彼女を保護する事になった依頼から一年。
「まあ、私も王都でシャイネン・ナハトを迎えるのは初めてなのですけど。……ラビさんは、こういう祭事は経験ありますか?」
ラビは旅人だ。元の世界でも祭事は有ったのかとリースリットは問うて。
「殆ど眠っていた、です」
情報。特に色彩を食らって。揺蕩う世界意思として存在していた。下位世界の色を全て奪った事もある。そして、その世界の次代の英雄によって滅ぼされた。
「気づいたら、此処にいました」
この世界は濃密な情報で満ちていて。降り立った瞬間から好きになった。
「それにしても……良かった、馴染めているようで」
「ありがと、です」
リースリットの指にぽんと手を添えて。無表情がほんのり笑顔に綻んだ。
「よっ、久しぶり」
掛けられた声に顔を上げれば勇司の姿があった。
先の戦いでアルエットに辛い経験をさせてしまったから。声の掛けづらさはあった。けれど、勇司は此処に来た。
「あ、勇司さん。ここ、どうぞなの」
ぽふぽふと二人掛けのソファの片側を譲る少女。
深めのソファに身体を沈め、勇司はケーキとミルクティを二人分注文する。
遠慮がちに見つめるアルエットに同席させてもらったお礼だと言って。
「それで……あー、怪我はもう良いのか?」
「えっと」
一瞬戸惑う表情を見せた少女。
「悪ィ。ホントはもう少し気の利いた聞き方だとかあるかもしれねーが、どうにもな」
「ううん。大丈夫よ。ちょっと違和感があるけど大丈夫なの。だからね、心配しないで」
笑顔でふわふわと白い羽根を広げて見せる雲雀。危うく儚いけれどその心は折れてはいない。
――守ってやりたいって思ってるのに守れない。そんなのは二度と御免だ。
「今度は守って見せる、絶対に」
赤の憧憬は真っ直ぐにアルエットを見つめていた。
●
明かりを落としたバーは大人の時間。
クリスティアンはカウンターに座りキール・ロワイヤルを手にとった。
「こんな幸せに満ちた夜は、静かに飲むのも悪くないと思うんだ」
ルビーの色をしたカクテルを揺らし、視線を上げると奥の方にラビが座っていた。
彼女の前にシャーリーテンプルが置かれる。
「あちらのお客様からです」
クリスティアンはラビにばっちりウィンクを決めた。
十夜はウィスキーを片手に窓の外を眺めていた。
目に映る人々は仲睦まじく手を繋いで歩いていく者たちばかりで。
(最後に誰かとこの日を過ごしたのは……もう何年前だったかねぇ)
この歳まで生きてきて、良い思い出は確かにあったはずなのに。
さりとて。
あの日から。揺蕩う波間、暗い海の底から出られずにいるのだろう。
其処に向き合う事すら出来ず、只々――水面に手を伸ばしている。
琥珀酒を飲み干して。冷たい目をした己には気づかない。
何処から聞こえてくる聖夜の御伽噺に黒曜石の瞳を伏せたハロルド。
(“悪魔”に身を捧げて平和をもたらした聖女、か……)
誰よりも世界の平和を願った聖女が居た。かつて、月明かりが照らす神殿で何度も逢瀬を重ねた少女の微笑みが浮かぶ。聖剣を完成させるため命を捧げた、彼女の声が耳の奥で木霊する。
聖剣(かのじょのいのち)で魔族を皆殺しにした。“悪魔”の様な所業で平和を齎した英雄。
(何を今さら……)
御伽噺に英雄の古傷が僅かに痛んだ。
サティはウィルの手を引いてルミネル広場へと歩いていく。
流れる町並みは魔法の光で照らされていつもより幻想的。
そこはきっと――地上の星空。
ツリーの前に立ったサティは勿体ぶる様に後ろに隠した包みを触る。
今にも照れて笑い出しそうな彼女に。耐えきれなくなったのは彼の方。
彼の笑顔にサティも吹き出して。
「ウィル、準備はいい?」
「ああ、いつでもいいぞ」
「せぇの!」「せーのっ」
サティが包みを開ければ。中央に瑠璃をあしらった輝く星の意匠のブローチ。
手のひらにラファエロ・ブルーの輝き。金の星を閉じ込めた深いあおいろ。
ウィルからの星降る夜の贈り物。
「わぁ……!」
頬を染めて星のブローチを胸元に飾るサティ。
「ね、ね、にあうかな!」
「……ああ。思った通りよく似合ってる」
彼の手の中にあるのは鴉の意匠を施した懐中時計。
「きみの『郵便屋さん』にそっくりでしょ」
「格好良いな」
ランタンの明かりに懐中時計を照らせば、上質な金属の反射が伺える。
「大事にするよ、ありがとう」
「ありがとう、僕も大切にするね」
街の明かりが眼下に見える時計塔の上。雪之丞は平和な光景に目を細めた。氷鈴を鳴らし想いを馳せる。雪鬼の姿ならば寒さも感じない。
かつての自分ならば想像も出来ない程、穏やかな日々。
友人と言える人々。縁を結んだ人々。
「藤原の。今の拙を貴公が見れば、何と言うでしょうか」
少しは人に近づいているだろうかと問えば、「馬鹿だなぁ」と懐かしい声が聞こえてくるようで。
星降る夜は幻想に満ちているのだろう。
ラピスラズリの星空を眺めるヨルムンガンドは物思いに耽る。
星降る夜の平和ももうすぐ終わり。
御伽噺の聖女は何を想い、この空を眺めていただろうか。
反転してまで叶えたい夢。
彼女の親しい仲間も『向こう側』へ行ってしまった。
簡単には勝てない呼び声。自分もそれを聞く事があるのだろうかと金の瞳を伏せる。
戦いは残酷で。命が簡単に散ってしまう。
平和を願った聖女は。
「……こんな世界をどう思うのだろうか」
夜明けが来れば戦いの日々が戻って来る。
大切なものだけは守れるように――強くならなきゃな。
星空には小さなスターレットが仄かにきらめいて。聖夜はゆっくりと更けていく。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
あなただけの小さなスターレットを見つけることが出来たでしょうか。
ご参加ありがとうございました。
称号獲得
夢見 ルル家(p3p000016):強靭たるエメラルド
ヴェッラ・シルネスタ・ルネライト(p3p000171):紅玉切子
津久見・弥恵(p3p005208):銀月の舞姫
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098):Bonbon au lait
GMコメント
もみじです。輝かんばかりの、この夜に!
●目的
シャイネン・ナハトをまったり過ごす
●ロケーション
夕方~夜にかけて。
王都メフ・メフィートの広場や通り。
シャイネン・ナハトの飾りが施されており綺羅びやか。いつもより人も多いです。
・ルミネル広場(大きな噴水には幻想的な飾り付けがされて大きなツリーもあります)
・ジルバプラッツ通り(綺麗な通りで、いずれもややお高いお店が揃っています)
・ラドクリフ通り(普通の通り。もっとも広く、もっとも賑やかです)
・プリマヴェーラ通り(麗しい名前とは裏腹に、得体の知れない空気が渦巻く通りです)
●出来る事
適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。
【A】お買い物
ジルバプラッツ通りで少しお高いアクセサリーを選んでみるのも良し。
ラドクリフ通りで可愛い日用品をギフト用に包んでもらうのも良し。
プリマヴェーラ通りは少し怪しい露店で掘り出し物が見つかるかも。
プレゼントを選んでいる時間は楽しいですね。
【B】カフェでまったり
暖かい店内はレースのカーテンと柔らかいソファで心地よい空間が魅力的
ココアやミルクティ、軽食等があります。
【C】レストランやバーでロマンチックに
少し照明の落とされた店内はムーディな大人の時間。
カクテルやウィスキーを手に愛を語らうのも良いかもしれません。
【D】
その他
王都メフ・メフィートにてできそうなことができます。
●プレイング書式例
強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
一行目:出来る事から【A】~【D】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由
例:
【B】
【カフェ気分】
まったりココアを飲んで絵本を読むの
●NPC
絡まれた分程度しか描写されません。
呼ばれれば何処にでも居ます。
・『Vanity』ラビ(p3n000027)
ぼーっと歩いていたり、暖かいジャンクフードを食べていたりします。
・『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
カフェでまったりしています。
●諸注意
描写量は控えます。
行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
未成年の飲酒喫煙は出来ません。
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