PandoraPartyProject

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プルートに到る

 事件の全貌は誰にも見えずとも、残り火は未だに揺らめいていようとも。
 何れにせよ『双竜宝冠』を争う事態が終息に向かったのは事実であった。
 失われたものは決して戻る事は無いのだが、事件を通じて幻想なる国の暗部に光が差した結果、苛烈な貴族主義を抱えたかの国が幾分かの和らぎを見せつつあるのは多くの人間にとってのハッピーエンドであると評価する事が出来ただろう。
 しかし、それは『殆どの人物にとって』に留まる。
「……」
「……………」
 パウル・ヨアヒム・エーリヒ・フォン・アーベントロートの目の前には恐ろしい程の不機嫌面をした冠位色欲ルクレツィアが居る。
 蟠る闇の中に更なる濃密な腐臭を湛える美少女は今にも爆発せんばかりの憎悪と殺気を帯びている、実に酷い有様であった。
「『会談』を申し込んだのは君だぜ、ルクレツィア。
 そんなにも嫌な顔をされたラ、今すぐ帰りたくなるのが人情じゃないカ」
 軽口を叩くパウルが煽る調子なのは無論わざとである。
 双竜宝冠の最終局面で丹念に手間暇をかけたカラスが失敗を確実にするや否や手を出そうとしたルクレツィアを流れの中で阻んだのがこのパウルである。
 結果事件は彼女の望んだ悲喜劇からは程遠く、ハッピーエンドなんて文言さえ踊るのだからその怒りは大したものであった。
「あら、それは御免遊ばせ。今すぐブチ殺してやりたい気分を抑えるのに必死でして」
 ルクレツィアの言葉にパウルは「ククッ」と鳥のように笑った。
 元々が酷い不仲の二人なのである。パウルがイレギュラーズに敗れ身体を失った際にはルクレツィア側が嘲っていたのだからお互い様の関係である。
 とは言え――
「貴方と私は長らくの間、不可侵関係であった筈」
「ま、積極的に争う程の理由は無かったカラね」
 ――ルクレツィアの言う通り、彼女とパウルは互いを嫌悪しながらも積極的に干渉しない関係にあった。
 ルクレツィアは悪辣なる魔種だが、パウルも正義を標榜する程の人間でもない。
 パウルは幻想に拘泥している部分も無くはないが、何が何でもそれを守らねばならぬと誓っているような男でも無かったからだ。
「思うに」
 ルクレツィアは噴き出しそうになる激情を人生最大レベルの努力で抑え込んで言葉を続けた。
「今回の件は、『貴方の仕掛けを横取りした』のが最悪の面倒の始まりであったと承知しています」
 ルクレツィアの言葉にパウルの糸目がすっと開いた。
「『勝手に敗れて身体を失った何処かの誰かさん』が悪いのはそれはそうでしょうけれど。
 そのクソ魔術師の用意したアベルトへの仕掛けをそのまま使ったのは確かに私の失策でした。
『私達の間にあったのが暗黙の不可侵であるのなら、貴方の利権に触れたのは余計だったと思いますわ』」
 鴉殿が敗れた事等、これまでに一度も無かったのだ。
 つまり、今回の件は実に例外的で、気付きを得る事の出来なかったレア・ケースだったとも言える。
「改めて、ハッキリさせておきましょう。クソ鴉。今回の『解釈』はそれで宜しくて?」
 ルクレツィアの言葉はパウルの真意を問うていた。
 即ちそれは今後、お前が魔種を邪魔し、ローレットや幻想の側に立って正義の味方をする心算があるのかどうかという問いである。
 無論、これに頷くならば生じるのは彼我どちらかが滅びるまで続ける一心不乱の戦争である。
 だが、敢えて『解釈』を口にし、今回の件を合理化したルクレツィアはパウルがそれを選ぶとは思っていなかった。
「……ま、そんな所が正道だロウね」
 果たしてパウルはルクレツィアの言葉にそんな風に頷いた。
「まず以て、今後幻想が続く限り僕が守り続けなければいけないなんて真っ平だ。
 そりゃあアイオンの事もある。多少はね、所々手を貸してやるかも知れない。
 或いはその係累の命位は救ってやるかも知れない。だが、それを丸抱えするのは鴉殿の仕事じゃあない」
「それは正義の味方(ローレット)のやりようだロウ」とパウルは嗤う。
「第二に、君に隠しても仕方ないし――
 分かっているからそう言っているのだロウが、僕は本調子じゃあないんだ。
 ローレットの連中に無茶苦茶やられたカラね。
 意趣返しに奴等を利用して身体を取り戻したとは言っても……万全からは程遠い。
 正直、今の体調じゃ君を相手にしたら荷物が勝つよ。
 尤も? 君は知っているカラ話を持ち掛けているんだロウ?
 僕は逃げ足と嫌がらせには自信があるカラね。
 戦って勝てなくとも君の計画の全てを無茶苦茶に出来るワケだ」
 ルクレツィアは「フン」と鼻を鳴らした。
 不幸な事に互いは長い付き合いだ。お互いに言わんとする所は理解出来ている。
「だから君は改めて現状でも不可侵が生きているかの確認を取っている。
 億が一に僕がヒューマニズム――愛やら正義に目覚めて邪魔をし始めるのが怖かったカラだろ?
 まあ、でもそれは安心していい。僕の目下の最優先は力を取り戻す事だ。
 少なくとも万全にならない限り、君のお遊びにちょっかいなんて出さないよ」
 パウルの言葉にルクレツィアは皮肉な笑みを浮かべていた。
(――万全にならない限り、ね。誰が信用しますか、クソ鴉)
 さりとて、この場での全面戦争は『お互いに』望んでいないのは確かであった。
 パウルは安全に力を回復したいし、ルクレツィアは次の遊びの算段を既に用意しているのだから。
(待っていなさいな。その内、たっぷり痛めつけてブチ殺して差し上げますから)
 つまる所、この会談は現在地における当面の立ち位置に釘を刺す程度のものでしかない。
 まさにお互いにナイフを後ろ手に隠しての『握手』である。
「話は終わりですわ。臭いから早く何処へでもお消えなさいな」
 吐き捨てるように言ったルクレツィアにパウルは肩を竦める。
 しかし彼はお喋りな鴉である。
 もう一言も口を利きたくないと言わんばかりのルクレツィアに問い掛けた。
「僕を観客席に縛り付けようって言うんだ。さぞ面白いモノを見せるんだロウね?
 タイトル・コール位は聞きたいなア。
 僕と君の付き合いなのだ。それ位はサービスしなよ、ルクレツィア!」
 舌を打ったルクレツィアはしかし、その要求にだけは応える事にしたらしい。
 蕩けるような極上の美貌に最低最悪の悪意を乗せて――口角を三日月に持ち上げた。
「『プルートの黄金劇場』。私の巨匠(マエストロ)による一大楽曲を披露して差し上げます。
 教養のないクソ鴉でもうっとり出来る位の素敵な調べを、ね。
 いいから、分かったらとっとと失せなさい。そうしないと、今すぐ不可侵が終わりになりそう――」

 双竜宝冠事件が一定の結末を迎えたようです!
 クリスマスピンナップ2023の募集が始まりました!
 ※テュリム大神殿の先の階層に進むことが出来そうです……。


 ※プーレルジールで合流したマナセとアイオンの前に魔王イルドゼギアが現れました――!
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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