PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<クロトの災禍>最強を騙るもの

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界は終わる。終わるべくして。
 ずっと――ずっと語られていたことだ。
 神託の乙女は、あなた達に語ったはずだ。
 世界は亡びに向かっている、と。
 ――刻一刻と。その時は訪れようとしているのだ、と。


 ラサ、『南部砂漠コンシレラ』。その名の通り、ラサ南部に展開されるこの一連の地帯は、覇竜領域への交易路が存在し、交易路の関所の役割を果たす『覇竜観測所』が南方に、西方には影の領域を観察する『終焉の監視者』の本拠が存在する。
 つまり、ラサにおいてもっとも剣呑な地域である――と言うことになる。現在において、破滅との最前線である、といっても過言ではないわけだ。
「来るぞ!」
 そんな砂漠のただ中、『終焉の監視者』に属する兵の一人が叫んだ。双眼鏡からのぞくのは、砂塵に塗れて行軍する人型の異形たちである。
 例えば、全身鎧の何か。あるいは、人の形をした青い炎じみた何か。あるいは、影その者といった形。共通するところは「かろうじて、人型である」程度であるが、いずれにしても彼らは『行軍』を行っていた。つまり、何らかの意思のもとに動いている。
「間違いない、『不毀の軍勢』だ!」
 監視者は叫ぶ。『不毀の軍勢』。それは、昨今のラサ南部砂漠地帯において、突如として出現した『人型の怪物たち』である。
 目的は不明。目標は不明。ただ突如として現れ、あたりの一切合切を蹂躙する――。
『我ら 最強 也!』
 それらは、轟轟と叫ぶ。
『我ら 無敵 也!』
 轟轟と、最強を、不毀を、騙る。
『我ら 全剣の斗 也!』
 轟、と、それらは王を讃えた。
『全剣王より生まれし 我ら 不毀 也!』
 轟。軍勢は吠える。雄叫ぶ。無敵を。不敗を。不毀を。
「奴ら、どこに向かっている?」
「その辺の遺跡で暴れてくれりゃあいいんだがな……残念だが、ルート上に小規模のオアシス都市がある。砂漠の幻想種の集落だ」
「アルフェイムか? 小規模の集落だ! あの数に攻め込まれたら、文字通りに踏みつぶされるぞ!」
 ちっ、と監視者は舌打ちをした。仲間に告げる。
「このまま監視を続けてくれ。俺はいったん戻って、アルフェイムに防衛線を構築する。それから、ローレットだ! 不毀の軍勢は、ローレットでもなきゃ止められん!」
「言葉通り、最強、か」
 ぎり、と仲間が歯噛みした。不毀の軍勢は、その個体個体が、『特異ともいえる能力』を持っていた。例えば、今前列を行く重鎧の騎士は、『最強の防御能力』を。
 その後ろを行く影の騎士は、『最強の反応速度』を。
 青い炎じみた何かは、『最強の魔術能力』を。
 それぞれ、『所持していると騙る』。つまり、『我らこそが最強である』と、謳う。それが事実かはさておき、少なくとも、彼らがその言葉に恥じぬ強力な能力を持った軍勢であることは事実であり、そしてこの場にいる監視者たちでは手も足も出ぬ存在であることは事実であった。
「最強には最強をぶつけてやれ。俺達には、ローレットがいる」
 だが――人類にも、最強は存在する。
 ローレット・イレギュラーズ。それは間違いなく、魔との戦いにおける最高戦力といえる。
 ならば、彼らの手を借りるのが、この場において最善の策に間違いないのだ。


