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シナリオ詳細

<信なる凱旋>杜の狐作戦

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「それじゃあ行くよー!」
「ごー!」
 ぬいぐるみのようにふかふかの尾を揺らし、狐耳を立てた少女達が拳を振り上げた。
 煌めく陽光を斬り裂くように、乾いた音を立てて迫撃砲が放たれる。
 七発ほどの弾頭が放物線を描き、すぐに爆音が轟いた。
「突撃! 突撃~!!」
 小銃を手にした狐兵達が次々に突撃を敢行する。

 ここは天義西部の廃坑跡、銀が蒼腐りし毒を放ったとして放棄された場所だ。
 だがそんな場所に、今は大きな工場が作られている。
 カルト結社『綜結教会』が対イレギュラーズ用の多脚戦車を製造していた。
「それにしても稲荷神様も、ずいぶんと思い切ったものね」
 仲間を振り返り、呟いたのは長月・イナリ(p3p008096)だった。
「助力がこれほどとは。しかし助かるというものですね」
 教会の戦車破壊作戦を立案した新田 寛治(p3p005073)に答え、イナリが所属する『杜』が軍を派遣したのである。硬式飛行船による強襲だ。
 大部隊の狐兵達が制圧する間に、主力となるイレギュラーズが敵首脳部を斬首する。
 もっともここが敵の本陣ではない以上、取り逃がす可能性は大きい。
 だが作戦の目標はあくまで工場の奪取破壊であって、敵自体は撃退であっても問題はない。
「要は、いつもの作戦でありますな」
「……なるほどな」
 エッダ・フロールリジ(p3p006270)に、ガハラ・アサクラが頷いた。
「これ、さすがに上に報告しなきゃまずいよねえ」
「あー聞こえない、迫撃砲なりっぱなしスから聞こえない」
 練達勢であるマキナ・マーデリックに佐藤 美咲(p3p009818)はいやいやと首を振った。
「公社のお立場に触れる気はございませんが、わたくしの方では報告はしますが」
 ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)の言葉に、マキナと美咲が肩を落とす。
 それはともかくとして――

「では作戦の最終確認と行きましょうか」
 寛治が一行を見回した。
 杜からもたらされた情報は、非常に確度の高いものだった。
 
「それから、レディ・スカーレットにファティマ・アル=リューラ」
「ここでお目見え――とはな」
 アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)に、リースヒース(p3p009207)が応じた。
 その後ろで、珍しく浮かない表情のスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、伝家の指輪の力を遂行者に奪われたままだった。残念ながらこの戦場に、その遂行者テレサ=レジア・ローザリアの姿は見えないようだった。
「けど、ここって敵の工場なんですよね」
 そう述べたのは普久原・ほむら(p3n000159)だ。
「じゃあもしかしたら、何か技術的な、こう。なんかあるのかもですかね?」
「っ! そうかもしれないね!」
 スティアの表情が華やいだ。
「それじゃあ、準備しようか! はい、これ!」
 セララ(p3p000273)が一行に、ドーナツの箱を差し出した。
「それでは私はここで皆さんの無事をお祈りしておりますね」
「くれぐれも無茶はするなよ」
 クロバ・フユツキ(p3p000145)がエリカの頭に手のひらを乗せる。
「はぁい。私の死神さん。あなたの手にしか、かかるつもりはありませんもの」
「またそういう事を」
 狐兵達と共に、黒衣の騎士団数名も同行する。
 エリカは本陣で彼等とイレギュラーズのバックアップを行う手筈となっていた。
「作戦名は?」
「杜の狐?」
「結構です。それでは皆様、作戦の共有が済み次第、向かうと致しましょうか!」
 ディアナの言葉に、一同が頷いた。


「――杜の襲撃だと?」
 部下の報告にファタール・ファムが眉をひそめた。
「は、現在天使僧兵部隊を交戦中。また敵陣には天義黒衣騎士団も混ざっているようです」
「するとローレットも噛んでいるな、待機中の指揮官を集めろ」
「はっ!」
 僧兵が駆けていくのを見送ったファタールが歩き出すと、背後から声がした。
「お困りのようね」
「……ん」
「これはこれはレディ」
 振り返れば、そこには艶やかに微笑むレディ・スカーレットが居た。
 教会に協力している魔種である。傍らには眷属のファティマ・アル=リューラも控えていた。
「あちらの奇襲は成立、けれど地の利はこちらにあり――あなたはこの戦況をどう読むかしら?」
「迎え撃つ、か。それしかないだろう」
「良い答えよ、ファタール。理知的なのは嫌いじゃないわ」
「一体だが、こちらには戦術天使の用意もある」
「ならばこそ、この私も助力いたしましょう。ねえファティマ」
「……ん」
「メタトリアの『あの子』も、いただける事でしょうし」
「あとは、どうにか戦力はなかろうか。教団はともかく、友軍の遂行者は何と?」
「天より赤き騎士が遣わされるそうだけれど」
「赤き騎士……」
「この世界を炎により更新せんがためのね」
 レディ・スカーレットはくすりと微笑むと、ファティマを抱き寄せた。
「それでは戦いまで、甘い時間を過ごしましょう。ああ、一応。出て行ってちょうだいな」
「どうぞご勝手に、レディ。私も愛する者の為に祈りを捧げて参りますゆえ」
(ファタール、哀れな人、けれど――あなたなら騎士にだって天使にだってなれるわ)

 工場に備え付けられた小さな礼拝堂で、ファタールは膝をつき祈った。
 それは天で待つ恋人のためだと思っている。
 そう信じている。
 ファタールはかつて、幻想で用心棒をしていた。
 元々はラサの傭兵であり、幻想貴族に雇われていたのである。
 ファタールは使用人の女メアリと恋に落ちた。
 しかしある日のこと。
 男爵がメアリに手をつけようと、関係を迫ったらしい。
 侍女は泣き叫び、首を絞められ、物音を聞きつけたファタールが駆けつけた時に絶命した。
 激怒したファタールは、この貴族を斬り捨ててしまう。
 こうして彼は追われる身となった。
 窮地を救ったのが教会だったという訳だ。

 ――これらが表向きの彼の事情だ。
 しかし。実はファタールは、メアリと恋人関係ではなかった。
 この恋はファタールの片思いだったのである。
 メアリはドゥーガス男爵の息子の愛人だったのだ。
 侍女メアリを巡る父子の闘争に巻き込まれた時に、彼はそれらを知ったはずなのだ。
 だから本当は、ドゥーガスも、彼の息子も、メアリも。彼が全て斬ってしまったのである。
 そして教会によって、半年間の記憶をねつ造されたのだ。

