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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>freaks and gentlemen<大回天事業>

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サーカスがやってきた
「私は皆さまが大好き! 大好きなのです! 貴方が、子供達が、動物達が、生き物達が大好きなのです! 彼らを切開し、彼らを暴き、彼らを書き換え、彼らを創り出す、生命の神秘はこの程度ではない、もっと賢く、もっと強く、もっとダイナミックに、もっと理想的にコントロール出来るはず、この世界を理想郷にする事が出来るはずなのです!」
 ある夜のこと。
 両手を広げ、不気味なほど不自然に笑う男がいた。
 飾り立てたるシルクハット。空飛ぶ円盤ハウニブⅤに乗って、流れるブンワカとした音楽はどこか愉快で、そして狂っていた。
 それは美しくもおぞましい、サーカスの到来を告げる音楽であった。

「大変です! 皆さん!」
 クラースナヤ・ズヴェズダー革命派。いまや数十名のローレット・イレギュラーズが所属し混迷するこの鉄帝でも一大派閥となった彼らのもとに、マカールという司祭が顔面を蒼白にして駆け込んできたのがことの始まりであった。
「マカール先生?」
 イレギュラーズにもらったおはぎをぱくついていた司祭アミナがきょとんとした様子で振り返ると、額にういた汗を拭いながらマカールは荒い息を整える暇すらないとばかりに、震えた声で叫んだ。
「『大回天事業サーカス団』が首都内に現れ、子供達を浚っていったのです!」
 尋常なことではない。皆が意識を切り替えたその一方で、マカールはやっと整った呼吸をひとつだけおくと、アミナを見た。
「彼らは――アミナ。あなたの命令で事件を起こしたと説明しました」
 目を見開き、固まるアミナ。手に持っていたものが、足元へと落ちる。

●ふしぎなフリークス
 『大回天事業サーカス団』は鉄帝国で知る者のおおい大犯罪者であり、大事件の代名詞でもある。
「団長を名乗る男ペレダーチアは、元々鉄帝軍により極秘で行われていた機械化兵士作成計画の主任研究員でした。
 かつてギアバジリカ事件によって大量に発生した改造人間を解析し、それを意図的に作成することを目的とした彼は……ついにその実験を成功させてしまったのです。
 軍は実験を凍結。しかし主任研究員は命令を無視し人体実験を繰り返し、何人もの『改造人間』を作り出してしまったのです。果ては自らをも改造し、全ての人々を改造するのだという歪んだ思想に取り憑かれてしまいました。
 彼は狂気のサーカス団を作成し、大虐殺を行った末に逮捕、収監されたのです。長い懲役の後死刑が言い渡されるはずでしたが……」
 マカールの発言を途中まで聞いていたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がハッと気付いたように眉をあげた。いつかの仕事を思い出したのだ。
「以前、鉄帝各地にて『プチバジリカ』というものを回収したことがありますわ。ギアバジリカ事件の折に発生したものが軍に回収され、それが今回の混乱でレイダーの手に渡ったと」
 当時は『軍に回収された』という部分を深く気にしなかったが、彼らが何故回収したのかを考えればわかりそうなものだ。こんな便利な兵器、調べないはずがない。
 マカールは頷き、そして後から追ってやってきたイレギュラーズを振り返った。
「ごめんなさいね、準備に時間がかかったものだから」
「ああ……紹介しましょう長月・イナリ(p3p008096)さんです。同じローレットのイレギュラーズですし、知っている方も多いでしょうが」
 自分でできるわと手をかざし、イナリが革命派の顔ぶれをもう一度みやる。
「クラースナヤ・ズヴェズダー革命派……だったわよね。鉄帝国の教派。
 物資輸送のハブとなりうる街や物資集積基地等の拠点。居住地や鉄道駅を求めて首都圏への偵察を行っていたって、この人に聞いたわ」
「ええ、確かに……」
 ヴァレーリヤは知識ある仲間たちと相談し、『防衛拠点、兵員展開/物資輸送手段、食料、および住居の確保』という目的のために首都へ調査隊を送ったことがあった。
 だが手に入った情報は非常に陰惨なものだった。
 首都内にはいくつか『シェルター』が築かれ、都市内を闊歩する強力なモンスターや新皇帝派の軍に怯えながら、彼らは日々を凌いでいるのだという。
 しかし彼らの救助と輸送・連絡路の確保ができれば大きなメリットになる。彼らが助かるのみならず、これまで新皇帝派の軍やモンスターを相手にかろうじて凌げるだけの、そして場合によっては自給自足が可能なシェルターが確保できるということだ。
 しかし……。
「その守りが、『大回天事業サーカス団』によって破られたのですわね」
 ヴァレーリヤはこの『大回天事業サーカス団』に覚えがあった。
 というのも、絶対に釈放されないとされていた監獄に彼の姿を見たことがあったからだ。
 (割とよく捕まるので)馴染みのあった鉄帝監獄にて、死刑囚たちが新皇帝の命令で釈放されたというニュースは記憶に新しい。
 大回天事業サーカス団の歯車団長ことペレダーチアもそのリストに入っていたはずだ。
 要は、いつかの大虐殺事件が再び起きようとしているのである。

