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神逐

 祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え――

 祖は神で在った。
 祖は自らの命を雫と化し黄泉津を産み給うた。
 祖の命により育まれし万物の命は心を宿し、生命の軌跡を紡ぐ。
 遍く命を祖は『八百万』と名付けた。遍く命は祖の子孫である。
 其の命の雫より芽吹いた八百万の心。
 祖の愛しき子として、其の命を護り続ける事を子らへと願った。
 祖は大地へともう一つの心を産み給うた。
 地を護る強靭なるその身体。祖は万物なる命を護るが為に『八百万』の矛を与えた。
 其れは『獄人』と名付けられし、争いの化身である。
 黄泉津に芽吹く遍く命は総て神子であり、神遣である。

 故に、この地は神威神楽――遠つ御祖の神の命を別つ場所。
 神の威光を戴き、神へ奉納すべき命脈を紡ぐ地である。

 ――――
 ――

 神威神楽を包む暗澹の雲は浄き光を以って晴らされた。天つ空の声は、只人に『大呪』の討伐を望む者であった。
「晴明」
 静かな声音で、霞帝はそう言った。眼前に存在するはこの地を焦土と化す灼気の大呪――其れを抱きし黄泉津瑞神である。
 紛れもなく、其れを弑さねばこの地は荒廃し、民の命も救われぬだろう。
「霞帝、ご指示を。
 國を護るが為に瑞神へ刃を向ける覚悟を、皆出来ておるでしょう。……あの、暖かな光とて――何かを感じたものも居る様です」
 あの光は、瑞神へと正しきを思い出させた奇跡は、神使の中にも『何の光かを感じた』者も居ただろう。
 淡く輝き、消え去っていく命の灯火。
 その光によって大呪の雲が流れた事により今こそが好機たると誰もが認識した事であろう。
 高天京を包む四神結界の防衛を展開し、國を護り続ける。そして、その『補佐』を玄武と青龍、朱雀と白虎の其々の加護を得た者へと乞う。
 暗躍せし刑部卿――近衛 長政は異界の妖鬼『紫』と共に無数の『鬼』を造り出しては國が為と準備を行っている。
 暗躍と言えば、そうだ。『けがれの巫女』の双つ魂、別たれし忌子、そそぎは『忌拿家・卑踏』による『霊長蠱毒』の傍で今も、苦しみもがいているだろう。つづりはどうか、妹を助けて欲しいと神使に懇願した。
 そして――
 熱砂の国をも騒がせた御伽噺が一つ、『ザントマン』と呼ばれた其れは享楽的にも残酷にも、独善的にも人々の命を脅かす。苦しみ野垂れ死ぬ様が見たいのだとでも云うように、殺意と敵意を発する魑魅魍魎共と京内を闊歩する。
 神使が一人、捕虜となり自信の命を賭してでも天香 遮那を救うべく側付きとなる事を願った夢見 ルル家(p3p000016)の消息は未だ知れず。
 しかし、兵力を上げて天香・長胤が出陣する事になったならば捨て置けぬ。霞帝は盟友の許へと馳せる事が出来ぬ事を酷く悔やんだ
「……俺がは国を護らねば為らぬ。長胤は魔種であり、斃さねばならぬ存在だ――そうで、あろう?」
 神使は何も云う事は出来なかった。何も云えず、そして、何も伝えなくとも霞帝はよくよく理解していたのだろう。
「……頼んだ」と。只一言、項垂れる。霞帝にとっては彼の義弟も大切な民であり『忘れえぬ過去の象徴』でもあった。その彼がこの様なことで命を落とす事を是としたくはなかったのだ。

「……一つ一つ、確実にこなす事が必要となろう。どれを損なえども大きな損失だ。
 唯の一つの人命さえも、失われる事を俺は是としたくない。甘いと云うならば笑い飛ばせ。しかし――」
 霞帝が言いたい言葉は誰だって同じだ。帝、と晴明は今し方入った情報に叫んだ。
「自凝島で姿を消した神使――焔宮 鳴(p3p000246)が、発見されたそうです。壊世の焔が周囲を包み込んでいる、と」
 霞帝は歯噛みした。仲間を失った辛さを上塗りするように、彼らにそれと相対する事を願わねばならぬのか。
 ここで迷っている暇はない。惑いは、勢いを殺し、國をも壊す。
 迷いを捨てよ。決意せよ。そして、声高に告げるのだ。

 神逐(かんやらい)の刻、来たれり――

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