PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Phantom Night2023>わんと鳴く君に祝福を

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どうじゃ!!!
「「「えーーーーー!」」」
「わはははははははは!」
 幾つも重なる驚きの声に、瑛・天籟(p3n000247)が高らかに笑った。
 トリック・オア・トリートと声を揃えて菓子を強請りに来た『お外同好会』の五人は天籟の姿を丸い目で『見上げて』いた。
「ええ……老師が大きい」
「昼までは小さかったよな?」
「小さくないわい」
「ごめんなさい、老師はいつも可愛らしいサイズだから」
「そんなフォローは欲しとらんが?」
 驚いたのは少しの間だけ。どうやらいつものペースにすぐ戻った数名の声に、『大きくなった』天籟が眉間に皺を寄せた。
「ふぅん、老師ってそんなに身長を気にしていたのね」
 朱・雪玲にくすっと笑われて、折角の『なりたい姿』になったというのに、天籟はどかーんっと感情を爆ぜさせた。
 もー、しらんもん! わしは菓子もやらんぞー!

 10月の終わりの日。その日から、混沌世界には不思議な魔法がかかる。
 古い、古い御伽噺(フェアリーテイル)に謳われる、不思議な不思議な魔法。
 その夜から凡そ3日間、人々は『なりたい』姿になれるのだ。
 ――それは、覇竜大陸に住まう者とて同じこと。
 そうして『なりたい姿』へとなった天籟へ濡れ煎餅を差し出して気持ちを落ち着けさせると、他所ではどうしているのだろう、なんて話になった。
「ラサで祭りがあるとは聞いておるがのぅ」
「ラサ!?」
「おっ、老師、祭りに連れて行ってくれるのか!?」
 すぐにパッと食いつく白・雪花と柊・弥土何。口には出さないがそっと視線を向ける雪玲と奏・詩華の瞳には期待が滲んでいるし、そんな四人に根負けするだろうと思ってか翠・明霞は楽しげに肩を揺らしている。
 早速弥土何と雪花に群がられながら、天籟は「まあ聞け」と聞いてきた話をしたのだった。

●ククル・ティハール
「ええそうです、『ティハール』がありますの」
 微笑んだアラーイス・アル・ニール(p3n000321)が口を開くのに、サマーァ・アル・アラク(p3n000320)は口を挟まない。ラサの祭りだから知っているのだろう。淹れたての熱いチャイにふうふうと吐息を零すのに夢中となっている。
「ティハール」
「ええ、光のお祭りですわ」
 デイワリーと呼ばれる日を中心に、夕方から火を灯すから光のお祭りと呼ばれている。カーグ・ティハールから始まり、ククル・ティハール、ラクシュミ・プジャ、ガイ・プジャ、バイ・ティカと5日間続く。
 この混沌世界では今年はどうやらファントムナイトと重なったらしい。
「2日目のククル・ティハールがおすすめ、でしょうか。わたくしも友人を誘ったりデートにどうかと声を掛けてみるつもりですから、天籟様も都合が合えば、是非」
 柔らかに微笑んだアラーイスはアーモンドのクッキを細い指で摘み、微笑んだ。

 ――――
 ――

 そんな話を『外』に飢えているお外同好会の子たちにすれば、勿論『行きたい行きたい行きたい行きたい!』の一点張り。
「犬の祭りのぅ。ま、今日のわしは誰もが認めるイケてる大人じゃからの~」
 大人らしく監督するかの~という気分になった天籟は、そうしてお外同好会の5人を連れてラサへとやって来たのであった。
「よいか、逸れるでないぞ。人混みで迷子になるのは大変じゃからな? ここは覇竜ではない。人も多いのじゃ。珍かな物にも怪しい人にもついていくんじゃあないぞ」
 なんてお外同好会の子たちへと注意をしながら、天籟は人通りの多い通り歩いていく。勿論、良い子のお外同好会の子たちは――
「まだ到着していないのに人がすごくいっぱいだよ!」
「あっ、あれはなんだ!?」
「色鮮やかな服装が多いわ……逸れたら帰れなくなるのかしら」
「雪玲、逸れたら怖いから手を繋いでくれる?」
「……ん」
「こら、アンタたち。よそ見してると老師を見失――いは、今日はしないかもだけど、ちゃんと前を見て歩きな」
「「「はーい!」」」
 ……勿論、天籟の注意なんて殆ど右から左。
「こらー! 言うた端から逸れそうになっとるのは何でじゃ!?
 いいか、ちゃ……わうん! きゃう、わう、わ……わうん!?」
 長い手足を悠々と動かし、お祭り会場の華やかなアーチを越えたその瞬間のことだった。
 お外同好会の5名は思わずぽかんと目と口を丸くして、顔を見合わせた。

 ――老師が犬になっちゃった!!!

GMコメント

 ハッピーハロウィン! 壱花です。
 わんこになぁれ~!

●目的
 ファントムナイトを楽しむ

●シナリオについて
 ラサの『ククル・ティハール』へ遊びに行きましょう!
 ククルが『犬』、ティハールが『お祭り』です。今日は犬たちが主役の日! 5日間続くお祭りに2日目のお祭りなのですが、今年はファントムナイトと重なってしまったため、不思議な魔法が作用しているようです。
 お祭り会場のゲートをくぐった瞬間、あなたの姿は『もしかしたら』犬になるかもしれません。

 描写文字数が多い方が良い方は通常参加、描写が少なくて良い方はサポート参加……と、選べるようになっています。NPC等誰かと絡む場合は文字数がゴリゴリ削れるので通常参加をおすすめします。(優先が出ている皆さんも、気にせず好きな文字量で選択ください。)
 行動は絞った方が描写が濃くなることでしょう。
 途中で犬になる等も大丈夫ですが、その分描写に文字数が多く使われることが予想されます。(選択肢はどちらを重視するかを選択してください。文字数の関係でどちらかのみの描写になる場合もあります。)

●わんわん!
 普通のわんわんとそうじゃないわんわんが居ますわん。
 「犬良いな~」「なりたいな~」とか思っていると犬になってしまいます。OPの天籟のように思って無いけどなっても大丈夫です。
 犬種は基本的に小型~中型です。
 人間さんが同行している場合は大型も可能です。(ソロ大型犬はマスタリングされます)

 犬になると、オレンジ色のマリーゴールドの花輪を首に、神様の祝福『ティカ』を額に授かります。また、犬用フードを販売している屋台の前へ行くと無償で提供してもらえます。

・知能
 『体は犬、心はいつも通り』
 『えっ、知能ってなに? あっ、おいしそうな匂い! あ~走り回りたいな~!』
 自由になさってください。

・会話
 人→犬…犬は賢いので人間さんの言葉がわかりますわん!
 犬→人…人側に『動物疎通』があればOK

●同行NPC
 お声がけがあれば反応いたします。

・瑛・天籟(p3n000247)
 亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
 ……でしたが、『ペキニーズ』になりました。
 せっかくのかっこいい体(三日間限定)が! おおおん、悲しい!!!!
 年寄りなので【4】は観戦。

・サマーァ・アル・アラク (p3n000320)
 新米イレギュラーズ。ククル・ティハール経験者、ゆえに今日は先輩!
 でも犬になっちゃうククル・ティハールは初めて!
 わーい、やった、わんこたち可愛い……わん! あれっ、どうしてアタシ『コーギー』になってるの!?
 何処にでも現れます。ウロウロ。美味しそうな匂いがする!

・アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
 狼の獣種の少女。アルニール商会の主。
 誰かとの約束をしていたとしても先に中を少し見ておこうと考え……会場に足を踏み入れた途端『トイマンチェスターテリア』になっています。
 【4】以外に居ます。

・『お外同好会』
 朱・雪玲、奏・詩華、柊・弥土何、白・雪花、翠・明霞の五名からなる覇竜同好会。いつつぼし島で遊んだり、元気に過ごしています。
 今日は老師に連れられて(行きたい行きたいと駄々こねて)ラサのお祭りへやってきました。(『なりたい姿』は、関係者元さんが決めても大丈夫です。特に指定がなければ『雪玲、詩華』以外犬になっています。)
 わんわん! 元気!

●サポート
 イベシナです、気軽にどうぞ。
 同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。
 年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 以下、選択肢になります。


《S1:行動》
 select 1
 どこへいきましょう?
 基本的に一箇所のみとなりますが、通常参加者は2つ選んでも大丈夫です。(パートごとの描写になるため、「【1】の後に【2】」等の順番指定は出来ません。)
 ただし、『同行者がサポート』の場合は『1箇所で合わせる』か『片方は一人行動』という状況になります。

【1】中央広場
 南瓜やマリーゴールドを沢山飾った中央広場は、真ん中に噴水を抱いている。水が貴重なこの国では他国のように華やかに水を拭き上げてはいないものの、空色のタイルが美しく貼られ、繊細な作りをしている。
 犬たちはのんびりと寝そべったり水を飲んだり、屋台の食事を広場のベンチで食べようとしている人たちに「僕の分は?」と視線を向けたり、沢山撫でてもらったりと幸せそうに過ごしています。
 人間は休憩したり、犬に和んだりとのんびり過ごしています。

【2】屋台通り
 お祭り会場の入り口アーチを抜けると、屋台通りになっています。左右には家が並び建ち、商店街のような雰囲気。日よけの布等が頭上で踊り、色鮮やかな影を落としています。
 普段は人間用のみの食事が売られていますが、この日はなんて言っても犬が主役! 犬用フードが沢山あり、犬には無償提供です。
 人間用はパンプキンスープやパンプキンパイ等の南瓜をメインにした料理から、ミートパイやカレー、ケバブ等の香辛料が効いた料理があります。お酒や果実水等もあります。
 犬用は全て犬が食べても大丈夫な材料で作られており、ケーキやお肉などが用意されているようです。

【3】わんわんパレード
 お揃いのオレンジの花輪を首に掛けた犬たちがパレードをします。
 犬であれば混ざって一緒に歩けます。(人はパレード参加はできません)

 人は、パレードする犬たちに合わせてしゃがんで手を振ったり、玩具や犬用お菓子を振り振りすると寄ってきてくれるかもしれません。ティカのついた頭をコツンとしてくれたら祝福があなたにもお裾分けされることでしょう。

【4】ドッグラン
 一等は誰だ!
 犬たちが一斉にスタートし、ゴールまで全速力!
 なのですが、途中で美味しそうな屋台のご飯の匂いが漂ってきたり、応援する飼い主さんの姿が見えたり、何だか凄く面白そうな玩具が吊るされていてついついジャンプしたくなったり、誰かの尻尾を追いかけてみたくなったり……罠がいっぱい! なんて恐ろしいのだろう!
 優勝者は花輪が豪華になり、走りきった参加者にはおいしいごはんが提供されます。


《S2:わんわん?》
 select 2
 わう、わおわうん?(あなたは犬ですか?)

【1】わん!
 犬です!!!!!
 『僕はチワワって人間さんから言われてるみたいで~、目がくりくり?』へー、そうなんだぁ!

【2】ヒトです!
 notわんわん。
 犬以外のファントムナイトの魔法が掛かっている姿等、プレイングで説明があると嬉しいです。
(季節イベントイラストはURLがあれば見に行きます。が、見ても何か判断がつかないこともあるので説明があるとお互いに幸せになれます)


《S3:交流》
 select 3
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。
 どの場合でも行動によっては店主等モブNPCが出る場合はあります。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者(関係者含む)がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。(ソロ仕様なひとり完結型プレイングはソロとなる場合が多いです。)

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、同行NPCとすごく交流したい方向け。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。
 交流したいNPCは【】でくくった頭文字で指定してください。

  • <Phantom Night2023>わんと鳴く君に祝福を完了
  • ファントムナイトイベシナです!わん!
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2023年11月10日 22時05分
  • 参加人数25/25人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
シラス(p3p004421)
超える者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
冬越 弾正(p3p007105)
終音
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

サポートNPC一覧(3人)

瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して
アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華

リプレイ

●くぅーん、わふわふ
 お祭りの会場となる一角にある入り口のアーチを抜けると、いくつもの出店が軒を連ねている。当然アーチを越える前からそれは見えており、どのお店から行こうかなんて楽しげに会話を弾ませながらアーチを抜ける……のだが。
「わうん?」
 楽しげに母や祖母と会話をしている妹の姿を見ながらアーチをくぐった『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は、なんと! 視界が変わってしまった。
『えっ、何ですかこれ!?』
 わんわんきゃわん! ウィリアムの視線の先ではノーフォーク・テリア――どうやら同様に犬になってしまった『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)が驚いて自分の尻尾をグルグルと追いかけている。
『ハンナ、落ち着いて』
『はっ、シャハル! ……無駄にでかいですね』
『ハンナはずいぶん可愛くなっちゃったね』
 何故だか兄はゴールデン・レトリーバー。艷やかな金毛はふわふわで、そしておっきい。双子なのにこの差はなんだろう。おかしい。ショックです!
「あらー」
「今のお祭りはこうなっているのね」
 頭上から聞こえてきた声に、ウィリアムとハンナはハッと顔を上げた。
 頬に片手を当ててニコニコと見下ろしてくるよく似た顔がふたつ。母のマルカと祖母のマハラはどうやら姿が変わっていないらしく、そのことにまたハンナはショックを受けた。もしかしてまだ未熟だから?
 けれどもすぐにハンナはハッとする。
『何だかとてもいい匂いがします!』
『あっ、ハンナ!』
「こら。大きな子は離れたら駄目、でしょう?」
 犬の臭覚故か、きゃわわんと鳴いて駆け出したハンナを追おうとしたウィリアムは祖母に止められる。ハンナの目当てが食べ物であることは解り切っているし、慌てなくても大丈夫でしょうとは母の論。
『(……この調子でサマーァと合流できるのだろうか)』
 一抹の不安を感じながら、ウィリアムは母と祖母とともにハンナの後を追うのだった。
「わうん、わんわん!」
「わん! わうわうわう!」
「……あれ? もしかして、明霞君?」
 わんわんわんと元気に駆けてきたわんこたち。足元をグルグル回る犬たちの声へと耳を傾けた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)には、その鳴き声の意味が解った。
 手にした大きなトランクを地面に置いて、スカートのクチナシの花飾りを潰さないように気をつけながらしゃがめば、わん! と明霞が鳴いた。
『久しぶりだね』
「わ、どうしたの? どうしてワンちゃんになっているの?」
 人って犬になれたっけ?
 犬のことをあまり知らないアレクシアが目をまんまるにして問いかければ、明霞が体を揺らして笑う。
『老師に祭りに連れてきてもらったらさ、こうなっちゃって』
「天籟さんのお許しが出たんだ? よかったね」
 きっとお目付け役ありとは言え、覇竜に住まう彼等が外へ出れるということは安全が確証されている証拠だ。少しずつ遠くへ旅ができるように――それこそ戦いが無くなったら一緒にトランクを持って旅ができるようになれたらいいなとアレクシアは微笑んだ。
「あとでドッグランの方の競争も見に行かない?」
 きっと一位だよと微笑めば、いいねの言葉とともに尾が振られた。
『こらー! 突然走るでない!』
「皆、待って……!」
 ペキニーズを抱えた詩華が駆けてくる。その間にもアレクシアの足元に居た弥土何と雪花は屋台へ行ってしまったみたいだ。さっきまでアレクシアの周りを回っていたのに、もういない。
『っと、また後で』
 弥土何と雪花を追いかけ、お外同好会御一行は駆けていった。
 花揺らす風のようで、元気で。自然とアレクシアは笑みを浮かべる。
 今日のことも日記に書いておかなくちゃ。