「全剣王の斗。彼らはそう言ったそうですね」
 そういったのは、ラド・バウの闘士でもあるメルティ・メーテリア(p3n000303)は、慣れぬ砂漠の暑さに額の汗をぬぐいながら、あなた達ローレット・イレギュラーズへとそういった。
「聞いたことがある方もいるかもしれません。全剣王。鉄帝における『伝説上の人物』です。
 生涯不敗にして最強の皇帝。彼はこの世に存在するすべての武術・魔術を習得し『全剣』、つまりすべての武の王を謳った人物です。
 一説によれば、鉄帝の建国王であるとも」
 聞いたことがあるものもいるかもしれないし、そうでないものもいるだろう。
 メルティの言葉によれば、それは鉄帝にて伝説上の人物、と言われる存在らしい。
「正直、伝説(つくりばなし)だと思っていました。生涯不敗であるならば、なぜ彼は姿を消したのか。
 皇位を退くという事は、すなわち『敗北する』という事なのですから。
 寿命なり病なりで死去したとしても、そうなる前に敗れ去ります。
 事故か何かで死んだとするならば、そう語られるはずです。
 つまり存在自体が、胡散臭い――されど、鉄帝の民なら、一生に一度はあこがれる、『生涯不敗』の称号。
 ファンタジィとマイソロジィの融合。そういうものが、『全剣王』です。
 そして、その全剣王の斗を謳う怪物たちがいる」
 ほう、とメルティは吐息を吐いた。
「斬りあい(おはなし)してみたい……」
「……それで、わざわざ、この危険地帯へ?」
 あなたの仲間がそういうのへ、メルティはあたりに視線を移した。砂漠の幻想種たちは、あちこちからおっとり刀ならぬおっとり弓矢であちこちを駆けまわっており、終焉の監視者たちの指示のもと、非戦闘員の避難誘導と迎撃準備を整えている。
「もちろん、この世界に生きるものとして、魔のものに対抗し、無辜の民を救うという気持ちは捨てていません。
 鉄帝の動乱にて、私たちもいろいろなところから力を借りましたから。それを返したいという思いもあります。
 ですが、自分に嘘はつけません。義侠心と正義の心、そこに『最強あるならば、挑みたい』という私心があることは、命を預ける皆さんにはしっかりと伝えておきたいのです。ましてや、相手は鉄帝の王を騙るものであるならば……これはもはや、サガです」
 いささか早口でメルティは言う。なんにしても、伝説の存在に、些か興奮しているのは事実のようだ。可憐な少女なれど、頭は鉄帝である。
「さて、改めて状況を説明しましょう。皆さんは、最初にして最後の防波堤になります」
 と、メルティが言う。
 終焉の監視者たちの話によれば、30の不毀の軍勢が、このオアシス都市アルフェイムに向けて進行中とのことである。
 イレギュラーズたちが担うのは、この最初にして最後の防衛戦だ。アルフェイムより数百メートル、砂漠のど真ん中に陣取り、この軍勢を迎撃する。
 はっきりと言えば、アルフェイムの防衛戦力では、不毀の軍勢に太刀打ちはできない。つまり、唯一対抗できる戦力が、あなたたちローレット・イレギュラーズなのだ。
 最善は、この場における敵の全滅。最悪でも、アルフェイムの人々が離脱するくらいの時間稼ぎはしなくてはならない。
「最強を騙る者達です。では、こちらも最強をぶつけましょう。
 さぁ、みなさん。楽しく斬りあい(おはなし)しましょうね」
 にっこりとメルティが笑うのへ、あなたはうなづいた。
 ――砂漠の地にて、偽りの最強を滅する戦いが、始まろうとしている。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 最強を騙る軍勢を撃破しましょう!

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 ラサ、『南部砂漠コンシレラ』。この地にて、『最強』を騙る敵性存在、『不毀の軍勢』が現れました。
 彼らは、『全剣王』なるものの配下であり、自らを最強の存在と謳い、各地を蹂躙しています。
 実際に最強かはさておいて、彼らは非常に高い戦闘能力を誇り、今まさにアルフェイムと呼ばれる砂漠のオアシス都市を踏みつぶそうとしています。
 彼らに対抗できるのは、あなたたち――ローレット・イレギュラーズしか存在しないはずです。
 みなさんは、砂漠地帯にて不毀の軍勢を迎撃します。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は砂漠。
 敵との接敵までに多少の時間はありますので、何らかの準備を行うことはできます。

●エネミーデータ
 アーマード ×10
  不毀の軍勢の内、『全身鎧の異形』です。
  彼らは『最強の防御能力』を謳います。実際、防御技術や特殊抵抗が非常に高いことが予測されます。
  わかりやすいタンクタイプといえるでしょう。
  その防御技術は驚異的ですが、『それだけの独活の大木』といえる性能であることも事実です。

 シャドウズ ×10
  不毀の軍勢の内、『影の人型異形』です。
  彼らは『最強の反応速度』を謳います。EXA、反応、命中、回避。これらを高水準で持ち合わせています。
  スピードアタッカーですが、『速いだけのカカシ』といえることもまた事実です。

 ブレイズ ×10
  不毀の軍勢の内、『炎のような、魂の様な人型の異形』です。
  彼らは『最強の魔術』を謳います。高い神秘攻撃力をほこり、強力な遠距離攻撃を仕掛けてくるでしょう。
  ですが、『近づかれれば何もできないモヤシ』とも言えます。

  総じて、彼らは最強を謳いますが、その性能は歪であり、同時に『真に極めた存在である、ローレット・イレギュラーズ』には一歩及ばない性能をしています。
  最強の名を謳うべきなのは、皆さんであるはずです。

●味方NPC
 メルティ・メーテリア
  ラド・バウのファイター。CT特化の軽量ファイターです。
  今回はすごく本気で『斬りあい(おはなし)』がしたいので、全力で戦っています。
  敵の数が多いので、皆さんの戦術面で足りないところのサポートや、単騎で放っておいて囮にするなど、便利に使ってやってください。そう簡単には死なないので大丈夫です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <クロトの災禍>最強を騙るもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月11日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感

サポートNPC一覧(1人)

