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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2023>彩華天燈

完了

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●輝かんばかりの
「寒いのう」
「そうだね」
「それにしても寒いのう」
「そうだね」
 寒いと口にしてはチラと見てくる瑛・天籟(p3n000247)と、何かねだりたいことがあると知っていて生返事の劉・雨泽(p3n000218)。
 ローレットにふたりが揃うと大抵そんな場面に行き当たることだろう。馴染み者は「またか」と笑うし、馴染みのない者は「何あれ」と周囲の知人へ問うことだろう。
「こう寒うては温泉なんぞに浸かりたいの~」
 チラ。
「あったかいんじゃろうなぁ、温泉~」
 チラ。
「おんせ……」
「連れて行かないよ」
「なんでじゃ~!?」
「僕は毎年天灯を見に行くから」
 去年連れて行ってあげたでしょと言われた天籟はそういえばと顎を撫でた。天灯浮かぶ湖での氷滑りへ連れて行ってもらった記憶が戻ってくる。
「豊穣じゃろ? 近くに温泉があるのではないか? の、の?」
 けれど天籟は諦めない。希望を捨てずに言い続ければ、書類を捲っていた雨泽の手が止まった。
「………………………………ある、ね」
「じゃろぉ~~~~」
 ほれ決まりじゃ! と天籟は飛びまわった。

●あたたかな彩を
 ぽつり、ぽつり。灯りが『昇る』。
 穏やかな橙色をした灯火が、天へとぷかぷか昇っていく。
 夜空は灯りの背となりより暗く。
 灯りは夜空を背にしてより明るく。
 ぷかり、ぽつり、ゆらり。
 穏やかな灯火が空へと消えていく。

 天灯を見送り、人々は祈る。
 御国が平らかであることを。
 御誕生日であらせられる帝の健康と長寿を。
 そして各々の願いの成就を。

 とある街では毎年帝の誕生祝いに行われている天灯は、湖の畔から打ち上げられる。
 夜空に浮かぶ明かりと、夜の暗さに黒黒としていた水面に浮かぶ明かり。どちらもゆっくりと消えていき、ほんの少ししんみりとする時間。そうして来年もと願い、翌年も行うのだ。伝統はそうして受け継がれていく。
 昨年は湖が凍ってしまったため氷滑りが行われたが、今年は温かいため湖が凍りそうにない。昨年のたくさんの笑顔を見ていた街の自治会の者たちにとっては残念なことだ。
 けれども、ならばと自治会で案が出た。
『湖にも灯りを浮かべてみよう』と。
 空だけでなく、湖にも華を。
 より幻想的な夜となるだろう。


「と言うわけで、良かったら豊穣に遊びに行かない?」
 場所は去年も一昨年も紹介したところなんだけれどと口にした雨泽の背後では天籟が尾を振り振り楽しげに浮かんでいる。……何だか去年も見たような光景だ。
「去年は氷滑りが出来たけど、今年は温かいからできないんだ。けど今年は湖に蓮の形の灯りを浮かべて、空と湖の灯りを楽しめるみたい」
 それから、と雨泽が指を二本立てる。
「ふたりで来ている人限定だけれど、神使は舟遊びもしていいって」
 二人乗りの小舟であることと数に限りがあるため、ひとりでは駄目だよと雨泽が念を押し――チラっと天籟を見てから「勿論、舟の上では暴れたりしないようにね」と注意を足した。
 こちらは天灯をあげることはできないが、特等席で灯りを楽しめることだろう。
「それからね、少し離れたところに温泉もあるから、温泉から天灯を見ることも出来るよ」
 場所は会場となっている場所から少し離れている。湖は山に囲まれているため、すぐ近くの山に湧いた温泉からならば湯に浸かりながらでも天灯が見えるのだと言う。
 寒い日の夜の催しだ。風邪を引かないように、身体を温めるのに適した屋台もある。
 争いが起きないこの日だけは、瞳に映るのは全てが『平和』。
 君たちが守るために日々努力し、そうして齎されているものである。
「――ね、どうかな」
 良ければ今年も、ともに輝かんばかりのこの夜を過ごさない?