『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は犬に好かれる性質である。大きな犬も小さな犬も、みぃんなドーンとアタックして構って構ってと尾を振ってくるのは可愛らしい。
 まあ男ですから? 美女や美少女の飼い犬に……なんて考えたことが無いわけもない。が――
「でもコレは想定してないよね」
「わうっ!? わんわんわん、きゅわん!」
 まさか目の前で身近のカワイコちゃんが犬になるとは思わないじゃん? しかも何言ってるのかわからないし。……いや、多分『あれっ、わたし犬になっちゃった!』とか言ってるんだろうけど。
 どうしたものかと反応に困る夏子の眼前で、金ロングのミニチュアダックスとなった『この手を貴女に』タイム(p3p007854)はマイペース。尾をぶんぶん振ったと思ったら、その尾を楽しげに追いかけ始めた。
『夏子さん! わたししっぽあるよ! ねえ! わたしお尻にしっぽがあった!
 でもしっぽ捕まえられない! どうして!?』
 わうわう、わんわん! ぐるぐる!
「うおーメチャ回ってる わ~まるで犬 どうした事かいつもより ……いやいつも通り か?」
 回りすぎると目を回して倒れるのではないか?
 しゃがんでよいしょと止めさせれば、すんっと濡れた鼻先が夏子の手の匂いを嗅ぐ。
『夏子さんだ! 夏子さん好き! いい匂い! いつもより手おっきい! だっこして! 登って良い? 登っちゃう!』
「あ~ うわ~ 登ってきた~」
 犬になってしまったタイムはいつもより本能のままに動いているらしい。恥じらう気持ちはどこぞへと消え去って、先刻買った飲食物で手が埋まっているというのによじ登って顔を舐めてくる。だって犬だから! 犬だから許されちゃう!
『だっこ! 夏子さんぎゅってして! おっきな手でぎゅってして!』
「わんぱくタイムちゃんめ~」
 この可愛くて甘えん坊のワンコのために夏子は何とかいい感じに抱えてあげようとする。
 だが。
「わぅん! わん!」
 夏子が動く度に良い匂いがするのだ。
 ケバブ! 焼き鳥! お肉の匂い!
「ああっ タイムちゃんっ 待っ」
『何よはなして! わたしは今ワンちゃんなのよ!! ワンちゃんがお肉食べたいってゆってるの!』
 待たない。何故ならタイムは本物の犬ではないから待ての特訓なんてしていないから! 夏子の手にわうっと顔を伸ばし、短い足を突っ張って、そのいい匂いのを食べさせてと暴れた。
 哀れ、飲食物。包装紙に包まれているとは言え夏子の手からぼとりと落ち、夏子を蹴ったタイムがすぐに包装紙へと顔を突っ込んではぐはぐやっている。
「……まぁ味に変化はなかろうし 僕も食べ……アレ 僕の分は? タイムちゃん?」
 そっちの包みをくれません? なんて手を伸ばせば、「うぅう~~ぐるるるっ」と唸られた。もしかして、いつもは可愛く見られるために食欲を抑えているの? どうなの、タイムちゃん!
『あっ、甘い匂い! ケーキだわ、夏子さん! 次はあれ!』
 顔中を汚してむっしゃむっしゃ食べるタイムをいつ戻るのだろうと見守っていれば、タイムは次の標的を定めたらしい。
「うわーちょっ 引っ張っちゃ……っ!」
 まだ立ち上がってもいないのに袖を噛まれてぐいぐいと引っ張られ、動かないとタイムはひとりで駆けていこうとする。
『夏子さん早く! ケーキが逃げちゃう!』
「ちょっちょっちょ待って待って 待って!?」
 この日夏子は、タイムに大いに振り回されたのだった。
(天籟様、今日はラサに居るって聞いてきましたが……)
 どこでしょう。『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は視線を巡らせるが、そこには人も犬もいっぱいで。
 『拾った手帳』には届け先が記してあったから届けないといけないのに、ニルは直接返したいと思っていた。だから天籟に尋ねようと思ったのに……その天籟が見つからない。
(……ニルは、ずるい、かもしれません)
 天籟はきっと『いい』と言ってくれる。そう思いながら尋ねようとしているのだから。
「わう、わう」
「あっ。こんにちは」
 気付けば足元にペキニーズが居て、見上げていた。
「わんわわ、わん。わわう?」
「ごめんなさい、ニルには言葉がわからなくて」
 ペキニーズに合わせてしゃがみ込む。
「……老師、暫くここに居ますか?」
「わうん!」
 老師と犬を呼んだのは、詩華だ。ということはつまり――
「天籟様、ですか?」
「わう!」
「天籟様、ニルは……」
「わう、わん!」
「……ごはん、ですか?」
「わん!」
 小さな体で頭をぐいっと押し付けたり、少し悩むような間を開けてから犬姿の天籟がニルの袖を引っ張ってくる。元気がないことを案じているのだろうことがニルにも伝わってきて、『なんじゃ、ニル坊』『元気がないの。飯は食べておるのか?』と声を掛けていてくれていたのだと気がついた。
「そうですね、ごはん……食べましょう」
 屋台で食べ物を買う。
(雨泽様だったら何を食べるのでしょう)
 きっと色々と買って、食べて、ニルに「これ美味しいよ」と教えてくれたはずだ。今隣に居ないのが悲しくて、苦しくて堪らなかった。
「わう!」
 天籟が空いているベンチを見つけて駆けていく。追いかけて座れば、膝の上に天籟が顎を乗せた。……きっと慰めてくれているのだろう。
「天籟様、ニルは雨泽様の手帳を預かっています」
 誰かの日記を見るのはいけないことなのに、中身を見てしまったこと。
 自分で返して謝りたいと思っていること。
 お肉と野菜がたっぷり挟まれたピタサンドを食みながら零す言葉を天籟は静かに聞き終えると「わうん!」と鳴いた。
『(大丈夫じゃぞ、ニル坊。ゆー坊は小さき子には怒らぬし、悲しませてしまった自分を責める子じゃろうて)』
 人に戻ったらちゃんと伝えてあげようと思いながら、天籟はニルに撫でられたり抱きしめられたりしていたのだった。