メルティ・メーテリア(p3n000303)
エンゼルブレイド

リプレイ

●オアシスより
 砂漠のオアシス都市、アルフェイムよりしばし。
 砂漠の真ん中に、イレギュラーズたちの陣地が存在する。
「最強ねぇ」
 むむむー、と唸るのは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)だ。ぱたぱたと顔の辺りを仰いで風を送りながら、あたりに視線を送っている。
「実際の所、強いのかな?
 ボクだって、メルティさんとか、鉄帝の人の気持ちもわかるの。
 ボクはバトルが好きだからね。
 だって、全力で戦ってると、自分の成長を強く感じるんだもの。
 一分前のボクより、一秒前のボクより、強く、強く、って」
「ああ、ワカルよ」
 『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がうんうんとうなづいた。
「一分一秒――戦いの中ですら成長するヨロコビ、ってやつだ。
 敵が強ければ強いほど、自分もずっと強くなれる」
「わかります」
 むふー、と、メルティ・メーテリアが頷く。
「斬りあい(おはなし)、いいですよね。いい」
「頭鉄帝どもめ」
 『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)が、ふむん、と唸った。
「で、セララ君も聞いていたが、実際のところどうなのだ、しーてーおんな。最強を騙るくらいには、敵は強いのか?」
「報告に聞いたところによると――ですけれど」
 と、メルティが言った。
「少なくとも、現地の部隊では太刀打ちできなかったことは事実です。
 そして、能力的なものでは、確かに高水準なものを確認できたと」
「つまり?」
「ハヤイのがいた。カタイのがいた。ハゲシイ攻撃のがいた」
 イグナートが頷く。
「こんなところかな? それは間違いなくジジツとして受け止めておくべきだよね」
「うーん。やっぱり実際に戦ってみないと、だね」
 セララが笑った。
「たのしみ」
「たのしみ」
「たのしみ」
 三者三様の『たのしみ』が出てくるのへ、愛無が唸る。
「頭鉄帝どもめ」
「でも、本音を言うと――ちょっと、頭には来るかもね?」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が微笑ってみせた。
「僕の前で『最強の魔術』を騙る、なんてね?
 どこが最強なのか、見せてもらおうかな、なんてね?」
「意外と頭鉄帝が多いのか?」
「いや、僕は別に頭鉄帝じゃないよ? うん」
「それ言ったら、ボクも旅人(ウォーカー)だから鉄帝じゃないよ?」
「私は斬りあい(おはなし)したいだけです」
「オレは頭鉄帝かもね!」
 ははは、と笑いあう仲間たち。愛無も、ふむ、とと息を吐くように僅かに笑ってみせた。
「変に緊張していないのは良いことだ」
「ま、強いだの最強だのってのとはちょくちょく戦ってきたところだ」
 『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がそういった。
「鉄帝ってことで言えば、俺達は『冠位最強のバルナバス』にだって勝ったわけだ。
 俺達はいつだって、格上と戦って仕留めてきたんだ。
 いまさらぽっと出が最強を騙ったところで、怖くとも何ともないだろう?」
「まァ、そうだな。むしろ肩慣らしにもってこいだ」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、ぐるり、とストレッチのように右肩を回しながら言った。
「奴らがどうだろうと、終焉の地からやってきてることは確かだ。
 最強かどうかは知らんが、少なくとも、脅威であることは事実。
 俺たちの力が通じるか……っていう試金石にはちょうどいいだろ?」
「そうだな。少なくとも奴らは、終焉からの存在違いないわけだ」
 と、そううなづくのは『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)だ。
「それに、全剣王、だったか。
 まさかこれだけの軍勢を率いて、こけおどしというわけもないだろう。
 ……ないよな?
 得てして、自称最強、何てのは大したことがないのが世の常だが?」
 肩をすくめるミーナに、ルカもその美貌をあきれたように変えて肩をすくめてみせた。なんともな、という所だ。
