PandoraPartyProject

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ワールドコーダー

「アタシ達は、ずっと待っていたんだね。あの噴水前で」
 自動ドアが開く。ゲームセンターだろうか。耳をつくような大きな音は、閉じたドアの向こうにこもった。
 光さす路上へと出たジェック(p3x004755)は、手にしたプリントシールを見る。
 自分しか映っていないそのシールを、あえてジェックは鞄に貼り付けた。必ず上書きするために。あの子が居たことを、忘れないために。
 顔をあげると、人々はこちらをまるで気にしない様子で行き交っていた。
 場所は正義国、邪摩都。首都はワールドイーターの被害を受けていると聞くが、どうやらここまでは被害の手が及んでいないようで、やや閑散としてこそいるが邪摩都は観光地としての機能は維持されているようだった。
「奪われた世界、か」
 戦いは、人の数だけある。
 自分にも、自分の戦いがあるのだ。そして……彼女たちにも。
「ジェックさん、もう来ていたんですね」
 珠緒(p3x004426)蛍(p3x003861)が手を振ってこちらへ歩を早めた。
 待ち合わせの時間にはやや早いが、二人は先にこの街を観光していたのかもしれない。
 こんなときに? いいや、こんな時だからこそだ。
 そしてあえてここ……ROOネクスト仮想世界内でこうして落ち合ったのには、理由がある。
「待たせたな」
 すぐ近くにあったサクラメントから、一人の男性と……そしてどうみても少年のような男性がそれぞれ現れた。
 コータ(p3x000845)清水 湧汰。顔立ちは似ていて、確かに二人は兄弟だ。だが、背が小さく小学生みたに無邪気なほうが兄のコータ。そして背が高く白衣を着て疲れた大人のように眉間に皺を寄せ続けているのが弟のユータである。少し……いやかなり複雑な事情があるのだが、それは今回は割愛しよう。
「もう皆いるのかー。ゲーセンあるじゃん、遊んでいこうぜユータ!」
「馬鹿。遊びに来たんじゃない」
 湧汰はそう言うと、近くのカフェを顎で示した。
「<八界巡り>のことを調べた。結果を聞きたいんだろ」

 爽やかなカフェラウンジ。振り返れば空席が目立ち、店員の姿もない。店員は下の階に引っ込んだのだろうが、客のほうはやはり、正義国の現状を思えば無理からぬことだ。
「<八界巡り>の概要についてわざわざ説明する必要はないよな?」
 そう湧汰は前置きをした。
 <八界巡り>とは、コータたち八人のウォーカーが練達の研究機関白亜工業の実験及び研究に協力するという形で参加した一連の依頼群である。
 直接のインタビューや肉体に秘められた情報の解析を通して、あくまで主観的ながらも彼らの出身世界を仮想世界化し、その世界で特定のクエストをこなすことで情報解析を行うというものだ。
 元世界への帰還という練達の大目標にもかなう研究であり、今となっては明らかだがROOの技術研究の一環でもこれはあった。
 珠緒たちが自分たちを称する際の『R.O.O tester?』という言葉は言い得て妙だ。彼女たちが実験に参加していた『イデアの棺』というログイン装置や、現在ROOにログインする際に使われるシステムの実験を、この中で兼ねていたのだから。
「よく調べてみたが、お前達のいう『姉ヶ崎博士』とかいうヤツはいなかった。その代わり、お前達のいた実験室には外部から干渉があった痕跡が残ってる」
「それは、つまり……蛍さん」
 珠緒がちらりと蛍の顔を見た。二人は頷き合う。
「そうだね珠緒さん。私達が実験の際に出会っていた、あの『眼鏡をかけた男性』は……私達八人が見た共有幻覚だったと考えるのが正しいわ」
 七度にわたって繰り返された実験の中で、蛍たちはある博士と出会っていた。眼鏡をかけた男性であるという情報以外まるで頭に残らない彼が何者であったのかは、今となっては明らかである。実際、『存在しない第八の実験』を彼女たちはうっすらと記憶し、そしてログにすら残っているのだ。経験していない出来事や出会っていない人物の記憶が焼き付くという事例が、既に同じ場所でおきている。疑う余地はない。
 そして珠緒たち通し実験を続けるうちに現れた、『エイス』と『イデア』という存在。
 八人だけで実験をしていた筈なのに、いつの間にか十人になっていた(二人増えていた)という自体に彼女たちは当時混乱したが、彼女たちが情報の海に漂う廃棄データであったことを今は知っている。
「データはROOにコピーされ、この世界でリセット現象という形で猛威を振るっている。
 お前達も、幾度も経験したはずだ。この街だって……」
 振り返る。
 ここ邪摩都は、珠緒の出身世界を元にして作られたであろう街だ。それも二度にわたるリセットと改変を経て。
 湧汰はドンと音をたててカップをテーブルに置いた。
「オレも、関わった以上決着は付けたい。大体、俺のホログラム研究のコードだって<八界巡り>やROOに使われてるんだ。手柄を横取りされるようなマネは許せないしな」
 手柄や実績に固執する様子に、コータが何か思うような視線を向けた。
 が、それには介さない。
「ユータは、どんなことができるんだ?」
「馬鹿にするなよ。コードを書いたのはオレだって言っただろ。
 オレの書いたコードによれば、ホログラムは対象のアストラルレイヤーを読み取って実体化するんだ」
 人間がアストラル(魂)、メンタル(霊)、ボディ(身)という三つの層からなるという魔術的な考え方がある。そのうちの、アストラル(魂)である。
「そのしくみからすれば、リセット現象はアストラル体が繋がる集合的無意識に介入した何者か……お前達のいう『姉ヶ崎ーCCC』が情報を書き換え、リセットという現象を通して現実の風景や記憶を入れ替えたとみるべきだ」
 その考えに、蛍はぽつりと呟いた。
「……世界イデア論」
 世界にはもう一つ上にレイヤーがあり、肉体的に感覚している対象や世界の設計図が描かれているといったような考え方だ。本が数冊書けるほどの内容を極めて乱雑にはしょればだが。
「姉ヶ崎ーCCCがこの世界全体の管理権限を握ってるとは思えない。もしそうなら、もっと好き放題やってる筈だからな。まあ、オレとしてはどっちでもいい。
 オレはそのアストラルレイヤーへ干渉するためのコードを書ける。そのためにはこっちの世界でアストラルレイヤーを知覚、ないしは予知できる存在が必要だ。更に、何人かアストラルレイヤーに接続したヤツをポート化する必要がある」
「ぽーと? アストラルレイヤーに接続した人っていうのは、どういうふうに探すの?」
 それまでクリームたっぷりのアイスコーヒーをちゅるちゅるしていたジェックが声を上げた。
 顔をしかめる湧汰。
「お前達ももう何人か確保してるだろ。『リセットされる前の記憶を持ってる人間たち』だよ」

悪夢と絶望の魔法少女

「sinエネルギーっていうのはね? アストラルレイヤーから流れ込む罪の力なんだよ」
 石壁の上に腰掛け、チョコレートドーナツを囓る少女がいた。
 壁の上には商店街があり、その横には海が広がっている。海の中には公園と図書館と砂漠があり、巨大名石像や自動車がはみ出ていた。
 ここはアストラルレイヤー。情報の海。
 全てのものが複雑な規則によって混ざり合い、常人では読み解くこともできない魂の記憶領域。
「罪。要は原罪。混沌世界のイノリちゃん? の力だよね」
 世界が歪んだ原因にして、世界の悪。空中をくるくると泳いでいた八田 sinは『ですよねー』と言って、ひとりの少年へと振り返った。
「私達から教えられるのはこれで全部です。どうです? 他人に人生ごと作られちゃった感想は」
「……」
 少年は手をかざした。
 そのそばにつき、祈る姿勢をとった女性が光の粒子へと変わり、光は聖なる星の剣へと変わった。
 星剣セラ。それが剣の銘である。
 少年は剣を掴むと、空間を真一文字に斬り付けた。
 切り裂かれた部分から表層世界が見える。それを広げ、彼は……イデアは歩き出した。
「なんでもいい。死んだ殺したはもうたくさんだ」
 ドーナツの最後のかけらを口に放り込んだ少女――『天国篇第九天 原動天の徒』セララはにぱっと笑った。隣で、八田 sinが肩をすくめる。
 なぜなら、イデアの魂からは魔の気配。反転した者特有の気配があふれ出ていたからだ。
「姉ヶ崎-CCCは俺が守る。邪魔するヤツも、邪魔するであろうヤツも……全員俺が消してやる」

 星剣セラを握りしめた少年……勇者イデアが表層世界、正義国邪摩都。
 塔を中心とした観光地だ。
 ワールドイーターによる被害が直接覆ってこそいないものの、観光客の姿はひどく少ない。
 彼を囲むのは観光客ではなく、武装した兵たちだ。
 当然だ。魔の気配を惜しげも無くばらまきながら、剣を握って現れたのだから。
「貴様、どこから出てきた……?」
「なんでもいい。早くその物騒なものをしまって――」
「そこをどけ」
 剣を一振りした。
 七色の光がはしり、兵たちをまとめてなぎ払っていく。
 イデアは彼らを酷く冷めた目で見ていた。
「どうせ、偽りの人生、偽りの世界だ。なくなっても同じだろう?
 なら……俺たちにくれよ」
 幾度も死んで、幾度も壊した。
「どうせこの世界に残す価値なんて……」
 そこまで言ったところで、イデアはずきりと激しい痛みに頭を抑えた。
 思い浮かぶ、いくつもの顔。約束。友情。青春の一ページ。
 だがそれを、脳内の映像にかぶさるように現れたセララが黒板消しのようなもので消していく。
 真っ白に消し去られた記憶の中に、ぽとりと黒いインクが垂らされた。
 それは憎しみと怒りのインクだった。
「そうだ、残す価値なんてない。俺たちを受け入れない、こんな世界には……!」

 剣を振りかざし叫ぶイデアを、『天国篇第九天 原動天の徒』セララは空高くから見下ろしていた。
「うーんやってるやってる。頑張ってね、この世界の記録は滅茶苦茶に壊しちゃおうね!
 なんたってボクは魔法少女! 悪夢と絶望を人々に届けるのだー!」

 ――最後の戦いが、始まろうとしています……

これまでの再現性東京 / R.O.O

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