 頭の片隅で、何者かが警笛を鳴らしている気がする。
 だからファタールは、更に強く祈った。
 なぜだか魂を焼き焦すような、炎の気配を感じている。
 その正体が、疑念が、手を差し伸べるような炎のことも、何一つ分からないまま。
 ファタールは立ち上がり、愛剣を佩く。
 そんな彼からは、尋常ではない熱気が立ち上っている。

 戦場では狐兵達が次々に要所を制圧している。
 手際が良く、練度も高い。
 そして――誰かが息を飲む。
 いよいよ、イレギュラーズが突入するタイミングが迫っていた。

GMコメント

 pipiです。
 件のAIT(アンチイレギュラーズタンク)とやらの工場をぶっ潰しましょう。

●目的
 工場の制圧
 敵首脳部をぶっ潰すことで任務達成です。
 敵の生死は問いません。

 友軍『杜の狐兵達』の大軍に、天義の『黒衣の騎士団』数名を交えて制圧任務を行います。
 皆さんは最も強力な少数精鋭として、その間に敵首脳部に殴り込みをかけて下さい。

 敵は二分された状態ですので、上手く各個撃破したいところです。

 撃退後は、なんらかの技術的情報などを持ち帰ることが出来る可能性があります。

●フィールド
 カルト結社『綜結教会』が保有する大規模な施設です。
 奥の方では幹部達が迎撃態勢を整えつつあるようです。
 戦場は広く、足場も光源も充分です。
 屋内なりに柱だとか、そういった遮蔽物はあるでしょう。

●敵
『第一陣』
 はじめに会敵します。

・魔種レディ・スカーレット
 天義の伝承に記された吸血鬼です。こちらは色欲の魔種。
 剣技と魔術を非常に高い次元で行使します。
 戦意が高くなさそうなのが救いです。

・魔種ファティマ・アル=リューラ
 元幻想種の吸血鬼でした。今はレディ・スカーレットの眷属の魔種です。
 魔力の大鎌による近接攻撃、魔術攻撃、コウモリの群れ化、霧化などを行います。
 保有BSはHA吸収、出血系。
 恐らくですが、スペックは向上しているものと思われます。

・量産型天使(?)×多少
 つぎはぎだらけの、翼が生えた人型の怪物です。
 飛行しながら遠距離物理攻撃を行います。

・戦術天使×1
 戦術天使と呼ばれる兵器が存在するようです。

・????
 微かな滅びのアークの気配がします。
 恐らく遂行者テレサが、使い魔を通して様子をうかがっていると思われます。

『第二陣』
 奥の方に居ます。

・ファタール・ファム
 教団幹部の一人です。剣の達人です。
 また教団によって肉体改造を施されており、少々人間離れしています。
 一対一の近接戦闘を得意とします。
 後述する『第二の騎士・赤騎士』に魂を侵されつつあります。

・多脚戦車AIT-1×2
 精霊制御式の蒸気駆動の無人超小型戦車です。
 対人戦車などという設計思想が狂った兵器を改造して作られたようです。
 高いEXAがあり『ブレイクを伴う中距離扇掃射』から『大威力の主砲発射』から『必殺を伴う命中の高い狙撃』という挙動が組まれています。
 嫌な動きですが、とはいえいくらでもやりようはあります。
 そもそも当らなければ意味もなく。

・第二の騎士・赤騎士
 禍々しい気配がします。
 その正体は人々を『炎の獣』に変貌させる恐るべき存在です。

『その他』
・その他、多量の雑魚が居ます。
 これは友軍の狐兵達に任せてしまいましょう。
 僧兵とか気味の悪い天使とか、例の多脚戦車とか、教団の研究員とかそういうのが居ます。

●味方
〇前線
『狐兵』×多数
 あちこちを制圧してくれています。
 士気も練度も高い部隊です。

『黒衣の騎士』×数名
 天義からディアナに貸し与えられた部隊です。全員がうら若い女性。
 精強なので、ちょっとした役割を任せることが出来るかもしれません。
 特にない場合は狐兵の手伝いをします。

・普久原・ほむら(p3n000159)
 皆さんと同じローレットのイレギュラーズです。
 両面戦闘型アタックヒーラーで、闘技用ステシよりは強いです。

・ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
 練達の依頼筋であり、普通に味方です。
 練達実践の塔に所属し、天義へも出向している人物です。
 かわいい女性に目がなく、黒衣の騎士団内では『歩く不正義』と呼ばれています。
 両面戦闘型アタックヒーラー。割と普通に戦えます。

〇後方味方本陣
・『Kyrie eleison』エリカ・フユツキ
 クロバさんが保護する少女です。
 本陣のバックアップ役です。

・マキナ・マーデリック
 美咲さんと同じ練達諜報組織の所属です。
 上層部の命令によって『神の国』に関する事件を追っています。
 本陣のバックアップ役です。

・ガハラ・アサクラ
 エッダさんが保護した帝国軍人です。
 エッダさんの指揮下にあります。
 ちゃんと本陣を守ってくれます。

●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <信なる凱旋>杜の狐作戦Lv:50以上完了
  • 綜結教会の多脚戦車AIT-1製造工場を破壊せよ
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月20日 22時10分
  • 参加人数12/12人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(12人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

サポートNPC一覧(2人)

