PandoraPartyProject
森の安寧の為に
――余所者を追い出せ!
――自然を傷つける者を許すな!!
翡翠の国ではそんな声が日増しに高まっている。元々排他的な傾向が強い幻想種達だ……なにか大きな出来事があれば容易くこういった事態になるのは想像されていた事もあったのだが、現実となるとは。
「いや~~やっぱり完全封鎖はちょっと、やばいのでは!!?」
しかし一方で全ての民が封鎖に大賛成――という訳でもない。
穏健派と言える穏やかな者もいるし、外の者を無差別に追い出そうとするのは如何なものか……と、あくまで実際に自然を傷つけた者だけにすべきだとする慎重的な意見もある。
その一人とも言える愛の妖精ラブリーザントマンは最後の諫言とばかりに、翡翠の巫女――つまり翡翠の長とも言えるリュミエ・フル・フォーレへ言を紡いでいた。愛と正義の商人を目指すザントマンにとっては、外との扉を閉めるのは反対であり。
「無駄です。というよりも、世論も『こう』なのですから。
今更やはり中止などとすれば、今度はあの矛先がこちらにも向きましょう」
「むっ……それは……」
しかしリュミエは耳を貸さぬ――というよりももう貸せないと言うべきだろうか。
先述の通り穏健派がいない訳ではない、が。大勢は既に鎖国に向いているのだ。
今更に覆せようものか。
それに自然を傷つけられているのは事実である。
『大樹の嘆き』という断末魔の叫びがあちこちに生じているのも――事実である。
「何。状況に変化があればまた外への門出を開く事もありましょう」
「それは幻想種の感覚だと何年先の話ですぞ?」
「さて――ああ、そうえいばカノンが探していましたよ。また何かしましたか?」
ひぇ……と述べて縮こまり震えだすザントマン。
こうも扱いが酷いのは現実の報いかな……? まぁそれはともかく。
「――リュミエ様。少し、宜しいでしょうか?」
扉をノック。言葉を紡いだのは――少女の声。
「おや。アレクシアさんですか、どうしました?」
「はい。実は石花病の件で……あの、ラブリーザントマンさんはどうして隅で震えて?」
「私の事は放っておいてくださいですぞ~!」
それはアレクシア・レッドモンド――R.O.Oのアレクシア・アトリー・アバークロンビーであり、石花病と呼ばれる奇病の研究を行っているファルカウの神官だ。様子のおかしいザントマンの様子に首を傾げつつも、視線は巫女たるリュミエの方へ。
「試薬ですが、完成しました……名前は『希望の蒼穹』です」
「――そうですか。これが」
その手に抱かれているのは――一つの試薬。
先述した石花病の薬になる……かもしれないモノである。断定できぬのは当然『試薬』だからだ。これより数を試し、精度を高め、より純度の高い薬として完成させねばならない――ただ。
「薬の原料となるのは翡翠でしか採れないので、まだ数は多くありませんが……」
「いえ。希望が見えれば十分でしょう。
今までは……ただ、崩れ咲いていくのを見ているしかできなかったのですから……
本当に、感謝申し上げます。後の事は国を閉じてから、ですね」
ただ。大量生産する為には課題がある――それが昨今の自然荒らしだ。
森が『恐れ』を抱いており中々に森に簡単には踏み出せない状況である……精霊も魔物も気が立っており、大樹を傷つける不審者もいるとなれば薬草の採取も……
「……森に平和は訪れるでしょうか」
しかし。アレクシア・レッドモンドにもまた不安はあった。
そもそも我々の愛すべき森に、また平穏は戻るのだろうか……と。
「『余所者』の姿を皆が見たと言っています。彼らが各地で大樹を傷つけていると――」
「ええ。しかし、国境を封鎖すれば彼らに逃げ道はなくなります。内部に残っているのなら、やがて捕らえる事も叶いましょう。平和はきっと、そう遠くはありませんよ」
「……はい。そうです、よね」
微笑むリュミエ。その表情には同胞に向ける温かさがあった――
そうだ。まずは同胞を救う事こそが先決……翡翠は翡翠独自の文化で生きており、皆それを害してほしくないだけなのだから。先日出逢った『余所者』達がどうであれ――まずは翡翠の安寧をこそ。
……自然を傷つける『余所者』がいる以上。外は信用できないのだから。
「しかし石花病と言えば、外の国でも発生していると聞きますが……やっぱり外との交渉口は閉ざさず、協力し合うのが良いのでは! ほら、そうすればもっと多くの者が助けられるかもしれませんし……!」
「くどいですよ。その事を踏まえた上で――私も決断しているのです」
では、という様にザントマンが再び口を開くも、リュミエに一蹴される。
何を言おうがもう変わらない。何が起ころうが、変更はないのだ。
――この国は、閉じる。
「大樹の為。木々の為。ファルカウに住まう全ての者の為に――」
全てを、拒絶しよう……
※翡翠の鎖国段階が最終段階となっている様です……
これまでの再現性東京 / R.O.O
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