PandoraPartyProject

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ブレイブメダリオンパレード

 薄暗い通路に、足音がひとつ。
 扉を前に、金髪の老紳士が立っていた。言葉は交わさず、ただ頷き、そして扉に手をかける。
 開かれた、その先の光には――。

「新世代勇者――シラスの誕生であるッ!!」

『竜剣』シラス(p3p004421)

 楽団によるマーチの演奏と七色の紙吹雪。
 ステージに現れたシラス(p3p004421)に、観客達は盛大な拍手を送った。
 観客の顔ぶれは実に豊かだ。
 まず最前列に貴族。フィッツバルディ派閥の貴族が多いが、広く見渡せば派閥問わず多くの貴族が観覧し、王をはじめとするVIP席には三大貴族の姿もある。やっと席についたレイガルテ・フォン・フィッツバルディが、黙って三度拍手を送る。『双竜の猟犬』が真に勇者と成った瞬間である。
 より遠くを見てみれば、貴族のみならず一般層の人々やスラム街の人々。表の人間から裏の人間まで、異例なほど幅広い人々が新世代勇者シラスの誕生を祝福していた。
 これまでシラスが幻想王国内で解決してきた事件の依頼人や、助けた人々。そして友。もちろんローレットの仲間達の姿もある。シラスにメダルを託してくれた人々の姿もだ。
 最も多くのメダルを集める者とはすなわち、最も多くの者から応援された者である。だがそれは同時に、最も多くに手を伸ばし、そして掴んできた者であることを意味した。
 彼はこの先、多くの人々からの預かった『勇者の証』に応えるべく、勇者として人々の力になることだろう。
 そしてそれこそが、スラムから生まれあらゆる地で戦い、前を向いて進み続けたその中で今こうして新世代の勇者として称えられる『伝説』となったのだ。
 スラムから勇者へ。それは最高級のシンデレラストーリーといっても過言ではない。彼の姿を憧れとして、すべての者の胸に光が灯ることだろう。
「実に素晴らしい!」
 司会役が述べる前に、VIP席にあった王フォルデルマン三世が立ち上がり、慌てて立ち上がった役人の台座から特別なメダルをとりあげた。
 そしてシラスの前に立つと、それを彼へと差し出す。
「ローレット・イレギュラーズ。それは我が国家――ひいては世界において意味ある存在だ。サーカスの悲劇から王国を救った功績を広く聞いた者も多いだろう。
 のみならず、世界各地であらゆる困難を打ち破る際……諸君らがあった。
 崩壊の困難に立ち向かう、勇気。諸君らがそれをもち、そして人々に与えたことは間違いない。
 諸君らから『次世代の勇者』を選ぶことは、これはたいへん意義在ることである。
 建国の父勇者王アイオンも、喜ぶことであろう」
 ここまで述べてから、シラスはメダルを受け取った。
 王は、とても上機嫌に、そして大きく張りのある声で述べた。
「王フォルデルマンの名において――ここに、新勇者シラスの誕生を祝するものである!」
 いったんは静まっていた楽団の演奏が、より豪華なものとなり、ダンサーたちが飛び出していく。
 美しい大通りに馬が並び、使いの者がシラスをゴンドラへと案内する。
 彼への祝福、感謝、憧れ、そんな視線が集まるその一方で、王は両手を広げて青い大空へかざした。
「そして、こたび幻想各地でおきた事件に参じた者たち――正しきブレイブメダリオンをもつすべての物に、『幻想の勇者』の称号を授ける!
 そして称えよ! 祝え! 新勇者シラスと――それに続迫る優秀なる働きをした『勇者』たちを!」
 ふと見れば、シラスを含め十台のゴンドラが大通りに並んでいた。
 これからこの十台のゴンドラが、王都じゅうを巡りパレードを開くという。
 今日は、そのための祝日となるようだ。奇しくもシトリン・クォーツに被さる、『勇者の日』である!