普久原・ほむら(p3n000159)
ディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)
聖頌姫

リプレイ


 九月の荒野は残夏色濃く。
 硝煙と、様々なものが焦げたような臭いが鼻をついている。
 無数の銃声と砲撃音、続く地響きと砂煙が戦闘の激しさを端的に示していた。

(アンチイレギュラーズタンク……)
 小型戦車を横目に、『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)はバーニアの出力を上昇させた。加重をものともせず、一行は戦場を突き進む。
「ふふふ、この生産施設を叩き潰せば戦車の生産は大幅に遅滞するはず」
 呟いた『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の言葉通り、作戦目的は敵生産設備の破壊にある。
 天義を中心に世界各地で暗躍する綜結教会が量産する、対イレギュラーズ用の胡乱な兵器だった。
 人を相手に様々な火器を連射するという設計思想は狂っている。だが超人的な特記戦力であるイレギュラーズを相手するには、なかなかどうして多少の有効性はあった。
「だとしたら供給元を一網打尽にしたいものね」
「ええ。であるからこそ、そろそろ先手を打ちたかった訳です」
 振り返った『冠位狙撃者』ジェック・アーロン(p3p004755)に答えたのは、作戦の発案者である『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)だ。
「供給を断てば奴らの作戦行動にも支障が出るはずだよね」
「ええ、今まで苦しめられた思い出を、利子を付けて叩き返してあげるわ!」
「後手後手は沢山だもの」
 答えた『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)達は、今まさに敵陣の中枢へ突入せんとしていた。
(狐さんがたくさん。戦場も華やかになるわね)
 最前線では狐娘の兵士達が、果敢な突撃を敢行している。
 作戦を全面的に支援しているのは組織『杜』の構成員達だ。
(……たくさんの人が協力してくれている)
 それは今に始まったことではないにせよ、非常に尊いことに変わりはない。
「コャー」
 呟く『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)をはじめ、多くのイレギュラーズには馴染みのない組織ではある。だが他ならぬイナリの拠点であった。
 胡桃にとっては、紛れ込んでいても違和感がなさそうでもある。
 狐仲間として遊びに行きたいとも思うが、入会資格などはあるのだろうか。
 なにはともあれ、件の教会とやらはここらで懲らしめておきたい。
「睨み合いもこれで終了!」
 振り返ったイナリに、狐兵が頷く。
「単独の組織なら無理だったでしょうけど、彼らと共同作戦が出来れば戦力比は五分以上」
 いよいよだ。
「攻勢に出れるわよ!」

 一行は様々な気配を感知しつつ、使い魔を先行させながら潜入していた。
 数メートル先に立つ寛治のハンドサインで、道中の敵見張り兵をやり過ごし――目線で合図する。
 そして見張り兵の背後から銃弾の雨を降らせてやった。
「このままいくらか釣り上げ、各個撃破といきたいものですね」
 こうして交戦予定地点までの道中に敵を間引くことで、乱戦時の安全性が向上出来る。
 一度に出会う敵の数と増援の共々を減らし、更には狐兵の負担も低減出来るという寸法である。
 実に寛治らしいやり方だ。
「ファタール・ファム……でスか」
 それは『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)の知る限り、『運命の女』という言葉の前後を入れ替えたものだ。潜入したマキナの情報によれば間違いなく偽名である。当然ながら経歴もだ。
 貴族の召使いであり愛人に、横恋慕した挙げ句、貴族共々斬殺した男だ。
 しかし教団はその剣の腕を買い、記憶を書き換えた。ファタールはあたかも召使いと恋人関係であり、彼女を殺したのは貴族だったと思い込まされているらしい。
 洗脳したのはジャックという男であり、悪趣味な性格なのだろう。
「だが自尊心の回復と、忠誠心の植え付けといった所か」
 そう分析した『影編み』リースヒース(p3p009207)に、何やら浮かぬ表情の美咲は「スかね」とどこか気のない返事を返した。
「そういう夢って、醒めるのとそうでないの、どっちがいいんだろうね」
 ジェックもまた呟き、思案する。
「ここにこのような建物があるうちは、おちおち眠れぬであろう、なあ?」
 リースヒースが突如振り返り、蝕みの術を放つ。
 つぶれた蛙のような悲鳴をあげ、邪妖精の一匹が地に落ちた。
「使い魔だね」
「そのようだが、どうやら一匹や二匹ではないらしい」
 微かに感じるのは滅びのアークの気配だ。
 おそらく遂行者テレサ=レジア・ローザリアのものだろう。

 そうこうしながら敵陣の敷地深くに潜入した頃、一行へ通信が入った。
「こちらアサクラ。先発組は突入が完了した。そちらはどうだ、オーバー」
 壁に背を付けた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が応じる。
「了解した、こちらも作戦位置に待機した」
「……信じられるのか。裏切り者の、この私の言葉が」
「軍人が軍人の通信を信じずにどうする」
 返ったのは、微かな苦笑だった。
(アサクラ中尉、私は貴様を改めない)
 エッダは彼女に、ただ『気付き』を望んでいる。
 そうでなければ人は成長など出来ないからだ。
 美咲はそんなエッダの横顔に視線を注いでいた。
(頭のもやが晴れない)
 アサクラという女は、果たして救うべき命だったのだろうかと、考えずにはいられなかった。アサクラは戦争犯罪者である。それ以上でもそれ以下でもない。
 あるいはエッダに『気を遣わせてしまった』のかもしれないとも思う。
 エッダ自身にとって、アサクラは『自国の罪人』であり、捕えた以上は『救うべき自国民』でしかなかった訳だが。しかし美咲は未だに割り切れていない。こうして悩んでいる間にも、テレサはクズのような者達をあつめて過去を掘り返そうとしているというのに。
(……気にくわない)
 遂行者とは歴史を書き換えたい存在だというが、果たしてテレサが書き換えたい歴史とは何なのか。
(アンタの思想は何なんだ)
「なんか頭痛そうですけど、イブプロフェンいります?」
 普久原・ほむら(p3n000159)が耳打ちしてきた。
「あーいやそういうんじゃないスけど、すいません。なんかこういうのパターンになってきましたね」
 そんな姿勢をしていたのだろうか。スパイともあろうものが、自分の状態を把握出来ていないなどと。
「せっかくなので、ほむら氏に質問」
 にやりと笑みを作り――そうやって、また自分を誤魔化すのか――と脳裏に響く声を無視して。
「ほむら氏は忘れたい過去はありますか?」
「外付けHDDの全てですかね」
「いや、私らはそういうのいっぱいあるタイプの人間でしたね。引き出しのノートとか」
「あー、ファタールのですか。あるいは私は――」
「ストップ。じゃあ次、それを消し去るのは正しいことだと思いますか?」
「私は……消してしまいたいタイプかもしれません」
「なるほど」
「ストレスを解消したいのでしたら、あの手この手でご用意いたしますが、おいかが?」
 すいと近付いてきたディアナ・K・リリエンルージュ(p3n000238)から、一歩身を引く。
「遠慮しときまス」

 ――それにしても。
 姿勢を低く、曲がり角の先を伺う『真意の証明』クロバ・フユツキ(p3p000145)も思う。
 テレサの目的とは何なのか。
 彼女は『死は救済』というようなことを言ってはいた。
 調査の結果、彼女は不正義の烙印と共に廃絶された家系だと聞いている。
 魔種はどうしたって敵でしかない訳だが。
(……皮肉だな、そう思わないか――エリカ、そして死神(オレ))
「ローザリア家は禁呪に手を染め、非道な人体実験を行ったというわ」
 アンナが調べた限り、ローザリア家は真っ黒だった。
 神聖魔法に長けた聖騎士と聖職者を輩出する名家であったが、実際には怪しい魔術結社だった。
 書物に記載された内容自体は『魔種との取引』など胡乱げではあったが、赤ん坊を生け贄とした術を扱っていたというのが事実らしい。少なくともお家騒動のような類いの話ではない。正当性のある断罪だ。
「いずれにせよ、気になるなら当人に聞くほかないのかもしれんな」
 そう述べたリースヒースが敵陣を睨む。
 トタンのような材質の壁の向こうに、敵が控えているだろう。
 倒せばいい――とはいえ、量も質も果てしない。