「そもそも、全剣王というのが、おとぎ話のようなものなのだろう?」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が言う。
「まぁ、そもそも魔種もおとぎ話のようなものだったらしいが。
 しかし、それでも、なぁ?」
 ふむ、と唸る。
 全剣王。『ぜんけんおう』、あるいは『すべてつるぎおさめしおう』。その名の通り、すべての武をそのスキルとして納めた、鉄帝最強の皇帝にして闘士というが。
「怪しくないか? 正直」
「怪しいですよ、正直」
 と、メルティが言う。イグナートもうなづいた。
「例えば……伝説のかぐや姫が月から降りてきて、オレたちに戦いを挑んできた! って言ったら信じる?」
「冗談だろ?」
 ミーナが言った。
「いや、まて、そんなレベルなのか?」
「それくらい荒唐無稽ってことだよ。おとぎ話が目の前に、っていうのはね?」
「なるほど。まだ、『全剣王を騙る魔種がいる』と考えた方が現実的だ、と?」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)がそういうのへ、メルティが頷く。
「その可能性も充分に。でも、ロマンは追求した方が、面白いので」
「ワンチャン、本当の全剣王だったら、燃えるよね!」
「頭鉄帝だなぁ」
 盛り上がる二人に、アーマデルは苦笑する。
「だが、全剣王がおとぎ話であっても、現実的な脅威が迫ってるのは確かだ」
 アーマデルがそういうのへ、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は頷いた。
「そうよねぇ。砂漠で歓談もいいけれど、やることはやってしまいましょう。
 それに、ちょっと気になるところもあるのよねぇ」
 んー、とメリーノが口元に手をやるのへ、ミーナが頷いた。
「敵の隠し玉がないか、という所か? なにせ、情報精度はさほど高くない。
 ……いや、これだけの『雑兵』が集まって行軍している、というのも胡散臭いか。
 となると、指揮官がいる、と?」
「ん……その可能性、ちょっと考えたんだけど。
 でも、どうなのかしら……」
「奴らの動きは単調だ」
 ルカが言った。
「指揮官が居たら、そいつは失格だろう。
 アホみたいに自分を讃えさせて、まっすぐ進み、目につくものを破壊しているだけだからな」
「ふむ、そうなると、現場指揮官的なものはいない可能性が高いか」
 汰磨羈がいう。
「えー。全剣王、来てたりする可能性をちょっと期待したのに」
 セララが、ぶー、とほほを膨らませるのへ、ヨゾラが苦笑した。
「まぁ、来てたら話が早かったんだけれどね。
 すべての武と魔をおさめた王、か。本当におとぎ話だ」
「メリーノ殿の心配は、ひとまず大丈夫だと思う、が」
 アーマデルが言った。
「警戒は怠らないでほしい。何が起こるかは、わからないからな」
「それはねぇ、もちろん」
 メリーノが笑った。他の仲間も、警戒を怠っているわけではない。何せ相手は、みちのもの、だ。それに油断するようなものは、この場にはいなかった。
「とにかく、それじゃあ準備を始めましょうかぁ。
 えっと。奇襲チームと、防衛チーム。これに分かれましょ?」
 と、メリーノの言葉に、仲間たちはうなづいた。
 作戦を単純に説明すれば、まずは防衛チームが防衛ラインに立ち、敵と戦闘に入る。その隙をついて、後背から奇襲チームが敵部隊を攻撃する。万が一にも、敵が防衛線を外れて行かないように、という形だ。
 無論、この人数で30の兵士を包囲することはできないだろうが、後ろから攻撃するというのであれば、漫然と正面から受け止めるよりは動きやすい――という判断である。
「しかし、敵は真っすぐにこっちに来ると思うかね?」
 愛無がそういうのへ、汰磨羈が笑った。
「最強無敵を謳う軍団ならば、小細工するようなルートは通らんだろうさ。
 プライドというものがな、彼らを縛り付けるものだ」
 不毀の軍勢は、最強を謳い、その通りにふるまおうとする。つまるところ、『道を曲げる』事などは、最強ではないのである。
「敵も頭鉄帝か? 此処はラサだぞ」
 愛無が言う。
「全剣王とか名乗るやつが、頭鉄帝じゃないわけないだろう?」
 レイチェルが、くく、と笑った。ルカが笑う。
「まったく、人様の土地で好き勝手してくれやがる」
