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もう一つの戦い III

「だァれに喧嘩を売っておる!」
 戦火を背景に鼻で笑った老人が自慢の白い顎髭をその指で扱き上げる。
「このアンポンタンの若造めが。思い知ったか!? ゼシュテルを!」
 バイル・バイオンはゼシュテル鉄帝国の宰相であり、力が尊ばれるこの国において唯一非力ながらに尊敬を集める特別な人物であった。
「……爺さん、あんまり無茶をするなよな」
「何を仰る、陛下! これぞ我が国の力を示す格好の機会というもの!
 何処かの皇帝陛下が魔種に敗れて以来、失墜した我等が武威を表す格好の機会ではありませぬか!」
「…………年寄りの冷や水って言った事、まだ根に持ってるのかよ」
「フン」と鼻を鳴らしたバイルに『麗帝』ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズは溜息を吐いた。
 バグ・ホールに続き、ワーム・ホールまで開いた混沌中は大騒ぎである。
 各国は各国なりのやり方でこの騒ぎを食い止めんとしていたが、鉄帝は是非も非ず。見ての通り、国の最重鎮が最前線で暴れまくる事で魔種陣営の企みを蹴散らし、食い止め続けている状態だった。
「ヴェルスをそう苛めてやるな、宰相閣下」
『塊鬼将』の異名の所以、自慢の鉄塊をドスンと降ろし、黒鉄の守護神(ザーバ・ザンザ)は苦笑いをする。
「ヴェルスにも俺にも代わりはいるが、宰相殿にはおらんのだ。そんなこたぁ、貴殿が一番良く知っているだろう?」
「それはそうじゃが……」
「『呉越同舟』ってヤツだ。これだけの緊急事態なら宰相閣下も黙ってられねぇってもんだろう?」
 答えにやや窮したバイルに助け舟を出したのはクラースナヤ・ズヴェズダーの大司教であるヴァルフォロメイだった。
 先の鉄帝国動乱以降、帝政と革命派であった彼等の関係も随分と改善している。ヴァルフォロメイが口にした通り、目下危急の緊急事態に対応するに轡を並べる程度には関係は温まっている。
「一人でも多くを救えるように手も尽くそう。やり方なんて何だっていい。誰がやったって同じ事さ。
 重要なのは坊主や政治家は兎も角、民は殉教も殉死も望んじゃ居ねぇって事だろう?」
「全くです」
 ヴァルフォロメイの言葉にシグルズ・フロールリジが頷いた。
 現フロールリジ伯である彼はヴェルスにとっても些か因縁の強いかの女子の兄であり……
「この国の国是に従うならば淘汰も弱肉強食の内なのでしょうが、生憎と私も皇帝陛下には敵いません故に。
 ならば、ははあ。ここは力の振るい所となりましょうな」
「世話をかけるな。アンタにもアイツにも」
「いえいえ。取り分け『あれ』の選んだのは、弱き者の為の戦いでございます。
 なれば、か弱き身ながら健気にフロールリジを名乗るあの娘は、故に誰よりも、フロールリジを体現しているのですから」
 慇懃無礼に礼をしたシグルズにヴェルスは小さな笑みを零した。
 エッダは今頃、別の前線で何処かの魔種にでも相対しているだろうか。
 まあ、そうでなかったとしても何れにしても何かをしているだろう。
 何かをせずにはいられない娘だろうと彼は思う。
「……ま、特異運命座標ってのとは別だけどよ。
 俺達が居る鉄帝国で好き勝手出来るなんて思うのは――えらい思い上がりじゃねえか。
 その辺をきっちり躾けてやるのは、居残り組の仕事ってもんだろうからな――」
「もうひと暴れだ」と結んだヴェルスの結論に異のある者は無い。
 叩き、捻り、潰し、悉くを殺し尽くす。
 人面獣心の戦いは、この国の戦士の本懐そのものである。
 故にきっと。
 ゼシュテルを狙った魔種の不運はきっとこれから始まるのだろう――

 ※世界各国に『影の領域』が出現しました……!


 ※ファルカウ西の森メーデイアにてアトロポスが出現したようです。


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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