「スティア様も気になりますわよね」
「ありがとう。手がかり、きっとあるよね。ううん、見つけてみせる」
 ディアナに答えた『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)には、捜し物があった。それはスティアが身につけている家宝の指輪『リインカーネーション』に纏わるものだ。
 宿る聖霊の大部分が引き剥がされ、『シスマ』という状態に陥っているらしい。
「この兵器工場を放置する訳にもいかないしね」
「うん、このままじゃきっと多くの人が犠牲になる」
 頷いたのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)だった。
「そんな悲しい未来は無くしてみせるよ」

「突入するぞ」
「うん、レッツゴー!」
 耳元の通信機を押えたエッダにスティア達が頷く。
「さぁ、人々や後ろにいるエリカにかかる火の粉は払うのみだ、行くぞ!」
 二刀を構えたクロバの言葉と共に、オニキスが一歩前へと踏み出した。

「グラヴィティモーター、シーケンス開始――120mmマジカル迫撃砲重力弾」

 ――発射(フォイア)!

 投射した魔術弾頭は天高く壁を越え、敵陣へ――


 ――弾頭の重力術式が展開する。
 けたたましい音と共に、数匹の天使が地に縫い付けられる。
 壁は捻れてひしゃげ倒れ、コンクリート床は半球状に抉れ稲妻のような亀裂が走る。
「人々の平和はボクが守る! 魔法騎士セララ、参上!」
 舞い降りたセララが聖剣を構えた。
「ずいぶんなご挨拶だこと」
 微笑み、剣を抜き放ったのはレディ・スカーレットと呼ばれる魔種だ。
 教団に協力する理由は分かっていないが、魔種である以上は敵以外の何者でもない。
「けれど見知った顔が沢山で嬉しいわ。人の命など泡のように消えてしまうのだから」

 その頃、美咲のハンドサインを確認し、キャットウォークへ陣取った寛治とジェックが視線を合わせた。
 ジェックの散弾銃が火を吹き、寛治が八発の弾丸を立て続けに放った。
 散弾がレディ・スカーレットとファティマに無数の穴を開け、紙屑のように引きちぎる。
 人であれば即死――だが人ならざる二体はたちまちに無数のコウモリへ姿を変えた。
 だが寛治の弾丸が次々に穿ち貫く。
 駆けながらマガジンを落とした寛治は、滑るように屈んで次を装填する。
 数匹の天使が魔弾を放つが、足場に穴を開けただけだ。
 肝心の魔種二体は、巧みな封殺術に反撃出来ずにいる。
「それで、俺の相手は誰になるのかな――おまえか?」
 上空を睨んだクロバへ、白い『何か』が降ってきた。
 クロバは即座に後背へ跳び、二刀を構える。
 爆音と共に床がひび割れ――煙の中から現われた巨大な剣を、クロバは受け流す。
 火花と共に立て続けの三撃は速く、重く、鋭い。
「――ええ、私です」
 髪が触れ合うほどの至近距離に、ひどく歪んだ笑みがある。
 現われたのは桃色の翼を生やした白い少女だった。
 酷薄な笑みを浮かべ、その手には身の丈以上の巨大な剣を携えて――
 身を捻り、少女の腹部に刃を滑らせるように、クロバは引き金を引く。
 加速した刃がその胴を横切る直前に、少女は地を蹴り飛び退いた。
 緒撃は――互いに無傷か。手強い相手だ。
「戦術天使、完成していたのね」
 イナリが呟き――
「私はガブエラ……慈悲を与える者」
 ガブエラが艶やかに微笑む。
「至高の喜び、究極の絶頂、生きて間は味わえない天上の感情、私が貴方達に与えてあげる!」
「そうはさせないよ!」
 祈るスティアが光を導き、その歌声が敵陣を責めさいなむ。

「さて、魅力的なお誘いが多いことですが、夜にはまだ時間もある。プリンセス、いかがいたしますか?」
「敵でなければ一晩と言わず蜜月を楽しみたいところですわね」
 うそぶく寛治にディアナが答えた。
 敵の特記戦力は三と多い。
 だがこちらも通常編成を大幅に上回る十四だ。
「なら、こっちは任せてちょうだい」
 再び人の姿に戻ったレディ・スカーレットへ、アンナが斬り込んだ。
 立て続けの斬撃を、上半身をひねるようにして回避したレディは身体を回転させて剣を振るう。
「こうして相手するのは久しぶりね」
 刀身に刃を滑らせたアンナは素早く上段を突き、レディの髪が数本宙に舞った。
「相変わらず強いのよね、あなた」
 十合、二十合――甲高い鋼の歌声と共に、レディとアンナは踊るような斬撃の応酬を重ねた。
「おしゃべりしに来た訳でもないのだけれど、そうね」
「なあに?」
「相変わらずみたいだけど、やる気のある仕事は回してもらえないの?」
「別に私は働きたい訳じゃあないのよ」
「だったら何がしたいわけ?」
「欲しいのは対価よ、アンナお嬢さん。私ね、寂しがりなの」
「まあいいわ。真面目にやる気がないならさっさと押し通るだけだから」
「もう少し遊んだらね、この世界を炎により更新する者が現われるでしょうから」
「炎――Igne natura renovatur integra.」
 ファティマへ拳の連撃を見舞い、エッダが呟く。
 初めて聞くフレーズだが、レディの言葉は妙に耳に残った。
 覚えておくとしようか。