「鉄帝の評判が著しく下がっている気がします」
 くすくすとメルティが笑った。
「しーてーおんな、他人事じゃないぞ」
「そうでしょうかね、愛無さん?
 さておき。私は皆さんの指揮下に入ります。
 自由にしていいならば、そのように。足は引っ張りませんよ」
「メルティは、自由になってるシャドウズやアーマードを狙ってよ」
 イグナートが言った。
「影のやつと、鎧のやつ!」
「しーてーおんなはそういうのが得意だろう。
 よし。しーてーおんな。こいつ等どっちが多く喰い散らかすか競争しよう。勝った方が奢りな。口直しに喰いたいもの考えておくといい。また僕が勝つからな」
「ええ、今度は負けませんよ?」
 ふふ、と笑うメルティに、愛無は肩をすくめてみせた。
 さて、奇襲チームに所属するのは、以下の4名である。
 汰磨羈。ルカ。愛無。アーマデル。攻撃面では隙のないメンバーといえるだろう。奇襲攻撃で最大火力をぶつけるのには、適した人材たちだ。
 それからサポートとして、メリーノが同行するようだった。潜伏陣地の設営の手伝いと、奇襲チームが攻撃してワンテンポ遅れて、後衛から攻撃を仕掛ける予定らしい。
「では、砂漠に隠れて待機する」
 アーマデルが言う。
「とはいえ、敵がやってくるまであまり時間はないだろう。
 いつでも動けるように、そちらも気をつけてほしい」
 アーマデルの言葉に、ヨゾラが頷いた。
「任せて。こっちでちゃんと引き付けておくから」
「足跡なんかは任せな。
 綺麗に消しておいてやるよ」
 ニィ、とレイチェルが笑う。
「……御主にそう言われると、なんか、怖いな?」
 ふふ、と汰磨羈が笑う。レイチェルは破顔した。
「はは! さっさと行ってこい! 一応、気をつけてなァ?」
 レイチェルがそういうのへ、奇襲組は砂漠の中へとすぐに姿を消した。レイチェルが、ふ、と息を吹きかけると、右半身の魔術紋がわずかに光、赤色の風を砂漠の上へ吹かせた。風が、彼らの足跡を消してしまう。隠蔽完了。
「サァて。あとは、俺達の仕事か」
「そうですね。愛無さんとの賭けがあります。次こそは鉄帝で有名なパフェをおごってもらうので、私も頑張りますよ」
 メルティが言う。イグナートが声を上げた。
「ああ、あの、あれ? 並んでると急に『戦って勝った奴にしか売らない! 並んでる全員で戦え!』とか言うお店の?」
「そうです。たまに異様に強い方が並んでいるので疲れます。愛無さんが居れば楽でしょう」
「うーん、荷物持ちに駆り出される男の人みたいだ……」
 セララが苦笑する。
「まぁ、それはいいが。ここで無様をさらしたら、それも夢のまた夢だぞ?」
 ミーナが気を引き締めるようにとそういう。無論、という様子で仲間たちはうなづきで返した。
「しかし、最強……最強ねぇ?
 何をもってして最強なのか知らないけど……自称最強は、得てして最強ではないんだよ。
 井の中の蛙大海を知らず、っていうからね。
 終焉とか言う、井の中にずっといた事。教えてやるとするか」
 ふ、とニーナが笑う。果たして、それを合図にしたかのように、砂塵の奥から、ざ、ざ、ざ、という行軍の音が聞こえた。
『我ら 最強 也!』
 ごうごう、ごうごう、とそれらの声が聞こえる。それらは、謳、である。
『我らこそ 不毀の軍勢 也!』
「さぁて、来たね」
 ヨゾラが言う。
「最強の魔術、どれだけのものか……みせてもらうよ?」
 仲間たちが身構える。果たしてそのタイミングで、敵もこちらを発見した様だった。一瞬、ざ、と足を止め、すぐに踏み込む。
『我ら最強! 故に、足を止めず! 進軍せよ! 踏み荒らせ!』
「気にせずつっこんでくるみたいだね。まぁ、その方がやりやすい!」
 イグナートが、ばき、とその拳を鳴らした。
「オレは【黒撃】イグナート! 最強の竜種を討ち破った者! その最強を騙る軍勢の力、事実かどうか測ってやろう!
 イノチの要らないヤツから掛かって来い! オレを殺せたら竜殺し超えを名乗れるよ!」
 叫ぶ。闘気、それを全開に! 立ちはだかる。闘鬼か。イグナート。まさに、英傑!
 その言葉に、アーマードと呼ばれる、全身鎧の異形が叫んだ。
「最強とは我ら也! 我ら、最強の盾!」
「最強の韋駄天!」
「最強の魔術!」
『打ち砕けるものなどなし! いざ! いざ! 勝負!』
 その言葉を合図に、両軍は一気に砂漠に踏みした。
 最強と最強の戦いが、ここに幕を開けようとしていた!

