PandoraPartyProject

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悠久に残ることとなる英雄譚

 ――奇跡を見た。
   眩い光だ。それを可能性(パンドラ)の煌めきであると気付いた時、正直嫉妬した。
   自分には無い物だ。英雄の如き奇跡も、冒険者らしい経験も、命を賭す覚悟も。
   それでも、『俺』は勇者なのだという。

「また別の世界線で、わたし達は過去の人で……。
 それで、シフォリィみたいに縁があったりしちゃう人が居て。
 わたしは素敵な魔法使いだよってチェレンチィが教えてくれるけど本当かなってなって。
 でもね、サイズがわたしのこと嫌いって言ったときに『あ、ホントに私凄い人なんだ』とか思ったりして。
 なんだかそれって不思議よね。わたしのことなのに、わたしのことじゃないんだもの」
 魔王城へ向かう道中に『魔法使い』マナセは何気なくそう言った。
 手にしたは膨大な魔力を身に宿しながら制御技術には未だ乏しい彼女のサポートを行える代物だった。
 握り締めたペンダントはおまもりだった。戦う勇気になる気がしたから。
「わたしって、ふつうの女の子なのよ。魔力はやばいけど」
「いや、それって普通なのかな?」
「普通よ。アイオンも、わたしも。少なくともイレギュラーズ達と比べたら、凡人だわ。
 だってね、ファルカウに会いたいって知的好奇心だったわたしを導いてくれるのよ。
 あと、ポメ太郎はふわふわだったし」
「……マナセは、戦いが終ったらどうしたい?」
「一緒に混沌世界に渡って、滅び? ってのをぶん殴ってやりたいわ。
 良く分からないけど滅びってやつらが渡れる可能性があるならわたしやアイオンだって行けると思わない? ……どんぐりマンも」
 アイオンは「誰だよ……」と俯いた彼女を見た。マナセ曰く、それは『魔法使い(ウォーロック)』の仮の名前なのだそうだ。
『魔法使い(ウォーロック)』は魔王イルドゼギアの依代になった男だ。彼を解放する事に尽力するイレギュラーズのてで、肉体が解き放たれ、元の通りに戻れば力にもなってくれよう。
 プーレルジールから混沌へ。『隣人』が世界を渡り手助けをする。そんな未来を夢見て仕方が無い。
「ポメ太郎と別れがたいし、いっそのことベネディクトに試合でも申し込もうかしら」
「ポメ太郎が悲しむから止めておこう。……それに、ここで『さよなら』にしないんだろう?」
「そう。したくないから、戦おうと思う。がんばる、がんばるからね、アイオンもがんばって」
 伝承の二人は長い旅をしてきたけれど、此処ではほんの少ししか顔を合せていない。
 なのに、戦い方も、性格も。どうやって笑うのかさえ分かって仕舞う。数奇なものだとアイオンは幼いマナセの頭を撫でた。
「行こうか」

 ――それから、光を見たんだ。
   眩い光は幾つも束ねられ、少量の『可能性』が背を押した。
   赤い翼の娘は決意を持っていただろうか。
   残り僅かだったという『可能性』は滅びの気配を切り裂いていた。

 戦闘が終り、『魔法使い(ウォーロック)』が其処に居た。
 それから――千余年の時を重ねた一人の少女が姿を消した。
 鮮烈な光だった。それは『可能性』を身に宿さぬアイオンには出来やしない神の御業の如く。
 プーレルジールに満ちていた滅びは一時的に魔女ファルカウがその身を以て封じたのだそうだ。
 曰く、それは『混沌世界のファルカウも同様の行いをした事がある』という。
 この世界のファルカウがその決断を下したのはイレギュラーズならば必ず混沌の滅びを払い、己が目覚めた際に其れ等全てを払い除けることが出来ると信じたからだ。
 魔女の信頼を得て、更なる強大な敵に立ち向かう事となる彼等はまだ歩みを止めることはないのだろう。
「正直、羨ましく思うよ」
 全てが終わった。アイオンは目を伏せる。
「『俺』にはそういうの、ないからさ」
「物語、見たらアイオンって『僕』って言うらしいの。それからね、凄い穏やかに気が狂ってそう」
「……マナセ」
 アイオンがじろりと見ればマナセは「やっとわたしをみた」と楽しげに笑って見せた。
「わたしにも何もないもの。だから、わたしはあの人達が好き。
 きらきらしてて、すごいの。憧れる、それに羨ましくってちょっとむかっとした。
 ……追い付きたいな、って。あの人達の側にずっと居たいなあって思った」
「俺もそうかな。誰かのために命を賭けられるって、凄いなって思ったよ。
 ……それから俺も、そうしたいと思った。一緒に冒険出来たら屹度楽しい」
 マナセは「奇遇ねえ」と微笑んでからアイオンの手を握り締めた。
「それじゃ、『勇者』さまはどうする?」
「マナセは魔法使いを名乗るのを止めてお姫様にしたら良いよ。
 新しく『魔法使い』がパーティーメンバーになったからね」
「美少女と美青年で分けたら魔法使いが二人くらい居ても構わないと思うわ。
 ……ね、そう思わない? ロック、クレカ」
 振り返ったマナセに『ロック』と呼ばれた男は何処か困惑した様子で『娘』を見た。
 クレカは『ロック』の手を握り締めてから「お父さんはそういうの困る思う」と淡々と返す。
「でも、遣ることは一緒なんでしょ。
 お父さんも、アイオンも、マナセも、混沌に渡ってきて、原初の魔種と戦って、滅びを退ける。
 ゼロ・クールは空っぽな心を満たして欲しいからこそ、そうやって名前が付けられた。
 わたしたちは、これから沢山のことを知って、生きていくことが出来る。人間になれる存在だ」
 生まれた意味が知りたい。自分はどうして存在して居るのだろう。始めはそんな疑問からやってきた旅だった。
「クレカさん」
グリーフ、私達は作られた人形だとずっと思って居たけれど。
 思ったよりも、ずっとずっと、人間だったのかも知れない」
「……そうですね」
「私はずっと、自分が何か解らなくて空っぽだった。けれど、この旅をして、世界やグリーフが大切になった。
 そう思ってから私は生きている意味が、生まれた意味が分かってきたしたんだ」
 そうだ、ずっと空っぽだったから。――やっと、分かった。
 きっと、この世界を救うために『ゼロ・クール』は動き出して、誰かを愛するために生まれて来たんだ。
 クレカは「良い旅になりましたか」とグリーフに、そしてイレギュラーズに問うた。
「え? わたしと旅できたのに良くないとかある?」
「マナセ……」
 窘めるアイオンに「こう言うのって結構、ガツガツ行かなくちゃダメだってママが言ってた」と微笑んでからマナセは走り出す。
「じゃあ、早速、冒険の疲れを癒すために! ケーキでも食べましょう!
 聞いてた? イレギュラーズ。早速、美味しい物食べに行きましょう。冒険はまだ続くのだから!」

 ※プーレルジールでの戦況が届いています――!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『遂行者』グドルフ・ボイデルの身に変化が起こりました――

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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