 シラスのゴンドラを先頭にして、十台のゴンドラが都内を巡っていく。
 ここからは新勇者シラスに続く『勇者』たちを紹介していこう。

『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)

 特別にあつらえたというゴンドラには、彼の魂の故郷であり現在の『居場所』ともいうべき黒狼隊のエンブレムが大きな銀細工によって飾られていた。
 祝福する彼の仲間達。そして彼を慕う民たち。更にははるか遠い豊穣の土地から幾人かの役人たちが、領主の晴れ舞台を祝福しにやってきていた。
 異界より来たる戦士ベネディクト。
 彼は正々堂々とした戦いや不正を嫌う性格から、多くの人々に慕われ、そして頼られてきた。
 ブレイブメダリオンを託す者がここまで多かったことも、彼の人望を現しているといっていいだろう。
 彼を慕うのは人ばかりではない。彼の世話した馬もまた、彼の栄光を祝福するかのように誇らしくゴンドラを引いている。
 ゴンドラにもまた彼の誠実な人柄を現すように、歴史在る技師たちによる伝統工芸が集められた素晴らしい装飾が並び、見る人々に深い感心を与えた。
 技師たちに言わせるならば、自分たちの技がこらされたから彼が注目されたのではない。彼が注目に値する人物だからこそ、自分たちは技術を懲らしたのだという。
 そしてその影には、幻想元老院議長にして由緒正しき幻想貴族『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディの存在があったとも、言われている。
 彼が求める正道なる勇者。弱気を助け、国を導く希望の存在。ベネディクトがそうなれると信じての、ことだ。 「皆――共に往こう、我々にしか出来ぬ事を為す為に!」
 掲げた槍に、人々は歓声と拍手を送った。

『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)

 このブレイブメダリオンパレード――通称『勇者パレード』で最も多くの馬に引かれていたのが、イーリンのゴンドラであった。
 幻想天義鉄帝深緑ラサ海洋そして豊穣と世界各地の大戦場にて、『騎兵隊』と聞けば誰もがピンとくる大部隊である。
 その規模、機動力、そしておこしてきた奇跡。それらの象徴として――またはリーダーとして語られるのがイーリン・ジョーンズなのだ。
 とはいえゴンドラの上で旗を掲げる彼女をイーリンと呼ぶものは少ない。ある者は司書と、ある者は馬の骨と、そしてある者は紫苑の君と呼んだ。これらはイーリンがかねてより『呪い避け』として他者にこう呼ばせていた習慣からくるものである。
 そしてその中に今、『騎戦の勇者』が加わろうとしている。
 彼女の戦歴に奇跡や運命が絡まなかったといえば嘘になる。だが、彼女が切り開いてきた功績にはいつも、彼女が身を削り生み出した知恵と工夫と、そして積み上げた知識があった。
 それはある意味、万人にとっての希望である。生まれ、育ち、体格、種族。それらを越えて、知識という塔を積み上げた者が成功をつかみ取れるという――象徴がいまここにあったのだ。
 王都の人々が、イーリンへ『あの言葉を』と目で訴えるのがわかった。
 仕方ないわね、と首を振り、そして旗を掲げる。
「『神がそれを望まれる』!」

『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)

 幻想の王都に、ひときわ厳めしいゴンドラが進む。鎧に身を包んだ力強い馬に引かれる鋼鉄の馬車には大きな透明球が飾られ、中では青い電流が踊り続けている。
 これが象徴するのはヨハン=レーム。鉄帝の剣聖バルド=レームの息子にして幾多の戦いの中で伝説を残してきた戦士――もとい魔術師である。
 そんな彼だからか、ひく馬は鉄帝産。ゴンドラもまた鉄帝国から贈られたものだ。幻想の、それも王の主催する祭りに戦争中の鉄帝国のゴンドラが走るというのは異例なことであったが、ローレット・イレギュラーズという特殊な立場となによりヨハンがおこした此度の多大なる貢献と周囲の応援によって、このパーレドは実現した。
 彼の戦いへの姿勢や、努力によって強くなろうという姿勢は鉄帝国のみならず世界中にいつか物語として残り、希望となるだろう。
 仲間を守りたいという白き心と、その仲間達に負けたくないという黒き心。それは相反するようでありながら、彼を構成しより高みへと登らせる重要な要素である。その姿はきっと、後に続こうとする者たちを照らすだろう。
「みんな、ありがとうございます。これからも、共に――」