GMコメント

 輝かんばかりのこの夜に。壱花です。
 PPPでは最後のシャイネンナハト。
 毎年恒例、カムイグラから幻想的な夜をお届けします。

●迷子防止のおまじない
 一行目:行き先【1】~【4】いずれかひとつを選択
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPCにお声がけください。お相手いたします。

【1】温泉
 近くの山の斜面に源泉が湧き出ています。
 岩で囲んで溜めている温泉です。にごり湯で、血行促進・疲労回復が期待されます。
 宿があるわけではない、山の中の秘湯。簡単な脱衣所(覆い)と男女を分ける丈の垣根があるくらいです。とても寒いので湯冷めしないように気をつけましょう。
 異性と楽しみたい場合は同じように湯を溜めた足湯があります。お尻を冷やさないように岩に手ぬぐい等を敷いて楽しむのが良いかも知れませんね。
 また、温泉卵の無人販売(近所の街の人達提供)もあります。それ以外の飲食物は天灯会場から持ち込んでください。※ゴミは持ち帰りましょう。

【2】湖
 ※同行者有で2名の場合のみ(グループ4名で2つの小舟、もOK)
 昨年は凍っていた湖ですが、今年は温かいため氷が張っていません。
 天灯を上げたりは出来ませんが、二人乗りの小舟で夜のボート遊びが出来ます。湖上での危険な行為は『ご注意』対象となるのでお気をつけください。
 頭上には天灯の灯り、湖面には蓮華型の灯りがプカプカと浮かんでいて幻想的です。賑やかな【3】や【4】よりはとても静かな雰囲気となります。ぶつからないように距離を取る&天灯が上がっている時以外は暗いため、湖上にふたりきり、な感じです。

【3】天灯を上げる
 会場内で決められた打ち上げスペースにて天灯を上げることが可能です。湖の畔です。
 一定数の人数が揃うと「せーの」と皆で空へ放ちます。
 一斉に放たれる灯りが黒い夜空に浮かんでいくさまは、とても美しいことでしょう。

【4】屋台を楽しむ
 焼き鳥、焼きそば、焼きもろこし、りんご飴……と言った、縁日で食べられそうな食べ物の屋台があります。もつ煮や豚汁といった温かなものの売れ行きが良いです。
 今年はもろこし汁(コーンポタージュ)や二枚貝の乳煮(クラムチャウダー)を扱っているお店もあります。大陸の料理も美味しいね!と気に入られているようです。
 日本酒や甘酒、生姜湯、葛湯、各種お茶等、温かいものが売られています。
 買った飲食物を手に、空に浮かんだ天灯を見上げて楽しむことも出来ます。

 ※食べ物の屋台側としてのご参加も大丈夫です。

●天灯
 竹で枠を作り、そこへ大型の紙袋を被せた構造で、竹枠の中央に油を浸した紙を固定して火を点けることによって上昇するランタンです。

●NPC
 御用がございましたらお気軽にお声がけください。
 両名とも【1~4】に居ます。

・『綵雲児』瑛・天籟(p3n000247)
 今年も遊びに来ている自由な亜竜種。
 ファントムナイトは犬になったり引率が大変だったので、今日はのんびり過ごすぞー! としています。

・『浮草』劉・雨泽(p3n000218) 
 聖なる夜なので、のんびり楽しみたい派。
 天義での戦いを終え、瞳も戻って元気です。
 お酒と甘いものが好きです。ご飯をよく食べます。

 ※弊シナリオに出てきた豊穣住まいの友好NPC(顔無)を誘って頂くことも可能です。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害となりうる行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
 イベシナなので描写は控えめになるため、行動は絞った方が良いでしょう。
 また、シナリオ趣旨と異なる内容は描写されません。

 それでは、佳き夜となりますように。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】温泉


【2】湖
※同行者有で2名の場合のみ

【3】天灯を上げる


【4】屋台を楽しむ

  • <Scheinen Nacht2023>彩華天燈完了
  • GM名壱花
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2023年12月31日 22時05分
  • 参加人数22/31人
  • 相談4日
  • 参加費50RC

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(22人)