●虐殺と拉致、そして
 イナリが難しい顔で地図を見る。地図といっても空から見た手書きの俯瞰図だ。軍事国家である鉄帝国が『知れば誰でも攻略できる』ような地図をそうぽんぽん公開するわけがない。
「既にいくつかのシェルターが襲われ、壊滅してるわ。酷いありさまだった……。
 彼らは『革命軍の使徒』を名乗って、これが司祭アミナの命令であると」
「そんなこと……!」
 ありえません。アミナは崩れ落ちるように膝をつき、両手で顔を覆っている。
 イナリはヴァレーリヤたちの顔を見て、それが真実であると悟ったのだろう。小さく頷いて話を続けた。
「起きてしまった事件は、仕方が無いわ……けれど、これ以上起こさないことは、止めることはできる。そうよね?」
「はい……」
 イナリが示したのは五つのポイント。
 駅の支線や集合居住区、小さくはあるが水運に適したポイントもある。
 まさに、ヴァレーリヤたち革命派が手に入れようとして調査していたポイントであった。
「『大回天事業サーカス団』のメンバーは強力よ。一度戦ったからわかる。
 これに大量の機械獣が加われば充分な戦力になるでしょうね。
 だから、いくつかのチームに分けてそれぞれのポイントを攻略していく必要があるわ。
 クラウン、グラニット、ヴィゴーレ、リーナ――彼らは新たなシェルターへの虐殺を行うべく散っているけれど、ペレダーチア団長と『猛獣使い』ベスティエは別。
 浚われた子供達を取り返すために、彼らが拠点としているシェルター跡地へ乗り込まなければならないの」
 ごくり、と誰かが息を呑んだ。
 『シェルター跡地』という言葉の意味を考えてだ。
 何年も前に無人になった、などという意味では勿論ない。
 つい最近。人為的に。それも、『大回天事業サーカス団によって』無人となったシェルターを指しているのだ。
「浚った理由は……おそらく」
「はい。あのサーカス団のように改造するつもりでしょう。止めなくては。そして、子供達を……」
 ヴァレーリヤの悲痛な表情は、何を思いだしてのものか。
 それまで崩れていたアミナが、すっくと立ち上がって目元の涙を拭った。
「お願い、します……子供達を、どうか……救ってください」

●『子供さがしのゲーム』
 子供達が浚われ、捕らわれているというポイントエリアに到着したイレギュラーズたち。
 彼らがまず目にしたのは、入り口に貼り付けられた一枚の『招待状』であった。

 ――勇敢なる君たちへ送る
 ――ようこそ私のサーカステントへ
 ――これから楽しいゲームが始まる
 ――エリア内へバラバラに隠した子供達を見つけ出し、そして私が送り出す自慢のスタッフたちを全て倒して見せたまえ
 ――君たちが勝てばこの拠点を差し上げよう
 ――だがもし君たちが負けたなら……

GMコメント

 今回は成功条件/失敗条件が非常に厳しく設定されています。
 プレイングのすりあわせや準備には充分お気を付け下さい。

●成功条件
・浚われた子供達の奪還
 浚われた子供達はポイントエリアに点在している可能性があります。
 一人でも見逃し、死亡してしまった場合は失敗扱いとなります。
 また、浚われた子供の数は『10人』です。
 名前や素性までは調べきれておらず、人数だけハッキリしています。

・占拠されたポイントの攻略
 このポイントエリア内には大量の機械獣『アニマール』と無数のモンスターが配置されています。
 これらを倒しこの拠点を制圧することを革命派から求められています。
(首都内における要所であり、色々な場所にアクセスしやすい位置であることからここを敵に制圧されたままにしておくと周辺住民が非常に危険なためです)
 また、事前情報が非常に少ないため『未知の敵』の出現にも警戒してください。

●ポイントエリア情報
 このポイントエリアは『船の停留倉庫、及び関連施設』で構成されています。
 すぐ側には運河を利用するための設備があり、冬期は凍ってしまって使えないことがありますがそれ以外の時期には船を使った輸送が行われていました。そのほか様々に便利なポイントがあります。
 イレギュラーズによって革命派に提案された『防衛拠点、兵員展開/物資輸送手段、食料、および住居の確保のための調査』によって発見されたポイントでもあり、手に入れることで技術力その他を獲得できる可能性があります。

●子供達の捜索
 エリア内には浚われた子供達が拘束・点在しています。
 が、『どのような状態で』拘束されているか不明です。意識のある状態であれば『人助けセンサー』で容易に発見できますが、意識がなかったり強い催眠状態にあればそれも難しいでしょう。より厳密にいえば、あるケースとないケースが両方存在すると考えて対応しなければどこかで手落ちリスクが発生します。
 仲間たちで協力し、できる限りの方法で捜索を行ってください。
 また、エリア内には機械獣とモンスターが闊歩しているため戦闘が頻繁におこり、リソース管理に気をつけなければどこかでガス欠を起こします。
 そしてモンスターによって子供達が殺されてしまう危険は充分にあるため、捜索にはそれなりに速度が求められるでしょう。

●エネミーデータ
 以下は『わかっている限り』のデータです。

・アニマール
 サーカス団の『猛獣使い』ベスティエが使役する機械の獣です。
 獅子のような姿をしており、火炎放射能力を有する個体が過去に確認されています。
 団長はこれを量産することができるらしく、前回も村一つを壊滅させるために大量に投入されていました。
 戦力的にはあまり高くなく、イレギュラーズチームが協力して戦うことで充分余裕をもって撃退できていました。仮に一人で取り囲まれたとしても対応が可能な程度でしょう。

・『猛獣使い』ベスティエ
 サーカス団のメンバーであり、改造手術を受けていない唯一の人間といっていい存在です。
 彼は長年連れ添った愛犬アニマールとの死別を団長によって救われたことでこの狂気のサーカス団へ加わることを決めました。
 当然理屈は大きく狂っているはずなのですが、彼がどのような理由でこのメンバーで居続けているのかはわかりません……。

・ペレダーチア団長
 ギアバジリカの『改造兵』作成技術を研究し、人間を改造する技術を会得してしまった邪悪な技術者です。
 彼の思想は大きく狂い、あらゆる人々を改造してしまおうと考えているようです。
 当然、今回浚った子供達もその対象なのですが……一度死んだ犬を機械獣にして『生き返った』ことにして、更には量産してしまっている時点でどこかで何かが決定的に間違っています。

・モンスター
 おそらくはアンチ・ヘイブンがいくらか施設内に配置されているはずです。
 といっても、ペレダーチア団長は己が制御できる環境を好む傾向にあるため、完全な制御下におきづらいモンスターをそこまで積極的に利用するかというと微妙なところです。
 適当な場所にはなしておいて、こちらの足止めに使うと考えるのが妥当でしょう。