●最強と最強
 さて――ここに戦端は開かれた。敵はただ『踏み荒らす』事のみを信条とした集団のようであるが、しかし奇妙なことに、その構成は連携をとれるような形をとっていた。
 アーマード。全身鎧の異形は、まさに『盾役』である。
 そして、シャドウズ。影の韋駄天は、その速度を生かしたアタッカー。
 ブレイズと呼ばれる炎のような人型の異形は、まさに遠距離アタッカーであるといえる。
 つまり、アーマードが盾をして、シャドウズが引っ掻き回し、ブレイズがとどめを刺す。
 今この場にメリーノが居たら、「やっぱり、ただ考えなしに歩いてるにしては、あまりにもかみ合いすぎてるのよねぇ」と苦笑しただろう。
 それぞれが最強を名乗りながら、しかし連携を行う。雑に言ってしまえば『どうにも、ただのアホではない』ように感じられた。
 さておき、戦闘に視線を戻そう。この場合、真っ先に動くべきは『シャドウズ』であろう。何せ、最強の速度を謳うスピードファイターである。実際、かの怪物たちの反応速度は尋常ではない。並みの相手では、追いつくことはできないだろう。それは断言する。
 だが。レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタインは並などではない。
「おせぇよ」
 にぃ、とレイチェルは笑った。影よりはやく! 吸血鬼は砂漠を駆ける!
『我らより、速いだと――!?』
 シャドウズの一人が声をあげる。が、レイチェルの眼に、影などは写っていなかった。眼中に、ない。
「悪いな。俺の相手は、そっちだ」
 ぱちん、と指を鳴らす。その半身の魔術紋が、赤赤と輝く。その指先から血がほとばしり、魔法陣を描いた。紅蓮の焔が、その魔法陣を突き破る様に現われ、砂漠の乾いた空気を焼く!
「撃ちあおうぜ――最強なんだろう?」
 目的は、ブレイズだ! 最強を謳う術師! その最強が10も徒党を組んでいるのは矛盾であるかもしれないが、しかしその力は確かである様だった。レイチェルが撃ち放った紅の焔が、ブレイズたちを薙ぎ払う――しかし、ブレイズたちもそれで即死をするほどやわではないようだった。ブレイズたちはお返しとばかりに、己の体の様な青い炎の術式を唱える。それは先ほどのレイチェルのそれに、勝るとも劣らぬほどの、強烈な炎だ!
「ははァ、それなりに自信満々な理由はわかるがな!」
 レイチェルはぱちん、と指を鳴らすと、魔法陣から迎撃用の火炎をばらまいた。ブレイズたちの青い炎が、それと衝突して、強烈な爆炎をあたりにまき散らす。爆炎はイレギュラーズたちの肌を焼き、確実に体力を奪っていく。
「このていど、かい!?」
 それでも。そう告げる!
「僕の魔術も僕自身も『最強にはほど遠い』よ。
 ……で、君達の魔術のどこが最強だっていうの? 慢心?」
 ヨゾラが、その言葉に怒りの色を乗せながら、術式を紡いだ。その背より迫る、星空の泥。いや、それは星空がそのまま、世界を飲み込むかのように錯覚する。星空の、津波。それに飲み込まれたブレイズの内2体ほどが、ばちん、と音を立てて消滅した。
「間髪入れるな! 厄介なのは確かだ!」
 ミーナが叫び、その手にした希望の剣を振るう。だが、希望の剣が描いたものは、殺戮楽団の掃討だ。剣より放たれた無数の弾撃が、ブレイズを次々と撃ち貫く!
「だが――やはり、攻撃に特化させすぎたようだな! それ以外が、まるでなっちゃあいないぞ!」
 ミーナの叫びの通り、ブレイズたちは、あたまでっかち、ともいえた。攻撃面だけを強化しすぎて、他の所が追い付いていないのだろう。特に、仮に接近戦を挑まれていたら、おそらくロクな反撃もできぬままに撃退されていた可能性が高い。
「残念ながら、私一人でもあなたたちの言う最強を崩す手段はある!
 そして、私は一人じゃない。だから、負けるはずがない!」
 ミーナの宣言は、皆の心にも同じく浮かぶものだ。一人でも、勝てる。それが、これだけの友と戦っているのだ! 負けるはずがない!
「ハッ! やっぱり、イビツなものだね!」
 イグナートが、アーマードから振り下ろされた鈍器を受け止めながら言う。
「最強? 確かに、一つ一つの能力値はそうかもね。でも――」
「ボクは、攻撃も防御も速さも全部強い! ボクの『最強の総合能力』をみせてあげる!」
 イグナートの背後より飛び込んできたのは、飛行するセララだ! 叩きつける、斬撃。強烈なそれは、防御最強を謳うそのフルプレートを、さながら大木を断ち切る様に、叩ききった!
「ボクの名は魔法騎士セララ! ボクこそが最強だよ!」
 それは挑発であり、自信であった。実績も、実力もある。セララは確かに、最強談議に名を連ねても、どこからも意義は出ないだろう。セララは、身軽に、ぴょん、と飛び上がると、手近にいたアーマードに斬りかかった。ざん、と、その鎧にセララの大剣がめり込む。斬りきれない。だが、すぐにイグナートが飛び込み、アーマードを叩きつけた。その衝撃に助けられて、がおん、と音を上げて、セララの大剣がアーマードを裂断する。
「お手伝い!」
「ありがと!」
 背中合わせに立って見せれば、アーマードとシャドウズの大群が二人に迫る。一方で、
「よし、タイミングはちょうどいい」
 ルカが獰猛に笑ってみせた。奇襲チームはこのタイミングで、一気に潜伏場所から飛び出した。白い猫が一匹、跳び出す。それが空中で人の形をとった。猫妖。仙狸厄狩! 汰磨羈!
