PandoraPartyProject

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鉄の国のファントムナイト

　――あなたのなりたいものはなぁに？

『司祭』アミナは夢見るように目を伏せる。今年もファントムナイトがやって来た。
　私がなりたいのは『聖女』様。あの日、耳にした呼び声は頭の中身までもを酷くかき混ぜだ。
　けれど、あの時に実感したのだ。
　人は奪わねば生きられない。家畜の命を食らって生きている。食物の命を食らって生きている。
　だからこそ、彼等に恥じぬように、誰かを助ける人になりたい。
　刃を携えたのは一時のみ。その先に輝く未来が待っている！
　そうでしょう、『聖女』様――革命に、犠牲は付き物だ！

「……収穫祭、ですか」
　革命派からの提案を耳にして『ギュルヴィ』は「はあ」と気の抜けた声を出した。
『アラクラン』が本拠として使用している帝都のさる場所で男はテーブルに頬杖を付いたまま目の前に立っている『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラングを見詰める。表情を変えず、自身が可笑しな事を言った事にも気付かない女はギュルヴィの反応に首を傾ぐだけだ。
「ウォンブラング嫗はギュルヴィ様の予想を大きく越えて行かれますね。そうですか、イレギュラーズとの収穫祭……」
　呟いたのはローズルと呼ばれている元鉄帝国の外交官の青年であった。ギュルヴィの背後に立っていたローズルはやや頭を悩ませたであろう己の『上官』を愉快そうに見守っている。
「彼等が共に収穫祭を行なうのだそうです。おばあちゃんにもお歌を教えて下さると言って居ました。
　そこで、ギュルヴィにも是非と。ローズル、貴方もご一緒しましょう。ウォンブラングでは冬が来る前に夜通しの宴を行ない無事を祈ったものです」
「ああ……ウォンブラング嫗は『故郷』と重ねたのですね」
　イレギュラーズのことを故郷の村の子供達と重ねて認識している。此度の宴も故郷の出来事と重なったのか。
　冷静に見えて女の中枢は狂っている。彼女の故郷ウォンブラングの子供達とイレギュラーズを重ねているからこそ、何の疑問もなく共に収穫祭を行なうことを提案しに来たのだろう。
「ウォンブラング嫗は彼等にとっての仲間でしょうがギュルヴィ様は……」
「ええ。私の顔を見たことがある者は『本来の名』を呼び、私に刃を突きつけるでしょうね。
　今の現状では私はあくまでも革命派の『アラクラン』、その総裁のギュルヴィですが」
　革命派が軍事的に強化された理由もアラクランの協力のお陰だ。『司祭』アミナは彼等を信用しきっている。下手に刃を交えることは得策ではないだろう。
「……良いでしょう。アミナの様子も確認しなくてはなりません。
　ブリギット、良い返事を返して下さい。『仲良く』しましょう、とね」
　村の愛おしい子供達――そう認識しているイレギュラーズ達だ――との収穫祭を楽しみにしていた女は喜びに頬を染め頷いた。

　――一方、ラド・バウでも日常を謳歌するべくファントムナイトのイベントが提案されていた。
「どう、する？」
　囁いたのは『斬鉄』スースラ・スークである。「どうって」と返した『Sクラスの番人』 ビッツ・ビネガー （p3n000095）は現状のラド・バウを思い浮かべて嘆息した。
「囚人の襲来はまだ続くわね。けれど、逆に『ザコ』はイベントを開けば逃げるんじゃないかしら？」
「イベントが行なわれているところに強者は襲来しないだろう」
「ええ。アタシ達より人数が揃ってるイレギュラーズの方が恐ろしいでしょうしね。相手を怯ませることも出来るし、イベントを楽しむことも出来るわ。
　ラド・バウはまだまだ力を有して余裕だとアピールできるもの。イベント、開きましょう」
　彼等の相談を経てから、『アイドル闘士』 パルス・パッション （p3n000070）は可愛らしい仮装に身を包んでイレギュラーズを待っていた。
「皆ー！　こっちこっち。ふふー、折角だからイベント当日用のチラシも作ったんだ。ボクのお手製だよ！
　スースラとシェラにも手伝って貰ったんだけどね。あ、フェールは『わかんない～』って逃げちゃって」
　頬を膨らませるパルスの傍らでは備品をチェックしているラド・バウの元闘士にして整備担当者のスースラの姿が見える。
　闘技場を可愛らしく飾り付けたのは避難民の子供達なのだという。共にそうした準備を手伝ったのはエリアス・ティーネ・マイセン。此方も元ラド・バウ闘士であり現在は外交官を務めている女性だ。
「娘が子供だった頃を思い出したわ。楽しいイベントになるといいわね」
「な、なると思います。エキシビションマッチもするんですよね……？　か、飾り、壊さないでしょうか！？（緊張していますの意）」
　不安げに身を縮める『黒き魔導』シェラ・シィラ。魔力の扱いが超絶下手クソなラド・バウファイターは不安げにエリアスの服をつんつんと摘まんだ。
「壊さないように頑張りましょうね。お菓子を配るだけじゃなくって、エキシビションマッチも楽しめるなら皆喜んでくれるはずよ」
「お菓子がほしいだわさ～」
　戦うよりも菓子に目が行っているのであろう『不沈艦』フェール・フェルミネスはスースラへと手を差し伸べる。首を捻ったスースラがそっと彼女の手に掌を乗せ「違う！」と怒られている光景にエリアスとシェラが顔を見合わせた。
「あら、来てくれたのね。聞いたと思うけれどラド・バウはファントムナイトのイベントを行なうわ。
　最近は少し焦臭いけど……まあ、息抜きも必要でしょう？　何か気になることがあればアタシも相談くらいは乗るしね」
　ラド・バウのリーダーを担うことになったビッツは「ガイウスは留守よ」と唇を尖らせた。
　最強の男が留守にしている間、ビッツはラド・バウを統率しなくてはならないのだが――案外、その役目が向いていたことは幸いか。
「さ、冬が来る前の最後よ。思いっきり楽しみましょうね」
　冬と敢て告げたビッツは苦々しい表情を浮かべて見せた。

　――恐ろしいのは『真白の恐怖』。
　冬将軍が訪れる前に。細やかでも楽しい一日を。

　合い言葉は――『トリック・オア・トリート』！

※『FairyTail Of Phantom』の魔法が混沌各地に掛かりました！
　　　魔女の魔法で『なりたい姿』に変化してお祭りを楽しみましょう！
※革命派やラド・バウ派を始め各派閥でもファントムナイトのパーティーが行なわれているようです。

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