・未知の存在
 ここで『未知』と書いてはいますが、存在するのかどうかすらわかりません。
 少なくとも、他四箇所の拠点に強力なスタッフを送り出し、そのうえでイレギュラーズを余裕をもって迎え撃つかのような姿勢をみせる背景はかならずあるはずです。(戦闘力の低いアニマールしかいないなんてことは絶対にありえません)
 充分に警戒してあたってください。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>freaks and gentlemen<大回天事業>Lv:40以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月17日 23時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●『子供さがしのゲーム』
 ――勇敢なる君たちへ送る
 ――ようこそ私のサーカステントへ
 ――これから楽しいゲームが始まる
 ――エリア内へバラバラに隠した子供達を見つけ出し、そして私が送り出す自慢のスタッフたちを全て倒して見せたまえ
 ――君たちが勝てばこの拠点を差し上げよう
 ――だがもし君たちが負けたなら……

 手紙を握りつぶし、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はキッと扉をにらみ付けた。
「マリィ、確かめておきますけど……全員でこっそり入り込もうなんて作戦じゃありませんわよね?」
 語調に怒りが含まれているのを察して、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は『うん』とまず短く返した。
「どのみち戦闘が始まればこちらの位置はバレるしね。今回はそういうメンバーもいないし、堂々としていいんじゃないかな」
「ありがとう」
 ヴァレーリヤはその小柄な体躯で片足を大きく上げると、扉めがけてブーツの底を叩きつけた。
 祈りの力によって強化された彼女の筋力は扉のドアノブを吹き飛ばし、両開きの扉を本来開かない方向へと無理矢理押し開いた。
 そして扉の向こうに広がった光景に、『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)が思わず口元を覆う。
 たとえば『惨劇の舞台』なんていうことばで説明されたなら、リアは額に血管を浮かべて怒鳴り散らすだろう。
 狂った、そして下劣な思考をもった、人間とも思えないような存在が、人々が細々と暮らすシェルターに押し入り戯れにすべて殺していった。その事実が、扉をあけたその一瞬で理解できてしまったのだ。
 武器を握ったまま壁に打ち付けられた男性は苦悶の表情を残したまま絶命しており、身体の部位は片足や肩部分など中途半端にかじりとられた跡があり、そして食われたならともかくすぐ近くへ乱暴に投げ捨てられている。
「これがサーカス? ふざけやがって……」
 低く、そして小さく呟くリア。
 むき出しにした感情が、今にも炎となって燃え上がりそうだ。
 『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は両手をロングコートのポケットに入れたまま、眉間に僅かに皺を寄せた元々のむずかしそうな顔を維持したまま周囲を見回す。
 話には『シェルター』と聞いていたが、たとえば練達のマザー暴走時に使用されたような地下シェルターとは根本的に違う。トタンと木材で作った壁をぎゅうぎゅうに並べて防壁代わりにし、先ほどの両開き扉も板を組み合わせた粗雑なものだ。
 こういう壁と扉で街の一角を囲い暴徒の襲撃をギリギリ耐えるという形でこのシェルターは維持されていたのだろう。
 かろうじて壁の上には有刺鉄線が備えられていたが、適切な装備と人員があれば突破は可能なように見える。
 情報にあったとおり『船の停留倉庫、及び関連施設』というだけあって停留倉庫も見える。
 ジョージの調べによればタンカー船と呼ぶほど巨大な船が通れる運河ではないが、スチールコンテナを積んで運ぶところは変わらないらしく、ぱっと見回しただけでも大きなスチールコンテナが点在していた。
 等間隔には並んでおらず、正面の(男性が打ち付けられている)コンテナを壁に左右に道が分岐している状態だ。
「丁度良い。ここで二手に分かれよう。運河側には俺が行った方がいいだろうな」
 冷静に告げるジョージにリアがキッと睨むような視線をおくりかけたが、感情を無関係な人間にぶつけそうになったことに気付いてすぐに目を伏せた。
 その様子を察したのだろう。『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がことさら明るい口調で言う。
「このゼシュテルで子供をさらったりする様な悪党が最期にはどんなことになるのかキッチリ教え込んでやろう!」
 拳を固め、片手のひらに向けてパァンと鳴らすように打ち付ける野球のボールをグローブでキャッチするような動作だったが、どこかさっぱりとした音がするのでリアの気持ちがわずかに和らぐ。というか、イグナートは『旋律』がとにかく一定なので見てるとちょっと和むのだ。
「ジョージとオレ、それにヴァレーリヤとリアと……イナリ、一緒に来てくれる?」
「いいわ。能力配分的にも賛成」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は身をかがめ、地面に散乱した血のにおいを確かめる。
 既に乾き、充分に酸化した血だ。このシェルターは襲撃されてから随分と経っているのだろう。
 こんな場所に浚われた子供達のことを考え、イナリは顔をしかめる。
「しかも理由が機会の部品のように扱うことだなんて……倫理観が不足しているわね。
 元々倫理観なんて期待してないけど、0を通り越してマイナスの域だわ」
 『ペレダーチア団長』がマッドサイエンティストだということは知っていたし、喜んで虐殺を行うような人間だということも知っていた。
 けれどその歪みにはどこか、『人が苦しむのが楽しい』というような嗜虐趣味は感じなかった。あくまでエンターテインメントとして、ショーとして、世界への貢献としてこの虐殺を行ったように、イナリには思えたのだ。
「本当にタチが悪いわ。こういうヤツはね、『人を殺してはいけません』って常識を理解した上で殺すのよ。そうするべきだからってね。
 しまいには『遊びで虐殺をするべきだからそうした』なんてぬかすのよ」
「マジで? そんなことってある?」
 『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は戦争の申し子だ。戦いには慣れていたし、残虐な行為もずいぶん見てきた。マッドな連中とも付き合いがあったし、自分もその産物みたいなもんである。
 しかし、『遊びで虐殺をするべきだからそうした』なんてヤツは流石に知らない。
 秋奈が戦いの最中にフザけたことを言ってのけるのは精神の均衡を保つためであったり、本当の意味で狂ってしまわないためであったりする。いわば防衛機能だし、精神的な摂理に基づいている。
 ペレダーチア団長はそこから大きく外れ、狂いきっているということだ。
 『猛獣』ソア(p3p007025)は早速地面に少し新しい血痕があることを発見し、ジョージたちとは逆の方向へと視線を向ける。
「ボクたちはこっちを探す。コンテナが沢山ありそうだけど、いちいち開けて回るのは危険っぽいんだよね……ガイアドニスさん、一緒に来て貰ってもいい?」
「勿論。おねーさんにまかせてっ」
 『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はぱちんとウィンクをしてみせると、片目の奥に魔方陣のようなものを浮かべる。これも彼女に備わった機能のひとつなのだろうか。ガイアドニアスの目は周囲の情報を分析し、時に透視していく。動きはなんだかテンションたかめのお姉さんなのだが、目の奥に光るのは高度な探査マシンのそれだった。
 スーパー探査マシンと化したガイアドニアスと野生の感性と超感覚をもったソアが力を合わせればかなりの探索能力を発揮するだろう。
「なら、私はソアくん側かな。『人助けセンサー』持ちのメンバーは会長と組長だけでしょ?」
「誰が組長だ」
「ふふふ」
 茄子子は普段のちゃらけた雰囲気を変え、穏やかなシスターのそれにかわる。
「相手は『ゲーム』を仕掛けてきた。これは、むしろ良かったことと言えます。
 ゲームならルールがある。勝利条件もある。ならば、救えます」
「そんな保証ある? あそびで虐殺するやつなんだから、ルールだってすぐ破っちゃうかも」
 ソアの素朴な疑問に、茄子子は首を振った。
「彼らはサーカス団を名乗り、ゲームと称して我々をここに招き入れた。
 それはつまり、一定の美学と信念に基づいて行動しているということです。
 ルールに則って行動する限り、『美学は人間を縛る』のです」
「???」
 ソアがどういうことだという顔で首をかしげたが、茄子子のいわんとすることはヴァレーリヤやリア、そしてジョージたちには深く理解できた。
 人間が人間たるゆえんというべきだろうか。
 ペレダーチア団長は『ペレダーチア団長』であろうとするために、子供達をさっさと殺してしまえないし、ずるをしてこちらを一方的に殺戮するということをしない。
 第一それができるなら、とっくに子供は殺してしかるべきだ。招待状なんていらないし、扉も固く閉ざすだろう。
「尊厳をもつものは、尊厳を破壊されない限りルールを曲げません。だから我々がやるべきは、このルールを受け入れる格好で子供達を探し出すこと。
 そしてその上で……」
 茄子子は途中まで言ってからぱくんと口を閉ざした。
 言わなくても、皆分かっている。
 ヤツは、生かしておくには歪みすぎたのだ、と。

