PandoraPartyProject

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アスク・クリア会談

アスク・クリア会談

 ロスフェルド財閥の拠点が一つアクス・クリア――
 混沌各地に事業を展開しているロスフェルド財閥関連の船などが多く訪れ、物資流通の拠点ともなっている地……その一角にて行われていたのはレアンカルナシオンという組織の調査依頼だ。
 ウォーカーを狙う組織。
 ローレットの者も被害に遭った事があり、幾度か衝突した事もある。
 調査の末にかの組織の拠点がこのアクス・クリアの内部にある目算が高いと思われ――そして――

「――さてまずは改めて名乗ろうか。
 私はレアンカルナシオンの長、ミハイル・クリストフェルクだ」

 眼前。幾人かのイレギュラーズ達の前にいるのは組織の頭領を名乗る人物だった。
 ミハイル・クリストフェルク。
 その表情は穏やかであり、微笑んでいる様である。
 イレギュラーズ達に対して敵対的な印象もない……が。
「成程。これはご丁寧に……貴方様の組織には幾たびかお世話になった次第でして。
 ええ――そこの青い髪の方にも何度か」
 決して油断は出来ぬとリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は理解している。
 彼らは組織の活動として幾度かイレギュラーズと衝突した事もあるし、最近ではラサの色宝にまつわる一連の事件……特にホルスの子供達が出現した後にも影で暗躍していた者達だ。
 色々な意味を込めて『世話になった』と。
 紡げば青い髪の――エドガーバッハと言う女性は『しーらね』とばかりに余所を向いて。
「お招きいただきありがとうございます……なんて言葉を期待してる訳でもねーんだろ?
 早く言えよ。俺達を此処に呼んだ『対話』とやらの核心はなんだよ」
 続く言葉は晋 飛(p3p008588)だ。

「ふむ、そうだな……まず君達は、今この世の中は実に危機に瀕していると思わないか?」

 はっ? 
「――魔種だよ。昔は伝説上の存在ともされていたが、近年では魔種の暗躍が著しい。
 幻想を騒がせたサーカス事件。天義を揺るがせた強欲冠位事件。海洋の大号令の裏で脅威的な妨害をしていた嫉妬冠位。最近発見された豊穣国家、ラサに深緑にあれやそれ……どこかに必ず奴らが絡んでいると言ってもいい。下手をすれば国家が滅んでいた事件もあったかもしれない」
「そうかもな――だが、それが?」
「つまり、魔種は一刻も早く滅ぼさなければこの世界の方が滅びに満ちる方が早いかもしれないという事だ」
 ミハイルの言う事は分からない訳ではない。
 特に天義を襲った強欲冠位の一件は特に顕著だったと言えるだろう。
 あれは国家存亡の危機に瀕していた。
 結果だけを言えば冠位は破れ、天義は存続し、良い方向に国は向かっていると言えるが……
「しかしまだだ。あれだけの力を秘めた七罪の頂点者達はまだ残っている。
 いつまたあれと同様の事件が発生してもおかしくないんだよ」
「……それで? 対抗するために過去の連中を蘇らせてるとでも?」
「かなり近いな。そうだよ、今こそ人類は結集して魔種達に戦いを挑む時期だ。
 その為にはあらゆる力が必要だ――過去に名を残す程の達人なんて特にね」
「ふむ。しかし分かりませんなぁ……そもそもどうやって過去の方々を復活なんてさせてるので?」
 言うは藪蛇 華魂(p3p009350)だ。
「君は地下にいたね。地下にあったモノを見ただろう?」
「ええ。あの地下にあった肉塊ですね? 小生が見た所、実によく人の身に……そうまるで死体の様にも見えましたが、しかし違いますな。あれは元からそういう風に作っているだけの『虚無』とも言うべきただの塊でしょう」
「そう。あれは只の『器』の一つだよ。
 我々の技術……まぁ実際は違うのだが、分かりやすく言うと『死者蘇生』の為のね」
「魂はどこから?」
「魂ではないね。入るのは『記憶』だ」
 ほう。と華魂が目を細めれば。
 ミハイルは語る。この世にはあらゆる記憶概念を保持する『アカシックレコード』があると。
「……君達は『地脈の記憶』という実にリアルな過去体験をしたことはないかな?
 もしくは別の何かでも……ともかく、あれらこそがアカシックレコードの一端だと私は睨んでいる。
 そしてあの地脈の記憶に干渉し、それを張り付けたのが――」
 そこにいるエドガーバッハだと。
 大地が。
 自然が。
 覚えているのだ――彼らの軌跡を。
 それをなぞる。あれには当時の者達の記憶らしきものも保管されているから。
 それらを――そのままゴーレムに転写する。
「無論この方法は月光人形やホルスの子供達と異なり、全ての人物に適用できるわけではない。アカシックレコードに分かりやすく多く情報が記載され、サルベージしやすい『歴史に名を残している者』ぐらいだ」
「ははぁ――それでですか。貴方の組織に妙に『名前が記されし者』がいたのは」
「そう。それに記憶が体に入り込みやすいように、生前の身体とかなり近しい物を用意する必要がある」
 アルハンドラ、エドガーバッハ、カーバック――
 それぞれ立場は異なれどある程度名を残している者達だ。
 だがそれは正確ではなく、そういった者でなければサルベージ出来なかったが故の産物。
 それがレアンカルナシオンに属する幹部らの――正体。
(……おや? しかしそれにしては……)
 と、疑問を抱いたのはリュティスだ。
 件のエドガーバッハ――確か海洋の情報に残っている上では『男』だった筈だが。
 ……先程の『生前の身体とかなり近しい物』と随分矛盾が発生するような。
「嘘を言っている訳ではないよ。
 ああ。記憶の転写にはね、もう一つ別の条件を用意出来ればクリアできる。
 それは――『同じ遺伝子』を持つ者、だ」
 と、その時。
 リュティスの疑問を察したのかミハイルが先に言葉を述べた。
 同じ遺伝子を――持つ者の体なら――? つまり、それは。