 攻守を入れ替えながらも、戦闘は堅調に推移していた。
 美咲の素早い合図に連携する一行は、並外れた火力を以て速くも天使の軍勢を叩き潰していた。
 都度都度差し込まれるジェックと寛治の封殺戦術は、敵特記戦力にも有効に作用している。
 押さえ込むだけではない打撃力が、敵陣を徐々に追い込みつつあった。
 無論、人ならざる二体の魔種は強力であり、天術天使ガブエラなる存在もまた大いなる脅威だ。
「全部斬って、壊して、殺して――そう、愛してあげる」
 ガブエラの剣を弾き、セララが斬撃を返す。
「――これは喜びの摩天楼。さあ一緒にいきましょう?」
「嫌だよ! 壊すとか殺すとか、そんなの絶対に愛じゃないって分かるもの」
「慈悲でもあるのに?」
「そんなの慈悲でだってあるもんか! 行くよ、ギガセララブレイク!」
 雷をまとう斬撃がガブエラの身体を横一文字に駆ける。
「まだです、まだ。まだよ、もっと歌いましょう」
「その歌声は芥子の花、耳を貸すに能わず――」
「脳の報酬系に働きかける作用があるってところかしら、典型的なあぶない薬物みたいにね」
 リースヒースとイナリの言葉に、一行が頷く。
 ガブエラの戦闘能力は高いが、特筆事項として恐らく何らかの精神操作が可能らしい。
 一行は難なく撥ね除けることに成功しているが、一般人にでも使われれば恐ろしい事態になりかねない。
「……さて」
 やはりレディ・スカーレットはやる気なしか。
 癒やしの術式を紡ぎながら、リースヒースは思案する。
 まずは敵の数を減らしたいところだ。特記戦力を落とす余力を稼ぎ上げたい。
 しかしいったい何を考えているのやら。対価とはいったい何なのか。
「ディアナよ、此度も御身の力を借りる。攻防自在のその姿は我々のよき鼓舞だ」
「褒めたって何も出ませんわよ」
「無論、実力も……正直一人では癒やしきれるか分からぬのでな。頼りにしている」
「それとも何かお礼をくれたりなんて、たとえば一夜の自由だとかー」
「お戯れを」
 このところ、やけに同性からモテるような気がしてならない。なぜだ。
 それはさておき。
「このまま一気に回復させるね、押し切っちゃおうよ!」
 スティアの祈りが花開き、一行を温かく包み込んだ。魔力の残滓が舞い踊る。
「コャー、そうさせてもらうの」
 限界突破した胡桃の蒼炎は燃え盛り――収束火炎輻射術式[Blazing Blaster]。
 圧倒的熱量の一点収束から、赫奕たる蒼火が迸り、ファティマとガブエラを貫いた。
「一気に叩くよ!」
 オニキスの砲門――8.8cm大口径魔力砲が熱光を帯びる。

 ――クアドラプルバースト、シーケンス開始。
   砲身4基展開。ジェネレーター接続。魔力回路全基同調。バレル固定。
   超高圧縮魔力充填完了。マジカル☆アハトアハト・クアドラプルバースト――

「――発射(フォイア)!」

 超高熱の魔術光線が、避けようとしたガブエラの左腕を消滅させ、ファティマの下半身を吹き飛ばした。
「なんてこと、なおるかしら」
「んー、痛いなあ……」
 どさりと落ち、そのままコウモリへ姿を変えたファティマを、レディが抱きかかえる。
「……気持ちいい」
 だが腕の消えた肩をあげ、ガブエラは全身を震わせていた。
「もっとちょうだい、もっと、ねえもっと――ッ!」
 肩先から生じた触手のようなものを無数にくねらせ、ガブエラが迫る。
「もっともっと気持ちよくなれるよう、殺し合いましょう、愛し合いましょう!」
「どうやって作ったのかしら、これ」
 迫るガブエラを機関銃で撃ち貫き、イナリが嘆息一つ。
 身体中に空いた無数の穴は、粘土でも充填するかのように戻る。
 巨大な剣は――すでに『両手』で握られていた。
「あれも同じ材質?」
 だが手応え自体はある。
 一見再生しているように見えるが、形だけのものだろう。ダメージは与えられているはずだ。
「最後に『一つになれるように』ってことかしら」
「あれれ、しっていたんですか? 私達、気持ち通じ合っちゃってますか!?」
 ガブエラが首を傾げた。
「はじめはクレイドルに戦闘経験を積ませる」
 機関銃を数発ずつ撃ち続けながら、イナリは一歩一歩ガブエラへ近付いて行く。
「それから中で経験を吸った戦術天使を、コアとして端末を作成」
 身体を蜂の巣にしながら、ガブエラが笑った。
「端末を使い捨てに、コアの戦闘データを向上させていく」
「それで、それで?」
「お次に最大限に強化されたコアを実戦投入して、どうせこれも使い捨て」
「うん、それで?」
「それらすべてを『狂神がたいらげる』ってところかしら?」
「狂神だなんて呼んだら駄目です、けど大正解」
 銃弾の嵐を前に、ぼろきれのようになったガブエラの『端末』が溶けるように地を這った。
「哀れなものね」
 最後の銃弾に、ガブエラは消滅した。

 ――全然そんなことないですよ。私達はね、一つになるの。

「それで聞いておきたいんだけど」
「なあに?」
 狙撃銃を撃ったジェックへ、ファティマだったコウモリを抱いたレディが振り返る。
「碌に戦意もないのに戦うのはアピールのため?」
「いいえ、これは契約よ」
「契約――ね。何かを得たいのかな」
「ええ、もちろん。それに賭けでもあるわ」
「――賭け?」
「テレサ嬢が始めた賭け事よ。『誰の願いが叶うのか』」
「それまで手を結んでいるってことかな」
「ご明察よ、聡明なお嬢さん。道中はだいたい同じなの。私も教会も、彼女もね」
「ちなみに私の願いが一番低俗で、現物的で、下らなくて――けれどとても楽しいものよ」
「あまり聞きたくはないけど、一応聞かなきゃだめなのかな」
「この国の解体と征服よ。あとは楽しくやっていくために、可愛い眷属が沢山欲しいの」
「へえ、それは本当に――」
 ――下らない願いだ。
「でもさ、それだけなの?」
「長い時間が『今はもう』『それだけ』にしてしまったのよ」
 だって「復讐したい相手なんて誰も生きていないのだから」と、レディ・スカーレットが笑う。
「復讐心なんて、『そんなもの』でしょう?」
 アンナには、おそらく察しが付いた。
 昔々ティベリヤを襲った干ばつに対処するため、血の生け贄にされたレディ・スカーレットは、色欲の呼び声に耳を傾け魔種となった。そしてきっとティベリヤの民を皆殺しにしてしまったのだ。
 だから復讐はそこで終わり、彼女は長い時間を孤独に生きることとなった。
 おそらく天義から、世界中から果てしない逃避行を続けながら。
「さてレディ、楽しいダンスパーティーですが、時間も差し迫っているようだ」
 寛治が肩をすくめる。
「あなたも踊って下さるの?」
「ええ、踊るなら無機質な戦車よりも、見目麗しい女性の方が甲斐があるというものです」
「私も素敵な殿方とのダンスが喜ばしいですとも」
 レディ・スカーレットが艶やかに微笑む。
「可愛らしい女性でもいいのだけれど、ファティマが妬いてしまうかしら」
 彼女はそう言って、ちらりとリースヒースを見やった。
「とはいえ、今日は次の予定が入っていましてね。最後までお付き合いできないのは残念ですが」
「あら、どうして?」
「次があるのはお互い様でしょう?」
「そうね、義務は果たしたもの――そろそろ潮時かしら」
 そう言って宙空へ溶け消え、銃弾の嵐が注ぐ。
 おそらく逃げたのだろう。
 だが撃退には違いなく、一行にはまだやるべき事が残されていた。