●人質をとったルール
 空にむけて螺旋状に伸びるライン。その上に両足を乗せ、スケートボードのようなフォームで滑走し上昇していくマリア。
 ラインが上空で反るような形で止まり、マリアもまたそこにスタンと足をのせることで停止した。
「うーん……」
 マリアたちが向かったのは停留倉庫とは逆側。小さなトタン屋根の小屋やスチールコンテナが乱雑に並んでおり、その間にはキャンプ用のテントがはられたりビニールシートが屋根代わりにはられたりとここに人々が生活した痕跡がみてとれる。しかし人間の気配はなく、かわりに大量のアニマールとティガレックスタイプのアンチ・ヘイヴンが観測できた。
「どう? なんかわかった?」
 下から声をかけてくる秋奈。マリアは手を振ってから『リニアドライブ』を解除。自由落下しつつも何度かバチバチと反発をおこして落下の速度を弱めると、秋奈の横へと着地した。
「子供達の姿は見えないね。上から見えたのはモンスターだけ。けどこっちのエリアに零人ってことは、これを『ゲーム』とした場合不自然だよね」
 マリアのいわんとすることをなんとなく察した秋奈が『あー』と声を上げた。
「じゃあ、子供はどっかのコンテナの中かー。私透視できるよ。探すのもちょっとだいぶウマい」
 自分の目を指出す秋奈。
「なら、おねーさんと一緒に手分けしてコンテナのなかを透視していきましょ」
 ガイアドニスが『おねーさんは右できみは左ね?』と適当に役割分担をする一方で、ソアが両目を指でかっと開くような仕草をした。
「今すぐ全部のコンテナをすっけすけに出来ないの? そしたら楽じゃない?」
「たぶん、おめめしんじゃうんじゃないかな」
 やったことないから分からないけど、とガイアドニアス。まあ実際、物事には限度というものがあって、それは時と場合によっておおきく揺れる。
 多少便利なものに対して極端な期待をすると失敗するという、わりと世界によくあるタイプのあるあるだ。
「けどだいじょーぶ! おねーさんこう見えてものを探すのマックスで得意だから!」
「マックス?」
「デリシャスに得意だから」
「たぶんそれ意味違うね」
「そんな皆さんに朗報です。『人助けセンサー』に感あり。近くに捕らわれてる子供がいるとみて間違いないでしょう。意識もあるでしょうから、モンスターに気付かれる前に発見して救出しましょう」
 行きますよ、と走り出す茄子子。
 ソアたちは頷き、彼女について走り出す。
 マリアは先行するようにコンテナの上をリニアドライブで飛び越え、一度宙返りを挟むとティガレックスタイプのアンチ・ヘイヴンめがけて蹴りを叩き込んだ。
「私が相手になるよ! かかってこい!」
 予想通りと言うべきか、ティガレックスが蹴倒されたその周囲ではアニマールたちが飛び退きマリアを囲む陣形をとる。
 ティガレックスがどうなっても別にいいという様子で、あまり直接的な連携をするつもりはないようだ。
 勝手に暴れるうえ厄介になりそうな敵をおさえておくのは勿論有効だ。マリアは両手の拳に真っ赤な雷撃を纏うと、ティガレックスめがけて猛烈なパンチラッシュを浴びせていく。
 打撃による破壊というより、マリアの纏う電撃を体内へ浸透させ力の自由を奪うのが目的のようだ。実際ティガレックスは持ち前のパワーをまるで発揮できず、よろよろとした動きでマリアと格闘している。
 その横から襲いかかろうとしたアニマール……だが、ここぞとばかりに飛び込んだソアのタイガーソバットキックが炸裂。アニマールが吹き飛び、コンテナの一つに激突しその壁面をへこませた。
 ばきんと音をたてて壊れるアニマール。強敵の出現に、アニマールたちはソアに集中しようとするが……。
「んんーっ、漲るね!」
 茄子子のフォローによって力を奮い放題になったソアは全身に雷のパワーをみなぎらせると集まってくる無数のアニマールに対して多方面パンチラッシュを浴びせた。
 奇しくもマリアとソアによるタイガー連携が完成した所で、ガイアドニスが茄子子と友にその横を駆け抜ける。
「場所は!?」
「具体的な位置まではまだ。ガイアドニスさんのサーチのほうが早いかと」
「わかった! おねーさんアイ!」
 目の前に翳した二本指をピッと開くジェスチャーをすると、指の間からコンテナを透視する。いや、指を翳す必要は全然ないのだが。
「見つけた! あそこ!」
 ガイアドニスが走る先には無数のアニマールが集まっている。
 いま扉をあければ子供達は危険にさらされるだろう。
 それゆえ、ガイアドニスはまずこれらを排除することを選択した。
「茄子子、援護よろしく!」
「おまかせを」
 茄子子は握りしめた白紙の免罪符に力を込めると、ガイアドニスへとエネルギーを供給しはじめる。
 一方のガイアドニスは腕を振りかざし、キィンと体内で何かを高速回転させる音を放つと腕を真っ赤に加熱させた。
「そこをどきなさい!」
 アニマールに叩き込まれるパンチ。その一発で機械仕掛けの獅子は砕け、集まっていた獅子たちも次々に破壊される。
「みんなナイス!」
 秋奈はそう叫びながらコンテナの扉前に到着。アニマールを切り捨てる。
「コンテナに鍵かかってる! 解錠できる!?」
「任せて! おねーさんキーブレイカー!」
 いいながら、ガイアドニスは赤く加熱した拳を南京錠に叩きつけた。
「解錠ってそういうのじゃなくない!?」
「急いで!」
 アニマールと戦いながら時間を稼ぐガイアドニス。
 秋奈は開いたコンテナ内に駆け込み、腕を手錠によって拘束された少年をみつけた。
 彼女が助けに来た人間だと本能で察したのだろうか。少年はワッと泣き出し『たすけて』と叫ぶ。
 これまで叫ばなかったのは、コンテナの外にいるアニマールたちが中へ入っくることを恐れたからだろう。
「オーケーオーケー。おぉよしよし、帰りにコンビニ寄ってこーね」
「コンビニ?」
「肉まん買ったげる」
 あるかしらんけど、とテキトーなことを言って秋奈は手錠を刀で切断した。
 腕に輪っかをくっつけたまま少年は立ち上がり、秋奈に『走れる?』と問われ強く頷く。
 しかし……。
「妹も連れて行かれたんだ。殺されてるかも……もし生きてるなら……」
「おー、マジか。大丈夫、このパターンは生きてるやつだ。妹ちゃんの分も肉まん買ったげるから、食べたい味考えときな」
「味の違いとかあるの?」
 しらんけど、とまたもテキトーなことを言って微笑む秋奈。
 少年はつられて笑った。
「っし、エネルギーはだいぶ溜まってて余裕あるから……マリアちゃん、ナスコチャン! この子お願い! 私ら一旦奥までいくわ!」
 いいよね? とソアとガイアドニスに視線を向けると、二人はオーケーのサインを出した。

●団長という概念
「そこぉ!」
 ヴァレーリヤはメイスを用いて巨大な亀のようなアンチ・ヘイヴンをたたき割っていた。
 防御の型さと暴れ回った時の激しさは厄介だが、こういう相手をぶち破るのもヴァレーリヤの得意分野である。
「この辺は一通り調べ終わりましたわね」
 額の汗を拭うヴァレーリヤ。
 後ろからはドレイクチャリオッツを随伴させ、敵を倒しながらずんずん進むというスタイルでやってきたが、今のところ子供を発見していない。
 マリアから入った専用通信によれば子供を救出し、先行したソアたちも新たにまた救出に成功しているという。ペース的にみて、そろそろこちらも発見できていい頃だ。
「ジョージ、どうですの?」
「センサーに反応はないな。もしいるなら、意識を失っているか催眠状態にあるんだろう。透視能力者やハイセンス保持者をこっちにも用意しておくべきだったか?」
「大丈夫、そのための私よ」
 イナリは片手を狐の形にすると、その辺から這い出てきたハツカネズミを使役状態にした。
「ファミリアーか。確かに、こういう場所なら有効だよね」
 イグナートが周りをみまわした。
 いわゆる停留倉庫。屋根つきの巨大な倉庫で、これまたおおきなシャッターが四方向に備え付けられている。
 さすがは冬には雪深くなる鉄帝の都市だ。普通なら屋根だけつけて半野ざらし状態でもいいような場所でもきっちり壁で覆っている。
 そして……だからだろうか。
 このエリアをシェルターにして逃げ込んでいた人々は、この建物内を主な寝床にしていたらしい。やや乱雑にだがマットレスが並べられ、寝袋も積み上がっている。暖を取るためにだろうか、燃えかすのはいったドラム缶がそれらの中心に置かれていた。
 だがそれはみな、過去のものだ。マットレスは血をすいすぎて黒くくすみ、ドラム缶に至っては血を浴びたせいでやや錆び付いている。
 生活感のある場所ほど血の跡が多く、ドラム感の燃えかすからは人の手らしきシルエットすら見えた。
 この場所で何が行われたのか想像し、皆一様に表情を曇らせる。
 が、イグナートはこういうときでもマイペースを保てる鋼のメンタルの持ちぬしだった。
 話を戻すようにイナリへ振り返る。
「――有効だけど、探索範囲が広すぎない?」
「そんなことないわ」
 イナリは開いた手帳に何かを書き付けながら、ペンでいくつかの箇所をマークしていく。
 覗き込んでみれば周辺施設の大雑把な俯瞰図だった。
「『ペレダーチア団長』はゲームを仕掛けてきた。ならトロフィーを損なうような、つまり自分の美学を損なうようなことはしないはず。
 たとえば路上に放置すればモンスターにすぐ殺されてしまうし、土に埋めたら死んでしまうでしょ? 水の底に沈めるのも、相手が水中で呼吸できる種族の子供である場合に限るはずだわ。仮にそうしたとしても、今の季節に一日中沈めておいたら凍死しかねない。すぐに引き上げられる場所に隠すでしょうね」
「……つまり?」
 イグナートの問いかけに、イナリは手帳を翳してみせる。
「探索するべき範囲はもとから絞られてるの。そこに、『コレ』よ」
 イナリが使役したネズミはたったの一匹ではない。片手で数え切れない数のネズミがあちこちから顔を出し、きらりとめを光らせた。
「一気に探すわ。場所を指定するからすぐに向かって」

 イナリの探索は確かに適切だった。ポイントを絞りつつ複数のファミリアーを飛ばし、ひとつところに居ながら複数の箇所を並行して探索する。
 口で言うのは簡単だが、たとえばドローン監視カメラのモニターを六台同時に見ながら全てに注意をはらうなんてことは難しい。しかも視覚だけでなく聴覚嗅覚触覚と五感すべてをリンクさせ同時にはしらせるのだ。普通なら混乱してもおかしくないのだが、イナリは『オーバークロックモード』を用いて己の並行処理能力を増幅させていた。
 ここまで極端にやるとなると、流石にかなり短時間しか使えないだろうが……今回はそもそも急ぐ任務だ。短時間だけ使えればそれでいい。
「そこか」
 イナリの指示を受け、ジョージは整備された運河へと飛び込んだ。
 いわゆるプールに高所から飛び込むような、まっすぐで美しいフォーム。
 途中で彼の姿は優雅なペンギンへと変わる。
 彼が冷たい水面を割って中に入ると、壁面のアンカー固定用フックにディープシーの子供が固定されているのを発見した。
 ジョージを見つけ、助けを求めるように両手をふりまわしている。
「もう大丈夫だ」
 ジョージが腕で固定具を破壊。子供を抱え上へとあがる。
 ハシゴをつかってコンクリート舗装された地面に子供を座らせると、泣き出す彼をペンギンハンドで優しく撫でた。
 そして、キッと上空を見上げた。
「ゲームとは笑わせる。貴様らにとってはショーのつもりだろう。それも、顔見世するための前座だな」
 探索を進めるうちでわかった。というか、最初からうっすら予想していたことだ。『ペレダーチア団長』はまばらに存在する監視カメラのようなものでこちらを観察し、ゲームの進行を見ているのだ。
「もう大丈夫だ。必ず、お前達を家に帰してやる」
 ジョージは人間形態へと戻ると、子供の手を引いて歩き出した。

 一方で、こちらはリア。
 ほとんどからっぽになった食料倉庫の中で、麻袋に詰め込まれる形で一人の少年が捕らえられているのを発見していた。イグナートのエコーロケーションで空間把握を行いながら進み、慎重に子供のもとへと近づく。
「怖かったわね。でももう大丈夫。正義の味方が助けに来たから」
 子供は暴れ、もがいている。麻袋をとり縄を切ってやると……子供はあろうことか手にしていたナイフでリアへとおそいかかったのだ。
 ハッとして動き出そうとするイグナート。
 だが、リアは無言のまま手を翳し、彼にとまるようハンドサインを出した。
「大丈夫」
 子供の振り込んだナイフの刃をリアは素手で握って止め、もう一方の手を少年の頬にあてる。
 覗き込んだ瞳越しに、少年の激しく乱れた旋律が伝わった。
「貴方が目覚めた時には悪い奴らはあたし達が倒しているわ。だから安心して、おやすみなさい」
 ナイフを掴んだ手からぽたぽたと血がおちるが、優しく微笑むリアの前に、少年はまどろみ始める。
 やがて旋律が穏やかになり、リアの胸に抱かれる形で完全に脱力した。
「催眠か……」
「悪趣味な罠だわ。本当に、怖い思いをしたのね」
 リアが子供を抱えて外に出ると、ヴァレーリヤがドレイクチャリオッツの馬車に子供を乗せているところだった。
「その子は?」
「首に爆弾がしかけられていましたわ」
 ヴァレーリヤが、犬用の首輪と魔術式の爆弾を組み合わせたものを取り出した。
「無理に外したり指定した魔方陣から出そうとすると爆発する仕掛けでした。大丈夫、魔術回路は切ってあります。こんなものを子供につけるなんて……」
 子供を傷つけずに回路をきるのにリスクを負ったのだろう。ヴァレーリヤの手に炎魔術による焦げ跡があった。
 有効だ。有効だからこそ、怒りが湧く。
 リアの今にも唇を噛みきってしまいそうな表情を見て、ヴァレーリヤは『祈りを』と小さく呟いた。
 ハッとして、鼻からゆっくりと呼吸する。宗派によって異なるが、『祈り』は言葉よりも呼吸こそを優先して教えることがある。
 つまりは瞑想の手段であり、リラックスの手段だ。
 特に他人の旋律に乱されがちなリアにとって、瞬間的な瞑想は生きていくのに必須のテクニックといえるだろう。
 ちなみにヴァレーリヤはこういうとき酒に逃げるのだが、怒りや悲しみを『先送りにして発散する』というのも、これもまた必要なテクニックなのだ。
「マリィからも連絡が入りましたわ。二チームあわせて子供の数は10人。彼らを、まずは外に送り届けましょう」
 施設の外には革命派の僧兵たちが待機している。いざとなれば突入もありうるかと構えているようだが、このぶんだと子供達の保護と移送だけを任せられそうだ。
 ある意味で、本番はこれからだ。

●ペレダーチア団長と『猛獣使い』ベスティエ
「団長、グロース将軍から供給されたモンスターが全部やられた。アニマールももう殆ど残ってない。連中はこの場所に気付いているようだぞ」
「そうでしょうそうでしょう」
 建物の中で、椅子にこしかけていた『猛獣使い』ベスティエは難しい顔で振り返る。
 ペレダーチア団長はといえば、満面の笑みで黒い箱を開いている。中にはブロック状に成形されたチョコレートがひとつずつ仕切られて入っている。ひとつをつまみあげ、わざと高く放り投げるとそれを口でキャッチした。
 箱からして、そしてその包装方法からして高級なものだと一目で分かるのだが、それにしては乱雑な食べ方である。
 乱暴にかみ砕きながらペレダーチア団長は笑みを深める。
「我々の『興業』は子供を浚いゲームを仕掛けるところまで。仕事は果たしたのですよベスティエ」
 ひとついかがです? と翳されたチョコレートに首を振り、ベスティエは立ち上がる。
 ベスティエにはペレダーチア団長のような、あるいは他の団員であるクラウンやリーナ、ヴィゴーレやグラニットといった『改造人間』たちのような狂気がない。彼だけが、理性的にものを見ているようだった。
「なあ、グラニットやヴィゴーレたちは良いのか? これまでシェルター潰しは全員でやってきた。アニマールをつけてるとはいえ、ローレット・イレギュラーズが駆けつけたら流石に負けるぞ」
 連中が俺たちを生かして帰す理由もないしな、と口の中で呟くベスティエ。
 対してペレダーチアは先ほどのチョコレートをまた放り投げ、口でキャッチしている。
「彼らが死んでも、別にかまわないでしょう」
「は?」
 驚愕するような言葉に、ベスティエはサングラスの下で目を見開く。
「アニマールと同じです。また作ればいい。何人でも、何回でも!」
「待ってくれ。何を言ってる。アニマールは確かにその、『そう』だが、ヴィゴーレたちは生きてるんだぞ」
「なにかおかしいことがありますか?」
 ペレダーチア団長は残ったチョコレートを箱ごと持ち上げ、大きく開いた口のなかにまとめて流し込む。
「死はもはや別れではないのです! ヴィゴーレも、クラウンも、リーナも、グラニットも! 我等サーカス団は永遠に『公演』を続けるのです! もはや、我々を止められるものなどありません!」
 ごくんとチョコレートを、噛みもせずに全てのみこんでしまうペレダーチア団長。
 つられるようにベスティエがごくりと息を呑んだ、そのとき。
 彼らの過ごしていた建物の扉が強引に破壊された。

「見つけたわ、くそやろう!」
 口汚く罵りながら、リアは扉に思い切り蹴りをいれた。
 ブーツの靴底に埋め込まれた十時のインスタントロザリオが輝きをもち、扉を吹き飛ばす。
 中は、ありていに言って地獄だった。
 男女の死体が交互に、まるでタイルでも埋めるように上下交互になるように壁に貼り付けられ、どの死体も恐怖と苦痛に顔を歪めている。
 同じく踏み込んだガイアドニスが、溢れる霊魂の波にぎょっとして半歩ひいてしまうほどであった。
 『かえして! あの子を返して!』『うちの子供をどこへ連れて行くんだ! やめろ!』
 苦痛の中で殺されたであろう人々の霊魂のなかで、そんなふうに叫び狂う男女の姿が……実に10組。
 導き出される答えに、ガイアドニスは思わず首から上をふるわせた。レガシーゼロに生理的反応が起こるというのも変な話だが、怒りによって彼女の動きがブレたのだ。
 愛を踏みにじり、穢し、飾り立て、その中央で優雅にティータイムをしゃれ込むペレダーチア団長と『猛獣使い』ベスティエの姿に、怒りを覚えぬ者などいようか。
「いい加減に――」
 ガイアドニスが一発殴ってやろうと踏み出した、その時。
 部屋の奥にあるものが突如として動いた。
 大きな布をかけられたそれは、どうやら檻のようだ。
 檻は内側から破壊され、『それ』が姿を見せる。
 一見してアニマールだと思ったガイアドニスは、予想よりもずっと巨躯であること。そして二本足で立ち太い腕を持ち上げて見せたことで考えを変えた。
「あれは……『怪力男』ヴィゴーレ? そんな筈無い、別のシェルターで仲間が戦ってるはずよ!」
 イナリが叫ぶやいなや、ヴィゴーレらしき物体が両手を突き出し突進を仕掛けてくる。
 ガイアドニスがその両手をがしりと掴み、力比べ状態に持ち込んで足止めした。
 だが、ガイアドニスの足ががりっと地面をこすり軽く1mほど押し込まれる。
「こいつは、おねーさんに、まかせて! あいつを――」
「了解した」
「一気にいくよ!」
 ジョージとイグナートが走り出し、ペレダーチア団長へ迫る。
 剣を抜き、間合いをはかる。
 イグナートも拳を堅く握り込み相手の顔面を粉砕する準備を終えた。
 が、その瞬間。
 別の檻が壊れ中から巨大な足をもった女性型の機械が飛び出してきた。
 歯車兵にも似たそれは、ジョージとイグナートをまとめてなぎ払えるほど巨大な足で蹴りつけてくる。
「あれは『踊り子』リーナ!? 違いますわ。よく見て」
 ヴァレーリヤが指さすと、リーナと一度は呼ばれた物体の上半身は初老の男性のものだった。無理矢理バレリーナのような衣装を着せられ、化粧までさせられているが、目に生気はなくむしろ首ががくがくと動きについていけずゆすられていた。眠った人間を無理矢理動く脚にくっつけて振り回しているようにすら見える。……いや、実際そうなのだろう。
 ヴァレーリヤはその姿が、ショッケンという人物の末路に重なったのを感じ首を振った。
「なんてこと……このシェルターの人達を、『改造』したんですの?」
「当然!」
 よくはる声で叫ぶペレダーチア団長。
「彼らは生まれ変わったのです。『玉乗り道化師』クラウンとして、『怪力男』ヴィゴーレとして、『火吹き男』グラニットとして、『踊り子』リーナとして!」
 次々に飛び出してくる改造人間たち。しかしどれも本体に生気がない。
「人間を生きた電池にして動かしているようなもの。『オリジナル』ほど強くはないと見て良いでしょうね」
 あえて冷静に言った茄子子はガイアドニスたちをフォローすべく祈りの姿勢をとった。
「私も大好きですよ。貴方のように、自分のエゴで他人を好きにすることを厭わないような人のことは。
 しかし、だからこそやるせない。誰が主導かは知りませんが、革命派を騙ったのは貴方の意志ではないでしょう」
「――」
 茄子子の言葉に、ペレダーチア団長の表情が一瞬だけ固まる。
「私、誰かに命じられた事を従順にこなす人って嫌いなんですよね。
 すいません、前言撤回します。貴方、つまらないです」
 鋭く、そして冷たく見据える茄子子。
 ジョージとイグナートは改造リーナと格闘し、そこへイナリが斬りかかる。
 戦闘の様子は、こちらが優勢。
「ファッションセンスパないって! こんなのマジリスペクトだって! それどこの店で買ったのー?」
 秋奈が軽口をたたきながら飛び込み、それを邪魔しようと割り込んだ改造クラウンが体当たりを仕掛ける。
 空中で激突する二人をフォローすべく、マリアが飛び込みボール状に身体をまるめたクラウンを紅蓮の雷撃をまとい蹴り飛ばした。
「ごめんよ――」
 もうこの状態になってしまえば、生かして回収することはできないだろう。このままずっと苦しめるなら、楽にしてあげたほうがずっといい。
「貴様ら! 子供を狙って恥ずかしくないのか! 生きてここから帰れると思うなよ!」
「ふふふ、殺すのですか? はたして私たちを殺しきれるのでしょうか?」
「やってみせるさ! ヴァリューシャ!」
 マリアが叫ぶと、ヴァレーリヤが開かれた道を突っ切って団長へと迫る。燃え上がるメイスが、団長の頭部めがけて――。
「やめろ!」
 横からベスティエが割り込んできた。鞭をかざしヴァレーリヤの打撃を防御するが、しきれなかった衝撃が彼の肩を破壊する。
「ぐう!?」
 歯を食いしばり、下がるベスティエ。
「おやおや、これはいけません。君が死んでしまっては誰がアニマールを制御するのです」
 よろめくベスティエを腕に抱え、ペレダーチア団長は空飛ぶ円盤ハウニヴVへと飛び乗った。
「待ちなさい!」
 リア、そしてソアが走り出す。跳躍し、聖なる力を込めた剣と雷撃を纏ったソアのタイガーハンドが迫る――が、それを邪魔するように改造グラニットが炎を浴びせかける。
 二人をまとめて覆ってしまえるほどの巨大な、そして物理的な衝撃すら走るような炎だ。
 咄嗟に振り返り、剣を翳し防御しながらも霊水の効果を発動させ炎に耐えるリア。
 ソアは彼女をフックにして方向転換すると、改造グラニットに強烈なパンチを叩き込んだ。
 振り返れば、秋奈たちは改造クラウンを、イグナートたちは改造リーナを、ガイアドニスたちは改造フィゴーレをそれぞれ倒したところだった。
「今日のゲームは実に素晴らしいものでした。子供達の未来が守られたことに、わたくし感涙しております!」
 水道の蛇口でもひねったかのように、乱暴に目から水をだらだらとながしてみせるペレダーチア団長。
 それをこともなく止め、にっこりと笑う。
「約束通りこの拠点は差し上げましょう! これにて我々大回転事業サーカス団の興行は閉幕となります!
 またおあいする日まで、ごきげんよう!」
 飛行し追いかけようとするマリア……その腕を、ヴァレーリヤががしりと掴んで止めた。
「まってマリィ、一人では危険ですわ!」
 なかなかに手強い改造人間がここまで放出されたのだ。空中戦力が団長ひとりだけだと考えるのは危険だろう。
 その意見にはジョージも賛成だったようだ。飛行しようと構え、そしてそれをやめる。
「子供達は助けた。シェルターの状況報告も入ってくる頃だろう。まずはあの子達を保護しなくては」
「革命派の難民キャンプに、つれていきましょう……」
 うつむいて言うガイアドニスに、皆それぞれ頷きを返す。
「必ず――」
 かならずあの狂った団長の顔面を吹き飛ばし、二度とこのような狂気のサーカスを起こせないようにしてやらなければならない。
 皆の間には、そんな決意とも怒りともとれるものが、言葉にせずともあったのだった。

成否

成功

MVP

ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

状態異常

なし

あとがき

 施設の解放と、子供達の救出に成功しました。
 獲得した施設は革命派のスタッフによる清掃が行われ、拠点のひとつとして補強、運用されます。

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