PandoraPartyProject

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恋散華

 混沌で、影の領域で決戦が進む、一方その頃――
「どうしましたか」
 敵を睥睨したドラマ・ゲツク(p3p000172)の呼吸は既に酷く乱れていた。
「『もう終わりでしょうか』」
 麗しく――そして凄絶に魔術と剣の双方を奏で、悍ましくも鮮烈な戦いを展開する彼女の周囲には既に無数の敵の残骸が転がっていた。
 影の領域に在りながらもパンドラの加護に護られている――特別な強化(イクリプス)を得た彼女の戦い振りはまさに過去で一番のもの。決して退けぬ理由がぶら下がっている事を鑑みても、その戦いはどんな武人にも賞賛され得るものだっただろう。
「これで終わりなら、拍子抜けだわね」
 華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の可憐な美貌には何時になく挑発的な笑みが浮いていた。
「へし折ってやる、なんて顔をしておいて。運命だなんだって言っておいて。
 全然足りないのだわ。私もドラマさんも、この位じゃまるで足りてないのだわ?」
 自分でも驚く位にその渾身を振り絞り、全身は消耗し切っているのに――気力はまるで衰えていない。
 華蓮は或る意味で人生で初めての感覚に驚いていた。
 無理だと思った瞬間は山とあったが、事これまでにその予感は一度たりとも当たっていない――
「いやあ、驚いた。本当に良く暴れるね、アンタ達」
 軽薄な笑い声を上げた魔種――ナルキスは気付けば随分と二人に接近していた。
 だが、ここまでやり合っていない。
 届くか、届かないかで――絶妙に届かない位置でその戦いを笑っている。
(本当に――底意地が悪い……!)
(せめて、ナルキスを叩ければ……だわ!)
 示し合わせた訳ではないがドラマも華蓮も似たような事を考えていた。
 鉄帝決戦の、バルナバス麾下で最強だったと目される存在(もの)。
 戦いを愉しむような瀟洒を見せ、人を食ったような性質をしていると聞いていた。
 この奮戦を観劇するのは恐らく二人の戦いを最終決戦の徒花とでも見做しているからなのだろう。
 観客に徹する事が二人にとって最悪に成り得る事を知っているからなのだろう。
 或いは――美しい二輪を手折る事への感傷でもあるのかも知れないが。
「……反吐が出ます」
「同感なのだわ」
 ぶん殴ってやりたい男が居る所に追加されても困るというものだ。
 地獄の窯の底に放り込まれて余裕のある者は居ないのだから。
 何故ならばそこは確定的な地獄であり、尻軽な奇跡が転がっているのならそれは最悪とは呼べないからだ。
(……華蓮さん)
(はい、なのだわ)
 二人は更に迫り来る新手を薙ぎ払いながら以心伝心の疎通を交わす。
 ドラマが斬り拓き、華蓮が支える。或いはドラマが守り、華蓮が撃ち抜く。
 元々は何とも複雑な感情を抱き合う二人ではあったが、『連携は驚くべきレベルに到達していた』。
 ナルキスなる風変わりな魔種が褒め称え、その戦いに目を見張るように――二人は信じられない位の健闘をしている。
 その上で。
(私には進むべき道がまだ見えている、のだわ)
 華蓮のパンドラの奇跡はまだ生きていた。
 二人はジリ貧にしかならない消耗戦を選び続けた訳ではない。
 敵を捌きながらも『進むべき道の逆側』を強かに叩き続けていた。
 それは極限の状態に二人が仕掛けた最後のブラフだった。
 行く先を気取らせず、むしろミスリードで煙に巻く。
 離脱の機会は恐らく一瞬しかない。
 最後の力を二人は溜め、か細い希望を諦めずに――その時ばかりを待っていたのだ。
 長く、長く、長く戦っている。
 一つの好機すらも見通せない最悪の状況で数限りなく傷付きながらも。
 二人は恋敵(ライバル)に背を預け合い、最初で最後の刹那ばかりを待っていた。

 ――そして、果たして。

「――華蓮さん!」
「今なのだわ!」
 二人の想いこそ制御届かざるブリンクスターの如しと言えたかも知れない。
 目前の敵を振り払い、瞬間に産まれた空隙に全てを賭けた。
 圧倒的に速力を増した二人が敵影を振り切り、彼方へ進まんとする。
 反応の遅れた雑兵共は彼女達を食い止めるには到らず、そして。

「――だと思ったから待ってたんだよな。
 それ位はやるさ。だってお前達、すんげえいい女だからなア」

 二人の最後のチャンスに立ち塞がったのはやはりナルキスという魔種だった。
「……もう、そう遠くはないはず!」
「……………っ!」
 ドラマは華蓮に先に行けとそう言う。
 満身創痍に勝てる筈のない相手を目前にしても、華蓮だけでも先に行けと心底からそう言った。
「華蓮さんがレオン君を引っ叩いて連れてくるまで、保たせれば良いのでしょう?」
「レオン姫を迎えに行く王子様の役は貰うのだわ」
 華蓮もまた迷わなかった。
 本来の彼女であれば惑ったかも知れない。
『ドラマ・ゲツクを見捨てる事なんて彼女には出来なかったに違いない』。
 ドラマは死ぬのだ。
 自分も人の事を言えないが、こんなもの勝てる訳がない。助かる筈なんて何処にもない。
 二人で必死に支えたギリギリのバランスにナルキスを加えて希望の目なんて何処にも無いのに!
「それから――ああ、レオンさんが憧れた英雄の役。今は貴女に譲るのだわ」
 華蓮はそう言って、僅かな時しか稼げないであろうドラマに背を向けた。
(ごめんなのだわ、ドラマさん。でも叶わないなら、きっとそっちで謝るのだわ……!)
 そしてその瞬間は訪れた。
「ああああああああああ――!」
 決まり切った最後に向けてドラマは裂帛の気を吐いた。
 恐らく人生で最も鋭く強く、一撃を叩き込む。
 穿つ刃はナルキスの影を貫き「万全なら面白かったかもな」。そう返した刃がドラマの首元を狙っていた。
「……っ……!」
 どうしても耐えられず、振り向いた華蓮の横を猛烈な風が吹き抜け。
 そうして生々しい音が響く。白い髪が光差し込まぬ影の領域に花弁のように散っていた――


 ※最終決戦が進行中です!
 ※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
 ※Bad end 8首魁と見られるマリアベルとの戦いの報告が上がっています……!
 ※世界各国にて発生した戦いの、結果報告があがっています……!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

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