ギルオス・ホリス(p3n000016)
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児

リプレイ

●あったかご飯
 湯気たつ屋台を覗く人々には笑顔が灯る。
 その姿を楽しみながら『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は屋台の通りをぶらりと歩み、あたたかなスープをはふはふと楽しみながらの『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)もたくさんの『おいしい』を目にして笑顔を浮かべた。
 ここに集うのは屋台を楽しみに来た者ばかり。だからだろう。楽しむつもりのない『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はただ足早に通り過ぎていく。
「ねぇ、一番美味しく酔えるお酒はあるかしら?」
 レイリーが問えば屋台の店主がそうさなぁと返し、とっておきの銘柄を教えてくれた。
「それ、美味しいよね。僕も」
 背後から覗き込んだ雨泽が店主へ同じものをと告げ、レイリーと乾杯を。
「ジーク、次は何が食べたい?」
 りんご飴に齧りつこうとしていたふわもこ羊の『ジーク』は『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の声に顔を上げ、キョロキョロと辺りを見渡した。りんご飴に綿飴、チョコバナナ……はもう買ったし、あっ焼きもろこし!
「焼きもろこしか? 隣のたこ焼きもどうだ?」
 ゲオルグの声にジークはキラキラの目を向けてこくこくと頷き、口の端を持ち上げたゲオルグはジークを伴い買いに行く。
「熱いから気をつけるのだぞ」
 こくこく頷いたジークはとうもろこしの一粒を摘んでご機嫌!
 踊る鰹節と格闘しながらソース味を楽しんでご機嫌!
 ……因みに、食べる度に毛が汚れるのは気にならない。そんなジークの世話もゲオルグはせっせとしてくれるから、ジークはゲオルグお手製冬衣装でいつもよりご機嫌で食べているのだ。
 天灯の灯りを背にしてお目々をキラキラさせながら美味しいを満喫するジークは可愛くて、連れてきてよかったとゲオルグは心から思ったのだった。
「雨泽様、ご一緒してもいいですか?」
 天籟に報告を済ませた矢先に出会えたのは僥倖だ。ニルの言葉には勿論と返り、丁度上がった天灯に釣られてふたりの視線は天へと向かった。
(かなしいことがたくさんあって、それでも見上げる空はやさしくて)
 全部大事にしたいから忘れないようにしたいとニルは雨泽と空を見上げた。
(来年も、再来年もずっとずっと)
 沢山の人々の楽しい雰囲気。
 打ち上げられた天灯の美しさ。
(あぁ、こういうのが私は大好きなんだ)
 来年は誰かと来ようと、レイリーは盃へと唇を落とした。

●天に灯りを
 何処かから聞こえた「せーの」の声で、天灯が上がっていく。
「人々の営みを見て、そこに混ざり、その安寧を祈る。そうしたいと、思ったのだ」
 その声に合わせ、自らの手の内の天灯を離して浮かばせた大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)は小さな呟きとともに昇っていく自身が放った天灯を見上げた。
「うん……武蔵のそう言う想い、『そうしたい』って感じ思う心を今後も大切にして欲しいな」
『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)はそんな武蔵を背後からギュッと抱きしめるようにコートと翼で包み、武蔵とともに天灯を見上げる。
(ボクの翼が母さんの様な羽毛だったらよかったのに)
 そうすれば自身がそうされた様に、大切な人を暖めてあげることができるのに。
 武蔵が悪くないと思っている気持ちを知らず、レイテはまぁ風除けくらいにはなるかなと武蔵の天灯が見えなくなるまで見送っていた。
 ――世界が平和でありますように。
「帝のご健勝、刑部卿の益々のご活躍を祈って! そして宮様のご健康と宮様のご活躍と宮様のお幸せと宮様が願いを抱いていらっしゃるのであれば一つ残らず全て成就することと宮様が最近こっそり餌をやっていらっしゃる猫の健康と宮様の宮様の宮さ」
「多すぎない? 天灯も願いが重たすぎて落ちちゃうよ」
 ともに上げましょうとぐいぐいと引っ張ってこられた雨泽が、念仏のように唱えながら天灯を上げようとしている『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の姿に半眼となっている。
 けれどもこの支佐手。奇策がある!
 じゃじゃーん! 取り出したるは巨大な天灯。特製である。
「……打ち上げれたら何か奢ってあげる」
「その言葉忘れんで……うおおおお、天灯が! 燃える! 地上で!」
「馬鹿! 馬鹿支佐手! 僕が水を扱えてよかったね!」
「わしの大願を積んだ天灯が……ハッ! 雨泽殿!」
「嫌だよ」
「まだ何も言っとりません! 願いの相乗りを! 大丈夫ですけえ、コレを貼っ」
「嫌だ――ってうわ、何その呪物!」
「雨泽殿!? 何故逃げるんですか!」
 自身の天灯を抱えて逃げだした雨泽を追う支佐手は、きっと蛇のように執念深く追うことだろう。