「アーマデル! 御主が一番速い!」
 叫ぶ。
「解っている」
 蛇銃剣アルファルドを構えた。そのまま、間断なく引き金を引き続ける! だだだだだだだだだだんっ! 砂漠の乾いた風を震わせる銃声は、殺戮楽団の奏でる殲滅楽曲である。まるで飛び交うがごとく降り注ぐ、弾丸の驟雨! これに見舞われては、流石の『最強』もどうだこうだと歌っている暇はあるまい!
『後方だと!?』
 悲鳴をあげる。
『どちらから優先すればいい!?』
 ブレイズたちが叫ぶのへ、しかしイレギュラーズたちは待つつもりはない。下手に攻速をおとせば、瞬く間にこちらが不利になるだろう。速攻で何とかするしかなかった。それでも、反撃によってイレギュラーズたちの体には幾筋もの傷跡が残されている。
「ヨゾラ! 加減してやる理由はねぇぞ!」
「わかってる! もとからね!」
 レイチェルとヨゾラが間髪入れずの術式をぶつけるのへ、ミーナの斬撃が宙を飛ぶ。まさに四方八方から攻撃をされ続けたブレイズたちが壊滅するのに、これからさほどの時間は必要ないだろう。
「しーてーおんな、元気かね?」
 愛無がそう言って飛び込む。相手はシャドウズ。韋駄天の魔。
「ええ。問題ありませんよ」
 飛び込む。その刀が、シャドウズを切り裂いた――とどめを刺しきれない。シャドウズが体を再整形して襲い掛かろうとするのへ、愛無がその異形腕を振るった。ばぢん、と音を立てて、シャドウズが消滅する。
「おっと、スコア1だ。
 えぇっと~~~~なんだったかな? 実は聞こえていたのだが、鉄帝のパフェだったか?
 ふ。遠いな、しーてーおんな」
 からかうようにそう言ってみせる愛無に、メルティがむー、と唸りを上げた。
「今に見ていてください。びっくりさせてあげます」
 とはいえ、この二人のコンビネーションもまた抜群といえる。それに、暴風のように戦うのは、何も愛無だけではない。
「こんな程度で最強なんざ笑わせやがる。イレギュラーズにはお前らより速いやつなんざごまんといるぜ」
 それは、砂漠の美獣、ルカ・ガンビーノだ! 曲がりなりにも黒犬の名を冠する両手剣を、力任せに片手で振るうその姿は、まさに砂漠の獣か。今は、その強力な暴風が、人類に向かなかったことを感謝するべきかもしれない。だが、ルカの攻撃は、決して力任せのそれだけではないのだ。
「逃げられると思うな。ここはもう、俺達の檻だ」
 ふ、とその視線を流せば、その視線の先に鋭い槍が現れ、地面から衝撃的にシャドウズの体に突き刺さった。月と、狩りと、獣の女神より受けし祝福。ルカは獣であり、狩人である。その視線から逃れられるものはいない。
「足を止めてやったぞ、汰磨羈!」
 ルカが叫ぶのへ、頷いたのは汰磨羈だ。
「よし! 数的不利は、撃破効率の向上で覆す! 後はまぁ、火力だな!」
 汰磨羈が戦場をまとめて薙ぎ払う! その手の振るった刃、斬撃が殲滅の魔神光となって、アーマード、そしてシャドウズをまとめるようにぶっ飛ばした!
『な、なんとぉ!! 我らの最強の装甲が――!』
 雄叫ぶアーマードに、汰磨羈がからかうように笑う。
「口を閉じた方がいいな! 賢者は黙して何とやらというぞ。
 喋れば喋るほど、格が下がる!」
 再度ふるった斬撃が、殲滅の光が、アーマードたちを吹き飛ばす。アーマデルの銃撃が、追いうちのように放たれた。
「まったく。絵にかいたような無様をさらすというのも」
 あきれたようにアーマデルが言う。無論、彼ら不毀の軍勢が『弱い』わけがない。いうなれば、イレギュラーズたちが『強い』のである。
 これまで、幾度となく戦ってきた。死地を経験し、逆転を重ね、神話に謳われるような存在とすら相対して見せた。
 勝ってきた。勝ってきたのだ。
 そのローレット・イレギュラーズを前に、最強を騙るとは――笑止!
「これが最強の必殺技だよ! 全力全壊ギガセララブレイク!」
 セララの強烈な一撃が、何度も連続で繰り出される! 全力全壊、されどその太刀は一度ならず! 強烈な斬撃を食らったシャドウズの一体が爆散!
「これで最強なんて、へそでちゃをわかす、ってやつだね!」
「ふふん、みんな強いのだから」
 メリーノが笑う。その手にした妖の大太刀。その斬撃が、アーマードの鎧を――否、その生命を切り裂き、食らい去った。
 がしゃん、と鎧が砕けて落ちる。その内部は、当然のごとく、空である。
「あら。中に何かいるのかと思ったけれど――そうではないのねぇ。
 じゃあ、そう言う生き物、なのかしら。
 ねぇねぇ、あーまーどちゃん? あなた、何から生まれたの?」
 尋ねるメリーノへ、しかしアーマードの残骸は答えない。メリーノの手の中にあった兜が、さらりと溶けて砂の中へと消えていく。
「あら、残念。
 それにしても、「最強」の名前を冠してるやつ、そういえば最近他にも会った気がするんだけど。
 『最も強い』っていっぱいいるのかしらぁ」
 ふふ、と愉しげに笑い、メリーノはそういった。自称するだけなら山ほどいよう。それに見合った実力を持つものも、居るのだろう。
 とはいえ、最強というのならば、たった一人だ。それは果たして、この世界のどこにいるのやら――。
「如何でもいい事だが。仮にも「最強」を名乗るモノが和気藹々となれ合う。最早コメディだな。最強とは字のごとく最も強い者を指す。それはつまり「個」だ。