『あれ? もしかしてハンナ!?』
『その声は、サマーァ様!?』
 聞き覚えのある声(人にはキャンキャン鳴く声だけれど)に気付いたハンナが振り返れば、短い足のコーギーが頑張って走ってきていた。
『サマーァ様も小……犬になっていたのですね』
『びっくりだよね、会えて良かったー!』
 両手を広げられないから抱きしめることも出来ないハンナはドーンっとサマーァからタックルを受けて転がり、そんなふたりをウィリアムは鼻先で助け起こそうとしてくれる。
『あ、もしかしてウィリア……えっ、おっきい! いいないいなおっきい!』
 起き上がったサマーァはウィリアムの周りをぐるぐる周り、そんなサマーァを可愛い可愛いとハンナが追いかける。
『(つらい……こんなに可愛いのに撫でられないなんて)』
 くっと密かに苦しんでいるウィリアムの姿を母と祖母とがニコニコと見守って、わしゃわしゃと撫でてあげる。
『あー! ハンナのお母さんたち! いいないいな、アタシも撫でて!』
『サマーァ様!? くっこの体では撫でられません……!!』
 悔しさを感じながら一生懸命すりすりと身を寄せれば、サマーァは「ハンナも撫でられたいの?」と勘違いをして、大きな手に撫でて貰えるの気持ちいいねと楽しげに笑った。
『あっ、ねえねえ、ケーキがあるよ。犬用の、だって。どんなのだろう』
『ケーキですか? いいですね』
『うん、僕も気になるな』
 折角だから何か食べようよとサマーァがキラキラの瞳を向ければ、コーギーのキラキラお目々に勝てる者無し。くりんくりんの丸いお目々にハンナもウィリアムもふたつ返事でマルカとマハラも可愛いわんこたちの後についてきてくれる。
『うーん、どうしよう。どれもおいしそう……』
 そうして向かった犬用のケーキ屋さんには先客が居た。中型犬サイズの柴犬――『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が、色んなケーキに目移りしている。
『どれも可愛いし美味しそうだし……ううん、絶対に美味しいに違いない!』
『ほんとだー、おいしそー』
『そうですね、どれも食べたくなります』
 ゲオルグの横からにゅっと鼻先が覗き、わんわんとサマーァとハンナが相槌を打つ。犬が増えたことに店主はニコニコ笑み崩れ、どれを選ぶのかなと暖かく見守ってくれていた。
『皆で違うのを選んでわけっこは?』
『流石ウィリアム、てんさーい!』
『僕もいいの?』
『勿論です』
『わーい、やったー、ケーキ!』
 ケーキを沢山貰ったら流石に人通りの多いところはと隅に寄り、みんなでわけあって色んな味を堪能した。どれも美味しくて、おかわりがほしくなっちゃう!
「良い食べっぷりだな」
 見ているこっちも嬉しくなる。そう話しかけたのは、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)。ファントムナイトの魔法で筋肉ムキムキな魔法少女の格好となっているが、ハンナたちの祖母や母は魔女であるし、他は犬であるから誰も気にしない。いやむしろ好意的に見られるかも知れない。
「あなたのそれは……パイかしら?」
「ミートパイとケバブ。後からパンプキンスープも食べてみるつもりだ」
 美味しそうねと話しあったマハラとマルカも昴と同じものを食べることに決めたようで、わんこたちは楽しくお喋りしながら食べているから買いに離れていった。
「わ、わふ」
「わあ可愛い。綺麗な毛並みね」
「わん、わ」
「うん? あ、ブラッシングしてほしいの?」
 いいよと微笑む見知らぬ通行人は、きっと犬好きばかりなのだろう。膝に乗せてもらってブラッシングをしてもらうと、絡んだ砂が取れてサラサラになれたことにラサ・アプソ――『闇之雲』武器商人(p3p001107)は満足気に鳴いた。
 屋台に顔を覗かせれば食事を無料で貰えるし、通行人には優しくしてもらえる。いいことばかりだと豊かな毛を揺らして道を行く。
『(あっ、あの「コーギー」のコ。我(アタシ)知ってるよ)』
 色んな犬たちとわんわん鳴いている元気いっぱいのコーギーに気がつくと、彼女へと向かって駆けていく。
『ね、ね、アル・アラクの方!』
『あ、サヨナキドリの……わー、もふもふだー』
 武器商人に気がついたサマーァがグルグルと回る。何ていう犬種なの? すごいねー、毛がサラサラ。さっき梳いてもらったんだよ。いいなーなんて、わんわんきゃんきゃん会話を弾ませた。
『何か美味しいものあったかぃ? よければ一緒に食べようよ』
『今ね、皆で大きなお肉貰いに行こうかって話していたの』
 お肉屋さんがやっている屋台がある。
 きっと大勢で行けば大きなお肉をドンと出してくれるに違いない! と、サマーァは今ハンナと話したところなのだ。
 普段だったらちゃんと小分けして食べるけれど、今日一緒に食べる子たちは皆犬だから、お行儀なんて気にする必要もない。
 一緒にどう? と誘われて、武器商人は「いいね」と返した。せっかく犬なのだから、犬らしく過ごすのがいい。そうしてこんな体験を、土産話にしようと思うのだった。
『えーっと、これで何人? 匹、かな?』
『えっとね、いーち、にーい、さーん……』
 のんびりとゲオルグが数えだしたから、皆でわんわん一緒に数えていく。
『ごっ』
 サマーァとハンナとウィリアムとゲオルグと武器商人。
『それではお肉屋さんの屋台へ突撃しましょう!』
『わーーーい!』
 5匹のわんこたちはえいえいおーが出来ない代わりに尻尾をぶんぶんとめいっぱい振ってお肉屋さんの屋台へと突撃し、見事作戦成功! 大きな大きなお肉を出してもらい、皆で仲良くお肉を分け合った。

