PandoraPartyProject

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尺には尺を

 ステンドグラスから差し入れる光は気怠げな朝を象徴している。
 眉を動かしてからルスト・シファーは頬杖を付き「何のようだ」と一言添える。不愉快な靴音は最悪な気分にスパイスでも振りかけて調理しているかのようだった。
「カロルが動きました」
「だろうな」
 ルストはどうでも良いとでも言いたげに眼前の男を見た。
 預言者ツロ。ルストにとっては『ただの使い捨ての駒の一つ』だ。
「人形遊びに飽きましたか?」
「飽きたと言ったら何になる? 薄汚い溝鼠は聖域へと入り込み、理想郷をも食い荒らすのだろう。
 実った作物を囓り、土を踏み荒らし、悪戯にも正義と吼える。実に下らない」
 ルストを前にツロは微笑みを崩さず背筋をピンと伸ばしたまま立っていた。
 ツロはカロルが『薔薇庭園の来客を敢て帰還させた』ことは把握していた。茶会の席へと踏み入ろうとした男は何故かあの庭園に拒まれた。
 カロルの思惑が働いたか、それともあの地に存在する聖竜の意志であるかは定かではないが――
(ああ、やはり)
 創造主の失敗は人間に感情を与えた事だと言う。
 無辜なる混沌を作り上げた存在を神と呼ぶならば、その不届き者はイノリと呼ぶ生命を作り上げた。
 所謂、世界の管理機構のようなものだ。だが、男は感情を有していた。通り一遍等に善悪の知識を有し、人間の一般的想念を有していたのだ。
 人間の一般的想念とは、つまりは『七つの罪源』そのものだ。七つの死に至る罪と呼ばれたそれは人間に深く根付いている。
 それなくしては人は思考できず、それなくしては人は人たり得ない。
 つまり――『男は人間的な一般的想念により自らの役割を拒否したのだ』
「創造主(クズ)の真似事をしてみて、作り上げた遂行者にも感情とやらを与えてみたが失敗理由が良く分かる。
 もそうだったが、下らない馴れ合いこそが目的の邪魔になるのだ。『聖女』もそうだろう」
 詰らなさそうに言うルストにツロは「ええ」と頷いてそれっきりであった。
「乱入者のことは好きにさせてやればいい。どうせ、理想郷の内部で選ばれた者は死なん」
「はい」
「土足で踏み荒らす事は腹に据えかねるが、許してやれない程に狭量ではない」
 ルストが鼻を鳴らせばツロは笑みを浮かべ「仰せのままに」と返した。
 酷く傲慢な男は、多少の情けをイレギュラーズにかけたつもりなのだろう。
 ツロもルストも『カロルの庭園で行なわれた分岐した時』については知る由もない。
 イレギュラーズが何を願ったのか、そもそも何かを選択する機が訪れた事さえ創造してすら居ない。
 ただ、男は自らの領域側に入り込んで来たイレギュラーズが絶望する顔が見たいだけなのだ。
 ルストの領域は『彼の権能に満ち溢れている』。
 まさしく神の所業たる『創造』は内部に選別され棲まう人々の幸福と平等を保障する。
 飢え苦しむことも無く誰もが白くふかふかとしたパンを喰らう事の出来る平穏。命を落とす者も居ず永遠の娯楽を得る権利。
 信仰という心の安定に幸福を口遊む子ども達の歌声響く朗らかなる理想郷。
 よもや、誰ぞが幸せだと笑う空間にイレギュラーズは『不正義』であると、世界の癌であると土足で踏込み害すのか。
 丁寧に、咲き綻んだ花の首を折り、芽を踏み荒らすつもりであるか。
 ――悲劇である側面、喜劇でもある。
 罪によって出世する者あらば、善によって転落する者もある。
 正義など裁定者の判断次第でどの様にも変化するのだ。それ程、頼りにならない基準もなかろう。
 あの地では誰が正義であるか、その裁定を行なうのはルストだ。
「……感情的で、善悪を口にする者達が悪に堕ちる姿は見物だな。実に愉快だろう?」
 一人ほくそ笑んだ男は指先を揺れ動かしてから、幾つもの『街』を覗いて見せた。
 踏み入る黒衣の者達の強ばった表情は――暇潰しに眺めるにはぴったりだ!

 ※テュリム大神殿の先の階層に進むことが出来そうです……。



 ※プーレルジールで合流したマナセとアイオンの前に魔王イルドゼギアが現れました――!
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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