PandoraPartyProject
悪意の包囲網
冬を前に荒れるゼシュテル鉄帝国。釈放された囚人たちに向けてイレギュラーズにかけた懸賞金が告知されたことで、首都内は更なる活気を見せていた。
無論、血なまぐさく鉄と暴力に満ちた活気だが。
「『ゲーム』はイレギュラーズたちの勝利。我々は負けてしまったようです。いやはや、イレギュラーズは実に優秀ですね!」
敗北したというのに晴れやかな、それでいてどこまでも作り物めいた笑顔を浮かべる男。ペレダーチア団長。
彼が扉をあけたのは、首都内に確保されたセーフハウスのひとつだった。
誰のセーフハウスかといえば……。
「ご苦労。イレギュラーズが優秀であってもらわなくては、こちらも困るのだよ。ペレダーチア団長」
室内で椅子に座って足を組み、金属製のコーヒーカップを手にテーブルにむかっている幼女がいた。幼女と表現するとやや過剰だが、その幼い顔と短い手足。そしてちいさな体躯はまさしく子供のそれであり、しかし子供とは思えないほど老熟した表情を彼女は浮かべていた。
「グロース将軍殿。これはこれは、もう到着されていたとは」
「余計な礼儀はいい。貴様は充分に仕事を果たした。
果たしさえすれば、虐殺ショーなり改造人間遊びなり好きにするがいいさ」
大仰に頭を下げるペレダーチア団長に、新皇帝派の悪魔ことグロース・フォン・マントイフェル将軍はフンと鼻で笑った。
「山ほどの釈放囚人をギュルヴィのやつが雇ってしまった時は苦々しい思いをしたが……貴様だけでも確保したかいがあったというものだな」
まだ頭をさげていたペレダーチア団長が、目だけを動かしてグロース将軍の靴を見る。
「『革命派』にヘイトを集める。それが我々大回天事業サーカス団に課せられた興業でございます。全身全霊をもって務めさせていただいておりますよ」
にっこりと笑って顔をあげてみせる団長に、グロース将軍はまたもフンと鼻で笑う。
「しかし、良いのだろうか? リーナたちを送り出したシェルターでは、イレギュラーズが彼女たちを撃破したそうではないか」
突如のこと。それまで全く気配のなかった存在が、室内でその存在感をあらわにした。
団長すらびくりと身体をふるわせ、その登場に身構えるほどである。
グロースはというと、はじめから分かっていたかのように悠々と、コーヒーカップに口をつけている。
「クロユリーか。教団のほうはどうだ?」
姿を現したのは黒いルージュの美少年。『K∴O∴』アレイスター・クロユリーであった。
彼はグロースのそばまで歩くと、どこか冷徹な笑みを浮かべた。
「ああ、順調だとも。集合した『美少女』連中に邪魔されてはいるが、ね」
「『弱点を突く』のが貴様の特技のはずだ。相対する者を狂わせ、無力化する。貴様にはかの美少女どもも手を出せまい」
「『白百合』を除いては、な。ぼくの狂気が彼女には通じない。彼女はレベルを上げすぎたようだ。それに、『鳳』の者たち……彼らはぼくの狂気に耐性がありそうだ。別のなにかで免疫でもつけたかな?」
「かまわん。ウォーカーである貴様のギフトにそこまでの万能性は求めていない。貴様は例の計画を進めればいい」
グロース将軍は椅子からおり、こつこつと靴をならして窓辺へと立った。
その背に向けてクロユリーが語りかける。
「ラドバウ自治区にいる闇闘技場の連中もうまく動いて、『革命派』へのヘイトは民衆の間で高まってる。いま明確に彼らの味方をできているのは、イレギュラーズと……そして彼らに直接助けられたオースヴィーヴル領の民、あとはそこのサーカス団から助けた首都のシェルター民くらいであろ?」
「ああ。それに、領主のオースヴィーヴルが挙兵するのも時間の問題だろう。そしてあとはもうひと押し……」
手を翳し、窓に触れる。
つめたい鉄帝の外気ゆえか、窓はグロース将軍のはく息でしろく曇った。
「バルナバス皇帝陛下の望む世界のため、愉快な贄となるがいい」
※大回天事業サーカス団の虐殺から首都の民を救いました。その一方で陰謀の手は伸びているようです……
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