PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

『アドラステイア』

 死とは遁れざるものだ。決して『歪む』事の無い終着点である。
 己はそうした概念の元で産み出された。曰く、生も死も清濁併せ呑みその全てをも愛するという『強欲』な妹に「お前に成せぬ事を為してやる」と示しただけなのだという。
 そんな勝手気ままな主は「お前の為したいことは何だ」と問うた。

 ――罪を犯した者が居る。一族は連帯での責任をとるべきだ。
 ――貴様、泥をかけたな? なんと穢らわしい。絞首にすべきだ。
 ――食い扶持が無くてパンを盗んだ。何と可哀想な子供だ。ならば、首を刎ねてやろう。死すれば腹は空きませんよ。

 それは天義の騎士が、貴族が、聖職者が口にしてきた言葉であった。
 それらの在り方に異を唱えた聖人が一人居た。天義の司教である。彼は「幼子に罪はない」と繰返した。戯言半分と受け流されて居ただろう。
 かの司教は天義の貴族の一人であり、それなりの地位に立っていたからだ。気が触れたとておいそれと処刑は出来まい。
 司教は個人を営み、親無き子供達の保護をした。彼等に教育を施し、騎士に育て上げた。兄は弟を育て、子は共に成長して行く。
 親が罪を犯したからと言え、子が罪人では無いという証左を得たかったのだ。
 だが、有るとき、男の孤児院で保護されていた子供は罪を犯した。父の処刑を行なった聖騎士に「報いを受けろ」と叫び襲いかかったのだ。
 当然、子供は処刑された。見るも無惨な姿で吊し上げられて見世物になった。
 風当たりが強くなった男は苦悩した。それでも、自らの在り方を全うし続けたのだ。
 ――だからこそ、彼は聖人と呼ばれるようになった。『子供達の救世主』、そんな「天義では恥ずかしい通り名」までも与えられて。

「僕は……天義という国に復讐がしたい」

 少年は言った。この国は変わろうとしていると言うが、それならば聖人が最後まで感じた苦悩は何だったのだろうか。
 それまでに犠牲になった子供達を蔑ろにして未来を見ろというのか。その歴史全てを塗り替えて、素晴らしい物にしてしまえば良いのでは無いか。
「僕は――」
 少年は、聖人の骨に滅びのアークと『天義によって処刑された子供達』が混ざり合ったものだった。
 両親の犯した罪は子にも償わせる。一族に流れる血が汚れているのだと以前までの天義は不正義の烙印を押し断罪してきた。
 故に、抱いた復讐心には曇りは無かった。冠位強欲ベアトリーチェの『行ない』により多く出た戦災孤児を集めた都市を造ったのは、子供達だけの楽園が欲しかったからだ。
 導く為の者達を用意してみれば、それらは子供を利用し、子供そのものを食い扶持にする『クズ』ばかりだったではないか。
「人間なんてクソだな」
 アドレは呟いた。そうだ、自分だってクズだ。同胞の想いを利用して天義という国を塗り潰そうとしてきたのだから。
 どのみち、この想いは晴れることはない。いっそのこと、何か強い光にでも照らされて、全てが変わらねば意味など無かった。
 アドレにとってツロは『導き手』だった。――ルスト・シファーとてそうだった。彼が居るから己は遠慮も無く己の想いをぶつけることが出来る。
 怨嗟も、嫉妬も、恐怖も、ないまぜになったそれらを与え、天義に爪痕を残す。
 漸く自分たちが生きてきた意味がそこに記されるのだ。だからこそ、此処で無残に散っても構わなかった。
(ルスト様は屹度怒るだろうけれど、僕は満足してしまうんだから……やっぱり人間なんて物は碌でもないよ)
 アドレは目を伏せた。そんな『失敗作』な自分に、手を差し伸べる物好きが居るのだ。
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が困ったように言う。
「誰かに造られたモノだっていうのなら、ニルもおんなじです。こころがあります。
 想いがあります。それは、失敗作なんかじゃないです」
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)は何時だって、友人のように声を掛けてくれるのだ。
「貴方はやりたいことをハッキリと言えない? 貴方が、そう生まれたから? そういう役目を与えられたから?
 別にルストに従うのが、やりたいことならそれでいいと思う。でもそれが貴方の真の望みじゃないなら、私は友達としてそれを止めたい。
 だから、教えてよ。聞かせてよ。貴方の言葉で。生まれとか育ちとか抱えてるものとか全部投げて、貴方自身のことを」
 正純は屹度、馬鹿正直だ。何処まで行ったって、誰かのために必死になれる女なんだろう。
 アドレはそう思ってから、彼女の事が愉快で堪らなかった。『新たな一歩』隠岐奈 朝顔(p3p008750)のように「受け止める」と言うわけでもなく、『黙示録の赤き騎士』ウォリア(p3p001789)のように怨嗟を晴らそうとするわけでも無く。
「遂行者と友達になるもんじゃないよ」
 アドレはぽつりと呟いた。
「けど、僕は生まれながらに遂行者だから遣りたいこと何てただの復讐しかなかったけどさ。
 ……まあ、そうだなあ。最後に見るのが――」
 ちらついらのはもの凄く光り輝く『殿』一条 夢心地(p3p008344)だった。視線を逸らす。
「お前で良かったよ、正純」
「今違うものを見てませんでした?」
「正純だけを見てたよ」
 アドレは首を振ってから「もうちょっと僕も強いと思ってたけど、無理だったな、バレたら」と呟いた。
「これ以上戦ったって苦しいなら、僕を殺すのはお前で良いよ」
「――随分と、自分勝手」
 正純はゆっくりとアドレの聖痕に触れた。突き刺さった鏃が何かにぶつかった。聖人の骨に罅が入る。
「カロルを宜しくね、アイツ、寂しがり屋だからさ――」
 ゆっくりと正純は顔を上げた。その視線の先には『薔薇冠のしるし』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、そして『夢見 ルル家』が居る。

 ――私はキャロちゃんに生きて欲しい。もう友達を失いたくない。

(ああ、さっきからやけに目が合うと思ってましたが、勘違いではなさそう)
 聖竜の力を『聖女カロル・ルゥーロルゥーを遂行者ではなくす』事に使えば、ルストを相手に苦戦する可能性もあるだろうか。
 けれど、ルル家は決めて居る。何を伝えたいかなんて、エクスマリアも正純も問う必要は無いと感じていた。
(……覚悟を決めなくては。その前に『グドルフ』さん――いいえ『魔種』を倒さねばならないか……)
 幸いにして『聖盾』の力もある。『聖剣』もある。
 それに――外ではサマエル撃破の一報が飛び交っている。
 あと少し。ロイブラックとアリア、そしてグドルフを打ち倒せば機が熟す――

 ※冠位『ルスト・シファー』戦の戦局に動きがありました――!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM