鉄帝内の喧噪に紛れるように、囚人達は身を隠す。
　片や大量殺人犯、片やただのスリ。暴力沙汰を起こした者から、生き延びるために仕方が無く強奪を行なった者まで多種多様である。
　そうした者達は恩赦を受けて釈放された。しかも、冬を目前に控えてである。
　当然、私財を隠していた者達は其れ等を回収して余裕綽々、さっさと鉄帝から逃れることだろう。
　幻想王国を始め、聖教国ネメシスにラサ傭兵商会連合。遙々、国を跨ぎネオ・フロンティア海洋王国まで訪れる者も居た。
　全てがシステム管理されたセフィロトには腰が退け、迷宮森林を有するアルティオ＝エルムや航海を必須とする豊穣郷カムイグラにまでは脚を伸ばす者はそうは居ないだろう。
　しかしそれは高飛びするだけの財産を有している場合である。
　釈放されたは良いが食い扶持を稼げない者達は来たる『真白の恐怖』に怯えるばかりだ。
　現状の鉄帝国では難民として民に紛れることが出来たとて、彼等の望むような自由は存在しないだろう。
　そんな彼等の元に天の恵みが齎された。
　それは『自分たちにも懸けられている懸賞金』と同等の指名手配書だ。
　囚人達への指名手配書を発行したのは帝政派閥――つまりは宰相バイル・バイオンである。
　バイル・バイオンの指名手配書と同じように『新皇帝派閥』はイレギュラーズへと多額の懸賞金を懸けた。

「おい、聞いたか？　『雷光殲姫』の懸賞金」
「ああ、猛虎らしく13,500,000Gだろ！」
　マリア・レイシス（p3p006685）の写真と名前の書かれた指名手配書を手にしていた囚人達が声を荒げた。
「いつも一緒に居て、猛虎が猫になる相手……クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭もかなりの額だ」
「ヴァレーリヤだったか」
　ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ（p3p001837）には10,980,000Gの懸賞金が懸けられている。
　囚人は「オリーブ・ローレルって知ってるか？　ロングソードを使うヤツだ！」とその名を読み上げた。
　鉄帝国出身の鉄騎種であるオリーブ・ローレル（p3p004352）にも12,300,000Gの懸賞金が懸けられていた。
　それだけではない。拳闘士であるイグナート・エゴロヴィチ・レスキン（p3p002377）には8,730,000Gが。
　エッダ・フロールリジ（p3p006270）ことエーデルガルト・フロールリジには『イレギュラーズ』として8,260,000Gの懸賞金が懸けられていた。
「イレギュラーズ狩りか」
「何せ新皇帝派は『イレギュラーズを狩るなら』懸賞金と天衝種（バケモノ）の貸し出しもしてくれるんだろ？
　……さっさと金を稼いで南国に逃げる資金にしようぜ。『脱獄王』達も動いてるって噂だしな」
　無数の手配書を束ねて持っていた囚人の唇が吊り上がった。
　イレギュラーズを『狩る』のは骨が折れる。相手がどれ程の強者であるのかを認識できないほど彼等も馬鹿ではない。
「狙い目は？」
「ラド・バウのアイドル――『パルス・パッション』はどうだ？」
　パルス・パッション (p3n000070)の手配書を手にしていた囚人は「イレギュラーズがラド・バウに居るからって油断してるだろう」と囁いた。
「流石にビッツから上は狙いにくい。なら、あのガキンチョは」
「ああ。リーヌシュカか。ヤツは今どこに居るんだろうな……。眼鏡は南部戦線らしいぞ。ゴリラを狩るのもありかもしれない」
「ラド・バウの幽霊とウォンバットは別の懸賞金が掛かってるらしいぜ」
「それから、右大胸筋と……僧帽筋？　なんだこれは」
　名だたるラド・バウ闘士たちにも懸賞金は懸けられている。
　新皇帝派は囚人にイレギュラーズや敵対する対象勢力の力を削がせることを目的にしているのだろう。
　何時仕掛けるか――そればかりが囚人達の話題になる。
　大規模に仕掛けるタイミングは『統一されていた方が良い』。何せ、高額の懸賞金だ。山分けで十分ではないか。
「『脱獄王』が声を掛けてるらしいな」
「そのタイミングで一人でも殺せば冬を越せる」
　練達の予測で今冬は一段と厳しい寒さが訪れるとされている。
　耐えきれぬ極寒。真白の恐怖。
　生き延びるために『鉄帝国の正義の味方』達を殺さねばならないのだ――！

※鉄帝国で妙な動きが見えているようです……！

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