PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

宿命の刻

 ――ヘスペリデス。多くの竜の住処にして、ベルゼーの愛した大地。
 只人など近寄る事も出来ぬ……が。近頃は些か事情が変わっていた。
 人間達の足跡が各地に見え始めるようになったのである。
 それはラドンの罪域を超えてきた――イレギュラーズ達のもの。

「……人間らが土足で至るとはな。ベルゼーめ、自らで始末を付ければよいものを」

 然らば。『薄明竜』クワルバルツは吐息を零そうか。
 イレギュラーズ達がピュニシオンの森を、ラドンの罪域を踏破し。
 そしてヘスペリデスまでやってきている原因は――ベルゼー以外に他はない。
 奴の所在を掴まんとしているのだろう。
 冠位魔種の一角たるベルゼーはその身に根源たる『暴食』を宿しているが故に。
 いつ何時に……その欲が覇竜全体を包むと知れぬ、と。
 人間達はベルゼーへ対処せんとしている訳だ。
 ……その結果で愛する土地に人間が踏み込んでくるのは如何なものか、と思考していれば。
「ほっほ。人間めらも随分と健気なもので。
 それよりも薄明様。先日の御怪我は如何ですか。お美しい御身体に傷が残っては……」
「このようなモノ、大したことはない。私が人相手に膝をつく事などありえんよ」
 語り掛けてきた竜がいた――それはエチェディなる老竜だ。
 クワルバルツは度重なる人間との交戦によって負傷の跡が見える。
 それは人の意地か、或いは彼らの驚異的な実力が故か。
 ……竜は混沌世界最強の種族。その誇りを胸に抱いているクワルバルツにとって、人の力など認める事はあり得ない。名や顔を覚えた者も多少はいるが、それも本人にとっては戯れだ――と言っている。
 が、その身には確かに跡が刻まれているのだ。
 人との戦いの証が。
 己が心の臓を高鳴らせた――証が。
 それは彼女の身を少なからず疲弊させていようか? ともあれ……
「それよりもエチェディ。お前も人間を見たか?」
「ええ。不遜にもヘスペリデスの別の場所で見ましたな。追い返しましたが」
「そうか。しかし……お前は時々どこにいるか分からん事があるな」
「この年になるとボケる事も多々ありまして……気付けば知らぬ所にいたりもするのです。はて、そういえば前に食事をしたのもいつだった事か……」
「そういうのはいい」
 人間共の歩みにも困ったものだ、とクワルバルツは語ろうか。
 ……クワルバルツにとっては究極的にはベルゼーはどうでもいい。長く覇竜に君臨する者として関わりもあるが故にベルゼー側に味方する事もあるが――クワルバルツにとって最も重要なのは、彼女の先代と言われる竜との約束だ。
 このヘスペリデスの地を、ベルゼーと同様に愛した――『月宮竜』ゲルダシビラ様。
 遥か過去、満月の夜に行方不明となったあの方の住処であった地を……守り続けねば。行方知れずとなって久しいが、いつかきっと戻ってきてくださると、クワルバルツは信じているのだから。
 それが故にこそ、人間達の行動も度が過ぎれば許さぬ。
 ヘスペリデスを土足で踏み荒らす事があらば、魂すら消し飛ばしてくれよう……と。
 空を見上げた――その時。

「……なんだ?」

 クワルバルツは『何か』を感じた。
 ヘスペリデスの更に奥地から厭な気配が零れている。

 ――直後。生じえたのは咆哮たる響きだ。

 鳥が飛び立つ。小動物が逃げ出す。逃げれぬ花は死を悟りて枯れ始めようか。
 大地が嘆いている。空が啼いている。世界は軋むように涙を零そう。
 彼方を見据えれば天の色が端より紅とも紫ともに染まり始めようか。これは――
「一体何が起こっている。エチェディ!」
「むぅ……我めも斯様な出来事は初めてですな。
 しかしヘスペリデス全域を包む様な異変が起こり得るのは……」
「ベルゼー以外にない、か? クソ! せめて先代様の地だけは守らねば……!
 アユアを呼び寄せるか。ホドの馬鹿がまた来ぬとも限らんしな……!」
 駄目だ。何かが、起ころうとしている。
 今起こった事象の仔細を知る者、知らぬ者。それぞれいるだろう、が。
 誰もが感じたはずだ。平穏が終わりを迎えようとしていると。

 ――人間達が来たからではないか?
 ――いやいやベルゼーの奴に何かあったのだろう。
 ――どちらでもいい。下らん。

 それに対し数多の竜がどう想いを馳せるのかは分からない、が。
(遂に起こりえたかベルゼーよ……長かったな。随分と保ったものだ、お前は)
 エチェディは彼方を眺めていた。
 ベルゼーは穏やかな者だ。世界を滅ぼす因子を身に宿した冠位魔種としては例外と言える程に。だからこそ彼に親愛の情を持つ者も――きっと多くいる事だろう。それは竜種にしろ、亜竜種にしろ……
 しかし忘れてはならない。
 彼の根源は『暴食』なのだと。
 それは逃れられぬ宿命。失えば彼自身も消え失せる根幹であればこそ、解決出来ぬ問題。

 もっと早く。己が宿命を受け入れてさっさと狂っていれば、きっと楽に生きれたろうに。

(まぁ……それが出来なかったからこそ、お主なのだろうがな)
 誰かを愛した事が間違いなのだ。誰かと共に生きたいと思った事が間違いなのだ。
 そんなの、お前の生には許されないのだ。苦笑顔など止めてしまえよ、ベルゼー
 お前はもう、逃げられないのだ。
 ……エチェディはそのまま天へと視線を移そうか。
 まぁるい月が其処にあった。とても美しい、華麗な月だ。
 ――あぁ思い出した。

 以前の食事を。生命力に溢れた美味なる『実』を、食べた日の事を。

 ※覇竜に存在するヘスペリデスで、異変が生じ始めているようです……!!


 ※幻想と海洋に降りて来ていた帳の調査報告が続々と行なわれているようです――
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……


※豊穣長編:『<仏魔殿領域・常世穢国>』の事件が解決しました――
※ROO長編:※R.O.Oのエラー領域『ORphan』での事件が終結しました。
 境界図書館から行なう異界渡航の準備を始めたようです――

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM