PandoraPartyProject

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黄金竜の子供達

「……どうだ?」
 主語のない些か胡乱な問いかけに、ドラマ・ゲツク(p3p000172)は小さく首を振るばかりだった。
「余り良い状況とは言えません。
 唯一つ不幸中の幸いを言うならば、せめて悪化は免れているといった所でしょうが」
 自らの身体の事は自らが一番良く分かっているものだ。
「フン」と小さく鼻を鳴らした男は病床の天井を眺める。
 尋ねる前から大凡『分かっていた』応答に大仰な溜息を吐き出すばかりだった。
「通常の傷ならばこうは掛かるまいがな」
「ええ」とドラマは頷いた。
「どうも状況からして下手人はアーベントロート公、パウル卿御本人だったと推測されます。
 私は間近で彼の魔術を目にしましたが、その技量はまさに埒外と言う他はありませんでした。
 ……御身の様子から察しても、これは厄介な呪いの一つでも頂いたという事でしょう。
 故にこの結果と原因が何らかの魔術を帯びているならば解き明かす必要があります。
 そして、つくづく厭な話になりますが……魔術とは術者の性格が悪い程に解き明かし難いものなのです」
「『頼りになるな』」
「……これでも故郷(くに)の文献まで取り寄せたのです。リュミエ様にもご意見を仰いだのですよ」
「深緑の魔女か。どれ程のものかと思えば、まぁ……そんなものか」
 ドラマの説明にアベルト・フィッツバルディはもう一度鼻を鳴らしたまでだった。
(……人間種、どうせ人間種。そして一応クライアント……)
 ドラマは素数を数え、内心で繰り返し呟く事で引き攣った笑顔を浮かべて見せる事に成功した。
 フィッツバルディ派の子飼いと目される有力なイレギュラーズは複数いるが、ドラマはその内の一人と目されている。当然ながらレイガルテの懐刀であったこのアベルトとも幾らかの面識はあったが、元よりローレットに友好的ではなかった彼は決して親しい相手では無かった。
 それなのに、彼女がこうして魔法医の真似事をして彼を診る理由は偏に『依頼』があったが故である。
(……フィッツバルディの後継候補ともなれば、腕利きの医者やお抱えの魔術師も多い。
 で、あらば私が要る理由は間諜の意味合いの方が大きいのでしょうね)
 アベルトの傷は事件から数か月の時を経ても快癒からは程遠い状態である。パウル・ヨアヒム・エーリヒ・フォン・アーベントロートが国の大乱と纏わる愉悦を望んでいたならば、フィッツバルディ大公家の後継者レースの絶対的本命であるアベルトに不具の状態を押し付けたのは計算通りと言った所だろう。
 アベルト健在のままならば波は起きない。それでも彼を『残した』のはアベルト自身も『波乱』にしたいからに違いない。
 つまる所、パウルは自身の邪魔者を排除して、次の舞台に仕込みまで済ませていたという事だ。
(……本当に厄介な)
 肉体を失った分際で呪いばかりを振り撒きやがる。
 大した付き合いがある訳でも無かったし、望まれても御免被るのだが……ドラマは魔術師故に彼の思考を理解する。『してしまう』。
 どうあれ、病床のアベルトとて同じく栄光の血を分けた弟妹達の『乱痴気騒ぎ』を眺めているだけの心算は無いのだろうから、外の情報へのアクセスは必要不可欠といった所だろう。そういった意味で白羽の矢が立ったドラマは成る程、そういった役割に向いていよう。元より彼女は大災を好まない性質なのだ。街に生きる現在であっても、森のような平穏こそを望んでいる。
 諸々の事情があって離れがたい土地となった幻想を――ローレットの本拠地を騒ぎの坩堝にするのは全く以て望んでいない。
 レイガルテ・フォン・フィッツバルディが倒れて以降、フィッツバルディ派はそれぞれの神輿を担いで争いを展開する状況になりつつある。
 後継候補はアベルトの次点と目され、実家の強いミロシュ・コルビク・フィッツバルディ、貴公子然とした理想家であるフェリクス・イロール・フィッツバルディ、何を考えているか分かり難い優男パトリス・フィッツバルディ、跳ね返りお嬢様のリュクレース・フィッツバルディ……
(……いけません、非常にいけません。何方がなっても公のようには……)
 ドラマはちらりと沈思黙考するアベルトの顔を伺った。
 多少言葉と態度に難があろうとも、『これが一番マシ』である。
 故にドラマはアベルトの依頼を受諾したのだ。それ以降、こうして彼の傷の様子を診るのと一緒に最新の情勢を伝える役も負っている。
 勿論、『利敵や問題にならない範囲で』彼女の所属するローレットの旗の空気も含めて、である。
「それで。私はまだ動けそうにないが……そろそろ本格的にきな臭い、という事で良いのだな?」
「はい。……ええ、確実な所は言い切れませんが。市井の噂にしても、実際の動きにしてもです。
 御弟妹が私兵を集め、それぞれに対抗姿勢を見せているのは本当です。
 非公式ながらフィッツバルディ家の手の者がローレットへの接触を図ったという話も。
 ……まさか、この屋敷は大丈夫だとは思いますが」
 そう言ったドラマは屋敷を警護するザーズウォルカの副官――イヴェットと名乗った銀甲冑の女の居住まいを思い出していた。
 状況は政治的に高度な問題を帯びている。フィッツバルディ家の守護者たるザーズウォルカがレイガルテの意向を確認せず、誰かの肩入れをするのは大変な事態になろうが……
 それはそれとして後継と見做されていたアベルトの安全を確保したいという苦慮が見て取れた。
「どれもこれも分からぬ弟妹だ」
「はぁ」
「……父上はこの状況を露程も望むまいに」
(それはそうでしょうが、御自身も譲る心算は無いのでしょうに)
 ドラマは内心の呟きを決して表には出さなかった。
 フィッツバルディ家を取り巻く状況はいよいよもって予断を許していない。
 それは厚曇りの窓の外よりも薄暗く――結果はまだ、幾らも見通せそうも無かった。

 ※フィッツバルディ家のお家騒動が幻想を騒がせつつあるようです……
 ※ラサでは妙な宝石が出回っている様です……?
 ※<ジーフリト計画>が始動しました!

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