●わんわんわん!
 可愛い犬たちが列を為して歩いていく。
 首のオレンジのマリーゴールドの花輪が愛らしく、動物疎通で聞こえてくる声もどの子も楽しげで『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はつい微笑んだ。
 だと言うのに。
『もしかして、ジルーシャ様?』
「えっ、その声――アラーイスちゃん!?」
 はいとわんが同時に聞こえ、トイマンチェスターテリアが愛らしく笑う。
『良かったです、言葉が通じて……』
 ジルーシャに言葉が通じなかったら、アラーイスは足元でキャンキャン鳴くだけになっていた。
「アタシも見つけてもらえてよかったわ♪」
 ジルーシャもファントムナイトの魔法で違うから。
「どんな姿もステキよ。後からまた会いましょ?」
 マリーゴールドを一輪、祝福を祈ってアラーイスの耳へと飾り、見送った。
「アンタにも」
 てってこ歩いてきた柴犬――ゲオルグにもお裾分け。
『わー、人間さんありがとー!』
「フフ、どういたしまして♪」
 よもやこの愛らしく甲高い声で無邪気な柴犬が、ナイトプールで素晴らしい腹筋を披露していたゲオルグとは思うまい。
 ゲオルグはてくてく歩いては、色んな人に撫でてもらう。その御礼にコツンと額を当てて、祝福のお裾分け。皆優しくしてくれて嬉しいから、皆で幸せになれますよーに。
『たくさん愛されておりますのね』
 おもちゃを振ってもらったり、お菓子を貰ったり。その度に尻尾をブンブン振って愛想よく過ごすゲオルグを見て、アラーイスがそう言った。
『うん、みんなやさしいから』
 本当に皆優しい。さっき食べたケーキも美味しかったし、お肉も美味しかった。全部人間さんの好意だって言うのだから、ゲオルグだって僕も好きだよを示しているにすぎない。好きと好きが上手に噛み合うのは、いいことだ。友達と引っ張り合いの喧嘩をしなくてもおもちゃがあって、みんなとのお揃いの花輪やティカがあって、ニコニコ笑顔とふわふわ毛玉の同胞たち。全部いいこと尽くしだから、ゲオルグの尾は揺れっぱなし。
『わたくしも撫でて差し上げられたらよいのですが』
 アラーイスの尾はジルーシャに会った時しか揺れていない。けれどこんなにも喜ぶ子が居るのなら、アラーイスも撫でてあげたいと思いながらパレードを楽しんだ。

●わんわーわん!
『わ、わんちゃんがいっぱい居る!』
 なんて明るい『鳴き声』を上げた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も赤毛の柴犬だ。
 お外同好会の子たちなら楽しげなところに居るだろうと思って、ドッグランへとやってきたのだが――犬! 犬! 犬! 見渡す限り犬が多く、人の方が少ない。
『この中から探せるかなぁ』
 ちょっぴり不安になる。けれども……
「皆、ちゃんと全員居る?」
『弥土何くんが居ないよ』
『え。皆で走りたかったのに……』
『大丈夫さ雪玲』
 聞こえてきた声にパッと焔は駆けていく。
『雪玲ちゃん! 皆!』
『焔!』
 焔に気付いた真っ白なポメラニアンが駆けてきてくれる。どうやら普段よりも素直になってしまっている彼女は今、逸れた弥土何を案じたり焔に会えた喜びを現したりと忙しいらしい。
『よし、わしが探して来よう』
「あっ、老師待ってください。……皆は此処に居て。わかった?」
 どうやら人なのは詩華だけらしく、奔放な犬たちに振り回されているようだ。
 そうして逸れた弥土何はと言うと――
「おい、弥土何」
「わふ? わっ、わうん!」
「……お前、分かりやすいなあ」
 どう見ても弥土何にしか見えない犬に遭遇した『竜剣』シラス(p3p004421)は声を掛けると、犬――弥土何に飛びつかれた。
「なんでラサで会うんだよ」
 だが、彼がひとりで居るはずがないことにすぐに思い至る。弥土何の居るところにはお外同好会があり、彼等が居るところには大抵保護者が目を光らせている。
 つまり、この駄犬は迷子だ。
「おい、雪玲たちを探さなくていいのか?」
「わふ、うーわんっ! わわうん!」
 一応ハイテレパスで話しかけてみたが、駄目だった。
「どうするか……そうだ、レースで目立てば見つけて貰える、か?」
 弥土何が足元をグルグル周りだす。きっと名案に喜んでいるのだろう。
「わうっ、わふん!」
「あっ、居た! すみませーん、その子抑えていてくださーい!」
 もう一匹犬が駆けてきて弥土何に体当たりをする。驚いたシラスはすぐにやめさせようとするが、後を追いかけてきた少女は――詩華だ。つまりこのペキニーズミサイルは弥土何を探しに来た天籟だろう。わっふんわっふんと弥土何に向かって吠えているから、きっと叱っている。
 詩華との会話で(意思疎通が出来るって素晴らしい)お外同好会は皆で走ることに決めたことを知り、シラスは観戦に付き合うことにした。
『あれっ、シラス君!』
「こちら、焔さんです」
 まさかその先で犬となった友人に会うとは思うまい。
 ともあれ、レースである。勿論テレパシーで誘導して優勝をプレゼント――
『あっ、ボールだ!』
『ボールだー! 楽しい!』
「あ、ちょっと待て弥土何!」
 ――したかったのだが。焔がボールに向かって走り出すと、きゃわんきゃわんと他の子たちも走って行ってしまった。
 優勝を逃す結果となってしまったが、犬の姿でもお外同好会の皆は楽しげで、こんな日がずっと続けば良いと願うのだった。

「なんなんスか? このふてぶてしいシェパードは」
 アーチをくぐってさあ屋台通りに~なんて思っていた『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は、己の行路を塞ぐシェパードに半眼となった。
「おや、この子の飼い主かい? 大型犬はひとりで歩かせないように気をつけてね」
「あ、いや、違うんスけど」
 リードも特別に貸し出してあげると通りすがりのお祭り運営委員会の人に渡されて、言い訳を連ねる間もなく美咲はリードを握らされた。
「しゃあないスね……飼い主が見つかるまで面倒見てやりまスか」
 シェパードはリードを装着する間も大人しくしていたし、きっとおとなしい子なのだろう。
「こんな軍人みたいな荷物の犬なんて知らな……うっわ、このタイプの水筒とか、陸自での特殊作戦群研修以来見てないスよ」
 きっと、しげしげと見てしまったのがいけなかった。
「ひょわ」
 犬が唐突に走り出し、隙だらけだった美咲は体制を崩し、そのまま引っ張られるように走り――いや、走らされる。おい待て止まれ、そっちは屋台通りじゃない、ドッグランだ! ひとりで行け!
 シェパードは何事か吠えている。だが動物疎通の無い美咲にはさっぱりと解らない。故に、そのシェパードが美咲の元上司でジオルドであることも、美咲には知るすべもなかった。
 けれどもシェパードことお犬様の求めに応じてドッグランまで来たのだから、美咲もお役御免と言えよう。走っている間に美咲は揚げ物を買いに行った。揚げたて熱々のポテトと肉。至福の味を齧りながら競争を眺めて――
「え。もう終わったんスか」
『当然とは言えるが俺の優勝だ』
 あんなにも重装備だったというのに、シェパードの首の花輪が豪華になっている。
『それより佐藤、その手の食い物は何だ?』
「え、何んスか」
 急に「うーぐるるる」と唸られれば、不平を告げているのだと言うことは美咲にとて解る。
 そうしてずいと渡されるリード。
 嫌な予感しかしないが周りの視線も痛いため、握る。
『駆け足、始め!』
「あぁぁぁぁぁ……!」
 すごい速さで犬が駆け出し、美咲はまた引きずられるように走らされたのだった。

●わうん、わん。わふ、わわん!
 屋台通りを通り抜けた先、ドッグランへ向かったりパレードの受付をしている中央広場はどこよりも明るく飾り付けられ、広場に集う人も犬も楽しそうに過ごしている。
 偶然通りすがった『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)はチラリと視線を向けるだけで、すぐにその場を離れていった。
「ふむ」
 腹ごなしを終えた昴が広場へと足を運べば、ここもそこかしこに犬! 犬! 犬!
 出店の賑わう屋台通りよりも飾りが多いそこを見て回っていれば、時折犬側からも挨拶をしてくれる。撫でてと笑うような表情な犬に、寄り添う人も笑顔。その空気が心地よく、昴も笑った。
「わふ、はふはふあふ! わぅん、ひゃふん、ひゃんんっ!」
 元気な鳴き声に視線を向ければ、一際元気そうな犬――ポメラニアンが地面に転がっていた。昴は知り得ぬことだがその犬は『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)――人間だ。
「かゆいのか?」
「ひゃふ、わうん!」
 しゃがみこんでワシワシと背中を掻いてやれば、風牙はご満悦。ついでに頭も撫でてくれ! と頭をこすりつけてくるから、その時にずれた緑のリボンを結び直してやった。
『ありがとう!』
 きゃわん!
 何を言っているかは解らないがひらりと手を振れば、風牙は走っていった。
『うおおお! 何だかすごく走りたい! 走るの楽しい!!』
 人々の足の間や他の犬の側を走っていくと、何故だか解らないけれどめちゃくちゃ楽しい! しかも時折人々は撫でてくれるし、足の速さも褒めてくれるし、いいことしか起きない!
「あっ、ちょっと……もしかして撫でてほしいの?」
 靴紐を噛んで気を引くとすぐによしよしと撫でてもらえるし、ついでに前足でてしてしすると「だっこ?」と抱き上げても貰える。
『うれしい! もっとなでて! すきすきすき!』
 頭をぐりぐりしたって怒られない!
 満足するとまた走って、お腹が空いたらいい匂いを追いかける。そうするとご飯も出してもらえて、ああなんて最高なんだろう! 犬生最高!
『(そういえば、何しに来たんだっけ。まあいいか!)』
 もっと撫でてもらおう! ご飯ももらおう! ともだちもいっぱい作るぞ! 疲れたらお昼寝をして、それからそれから――!
 風牙はルンルンと弾む足取りで人々の間を練り歩いたのだった。
(……皆、楽しそう)
 それは、良いことだ。笑顔があって笑い声があって、ここには命を脅かさない平和がある。楽しい気持ちに触れたくて、『孤鳥』チック・シュテル(p3p000932)は今日、此処へ来た。けれど『あなたにも祝福を』の声にも応じられなくて、笑みも返すことも出来なくて――まるで烙印を受けていた日々のように気が沈んだ。
(今日は……)
 額へと手を伸ばす。そこにあるのは二本の角。
 なりたい、と思った姿は鬼人種。『彼』と同じ種族。
 その姿を見せたかった。きっと目を丸くしただろう。……『えー』と眉を顰めたかもしれない。彼は余り自分の種族を好いている素振りを見せなかったから。
 側にいないのに、考えるのは彼のことばかりだった。
 話したいことも沢山あったのに、彼が居ない。
「あ……いけない」
 ベンチに座る膝の上に乗せた包みには、いつの間にか皺が寄っていた。知らない内に縋るようにぎゅうと握りしめていたせいだ。『家族』へのお土産のミートパイなのに。アップルパイを美味しそうに食べてくれる子たちだから、きっと喜ぶだろうと買ったのに。
 日持ちがするものはないかと、キャンディも買った。如何にもファントムナイトを思わせる包みのそれは、きっと彼が居たら買っていただろうから。
「……っ」
 胸の中が渦巻いて、ああ、もう此処にはいられない。
 ――ファントムナイトは3日間続く。
(雨泽の姿になれば)
 鏡越しにだけでも会えるのかなと考え……かぶりを振った。手を伸ばしても冷たい鏡面にしか触れられないのは、嫌だ。
 チックはベンチから立ち上がると、帰路へとついたのだった。