「アサクラ中尉、これより作戦は後半へ移行する、オーバー」
「大佐、そうか件の戦車か――そうだな」
 多脚戦車はとにかく『立て続けの連撃』を行う。
 挙動はあらかじめ組み込まれている通りだ。
 まずは掃射によって足並みを乱す。弾丸には魔力を乱す阻害術式が仕掛けられており、結界などがあればこれを破壊する。そしてあたらなくとも、いずれにせよ回避先に次撃を用意する。
 二撃目は大威力の主砲発射だ。そして最後に同じ場所を即座に『狙撃』する。
 つまり『イレギュラーズを殺しきる』という設計思想である。
「所詮は機械だ。組み込まれた挙動以上の動作は出来ない上に、物理的な限界点も低い」
「――成程」
「あとはな、大佐。かなしいかな『帝国の兵器』だ。よくジャムる」
 苦笑交じりのアサクラの答えに、エッダは皮肉げに口角を歪めた。
「私達はそれを前提に補うような作戦行動を立てていたが、教団の連中は我々帝国の民ほど機械に通じていない。式神共は別だがな、オーバー」
「承知した、感謝するぞ中尉。アウト」
(我々帝国の民――か。そうだ、それでいい)
 さてアサクラはともかく――エッダは横目で美咲を観察した。
(……問題はこちらか)
 ともあれ――
「こんなオモシロメカ、完璧であるはずがないでありましょう」
 エッダは手短に、仲間達へ情報を共有し――


「さてお客人、この聖堂へようこそ」
 眉目秀麗な男が丁寧に腰を折った。
 傍らには例の多脚戦車も控えているが――燃えさかる甲冑が睨みを利かせている。
 そして周囲には多量の天使か。

 傷を癒した一行は準備を万端に整え、すぐさま敵拠点中枢へ足を踏み入れていた。
 工場にはまるで似つかわしくないステンドグラスを背景にした一室は、ここが宗教施設でもあることを思い出させてくれる。
「神聖な祈りの間を戦場とするのは気が進みませんが――」
 男――ファタールが腰を落とし、刀へ指を添えた。
「――これは私の信仰への決意でもある。しかしその前に私も神職だ、問わねばならない」
「……」
「我々は真にして全なる一つへ歩む者。そこには永劫の苦しみからの解放がある」
「でも人を殺したりするんでしょ」
 セララが問う。
「ええ、時に。それは誰しもがその夢を叶えられる理想郷――けれど至るまでには痛みも伴う」
「なぜそんなことをするのさ」
「あなた方も剣を交えるでしょう」
「そうかもしれない、でも戦いと殺戮は絶対に違うものだよ」
「ならば仕方がありませんね――参りましょう」
 涼やかな音色で鯉口を切り、ファタールが踏み込んだ。
「させないよ!」
 スティアの防御結界――深雪のように降りつのる光に、刃がを滑る。
 続く斬撃は鋭い。
 だが軽快にステップを刻んだスティアが再び腕を振りかざし、刃を止めた。
 つばぜりのように、刀と魔力が火花を散らす。
「これは、なるほど……そういう術ならば」
「かなりの使い手と見える、俺の名はクロバ・フユツキ――死神だ」
「新手ですか。神を名乗るなら、この手で仕留めねばならないのでしょうね」
「さて、出来るかな」
 トリガーと共に、刃が加速する。
 間一髪避けたファタールへ、続くクロバ二撃目の突き。
 その肩を抉り、浅いか。
 だがさしものファタールも攻勢に転じることは出来ていない。

「――では件の戦車ですが」
「うん」
「今日この工場を制圧すれば、多脚戦車は絶滅危惧種になりますね……いや、絶版が正しいか」
「対処は、答えは出てるものね」
 目配せ一つ、ジェックと寛治は背を合わせ、砲身を旋回させる戦車へ狙いを付ける。
「……いけそうスよ」
 美咲の合図は的確だ。
 両者の弾丸は狙い違わず、機関銃の銃架を穿った。
 機関銃は旋回しようと唸りを上げるが、そのまま軋み続けている。
 掃射が出来なければ次の砲撃に移ることは出来ない。
(狂気的な発想は時にブレークスルーをもたらすって言うけど……)
 見れば見るほど歪な兵器だと思う。
 両者による戦闘シーケンスの破壊は、この兵器を使い物にならない状態へと押しやっている。
 時間が経てば弾丸が外れるだろうが。そうしたらさらなる射撃を見舞い、封殺し続けるまでだ。
「やっぱり。うん、壊そうよ。ろくな戦力にもならないんだから……」
 あとは破壊しきるまで、続けるだけでいい。言葉ではやさしいが、激闘の中で有効箇所への精密射撃を続けることが出来るのは、並外れた腕前あってのこと。

「ボク達は赤騎士狙いかな!」
 セララが聖剣に稲妻を纏う。
(――さて、こうなれば問題は『赤騎士』か)
 効率化の術式を展開しながらリースヒースは考える。
 そもファタールはあれを『どう思っている』のだろう。
 ファタールは一見して理知的で冷静に見えるが、あの怪物(赤騎士)に近い何かを纏い始めている。
 それに対するファタールの反応が全くないのが不気味だ。
「……気色が悪いの」
 赤騎士へ炎を放った胡桃は思わざるを得ない。
 信仰であれば自由意志は重要だろう。
 だがファタールは自由意志で入信したとは思えない。
 あるいは入会条件は『式神』とやらにされることなのだろうか。
 赤騎士も『炎上性の違い』で、迷惑この上ないことも然り。
 そもそも『天使』と呼ばれる怪物とてグロテスクなキュマイラであり、悪趣味極まる。
「そなたが世界を焼く炎と化す前に、わたしという炎が燃やし尽くすの」
 蒼い炎が燃えさかり――