「……子孫の身体をサルベージ先に使っているのですか」

 エドガーバッハの身体は、その女性の身体は。
 彼の子孫の女性のモノ――?
「それは同意があっての事ですか?」
「ふふっ、どちらだと思うかね?」
 相変わらず笑みを崩さぬミハイル。
 今――元の意識がどういう状態なのかは分からない。しかしエドガーバッハを見るに、元の女性の意識が表層に出てきている事は無いように見受けられる。消えたか、一時的に抑えられているだけか、それとも……
「だが。そいつらを復活させて狙ってんのは旅人の襲撃じゃねーか」
「そこにも幾つか理由はあるのだが――まぁ一番の理由を述べるとね、ただの言い訳だ」
「誰に対しての」
「他の魔種共」
 思わずアッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の眉が顰められた――
 いや、なんとなし予測はしていたが。
「勘のいい諸君らはお気づきだろうが――私は魔種だ」
「魔種が魔種の殲滅を目論んでいる……と?」
「そうだ。世界を滅ぼそうとする奴らは危険極まりない……しかし――アカシックレコードへの干渉と、そして君達イレギュラーズの活躍を耳にして私は希望を見た!」
 それは傲慢な程の夢物語。心の底から語る、現実に見ている夢幻。
「諸君らと、そして世界が今こそ一つになれば必ず魔種に打ち勝てる!
 いやそうすべきなのだ! 奴らが大規模な行動を開始する前に――
 今こそ世界は一つとなり、奴らへの反抗作戦を始める時!」
「世界を……一つに?」
「そう! そもそも魔種達の暗躍により大規模な被害も出ている昨今、国ごとに別れて魔種に対応するというのは非効率的だろう。今こそ世界は一つの塊となる『世界政府』を作り上げるべきだ!!」
 段々と。
 まるで演説でもするかの様に彼の声色が上がっていく。
 その端々から感じられるのは正に『傲慢』とも言うべき程の漲る自信だ。
 我々なら出来る――必ずできる――
 夢を叶える事がと。
 ……しかし。
「そう! 世界平和の為に神に集められしイレギュラーズと我々はきっと協力できる。魔種という癌共打倒の為に……そうは思わないか?」
「完璧ですね。あまりに荒唐無稽な夢物語であるという事を除けば」
 そんな事はあり得ないのだと華魂は笑みを。
 世界が一つだのなんだのと、そんな簡単な事ではなかろう。
 そんな事が出来るのであればとうの昔に人類は一つになっているし……成すにしても世界を纏められるような人材たちが必要なはずだ。
 だからお前の言っている事は夢物語だけの夢想なのだ――と。
「ははは。そういう訳でもないのだが……それなら、そうだな
 一つ。君達に私の『確信』の情報を渡そう――
 今幻想を騒がせている内の、スラン・ロウの事件を知っているかな?」
「どうしてその事を――いえ、今更問うても無駄ですね。それが?」
「王族しか開けない扉を開いたのは誰だと思う?」
 イレギュラーズはともあれ、一応表向きには伏せられているレガリア消失事件を何故、とリュティスは思考するが。
 それよりもミハイルの言葉の方が気に掛った。
 現国王フォルデルマン三世でないのなら。
「王族の血脈がどこか別にあると――思うべきではないかな?」
「――」
「王族にしか開かれない扉が、フォルデルマン三世以外によって開かれた……そう。もう分かるだろう! この世にはあるのだよ――勇者アイオンの血脈が!! フォルデルマン三世以外に!」
 それを手に入れているのがかの騒ぎの黒幕であると。
 そしてソレを手に入れる事が出来れば――