「願掛けみたいな感覚でいいんだっけ」
「うむ、願掛けと大差ないかな」
 豊穣の風習は面白いねと笑った『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の手に、『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)が手を重ねた。
 ふたりの手の間にはひとつの天灯。ふたりはふたりでひとつなのだから、ひとつをふたりであげようか。なんて悪戯めいた笑みを浮かべたルーキスへ返る返事は勿論諾であった。
「お、結構すぐに燃えちゃうんだね」
「そうみたいだな。で、何を考えてた?」
「考えたこと? それ聞いちゃうのー?」
 くすくすと笑えば、まぁ無理にとは言わんがと肩を竦められ。
 けれど話してくれるであろうことをルナールは知っている。
「ルナール先生が余計な怪我しませんように、かな」
「俺はルーキスと最期まで一緒に居られますように、だな……」
 離れることもないくらいにいつもひとつなのに。
 顔を見合わせ、夫婦はまた笑いあった。
「母さん、寒くはない?」
「ええ、大丈夫よ」
 誰かを案じられるくらい大きくなったなんてと、ふふっと楽しげに笑うリーベルの姿に『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は眉を下げた。
 今日のリーベルはとてもご機嫌だ。先刻なんて姉弟に間違われて喜んでいたし、自分がしっかりと見守り風邪を引かせないようにしないとと心を引き締める。だって母は――ルーキスが大人になるまでの間意識を失っていたのだから、無理をさせる訳には行かない。
「これを飛ばすのね」
「願い事もしてね」
 これまでは豊穣の平和のみを願っていたルーキスだったが、今年からは両親という存在が居る。だから祈るのは、豊穣と家族の平和。
 ――この平穏な日々がいつまでも続きますように。
 ちらりと横を見れば、母も真剣に祈りを籠めていた。
 ――この先も家族揃って、健やかに暮らせますように。
(神様。どうかこれからも2人をお守り下さい)
 夫も子も危ない場所へ赴くから、リーベルはそう願わずにはいられない。
『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)が今年も同じ場所で願い祈るのは勿論、『豊穣の平穏を』。
 それから――。
(笑顔の溢れる日々が続きますように)
 思い描くのは狼の少女。
(いつか、アラーイスさまに豊穣を案内したいです、ね)
 メイメイは生まれも育ちもこの国を愛していた。大好きな人が守っていると土地を、大好きな友人にも知ってもらいたい。そう、思っている。
「アラ、メイメイちゃん?」
「ジルーシャさま」
 もしかして同じ女の子のことを考えていた? なんて笑う『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は沢山の大切な人たちの幸せを願った。
「ちょ、ジルーシャ! いいとこに! 匿って!」
「アラ、雨泽。何アンタ疲れて――」
「雨泽殿――!」
 ジルーシャとメイメイの背後に雨泽がしゃがみこんだ瞬間、すごい速さで駆けていった支佐手の姿に全てを察した。
「雨泽、アタシはクラムチャウダーが飲みたいわ♪」
 勿論雨泽の奢りで。
 メイメイちゃんはと問うジルーシャに良いのでしょうかと視線を向けたメイメイがめぇと鳴いた――が、雨泽は「屋台通りに隠れるの名案! ふたりとも早く!」と駆け出したため、後についていく。……決して美味しい気配に釣られた訳ではありませんから、ね!