『不死身ノ勇者』武器商人(p3p001107)

 勇者たちを称えるゴンドラの中でも特におどろおどろしく、しかし吸い込まれるような闇の魅力に溢れたゴンドラがあった。
 それが武器商人を載せたゴンドラである。
「ヒヒヒ……こんなものをあつらえてもらえるとはねぇ」
 笑う武器商人のゴンドラは黒く、そして魔力による闇色の霧がかかっていた。
 ゴンドラの周囲には惑星環のような幻影と、金と銀の輪が浮かんでは周り、武器商人の見せる不死身の戦闘スタイルを摸しているように見えた。
 これを手がけたのは『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクをパトロンに持つ芸術家たちだ。
 武器商人ひきいる商人ギルドサヨナキドリ自身がバウツァーレク派支持者であることもあり、今回のコラボレーションが実現したのだろう。
 芸術家たちも武器商人の戦い方や姿勢にアーティスティックな魅力を感じているらしく、今回の製作にたいし非常に乗り気であったともいう。
 都内のパレードにはサヨナキドリ各支部のメンバーのみならず、その関係者や支援者、友人たちまでもが集まり盛大な雰囲気となっていた。
 これからの発展と栄光を、まるで象徴しているかのように。

『魔法勇騎』セララ(p3p000273)

「みんなーーーーーー! ボクを応援してくれてありがとーーーーー!」
 ふりっふりにリリカルな、赤と白によるノーマルセララカラーにデザインされたゴンドラの上、魔法騎士セララは拍手や声援を送る市民たちに手を振っていた。
 アキバの街でおきた十二聖石を巡る魔法少女大戦の後、混沌へと召喚された魔法少女のひとりセララ。
 ブレイブメダリオンを巡るこのたびの勇者総選挙は、どこか前世界での魔法少女総選挙を想わせる部分があった。
 あのとき競い合ったミストルティンやクルシェ、そしてアストライアは元気だろうか。前者二人はいろいろな戦いの中で偶然にも再会できたが、アストライアのほうは……。
(噂ではそんな子がいるとは聞いたけど、本当のところはどうなんだろう。また会えたら、あのときみたいにアイドルライブができるのかな……)
 思い出は、力となる。
 セララは力を失っていたいくつものクラスカードの中から、混沌でのレベルアップに応じてアンロックされたカードのひとつを手に取った。
「久しぶりにやっちゃおう! ――インストール、アイドル!!」
 ここぞとばかりに集まってきた楽団による『キラッてセララ(勇者バージョン)』が演奏され、マイクを手にセララライブ(略してセラライブ!!)が始まった。

『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)

「ワシがこの舞台にたつとは……」
 鋼によって飾られたゴンドラの上に、誓いをたてるかのように剣を握るオウェード=ランドマスターの姿があった。
 彼にとって、此度の勇者総選挙には複雑な思いがあった。建国の父であり勇者王アイオンの名と称号を、千を越えるメダルのレースにすることに当初納得ができなかったのだった。
 だが騎戦の勇者ことイーリンとの相談のなかで、此度の行動は必ずや歴史に残るであろうこと……そして残す以上、『平和を目指す戦い』も『戦いの教訓』も残るであろうことを思い出した。
 勇者とは称号。言ってしまえばただの名前である。
 だがそこに価値と栄光があるのは、その名を背負った人間が価値と栄光をもたらしたからに他ならない。
「ワシは真の勇者にはなれないかもしれん。だが、『勇者を目指した男』として……世界のために戦った男として! この世にワシという魂を残すのじゃ! そう!」
 掲げる剣は陽光に輝いて、人々の、そして子供達の目を輝かせた。
「ワシこそは、オウェード=ランドマスターである!!」
 そんな彼の胸には、青い薔薇が添えられていた。