「我々は勇者アイオンを復活させる事が出来る。そして彼の声明によって魔種打倒の正当性を唱え、世界を一つにまとめるのだ。軟弱な放蕩王ではなく、かの英雄こそが再び幻想王国を収めるにふさわしいと――思わないかね?」

 本当だろうか。奴の言っている事は。
 『勇者王の血脈』に相当する人物が実在するか?
 しかし実在すればスラン・ロウのレガリア消失事件には説明がつく。
 王族の者が他に実在しているのなら……レガリアを盗むのもそう難しくもないだろう。
 本当に実在しているなら。
「――それは誰?」
「見当は付いているが、さて。協力体制を確立してもいないのにそこまで話すのも、ね。だがそういった鍵を前から持っていたのであれば、レガリアを盗む事件はもっと早く行われていた筈だ」
 されどあの事件は比較的最近起こった。
 なぜ?
 どうして最近でなければいけなかったのだ?
 もしや鍵を手に入れたのは――つい最近の話なのでは――?
 そして幻想を襲う魔物事件の近くであった何かしらの事件と言えば……
「……大奴隷市」
 思考を巡らせた先。アッシュが辿り着いたのは一つの単語。
 そこで鍵を手に入れた者がいる――?
 あの事件はたしか――幻想の貴族も幾つか関わっていた筈だが、まさか――
「まぁ後はゆっくりと考えてみてくれ。
 フィンブルの春と称された国王陛下殿の催しも、そろそろだろう?」
 其処まで述べて、ミハイルは対話を一時中断せんとばかりに言葉を紡ぎ。
「それとも。魔種の戯言であると、ここで私と一戦交えてみるかね?」
「少なくともこの場で争うのは得策ではない様には思えますね」
「だろうな。私の言を否定するも、肯定するも……それは今この場ではあるまい」
 元々レアンカルナシオンと繋がりがあるかの調査依頼で訪れたのだ。魔種であると名乗ったミハイルを含め――未知数だらけのこの場で戦う事はあまりにも不確定要素が多い。幸い、向こうも争う気はないのであれば。

「なに。また近い内に君達とは会う事になるだろう――
 その時、分かり合えたらいいなと私は願っているよ」

 この場はこのまま互いに退こう。
 いつか来る――再びの邂逅の場までは。

これまでのリーグルの唄 / 再現性東京 / R.O.O

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