PandoraPartyProject

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希望vs絶望

●差し込む光
 一片の光さえ差し込まぬ暗黒の水底を仮に照らす――照らせる光があるとするならば。
 きっと、それこそ『希望』と呼ぶに相応しいのだろう――

「……提督!」
 鉄帝国海軍中佐グラナーテ・シュバルツヴァルトに掛けられた呼び声はこれまでと違う声色を帯びていた。
「提督、先程まで苦しんでいた皆が――息を吹き返したようです!」
 何が行われたかは知れない。
 何が起きたのかも分からない。
 唯――誰もが廃滅に苦しむ、アルバニアの権能に怯える戦場は絶望の青の荒天に光のヴェールが降りた時。
 押されるばかりだった絶望的な戦局は全く別の顔を見せ始めていた。
 俄然力を取り戻し始めたのは鉄艦隊だけではない。友軍たるゼヴェルガ・ドラン・ヴァスティオン麾下、海洋王国機動艦隊が持ち前の機動力を発揮し始め、狂王種達の群れを撹乱し始めている。先程まで恐ろしく動きを損ね、死に体と化していた彼我の精鋭艦隊が持ち前の力を存分に発揮しているのだ。
 結論から言えばアルバニアの権能に抗するヴェールは空中神殿より降った『力の塊』である。
 空繰パンドラの発出した一時の奇跡は強大な魔種の権能さえ脅かす。『ベアトリーチェが計算違いをしたのと同じように、それを理解していたアルバニアさえも抑え込む』。
 影響はゼロではないが、随分と軽減した。
 現状は戦えない程ではない。戦士達は権能の深い闇を切り裂き前に進む推進力を得たと言えた。
「……これが、卿等が有する奇跡――その一端という事か」
 水飛沫と大波が軍艦を揺らす。砲撃での苛烈なる応戦を指示したグラナーテはイレギュラーズに向き直り静かに言った。
「理屈に合わぬ敵に加え、理屈を知らぬ味方か。さもなりなん、ここはそういう戦場だったな」
 言葉は皮肉めいていたが、老獪な軍人の言葉に嫌味は無かった。
 鉄帝に所属する軍人は、老いて益々盛んを地で行く男だ。代々の皇帝に仕え、その辣腕をふるってきた。
 彼が欲するのは常に名よりも実。勝利のためには「鉄帝らしからぬ」策を取る事も多い彼は、意に沿わぬ自国の兵よりも、金と契約で動く傭兵を利用することも厭わなかった。なればこそ、彼は『極めて有用なるイレギュラーズ』に称賛と興味の視線を抱く事はあれど、忌避も軽侮等感じよう筈もない。一蓮托生となったこの戦場で『友軍に恵まれた』事に感謝するのみであった。
「向こうが背水の陣で挑むならば、此方も切り札を切るまでだろう?」
 まず旧知の――『飢獣』恋屍・愛無(p3p007296)がへらりと笑って肩を竦めた。
「『皆の願いを一つに』だ」
「ああ」
 愛無の言葉に、
「負けても何も減らないのならそこに賭ける必要性はないんだ。
 でもね、ここで負けたら命が無くなる。皆の夢も潰える。ならば、ここで『外す』のは間違いだろうて」
「手遅れになるかもしれない人がいるし……それにサクラちゃんだって……
 このままだといずれ……そんな未来には絶対にさせないんだから!」
『迷い狐』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が、『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が頷く。「私はともかく」と前置きした『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)もまた 「とりうる選択肢は乾坤一擲!」と意気軒高。
 イレギュラーズが戦いに臨む動機は様々だ。
 この先を見たい――当然の事だ。
 魔種と因縁がある、許せない。これもまた然り。
 誰かの為に、なんて掃いても捨てられない程の理由になる。
(どうかお願いです。僕のことを愛して欲しいなどと申しません。
 だから、せめて、ジェイク様に生き延びて欲しいのです。
 貴方が生きていない、この世など僕にとっての絶望です。嫌われたっていい。だから、お願い。生きて――!)
 きっと『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)のように愛しい誰かの為に祈った者だっているだろう。
 ともあれ、数多くの特異運命座標が気持ちを一つにした時、神殿が――ざんげが、彼女が司る神託がこの戦いに『違う結末への可能性』を与えた事だけが厳然たる事実だった。
 アルバニアの権能が弱まった今こそが唯一のして最大の好機。
 同時にパンドラの奇跡が終焉(じかんぎれ)を迎えれば永遠にこの海は鎖海と化す。
 この瞬間こそが、運命を選ぶ分水嶺であった。

●逆撃の時
「ドレイク――幽霊船団が動き出しました!」
 第三勢力の動きが叫ばれ、三つ巴の戦いはその激しさを増していく。
「『御伽噺』を倒す、か」
 鼻を鳴らしたゼヴェルガに応じたのは『おさかな』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)だった。