●贅沢温泉独り占め
「あちこち調べ回ったら、流石に疲れちゃったわね」
 ふうと『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が息と吐くのは暖かな湯の中だ。
 温泉の成分が気になってサンプル採取をしたりと動き回ればいくら寒くとも汗をかき、冷えた体にまた温泉のぬくもりがありがたい。
「温かいし、お酒も美味しいし、天灯も綺麗」
 何より、今は人が居ないタイミングなのか、贅沢にひとりで堪能――あ、違う。お猿や狐が入ってきたわ!
 イナリは持参した酒を片手に、チラチラ降り出した雪と天に登っていく光を、特等席で堪能したのだった。

●あかる花照らす、ふたつの影
 昨年は氷滑りが行われた湖には蓮華を模した灯りと、その灯りの中にいくつかの小舟が浮かんでいることが見て取れる。
 舟の数が少ないのは、安全を考慮して『神使のみ』とされているからである。酔って舟に乗って真冬の湖に落ちた、では洒落にならぬのだから。
「去年は凍ってましたけど今年は凍ってないんですね」
 どことなくホッとしたような『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)の声に、あらと返すのは鏡禍の愛しい存在――『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)だ。
「子鹿から成長した鏡禍が見られないのは残念ね」
「ルチアさんっ」
 それは忘れてくださいと抗議した鏡禍が小舟を操り、蓮華の灯りが灯る湖に小舟を滑らせていく。ルチアの方が舟の扱いは上手いが、エスコートをしたいという鏡禍の気持ちをルチアは汲んでくれる。……それがまた、鏡禍には愛おしく思えた。
「天灯、綺麗ですね」
 ふたりで見上げる天灯が美しいのは、あそこに人々の願いが籠められているからか。
 天へと届いた願いは、きっと神様が聞き届けてくれる。
 ――けれどもふたりは、天灯をあげない。
「愛してますよ。これからも、ずっと、永遠に」
 だってふたりの願いは、既に互いで叶えあっているのだから。

 湖面に浮かぶ舟からの視界は、一言で言えば暗い。
 水面に灯る蓮華型の灯りだけでは他の舟の存在くらいは知れるものの人物を確認できるほどではなく、空へと天灯が放たれた瞬間にワッと明るくなって他の小舟に乗っている人が見える程度だ。
 つまるところ、雰囲気が良い。
「……寒くは無いか?」
 そんな贅沢な雰囲気に飲まれすぎてしまうこと無く、『生命に焦がれて』ウォリア(p3p001789)は紳士に眼前の『蒸気迫撃』リサ・ディーラング(p3p008016)を気遣った。
「まーこういった寒さも醍醐味っちゃ醍醐味っすけど、普通に寒いっすねー」
 でもこの湖上の特等席でしか見られない景色であるし、寒いのも織り込み済みだから着込んではいるし、ウォリアもブランケットを持ち込んでいる。
 けれども、フッとウォリアが笑う。
 なんと、秘策があるのだとか……!
 ウォリア自身は寒気など感じようがない鎧の体から良いのだが、好いた女に風邪を患わせるような甲斐性なしになりたくはないと妙案を考えて来てあるのだ。
 それは、ずばり――。
「――なーるほどっす」
 ぴたりと繋いだ手から伝わる、ウォリアの熱。
 相対する敵を鋼の爪は切り裂き、炎の腕は焼き尽くす、剣を持つ事しか知らず、それで完結する筈だった、ウォリアの手。だが今は誰も傷つける事無く、人を温められるようになった。
「暖かい、か?」
「うん、うん。やっぱり、愛している方の手ってのは、とっても暖かいもんなんすね」
 心まで暖かくなったと笑うリサの笑顔が天灯よりも眩しく思え、ウォリアは目を細めた。
「顔も、暖めてほしいっす」
 そっと頬へ彼の手を頬へと寄せれば「えへへ、あったかい」と更なる幸せの笑みが灯った。

「――あのね、雨泽」
「ん。なぁに?」
 声をかければ、静かに天へと向けていた雨泽の視線が『銀翼の羽ばたき』チック・シュテル(p3p000932)の元へ降りてくる。
 話の続きを待つ彼の前で深呼吸をして意を決し、真っ直ぐに瞳を見上げた。
「おれ、雨泽が好き、だよ」
「僕もチックが好きだよ」
 そのまま返される言葉は確かな好意。けれども違うんだと首を降る。
「雨泽が……翠雨の事が、好きなんだ」
「……え、っと」
 驚いて瞳を丸くした雨泽が思わず言葉を零してしまったけれど、チックは伝えたい想いを形にしなくてはと言葉を紡いでいく。
「友達以上に、恋い慕う人として。今日よりもずっと、前から。幸せをあげたい、だけじゃなくて。いつも以上に、欲張りになってしまうのも君だから、だよ」
 伝えずにずっと秘したまま想い続けるだけで良かった。
 しかし、知ってほしいという欲も生まれてしまった。
「俺、は――」
「びっくりさせちゃって、ごめんね」
 けれど知っていてと、チックは微笑んだ。