『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)

 並ぶゴンドラの中でも、最も幻想らしい……もとい貴族らしい気品と優雅さに溢れ人々の目をひいたのが、リースリット・エウリア・ファーレルをたたえるゴンドラであった。
 赤い花のように幾重にも巻かれた巨大なレースの頂点に、つぼみから立ち上がる妖精のようにリースリットが立っている。
 それはレガド・イルシオンの名門貴族、ファーレル家によって特別にあつらえた勇者パレード専用の、それもリースリット専用のゴンドラである。
 一族の呪いを背負い、ファーレル家における忌み子として生まれた彼女がこのゴンドラに立つことの意味は、決して小さくはない。
 もちろん、幻想貴族として王から授かった称号とその栄誉を名門ファーレル家が無視できないという側面もあるが、それは同時にリースリットという人間が己の身ひとつで無視できないだけの存在に駆け上がったことを示していた。
「お父様……私は、きっとこれからも……」
 クリスタル状の刀を抜き、剣先に紅蓮の炎を纏わせて天に掲げる。
 あがる歓声と拍手。それはもしかしたら、彼女のもうひとつの転機であったのかもしれない。

『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)

 ひときわモフモフに仕立てられたゴンドラに、ウェール=ナイトボートは立っていた。
 手を振る人々に手を振り替えし、時には笑いかける。
 兵器として生まれ、悪として生まれ、慈愛から正道へと歩み出した彼。
 かつての世界でそうであったように、泣いてる子供に手を差し伸べられる自分になろうと、彼は戦い続けてきた。
 そう。彼は『我が子』と再び会えないとしても、自らが『パパ』であることは決して忘れないのだ。
 そしてこのゴンドラの上で手を振る今も、勇者を目指しメダルを集めた日々も、彼は『パパ』でありつづけた。
 もしかしたら、そんな戦いの中で、彼はあの子だけのパパではなく……多くの人々の『パパ』になれたのかも知れない。
 手を振る子供達が、これまでどこかで助けてきた人々の贈る声援が、その証明なのだろうから。
「ありがとう。俺は決して忘れない。時計の中に燃え続ける、この炎のように……!」

『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)

 空に放つ祝砲。飛行種のスタッフが投げたくす玉を、一発一発が正確に打ち抜き七色の紙吹雪を散らしていく。
「こんなところ、かな」
 ガスマスクを外し、歓声と拍手でとりまく人々へとほっこりとした笑顔と共に振り返るジェック・アーロン。
 彼女のゴンドラは最近実質的に復興しつつあるという名門ウィツィロ家より贈られたハイペリオン様ゴンドラであった。大空を羽ばたく『太陽の翼』こと神翼獣ハイペリオンを摸したそれは、大空を飛び国の危機をあちこちで救ったジェックの勇姿を称えるものであり、その伝説を後の世に残すものであった。
 はるか古代、天空の島アーカーシュより島ごと欠け落ちたというハイペリオンとはどうも少なからぬ縁があるように思うジェック。彼女には、なかなか悪くない取り合わせである。
 もう一回見せてとせがむ子供達。すすむゴンドラに追いつこうと走る彼らに、ジェックは歯を見せて笑った。
 こんなことができるのは、この世界にきたからだ。太陽の下で、笑って……。
「それじゃあ、行くよ。新勇者を祝って――」
 大空に投げたいくつものくす玉を、ライフルで次々と打ち抜いていく。
 舞い散る紙吹雪に、子供達が歓声をあげた。

 パレードは長く、長く、幻想王都をひとまわりし、その一日は陽気な音楽と笑い声と、お祭りムードに浮かれた人々の笑顔で満ちた。
 約束の日。
 新たな勇者シラスが――そして勇者たちが、生まれた日となった。

 ――ブレイブメダリオン・ランキングが終了し、新世代の勇者が誕生しました!

これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O

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