「本当に犬が多いのね」
「そうですね」
 なんて答える『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)だけれど、視線はファントムナイトの魔法で白い翼が生えた『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)に向けられている。えっ、だって天使みたいじゃないですか? 天使でしょう? 僕の最愛は天使かなと常々思ってはいたけれど、本当に天使だった!
 ああでも、と少し思う。
(僕も犬だったらもっといっぱい甘えても甘やかしてもらえるのかなぁ)
 いいなぁ、犬。
 ルチアさんに「取ってこい」と命じられる犬。
 ルチアさんに「偉いわね」って撫で撫でされる犬。
 ルチアさんにブラッシングされて、ルチアさんに大切にされて、それでどこに行くのも一緒で――
「……鏡禍?」
「わふ?」
 そんなことを考えていたから、鏡禍は柴犬となってしまった。
「黒くてキラキラだし、鏡禍……よね?」
「わん!」
「わっ」
 わーーーー、ルチアさーーーん! 大好きですーーーーー!
 犬になった鏡禍は知能が下がり、本能のままに行動する。つまり、『ルチアが好き!』に突き動かされている。大好きな彼女に飛びついて、好き好き大好き構って撫でて僕こんなにあなたが好きなんですよと伝えるべく顔や手を舐め回す。
「わ、こら、ちょっと、やめなさいったら」
『わーーー、ルチアさーーーーん!』
 会話は一方通行。話しかけてくれることが嬉しくて、それだけでテンションが上がってしまってやめられない!
 抱きしめてあげることで何とか落ち着かせたルチアは人々の邪魔にならないようにベンチへと移動し、鏡禍の求めるままに甘やかしてあげた。
 甘やかされて鏡禍は大喜び――だが、ひとたび他の犬が近付いてくると……。
「うー……グルルルル」
「こら、そんなに唸ったらダメでしょ」
 鏡禍を窘めながらごめんなさいねと謝れば「いえ、うちの子も近付きすぎちゃったみたいで」と軽く会釈をして離れていく。
「くぅん」
 注意されてしまった鏡禍は、耳を伏せて上目遣い。
 でもあのオス、ルチアさんに撫でてもらおうとしたんですよ?
「ちゃんと言うことが聞けて偉いわ」
『ルチアさん……!』
 やさしい手が頭の上に降りてくる。いつもより大きく感じる手は何だかとっても安心できて、鏡禍は尾をブンブンと振って喜んだ。
(……こうしていると、家で飼っていた犬を思い出すわね)
 退役した軍犬だった『あの子』。あの子もこうやって甘えたり、その度に撫でてあげたりしたっけ。
 懐かしさを覚えながら撫で続けていれば、鏡禍はお膝の上でリラックス。
『(ああ、なんて幸せなんだろう。ずっとこのままでいたいなぁ)』
「鏡禍、眠たいの? いいわよ、寝てしまっても」
 優しい声が降ってきて、その心地良さに瞼もとろりと落ちてくる。
(念写で描き出しておきましょうか)
 けれども描き出すための紙が手元になく、膝の上で鏡禍が寝ているものだから買いにもいけない。彼が起きたら売ってるお店を探そうと決め、ルチアは眠る鏡禍を撫で続けた。
『弾正! 弾正! だんじょう!』
 きゃうきゃうきゃわわん! 甲高い声で『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が『鳴いて』いる。その声の意味を理解できない『君を全肯定』冬越 弾正(p3p007105)だが……くっと片手で顔面を覆いながら膝をついた。イヌマデルが可愛い事だけは理解が出来る上に、この可愛さを表すには語彙力が足りていない。
 けれども黒柴……ではなく雑種の忍犬であるアーマデルには、彼が自分のためにしゃがんでくれたのだと見えた。
『弾正! やさしい!』
 えいえいっと短い足でそのままお膝に乗せてアピールをしてみる。
 しかし、ぎゅっと前足を握られた。
『弾正?』
「うっ……!」
 わふ? と首を傾げる姿プライスレス。ズキューンと盛大に胸をスナイプされた弾正は胸を抑えて息を飲む。良かった、テック忍者マスターの仮装をしていて。そうじゃなかったら(社会的に)死んでた。見せられないよこんな緩みきった表情は……。
(落ち着け。落ち着くんだ。クールにいこう)
『あっ、弾正! お膝は!?』
 立ち上がってたこ焼きを買いに行こう……と思ったら、足元でくんくんきゅぅん。
「うぅっ……!」
 心臓が! 心臓が痛い! 生き残れるのかな!
 すごい勢いでHPとかAPが削れていく気配を感じ、たこ焼きは断念。たこ焼きだと火傷するだろうし、玩具をカミカミしてもらおう。
『わあ、弾正! コレ光った!』
 カジキマグロおもちゃを齧ったら光った。うーわんわんと威嚇する。そんな姿も可愛くて、弾正はニコニコする。
『うー! 俺は強い! マグロには負けない! 倒すぞ!』
 カジカジ、ケリケリ、てしてし、わんわん!
『はあはあ、これくらいにしてやろう……』
 カジキマグロは健在だが、疲れてきたのでそういうことにしておいてやるのだ。
「イヌマデル、休憩をしよう」
『あっ、弾正!』
 ひょいと抱えられ、念願の膝の上。
 乱れた毛をブラッシングしてもらえば心地が良くて、アーマデルはウトウト夢心地。ウトウトしていることに気付いた弾正は、母が歌ってくれていた子守唄も口ずさんでやった。
『だんじょうは……ぶらっしんぐも上手だな……どこで覚えたんだ……そいつ誰だよ……』
 ハッ! いけないいけない、子守唄も心地よくて寝てしまうところだった!
『弾正! もっと遊ぶぞ!』
 走って転がって、もっともっと!
 ちょっと休んだからもう平気とふんふんしながらわんわんと元気に鳴くアーマ出るに付き合う弾正は、「明後日くらいに筋肉痛が来るだろうか……」と覚悟を決める。
『なんで明日じゃないんだ?』
 問いかける声は弾正には届かない。けれどもマッサージは任せておけと、アーマデルは弾正を大いに振り回したのだった。

『おいおい、一体どうなってるんだこいつは……』
 噴水の水面へ映る姿に、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は思わず驚愕の声を零した。
 急に視界が低くなったから目眩で倒れたのかと思ったが、すぐ傍らにはクリクリとした目の狆が居て、その目に映るポーティーが居たからまさか! と走って広場へと向かったのだ。
 その、まさかだった。自身はポーティーであるし、そしてこの狆は――
『んふふ、お犬さんというのもええ感じやね』
 楽しげなその声は、妻たる『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)のもの。短毛の黒猫姿とは違うふかふかの長毛は、尾を振ればふかふか揺れるのがまた良いとは彼女の言。
『お犬様になっても、男前やよ』
『……お前さんは犬になっても変わらねぇな』
 いつも通り、好きだと思う蜻蛉。
 いつも通り、綺麗だと思う縁。
 全ての気持ちが詳らかとなる前にそっぽを向いてしまうところも、いつも通り。
『ケーキ、でいいか』
『ん?』
 腕は使えないから、ん、と顎で示す先には『犬には無償提供』と記された犬用ケーキの屋台。ふたりいるのだから当然ふたり分、色違いのケーキが提供された。
 小さな蜻蛉はあむあむ食べるが、彼女よりも大きな縁にはほぼ二口。食べる姿を見守っていれば、感想は? なんて蜻蛉が問うてきた。
「そうさなぁ…手が使えねぇってのは案外不便――こら」
 感想を求めておいて、蜻蛉は縁の周囲をパタパタ走り出す。
 手が使えなくて不便だと言った端からこれだ。静止するには首を咥えるしかない。
『あら、ま。すぐに離してしまうんです?』
『……力加減が難しくて、』
『難しゅうて?』
 ……怖い。
 最後まで言いたくなかった縁は話題を変える。
『……ったく……これじゃ犬っていうより猫じゃねぇかい?』
『猫みたいな犬……やって、中身は猫やもの、んふふ』
 中身は猫。だから猫みたいににんまり笑う。
『縁さん』
『ん?』
『ケーキついとるよ?』
『どこだ? こっちか?』
『ああ、そこやなくって……もう。少しだけ屈んでくれる?』
 腕が使えないというのは、やはり互いにもどかしい。
『これでい――……』
 ぺろんと口元を舐め取られ、縁は固まった。
『ご馳走さんでした♪』
 んふふと蜻蛉が笑う。夫婦になっても固まってしまう、そんな縁が愛おしい。それに今、お犬さんなんよ? 周囲の目だって気になるものでもないでしょう?
『…………』
 楽しげな瞳に、縁は微妙な視線を向ける。
 お前さんなぁとか、色々言いたいことはある。
 だが、犬だから。腕が使えないからと言われてしまえば実際そうだし仕方がない。先刻のやり取りをずっとする訳にもいかないのだから。
「……わう」
「わん♪」
 情けなく鳴くポーティーと、機嫌良く鳴く狆がそこには居た。
「メイ、こっちおいで」
 ルインが噴水の側へと手招いた。そこには大きな犬が寝そべっていて、大きな犬が苦手な『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)はぴょわっとなった。
 でもルインがおいでと言ってくれているし、普段通りの姿のふたりの方が大きな犬よりも大きい。
 それに、この場に大きな犬が居るということは、すぐ側に飼い主が居るということである。先にルインは飼い主へと顔を向けて了承を得てくれていて、それからもう一度「大丈夫だよ」とメイに声を掛けた。
「ん。……こ、こんにちは、なのです」
 ルインの服をぎゅうと握りながら、まずはご挨拶。
 垂れた三角耳が持ち上がって、はふっと大きな欠伸をする犬さん。目は黒くてまん丸で、優しそう。
「さ、さわってもいいですか?」
 ルインが大型犬は優しい子が多いって教えてくれたけれど、でもやっぱりちょっと怖い。それでも「大丈夫」の声に背中を押されてそろりと手を伸ばせば――
「うひゃ!? い、いま犬さんが手をぺろって! メイ、ごはんじゃないです!」
「メイ、そうじゃないよ。犬の顔を見てみるといい」
「おかお?」
 犬さんのお顔は穏やかなまま。もしかしてご挨拶?
「メイ」
 首を伸ばす仕草を見たルインが促して、メイはまたそろりと手を伸ばした。
 もふっと触れる柔らかな毛と、暖かさ。猫さんとは違う硬さ。
 撫でさせてもらえた喜びに、メイの耳はピンと立った。
「ね、怖くないでしょ?」
「うん。怖くないです!」
 ルインが慣れた様子でわしゃわしゃと背中を撫でているのを見て、メイも撫でますといっぱい撫でて。前足を触らせてもらって、ぎゅっとさせて貰って――その度に咲くメイの笑顔に、ルインは克服できたかなと満足気に微笑んでいた。