 一分ほどの間に、戦況は徐々に乱戦の様相を示し始めた。
「なるほど、生物? の生き血? ってこんな味がするのね、いい経験だわ!」
 イナリがなんだかちょっと大丈夫なのか気になることを言う。
「懸念通りだけれど、まとめて吹き飛ばすよ」
 オニキスの言葉通り、赤騎士は多少の『人間』を炎の獣へ転じさせ始めていた。
 凍結弾と重力弾に続くマジカル☆アハトアハト・QB――超火力の一撃は、ジェックや寛治達の火力とも合わせて無双の戦果を発揮している。
 こうなれば敵の数は大いに減衰してゆき、狐兵達の制圧力も向上する。
(……ファタール自体は出来れば捕えたいものだが、さて)
 赤騎士に掌底を打ち、エッダは思案した。
 おそらくアサクラよりも余程重要な情報を握っているとは思える。
「その上は――」
「ジャックというそうね」
 ジャックはファタールと同じ教会支部長の立場だが、先輩にあたる。
「――炎の後に生まれるものは確かにある」
 あるいは、鉄帝国という国はその焼け跡にそびえる国家とも言える。
「だがそれは生きんとするものの切実な歩みに拠るものだ」
 エッダが睨み、構えた。
「烏滸がましいんだよ、貴様らは――!」
 黄金の雷を拳足に纏い、エッダの手甲がファタールを打つ。
「――ッ! だが理念は、信仰は屈しない!」
「っ!」
 ファタールの剣がスティアの防御結界を破り、だが次の一撃をアンナの剣が止めた。
 スティアはすぐさま結界を再展開し、更に仲間達へと癒しの術式を紡ぐ。
「人の形を保つことすら許さないなんて。主が見ればそれこそ嘆くでしょう」
 アンナは思う。先程のガブエラもそうだ。この間の乙女も然り。
 何度も溶けて消えて、やがて一つの何かになってしまうのだろう。
「だから私はあなた達を否定する。人の魂を、尊厳を、都合の良く踏み潰す者は、すべからく私の敵よ」
 アンナの剣が駆け――斬撃がファタールの身を刻んだ。
「さて、今度はどうかな」
 クロバの刃が加速し、赤騎士の甲冑肩部を抉り――終ノ断・生殄。
 分解の術式が走り、赤騎士の腕が霧のように消滅する。
「コャー、さっさと片付けるの」
「速攻で終わらせたいね」
 胡桃に頷き、オニキスも再びエネルギーを充填させる。
 蒼炎とアハトアハトの斉射が赤騎士を焼いた。
「ねえディアナちゃん」
「なんでしょう?」
「ボクのギガセララブレイクとあわせてディアナちゃんも必殺技を撃ってみようよ」
「ひ、必殺技、ですか?」
「ディアナちゃんの必殺技も見てみたい。すごく格好良い技とかありそう!」
「ええ、と、そうですわね。残念ながらこの世界では必殺という程の威力はないのですが」
 うろたえたディアナだが、意を決したように術式を展開した。
「合わせますわ、光煌――レイディアント・ストーム」
「うん、じゃあ行くよ。インストール――ギガセララブレイク!」
 雷を纏ったセララの斬撃が赤騎士の胴をなぐ。
 ディアナが放った薄紅色のダイヤモンドが舞い、赤騎士の胴をくるくると取り囲む。
 セララの斬撃跡を七条の光線が焼き切った。
「――からの!」
 踏み込んだセララの剣が十字を描き――斬り上げ。
 跳ね上がった赤騎士を、跳躍したディアナが上段から斬り、たたき落とす。
 セララは即座に地へ激突した赤騎士へ踏み込み、一閃。
「セララスペシャル!」
 真っ二つに斬り裂かれた赤騎士が炎の中へ消えて行く。

「コャー! もう後はないの」
 炎を放つ胡桃の宣言と共に、乱戦は包囲戦へと移ろっていた。
 勢いにのった狐兵達は敵軍を完全に押しのけ、ファタールは孤立している。
「別に理想論を長々と語る気も、押し付ける気もないけどさ」
 今し方、寛治と共に戦車をがらくたの山へと変えたジェックが述べる。
「夢から覚めた時に辛いのは自分だよ」
「何のことだ」
 ファタールが眉をひそめる。
「知るほうがつらいこともあるんじゃない?」
 けれどイナリにジェックは首を振った。
「それじゃいけないっていうか。人間って、そうじゃないと思うんだ」
「いったい、何、を……」
 ファタールの表情が苦悶に歪んだ。
「いつまで寝てるの、お寝坊さん」
「あ、ああああ、ああああああ!!!!!!」
 ファタールが絶叫する。
 そして突如、膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。

 ――おはよう。
   ファタール・ファムじゃない、どこかの誰かさん。


「――殲滅完了」
 オニキスが一息つき――
「こっちも制圧かんりょー!」
「おー! 報告いくよー!」
「ごー!」
 ファタールを捕えた一行は、賑やかな狐達の声を聞きながら、一呼吸終えたところだった。

「見られてるよね」
 スティアがぽつりと零し、一行が頷いた。
「居るんだろ、出てこいよ」
 クロバが礼拝堂の長椅子に腰掛け、脚を組む。
「つれませんね、お美しいご尊顔を今一度拝謁賜りたい所でしたが」
 寛治も大げさに肩をすくめて見せた。

「ご冗談を」
 女の――テレサの声がする。
「世界最強の滅海竜を鎮め、最強の魔種憤怒を倒し、覇竜領域さえ制したあなた方の前へ?」
 スティアは注意深く観察する、精霊は気配の方向を示しているが、やはり使い魔か。
 ゆっくりと姿を見せたのは、やはりテレサの意識と姿を纏った使い魔だった。
「お前は歴史から消された家名を名乗ってるらしいな」
「敵を知り己を知る……良い心がけでしょう。だからこそ恐ろしい」
「それをお前は憎んでいるのか? 存在そのものが不正義だと断じられたことを」
「あっは!」
 テレサがさもおかしげに笑い、後ろからクロバの肩に手を乗せた。
「違う違う。全然違うの。ああ、レディ・スカーレットはそうでしょうけど」
 だがクロバは思う。テレサから感じる濃密な『死』というものへの思念を。
 どこか『放っておけない』のだと。
 なぜならばクロバもまた『死』を背負う者だからだ。
 その想いも――だからクロバはエリカを拾い育てた。
 自身の行いそのものを、実に傲慢だとも思う。
 だが、だからこそ――
「俺はお前を知らなくてはならない」
 その権利くらいは、ある筈だから。
「あなたの、おそらく父はおぞましい禁呪に手を染めた」
「博識ね、アンナさんだったかしら」
「それは人の命を生け贄に、魔力とするものでしょう」
「ええ。だから断罪を、私とめようとなんて思わなかったわ」
 スキップ交じりの楽しげな足取りで近づき、テレサは屈んでアンナの顔をのぞき見る。
「父は私という身体(うつわ)に、私の姉や妹達の魂を使って、魔力を宿したかったそうよ」
 目的は『最高の神聖魔術師』を輩出することによる、家の隆盛だという。
「馬鹿な父でしょう。姉も妹もまだ全員、私の中に宿っているわ」
 聞くだに、おぞましい儀式だ。
「それで、知りたいのはそれだけ? 今日の私は割と機嫌がいいの」

