PandoraPartyProject

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終焉より滲む

「状況は」
 涼やかな声音で問うたエミリア・ヴァークライトに外套を脱いだリンツァトルテ・コンフィズリーは「良いとは言えませんでしょう」と返した。
「……やはり、か」
「耳にはしていましたが、乞うともなれば我らも放置は出来かねるかと」
「先輩。おかえりなさい。その……放置できない、となると次は……?」
 リンツァトルテは駆け寄ってきた後輩のイル・フロッタに頷いた。
「次は、鉄帝国、ラサ傭兵商会連合、アルティオ=エルムだ」
 と、そう返した。

 時は少しばかり遡る――
 豊穣郷カムイグラと探求都市国家アデプトを遂行者が襲撃を行なった際に騎士団は後方からの調査を行って居た。
 天義国外での活動が目立っている遂行者達。其れ等の問題を外交的に『筋を通して』解決を行なわんと天義聖騎士団は奔走していた。
 無論、黒衣の騎士として活動する特異運命座標の事を拒絶する国は現時点ではない。故に、未然に出来うる限りは防げている。
(と、言っても現状では海洋王国のリッツ・パークに降りた帳は維持されている。コンテュール卿がその周辺警備を行って居るが……)
 定着度が上がったテセラ・ニバスと同じく『現在は対処法が見つかっていない』というのが実情だ。
 出来る限り、定着させないという対処療法を取り続けるしかない後手に廻るという現状は歯痒いものではあるが、今回ばかりは状況が変わった。
 天義聖騎士団は残る三国に必ずしや介入が行なわれると考えたのだ。
 いや、言い方を変えれば鉄帝国は『一度は介入されている』が、それは天義国内からのことだった。ならば、と標的を絞っておいたのだ。
 それが南部戦線と呼ばれる幻想王国との『国境』である。
「ふむふむ。幻想を滅ぼすべき国家と歴史で言われているのが鉄帝なんだね。うーん、不思議!」
「不思議とそう言ったって……そもそも、遂行者という者達の歴史自身が『正史と呼べないもの』では?」
 リンツァトルテは楽しげに語る協力者二人の顔を見た。不思議だねえと笑っているのはカリア・クリア・アリア
 水まんじゅうと呼ぶ空飛ぶクッションに腰掛けている穏やかな人魚姫だ。そんな彼女の傍らにちょこりと座っていたのが不服そうな表情を見せたロサ・ジュベールである。
「二人とも、今は話し込んでいる場合じゃないですからね」
 唇を尖らせるララに「はあい」とカリアは手を上げて答えた。可愛らしい少女達三人と行動することとなったリンツァトルテは天義本国を遠く離れ、ラサ傭兵商会連合に居た。
「南部戦線については何らかの変化があれば直ぐにでも対処できるようにと騎士の見張りを付けた。
 その上でララ殿――いや、終焉の監視者である諸君に話を聞きたいと思ったのだが……」
 リンツァトルテは本当に大丈夫なのかとララへと視線を向けた。終焉の監視者『クォ・ヴァディス』と呼ばれる終焉(ラスト・ラスト)の監視者達。
 影の領域は前人未踏、踏み入る事は即ち死と知れとまで称される不可侵領域のボーダーラインに立つ彼女達は来るべき危機を察知し、その対処を行っている。
「大丈夫、と言いたいんですが……」
「わたしは問題ありません。カリアがやや問題があるだけです」
「えっ、ひどい! あたしはそんなに使えない子じゃないよ? ロサちゃんの意地悪」
 ぷうと頬を膨らませるカリアにリンツァトルテは不安だと視線を投げ掛けるが――朗らかな彼女の笑みの前に何も言葉が出ず肩をがくりと降ろした。
「じゃあ、本題に入ろうか」
 カリアはにんまりと微笑んでから地図をとん、と指差した。
「ここは、ラサ。それから、ここが深緑。
 ……それで、ここが私達の拠点でクォ・ヴァディスの活動域。その向こうが終焉、影の領域」
 指先でくるくると地図を辿ったカリアにロサは「本来ならば、私達もこの活動域から離れることは致しません」と付け加える。
「唯一、離れなくちゃならない変化があった。前々から、活動が活発化しているとはララちゃんたちが伝えてたんだけどね。
 ……『黒聖女』、便宜上そう呼んでいる敵対対象(エネミー)がいる。その活動が観測されたんだ」
「私達は情報網をある程度は有しますから、ローレットが知り得た情報も入手しています。
 冠位暴食に対して『黒聖女』が介入を試みて、神託の少女によってブロックされたとのこと」
 ララにリンツァトルテも耳にしていると頷いた。それは、覇竜領域内で現在イレギュラーズが相対する『冠位暴食』戦での一件だ。
 無慈悲の呼び声と称する強烈な呼び声で冠位暴食を更に凶暴化させんとしたらしい。それを神託の少女が食い止め、現在はイレギュラーズが応戦を続けて居るらしい。
 ――が、その『呼び声』が発されたことにより終焉では意思疎通を行なう事も難しい知性の低い獣達が外部へと飛び出したらしい。
「私達も対処は続けて居ますが、数が多すぎます。それらは意志を持ったようにラサと深緑へと向かったようです」
 渋い表情を見せるロサに「だからあたしたちが此処に来たわけです!」とカリアは微笑む。気の抜けるような穏やかな笑みの娘だとリンツァトルテは友人を思い出してから頷いた。
「遂行者がその終焉から来たる獣――終焉獣(ラグナヴァイス)と合流した、と」
「はい。それだけではなさそうなのが問題ではありますね」
 ララは考え倦ねるように呟いた。リンツァトルテも彼女の意見には概ね同意する。
 そう、遂行者が全国的に帳を降ろすために活動したのはあくまでも『各地への定着度を上げるため』だったのだろう。
(――ならば、その仕上げ段階ともなれば、全国で再度の活動が行なわれる、か、『本来の目的のために動き出す』可能性もある)
 遂行者達それぞれも仕上げ段階ともなれば、自身等の持ち得る能力を投入してくる可能性がある。
 ある意味、物見遊山のように楽しげに各国を駆けずり回っていた遂行者達ではあったが終焉獣が飛び出してきた事で事情が変わったのだろう。
「もしかして、その遂行者さん達は困っちゃったのかも知れないね?」
「困った?」
 ロサはカリアに問うた。カリアは唇に指先を当ててから「終焉(かげ)が動き出せば、目的の達成ができなくなるかも!」とか。
「……同じ派閥なのに?」
「でも、一枚岩じゃないかも」
「相手の動向が分からないのは、私達も、騎士団も同じでしょう。今は混乱するようなことを言わないように」
 ララに注意をされてからカリアは「はあい」と手をひらひらと振った。
 しかし――その可能性はあるだろう。
 冠位暴食が介入されたように。遂行者達の信ずる神である『冠位傲慢』にも何らかの影響が及ぼされる可能性もある。
 もしも彼が邪魔立てされずに事を為すならば、早期に動き出しその介入もなく『神の如き所業を以て本当に神として君臨しなくてはならない』筈だ。
(ならば……少し事情が変わってくるのかも知れないな……)
 リンツァトルテは三人に礼を言ってから天義への帰還を急いだ。
 帰還し、聖騎士団へと状況報告を行なった頃合いに――ラサ、鉄帝、深緑の三国に『遂行者達』による動きがあったという連絡が舞い込んだのであった。

 ※ラサ、深緑、鉄帝にて遂行者の動きがあったようです――


 ※『黒聖女』マリアベルの『無慈悲な呼び声』を空中神殿のざんげが『空繰パンドラ』発動で阻害したようです……!
  代わりに空繰パンドラの現在値が100000低下しました……

 ※『空繰パンドラ』の発動を経てベルゼー・グラトニオスによる『裏切り』が発生しました……!
 『<フイユモールの終>Goodbye Dear You.のシナリオ内容・情報が更新されました。



 ※『双竜宝冠』事件が新局面を迎えました!
 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

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