PandoraPartyProject

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Les Misérables

「懐かしい風景だわ」
 集まった強い敵愾心を全身に浴びても微動だにしていない。
 他のそれとは異なり、敢えてこの状況を作り出した一人の女はどうあれ余裕めいていた。
「一体何時振りなのかしら。
 光景(おもいで)は色鮮やかで、その全部が焼き付いているのだけれど。
 凍える風に吹かれた私達の街は――時代はもう何処にもありはしない。
 ……ねぇ、御存知? この場所には街があったのよ。私はそこで『彼』と出会ったの」
「こんな時まで思い出語りって訳かい?
 笑えねぇ冗談だ。真冬の鉄帝(ここ)よりお寒いぜ」
 肌に突き刺さるような魔性の気配にルカ・ガンビーノ(p3p007268)はその獰猛さを隠せなかった。
 女性に優しいのは砂漠の王の薫陶か、それとも持って生まれた気質故か――
 たおやかな女を前にしては実に珍しいルカの反応が今日この瞬間の意味を物語っている。

 ――親愛なるローレットの皆様へ。
   Bad End 8より新しいダンスのお誘いをするわね。
   ええ、冠位より何より――きっとすごい事が起きるわよ!

『犯行声明』は終焉の加速と共に訪れた。
 世界各国に生じたバグ・ホールと魔種の大暴れ。
 終末に向けた猛攻を紙一重で凌ぎ続けるイレギュラーズと各国を新たな凶報が襲ったのは少し前の時間である。
 世界各地、世界各国に生じたワームホールは魔種達の本拠地――ラスト・ラストは『影の領域』に繋がる通路であった。
 ただでさえ強力な魔種陣営の兵力がシームレスに各地に出現すれば防御の崩壊は時間の問題である。
 イレギュラーズはBad End 8を名乗りワームホールをこじ開けた魔種達に乾坤一擲の対策を余儀なくされている。
「御機嫌麗しくも無けりゃ、呼んでもいねぇよ。
 そっちは皮肉に満足して――どうやら俺『達』に用があったみたいだけどな」
 吐き捨てるように言ったルカに死牡丹・梅泉(p3n000087)が含み笑う。
「そっちの旦那は兎も角だが」
「まぁ、な。ローレットの小娘めも面白い手を遣いよる。
 つくづく大魔種という連中には縁無きものと思うておったが、成る程。
『金庫を破って報酬を積みあげた上、強敵と戦わせる』と云う話なら乗らぬ理由も無かったのでなあ――」
 ギルドマスターであるレオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の失踪から済し崩しに後を引き継ぐ事になったユリーカ・ユリカ(p3n000003)であったが、この緊急事態に助っ人を用意したのは彼女のファインプレーと言えたかも知れない。方法は何とも言えず彼女らしく、半ば自棄さえも感じる胡乱なものだったがこれは当のレオンも叱れまい。

 ――華蓮さんを参考にしたです!

 そう宣うた彼女に華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は誤魔化し笑いをせずにはいられなかったのだが――
「『私から特別な招待をするわ。
 是非出席して欲しいのは砂漠の王子様と、可愛い幻想種のお弟子さん、案外思い切りのいい天使のようなお嬢さん。
 シャイネン・ナハトの伝説で待っているからきっと来てね』でしたっけ」
 ドラマ・ゲツク(p3p000172)の可憐な美貌が硬く冷たく強張っている。
「『随分と舐められたものですね』」
「レオンさんの事で話があるなんて……私達にはそんなもんねぇのだわ!」
 幻想種らしからぬ苛立ちと怒気をドラマが滲ませるのは。
 そして、穏やかな華蓮が柳眉を吊り上げて声を張るのは――これまた実に例外的なシーンと言わない訳にはゆくまい。
「こっちは忙しいのです。今更『骨董品』の相手をしてる暇はないのですよ」
「聖夜は……ちょっと、大分、滅茶苦茶大事なイベントだけど……!
 こんなのが出て来るとかそういう話は聞いてないのだわ!
 いいからとっととレオンさんを返して、すっこんで帰るといいのだわ!!!」
 やや感情めいた抗議をするドラマや華蓮だが、それは当然の話である。
 レオン失踪の後から、彼女等には心休まる時間等無かったに違いない。
(……生きているって信じていましたけど)
 ドラマが小さな胸に抱く『一途(どすぐろさ)』はそれを疑わせるものではなかったけれど。
(絶対に取り戻すのだわ……!)
 冷たく暗いグラオ・クローネに打ちのめされても華蓮はそれを一秒たりとも諦めてはいなかったけれど。
 いざ目の前に『下手人』らしき女(ぽっとで)が現れれば言ってやりたい事は山のようにあるというものだ。大体だ。人の心配を他所に知らない女と何を宜しくしているのか。あの男というやつは!
「……何だか人聞きの悪い話だわ」
『黒聖女』を名乗ったマリアベルという女は軽く溜息めいてそう零した。
「蒼剣さんを連れてきたのはルクレツィアだし――私は直接関係ないのだけれど。
 ……まぁ、でも恋ってそんなものよね? とっても分かるわ。だって、私だって似たようなものなのだし」
 諦念交じりのマリアベルの背後には蠢き歪む亜空間が広がっている。
 シャイネン・ナハトの伝説、鉄帝国と幻想の国境、北部戦線の外れを選んだのはノスタルジーなのだろうが――『外れ』と言えどこの場所を捨て置けば両国に更なる危機が及ぶのは間違いない。
 ローレットの為すべきはワームホールの制圧・破壊とユリーカのオーダー、レオンを取り返す事である。
 後者の方は現状全く皆目もつかない状態だが、わざわざドラマや華蓮を呼びつけたのだ。マリアベルが何らかの情報を持っている事は間違いないと言えるだろう。
「まぁ、こうして来てくれた事だし。少し位はサービスしましょうか?」
「言葉通りの意味なら歓迎するけどな」
「良く出来たら――イノリの話も、妹(ざんげ)さんの事も聞かせてあげる。
 蒼剣さんの事もね。ワームホールだって失くしてあげてもいい」
 肩を竦めるルカにマリアベルは凄絶に嗤う。
 気付けば数多の呪言の刻まれた大鎌を背負い、言葉の最中にも圧倒的と称する他ないその気配を増大させている。
「――ええ、ええ。嘘偽り等何もなく!
『私に勝てたら、知りたい事、何だって教えてあげるわよ』!」

 ※世界各国に『影の領域』が出現しました……!


 ※ファルカウ西の森メーデイアにてアトロポスが出現したようです。


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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