PandoraPartyProject

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黄昏の園『ヘスペリデス』

 咲き誇る花は見慣れぬものも多いであろう。覇竜領域特有の植生で芽吹き、この地で花開いたその名を知る者は少ない。
 ラドネスチタの『選別』を経て、踏破率は半分以上に上昇した。罪域の調査は粗方は済んだと言えるだろう。
 その一区画より踏み入る事の出来た花園は美しく、積み上げられた岩や石が人間の作る建築物を思わせる異様な空間。人工的でありながら、何処か人の手が加えられず滅びへと向かったかのような――詰まりは、忘れられた花園、と呼びたくもなるような風景が広がっている。
「お待ちしておりました」
 背筋をぴんと伸ばしていた女は紅玉と黄玉、左右で違う色をした瞳を有していた。
 亜竜種であった名残の角や尾、すらりとした長身を有する娘は恭しく一礼をする。
「わたくしは、白堊と申します。……ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、フリアノンに産まれた只のおんなでございます」
 黄昏の地に立っていた女は人間とは呼べぬ滅びの気配を纏っていた。魔種である娘の肉体にはイレギュラーズとの交戦で負った傷が幾つも刻まれている。
「白堊」
「……あなた様からの発案でしたね」
 白堊が振り向けば、薔薇色の翼を有した青年が立っていた。亜竜種ではない、人の姿を借りた竜種である。
 その名も『花護竜』テロニュクス。将星の竜でありイレギュラーズが辿り着いた花園の管理人だ。
「ようこそ、ヘスペリデスへ。
 我が名はテロニュクス。この美しき花園を友人より護る使命を与えられ、お支えさせて頂いております。
 ラドネスチタと共に皆様を試した事は謝りましょう。我らが友は存外愛情深い。
 此処に踏み込み易々と死に至られては彼の心も痛みましょうに。ですから、早々容易に死なぬかを試させて頂いたのです」
 元より竜である青年は『人間如き矮小なる生物が竜に勝てる』とは思っては居ない。
 当たり前の話であるが、竜種達の中での常識で人間とはちっぽけな存在なのだ。青年に悪意はないが、その認識を変えるのは生半可な事ではない。
「ラドネスチタも言って居ましたが――踏み入るに適すると」
「……悪く思わないでくださいませ、フリアノンの友人。遥か森向こうより辿り着いた黄昏の旅人よ。
 竜種様達から見て、人とは本当に矮小な生き物でしかないのです。わたくしとて、テロニュクス様から見れば只の父祖殿の遣いでしか在りません」
 白堊はぎこちなく微笑んでからテロニュクスを一瞥した。青年が頷いたことを確認してからゆっくりと口を開く。
「父祖殿――ベルゼー様に関して、皆様にお伝えしなくてはならないことがございます」
 女の話は、まるで自分勝手であった。

『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスには欠陥がある。それは、彼が人を愛しすぎているという事だ。
 元よりそう作られたか、後天的にそうなったのかは分からないが、彼は情に深く覇竜領域を滅ぼす事を拒絶していた。
 彼が護りたい物を守り抜く為に行なったのは、自滅しかけた練達への六竜を伴っての攻略作戦、そして冠位怠惰の作戦への協力による大樹ファルカウでの防衛作戦だ。
 其れ等は覇竜領域に生きる亜竜種を、そして竜種を傷付けぬ為であったのだろう。
 だが、その作戦は上手く行かず自らの存在が『原罪』で在ることが露見しただけである。
 ベルゼー・グラトニオスは只の魔種ではない。冠位と呼ばれ、原罪と呼ばれ、オールドセブンと呼ばれた『暴食』の頂きに立つ者だ。
 男は何れはどこかを滅ぼさねばならない。だが、別の国へと作戦行動を行なうには時間が足りなかった。
 男の腹の中には『光暁竜』パラスラディエ――『金嶺竜』アウラスカルト(p3n000256)の母である『リーティア』が居る。
 三百年余りも前に、男に起きた未曾有の危機にパラスラディエがその身を敢て犠牲にし、平穏を維持したのだ。
 その理由は単純明快である。パラスラディエがベルゼー・グラトニオスを好いていたからだ。他の竜達も好意や畏怖を抱きベルゼーを特別視して居る者は多く居る。

 ――それで私ね、食べられちゃったんですよ。
   厳密には『食べさせ』ました。

 彼女の言や他の竜種達の言う通りベルゼー・グラトニオスの権能は『暴食』そのもの。即ち、全てを食らい尽くす事の出来る無尽蔵な胃袋と呼ぶべきだ。
 彼の欠陥にもう一つ、付け加えるならば――『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスは『権能をコントロール仕切れない』。

「つまり、ベルゼー様は暴走する」
 白堊はそう言い切った。
「暴走すれば、ヘスペリデスは飲み込まれるでしょう。ピュニシオンの森も危うく……パラスラディエを『消化しきり』、ヘスペリデスを飲み込んでしまえばあの方は酷く苦しむことになる。
 あの方が苦しみ、自責の念に駆られ、後悔し、足掻けば足掻くほどに、腹は空き食い物を求め――フリアノンをも飲み込んでしまう可能性がある」
 男が願おうと、願わなかろうと国を滅ぼしかねない権能と言うことだ。
「……その苦しみを少しでも和らげて欲しいのです。魔種が何を、竜種が何を、と仰るかもしれませんね」
 テロニュクスは微笑んだ。彼にとってこの花園はベルゼーのものだ。ベルゼーの腹を満たせるのであれば、この地が滅びたって構わない。彼のため、なのだから。
 彼が何れだけフリアノンを愛しているかをテロニュクスは知っていた。
 ベルゼー・グラトニオスが『巨竜』フリアノンと交した約束も――
「和らげる方法はただ一つ、ヘスペリデスには『女神の欠片』と呼ばれるとある竜の落とし物が存在しています。
 あの方の苦しみが長く続きませんように、皆様には集めて欲しいのです。決して皆様にとって不利益になる者ではないとお約束致します」
「わたくしも、それはお約束しましょう。ベルゼー・グラトニオスという人はあなたたちを傷付けたくはないのです。
 だからこそ、御守りとして持って居てください。無数に散らばったそれを集めれば、何時か良き未来に辿り着きましょう」
 穏やかな声音で告げるテロニュクスと白堊を見詰めてから、『亜竜姫』珱・琉珂(p3n000246)は問うた。
「……信用すると、でも?」
「ええ、琉珂。心の底で、あなたも知っているでしょう。わたくしも、テロニュクスも父祖殿――ベルゼー様には『幸せであって欲しい』のだと」
 白堊の切なげな声音に琉珂はぐ、と息を呑んでから「一先ず」とイレギュラーズを振り返った。
「ヘスペリデスを探索し、『女神の欠片』というものを集めてみましょう。それが滅びのアークなら、集めてどうにか廃棄すれば良い。
 テロニュクス達の言う通り私達を護る武器になるのなら……それは、オジサマと対峙するときに屹度役に立つもの。遣ってみる価値はあるわ」
 辿り着いたばかりの黄昏の地、誰ぞの作り上げた終の園――
 未だ見知らぬその地に一歩踏み込めば、馨しい花の香りが漂った。
 足元に咲いていたこの花の名前は、何と言ったであろうか――?

 ※黄昏の園『ヘスペリデス』に到着しました――!


 ※新イラスト商品『イクリプス全身図』が実装されました。


 幻想でフィッツバルディ派の対立構造が急激な悪化の兆しを見せています!
 ※ラサに存在する『月の王国』にて大規模な儀式が行なわれています。反撃し侵攻しましょう――!


 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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