「……へへ、綺麗だね?」
 天を見上げているギルオス・ホリス(p3n000016)へと『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)が声を掛ければ、優しい榛色の瞳が京の元へと降りてくる。
 小舟に揺られながらの語らいはギルオスにとって心地よいもので。それを感じているのだろう、京も笑顔とともに明るく会話を弾ませた。
「不思議だなぁ、ずっとこうして居たいの、なんでかしら?」
 貴方が隣に居てくれるからよ。
 そう告げてくる瞳に、ギルオスは緩く口角をあげた。
「……意外とずるいわよね、貴方って? アタシの気持ち、ちゃんと分かってくれてるくせにさ?」
「……」
 向けてくる視線に籠められている気持ち。それに気付かないほどギルオスとて鈍くはない。
 けれど、怖いのだ。誰かに誰かに好意を寄せられるのが。
 好ましく思っていて良いのかと、また失われるのではないかと。死に別れてしまった過去の幻影が多すぎて、この気持ちを燻らせ続ける。
(アタシ、ずっとサバサバしたイイ女だって自分の事思ってた。馬鹿みたいよね?)
 黙しているギルオスが今、どう思っているのかが知りたくて堪らなかった。これじゃただのオンナだなと京は自分にガッカリしていた。
「京」
 京が少しだけ身を乗り出したタイミングで、ギルオスが名を呼んだ。
「すまない。もう少しだけ、待ってほしいな」
 向けられる感情も、ふたりきりのこの時間も、決して嫌な訳では無い。
 けれどどうしたって――影が、残っている。

(……綺麗だな)
 天灯を見上げる『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の横顔を見て、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はそう思った。
 天灯だけじゃなくて、君の横顔がとびきり輝いて見えるのはなぜだろう?
(えっ、わたし、今)
 上がる天灯のように心にぽかんと浮かんだ『答え』に頬が熱くなる。
(君にとって私はそういう対象ではないだろうけれど、サンディ君、わたしは――)
「ごめん、シキ。ぼうっとしてた」
 唐突にパッとサンディが振り返ったから、シキの瞳が丸くなった。
 暗くて頬の赤みや彼女の想いは知れないけれど、天灯の灯りを反射して煌めく瞳が綺麗で――可愛い、とサンディは思った。
(ああ、今こうしてるこの瞬間が、終わることなく続けばいいのに)
 ふたりで小舟に乗って揺られる時間。
 周囲の人も音も遠くて、鮮やかな灯りが美しい。
 まるで世界にふたりだけになったようで――こんなこと願ってはいけないとは思いながらも願ってしまう。
 サンディは自由に生きてきたから、他の人を縛りたくはない。でも、それでもだ。
(でも。シキにはずっと傍にいて欲しい)
 楽しく生きてほしいし、幸せでいてほしい。
 そんなことを願う資格は無くても――どうしたってそう思ってしまうんだ。
(わたしね、きみがすき)
 短い生涯の中での、一度きりの恋。
 貴石病治ってただの”わたし”になれた時、精一杯の気持ちを彼に伝えよう。
 ――ああ、でも。
(言えないかも)
 彼と目があってもこの想いは言葉にならなくて、シキは小さく笑った。
 互いを想いあっているのに、ふたりは互いの気持ちを伝えられない。
 言葉よりも今はただ、この時間が続くことを願っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

輝かんばかりのこの夜に。
……また文字を盛りすぎてしまいました……。

今回、運営様へ連絡の上で『ご注意』へ一文追加をしています。
イベシナは『必ずしも全参加者がリプレイに描写される訳では無い』規格ですが、是迄全員描写をしていました。ですが度々困った事態に遭遇しており、記さねばならなくなった事、ご理解頂けますと幸いです。
(今後も記されますが、普通に導線に沿ってプレイングをかけて頂ければ大丈夫です)

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