「アラーイスちゃん、そういえばさっき、どうしてアタシってわかったのかしら?」
 今日のジルーシャは見た目も色も、全てが違う。けれども、何故?
 パレードを終えて再び合流したアラーイスへ、ジルーシャはそう尋ねた。
『わたくし、今はとびきり鼻が良いんですの』
 つまりは香り。ジルーシャが香りを消さぬ限り、今のアラーイスには解るのだ。どうしてその姿なのかなんて、野暮なことは尋ねない。良い香りですねとアラーイスは微笑んだ。
「あら?」
 足元にちょこんとやって来たコーギーに気がついた『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)は足を止めた。
「わう!」
「どうしたの? 迷子かしら?」
 猫派のエルスでもコーギーという種は知っている。おしりが食パンみたいな可愛い犬だ。だとしたら飼い主等の連れがいるだろう。
 きょろりと周囲を見てみるが、それらしい人は見えない。
「あの方もこんな可愛い子は飼っていないだろうし」
 エルスにとって犬と言えば赤犬だけれど、あちらは何方かと言うと闘犬だ。
「どうしようかしら。そろそろ屋台の方へと行こうと思っているのだけれど……」
「わん! わうわ!」
「一緒に行くって言っているの?」
「わう!」
 たぶん、『そう』かなぁ。
「お腹が空いている?」
「わうう」
「違う?」
「じゃあやっぱり迷子なのかしら」
 困ったわ。言葉が解れば何とかなるのかもしれないけれど、エルスにはコーギーが何を言っているのか解らない。
『あのね、あのね! ひとりなら、遊ばない? って声をかけたの!』
 わんわんわふわふ、あおん。
 コーギー――サマーァは沢山話しかける。
「撫でてほしいのかしら。あ、それともブラッシング?」
『うーん、それもいいかなぁ』
 わうわうと頭を動かす様が頷いているように見えて、エルスは「それじゃあ決まりね」とベンチへと向かった。
『メイメイ様、こちらにいらしたのですね』
 とことことトイマンチェスターが『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)の前へとやってきて、わうんわんわんと鳴いた。
「あら? あなたが、案内、して下さるのでしょう、か?」
『……これは通じていませんわね』
 ふわふわな動物が大好きなメイメイはしゃがむと、にっこりと笑いかけた。メイメイにとってこの犬に溢れた広場は楽園で、しかも犬が自ら話しかけに来てくれたととても良い笑顔を浮かべていた。
『もう、メイメイ様ったら。そういったお顔は好いた殿方に……まあ良いですけれど』
「おしゃべりさん、なのですね」
 わうわうと沢山アラーイスが喋るから、メイメイは更にニコニコになる。
『当初の予定は崩れてしまいましたが、楽しみましょう』
「ごはん、ですか?」
 話は通じてはいないがアラーイスが屋台へと向かって歩きだすと、お腹が空いているのですねとメイメイがついていく。
 店前でわうわうと鳴くのはきっと美味しいお店を教えてくれているのだと解釈し、南瓜料理と犬用のおやつを購入して。ベンチに座れば、アラーイスもちょこんと隣へ座った。
「アラーイスさま、見つけてくださるでしょうか」
「わう」
「ふふ。あなたと良い子に待っていますね」
 待っている間、少しお喋りに付き合ってください。
 食事を終えると手持ち無沙汰だったから膝に乗ってもらって優しく撫でて、そうして語るのはアラーイスのこと。
「とても可愛らしくて、わたしにそれは優しくして下さるのです」
 姉のように見える時があること、心を見透かされているような時もあってドキッとしたりすること、でも時々物思いに耽るような顔をしていることが気になっていること――そんな彼女にいつだって幸せに微笑んでほしいと思っていること。
『メイメイ様……』
「まあ、よく見たら、あなたは瞳の色がアラーイスさまと同じなのです、ね」
 蜂蜜色の瞳を覗き込み、微笑んで。それから抱きしめて、頬を寄せた。
「あなたにも、幸いがありますよう、に」
 何故だか静かになったトイマンチェスターテリアの首に細身のリボンを巻いて、そろそろ自分からもアラーイスを探さなくちゃとメイメイがベンチから立ち上がった。
 その時だった。
「アラーイスちゃん、用事は済んだ……って、メイメイちゃんを見つけたのね」
「……え? あっ、え、え?」
 見知らぬ人が近寄ってきて、かけられた言葉にメイメイが目を丸くする。今、なんて。
「あ。ジルーシャよ。それで、その子はアラーイスちゃん」
「……アラーイス様?」
「わう」
「わたし、今、ご本人に」
「……くぅん」
 顔を両手で覆って「ああああああ」となってしまったメイメイが落ち着くのを待ってから、三人はククル・ティファールを楽しんだ。

 ――――
 ――

 入る時とは反対にアーチをくぐれば魔法は解ける。
「うお」
 わーっと走っていった風牙が驚きの声を上げるのは、知能が低下していたからだ。えっ、何してたんだっけと考え込む者たちもいる。
「……あら? サマーァ、さん?」
 飼い主を探しましょうか。尋ね犬の張り紙がローレットにでているかもね? なんてアーチをくぐったエルスも驚いた。一緒に居たコーギーが人になったのだから。サマーァさんって獣種だった?
「あっ、アタシってわかる? あっ! わっ、アタシ、人に戻ってる!」
 会話が一方通行なのは面白いけれど、ちょっともどかしいことがあって。やっとお話できる! とサマーァは喜んだ。
「あのね、アタシ、一緒に行きたいなってお店があって……! でも突然犬になっちゃって」
「まあ、そういうことだったのね」
「よかったら一緒に行ってくれる?」
「ええ、勿論」
 たまにはこうしてのんびり過ごすのもいいでしょう。
 会場を出たばかりだけれど、くるりと方向転換。
 そうして再度アーチをくぐって――
「……あら」
「……わん!?」
 えええ、アタシまた犬になっちゃった!?

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

わうん、わ、わん♪

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