 『ゆえに群れる者に最強なし』

 まぁ、強いだけではつまらんがね。そう思わないか? しーてーおんな」
 がおん、と、愛無がアーマードの兜を叩き潰した。メルティが、いささか悔し気に口を尖らした。
「そうですね。強くても、斬りあい(おはなし)が苦手な人もいます。コミュ障ですよね。
 ちなみに私のスコアは――」
「聞くまでもない。さて、何をおごってもらおうかな」
 ふふん、と愛無が笑う。そのようなやり取りができる程度には、戦線はイレギュラーズたちの有利に傾いていたといえる。無論、苦しい時こそ余裕を捨てないのは強者のプライドであろうが、それはさておき、今回は順調に敵をせん滅していけたわけである。
『馬鹿な……! 我々は、全剣王より生まれし最強の……!』
 慌てるように残されたアーマードが言う。必然的に硬い奴が生き残ったわけだが、そうでないやつらはすでに殲滅されている。
「なんだろう、捨て台詞まで安っぽいなぁ……」
 ヨゾラが思わず声をあげる。
「所詮その程度だ。
 さて、アンタたちが死んでどうなるかは知らないが」
 ニーナが言う。
「せいぜいゼンケンオーとやらに伝えてくれ。
 次はもっとうまく作るんだな、と」
 死神の大鎌が、アーマードの体を薙いだ。強烈な一撃が、『最強の盾』を粉砕した。矛盾、という言葉があるが、この場合に勝ったのは、矛という事になるだろうか。盾が最強である保証はないが。
「よし、これで全部だなァ」
 レイチェルが、ん、と背伸びをする。
「いい準備運動になったぜ? 最強さん方?
 魔術の威力が高ければ最強か──否。
 堅牢さを誇れば最強か──否。
 先陣を切る速さがあれば最強か──否。
 全て否! 俺を滾らせるには全然足りねぇよ、全剣王」
 にぃ、と笑う。
「それにしても、全剣王、か。本当に、何者なんだろうね?」
 ヨゾラが言う。
「反転してしまったから、純種だったころの情報が断絶しちゃったのか……全剣王を名乗る偽物なのか……?
 すべての魔術も収めた、なんていうのは、魔術師としてはあこがれちゃうけれど……」
「どうだろうな。ま、これからこっちも攻め入るんだ」
 ルカがそういう。
「いずれ、嫌でも顔を合わせるんだ。その時を楽しみにさせてもらおうぜ。
 次は最強の指揮能力を誇る司令官でも連れてこい、ってな」
「ああ、イイね。どんどん最強を連れてくてもらおうか」
 イグナートが笑う。
「まぁ、それでも――オレ達にはかなわない!」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた。
 果たして、砂漠の戦闘はひとまずの幕を下ろす。
 それは、最強を騙る者達へ振り下ろされた、真の最強よりの鉄槌であったのだ――。

●幕間
「――くだらん」
 豪奢な玉座に座った、全身鎧の男が吐き捨てるようにそういう。
 その男が持つのは、遠見の魔術。見たものは、己が身より生み出された最強の残滓が、しかし敵を蹂躙するではなく無様な敗北を喫する瞬間。
「我が残滓に勝った程度で喜びすぎだ、ローレットどもめ」
 吐き捨てるように、その男は言った。玉座の隣には、巨大な剣が携えられている。それは、男の武のシンボルであった。世界のすべての武と魔をおさめたという証であった。
 男は、全剣王と呼ばれる存在である。
「だが――なるほど、噛ませ犬とするにはよい連中よ。
 貴様らの存在、確とこの目で見た。
 光栄にも、貴様らの顔と名を覚えておいてやる」
 全剣王は、愉快気に顔をゆがませると、遠見の魔術のリンクを断った。
「とはいえ……不毀どもは改良せねばならんな。フン、面倒なことよ」
 男は玉座に座りながら、すぐに術式を編み始めた。高度な傀儡構築の術式は、男が魔術にも精通していることの証左でもある。
「さて、我が最強に楯突いたからには、覚悟ができておろうな」
 男は笑う。最強を謳う、最強の中の最強。
 それが彼である――。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、オアシス都市アルフェイムは救われました――。

PAGETOPPAGEBOTTOM