PandoraPartyProject

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帝都星読キネマ譚:日出ズル

 ヒイズルは高天京壱号映画館
 夜妖(ヨル)の観測を行っていた渾天儀【星読幻灯機】――ほしよみキネマは今宵もからりからりと軽妙な音を立てて。
 現実世界(アバター)の月ヶ瀬 庚は目を凝らす。
 希望ヶ浜に黄龍の幻影が見られた事も気がかりであるが、ほしよみキネマが観測し続ける未来予知は『イベントの進行』を示しているかの様で目を離すことが出来なかった。

 其れは何処かの屋敷だろう。西洋作りの屋敷でチェアに深く腰掛けて居たのは件の神霊、黄龍である。
「して――豊底の具合はどうじゃ。大方、躾のなっていない子にちょっかいを掛けられて参って居るであろうが……」
「こら、黄龍。その様なことは申すべきではありません。稚児は学び、成長して往くもの。
 遮那も長命なる八百万としては貴族となって日が浅い……当事者たる姫が一度のお手付き程度ならば許すと申していたでしょう?」
 その傍らで甘味を口に含んでいた神霊――黄泉津瑞神は困り顔で肩を竦める。
 どうにも、黄龍は血の気が多い。滝倉の巫女も黄龍が「豊底の事を口にする度にお怒りで」と困り顔で瑞神に愚痴る事が多くなったのだ。
「しかし、豊底――国産みの姫は我らが母ぞ。父上をお祭りする日出神社とて月(よる)に汚されておるではないか。
 ……ああ、それも全ては彼女を禍ツ神などと宣うた遮那が悪いではあるまいか。灸を据えてやらねばならぬ。長胤は?」
「長胤も困り果てておりますでしょう。それに、これ以上の狼藉は我らも許してはおけません。
 いざとならば――分かっておりますね? 賀澄」
 瑞の呼び掛けに、ゆっくりと顔を上げた『霞帝』今園 賀澄は「ああ」と頷いた。諦星の安定した治政は神々との調和で齎されているのだ。
 天香遮那の行いが神霊を害する可能性がある事を賀澄は十分に理解していた。
「……出来れば俺とて遮那を斬りたくはない。だが、この諦星の世は――神咒曙光の民は俺にとっての宝だ。この地の安寧秩序を乱すと言うならば……俺は――」
「賀澄殿、余り無理をなさりますな。……遮那を斬るなどと……」
 賀澄を労るように『中務卿』建葉 晴明は苦しげに呻いた。その様なことを心優しき霞帝が口にするなど考えてもみなかったとでも言うように。
 鬼人種である彼にとって、賀澄は正しく神の使いである。
 鬼人種とは迫害され続ける立場であった。掃いて捨てても構いやしないとさえ考えられた種の壁を壊して共存を唱えた異界の人。
 見ず知らずの異種族にまで心を砕いた彼が、親友(きょうだい)の義弟を斬り捨てる事を良しとするわけがないのだ。
「いや、我ら神咒曙光は、神霊と共に或る国だ。それを悪戯に害し、間違った思想で民を先導するならば。俺は……」
「ならば、差し向けますか? 神使を――」
「……彼等も遮那とは既知であろう? 俺は、彼等の心にその様な傷を刻みつけたくはないのだ」
 ならば、自分だけで良いと賀澄はそう囁いた。

 ――映写機が動きを止める。
 庚は傍らで暗い顔をしていた『巫女』そそぎに「豊底、というのは知っていますか」と問い掛ける。
「……知っている、も何も……『豊底比売』は――おひぃ様は『高天大社』の主祭神様で……」
「私達にとっては、尊ぶべきお方です」
 つづりは淡々と告げた。庚は「豊底……建国――日出建子命……」と呟く。
「いえ、今は考えている暇はありません。神咒曙光におけるイレギュラーズは陰陽寮の所属。
 天香遮那の動向を別にせよ、此の儘では霞帝らの兵となる。……至急対策を講じなくては」

 システムメッセージ
 Misao_Saeki : 私が策を講じよう。一度ログアウトをして貰えるだろうか。情報の整理も必要だ。


「……構いませんが。どうなさいますか?」

 システムメッセージ
 Misao_Saeki : 天香遮那の動向次第で其方のシステムに介入する。神使(イレギュラーズ)の立場を何とかして中央政府より切り離そう。


「ええ。一先ずは天香遮那の動向次第。……彼を追った神使のクエスト結果を解析してから、ですね」

 不安げな顔をした双子巫女は俯いた。遮那は夜妖に憑かれているというそそぎの分析は果たして正解だったのだろうか――

 ※R.O.Oの神光(ヒイズル)で動きが見られている様です――

これまでの再現性東京 / R.O.O

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