『アンタは何を考えて歴史修正しようとしている?』
 俯いたまま、思念で語りかけたのは美咲だった。
「……どうしたの?」
『あれ? なんでこんな聞き方をしてくるの?』
『……』
『答えないんだ。けど面白いからいいわ。のってあげる』
 そしてテレサは語り出す。
「そう私は遂行者、ツロの預言書通りに歴史を導く存在――」
 テレサが両腕を広げた。
「――だから戻さなければならない過去の分岐点という役柄は、確かにあるのだけれど」
『遂行者勢力としてじゃない。アンタは何を考えて歴史修正しようとしている?』
 美咲が知りたいのは『なぜそうしようという考えに至ったのか』だ。
『アンタの思想を聞いている』
 なぜ脛に傷がある連中を集めるのか。
「なんだったかしら――あまりにくだらなくて忘れてしまったわ」
 俯いたまま、美咲は眉をひそめた。
「私は魔種(デモニア)なのだから。別に可愛らしい――穢れた聖遺物達のように従順ではないわけ」
 テレサは後ろ手に組んだまま、美咲の隣に立ち、一行を見渡す。
「そもそも思い通りにしたいのなら『傲慢の呼び声』なんてものを、聞かせるべきではないの」
 テレサは子供がするように何度か首を傾けると、自身の頬にひとさし指を添えた。
「それに『結果が同じ事』なら手段なんて違ったってかまわないんじゃない?」
『だから、そう。あなたの言う通り、『イデオロギー』というものはあるわ』
『答えをはぐらかすな』
『それはね、権利というものについての問いにもなるのだけれど』
 まさか魔種にも人権を――なんて話になるとは到底思えないが。

 一同は鋭い表情のまま、テレサを睨んでいた。
「つまるところ、幸福と不幸とを天秤にかけるという話になるわ」
 テレサは述べた。
 幸福という存在は善であると。
 不幸という存在は悪であると。
 それは人類社会の自明と続ける。
「生あるということは、この両者を併せ持つということになる」
 そして続けた。
「初めから存在しないのであれば、どちらもないということよね」
 テレサが一本指を立て、それを再び曲げる。
「生きるということは幸福がプラスで、不幸がマイナス」
 そしてもう一度指をたてる。
「産まれないということは、不幸がないというプラス、幸福がないのは――加減点なし」
 そして夢見るように瞳を閉じた。
「人はね『この世界では』、そもそも『産まれるべきではない』の」
 彼女は述べる。
 だから『やり直す』ために、『一度全てを終わらせる』のだと。

「そんなの違うよ! 滅ぼしてもやり直せるはずなんてない」
 立ち上がったのはスティアだった。
 こんな相手に、聖霊を預ける訳になんていかない。
「それに必ず返してもらうよ、リインカーネーションを」
 しかしどこから奪ったというのだろう。心当たりはほとんどない。
「この可愛い聖霊さんね」
 悲しげに涙をこぼす聖霊の幻影が現われた。胸が痛む光景だ。
 幻影を撫でたテレサが問う。
「あなたの目には、この子が泣いているような、この世界は美しいと思える?」
「泣かせてるんでしょ!」
「本当にそう思う?」
「そうじゃなかったとしても、そうしていくのが、ボク達――人間なんだ」
 セララの言葉に、テレサは微笑んだ。
 それはやけに優しげで、不思議と皮肉のようなものは感じられない。
「死は最大の不幸よ。けれどいつか、誰にも平等に訪れる。私にも、あなた達にも」
「だからって、誰かの今日や明日を奪っていいなんて理由にはならない」
「遅かれ早かれ、なのに?」
「だったらテレサ、やっぱりキミを倒さなきゃって思うよ」
「いいけれど。あなた達は、このやり直しの利かない、世界システム自体を変革したいと思わない?」
「言う事がいちいち大仰なのよ。本当にそんなことが出来るとでも、まさか本気で思っているわけ?」
 アンナの舌鋒は鋭かった。
「分からないわ。私は弱いもの。あなた達の前に立つのも怖いほどね。今にも足が震えてしまいそう」
「どっちみち、私達は今日を生き抜いて、明日を掴むしかない。誰しもがそうでしょ」
「そうなんでしょうね。けれど、終焉も神も――全て滅ぼしてしまいたいと考えているのは、本気なの」
 出来る訳がないと、誰もが思った。
「だから言ったの。結果が同じになれば、誰とでも手は結べるというわけ」
「最後に聞かせてもらおうか」
 クロバが振り返る。
「姉や妹のことを、どう思う」
「哀れな救うべき存在よ、『死神さん』」
 その声音がエリカと重なりかけ、クロバは歯を噛みしめた。
「産まれてすぐにいなくなった家族になんて、愛するという感情さえ持つことが出来ないのだから」
 そして美咲の肩へ手を乗せ「これが私の思想(イデオロギー)よ」とささやく。
「理解も共感もいらないけれど、納得はいただけた?」
 だが――

 死者は決して蘇らない。この世界では。
 時間は決して巻き戻らない。この世界では。
 全てが一度限りでやり直しが利かない。この世界では。

 ――この世界では。

「どこか遠い場所で出会えたらいいわね。それじゃあ、またね」
 そんな言葉を残し、手を振ったテレサの姿が掻き消える。
 辺りにはどこか重い空気が流れていた。
 ともあれ一行は、狐兵達に指示をしつつ設計図やパーツなどを回収することにも成功したのだった。

成否

成功

MVP

佐藤 美咲(p3p009818)
無職

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 非常に被害が小さいです。うーん強い……。

 MVPはテレサの真相に近い何かを引き出した方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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