 ――うちて かえりて なみうちぎわに
   よぶこえ いまは とおく とおく♪

「やろう。できることがあるなら、やらなくちゃ。それでこそ人間じゃない?」
 状況がどれ程絶望的であっても、最悪を極めても。
 可能性の獣はその先の勝利を、未来を見据えている。
 これまでも、これからも、この先も――

「これは只のワガママです。
 極論、海洋王国も魔種も――世界の滅びだって僕にとってはどうでもいい。
 この海の果てに行きたい、その景色を見たい、その地の人々に会いたい。それだけの僕のエゴです」
『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の言葉は静かに、そして力強く響く。
「いいえ」と首を振ったのは『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)であり、
「仲間たちの、生死がかかっているのです!」
「ぶはははは! 違いねぇ!
 ドカッと使うのはなかなかに気が引けるが、ここでケチって知り合いが死んだら俺ぁ寂しいしな!」
 それに応じて豪快に笑う『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だった。
「はい。破局には備えるべきでしょう。
 備えるべきなのでしょうが、此度ばかりは――拙が求むるは拙の守るべき方の為の力。
 強欲に、傲慢に。立ちはだかる全てを捻じ伏せ、この手からあの方の熱を奪わせぬ為に。
 奇跡の対価に、誓いましょうや。必ずしもやこの悪夢を打ち破る事を――」
『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は、
「休んでろって言っても止まらないやつがいる以上流石に緩くなんて言ってられませんよ。
 ……ここまでやるからには絶対勝ちますよ、いいですね?」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は。最早一分たりとも揺らがない。
「ここに来るまでたくさんの積み重ねがありました……
 今回勝てなければ今後一切チャンスはないでしょう。今更後に引ける訳がねーですよ」
「女王陛下の号令は下った。俺はただ従い、この海を踏破するのみ。
 そのためなら俺のパンドラすら使い切ったってかまわない」
「少なくとも撃破は必須だ。その懸念材料を潰せるならば、全力を出さない理由は無いだろう?」
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)、増してやそれ以外の事なんて――そう言った『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)に、『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)がニヤリと笑う。
「賭けるチップはシャカリキ貯めた『奇跡(パンドラ)』だ。
 きっとこんなに使っちまえば後々苦労すんだろうな。きっとそん時にゃ死ぬほど後悔する。
 けどな、そんな事は知った事じゃねぇ――未来の事はそん時の奴ら、そん時の俺の仕事だ。
 出し惜しみして後悔するより、全力出し切って後悔する方を選びてぇ。
 見果てぬ浪漫を求め続けて、海洋がやって来た事と一緒だ。きっとそれは同じなんだよ。
 つー事でよ、絶望の青を希望の蒼に変えてやろうぜ!」
「訪れる死をこれ以上待つなど御免被る!
 勝利にそれが必要と言うならば人の欲を以って叫ばせて貰おう!!
 貪欲に真っ直ぐに絶え間なく――全ての瞬間に『奇跡を寄越せ』と!!!」
『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)の、そして『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)の決意の『演説』に『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が気を吐いた。
「この海を超えて、この脅威を超えて!
 足掻いて、無様でも。いっぱい、頑張って! 全力で足掻いたその先にしか、未来は無いんです!
 イレギュラーズも、この号令も未来をこの手で毟り取る為に戦うんですよ!
 使ったら――そんなの私らがすぐに取り戻します! ここで使わねばいつ使う!」
 大きな瞳に決意を燃やしたウィズィはこの瞬間『普通の女の子』では無かったかも知れない。
「この決意にどうか力を。この覚悟にどうか未来を」。祈る『相方』の姿は頼もしく。
「この絶望の海を切り裂き、果ての朝日を掴み取りましょう。『神がそれを望まれる』」
 涼やかに目を閉じて祈るように言った『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の口元には微かな笑みが浮いていた。
「この海を絶対に超える、運命を絶対に超える。俺は自由に羽ばたく鳥だからな!」
「ああ。ローレットは嵐だ。嵐の海はヤバイが、珍しい魚も取りやすくなる。
 ……ここまでやった。ここまで来たんだ。上手いこと舵を切ってくれよな、ソルベ様よぉ!」
 今更何を言うまでもなく。
『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)と轡を並べたファクル・シャルラハ少佐の得物が目前の敵を貫き――海が吠えた。
 全ての運命はこの海へ還るだろう。
(海洋の民としてのわがままかもしれないけれど……
 お父様。あの日以来言いそびれていた気がしますが、今度こそ。『いってきます』!!!)
『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は想う。
 幕は上がるのだ――いや、最早上がったのだ。
 拍手は後。冷静に、情熱的に、狂騒に、そして静粛に。
 愛も夢も時間さえも欲も浪漫も。忘却の彼方に飲み込んで――全てを決する戦いはまさにこれより始まるのだから!

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